インドライブ・ブレーキの開発で環境保全に貢献 いまや環境保全は、地球規模での大きな社会問題となっている。こうした意味では、走行によって二酸化炭素を排出する内燃機関使用の自動車は、ほかにも環境汚染に関していくつかの問題を抱えている。ブレーキパッドをローターに圧着して制動力を得るブレーキシステムもそのひとつだ。 強い力で回転するブレーキローターにパッドを圧着し、その摩擦力で制動効果を得るブレーキシステム(ディスクブレーキ)は、ローターに圧着するパッドが削られ細かな粒子となって大気中に放散されている。これが環境汚染の要因となるわけだが、ブレーキダストを放散しない、逆にいえばブレーキパッドの長寿化、交換頻度の極めて低いブレーキシステムを実現すれば、やはり環境保全に貢献することになる。こうした発想で、いわゆるメンテナンスフリーのブレーキシステムをメルセデス・ベンツが発表した。 とりあえず、メカニズムに詳しい方に対して簡潔な説明をしておこう。このシステムは、ブレーキをインボード化しローターとパッド(キャリパー)を完全に覆ってしまう構造だ。ブレーキシステムを完全に密閉し、ブレーキダストが大気中に放散されないようにしたもので、EVが制動に関してメカニカルブレーキに対する依存度が低いことに着目した方式となっている。 では、メカニズムはそれほど詳しくない、という方に対して詳しく説明しよう。通常、自動車のブレーキは、ホイール/タイヤの裏側に設けられ、現在はほとんどの車両がディスクブレーキ(廉価モデルの非駆動輪では一部ドラムブレーキあり)を採用しているが、このディスクブレーキ、ホイール/タイヤと一体に装着された円盤(ブレーキローター)にブレーキパッド(摩擦材)を圧着して制動力を得る仕組みとなっている。しかし、この圧着圧力によってパッドが細かく削られ、それがゴミ(ブレーキダスト)として大気中に放散され、いわゆる環境汚染となっている。 これを防ぐ有効な手立てはないものか、という視点から開発されたEVのブレーキシステムが、メルセデス・ベンツの「インドライブ」機構だ。基本的な考え方はいたってシンプル。ブレーキダストを大気中に放散しなければよいというもので、やむなく発生したブレーキダストは大気中に放散しないで1カ所に溜め置き、長期間の溜め置きに耐えられるよう、ブレーキダストの発生量は極力少ないものにする、という考え方だ。 ポイントは、ホイール/タイヤと一体で装着される通常のブレーキ構造(アウトボード・マウント)では、ブレーキダストが放散しない密封構造とするのはむずかしく、インボードマウントのブレーキ方式に着目した。もちろん、アウトボードマウントのドラムブレーキという選択肢もあり、実際にVWやアウディで採用するモデルもあるが、インボードブレーキにはほかにもメリットがあるということで、メルセデス・ベンツは「インドライブ・ブレーキ」システムを開発した。