THE EV TIMES

ニュース 記事一覧

ニュース ニュース
TEXT:烏山 大輔
大日本印刷と島田理化工業、EV用ワイヤレス給電の実証実験装置を共同開発

大日本印刷株式会社(DNP)と島田理化工業株式会社は、EV用ワイヤレス給電の実用化に向けて、実証実験装置を共同開発した。 近年のEVの普及や自動運転技術の進展にともない、新たな給電方法としてEV用ワイヤレス給電システムが期待され、EV関連企業による実証実験や共通規格化が世界的に進められている。 この共同開発を通して、DNPのシート型コイルや島田理化のPWM(Pulse Width Modulation)制御インバーターなど、2社が強みとする技術や製品を融合・最適化し、実証実験装置として提供する。そして次世代インフラとしてのEV用ワイヤレス給電システムの社会実装に貢献していく。 今後、EV関連企業へこの装置の利用と実証実験の実施を促進する。また実証実験装置用として販売することで、EVワイヤレス給電の実用化が加速するだろう。 2社の強みを発揮した実証実験装置 島田理化は誘導加熱装置で長年培ったインバーター技術に加え、独自開発したデジタルPWM制御により、高効率で省エネルギーな大電力の給電を可能にした。実証実験装置は、出力11.1kWのインバーターユニットを4台内蔵し、複数車両への個別または同時の給電や、1車両への複数コイル同時給電に対応する。 DNPは独自開発したシート型コイルにより、SAE(米国自動車技術会)が定める規格(WPT3:11.1kW)に準拠した薄型・軽量かつ漏洩磁界を抑えた給電を可能にした。コイルと給電ケーブルの接合回路の最適化により、ケーブルの長さが最大30mでの給電を実現したことで、多様な設置レイアウトに対応できる。 実証実験の想定レイアウト トラックヤードで荷役作業中のEVトラックへの給電や、タクシープールで待機中のEVタクシーへの給電を想定している。  

TAG: #充電
TEXT:田中 誠司
横幅いっぱいに表示されるヘッドアップ・ディスプレーをBMWが開発中。「BMWパノラミック・ビジョン」が次期「ノイエクラッセ」に

BMWグループは2023年の年次総会で、次期「ノイエクラッセ」モデルに新型ヘッドアップ・ディスプレイ「BMWパノラミック・ビジョン」を搭載すると表明した。ノイエクラッセはEVのためのまったく新しい技術プラットフォームを採用しており、デジタル化、持続可能性、デザインにおける新しい基準を設定するとしている。 いままでのヘッドアップ・ディスプレイが小さな画面でわずかな情報しか表示できなかったのに対し、BMWパノラミック・ビジョンはフロント・ウィンドシールド(フロントガラス)の幅全体に投影されるのが特徴だ。さらに、ドライバーだけでなくすべての乗員に情報を提供し、ユニークな対話を作り出すという。 BMW AGの開発担当取締役であるフランク・ウェーバーは、BMWパノラミック・ビジョンの主な利点について次のように説明している。 「新しいBMWパノラミック・ビジョンによって、フロント・スクリーンは一つの大きなディスプレイとなり、車のデザインにまったく新しい可能性をもたらします。 表示される情報がドライバーにのみ見えるようにするのか、すべての乗員から見えるようにするのかはドライバーが決定することが可能です。画期的な投影方法と、格段にクリアで、配置的にも見やすくなったコクピットは、新しい空間とドライビングの感覚を印象づけます。私たちは、『eyes on the road – hands on the wheel』という実績あるスローガンを、新たな次元に引き上げようとしています」

TAG: #新技術
TEXT:曽宮 岳大
ランチア、本格的なブランド再生に向け、名門復活の狼煙を上げる

「デルタ・インテグラーレ」や「ストラトス」「037ラリー」など、世界ラリー選手権(WRC)での活躍の姿が思い浮かぶランチア。現在はコンパクトカーの「イプシロン」をイタリア国内で展開するのみと活動の幅を絞っているが、昨春にはブランド再興に向けた向こう10年の中長期プランを発表。さらにこのたび新しいコンセプトモデルを示唆するティザーを公開するなど、活発な動きを見せている。そこで登場が予定されている新型車を中心に“今後のランチア”に注目してみたい。 新型イプシロンやデルタも……登場が予定される3モデル このたび発表されたのは、コンセプトモデルのリアビューが映った1枚の画像のみ。情報は限られているが、4月に迫ったミラノデザインウィークで実車を公開予定としている。公開された画像に写った丸型のテールランプは、往年の「ストラトス」を彷彿とさせるもの。一体このコンセプトカーは何を意味するのか。 これまでの発表内容を整理すると、ランチアは2022年春に、欧州市場への再参入を明らかにするとともに、2024年以降は2年に1台ずつニューモデルを投入すると発表した。また2026年以降に登場するモデルは電気自動車(EV)のみとなり、2028年以降はEVのみを販売するとランチアのルカ・ナポリターノCEOは明言している。 またニューモデルについて、2024年に全長4m前後の電気自動車の「ニューイプシロン」を、2026年に全長4.6m前後の新しいフラッグシップを、そして2028年に全長4.4m前後の新型「デルタ」を投入することまでが発表済みだ。 こうした背景を踏まえながらティザー画像を眺めて見ると、そのスポーツクーペと思われるボディスタイルは、Bセグメントをカバーする次期「イプシロン」ではないだろう。またデルタも先代モデルではサイズこそ大型化したとはいえ、ハッチバックスタイルを踏襲しており、写真のイメージには合致しない。となると、このコンセプトカーは2026年に登場予定の新しいフラッグシップか、それ以外の車種ということになりそうだ。

TAG: #デザイン
TEXT:TET編集部
横浜ゴムがEVなど高重量車両に対応するHLC(ハイ・ロード・キャパシティ)タイヤの生産・販売を開始

横浜ゴム株式会社は、大容量バッテリーを搭載するEV(電気自動車)、ハイブリッド車、大型SUVなど車体が重い車両を支えられる、高い負荷能力を備えるHLC(ハイ・ロード・キャパシティ)タイヤの生産および販売を開始したと発表した。 当初は新車装着用の導入を先行して進め、将来的にはアフターマーケットで販売される製品にも拡大する。 HLCタイヤは、従来のXL(エクストラ・ロード)規格タイヤを上回る負荷能力と諸性能を備える新たなタイヤサイズとして、ETRTO(European Tyre and Rim Technical Organization:欧州タイヤおよびリム技術機構)規格に定められた。タイヤサイズ表示の先頭に「HL」と表示される。 275/35R23サイズにおける負荷能力を比較した場合、XLタイヤが900kg(ロードインデックス104)であるのに対し、HLCタイヤでは1,000kg(ロードインデックス108)に拡大する。 HLCタイヤの設計には、荷重耐久性を高めながら静粛性や操縦安定性を確保する、高度な技術が求められる。横浜ゴムは高荷重に対応するシミュレーションを繰り返し、従来のタイヤに比べて高荷重時の発熱量とひずみが少ないHLCタイヤ専用のプロファイルを開発した。 写真は大きな荷重がかかった時の発熱量とひずみの比較シミュレーション・イメージ。左が通常タイヤ、右がHLCタイヤ。HLCタイヤの方が発熱量とひずみが小さく、荷重耐久性が高い。 HL規格のタイヤはピレリ、ミシュラン、コンチネンタルなどのメーカーも開発を表明している。将来的にEVが主体の時代になってもさらなる高性能化や重量増が見込まれることを見据えたかたちだが、車両メーカー側にも車重の増加を抑えながらドライビング・プレジャーを高める努力が望まれる。

TAG: #タイヤ #横浜ゴム
TEXT:烏山 大輔
アウディ、2025年までに10車種のEVを発売、Q6 e-tronは今年後半に発表予定

アウディは2025年までに20車種以上のニューモデルを販売する予定で、そのうち10車種以上はEVである。2023年後半に発表される予定のQ6 e-tronモデルシリーズは、ドイツのインゴルシュタット本社工場で生産される初めてのEVである。本社工場敷地内に専用のバッテリー組み立て工場を建設。この工場で重要なノウハウを蓄積し、将来に向けた従業員のトレーニングを実施することができる。独自のバッテリー組み立て施設は、eモビリティへの移行を推進する、アウディの取り組みにおける重要な拠点となる。 デジタル化と電動化の大きな飛躍 アウディはQ6 e-tronプロトタイプを、ヨーロッパの北極圏でテストしている。Q6 e-tronシリーズは、ポルシェと共同開発したプレミアムプラットフォームエレクトリック(PPE)を採用する初のEVである。800Vの主電源システム、パワフルで効率的な電気モーター、革新的なバッテリーと充電管理システム、新開発の電子アーキテクチャーを備えたQ6 e-tronプロトタイプは、アウディの電動化とデジタル化における次の大きなステップを体現するモデルである。 Q6 e-tronのラインナップはSUVとSportbackである。インゴルシュタット工場でスキルアップされた従業員により持続可能な方法で生産され、アウディの電動化の未来を表現している。アウディは、完全なコネクテッド機能を備えたプレミアムなeモビリティのリーディングプロバイダーへと急速に変革を進めている。 過去最高水準の業績 3月16日に発表された2022年度の会計では、売上高は16.4%増加し618億ユーロ(約8兆7,400億円)に達し、営業利益は約40%上昇して史上最高の76億ユーロ(約1兆700億円)を計上した。営業利益率は昨年の10.4%から12.2%に上昇し、ネットキャッシュフローは48億ユーロに(約6,800億円)達し、アウディ史上2番目に高い数値となった。 2022年度の好調な業績の主な要因には、世界的に困難な経済状況の中での一貫した危機管理、良好な価格ポジション、ベントレー、ランボルギーニ、ドゥカティ ブランドの好調な業績が含まれる。2022年には、EVの販売台数も急増(44%増の11万8,196台)した。 2023年、アウディは今後発表されるQ6 e-tronシリーズを皮切りに、アウディ史上最大のニューモデル攻勢を展開する。

TAG: #Q6 #財務
連載企画 一覧
VOL.8
岡崎宏司の「EVは楽しい!」第8回:e-208GTは楽しい!生活で魅力が増していくEV。

プジョーe-208GTのある生活は満ち足りたものと岡崎さんは言います。造形、面構成を際立たせるブルーに、十分な航続距離に、充電も自宅できる使い勝手の良さに、その魅力は増すばかりです。 プジョーのブルーにゾッコン わが家のEVは「プジョーe-208 GT Line」に決まった。で、最後に残ったのはボディカラーだが、これもすぐ「プジョーブルー」に決まった。 昼でも夜でも、いい光が当たっていたりすると、思わず「いい色だなぁ!」と見惚れて立ち止まってしまう。 買ってから26ヵ月経った今でも、こうしたリアクションは続いている。 鮮やかで艶やか、華やかで嫌味なく、誰もが「いい色だな!」と思ってくれるはず……。手前味噌かも知れないが、プジョーブルーはそんな色だと僕は思っている。 フロントはライオンのかぎ爪、リアはかぎ爪が引っ掻いた跡…特徴的なランプのデザインは、そんなイメージから生まれたものと思うが、これも気に入っている。 整ったプロポーションと優しい面構成に、ライオンの爪が強烈な個性を組み込んでいる。 「日常的な使い勝手が良く、気軽に付き合えて…でも、そこそこ気の利いた洒落っ気もほしい」……そんな、わがままな要求を叶えてくれている。 EVモデルは、グリルもライオンのエンブレムも、透明感ある美しい水色で塗られている……これもお気に入りだ。 お気に入りといえば、もうひとつ付け加えておきたいのは「ガラスコーティング」。ディーラーの担当者から勧められてやったのだが、これはよかった。すごくよかった! 美しいプジョーブルーに、さらに深みと艶やかさが加わり、同じ色の208と並んでも存在感はまるで違う。それでいて嫌味はない。 わが家のe-208GTは、街でもけっこうな視線を受けるが、その大きな理由のひとつが、ガラスコーティングにあるのは間違いなさそうだ。 魅惑の色を纏うプジョーがEVとわかると…… そう……買った当初、ご近所の方々からも、「いい色ですねー!」とまず言われた。そして、その後で、「エンジンの音が聞こえませんけど、電気自動車ですか!?」と聞かれることが多かった。 ご近所は高齢世帯が多く、コンパクトやミディアム系のメルセデスやBMW、アウディを所有される方が多いのだが、僕のプジョーがEVだとわかると、いろいろな質問をしてきた。 いちばん多かったのは「充電は面倒じゃないですか?」という質問。それに対して僕は間髪入れずに「楽ですよ!」と答えた。 事実、僕の充電作業は「まったく楽!」だ。わが家のガレージの充電器は200V/3kW。充電ケーブルと一体になった簡易な壁掛け式で、23年前(2000年)に設置した。 日産が二人乗りのスタイリッシュなコンパクトEV、ハイパーミニを世に送り出した時、長期テストのために設置したものだ。 200V/6kWの設置も考えはした……が、わが家の走行環境を考えたら、3kWでも十分間に合うと思い、交換しなかった。 日常生活で満ち足りるe-208GT つまり、日常的な走行距離が極めて短いということ。日々通うショッピングセンターまでは往復3kmほどだし、時々行く老舗百貨店までは往復15kmほど。 たまに、気が向いたらランチしに行く横浜のホテルにしても往復30km、銀座のレストランまで行っても往復55kmほどでしかない。 仕事も「好きなものだけ」は続けているが、長距離を移動しての取材などなくなった(なくした)。オンラインで済む仕事も多い。 そんなことで、50kWhの電池を積むe-208GTが可能とする走行距離で、足りないことはまずない。 ちなみに、 e-208GTの満充電からの実用走行可能距離は……そうとう電費の悪い冬場(ヒーターは20~30%も電費を悪化させる)でも、150~200km程度はカバーできる。 充電には、基本的に深夜電力(23時~07時)を使っている。3kWで8時間充電すれば、単純計算で24kWhになる。これに冬場の最悪の電費を当てはめても100km程度は走れる。安いし、世のためにもなる使い方だ。 ……つまり、怠惰な生活をしているわが家の場合は、3kW充電でも、1週間に1度程度、夜間電力で充電すれば事足りる。 帰宅した時充電ケーブルを繋ぎ、23時に充電が開始するようスマホのアプリを設定。そして翌日、家を出る時に充電ケーブルを抜く。これですべて……。実に楽だ。 そんな話をすると、みなさん「羨ましそうな」表情になる。そして「次はEVも候補に入ってくるでしょうね」といった言葉が続く。 ご近所に、EVを買った人はまだいない。でも、数年内にはきっと出てくるだろう。そしてEV話で盛り上がることになりそうだ。

VOL.
お得な充電カードを探せ [ID.4をチャージせよ!:その10]

自宅に充電設備のない私にとって、急速充電ネットワークはID.4を走らせるために不可欠。それだけに、できるだけ利用料は安くしたい……。ということで、ID.4で利用できるおもな充電カードのコストを比べてみました。 無料特典は1年だけ ID.4 プロ・ローンチエディションを購入してすぐに、「フォルクスワーゲン充電カード 普通・急速充電器併用プラン」(以下、VW充電カード)と「プレミアムチャージングアライアンス(PCA)」に加入したことは[ID.4をチャージせよ!:その3]さっそく補助金を申請! 充電の準備もOKでお話ししました。VW充電カードは、全国で約2万200口(2022年3月末時点。うち急速充電器が約1万2,800口)ある「e-Mobility Power」(以下e-MP)ネットワークの充電ステーションがカードをかざすだけで利用できるというもの。一方、PCAはフォルクスワーゲン、アウディ、ポルシェのEVであれば、各ディーラーにある90kW超の急速充電器が利用できます。 ID.4を新車で購入した場合、VW充電カードの月会費7,810円が1年間無料になります。利用料金は、急速充電が1分あたり16.5円、普通充電が同2.75円。なお、月会費には急速充電90分の料金が含まれています。また、PCAはフォルクスワーゲンに設置された90kW超急速充電器にかぎり、毎月60分まで無料で利用が可能。さらに、私が購入した導入記念モデルのローンチエディションは、月額会員プランの入会金と1年分の基本料金が無料になるため、アウディやポルシェでも利用できます。 こうした特典のおかげで、12月から2月までの充電料金は次のようになりました。   VW充電カード PCA 計   充電時間[分] 料金[円] 充電時間[分] 料金[円] 充電時間[分] 料金[円] 12月 302 3,630 200 6,300 502 9,930 1月 272 2,730 98 1,710 370 4,440 2月 329 4,080 104 1,950 433 6,030

VOL.8
「こうなる! 2023年の自動車業界!」伝説の自動車アナリスト、中西孝樹教授に訊く:第8回

EVの登場と普及は、国内外の政治・経済にどのような影響をもたらすのでしょうか。伝説の自動車アナリストとして知られる中西孝樹さんに、様々な疑問をぶつけます。短期連載の最終回は2023年の展望について語ります。 Q.これまでの議論を踏まえて、2023年の自動車業界の展望をお願いします。 注目すべきポイントは3つあります。一つずつ説明していきましょう。 2023年は、先進国を中心に世界的な景気後退に突入することが予想されます。不況時、新車の売れ行きは鈍ることが普通ですが、逆転現象が起こって新車販売台数は伸張するでしょう。理由は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う2021年以降の減産です。 減産によって供給力が落ちたため、自動車の価格はむしろ上がり、減産すればするほど利益が上昇するという不思議な現象が発生しました。2023年はコロナ禍の影響の揺り戻しにより、新車需要が低下する以上のスピードで供給回復が見込まれるため、不況下でも新車販売が伸びることが予想されます。自動車業界には「数量回復」という追い風が吹くはずです。 販売台数が伸びるからといって、楽観は禁物です。二つめの注目ポイントについて、「人件費」の高騰を挙げたいと思います。 現在、世界を凄まじいインフレが襲っていますよね。自動車メーカーも「コストインフレ」の圧力を受けています。コストインフレとは、原材料や資源価格の上昇による資源インフレ、エネルギーインフレ、賃金の高騰による賃金インフレなどが代表的です。クルマの場合、原材料の高騰等により1台あたり実質20万円近くもコストアップしています。欧米ではこの影響の大部分を新車価格の引上げへ転嫁できていますが、日本では車両の販売価格そのものは上がっていません。20万円のコストアップ分の大部分を、メーカーが一旦受け留める形で影響を吸収しています。円安が進展したことで、円安メリットでその負担を吸収できる余力があったことも事実です。 このコストインフレが緩和されるのか、それともさらに強まるのか注視していく必要がありますが、私はコストインフレがさらに進むと思っています。理由は原材料等の高騰ではなく、日米市場ともに賃金のさらなる高騰が起きると予想されるからです。 アメリカは賃金上昇ペースが速く、自動車メーカーの工場で働くよりもマクドナルドで働いたほうが賃金が高いという、一昔前なら考えられない状況が出現しています。マクドナルドのようなサービス業に人材の流出に歯止めが掛からない状況です。 工場に人材を呼び戻すためには、賃金を上げざるを得ませんが、賃金を上げてまで新しく人を雇ったとしても、その人材が熟練するまでには一定の期間が必要ですから、当然、高い生産性は見込めません。つまり生産性の低い人材を高い賃金で雇わなければならないという状況が予想され、これは業績悪化の要因となります。販売数量が伸びたメーカーは利益増によりコストインフレを吸収できますが、それができなかったメーカーは業績悪化を免れないと思います。 Q.話をEVに限れば、2023年はどのようなことが予想されるでしょうか。 それが3つ目の注目ポイントです。アメリカやヨーロッパを中心にEVの新型車がたくさん発売されますから、世界的な景気後退の中でも、EV自体は快調に販売を伸ばしていくと思います。 EVは世界的な関心を集めているワードで、毎日のようにEVの動向がメディアで報道されているため、すさまじい勢いでEVシフトが進んでいるかのような錯覚に陥りそうになります。 しかし現状では、EVが一般ユーザーにまで浸透しているとはとても言えない状況です。アメリカでも日本でも、EVを購入しているのはごく一部の富裕層や高所得者に限られるため、本格的なEVシフトはまだ到来していません。富裕層や高所得者の所有車の一部がEVにシフトしているに過ぎなかったのです。 ところが、昨年9月を転換点として、テスラはEVの価格引下げに戦略を転換し、2023年1月には米国で9%~20%も小売り価格を引き下げる安売り攻勢に転じています。2023年はEVの低価格化の始まりとなるでしょう。一部の富裕層でない消費者がこの価格変動にどの様に反応するか、非常に強く注目しています。 伝統的な自動車メーカーはEV商品投入を積極化させていくのですが、低価格シフトがその出鼻をくじく格好となっており、EV収益性は際どく悪化し事業性そのものが崩壊するかもしれません。 日本メーカーはある意味この戦いの構図にはまだ参戦している状態ではありません。出遅れている日本メーカーが安全なところに立っていると考えるべきか、それとも戦う前から敗北していると考えるべきか、大きな論点となっていくでしょう。 (インタビュー:TET編集長 田中 誠司)

VOL.6
知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第6回:充電あっての電気自動車

普通充電と急速充電の違い 電気自動車(EV)について最大の懸念が、充電だろう。そこから一充電走行距離が多い少ないといった議論が盛んになる。 しかし、充電の本質を理解すれば、たいした懸念材料ではない。そもそも、充電に対する理解不足が世界的な混乱をもたらしている。 EVの充電には、普通充電と急速充電がある。 普通充電とは、100ボルトまたは200ボルト(V)の電圧で、時間をかけて駆動用バッテリー(現状ではリチウムイオン・バッテリーが主流)に充電する方法だ。コンセントなどから交流の電気を流し、車載の充電器で直流に変換してリチウムイオン・バッテリー(以下、LIB)に充電する。普通充電ではバッテリーの劣化も抑えられる。 急速充電は500~800Vの高電圧で一気に電気を流し、短時間にLIBに充電する方法である。急速充電器で交流から直流へあらかじめ変換しておき、EVのLIBへ直流電気で充電する。リチウムイオンに限らずバッテリーの電気は直流なので、一気に充電することができる。ただし、大電流を流すために安全の上で満充電にはしにくく、またLIBを劣化させやすくもある。 基礎充電あっての電気自動車 充電方式に普通充電と急速充電の2通りがある以外に、充電という行為そのものにも種類がある。ひとつが基礎充電だ。ほかには目的地充電と経路充電がある。 基礎充電では、自宅や事務所などで寝ていたり仕事をしていたりする間に、普通充電で時間をかけてじっくり充電して、満充電にする。これこそがEVの充電の基本だ。これなくして、EVを使いこなすことはできない。 また、基礎充電を行うことで、EVへの充電によって電力が逼迫するという問題を起こさずに済む。自宅で夜間に基礎充電すれば、そもそも電力使用量が減る時間帯なので、系統電力の逼迫など起こるはずもない。電力使用量が増える日中に急速充電で間に合わせようとするから電力逼迫が懸念され、世の中すべてがEVになったら原子力発電所を10基増設しなければならないといった勘違いが生じる。夜間に基礎充電すれば、電力会社に喜ばれこそすれ、困らせることはない。 ところが、国内ではマンションなど集合住宅の駐車場に、基礎充電用の200Vコンセントを設置できない状況が、初代リーフの発売により量産EVが実現してから13年も解決されずにきた。人々のEVへの理解不足によるかもしれないが、そのために、やむを得ず急速充電を増やさなければならない事態に陥ったのである。 自宅での基礎充電と外出先での目的地充電 基礎充電の次に普及しなければならないのが、普通充電による目的地充電だ。 目的地充電とは、宿泊施設や仕事場、食事処、買い物をする店など、出掛けた先の駐車場で充電することをいう。宿泊施設であれば、家と同じように寝ている間に普通充電で満充電にできる。仕事先であれば、仕事をしている間に満充電にできる。ただしこの場合は日中になってしまうが、日中の電力消費が最大になる時間帯を避けて充電管理することも不可能ではない。 食事処や買い物の店などでは、急速充電が適切ではないかと思うかもしれない。しかし、食事や買い物などでの滞在時間は1~2時間はあり、急速充電は30分で一度仕切り直しになるので、後続のEVがいれば待たせることになる。そこで食事や買い物を中断して充電の様子を確認しなければならない。スマートフォンで情報を得ることはできるが、それでも食事や会話に夢中になったり、買い物選びに集中したりしにくくなる。 目的地充電の普通充電では、もちろん満充電に足りないだろう。だが、そこから次の目的地まで移動する電力が確保できればよいのであって、次の訪問地でも目的地充電できれば、少しずつの充電を繰り返しながら帰宅できる。 基礎充電と目的地充電こそが、EVを最大に有効活用する充電方法だ。

VOL.7
「なぜテスラはうまくいったのか?」伝説の自動車アナリスト、中西孝樹教授に訊く:第7回

電気自動車の登場と普及は、国内外の政治・経済にどのような影響をもたらすのでしょうか。伝説の自動車アナリストとして知られる中西孝樹さんに、様々な疑問をぶつけます。EV界で最も注目を浴びるテスラの戦略に迫ります。 Q.「EV」と聞いて、真っ先にテスラを思い浮かべる人が多いと思います。実際、テスラは電動化や自動運転の技術で最先端を走っており、時価総額でトヨタを超えるなど高い評価を獲得しています。日本メーカーはEVの市場投入自体は早かったにもかかわらず、テスラに差をつけられました。なぜでしょうか。 答えは簡単です。テスラは「レガシー(遺産)」を持っていなかったからです。 日本メーカーは、ハイブリッド車やプラグイン・ハイブリッド車の技術で先行しています。これは技術蓄積の賜物で、世界中のあらゆる地域で高評価を獲得してきました。今もその評価に変化はなく世界中で人気を集めているため、EVシフトの重要性が認識され始めたからといって、ある日を境に「明日からハイブリッド車の取り扱いをやめます」というわけにはいきません。 「産業」という視点で見ると、日本の自動車産業は約550万人が従事する日本を支える一大基幹産業で、いきなりすべてのクルマをエンジン不要のEVに置き換えてしまうと、必然的に多くの部品が不要となり、部品サプライヤーにおいて100万人規模の雇用が失われる可能性があります。全車EV化が雇用に与える影響があまりにも大きいため、メーカーはそう簡単にレガシーを手放すことができません。 また、日本車メーカーに限りませんが、トヨタや日産、GM、フォルクスワーゲンなどほとんどのメーカーは、エンドユーザーへのクルマの販売を基本的には「販売店(ディーラー)」を通じて行なっています。日本車メーカーは、製造工程や工場、販売店を含むこれらの「膨大な資産(=遺産)」がかえって足かせ・負担となってしまい、自由な動きが取りにくくなっているわけです。 一方で、テスラはどうでしょうか。 テスラはディーラーを持たず、EVをすべて「直販方式」で販売しています。しかも開発車種をEVのみに絞り込んでおり、過去の遺産を持たず一つのパワートレインだけを開発すれば良かったため、技術的に先行することができました。もしテスラのような新興メーカーが内燃機関やハイブリッドをゼロから開発して市場参入を企てたとすると、とてつもない労力と資金が必要になったはずです。 一方のEVの場合、バッテリーやモーターなどは専門サプライヤーから供給を受ければいいため、駆動系統の技術はコモディティ化します。だからテスラは、販売店にもサプライヤーにも気を遣う必要がなく、ゼロベースからクルマを設計することができました。しかも「ギガプレス」といって、ボディとシャシーを一体成型する画期的な技術を導入し、世界を驚かせるイノベーションを起こし続けています。 従来の自動車部品のサプライチェーンは、さまざまな場所で100個以上の部品を製造し、品質管理を経て組立工場に輸送していました。ギガプレスを使えば、1つの場所、1つの作業で完成できるため、シャシーの製造コストは大幅に低下します。EV一点勝負ですから、投資効率もすこぶる高い。このように、レガシーに縛られた自動車メーカーと根本的な思想が異なっていたことから、テスラは新しい取り組みをどんどん進めることができ、レガシーメーカーより先行できたのです。 Q.ではテスラは今後も順風満帆と言えるのでしょうか。それともどこかで落とし穴が待ち受けているのでしょうか。 今は販売台数がそれほど多くないため、足を引っ張るような重大な問題は出現していません。しかし販売台数が順調に伸び、200万台、300万台、500万台~と拡大していったときに、何かしらの問題に直面する可能性は考えられます。 具体的には、メンテナンスの問題ですね。流通台数が増えるにしたがって、例えば、予期せぬ不具合が発生して「大量リコール」を余儀なくされる事態も想定されます。簡単なメンテナンスで解決できないような問題だった場合、「全車回収」というケースもあり得るかもしれません。そうなった場合、テスラは顧客の信頼を失い危機に瀕してしまう可能性があります。 テスラは、これまで幾度も経営危機に瀕してきました。今は好調に見えるテスラも決して盤石ではありませんから、トヨタをはじめとするレガシーメーカーも「テスラには敵わない」「テスラに追いつけない」と悲観したり焦りを感じたりする必要はありません。レガシーメーカーにもレガシーメーカーなりの戦い方があるはずです。 これまでのハードウェア開発で蓄積された素晴らしい技術はEV時代には「レガシー:弱み」となりますが、未来のクルマにおいてはソフトウェアが担う役割が拡大していきます。実際、クルマの付加価値に占めるソフトウェアの比率は増加の一途を辿っており、2030年にはクルマのコストの約半分をソフトウェアが占めるようになるという試算もあります。今後のクルマの価値を決定するようになると見込まれるソフトウェアをハードウェアとうまく連携させることにより、レガシーを強みに転換できるような新しい戦略を編み出していくことがレガシーメーカーには求められています。 (インタビュー:TET編集長 田中 誠司) <つづく>

VOL.
マルチタイプ急速充電器は運まかせ [ID.4をチャージせよ!:その9]

休日の充電渋滞解消の救世主になるのか!? 現在、増殖中のマルチタイプ急速充電器でID.4を充電してみました。 マルチタイプ急速充電器が常磐道にも 先日、「高速道路初、新東名のSAで150kW級急速充電器が運用開始」というニュースで、高速道路のサービスエリア/パーキングエリアとして初めて、1口最大150kW級の急速充電器が運用を開始したという情報がありました。 150kW器での充電は未体験なだけに、次に新東名を利用するときにはぜひとも使ってみたいと思っていますが、この情報とともに興味を持ったのが、浜松サービスエリアの上り/下りに6口、駿河湾沼津サービスエリアの下りに4口のマルチタイプ急速充電器が設置されたことです。 このマルチタイプ急速充電器は、すでに首都高速道路の大黒パーキングエリアで運用されており、1口の最大出力は90kW、同時に利用する場合には総出力が200kW以下になるようコントロールされるという特徴があります。 私がよく利用する常磐道にも、友部サービスエリアの上りに6口、下りに4口のマルチタイプ急速充電器が設置されました。そこでさっそく、友部サービスエリア下りで、できたてほやほやの急速充電器を利用してみました。

VOL.6
「アジアはEVシフトに積極的? 消極的?」伝説の自動車アナリスト、中西孝樹教授に訊く:第6回

電気自動車の登場と普及は、国内外の政治・経済にどのような影響をもたらすのでしょうか。伝説の自動車アナリストとして知られる中西孝樹さんに、様々な疑問をぶつけます。今回、観察するのは日中以外のアジア市場です。 Q.中国はEVシフトに積極的ですが、それ以外のアジアの国々は、EVに対してどのようなスタンスをとっているのでしょうか。 ざっくり言いますと、どの国も新車の3割程度はEV化したいという意向を持っているようです。ただ以前もお伝えしたとおり、アジアの国々は再生可能エネルギーも原子力も持っていません。急激にEV化を推し進めると自分たちの首を絞める結果につながる可能性もあるため、慎重姿勢をとっています。その意味では、日本と同じようなスタンスの国が多いと言えるでしょう。アジアの中でEV志向が最も強いのはインドネシアで、タイ、ヴェトナム、インドが続きます。 ハイブリッド車を輸出したい日本車メーカーにとってアジア諸国は心強い存在と言えるかもしれませんが、アジアの国々の中にも「このまま日本と同じ戦略を取っていると、日本とともに沈没してしまうのではないか」と危惧している国も少なくなく、彼らが日本にとって好ましいスタンスをこのままとり続けてくれるかどうかは未知数であり、日本も油断はできません。 例えば、2013年にインド政府は「National Electric Mobility Mission Plan 2020」という戦略を発表しました。そこではEVシフトの必要性が言及されており、2020年までにCO₂排出量を1.3〜1.5%削減する目標を掲げていました。その3年後の2016年には、インド国内の移動手段を2030年までにすべて電動化するという大胆な目標を発表し、世界に衝撃を与えています。たいへん野心的な目標でしたが、インドはこの目標、すなわち2030年までの完全EV化を諦め、目標を30%に下方修正するなど現実路線をとるようになりました。インドの例からわかるのは、アジアの中にも本音では全車EV化したいと思っている国が存在するということです。状況が変われば、一気に100%EV化に方針転換する国が現れたとしても不思議ではありません。 Q.アジアの国々も欧米の動向は無視できないでしょうから、方針転換してEVシフトを急激に進めてくる可能性は考えられますよね。日本車が生き残るにはどうすればいいのでしょうか。 日本は欧米のようにルールメイキングできる国ではないにもかかわらず、世界の自動車マーケットで3割のシェアを獲得するまでの国になりました。なぜそれが可能だったかというと、消費者に「選ばれてきた」からです。欧米のようにルールメイキングで主導権を取ろうとすることを「デジューレスタンダード(公的機関によって定めた標準化)」と呼びますが、日本車は企業間の競争によって、業界の標準として認められる「ディファクトスタンダード」を勝ち取ってきた」のです。ガソリン車やハイブリッド車においては、信頼性や燃費性に優れる日本車がディファクトスタンダードになりました。EVにおいても「ユーザーから選ばれる」ことによって、ディファクトスタンダードを目指すしかありません。 アメリカやヨーロッパの顔色を伺いながら、そして中国の顔色も伺いながら、さらに世界の動向を見極めながら、高品質な製品を売っていく、選ばれていくということを実現していくしか日本メーカーが生き残る手段はありません。現状では不利な戦いを余儀なくされていますが、それをどうやって「勝ち戦」に変えていくのか、自動車メーカーの努力はもちろんのこと、政府の後押しやサポートも重要になってくると思います。 (インタビュー:TET編集長 田中 誠司) <つづく>

VOL.7
岡崎宏司の「EVは楽しい!」第7回:EV選びも楽しい! e-208GTになったのは その2

プジョーe-208GTを選んだ過程には、愛車となるイメージ作りがあったよう。絞り込まれた3車種、そして心を決めたのは奥様のひと言。EV選びの楽しさを綴ります。 眺めては乗り、比べてはどれも良くて わが家のEV探しが、フランス生まれの3車に絞られたことは前回話した。DSブランドが1車、プジョー・ブランドが2車。いずれもBセグメントのコンパクトモデルだ。 すでに話した通り、家内も僕もフランス車が好き。だから、プジョー208、2008、DS3クロスバックにEVモデルが加わった時は、「やったね!!」みたいな感じで、思わず手を打った。 とりあえずは3車を借り出して眺めまわし、そして試乗したのだが、どれもいい。ルックスにしても、乗り味にしても、走り味にしても……家内共々「いいね!」でまとまった。 DS3は、カッコが良いから…… 3車とも、ひと目見てユニークであり、フランス車ならではの才気をもタップリ感じさせられた。……が、DS3クロスバック E-TENSEにはひとつだけ引っかかるところがあった。 それは、「カッコよすぎ!」、「カッコ付けすぎ!」……どちらの表現が妥当なのかはわからないが、デザイン面での過剰感を感じたのだ。 DSの氏素性を考えれば「それでこそDS!」といったことになるのかもしれない。でも、「僕に馴染むのか?」「僕に着こなせるのか?」といった「?」が頭を過った。 家内も同じ。「コンパクト系ではもったいないくらい上質だし、デザインも斬新だけど……大丈夫かな……」と不安そうだった。 そう……高齢になって、とにかく「日々を気軽に楽しく過ごしたい」と思っているわれわれには、ちょっと「気の抜けないクルマ」に感じられたのだ。 もちろん、なりふり構わず乗りまわせる…といったことではない。でも、DS3クロスバック E-TENSEには、「日々のちょっとした外出での装いにも気を遣わされる……」、といった印象を抱いたのである。 そんなことで、最初に、DS3クロスバック E-TENSEは候補から外れた。

VOL.5
「日本車メーカーの『二正面作戦』は正しい?」伝説の自動車アナリスト、中西孝樹教授に訊く:第5回

EVの登場と普及は、国内外の政治・経済にどのような影響をもたらすのでしょうか。伝説の自動車アナリストとして知られる中西孝樹さんに、様々な疑問をぶつけます。メーカーによって異なるアプローチについて分析します。 Q.日本車メーカーの中には、トヨタの「全方位戦略」、マツダの「マルチソリューション戦略」など、EVに全振りせず、ハイブリッド車を残す「どっちつかず」とも取れる戦略をとろうとしているメーカーがいます。どの技術が将来のトレンドになるかが不透明なため、保険をかけたくなる気持ちはわかりますが、日本車メーカーのこの「二正面作戦」とも言える戦略は正しいのでしょうか。 結論から言いますと、正しいかどうかは関係なく、日本メーカーは「そうする以外に選択肢がない」のが実情です。 EVシフトといっても、これを強力に推し進めようとしているのは、あくまでもヨーロッパやアメリカなどです。そこに中国も加わろうとしていますが、いずれにしろ先進国に限っては、「EV化」の流れを止めることは難しいかもしれません ただ、世界は先進国だけで構成されているわけではありません。東南アジアにインド、中近東、南米、アフリカもあります。これらの地域はエネルギー事情が厳しく、再生可能エネルギーも原子力も持っていません。要するに、エネルギー資源的には日本に似た条件なのです。しかも経済発展が遅れているため、新たな発電インフラを整備する資金的余裕もありません。 これまで日本メーカーは、基本的にはアメリカをメインマーケットとして成長してきました。その戦略は正しく、これからも日本はアメリカ市場でクルマを売っていくことを基本戦略に据える必要があります。そのため欧米の意向や動向にアジャストし、EVの技術開発を積極的に進めていかなければなりません。 しかし世界は一枚岩ではありませんから、欧米の動向をウォッチしつつ、ハイブリッド車の需要が旺盛な新興国に対応するための技術戦略もとらなければなりません。すなわち、日本は「二正面作戦」をとらざるを得ないのです。確かに「どっちつかず」の態度かもしれませんが、日本には日本の生き方、戦い方があると私は思っています。 Q.国会議員の猪瀬直樹氏や小泉進次郎氏は、日本車はすべてEV化すべきという趣旨の発言をされています。ジャーナリストの中にも、同様の意見を持つ人が散見されます。 EVに関するメディアやジャーナリストの議論の中身を見てみますと、「EVか否か」という二者択一の議論に終始しているように感じます。それは間違いです。どちらか一方を選ぶのではなく、EVと内燃機関車の両方の競争力を確立させるという、日本はそういう運命を背負った国であると理解すべきだと思います。そう言うと、全方位やマルチソリューション戦略を掲げていれば上手くいくように感じますが、そうではありません。二重投資の負担を背負った日本メーカーは極めて効率を犠牲にしながら世界の自動車メーカーとの競争を勝ち抜かねばならないわけで、険しい道を進まなければならないということです。現時点で、先進国のEVシフトが急速に伸びているのに対し、トヨタを始め日本メーカーのEV戦略が大幅に出遅れているため、先進国市場での競争力維持に黄色信号が灯っています。全方位やマルチソリューションだからEVを手抜かりして良いという意味ではなく、EVでの競争力を確立して初めて、マルチソリューション戦略は成立するのです。 欧米が敷いたレールの上をそのまま歩いていっても、現状では日本車が勝てる要素は少ないと思います。日本メーカーが生き残るためには、欧米とは異なる競争力を維持していくことが大切で、日本の強みが残る領域の選択肢を残しておくことが欠かせません。 日本のハイブリッド車の「省炭素」性能はすこぶる高く、「省炭素」の分野では世界の超優等生です。もしEVに全振りしてしまうと、電力調達の問題に突き当たります。日本には再生可能エネルギーインフラが少なく「グリーンエネルギー」が手に入りにくいため、EV化を推進するとかえってCO₂排出量を増やしてしまうことになるからです。 そのため日本には、再生可能エネルギーの割合を少しずつ高めていくなどエネルギーミックスを転換させながら、徐々にEV化を進めていくしか手がありません。同時に、グリーン水素から合成される合成燃料や藻類から合成する次世代ディーゼルといったカーボンニュートラル燃料を動力源とするエンジンの可能性を追求していくことです。もしかすると日本は、世界の中で最後まで内燃機関車が残る稀有な国になるかもしれません。一種の「ガラパゴス」状態が出現する可能性がありますが、それを受け入れ、欧米とは一線を画した独自路線をひた走ることが日本には求められています。 (インタビュー:TET編集長 田中 誠司) <つづく>

VOL.4
「電気自動車(EV)を売らなければ、日本車はいずれ絶滅?」伝説の自動車アナリスト、中西孝樹教授に訊く:第4回

EVの登場と普及は、国内外の政治・経済にどのような影響をもたらすのでしょうか。伝説の自動車アナリストとして知られる中西孝樹さんに、様々な疑問をぶつけます。これまでハイブリッド車に依存してきた日本メーカーが今後とるべき施策とは。 Q.日本車メーカーが今後とるべき方針について、国内では「EV推進派」と「EV否定派」とで意見が分かれているようです。「日本車は全車EV化すべき」という意見と「EV化は必要ない」という意見のどちらが正しいのでしょうか。 日本車メーカーに限った話ではありませんが、EV化を進めなければそのメーカーはいずれ世界でクルマを売ることができなくなってしまいます。関連する世界の動きをいくつかご紹介しましょう。 2022年8月に、アメリカのカリフォルニア州は州内で販売される新車の100%を、2035年までにCO₂を排出しないEVか全体の20%を上限としたプラグインハイブリッド車にすることを義務づける新たなZEV規制(大気汚染対策として導入された規制。自動車メーカーが州内で自動車を販売する場合、EVや燃料電池車など排出ガスを出さない無公害車を一定比率以上販売することを義務付ける制度)を承認し、他州もこの規制に追随する可能性があると言われています。仮に目標が達成できない場合は、1台につき2万ドルの罰金を科すようです。 EUの欧州委員会は、クルマのCO₂排出量を2030年までに現在のレベルから55%削減し、2035年までに100%削減することを決めました。これにより、EU加盟27か国では、EV以外のクルマを販売することが事実上不可能となり、自動車メーカーはEUからの罰金を回避するために、EVのラインナップを劇的に拡充させることが求められています。イギリスに限っては、2030年までにEV以外の販売を禁止する計画です。 世界最大のCO₂排出国である中国も、2035年を目途に新車販売のすべてを環境対応車にする方針を表明していて、50%をEVを中心とする新エネルギー車とし、残りの50%を占めるガソリン車はすべてハイブリッド車にするとしています。 最も厳しい欧州当局の規制に対応するとすれば、解決策はEV以外にありません。対策が間に合わなければ高額の罰金が科されるため企業としての存続が難しくなり、そのメーカーは倒産することになるでしょう。好むと好まざるとに関わらずEVを売っていかなければ企業の存続が危うくなるという焦燥感が、現在、世界中の自動車メーカーがEVに取り組む大きなモチベーションになっています。 よって「EV化すべきか否か」という二者択一の議論にあまり意味はありません。長期的な観点で見れば、EV化を進めなければ、そう遠くない将来にそのメーカーは潰れることになるはずです。日本車メーカーも条件は同じです。ただし、日本車はEVだけでなくその他のパワートレインを日本と様々な地域に向けて販売していこうとする「全方位」あるいは「マルチソリューション」の戦略を掲げています。マルチソリューションだからEVを手抜かりして良いという意味ではなく、EVでの競争力を維持して初めてマルチソリューション戦略の強みが発揮できると考えるべきです。 (インタビュー:TET編集長 田中 誠司) <つづく>

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