インタビュー
share:

「電気自動車(EV)を売らなければ、日本車はいずれ絶滅?」伝説の自動車アナリスト、中西孝樹教授に訊く:第4回


TEXT:陶木 友治
TAG:

EVの登場と普及は、国内外の政治・経済にどのような影響をもたらすのでしょうか。伝説の自動車アナリストとして知られる中西孝樹さんに、様々な疑問をぶつけます。これまでハイブリッド車に依存してきた日本メーカーが今後とるべき施策とは。

Q.日本車メーカーが今後とるべき方針について、国内では「EV推進派」と「EV否定派」とで意見が分かれているようです。「日本車は全車EV化すべき」という意見と「EV化は必要ない」という意見のどちらが正しいのでしょうか。

日本車メーカーに限った話ではありませんが、EV化を進めなければそのメーカーはいずれ世界でクルマを売ることができなくなってしまいます。関連する世界の動きをいくつかご紹介しましょう。

2022年8月に、アメリカのカリフォルニア州は州内で販売される新車の100%を、2035年までにCO₂を排出しないEVか全体の20%を上限としたプラグインハイブリッド車にすることを義務づける新たなZEV規制(大気汚染対策として導入された規制。自動車メーカーが州内で自動車を販売する場合、EVや燃料電池車など排出ガスを出さない無公害車を一定比率以上販売することを義務付ける制度)を承認し、他州もこの規制に追随する可能性があると言われています。仮に目標が達成できない場合は、1台につき2万ドルの罰金を科すようです。

EUの欧州委員会は、クルマのCO₂排出量を2030年までに現在のレベルから55%削減し、2035年までに100%削減することを決めました。これにより、EU加盟27か国では、EV以外のクルマを販売することが事実上不可能となり、自動車メーカーはEUからの罰金を回避するために、EVのラインナップを劇的に拡充させることが求められています。イギリスに限っては、2030年までにEV以外の販売を禁止する計画です。

世界最大のCO₂排出国である中国も、2035年を目途に新車販売のすべてを環境対応車にする方針を表明していて、50%をEVを中心とする新エネルギー車とし、残りの50%を占めるガソリン車はすべてハイブリッド車にするとしています。

最も厳しい欧州当局の規制に対応するとすれば、解決策はEV以外にありません。対策が間に合わなければ高額の罰金が科されるため企業としての存続が難しくなり、そのメーカーは倒産することになるでしょう。好むと好まざるとに関わらずEVを売っていかなければ企業の存続が危うくなるという焦燥感が、現在、世界中の自動車メーカーがEVに取り組む大きなモチベーションになっています。

よって「EV化すべきか否か」という二者択一の議論にあまり意味はありません。長期的な観点で見れば、EV化を進めなければ、そう遠くない将来にそのメーカーは潰れることになるはずです。日本車メーカーも条件は同じです。ただし、日本車はEVだけでなくその他のパワートレインを日本と様々な地域に向けて販売していこうとする「全方位」あるいは「マルチソリューション」の戦略を掲げています。マルチソリューションだからEVを手抜かりして良いという意味ではなく、EVでの競争力を維持して初めてマルチソリューション戦略の強みが発揮できると考えるべきです。

(インタビュー:TET編集長 田中 誠司)

<つづく>

TAG:

NEWS TOPICS

EVヘッドライン
BYD・アット3(photo=BYDジャパン)
世界ではEVは爆売れ中だが日本は……8月の世界EV販売台数は100万台超えで市場が成長中[2023.10.03]
「マルチポートEVチャージャ」(photo=日立インダストリアルプロダクツ)
日立が発売「魔法のようなマルチ充電器」1基で数十台の充電に対応が可能、出力も自在[2023.10.02]
バッテリキューブ(photo=日立製作所)
トレーラー型の緊急用バッテリー登場……三菱・日立、使用済みバッテリーの再活用を事業化へ[2023.09.29]
more
ニュース
ヒョンデ、新型電気自動車「コナ」の予約受付を開始、予定価格は税込400万円から
BYDの新型EV「ドルフィン」は363万円から。補助金で200万円台も可能
大型トラックのEV化進む。メルセデスが航続距離500kmの「eアクトロス600」を発表
more
コラム
欧州メーカーはなぜ電気自動車に走ったのか?:知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第14回
トヨタの全固体電池量産に向けた技術進化を実感。“夢の電池”ではなく、量産目前の現実味が。
ギガキャストの試作品(写真右)。プレス工程と溶接工程を必要とする従来品(写真左)と比べて工程数は一気に減る。出典:トヨタ
トヨタ「ギガキャスト」の正体を初公開の明知工場で見た。これからのクルマ作りには必須技術か
more
インタビュー
電気自動車で自由に旅できる世界を目指して。シュルーターさんと「ID.BUZZ」の旅物語
ボルボ「EX30」は「脱炭素」をキーワードにインテリアの“プレミアム”を再定義する
フォルクスワーゲン「ID.BUZZ」は人や荷物だけでなく笑顔もはこぶクルマ
more
試乗
BMW「5シリーズ」の電気自動車は、新時代に入った「セダンデザイン」を体現している
“EVセダン”の決定版か!? 新型BMW「5シリーズ」セダンの電気自動車「i5」に試乗した
ホンダのEV「e:NP1」はマイルドにもスポーティにもなる走り!来年からの新型車にも注目
more
イベント
自動車部品&輸入販売の超・老舗とBYDがコラボ、東京・品川に新ディーラーをオープン
ジャパンEVラリー白馬2023(photo=日本EVクラブ)
今年の最長距離の参加者は⁉︎……「ジャパンEVラリー白馬2023」は充電計画も愉しい
ジャパンEVラリー白馬2023(photo=福田 雅敏)
ぶっちゃけトークの夜がやっぱり本番⁉︎……72台のEVが集まった「ジャパンEVラリー白馬」
more

PIC UP CONTENTS

デイリーランキング

過去記事一覧

月を選択