コラム 記事一覧

コラム コラム
TEXT:御堀直嗣
EVならカタログ数値超えの電費も夢じゃない……のにみんな出せないのはなぜ? 大切なのはエンジン車の乗り方を捨てたEV特有の操作だった

カタログ表記の電費と実走行の電費には差がある 電気自動車(EV)であるか、エンジン車やハイブリッド車(HV)などであるかを問わず、諸元表に記された電費(または燃費)が、実走行での数字と異なることはめずらしくない。 理由のひとつは、諸元表に記されるモード測定では空調を使わないからだ。これは、乗用車では極めてまれであるはずだが、空調を装備しないクルマがあった場合に、それでもすべての車両が同じ基準で性能を比較できるようにするための措置である。 空調を利用すれば、電費(または燃費)が悪化することは誰もが経験しているのではないか。そして、春や秋など、必ずしも空調を必要としない季節に運転すると、冬や夏に比べ電費が向上することも体験済みだろう。とはいえ、車内温度を自動的に調整するオートエアコンディショナーの装備が普及するに従い、空調のスイッチを入れっぱなしにして走る人もまた多いのではないか。 そうなると、諸元表に記載された電費を超えることはなおさら期待しにくくなる。 しかし、私の実体験からすると、EVでは諸元値を超えることも不可能ではないといえる。私が乗るサクラの場合、電費に相当する交流電力消費率のWLTCモード値(諸元表の値)は、124Wh/kmとある。これを1kWhあたり何km走れるかに換算すると、8.064km/kWhになる。そしてこの表記が、メーター上に表示される。 しかし、実電費で9km/kWhを比較的容易に出せるし、過去3年間使ってきた実績からすれば、10km/kWhを下まわらない状況だ。これを諸元表記になおすと、100Wh/kmとなり、1km走るのに必要な電力が20%近く改善されることになる。その分、一充電走行距離も当然延ばせる。 ただし、それにはEVの特徴を活かした運転の仕方が必要だ。 まず、モーターはエンジンに比べ低速トルクが格段に大きく、しかもそのトルク値は、ガソリンのターボエンジン車に匹敵するほどだ。そこで、走行モードの選択肢があるEVなら、エコモードでも十分な加速が得られるはずだ。 次に、回生を最大に利用するため、サクラの場合はe-Pedal(イー・ペダル)のスイッチを入れるのはもちろん、シフトレバーをDではなくBに入れて運転する。ただし、高速道路では、回生が効き過ぎないようDレンジに切り替える。 サクラは、アクセルのワンペダル運転で停止までできないけれども、上記の設定で運転すれば、停止以外はほぼアクセル操作だけで走れる。こうして走ると、夏冬を問わず10km/kWhの電費はもちろん、空調を使わない季節には12km/kWhも視野に入ってくる。

TAG: #カタログ #スペック #航続距離
東京大学柏キャンパスに設置されている小野測器の1軸型台上試験装置(筆者撮影)
TEXT:山本晋也
高度な電動車になればなるほど高精度な計測器が不可欠! 東大と小野測器が研究開発する台上試験装置の万能っぷり

電動車の走行を緻密に制御するなら台上試験装は欠かせない 東京大学と小野測器による社会連携講座の研究成果が発表された。 音や振動に関する計測器で知られる小野測器は、近年ではRC-S(リアルカーシミュレーションシステム)など実車の台上試験装置にも力を入れている。この試験装置は、ホイールに直接トルクを入力することで路面状況などを再現できるというもの。テストコースに持ち込むことなく、リアルな挙動を確認できるというのがセールスポイントだ。 東京大学との社会連携講座は第一期(2022年10月~2026年3月)が進行中。このRC-Sを活用して、電動車における駆動用モーターの振動抑制制御についての研究が行われている。今回発表された成果は、EV、PHEV、HEVまですべての電動車に有効と思える内容だった。さっそく、その情報を共有していきたい。 小野測器と連携しているのは、東京大学大学院新領域創成科学研究科の藤本研究室。リーダーである藤本博志教授は、EV業界では高名な人物で、インホイールモーターの電気駆動を挙動制御に活かす研究など、藤本教授の名前を目にすることは多い。 今回の社会連携講座では、「モーターの高応答性を活かし、車両構造に依存せず、乗り心地を考慮した低振動・低騒音な制御」が研究目的となっていると藤本教授は説明する。 内燃機関の応答性に対して、モーターは圧倒的に高応答だ。いわゆるトラクションコントロールのような出力制御を行うときも、モーターであればエンジンには不可能なレベルで、素早く正確に制御することができる。しかし、そうした制御はコンピュータ内のシミュレーションで十分にできそうなものだが、なぜRC-Sのような実車を使う台上試験装置が必要なのだろうか。 電動車両といっても量産されているモデルでは、ひとつのモーターで左右のタイヤを駆動するオンボードモーター・レイアウトが主流となっている。こうしたメカニズムでは、駆動系だけでもモーターを固定するゴムマウントやドライブシャフトのねじれ、デファレンシャルギヤのバックラッシュ(歯車の隙間)といった風に複雑な要因が絡み合い、それによって振動などの挙動が発生する。 多くの自動車メーカーでは、モデルベース開発といって、コンピュータシミュレーションによって設計を行い、制御による不具合を検証する開発スタイルが取られている。それでも前述した複雑な要因については実車において発覚することもあるという。 そこでRC-Sの出番というわけだ。

TAG: #台上試験機 #実証実験
TEXT:桃田健史
中国でバカ売れの「N7」は日産の救世主となるか? 日本メーカーが苦しむ中国市場で人気車を生み出せたワケ

中国市場で売れる日本のEVは? 中国市場はもう、日本メーカーにとって手が付けられない存在なのか? あれよあれよという間に世界最大の自動車生産および消費国となった中国。 中国の本格的な経済成長が始まったのは2000年代に入ってからだ。当時は、BRICs (ブリックス)と呼ばれ、ブラジル、ロシア、インド、中国、さらには南アフリカなどが経済新興国の最前線だといわれた。 そうしたなか、筆者も2000年代に入ってから中国現地で取材する機会が1990年代に比べると一気に増えた。EVについては、2000年代後半に中国政府がバスやタクシーなど公共交通機関向けで普及を進めたことをきっかけに、2010年代には新エネルギー車(NEV)政策を乗用車向けに強化していったという社会の流れがある。 NEVの切り札であるEVは、中国地場メーカーが独自開発したり、また日本、欧州、韓国などとの中国地場メーカーの共同出資会社が中国市場向けEVの研究開発を進めていった。これを合わせて、自動車メーカーには製造の設備投資に関する補助金を、またユーザーには購入補助金を拡充したことが奏功し、中国でのEV普及率は上昇。2024年実績ではNEVのシェアが約25%に達している。 こうした中国EV市場拡大において、日本メーカーを苦しめたのが中国メーカーによる価格破壊だ。日系メーカーとしては、EVのグローバル展開を睨みつつ、中国市場での価格の適正化を実現してきたのだが、シェア拡大を第一とする中国メーカー勢が仕掛けた低価格戦略に日本メーカーは太刀打ちできず、ガソリン車やハイブリッド車を含めて販売実績を大きく落としてしまった。 そうしたなかで近年、販売好調なのが日産の「N7」だ。特徴は中国主導で企画開発したこと。日産は、中国事業を展開する上で、中国地場大手の東風汽車と連携してきた。トヨタやホンダが中国地場大手2社と連携して、ある意味でリスク分散するなかで、日産は一極集中の戦術を進めた。 ここ数年のNEV市場の拡大と、乗用車全体の価格破壊が起こるなかで、日系メーカーとしてはグローバル全体で見て中国市場への依存度が高かった日産の業績は大きく低下した。そんな苦悩のなかで考案されたのが「N7」である。 中国のユーザーと販売店がEVに求める価格、動力性能、充電性能、車内エンターテインメントなどを的確に踏まえて商品化した結果、N7は日産における新たな成功事例となっている。現時点で、N7の日本導入予定はない。

TAG: #中国 #日本車
TEXT:トラック魂編集部
飲料業界の大手4社が「呉越同トラック」!? 自動運転を使った共同配送に取り組んでいた!

業界全体の課題に合同で立ち向かう 各所で、自動運転の実証実験が盛んに行われている。諸外国では乗用車が対象になっているところもあるようだが、わが国ではトラックやバスであることが多いようだ。ひと口に「自動運転」といっても、じつは5つの段階にわけられている。 公道で行われているものは、概ね「レベル2」。その内容は、ドライバーが監視するなかで、ハンドルとアクセル&ブレーキを自動操作するが、必要に応じていつでもドライバーに交代できる状況で走行するといったものだ。公道実験の多くは「レベル4」を目指しており、これはドライバーを置かずに特定条件下でシステムがすべて運転を担うことになる。 今回発表されたのは、飲料メーカー4社が自動運転システムの開発を手掛ける「T2」と組み、関東と関西の間の配送を自動運転レベル2で共同配送するというもの。飲料4社とは、キリンホールディングス・アサヒグループホールディングス・サッポロホールディングス・サントリーホールディングス。いわば、ゴリゴリのライバル同士が手を組んだということである。 傍から見ればありえない取り合わせかもしれないが、経営的に見ればなしとはいえない。まず、ベースとして飲料業界はライバル意識は強いものの、業界団体を通じて交流が深い。昭和の高度成長期とは違い、ライバルとは競っても潰し合うものではなく、互いに切磋琢磨することで業界全体の活性化を図りたいと考えているのだ。 加えて、商品の共通性だ。飲料はそのパッケージが似通っていることから、荷姿がほぼ同じになるために混載には向いている。温度管理などの商品管理状況もほぼ同じだから、荷室に商品管理区分などを設ける必要がない。各社の工場が関東・関西圏に集中しており、輸送ルートが組みやすいということもある。また、輸送効率が向上することでコストが下がるというメリットも大きい。 もちろん、直接的なきっかけとなったのは近年問題視されている「物流の危機」であろう。トラックドライバーの残業に上限規制がかかるなどするなかで、ドライバーの高齢化や新規就業者が少ないという状況が続き、各社ともその確保が難しくなってきているのだ。飲料は四季を通じて需要があるものの、とくに夏場は極端に配送量が多くなる。輸送の効率化は、飲料業界全体が抱える共通の課題なのだ。 共同配送の発想はバブル経済期から、小売業を中心とした各業界団体で検討されていた。しかし、まだ「ライバルを潰せ」という風潮が残っていたこともあって、競合を利するシステムは好まれなかったのである。加えて、景気がよかったためにコストをかけても大きな利益が得られていたことが、面倒な共同配送といった考え方に繋がらなかったのだと考えられよう。 すでに共同配送はコンビニなどでもその例がみられるようになり、今後はメーカー・小売事業者がライバルの垣根を越えて、自社配送に頼らない運送体系を構築していくだろう。また、自動運転についてもトラックドライバーを必要としない「レベル4」だけではなく、複数のトラックが連なって走行する「隊列走行(隊列を組む車両が走行状況を通信によりリアルタイムで共有し、自動で車間距離を保って走行する技術)」などが実現されることで、トラックドライバー不足の解消にもつながっていく。 今後の展開に、経済界全体の期待が集まっている。

TAG: #トラック #物流業界 #自動運転
TEXT:高橋 優
「スゲーEVっていうけど中国の話でしょ?」と思ったら日本導入も十分ある! 「Zeekr001」のコスパと性能が恐ろしすぎる

怒涛のスペックをもつZeekrの最新モデル Zeekrが001の2026年モデルの正式発売をスタートしました。トピックは、充電時間6分30秒という地球上最速を謳う、前代未聞のEV性能をはじめとして、装備内容も全面刷新。日本国内にも進出するZeekrの最新動向を解説します。 まずZeekr 001は全長4997mm、全幅1999mm、全高1545mm、ホイールベース3005mmの中大型ステーションワゴンです。ステーションワゴンの需要が高い欧州市場でも発売されています。そして2026年モデルでは800Vから900Vシステムにアップグレードされながら、搭載モーターを変更することで、最高出力680kWへと向上。0-100km/h加速も2.83秒、最高速も280km/hへと向上しています。 また、最新のサーマルマネージメントシステムの導入、車重の軽量化によって電費性能が向上しており、CLTC基準の航続距離も最長810kmを確保している点も見逃せません。 そして、EV性能に関する最大の目玉となるアップデートが、充電性能の大幅改良でしょう。まず103kWhのCATL製Qilinバッテリー搭載グレードは6C急速充電に対応させることで、SOC10-80%まで10分で充電を完了させることが可能です。 さらに、95kWhのジーリー独自内製のAegis Goldenバッテリー搭載グレードの場合、12Cという充電レートに対応させることで、SOC10-80%まで7分で充電を完了させることが可能となりました。Zeekrは充電テストの実測値を公開しており、最大1321.2kWという充電出力を発揮しながら、SOC50%の段階でも630kW程度の充電出力を維持。SOC80%の段階でも431.2kWという充電出力を維持し、SOC99.4%の段階でも90kWという高出力にも対応。よってSOC10-80%の実測値は6分30秒、SOC10-100%も13分23秒を達成し、地球上最速級の充電スピードを有する量産EVとなったのです。 ちなみにこのグラフは、95kWh搭載グレードのZeekr 001をはじめとして、充電出力と充電残量との相関関係を示したものです。充電スピードに定評のある競合と比較しても明らかに優れている様子が見て取れます。ちなみにピンクで示されているのがテスラ・モデルS、紫で示されているのが日産アリアB9の充電カーブです。こう見ると、日産アリアはZeekr 001のピーク出力の10分の1以下であり、中国市場における急速充電体験が別次元にある様子を容易にイメージできるはずです。 ※Zeekrはすでに1300kW級の充電出力を発揮可能なV4スーパーチャージャーを中国全土に建設中。インフラ側の整備もEVメーカーの差別化ポイントとしてアピールされている。

TAG: #ステーションワゴン #中国 #新車
TEXT:御堀直嗣
EVが注目され始めたころに出てきた「レンジエクステンダー」! その後全然登場しないけどどうなった?

バッテリー容量を抑えつつ航続距離を稼ぐ レンジエクステンダーとは、EVに発電用のエンジンを搭載し、車載のリチウムイオンバッテリーの充電が切れたらエンジンを始動して発電を始め、その電気で走行し続けることのできる仕組みを指す。 似たような仕組みにPHEVがある。こちらも、日常的にはEVと同じように車載バッテリーに充電した電気で走り、充電が切れたらHEVとして走り続けられる。 レンジエクステンダーとPHEVの違いは、車載バッテリー量によるのではないか。レンジエクステンダーは、基本的にはEVだ。PHEVは、EVのようにモーター走行できるのは日常の走行範囲で、一般的にはレンジエクステンダーに比べて車載バッテリー容量は少ないと考えられる。まさにHEVの延長といえる、HEVにモーター走行の魅力を継ぎ足したクルマだ。 たとえば、トヨタのPHEVは、基本的にHEVの駆動システムを活用し、バッテリー容量をHEVより増やしてモーター走行領域を増大させている。HEVという基幹システムがあるので、それに継ぎ足すかたちでバッテリー容量を増やせば作ることができる。もちろん、充電システムの追加も必要ではある。 レンジエクステンダーは、EVの選択肢のひとつと考えられる。たとえば、かつてBMWがi3を販売した際は、EVとレンジエクステンダーの2車種を設定した。i3は、もともと「メガシティヴィークル」の構想から生まれたEVで、大都市内で日々使われるクルマの位置づけであった。 このため、当初の車載バッテリー容量は22kWh(のちに33kWh)であった。これは、日産自動車の初代リーフ(24kWh)に近い。もし長距離移動しようとすると充電電力量が足りず、その対処として650ccの発電用2気筒エンジンを搭載し、レンジエクステンダーとした。 ことに欧州では、日本に比べ移動距離が長い事例が日常的だ。レンジエクステンダーの意義は、バッテリー車載容量を多くしすぎず、航続距離を増加させることにある。

TAG: #PHEV #レンジエクステンダー #発電用エンジン
TEXT:桃田健史
テスラはOKでもアフィーラは「ネット直販NG」ってどういうこと? ソニーホンダがカリフォルニアで訴えられたウラ事情

自動車メーカーの直販が州法違反となるカルフォルニア ソニーとホンダが共同出資するソニー・ホンダモビリティ。量産車第一弾となる「アフィーラ」が米CES(コンシューマ・エレクトロニクス・ショー)でお披露目され、日本では都内で実車が公開されるなど、日本を代表するふたつの企業が送り出す次世代EVとして期待が高まっている。 そうしたなか、北米で本格的に発売するにあたり、ソニーホンダモビリティが課題に直面している。今年8月、カリフォルニア州新車ディーラー協会から州法違反であるとして提訴されたのだ。 訴状の詳細は省略して大まかにいえば、自動車メーカーによるオンライン販売(直販)が州法違反であるということだ。オンライン販売によるメーカー直販については、テスラが採用しているが、テスラの場合はそもそも直営の実店舗が少ないため大きな課題となっていない。 一方、既存の新車販売店(ディーラー運営会社)にとっては、全米各州毎に自動車販売に関する州法が定められており、それに従った経営を行っている。 周知のことだと思うが、改めて説明すると、自動車メーカーの定款(ていかん)は自動車の製造及び卸売りが基本である。卸売りをする相手が、新車販売店(ディーラー運営会社)。新車販売店(ディーラー運営会社)には大きくふたつの種類があり、ひとつは自動車メーカーが資本参加するケース(いわゆる直接資本『直資(ちょくし)』)で、もうひとつが地場(じば)資本の独立系だ。 日本の場合、直資が多いメーカーがある。たとえば、マツダやスバル。一方で、トヨタは東京の一部等を除いて地場資本がほとんどを占める。海外になると、直資は極めてまれで、地場資本が基本となる。そうした地場資本の新車販売店(ディーラー運営会社)は、州法に従うことに加えて、自動車メーカーとの間で交わす契約書のなかでテリトリー制などの詳細が設定されている場合が多い。 こうしたアメリカ市場の現状を踏まえて、前述にようにカリフォルニア州新車ディーラー協会としては、ソニーホンダモビリティの販売体制が、既存の新車ディーラーの運営に対して弊害が及ぶ可能性を含めて州法に違反していると主張している。 訴訟社会とも表現されることが少なくないアメリカにおいては、今回の事案は決して驚くべきことではないかもしれない。むろん、ソニーホンダモビリティとしては事前に州法に違反していないための事業計画を練っているはずであり、カリフォルニア州新車ディーラーとの間で今後、何らかの形で和解することになるのだろう。その際、違約金が発生などさまざまな交渉を経ていく必要があろう。 本件の今後の動向をしっかりとウォッチしていきたい。

TAG: #アメリカ #直販 #訴訟
TEXT:琴條孝詩
作る電力と走らせる電力を何で生み出すか? EVのエコ度は国と地域で大きく変わる!

EVが本当に環境にやさしいかどうかを測る指標 EV(電気自動車)は走行時にCO2(二酸化炭素)を排出しないため、直接的な排出がないという点で環境負荷が低いとされている。排気ガスが出ないEVは確かにクリーンだが、本当にクリーンかどうかは、EVに充電される電力を生み出す過程でどれだけのCO2排出が抑えられているかが鍵となる。ここで重要になるのが「エネルギーミックス」という概念である。 <エネルギーミックスとは?> エネルギーミックスとは、一国の電力供給において、石炭火力、天然ガス、原子力、水力、太陽光、風力、地熱などの各種発電方法がどのような割合で構成されているかを示すものである。それぞれのエネルギー源には、コストや安定性、環境負荷といった特徴があり、国ごとに最適なバランスを模索している。 日本では、福島原発事故以降、原子力の比率が低下し、かわりに天然ガスや再生可能エネルギーの割合が増加している。一方、フランスは原子力の比率が非常に高く、ドイツは石炭や再生可能エネルギーを組み合わせ、足りないぶんは他国から輸入している。このように、エネルギーミックスは国ごとに大きく異なる。 エネルギーミックスは、電力の安定供給や経済性、そして環境負荷の観点からも重要だ。再生可能エネルギーはCO2排出量が少ないが、天候や季節による変動が大きい。そのため、安定供給のためには、火力や原子力などのベースロード電源との組み合わせが不可欠である。さらに、エネルギーミックスは、国際的なエネルギー政策や地政学的な要因にも影響される。たとえば、資源の豊富さや輸入依存度、環境規制の厳しさなどが、エネルギーミックスの構成に反映される。 資源エネルギー庁が2025年4月に公表した『2023年度エネルギー需給実績(確報)』によると、日本では2023年時点で火力発電が約69%(石炭:約28%、天然ガス:約33%、石油など:約7%)、原子力が約8.5%、再生可能エネルギーが約23%程度となっている。一方、ノルウェーでは水力発電が90%以上を占め、フランスでは原子力が約70%を占めるなど、国によってその構成は大きく異なる。 この違いが重要なのは、発電方法によってCO2排出量が大きく変わるためである。石炭火力発電は1kWhあたり約820gのCO2を排出するのに対し、天然ガスは約470g、太陽光や風力、水力発電はほぼゼロである。つまり、同じ電力を使ってEVを充電しても、その電力がどう作られたかによって環境負荷は大きく異なってくるのだ。

TAG: #エネルギー #エネルギーミックス #環境問題
TEXT:御堀直嗣
1000馬力オーバーもザラなEVだけどそれって本当に必要な価値? 馬力じゃなくて本当に見るべき性能とは

1000馬力超えがゴロゴロしているEVスポーツカーの世界 ポルシェのタイカンは、ターボGTバイザッハパッケージの場合、その最高出力は760kWに達する。エンジンでいう馬力に換算すると、約1034馬力となる。タイカンの基準車種では、最高出力が300kWで、馬力換算では408馬力であり、これでも十分高性能だ。基準車種のタイカンの0-100km/h加速は4.8秒で、最高速度は230km/hに達する。ターボGTバイザッハパッケージに至っては、0-100km/hがわずか2.2秒で、最高速度は305km/hだ。そのぶん、車両価格も1453~3144万円の幅がある。 電気自動車(EV)であっても、ここまで速いというスポーツカーメーカーならではの姿(実力)がそこに示されている。 ちなみに、エンジン車の911で最高の性能はターボSで、711馬力、0-100km/h加速は2.5秒で、最高速度は322km/hとなる。 高級車はどうか。メルセデス・ベンツEQSは、後輪駆動のモーターの最高出力が265kWで、馬力に換算すると360馬力になる。タイカンの基準車種に近い性能を備えているといえるかもしれない。そのうえで、WLTCによる一充電走行距離は759kmだ。ほかに、AMGの4輪駆動も選べるが、いずれもその最高速度は200km/h以上を確保している。ドイツでアウトバーンを走ることを思えば、200km/h以上出せればまずまずであろう。 ただし、エンジン車かEVかを問わず、速度と空気抵抗の関係は速度の2乗で効いてくるので、100km/hから200km/hへ速度を2倍高めると、空気抵抗は4倍に膨れ上がる。ドイツでは、アウトバーンがあるおかげで、速度で時間を稼ぎ出す発想があるが、EVになるとそれは充電時間との競争にもなり、ドイツを中心に欧州で超急速充電器を求める背景となっている。 一方で、メルセデス・ベンツといえどもEVになると最高速度を200km/hプラス程度に抑える方向にあるようで、エンジン車の時代のように単に最高速度を高めることが正義ではないという考え方が出はじめている。つまり、馬力競争ではなく効率の追求とほどよい移動時間の提供、それによる時間の活かし方・使い方の発想だ。 背景にあるのは気候変動抑制であり、EVでもエンジン車と同様に200km/h以上で走り続けられなければ価値がないという考え方への疑問や懸念だ。それを続ければ、EVであっても電力消費という意味での効率の追求が必ずしも正義でない領域に踏み込み、いくら再生可能エネルギーを使うとしても足りなくなり、結局、原子力発電に依存しなければ、200km/hでの移動を実現しきれなくなるという警告だ。ちなみにドイツは、脱原発である。 とはいえ、長距離移動をクルマに依存する間はなかなか答えを出しにくい時代が続く可能性がある。なぜなら、空気抵抗だけでなく、高速走行しながらカーブを曲がるという総合性能を高めるためにはタイヤのグリップを高める必要があり、それにはゴムの性質だけでなく、より偏平な寸法のタイヤが求められ、それがまた空気抵抗に悪影響を及ぼすという、際限のない悪循環に入り込みかねない。もちろん、グリップのよいタイヤのゴム(コンパウンド)は、抵抗が大きいため、電力消費を悪化させる。

TAG: #スポーツカー #輸入車 #高性能車 #高級車
TEXT:高橋 優
早くも大幅進化を遂げたBYDシール! ガチライバルのテスラと徹底比較してみた

シールが新型にアップグレード BYDが日本国内でシールの新型モデルを、2025年10月30日より投入しました。電動サンシェードや電子制御サスペンションの導入など装備内容を充実させつつ値下げも実施しています。 すでに2024年6月から発売中だったものの、約1年後の先日、早速マイナーチェンジを実施してきた格好です。モデルチェンジに伴う主な外観の変更点として、新型19インチホイールがRWDとAWD両グレードに装備し、RWDモデルにはブラックキャリパー、AWDにはレッドキャリパーが装着されデザイン性が向上した点が挙げられます。 インテリアでは、サングラスケースを追加しながら、エアコン性能面における冷却性能と静粛性の向上、空気清浄機能が強化。またガラスルーフの電動サンシェードが追加されており、夏場における電力消費量抑制にも期待できそうな装備が加わりました。その上シーライオン7と同じく、デジタルNFCキーに対応しながら、V2Hに対応。これまでのシールもV2Hを使用することはできましたが、変換効率が低く、実質的には使用できないに近かったのです。ところがおおむね1kW程度のロスと、変換効率を向上させることで、V2Hを購入の前提にしていたユーザーも選択肢に入れることができるようになりました。 そしてもっとも注目するべき改良点が、電子制御サスペンションの導入です。旧型シールではAWDグレードのみ機械式の周波数感応型ダンパー(Frequency Selective Damping[略称:FSD])が搭載されていたものの、新型モデルでは、RWDグレードにFSDを標準搭載しながら、AWDグレードには電子制御サスペンションであるDisus-Cを初搭載しました。 Disus-CはBYD独自内製サスペンションです。これまでのFSDと比較しても調整幅が広く、さらに振動吸収速度も向上しており、乗り心地とコーナリング時の操縦安定性を高い次元で両立することができます。

TAG: #マイナーチェンジ #新車 #比較
連載企画 一覧
VOL.15
本当に日本はEVで「立ち遅れた」のか:知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第15回

ジャパン・モビリティ・ショー開催でにわかに沸き立つ日本のEVマーケット。しかし現実の販売状況は日本において大きく立ち遅れている。技術では先導してきたはずの日本メーカーは、なぜEVで世界をリードできていないのか。この分野のベテランジャーナリストである御堀 直嗣が解説する。 日本の低いEV市場占有率 日本は、世界に先駆けて電気自動車(EV)の市販に踏み切った。2009年に三菱自動車工業が、軽自動車EVの「i-MiEV」を法人向けにリース販売しはじめ、翌10年には一般消費者向けへの販売も開始した。同年には、日産自動車も小型EVの「リーフ」を発売した。この2社によって、EVの量産市販が実現し、ことにリーフは海外への販売も行われ、「i-MiEV」はフランスの当時PSA社にOEM供給された。リーフの販売は世界で累計65万台に達し、その他EVを含めると、日産は世界で100万台のEV販売の実績を持つ。そのうち、日本国内は累計23万台である。 ちなみに、米国テスラは2022年では年間で約130万台、中国のBYDは同年に約90万台規模へ成長している。 同時にまた、世界共通の充電規格であるCHAdeMO(チャデモ)も準備され、リーフが販売される世界の各地域にCHAdeMO充電器の設置が動き出した。 それらを背景に、経済産業省は2012年度補正予算で1,005億円の補助金を計上し、全国に約10万基の充電器を整備するとした。この補助金は全額支給でないため、トヨタ/日産/ホンダ/三菱自の4社が資金を拠出し、補助金で賄いきれない残額を補填することに合意した。 しかし、現在の充電器の数は、急速充電と普通充電を合わせて約2万基である。 国内の新車販売において、EVが占める割合は1%以下という状況が長く続いた。昨2022年、「日産サクラ」と「三菱eKクロスEV」が発売となり、1年で5万台以上を販売することで2%ほどの占有率になろうかという状況にある。 一方、世界全体では、EVの市場占有率が13%になる。米国は5.8%、欧州は12%、中国は21%となっており、日本がいかに低水準であるかがみえてくる。 日本でEV普及が進まなかった理由 EVの先駆者であった日本が、なぜ欧米や中国の後塵を拝するようになったのか。 最大の要因は、せっかく1,005億円という充電基盤整備に対する経済産業省の支援があったにもかかわらず、急速充電器の整備にばかり世間の目が行き、EV利用の基本である基礎充電、すなわち自宅での普通充電(200V)の重要性が広がらなかったからである。ことに、マンションなど集合住宅の駐車場と、月極駐車場への普通充電設置がほぼできなかったことが原因であった。 EVの充電は、普通充電で8~10時間、あるいはそれ以上かかるとされ、これが単純にガソリンスタンドでの給油時間と比較されて、使い勝手が悪いとさまざまな媒体を通じて流布された。いまでもそうした論調が消えていない。しかし、自宅で普通充電できれば、寝ている間に満充電になるので、翌朝出かけるときは満充電で出発できる。 戸建て住宅に住む人はそれができた。ところが、戸建て住宅でも自宅に車庫がなく月極駐車場を利用する人は、近隣の急速充電器を利用しなければならなくなった。 集合住宅に住む人は、敷地内に駐車場が併設されていても、管理組合の同意が得られず普通充電ができない状態に陥った。無知がもたらした悲劇だ。EVを買う意思があっても、手に入れにくい状況があった。 集合住宅の管理組合で賛同が得られない最大の理由は、幹事がEV時代を予測できず、また自分には関係ないとして無視され続けたことにある。設置の経費は、ことに当初は補助金と自動車メーカー4社による補填があったので、ほぼゼロであった。現在でも、施工業者が残金を負担するなどのやりくりで、集合住宅側の負担が軽く済む仕組みが出てきている。それでもなお、管理組合で合意を得るのが難しい状況は払拭できていない。 基礎充電の普及を目指す業者の間でも、さらに難しいとされるのが月極駐車場への普通充電の設置だ。月極駐車場を管理する不動産業者の理解を得にくいという。

VOL.1
リッター200円にもう限界……給油の“枷”をぶっちぎれ!【モデルサードインパクト vol.1】

ガソリン高い、燃費も悪い、限界だ! かつてないほどの猛暑に喘いだであろう今夏。「もういいよ」「もう下がってくれ」と、気温に対して誰もが感じていたと思うが、自動車ユーザーはガソリン価格に対しても同じことを思っていたのではないだろうか。 リッターあたり170円、180円、190円、そして200円の大台を突破……給油をするたびに、誰もが憂鬱な気分になったはずだ。小生はドイツの某オープンスポーツカーに乗っているのだが、リッターあたり平均10kmでハイオク仕様。愛車にガソリンを入れるたび、顔が青ざめていた。 「高額給油という枷から解放されたい……」 EVの購入を決意した所感である。クルマを走らせることは、本来喜びのはず。給油のたびに落ち込むのは本望ではない。 小生は、THE EV TIMES(TET)の編集スタッフを務めています。この9月、「テスラ・モデル3・パフォーマンス」を購入しました。新たな愛車と共に進むEVライフを「モデル・サードインパクト」と銘打ち、連載で紹介していこうと思います。 EVは便利だと実感した「日産リーフ」 小生が初めて体験したEVは「日産リーフ」(2代目)である。遡ること2017年、「リーフ」が2代目になった頃、日産が全国で試乗キャラバンを開催し、小生はその試乗アテンダントを担当していた。そこで「リーフ」を存分に運転することができたのだ。 それゆえ、EVの利便性の高さを実感することになった。スポーツモデル顔負けの力強くスムーズな加速にまず驚いたのだが、給油という枷から外れて自由に走り回れることが大変な魅力に感じた。アイドリング状態でエアコンを入れっぱなしでもガソリン代を気にせずに済む。車内でPCを開けば、そのままオフィスになる。車の用途が無限大に広がると感じた。 充電時間も特別長いとは感じなかった。充電残量が50%くらいになったら、急速充電を使用してあっという間に80%まで回復できる。ちなみに100%まで充電した場合、280kmを走れる表示が出ていたと記憶している(当時は寒い季節で暖房を使用した)。ちょっとした遠出も十分に対応可能。「EVなんて不便」という印象は全く抱かなかった。そこで薄々と「将来はEVもアリだな」と思ったのだ。

VOL.20
VW「ID.4」オーナーはアウトバーンを時速何キロで走る? [ID.4をチャージせよ!:その20]

9月上旬、スイスで開催された「ID.TREFFEN」(ID.ミーティング)を取材した際に、参加していた「ID.4」オーナーに、そのクルマを選んだ理由などを聞きました。 フォルクスワーゲン一筋 鮮やかな“キングズレッドメタリック”のID.4で登場したのは、ドイツのハノーファーからはるばるスイスに駆けつけたデュブラック・マルクスさん。「フォルクスワーゲンT3」のTシャツを着ているくらいですから、かなりのフォルクスワーゲン好きと見ましたが、予想は的中! 「18歳で免許を取ってからこれまで30年間、フォルクスワーゲンしか買ったことがないんですよ」という、まさにフォルクスワーゲン一筋の御仁でした。 彼の愛車はID.4のなかでももっともハイパフォーマンスな「ID.4 GTX」。日本未導入のこのグレードは、2モーターの4WD仕様で、最高出力220kW(299PS)を発揮するというスポーツモデル。こんなクルマに乗れるなんて、なんともうらやましいかぎりです。 そんなマルクスさんにID.4 GTXを購入した理由を尋ねると、「これからはEVの時代だと思ったので!」と明確な答えが返ってきました。とはいえ、ID.ファミリーのトップバッターである「ID.3」が登場した時点ではすぐに動き出すことはありませんでした。「1年半くらい前にID.4 GTXを試乗する機会があって、踏んだ瞬間から力強くダッシュするID.4 GTXのパンチ力にすっかり惚れ込んでしまい、即決でしたよ(笑)」。

VOL.14
欧州メーカーはなぜ電気自動車に走ったのか?:知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第14回

EVの知識を、最新情報から「いまさらこんなこと聞いていいの?」というベーシックな疑問まで、ベテラン・ジャーナリストが答えていく連載。今回は欧州メーカーの特集です。 日本市場参入が遅かった欧州製EV 日本市場では、欧州からの電気自動車(EV)攻勢が活発に見える。ドイツの「BMW i3」が発売されたのは2013年秋で、日本市場へは2014年春に導入された。 日本の自動車メーカーがEVを市販したのは、2009年の「三菱i-MiEV」の法人向けリースが最初で、翌2010年には「i-MiEV」も一般消費者への販売を開始し、同年に「日産リーフ」が発売された。「i3」の発売は、それより数年後になってからのことだ。 ほかに、フォルクスワーゲン(VW)は、「up!」と「ゴルフ」のエンジン車をEVに改造した「e-up!」と「e-ゴルフ」を2015年から日本で発売すると2014年に発表した。だが、急速充電システムのCHAdeMOとの整合性をとることができず、断念している。その後、VWは「e-ゴルフ」を2017年秋に販売を開始した。EV専用車種となる「ID.4」を日本に導入したのは、2022年のことだ。フランスのプジョーが、「e-208」を日本で発売したのは2020年である。 以上のように、欧州全体としては、EVへの関心が高まってきたのは比較的最近のことといえる。 くじかれたディーゼル重視路線 欧州は、クルマの環境対策として、自動車メーカーごとの二酸化炭素(CO2)排出量規制を中心に動いてきた。そして2021年から、1km走行当たりの排出量を企業平均で95gとする対処方法を考えてきた。EU規制は、販売する車種ごとのCO2排出量を問うのではなく、販売するすべての車種の平均値で95gを下回らなければならないという厳しさだ。 対策の基本となったのは、ディーゼルターボ・エンジンを使った排気量の削減と、出力の低下を補う過給器との組み合わせを主体としつつ、ハイブリッドによるさらなる燃費の向上である。 既存のディーゼルターボ・エンジンをできるだけ活用しようとする考えは、欧州メーカーが補機用バッテリーの電圧を世界的な12ボルトから、36ボルトや48ボルトに変更することによるマイルドハイブリッド化に注目してきた様子からもうかがえる。 ところが、2015年にVWが米国市場でディーゼル車の排出ガス規制を偽装していたことが明らかにされた。公的機関での測定では規制値を満たすものの、実走行で急加速などした際に基準を上回る有害物質が排出され、それによって力強い加速を得られるようにした制御が発覚したのである。その影響は、VW車だけでなく、アウディなどVWグループ内に広く影響を及ぼした。

VOL.3
ボルボは新型EVの「EX30」でインテリアに新たな価値を与え、空間を最大限、利用する!

ボルボはEX30の室内で多くの新たなチャレンジを行なっていると謳う。その詳細を小川フミオ氏が訊いていく。連載1回目はこちら、2回目はこちら。 冷たさの排除し素材を“素直”に使う EX30のインテリアが、他車と決定的に違うのは、金属的な表面処理がほとんど見当たらないこと。それは意図的にそうしたのだと、インテリアデザインを統括するリサ・リーブス氏は言う。 「心したのは、冷たさの排除です。使う素材はオネスト、つまり木に見えるものは木であり、また同時に、リサイクル素材を人間にやさしいかたちで使用しました」 インテリアは「ブリーズ」(やさしい風)をはじめ「ミスト」(もや)、「パイン」(松)それに「インディゴ」と4種類(日本はそのうち「ブリーズ」と「ミスト」を導入)。 「ブリーズを例にとると、デザインインスピレーションはサマーデイズ。シート表皮の素材はピクセルニットとノルディコ、ダッシュボードの飾り材はパーティクル、そして空気吹き出し口のカラーはブルーです」 リーブス氏は説明してくれる。 「ピクセルニットはPETボトルをリサイクルしたもの。それを3Dニッティング(立体編み)プロセスでシート用素材にしています。組み合わせるノルディコは、PETボトルなどのリサイクル素材、北欧で計画的に伐採された木から採取された素材、リサイクルされたワインコルクなどで作られたテキスタイルです」 ダッシュボード用のパーティクルは、窓枠やシャッターを中心に工業廃棄物であるプラスチックを粉砕したものだし、フロアマットは漁網をリサイクルしたという。 「リサイクル材とともに、インテリアは雰囲気を統一したので、私たちは“ルーム”という名を与えています。インディゴの場合、デザインインスピレーションは”夜のはじまり”で、デニムをリサイクルしたときに余る糸を使った素材をシート表皮に使っています」 シートじたいは「スニーカーにインスパイアされた形状」(メイヤー氏)だそうだ。

VOL.2
ボルボの新型電気自動車「EX30」にはスターウォーズのデザインが取り入れられている!?

エンジンの回転の盛り上がりには、時に人間的な表現が用いられる。しかしBEV(バッテリー電気自動車)はエンジンもなく無音なため、より無機質な、機械的な印象が強くなる。ボルボはそんなBEVに人間的な要素を入れたと主張する。連載1回目はこちら。 どことなく楽しい感じの表情 ボルボEX30は、いってみれば、二面性のあるモデルだ。ひとつは、地球環境保全(サステナビリティ)を重視したコンセプト。もうひとつは、大トルクの電気モーターの特性を活かしたスポーツ性。 デザイナーは「いずれにしても、BEVと一目でわかってもらうデザインが重要と考えました」(エクステリアデザイン統括のTジョン・メイヤー氏)と言う。 「もちろん、昨今ではICE(エンジン車)かBEVか、デザインをするときあえて差別化をしないのが世界的な流れです。ただし、私たちとしては、スカンジナビアデザインの原則を守りつつデザインしました」 メイヤー氏の言葉を借りて、この場合のスカンジナビアデザインの肝要を説明すると「形態は機能に従う」となる。 「そこで、上部に開口部とグリルはもたせないようにしようと。ただし(インバーターなどのために)空気を採り入れる必要はあるので、下にインレットは設けています」 ボルボ車のデザインアイディンティティである「トール(神の)ハンマー」なる形状のヘッドランプも採用。ただし、カバーで覆った一体型でなく、四角いLEDのマトリックスが独立しているような形状があたらしい。 「そうやって出来上がったのがこのデザインです。顔になっていて、そこには眼があって、鼻があって、口があるんです。どことなく楽しいかんじで、これまで以上に人間的な表情を実現しました」 暴力的でもなければ、ロボット的でもない。メイヤー氏はそこを強調した。

VOL.1
ボルボの新型電気自動車「EX30」は、相反する2面性を合わせ持つ文武両道なクルマ

ボルボの新たなBEV(バッテリー電気自動車)として、ついに10月2日から「サブスク」モデルの申し込みが始まるEX30。この「ボルボ史上最小のBEV」はどのように開発されたのか。ミラノで行われたワールドプレミアに参加した小川フミオ氏が関係者の声とともに振り返る。 スカンディナビアン+デジタル 2023年6月に登場したEX30は、コアコンピューティングテクノロジーを大胆に採用する、ボルボの新世代BEV。 内容にとどまらず、同時に、デザイン面でもさまざまな大胆な試みがなされているのも特徴だ。 いってみれば、伝統的ともいえるスカンディナビアンテイストに、デジタライゼーションの融合。 「私たちのデザイン的価値のすべてを小さなフォーマットで具現」したモデルと、ボルボ・カーズはプレスリリース内で謳う。 「非常に電気自動車的なデザインで(中略)閉じられたシールド(フロントグリルの開口部のこと)とデジタル表現を用いたトールハンマーヘッドライト」がフロント部の特徴とされる。 さらに新世代BEVとしてボルボが狙ったものはなんだろう。ミラノでの発表会において出合った担当デザイナー(たち)に、デザインの見どころと背景にあるコンセプトを取材した。

VOL.5
「BMW iX xDrive50」の高速電費は我慢不要! ロングドライブにうってつけのEV

[THE EV TIMES流・電費ガチ計測] THE EV TIMES(TET)流電費計測の5回目を、8月に「BMW iX xDrive50」で実施した。車高の高いSUVにもかかわらず、高速巡航時に電費が低下しにくいのが特徴だ。その詳細をお伝えする。 ※計測方法などについてはこちら、試乗記はこちらをご覧ください。 100km/h巡航でどんどん行こう iX xDrive50のカタログに記載された「一充電走行距離」は650km(WLTC)で、電池容量は111.5kWhだ。650kmを実現するには、電費が5.83km/kWh(以後、目標電費)を上回る必要がある。 各区間の計測結果は下記表の通り。5.83km/kWhを上回った場合、赤字にしている。 これまでのTETによる電費計測で初めてA区間の往路と平均で目標電費を超えた。A区間のように標高差が少ない場所では同じ状況になり得る、つまり100km/h巡航で一充電走行距離の650km近くを走破できる可能性がある。   100km/h巡航でも600kmは走れそう 各巡航速度の平均電費は下表の通りだ。「航続可能距離」は電費にバッテリー総容量をかけたもの、「一充電走行距離との比率」は650kmに対して、どれほど良いのか、悪いかだ。 iXのエクステリアは、大きなキドニーグリルが特徴的だ。ざっくり言えば全長5m、全幅2m、全高1.7m、車重2.5トンの堂々としたボディだが、Cd値が0.25と優れている。 100km/h巡航におけるiXの電費は、5.71km/kWhであった。絶対的な数値としては決して高くないが、一充電走行距離との比率を計算すると98%と、これまでにTETが計測したデータの中で最高の結果を記録した。120km/h巡航でもこの数字は78%であった。 つまり、iXは高速巡航でも電費の低下が少ないEVだといえる。 ちなみに、過去に計測したメルセデス「EQE 350+」は、この100km/h巡航時の比率が90%だった。EQEはセダンボディで背が低く、Cd値0.22で、高速巡航には有利であることを考えても、iXの98%という数字の凄さが分かる。 この結果は、空力性能の良好さと高効率なパワートレインの賜物ではないかと思う。BMWが「テクノロジー・フラッグシップ」「次世代を見据え、長距離走行が可能な革新的な次世代電気自動車」と謳っているだけのことはある。これらの記録を塗り替えるクルマが現れるのか、今後の計測が楽しみだ。   各巡航速度ごとの比率は以下の通り。80km/hから100km/hに速度を上げると21%電費が悪くなる。120km/hから80km/hに下げると1.6倍の航続距離の伸長が期待できる。

VOL.19
ぐっとパワフルな2024年モデルのフォルクスワーゲン「ID.4」をミュンヘンで緊急試乗! [ID.4をチャージせよ!:その19]

コンパクトSUVタイプの電気自動車「ID.4」が2024年モデルにアップデート。この最新版をドイツ・ミュンヘンでさっそく試乗しました。 モーターのパワーは60kW増し 「ID.4」が2024年モデルにアップデートし、コックピットのデザインが様変わりしたことは、前回のコラムで述べました。さらに今回の仕様変更では、走りにかかわる部分にも手が加えられています。 一番の変更が、新開発のモーターが搭載されたこと。フォルクスワーゲンでは、ID.ファミリーのプレミアムセダンである「ID.7」に、新たに開発した「APP550」型の電気モーターを採用しました。最高出力は210kW(286PS)と実にパワフルです。これが2024年モデルの「ID.4プロ」にも搭載されることになりました。これまでの「ID.4プロ」の最高出力が150kWですので、出力は60kW、4割増しという計算。最大トルクも従来の310Nmから545Nmとなり、こちらは75%の大幅アップです。 バッテリー容量は77kWhで変更はありませんが、2024年モデルからはバッテリーの“プレコンディショニング機能”を搭載し、冬の寒い時期、充電前にバッテリー温度を高めておくことで充電量の低下を抑えることができます。これはうれしい! 他にも、可変ダンピングシステムのDCC(ダイナミックシャシーコントロール)の改良なども行われ、果たしてどんな走りを見せてくれるのか、興味津々です。 早く乗ってみたいなぁ……と思っていたら、なんとうれしいことに、発表されたばかりの2024年式ID.4 プロ・パフォーマンスを、ドイツ・ミュンヘンで試乗するチャンスに恵まれました。試乗時間は約20分と超ショートですが、わが愛車のID.4 プロ・ローンチエディションと比較するには十分な時間です。

VOL.18
ミュンヘンで「ID.4」の2024年モデルに遭遇! [ID.4をチャージせよ!:その18]

ミュンヘンモーターショー(IAA)のメイン会場近くで、フォルクスワーゲンがメディア向けイベントを開催。そこで、2024年モデルの「ID.4」に遭遇しました。 見た目は同じ イベントスペースのパーキングに待機していたのは、“コスタアズールメタリック”のボディが爽やかな「ID.4 プロ・パフォーマンス」。日本のラインアップにはないボディカラーに目を奪われますが、エクステリアデザインはこれまでと同じで、私の愛車の「ID.4 プロ・ローンチエディション」との違いは1インチアップの21インチホイールが装着されていることくらいです。 ところが運転席に座ると、コックピットの眺めに違和感が! マイナーチェンジでもないのに、コックピットのデザインが私のID.4 プロ・ローンチエディションと大きく変わっていました。 ご存じのとおり、フォルクスワーゲンなど多くの輸入ブランドでは“イヤーモデル制”を採用していて、毎年のように細かい仕様変更を実施。エクステリアデザインは一緒でもパワートレインや装備が変わるというのはよくあること。この2024年モデルでは、インテリアのデザインまで様変わりしていたのです。 真っ先に気づいたのが、ダッシュボード中央にあるタッチパネルがリニューアルされていること。2022年モデルのID.4 プロ・ローンチエディションでは12インチのタッチパネルが搭載されていますが、この2024年モデルでは12.9インチにサイズアップが図られたのに加えて、デザインも一新され、明らかに使い勝手が向上していました。

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