インタビュー
share:

「EVシフトは、日本車イジメ?」伝説の自動車アナリスト、中西孝樹教授に訊く:第3回


TEXT:陶木 友治
TAG:

EVの登場と普及は、国内外の政治・経済にどのような影響をもたらすのでしょうか。伝説の自動車アナリストとして知られる中西孝樹さんに、様々な疑問をぶつけます。アメリカ・ヨーロッパによる政策は日本にどう影響しているのでしょうか。

Q.欧米はEVシフトに舵を切り、中国もEVで先行していますよね。見方によっては、世界が一丸となって日本車をイジメているように見えなくもないのですが、実際にそういう側面があるのでしょうか。

ガソリン車やハイブリッド車の分野では、これまで日本車が圧倒的な優位を築いてきました。日本車に対し「壊れにくい」「低燃費」というイメージを抱いている人が多いと思いますが、それは確かにそのとおりで、日本車は特に「低燃費」が評価されて国際的に高い競争力を誇ってきました。日本車の低燃費は、長年にわたってメーカーが積み上げてきた高効率な内燃機関技術の賜物です。それに対抗するため欧米はEV化を推し進め、特に日本のハイブリッド車潰しに躍起になっています。欧州の自動車メーカーの技術では日本車に太刀打ちできないため、自国の自動車産業を保護するために日本車の勢力伸張を抑えようとしているとも言えます。

2021年7月に、EUの欧州委員会はCO₂を1990年と比較して2030年までに少なくとも55%削減する提案を発表し、その構想には2035年にCO₂を排出する内燃機関車の販売を禁止する内容も含まれていました。ハイブリッド車も対象とするかどうかの結論は出ていませんでしたが、2022年10月に、正式にハイブリッド車も対象とすることが決まりました。基準を満たさない車を販売した場合、厳しい罰金が科されることになります。ハイブリッド車が主力の日本車にとっては厳しい規制と言わざるを得ません。

Q.日本車メーカーもEVを発売しています。日本は技術力に定評がありますから、ハイブリッド車同様に、EVの分野でも他国メーカーを圧倒できるのではないでしょうか。

それが一筋縄ではいかないんですよ。なぜなら、日本にはエネルギー資源がないからです。いわゆる一次エネルギーは3種類しか存在せず、それぞれ「化石燃料」「再生可能エネルギー」「原子力」です。化石燃料は燃焼時にCO₂を排出しますが、再生可能エネルギーと原子力は発電時にCO₂をほとんど排出しません。

見てわかるとおり、日本はどれも持ち合わせていませんよね。原子力は持っていますが、ほとんど稼働していないため「持ち腐れ」状態になっています。現状の日本のエネルギー環境下、すなわち化石燃料をベースとした電力供給に依存した状態でEVシフトを推進したとしても、充電に必要な電気を作る際に多量のCO₂が排出されることになり、EVシフトを推進すればするほどCO₂が増加するといった本末転倒な結果になる可能性があります。国家としてカーボンニュートラルの実現を目指している以上、現状では単純なEVシフトという選択は取り得ません。

一方で世界に目を転じると、欧州は再生可能エネルギーを持っていますし、アメリカは原子力を持っています。つまりEV化が進んでも、欧米はクリーン電力の供給に問題を生じないわけです。

このことからもわかるように、EVシフトはエネルギーを持たない日本をさらに弱体化させる方向へ導き、欧米の競争力を強める結果になります。冒頭の「日本車イジメですか?」という質問に対しては、「結果としてそうなっている」という答えになりますね。

日本にとってやっかいなのは、ここに中国やインドなどの新興国も絡んでくることです。中国はEV化を急いでいますが、その理由は、ハイブリッド車やエンジンに強みを持つ日本を飛び超えて、ルールメイキングで欧米に追いつき、さらに追い越そうとする「自動車強国」への進展を企図しているからに他なりません。インドはこういった中国の動きに警戒を強めていると言えます。

(インタビュー:TET編集長 田中 誠司)

<つづく>

TAG:

NEWS TOPICS

EVヘッドライン
中国から地球上最強コスパの新星EV現る! IMモーターL6の驚くべきスペックとは
BYDの売り上げ鈍化に注目しても意味なし! むしろ心配すべきはテスラか? BYDは利益率も投資額も驚くべき水準だった
いすゞがピックアップトラック「D-MAX」にBEVを用意! バンコク国際モーターショーでワールドプレミア予定
more
ニュース
EVバスを導入したい自治体や事業者の救世主となるか!? ヒョンデ中型EVバスを2024年末までに国内投入
ホンダの電動ロボット芝刈機/草刈機「ミーモ」シリーズが大幅改良! 国内で年間500台のセールスを目指す
ホンダCR-Vが帰ってきた! 新型燃料電池車「CR-V e:FCEV」が登場
more
コラム
電動化の失速どころかEV&PHEVがバカ売れ! テスラもドイツ御三家も押し出す中国メーカーの勢い
日本での走行テストを確認! 中国BYDの新たな刺客「Sea Lion 07」の驚異の性能
日本のEVシフトは2024年に入り低迷気味! 軽のサクラ&eKを除けば海外勢の健闘が目立つ
more
インタビュー
「EX30」に組み込まれたBEVの動的性能とは。テクニカルリーダーが語る「ボルボらしさ」
「EX30」には、さまざまな可能性を。ボルボのテクニカルリーダーが話す、初の小型BEVにあるもの
災害に強いクルマは「PHEV+SUV+4WD」! 特務機関NERVがアウトランダーPHEVを選ぶ当然の理由
more
試乗
EV専業の「テスラ」とEVに力を入れる従来の自動車メーカー「ヒョンデ」! モデルYとコナを乗り比べるとまったく違う「乗りもの」だった
誰もが感じる「ポルシェに乗っている」という感覚! ポルシェはBEVでもやっぱりスポーツカーだった
佐川急便とASFが共同開発した軽商用EV「ASF2.0」に乗った! 走りは要改善も将来性を感じる中身
more
イベント
中国市場のニーズに合わせて開発! 日産が北京モーターショー2024で新エネルギー車のコンセプトカーを出展
レース前に特別に潜入! フォーミュラEに参戦する日産チームのテント内は驚きと発見が詰まっていた
日産がフォーミュラE「Tokyo E-Prix」開催前スペシャルイベントを開催! 六本木ヒルズアリーナに1夜限りのサーキットが出現
more

PIC UP CONTENTS

デイリーランキング

過去記事一覧

月を選択