インタビュー
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「アジアはEVシフトに積極的? 消極的?」伝説の自動車アナリスト、中西孝樹教授に訊く:第6回


TEXT:陶木 友治
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電気自動車の登場と普及は、国内外の政治・経済にどのような影響をもたらすのでしょうか。伝説の自動車アナリストとして知られる中西孝樹さんに、様々な疑問をぶつけます。今回、観察するのは日中以外のアジア市場です。

Q.中国はEVシフトに積極的ですが、それ以外のアジアの国々は、EVに対してどのようなスタンスをとっているのでしょうか。

ざっくり言いますと、どの国も新車の3割程度はEV化したいという意向を持っているようです。ただ以前もお伝えしたとおり、アジアの国々は再生可能エネルギーも原子力も持っていません。急激にEV化を推し進めると自分たちの首を絞める結果につながる可能性もあるため、慎重姿勢をとっています。その意味では、日本と同じようなスタンスの国が多いと言えるでしょう。アジアの中でEV志向が最も強いのはインドネシアで、タイ、ヴェトナム、インドが続きます。

ハイブリッド車を輸出したい日本車メーカーにとってアジア諸国は心強い存在と言えるかもしれませんが、アジアの国々の中にも「このまま日本と同じ戦略を取っていると、日本とともに沈没してしまうのではないか」と危惧している国も少なくなく、彼らが日本にとって好ましいスタンスをこのままとり続けてくれるかどうかは未知数であり、日本も油断はできません。

例えば、2013年にインド政府は「National Electric Mobility Mission Plan 2020」という戦略を発表しました。そこではEVシフトの必要性が言及されており、2020年までにCO₂排出量を1.3〜1.5%削減する目標を掲げていました。その3年後の2016年には、インド国内の移動手段を2030年までにすべて電動化するという大胆な目標を発表し、世界に衝撃を与えています。たいへん野心的な目標でしたが、インドはこの目標、すなわち2030年までの完全EV化を諦め、目標を30%に下方修正するなど現実路線をとるようになりました。インドの例からわかるのは、アジアの中にも本音では全車EV化したいと思っている国が存在するということです。状況が変われば、一気に100%EV化に方針転換する国が現れたとしても不思議ではありません。

Q.アジアの国々も欧米の動向は無視できないでしょうから、方針転換してEVシフトを急激に進めてくる可能性は考えられますよね。日本車が生き残るにはどうすればいいのでしょうか。

日本は欧米のようにルールメイキングできる国ではないにもかかわらず、世界の自動車マーケットで3割のシェアを獲得するまでの国になりました。なぜそれが可能だったかというと、消費者に「選ばれてきた」からです。欧米のようにルールメイキングで主導権を取ろうとすることを「デジューレスタンダード(公的機関によって定めた標準化)」と呼びますが、日本車は企業間の競争によって、業界の標準として認められる「ディファクトスタンダード」を勝ち取ってきた」のです。ガソリン車やハイブリッド車においては、信頼性や燃費性に優れる日本車がディファクトスタンダードになりました。EVにおいても「ユーザーから選ばれる」ことによって、ディファクトスタンダードを目指すしかありません。

アメリカやヨーロッパの顔色を伺いながら、そして中国の顔色も伺いながら、さらに世界の動向を見極めながら、高品質な製品を売っていく、選ばれていくということを実現していくしか日本メーカーが生き残る手段はありません。現状では不利な戦いを余儀なくされていますが、それをどうやって「勝ち戦」に変えていくのか、自動車メーカーの努力はもちろんのこと、政府の後押しやサポートも重要になってくると思います。

(インタビュー:TET編集長 田中 誠司)

<つづく>

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