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TEXT:陶木 友治
「こうなる! 2023年の自動車業界!」伝説の自動車アナリスト、中西孝樹教授に訊く:第8回

EVの登場と普及は、国内外の政治・経済にどのような影響をもたらすのでしょうか。伝説の自動車アナリストとして知られる中西孝樹さんに、様々な疑問をぶつけます。短期連載の最終回は2023年の展望について語ります。 Q.これまでの議論を踏まえて、2023年の自動車業界の展望をお願いします。 注目すべきポイントは3つあります。一つずつ説明していきましょう。 2023年は、先進国を中心に世界的な景気後退に突入することが予想されます。不況時、新車の売れ行きは鈍ることが普通ですが、逆転現象が起こって新車販売台数は伸張するでしょう。理由は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う2021年以降の減産です。 減産によって供給力が落ちたため、自動車の価格はむしろ上がり、減産すればするほど利益が上昇するという不思議な現象が発生しました。2023年はコロナ禍の影響の揺り戻しにより、新車需要が低下する以上のスピードで供給回復が見込まれるため、不況下でも新車販売が伸びることが予想されます。自動車業界には「数量回復」という追い風が吹くはずです。 販売台数が伸びるからといって、楽観は禁物です。二つめの注目ポイントについて、「人件費」の高騰を挙げたいと思います。 現在、世界を凄まじいインフレが襲っていますよね。自動車メーカーも「コストインフレ」の圧力を受けています。コストインフレとは、原材料や資源価格の上昇による資源インフレ、エネルギーインフレ、賃金の高騰による賃金インフレなどが代表的です。クルマの場合、原材料の高騰等により1台あたり実質20万円近くもコストアップしています。欧米ではこの影響の大部分を新車価格の引上げへ転嫁できていますが、日本では車両の販売価格そのものは上がっていません。20万円のコストアップ分の大部分を、メーカーが一旦受け留める形で影響を吸収しています。円安が進展したことで、円安メリットでその負担を吸収できる余力があったことも事実です。 このコストインフレが緩和されるのか、それともさらに強まるのか注視していく必要がありますが、私はコストインフレがさらに進むと思っています。理由は原材料等の高騰ではなく、日米市場ともに賃金のさらなる高騰が起きると予想されるからです。 アメリカは賃金上昇ペースが速く、自動車メーカーの工場で働くよりもマクドナルドで働いたほうが賃金が高いという、一昔前なら考えられない状況が出現しています。マクドナルドのようなサービス業に人材の流出に歯止めが掛からない状況です。 工場に人材を呼び戻すためには、賃金を上げざるを得ませんが、賃金を上げてまで新しく人を雇ったとしても、その人材が熟練するまでには一定の期間が必要ですから、当然、高い生産性は見込めません。つまり生産性の低い人材を高い賃金で雇わなければならないという状況が予想され、これは業績悪化の要因となります。販売数量が伸びたメーカーは利益増によりコストインフレを吸収できますが、それができなかったメーカーは業績悪化を免れないと思います。 Q.話をEVに限れば、2023年はどのようなことが予想されるでしょうか。 それが3つ目の注目ポイントです。アメリカやヨーロッパを中心にEVの新型車がたくさん発売されますから、世界的な景気後退の中でも、EV自体は快調に販売を伸ばしていくと思います。 EVは世界的な関心を集めているワードで、毎日のようにEVの動向がメディアで報道されているため、すさまじい勢いでEVシフトが進んでいるかのような錯覚に陥りそうになります。 しかし現状では、EVが一般ユーザーにまで浸透しているとはとても言えない状況です。アメリカでも日本でも、EVを購入しているのはごく一部の富裕層や高所得者に限られるため、本格的なEVシフトはまだ到来していません。富裕層や高所得者の所有車の一部がEVにシフトしているに過ぎなかったのです。 ところが、昨年9月を転換点として、テスラはEVの価格引下げに戦略を転換し、2023年1月には米国で9%~20%も小売り価格を引き下げる安売り攻勢に転じています。2023年はEVの低価格化の始まりとなるでしょう。一部の富裕層でない消費者がこの価格変動にどの様に反応するか、非常に強く注目しています。 伝統的な自動車メーカーはEV商品投入を積極化させていくのですが、低価格シフトがその出鼻をくじく格好となっており、EV収益性は際どく悪化し事業性そのものが崩壊するかもしれません。 日本メーカーはある意味この戦いの構図にはまだ参戦している状態ではありません。出遅れている日本メーカーが安全なところに立っていると考えるべきか、それとも戦う前から敗北していると考えるべきか、大きな論点となっていくでしょう。 (インタビュー:TET編集長 田中 誠司)

TAG: #EV経済学 #中西孝樹
TEXT:曽宮 岳大
「分断はやめて、楽しもうよと(笑)」 モデル3オーナー、石井さんに聞くEVコミュニティ事情

クルマの売り方も操作方法も、これまでとまったく違う。そんなテスラというブランドとの出会いに、衝撃を受けつつも“新時代感”を感じ、「モデル3」の購入へと踏み切った石井啓介さん。メーカーからの情報が少ないことに不安を覚えた石井さんは注文後、知人からテスラのオンラインコミュニティの存在を聞き、そこでオーナー同士が盛んにコミュニケーションを取っていることを知った。その後、晴れて「モデル3 パフォーマンス」が納車された石井さんは、EVライフをより楽しめる場として『EVごはん』を立ち上げたのだった。 インタビュー前編はこちら  テスラコミュニティに見た互助精神 オンライン販売を基本としているテスラ。Web上ではモデルやオプション、支払い方法の選択など購入に必要な機能が備わっているものの、店舗で営業スタッフとの様々な会話を経て契約に至る従来型の販売方法に比べると、メーカーと顧客のコミュニケーションが希薄に感じた、と石井さんは振り返る。その一方で、テスラを取り巻くオンラインコミュニティが非常に盛り上がっていることに興味を持ったという。 「知人からFacebook上にオーナーズクラブがあることを聞き、入会を勧められたんです。テスラの場合、公式の情報発信が少ないぶん、ネットやTwitter上でユーザー間の情報のやり取りが盛んなのです。例えば、『teskas.net』というテスラのコミュニティがあるんですけど、そこではモデルごと、項目ごとにトピックが分かれていて、様々な書き込みが行われています。納車時に確認しておかないと後々トラブルになりかねないセルフチェックポイントが紹介されていたり。というのも、テスラの納車は、国産車や一般的な輸入車における納車式のような儀式の時間はなく、プリントされた使用マニュアルすらないんです。利用ガイダンスのPDFがweb上に用意されているだけで。それも全部が網羅されているわけではない。困ったらオンラインコミュニティに書き込みすると誰かが教えてくれるという感じなんです。ユーザーの互助精神が高いというか。こういうコミュニティの発展の仕方は独特だと思いますね」   他のEVブランドはそのあたり、どうなんでしょう? 「これまでは趣味性の高い特殊なクルマでコミュニティが発展することはありましたよね。日産のGT-RとかホンダのタイプRとか。EVでは最近、ヒョンデさんのアイオニック5のオーナーズクラブがTwitter上で立ち上がったようです。ヒョンデさんもネット販売だけなので、テスラと状況が似ているのだと思います」   >>>次ページ 敵は身内にいる!?  

TEXT:陶木 友治
「なぜテスラはうまくいったのか?」伝説の自動車アナリスト、中西孝樹教授に訊く:第7回

電気自動車の登場と普及は、国内外の政治・経済にどのような影響をもたらすのでしょうか。伝説の自動車アナリストとして知られる中西孝樹さんに、様々な疑問をぶつけます。EV界で最も注目を浴びるテスラの戦略に迫ります。 Q.「EV」と聞いて、真っ先にテスラを思い浮かべる人が多いと思います。実際、テスラは電動化や自動運転の技術で最先端を走っており、時価総額でトヨタを超えるなど高い評価を獲得しています。日本メーカーはEVの市場投入自体は早かったにもかかわらず、テスラに差をつけられました。なぜでしょうか。 答えは簡単です。テスラは「レガシー(遺産)」を持っていなかったからです。 日本メーカーは、ハイブリッド車やプラグイン・ハイブリッド車の技術で先行しています。これは技術蓄積の賜物で、世界中のあらゆる地域で高評価を獲得してきました。今もその評価に変化はなく世界中で人気を集めているため、EVシフトの重要性が認識され始めたからといって、ある日を境に「明日からハイブリッド車の取り扱いをやめます」というわけにはいきません。 「産業」という視点で見ると、日本の自動車産業は約550万人が従事する日本を支える一大基幹産業で、いきなりすべてのクルマをエンジン不要のEVに置き換えてしまうと、必然的に多くの部品が不要となり、部品サプライヤーにおいて100万人規模の雇用が失われる可能性があります。全車EV化が雇用に与える影響があまりにも大きいため、メーカーはそう簡単にレガシーを手放すことができません。 また、日本車メーカーに限りませんが、トヨタや日産、GM、フォルクスワーゲンなどほとんどのメーカーは、エンドユーザーへのクルマの販売を基本的には「販売店(ディーラー)」を通じて行なっています。日本車メーカーは、製造工程や工場、販売店を含むこれらの「膨大な資産(=遺産)」がかえって足かせ・負担となってしまい、自由な動きが取りにくくなっているわけです。 一方で、テスラはどうでしょうか。 テスラはディーラーを持たず、EVをすべて「直販方式」で販売しています。しかも開発車種をEVのみに絞り込んでおり、過去の遺産を持たず一つのパワートレインだけを開発すれば良かったため、技術的に先行することができました。もしテスラのような新興メーカーが内燃機関やハイブリッドをゼロから開発して市場参入を企てたとすると、とてつもない労力と資金が必要になったはずです。 一方のEVの場合、バッテリーやモーターなどは専門サプライヤーから供給を受ければいいため、駆動系統の技術はコモディティ化します。だからテスラは、販売店にもサプライヤーにも気を遣う必要がなく、ゼロベースからクルマを設計することができました。しかも「ギガプレス」といって、ボディとシャシーを一体成型する画期的な技術を導入し、世界を驚かせるイノベーションを起こし続けています。 従来の自動車部品のサプライチェーンは、さまざまな場所で100個以上の部品を製造し、品質管理を経て組立工場に輸送していました。ギガプレスを使えば、1つの場所、1つの作業で完成できるため、シャシーの製造コストは大幅に低下します。EV一点勝負ですから、投資効率もすこぶる高い。このように、レガシーに縛られた自動車メーカーと根本的な思想が異なっていたことから、テスラは新しい取り組みをどんどん進めることができ、レガシーメーカーより先行できたのです。 Q.ではテスラは今後も順風満帆と言えるのでしょうか。それともどこかで落とし穴が待ち受けているのでしょうか。 今は販売台数がそれほど多くないため、足を引っ張るような重大な問題は出現していません。しかし販売台数が順調に伸び、200万台、300万台、500万台~と拡大していったときに、何かしらの問題に直面する可能性は考えられます。 具体的には、メンテナンスの問題ですね。流通台数が増えるにしたがって、例えば、予期せぬ不具合が発生して「大量リコール」を余儀なくされる事態も想定されます。簡単なメンテナンスで解決できないような問題だった場合、「全車回収」というケースもあり得るかもしれません。そうなった場合、テスラは顧客の信頼を失い危機に瀕してしまう可能性があります。 テスラは、これまで幾度も経営危機に瀕してきました。今は好調に見えるテスラも決して盤石ではありませんから、トヨタをはじめとするレガシーメーカーも「テスラには敵わない」「テスラに追いつけない」と悲観したり焦りを感じたりする必要はありません。レガシーメーカーにもレガシーメーカーなりの戦い方があるはずです。 これまでのハードウェア開発で蓄積された素晴らしい技術はEV時代には「レガシー:弱み」となりますが、未来のクルマにおいてはソフトウェアが担う役割が拡大していきます。実際、クルマの付加価値に占めるソフトウェアの比率は増加の一途を辿っており、2030年にはクルマのコストの約半分をソフトウェアが占めるようになるという試算もあります。今後のクルマの価値を決定するようになると見込まれるソフトウェアをハードウェアとうまく連携させることにより、レガシーを強みに転換できるような新しい戦略を編み出していくことがレガシーメーカーには求められています。 (インタビュー:TET編集長 田中 誠司) <つづく>

TAG: #EV経済学 #中西孝樹
TEXT:陶木 友治
「アジアはEVシフトに積極的? 消極的?」伝説の自動車アナリスト、中西孝樹教授に訊く:第6回

電気自動車の登場と普及は、国内外の政治・経済にどのような影響をもたらすのでしょうか。伝説の自動車アナリストとして知られる中西孝樹さんに、様々な疑問をぶつけます。今回、観察するのは日中以外のアジア市場です。 Q.中国はEVシフトに積極的ですが、それ以外のアジアの国々は、EVに対してどのようなスタンスをとっているのでしょうか。 ざっくり言いますと、どの国も新車の3割程度はEV化したいという意向を持っているようです。ただ以前もお伝えしたとおり、アジアの国々は再生可能エネルギーも原子力も持っていません。急激にEV化を推し進めると自分たちの首を絞める結果につながる可能性もあるため、慎重姿勢をとっています。その意味では、日本と同じようなスタンスの国が多いと言えるでしょう。アジアの中でEV志向が最も強いのはインドネシアで、タイ、ヴェトナム、インドが続きます。 ハイブリッド車を輸出したい日本車メーカーにとってアジア諸国は心強い存在と言えるかもしれませんが、アジアの国々の中にも「このまま日本と同じ戦略を取っていると、日本とともに沈没してしまうのではないか」と危惧している国も少なくなく、彼らが日本にとって好ましいスタンスをこのままとり続けてくれるかどうかは未知数であり、日本も油断はできません。 例えば、2013年にインド政府は「National Electric Mobility Mission Plan 2020」という戦略を発表しました。そこではEVシフトの必要性が言及されており、2020年までにCO₂排出量を1.3〜1.5%削減する目標を掲げていました。その3年後の2016年には、インド国内の移動手段を2030年までにすべて電動化するという大胆な目標を発表し、世界に衝撃を与えています。たいへん野心的な目標でしたが、インドはこの目標、すなわち2030年までの完全EV化を諦め、目標を30%に下方修正するなど現実路線をとるようになりました。インドの例からわかるのは、アジアの中にも本音では全車EV化したいと思っている国が存在するということです。状況が変われば、一気に100%EV化に方針転換する国が現れたとしても不思議ではありません。 Q.アジアの国々も欧米の動向は無視できないでしょうから、方針転換してEVシフトを急激に進めてくる可能性は考えられますよね。日本車が生き残るにはどうすればいいのでしょうか。 日本は欧米のようにルールメイキングできる国ではないにもかかわらず、世界の自動車マーケットで3割のシェアを獲得するまでの国になりました。なぜそれが可能だったかというと、消費者に「選ばれてきた」からです。欧米のようにルールメイキングで主導権を取ろうとすることを「デジューレスタンダード(公的機関によって定めた標準化)」と呼びますが、日本車は企業間の競争によって、業界の標準として認められる「ディファクトスタンダード」を勝ち取ってきた」のです。ガソリン車やハイブリッド車においては、信頼性や燃費性に優れる日本車がディファクトスタンダードになりました。EVにおいても「ユーザーから選ばれる」ことによって、ディファクトスタンダードを目指すしかありません。 アメリカやヨーロッパの顔色を伺いながら、そして中国の顔色も伺いながら、さらに世界の動向を見極めながら、高品質な製品を売っていく、選ばれていくということを実現していくしか日本メーカーが生き残る手段はありません。現状では不利な戦いを余儀なくされていますが、それをどうやって「勝ち戦」に変えていくのか、自動車メーカーの努力はもちろんのこと、政府の後押しやサポートも重要になってくると思います。 (インタビュー:TET編集長 田中 誠司) <つづく>

TAG: #EV経済学 #中西孝樹
BMW iX5 HYDROGENとBMWのオリバー・ツィプセ会長
TEXT:小川フミオ
iX5ハイドロジェンが示唆するBMWの「戦略」とは。オリバー・ツィプセ会長が明かした水素の可能性

BMWが、現行X5をベースに開発した燃料電池自動車「iX5 HYDROGEN(ハイドロジェン)」。2023年2月に、その国際試乗会がベルギーで実施された。本イベントに参加したジャーナリストの小川フミオが、オリバー・ツィプセ取締役会長に、彼らが燃料電池車を今このタイミングでリリースした背景を問うた。 「運転する歓びがなければ作る意味がない」 BMWが2023年2月に水素で走る「iX5」をジャーナリストに試乗させた。BEVに力を入れる同社が、なぜここで、水素で走る燃料電池車を作ったのか。 電気自動車の力強さと、エンジン車のような簡単な充填というメリットをもつ水素自動車。iX5は、水素を分解して電子を取り出し、それをバッテリーに貯蔵してモーターを回す燃料電池車。 いま世界で100台を走らせるという「パイロットフリート」のiX5に乗って、出来のよさに感心しつつ、BMWの戦略を、オリバー・ツィプセ取締役会会長に聞いた。 −−アントワープ(ベルギー)を舞台にしたテストドライブで、iX5に乗って、そのナチュラルさとパワフルさに感心しました。 「私も何度も運転しました。気に入ってもらえて嬉しいです。重視したのは、BMW車が大事にしているドライビングプレジャーです。それがなければ作る意味はない、とまで開発陣は肝に銘じて、iX5を開発したのです。このクルマを通して、未来のために私たちがなにをしているか、理解していただけると幸いです。iX5は、運転する歓びを与えてくれるクルマですよね。ひょっとしたら、ICE(エンジン車)以上に」 −−BMWはそもそも代替燃料車で比較的長い歴史をもっていますね。とくにいまのBMW iにつながるバッテリー駆動の電気自動車では。 「最初が2009年にお披露目したMINI E(150kWの電気モーターを35kWhのバッテリーで駆動)ですね。ミニクーパーをベースに開発した車両で、500台を北米でプライベートユーザーにリース販売しました。そのあと2013年にi3をローンチさせました。今回のiX5は、北米とか日本でテストフリートを走らせるので、私は当時のことを思い出しています」 BEVのみの1本脚ではなく水素との2本脚へ −−それにしても、なぜ水素なのでしょうか。これだけBMW iとしてBEVのラインナップが充実しているのに。 「未来へと歩みを進めるには、1本脚では歩行がむずかしい、と私は言っています。安定して先へと進むためには、もう1本脚があったほうがいいのです。それが水素燃料で走るクルマなのですね。主軸はBEVですが、それを水素でおぎなっていくのです」 −−BEVだけではなにかが足りないということでしょうか。 「たとえば、充電インフラです。このままBEVが増えていくと、それに合わせて充電ステーションを作っていかなくてはなりませんが、たとえば郊外などではペイにしくく、インフラのコストが負担となってのしかかってくることが予想されます。それを水素でおぎなえればというのが私たちの考えです。水素は液体のかたちで運搬可能ですし、化石燃料のように充填が早くできるメリットをもっています」 −−ちょうど昨日(2023年2月14日)欧州委員会が、2035年に内燃機関搭載の乗用車の販売を禁止する法案を採択しました。水素自動車の開発も急務ということでしょうか。 「2026年をめどに欧州委員会は、(ユーロ7とも言われている)ICEの規制をかなり強めると発表したところです。すでに国によっては、BEVが新車販売の6割に達するところもあります。しかし、原料の稀少性とか、充電ステーションの整備とか、27年とか28年には不足の問題が出てくるんじゃないでしょうか。そこで水素です。利点は、稀少な原料をあまり使わないこと、大きなバッテリーを使わないこと、軽量化できることなど、いろいろあげられます」 −−川崎重工業が液体水素を豪州から運んでくる運搬船を手がけるなどしていますね。 「ここで考えるべきは、クルマだけでなく、もっと広い視野でのインフラです。電気の充電インフラは乗用車しか使えません。クルマだけなんです。船舶もトラックも航空機も使っていません。でも水素にはいろいろな業界が注目しています。たとえば、iX5の試乗会の舞台になったアントワープは港湾地区に水素の充填ステーションを持ち、水素で走る小型船も実用化されています」 「これからの20年から30年のあいだのエミッションフリーのために、充電と水素という、ふたつが必要になってくるのではないでしょうか。クルマだけでいえば、市街地なら充電ステーションでもいいでしょう。でも長距離走る場合は、行き先によっては水素のほうが便利ということにもなるかもしれません」

TAG: #iX5 #燃料電池
TEXT:陶木 友治
「日本車メーカーの『二正面作戦』は正しい?」伝説の自動車アナリスト、中西孝樹教授に訊く:第5回

EVの登場と普及は、国内外の政治・経済にどのような影響をもたらすのでしょうか。伝説の自動車アナリストとして知られる中西孝樹さんに、様々な疑問をぶつけます。メーカーによって異なるアプローチについて分析します。 Q.日本車メーカーの中には、トヨタの「全方位戦略」、マツダの「マルチソリューション戦略」など、EVに全振りせず、ハイブリッド車を残す「どっちつかず」とも取れる戦略をとろうとしているメーカーがいます。どの技術が将来のトレンドになるかが不透明なため、保険をかけたくなる気持ちはわかりますが、日本車メーカーのこの「二正面作戦」とも言える戦略は正しいのでしょうか。 結論から言いますと、正しいかどうかは関係なく、日本メーカーは「そうする以外に選択肢がない」のが実情です。 EVシフトといっても、これを強力に推し進めようとしているのは、あくまでもヨーロッパやアメリカなどです。そこに中国も加わろうとしていますが、いずれにしろ先進国に限っては、「EV化」の流れを止めることは難しいかもしれません ただ、世界は先進国だけで構成されているわけではありません。東南アジアにインド、中近東、南米、アフリカもあります。これらの地域はエネルギー事情が厳しく、再生可能エネルギーも原子力も持っていません。要するに、エネルギー資源的には日本に似た条件なのです。しかも経済発展が遅れているため、新たな発電インフラを整備する資金的余裕もありません。 これまで日本メーカーは、基本的にはアメリカをメインマーケットとして成長してきました。その戦略は正しく、これからも日本はアメリカ市場でクルマを売っていくことを基本戦略に据える必要があります。そのため欧米の意向や動向にアジャストし、EVの技術開発を積極的に進めていかなければなりません。 しかし世界は一枚岩ではありませんから、欧米の動向をウォッチしつつ、ハイブリッド車の需要が旺盛な新興国に対応するための技術戦略もとらなければなりません。すなわち、日本は「二正面作戦」をとらざるを得ないのです。確かに「どっちつかず」の態度かもしれませんが、日本には日本の生き方、戦い方があると私は思っています。 Q.国会議員の猪瀬直樹氏や小泉進次郎氏は、日本車はすべてEV化すべきという趣旨の発言をされています。ジャーナリストの中にも、同様の意見を持つ人が散見されます。 EVに関するメディアやジャーナリストの議論の中身を見てみますと、「EVか否か」という二者択一の議論に終始しているように感じます。それは間違いです。どちらか一方を選ぶのではなく、EVと内燃機関車の両方の競争力を確立させるという、日本はそういう運命を背負った国であると理解すべきだと思います。そう言うと、全方位やマルチソリューション戦略を掲げていれば上手くいくように感じますが、そうではありません。二重投資の負担を背負った日本メーカーは極めて効率を犠牲にしながら世界の自動車メーカーとの競争を勝ち抜かねばならないわけで、険しい道を進まなければならないということです。現時点で、先進国のEVシフトが急速に伸びているのに対し、トヨタを始め日本メーカーのEV戦略が大幅に出遅れているため、先進国市場での競争力維持に黄色信号が灯っています。全方位やマルチソリューションだからEVを手抜かりして良いという意味ではなく、EVでの競争力を確立して初めて、マルチソリューション戦略は成立するのです。 欧米が敷いたレールの上をそのまま歩いていっても、現状では日本車が勝てる要素は少ないと思います。日本メーカーが生き残るためには、欧米とは異なる競争力を維持していくことが大切で、日本の強みが残る領域の選択肢を残しておくことが欠かせません。 日本のハイブリッド車の「省炭素」性能はすこぶる高く、「省炭素」の分野では世界の超優等生です。もしEVに全振りしてしまうと、電力調達の問題に突き当たります。日本には再生可能エネルギーインフラが少なく「グリーンエネルギー」が手に入りにくいため、EV化を推進するとかえってCO₂排出量を増やしてしまうことになるからです。 そのため日本には、再生可能エネルギーの割合を少しずつ高めていくなどエネルギーミックスを転換させながら、徐々にEV化を進めていくしか手がありません。同時に、グリーン水素から合成される合成燃料や藻類から合成する次世代ディーゼルといったカーボンニュートラル燃料を動力源とするエンジンの可能性を追求していくことです。もしかすると日本は、世界の中で最後まで内燃機関車が残る稀有な国になるかもしれません。一種の「ガラパゴス」状態が出現する可能性がありますが、それを受け入れ、欧米とは一線を画した独自路線をひた走ることが日本には求められています。 (インタビュー:TET編集長 田中 誠司) <つづく>

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TEXT:曽宮 岳大
「クルマ好きだからテスラを選んだ」 モデル3オーナー、石井さんが感じた衝撃

EVを充電中、待ち時間を楽しめるグルメを会員同士が紹介しあうコミュニティ『EVごはん』。その運営に携わられている石井啓介さんは、大が付くクルマ好きで、BMW M3を夢見つつ、愛車に迎えることになったのが「モデル3」だった。多くのクルマを乗り継ぎ、テスラでのEVライフを楽しんでいるエンスージャストに、なぜテスラを選んだのか、そしてEVを所有することで変化したカーライフやコミュニティの楽しみについてうかがった。 常識を根底から覆す販売方法に湧いた興味 聞けば石井さんは、子どもの頃からのクルマ好き。自動車雑誌を買いあさっていた学生時代を経て、大人になってからは往年の名車の中古車を1年おきぐらいに買い換えるカーライフを送ってきた。自動車関連業界を得意とするマーケティング会社を運営する一方で、EVライフをより楽しめる場を作りたいと『EVごはん』をスタート。そうした経験からも、クルマへの関心の強さや豊富な経験をうかがい知ることができる。そんな石井さんは、どんな理由からテスラを選んだのか。 「僕はずっとクルマ好きで、『EVはつまらない』とか『クルマ好きがEVに行ったら終わり』みたいな風潮がある中で、フラットにEVを見てきたつもりです。もっとも仕事の関係で15年ぐらい前の初期の国産のEVにも触れる機会があった時には、EVはまだ航続距離が短く、実用レベルにないと感じましたし、5年ぐらい前にプライベートで日産リーフの1週間モニターを経験したときには、だいぶ進化を感じたものの、それでもまだまだかなと思っていたんです。コロナ禍のなか2020年にクルマを乗り換えようと思った時、たまには新車を買ってみようと色々なクルマに試乗したのですが、どれも面白く感じなくて。あるとき知人にテスラを紹介してもらい、乗ってみたところ衝撃を受けたんです」   黎明期のEVに乗った時は、どのあたりに不満を感じたのですか? 「加速はスムーズだし、車内は静かで面白さも感じたのですが、クルマ好きの目線では動力性能も卓越したものではなかったし、ハンドリングも良いというレベルまでには達していなかったと思います。僕は一番好きなクルマはBMW M3なんですけど、やはりお値段的に買えるものではないので。そこでテスラに乗ってみたところ、動力性能はM3並に高いことを知り、強く惹かれたんです(笑)」   EVが勢いよく加速する感覚を経験済みだったにもかかわらず、テスラの加速は他のEVとは違ったと? 「そうですね。全然違いましたね。あとはクルマに関する仕事をずっとやってきて、販売店でクルマを売るためにはどうしたらいいかということに携わってきた身として、スマホでポチッとするだけでクルマを買うというところに衝撃を受けました。テスラのショールームに行ってもお茶ひとつ出なかったし、セールスはいないし、職業柄、正直驚きましたね。これで5〜600万円やそれ以上するクルマを売るのか……と。従来の自動車マーケティングが全否定された感じがして衝撃でしたね。と同時にこんな時代が来たんだ、と。これは経験しておきたいという興味をそそられた部分もあります」

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TEXT:陶木 友治
「電気自動車(EV)を売らなければ、日本車はいずれ絶滅?」伝説の自動車アナリスト、中西孝樹教授に訊く:第4回

EVの登場と普及は、国内外の政治・経済にどのような影響をもたらすのでしょうか。伝説の自動車アナリストとして知られる中西孝樹さんに、様々な疑問をぶつけます。これまでハイブリッド車に依存してきた日本メーカーが今後とるべき施策とは。 Q.日本車メーカーが今後とるべき方針について、国内では「EV推進派」と「EV否定派」とで意見が分かれているようです。「日本車は全車EV化すべき」という意見と「EV化は必要ない」という意見のどちらが正しいのでしょうか。 日本車メーカーに限った話ではありませんが、EV化を進めなければそのメーカーはいずれ世界でクルマを売ることができなくなってしまいます。関連する世界の動きをいくつかご紹介しましょう。 2022年8月に、アメリカのカリフォルニア州は州内で販売される新車の100%を、2035年までにCO₂を排出しないEVか全体の20%を上限としたプラグインハイブリッド車にすることを義務づける新たなZEV規制(大気汚染対策として導入された規制。自動車メーカーが州内で自動車を販売する場合、EVや燃料電池車など排出ガスを出さない無公害車を一定比率以上販売することを義務付ける制度)を承認し、他州もこの規制に追随する可能性があると言われています。仮に目標が達成できない場合は、1台につき2万ドルの罰金を科すようです。 EUの欧州委員会は、クルマのCO₂排出量を2030年までに現在のレベルから55%削減し、2035年までに100%削減することを決めました。これにより、EU加盟27か国では、EV以外のクルマを販売することが事実上不可能となり、自動車メーカーはEUからの罰金を回避するために、EVのラインナップを劇的に拡充させることが求められています。イギリスに限っては、2030年までにEV以外の販売を禁止する計画です。 世界最大のCO₂排出国である中国も、2035年を目途に新車販売のすべてを環境対応車にする方針を表明していて、50%をEVを中心とする新エネルギー車とし、残りの50%を占めるガソリン車はすべてハイブリッド車にするとしています。 最も厳しい欧州当局の規制に対応するとすれば、解決策はEV以外にありません。対策が間に合わなければ高額の罰金が科されるため企業としての存続が難しくなり、そのメーカーは倒産することになるでしょう。好むと好まざるとに関わらずEVを売っていかなければ企業の存続が危うくなるという焦燥感が、現在、世界中の自動車メーカーがEVに取り組む大きなモチベーションになっています。 よって「EV化すべきか否か」という二者択一の議論にあまり意味はありません。長期的な観点で見れば、EV化を進めなければ、そう遠くない将来にそのメーカーは潰れることになるはずです。日本車メーカーも条件は同じです。ただし、日本車はEVだけでなくその他のパワートレインを日本と様々な地域に向けて販売していこうとする「全方位」あるいは「マルチソリューション」の戦略を掲げています。マルチソリューションだからEVを手抜かりして良いという意味ではなく、EVでの競争力を維持して初めてマルチソリューション戦略の強みが発揮できると考えるべきです。 (インタビュー:TET編集長 田中 誠司) <つづく>

TAG: #EV経済学 #中西孝樹
TEXT:陶木 友治
「EVシフトは、日本車イジメ?」伝説の自動車アナリスト、中西孝樹教授に訊く:第3回

EVの登場と普及は、国内外の政治・経済にどのような影響をもたらすのでしょうか。伝説の自動車アナリストとして知られる中西孝樹さんに、様々な疑問をぶつけます。アメリカ・ヨーロッパによる政策は日本にどう影響しているのでしょうか。 Q.欧米はEVシフトに舵を切り、中国もEVで先行していますよね。見方によっては、世界が一丸となって日本車をイジメているように見えなくもないのですが、実際にそういう側面があるのでしょうか。 ガソリン車やハイブリッド車の分野では、これまで日本車が圧倒的な優位を築いてきました。日本車に対し「壊れにくい」「低燃費」というイメージを抱いている人が多いと思いますが、それは確かにそのとおりで、日本車は特に「低燃費」が評価されて国際的に高い競争力を誇ってきました。日本車の低燃費は、長年にわたってメーカーが積み上げてきた高効率な内燃機関技術の賜物です。それに対抗するため欧米はEV化を推し進め、特に日本のハイブリッド車潰しに躍起になっています。欧州の自動車メーカーの技術では日本車に太刀打ちできないため、自国の自動車産業を保護するために日本車の勢力伸張を抑えようとしているとも言えます。 2021年7月に、EUの欧州委員会はCO₂を1990年と比較して2030年までに少なくとも55%削減する提案を発表し、その構想には2035年にCO₂を排出する内燃機関車の販売を禁止する内容も含まれていました。ハイブリッド車も対象とするかどうかの結論は出ていませんでしたが、2022年10月に、正式にハイブリッド車も対象とすることが決まりました。基準を満たさない車を販売した場合、厳しい罰金が科されることになります。ハイブリッド車が主力の日本車にとっては厳しい規制と言わざるを得ません。 Q.日本車メーカーもEVを発売しています。日本は技術力に定評がありますから、ハイブリッド車同様に、EVの分野でも他国メーカーを圧倒できるのではないでしょうか。 それが一筋縄ではいかないんですよ。なぜなら、日本にはエネルギー資源がないからです。いわゆる一次エネルギーは3種類しか存在せず、それぞれ「化石燃料」「再生可能エネルギー」「原子力」です。化石燃料は燃焼時にCO₂を排出しますが、再生可能エネルギーと原子力は発電時にCO₂をほとんど排出しません。 見てわかるとおり、日本はどれも持ち合わせていませんよね。原子力は持っていますが、ほとんど稼働していないため「持ち腐れ」状態になっています。現状の日本のエネルギー環境下、すなわち化石燃料をベースとした電力供給に依存した状態でEVシフトを推進したとしても、充電に必要な電気を作る際に多量のCO₂が排出されることになり、EVシフトを推進すればするほどCO₂が増加するといった本末転倒な結果になる可能性があります。国家としてカーボンニュートラルの実現を目指している以上、現状では単純なEVシフトという選択は取り得ません。 一方で世界に目を転じると、欧州は再生可能エネルギーを持っていますし、アメリカは原子力を持っています。つまりEV化が進んでも、欧米はクリーン電力の供給に問題を生じないわけです。 このことからもわかるように、EVシフトはエネルギーを持たない日本をさらに弱体化させる方向へ導き、欧米の競争力を強める結果になります。冒頭の「日本車イジメですか?」という質問に対しては、「結果としてそうなっている」という答えになりますね。 日本にとってやっかいなのは、ここに中国やインドなどの新興国も絡んでくることです。中国はEV化を急いでいますが、その理由は、ハイブリッド車やエンジンに強みを持つ日本を飛び超えて、ルールメイキングで欧米に追いつき、さらに追い越そうとする「自動車強国」への進展を企図しているからに他なりません。インドはこういった中国の動きに警戒を強めていると言えます。 (インタビュー:TET編集長 田中 誠司) <つづく>

TAG: #EV経済学 #中西孝樹
TEXT:陶木 友治
「EVシフトに潜む欧米の『ルールメイキング』の罠」伝説の自動車アナリスト、中西孝樹教授に訊く:第2回

電気自動車の登場と普及は、国内外の政治・経済にどのような影響をもたらすのでしょうか。伝説の自動車アナリストとして知られる中西孝樹さんに、様々な疑問をぶつける連載です。「EVシフトは欧州が仕掛けた経済戦争」という側面についてさらに詳しく迫ります。 Q.前回、EVシフトは欧州が仕掛けた「ルールメイキング」による経済戦争であるという趣旨の話がありました。もう少し詳しく教えてください。 まず2019年12月に、欧州委員会の新体制が発足しました。このとき欧州委員会は「6つの優先課題」という戦略を発表したのですが、その筆頭に掲げられていたのが「欧州グリーン・ディール」という構想です。これは「脱炭素」と「経済成長」の両立を目指すとする構想で、具体的な中身としては、「2050年までに気候中立を実現する」「欧州企業をクリーン技術・製品のリーダーにする」などの目標が掲げられています。あらゆる産業分野を対象としており、もちろん自動車分野も対象になっています。 前回も触れましたが、脱炭素はCO₂の削減に向けた取り組みをマネーに変えるために欧州が編み出した新しい経済ルールという側面が強く、その狙いが何かと言えば、温暖化から地球を守るという理想の下に、企業にイノベーションを促して雇用を創出させたり外貨を獲得させたりすることを目論んだ「企み」のようなものと言っても過言ではありません。実際、「6つの優先課題」を細かく見ていくと、貿易協定などを通じて他国にEUモデルの採用を促していくという方針も明示されています。そのことからも、脱炭素時代において国際ルールメイキング上のイニシアティブを握りたい彼らの思惑を見て取ることができるでしょう。 いずれにせよ「欧州グリーン・ディール」の発表が、EVシフトの流れを作ったことに間違いはありません。欧州はEVのみが次世代車の役割を担うと主張しており、他地域の自動車メーカーの強み、特にハイブリッド車で高い競争力を誇る日本メーカーを封じ込めようとする戦略性がそこに垣間見えています。 Q.トランプ退陣後、アメリカも欧州に追随する動きを見せたというお話でしたが、具体的に教えてください。 バイデン大統領は就任早々、トランプ前政権が離脱した地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」への復帰を宣言し、2050年までにCO₂などの温室効果ガス排出量を実質的にゼロにする「カーボンニュートラル」の目標達成を打ち出しました。この目標は、それまでのアメリカの政権では見られない意欲的なものでした。 バイデン政権の政策は「米国インフラ計画(アメリカン・ジョブズ・プラン)」から発動し、2030年までに新車の50%以上をEVや燃料電池車にする大統領令にも署名をしました。アメリカン・ジョブズ・プランにおいては、4年間に環境・インフラ部門に2兆ドル(約260兆円)を支出し、エネルギー分野の技術革新研究に10年間で4000億ドル(約52兆円)を投資する計画になっており、またクリーンエネルギー産業で1000万人の雇用を創出する目標も設定したほか、AIやバッテリー技術などの研究開発への追加投資を促し、より強靭な競争力を持つ国家の建設を唱えました。この法案は、後に「超党派インフラ法案(ビルドバック・ベター法)」として成立しました。このように、莫大な補助金政策を実行することで温暖化対策を実現し、自国の経済安全保障を強化する戦略を打ち出したのがバイデン政権です。 いま振り返ってみると、欧州の「欧州グリーン・ディール」とアメリカの「アメリカン・ジョブズ・プラン」が、その後の世界のEVシフトの流れを決定づけたと思います。繰り返しになりますが、欧州もアメリカも「温暖化を防いで地球環境を守る!」といった使命感から行動しているわけではなく、主導権を握って自国の権益を拡大するために行動しています。実際には、ここに中国やインドの動きも密接に絡んでくるのですが、その話は別の機会に解説しましょう。 (インタビュー:TET編集長 田中 誠司) <つづく>

TAG: #EV経済学 #中西孝樹

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