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TEXT:生方 聡
[VW ID.4試乗記]ID.シリーズの世界戦略車「ID.4」:その 4

乗り心地に貢献するタイヤ 運転中に気になったのが、ブレーキペダルを踏んで減速するときの感覚。Dモードではアクセルペダルから足を離しても減速せず、ブレーキペダルを踏んではじめて減速を開始するのだが、軽めのブレーキではフロントタイヤが路面に食いつく感じがない。これが少し頼りなく思えるのである。ID.4には前:ベンチレーテッドディスク、後:ドラム(!)ブレーキが搭載されるが、軽くブレーキペダルを踏む状況では前後のブレーキは使わず、リアアクスルのモーターによる回生ブレーキだけで減速を行っている。それがやや頼りないブレーキフィールを生んでいるのだ。このあたりは慣れの問題で、ブレーキペダルを踏んでもクルマが前につんのめる動きをみせないまま穏やかに減速する感覚は、慣れれば悪くない。ところで、ID.4 プロ・ローンチエディションには、前235/50R20、後255/45R20の「モビリティタイヤ」が装着されている。モビリティタイヤとはいわゆる“シールタイヤ”のこと。トレッド内側のインナーライナー上に粘着性の高いシール層を配することにより、釘やネジがタイヤのトレッド部に刺さり内部に達したとしても、シーラント剤が釘などを包むように粘着して空気の漏れを防ぐ。また、釘などが抜け落ちてもパンク穴をふさいでくれるため、パンクで走れなく事態が減り、スペアタイヤも不要である。ランフラットタイヤと異なり、乗り心地が悪化しないのもうれしい点だ。 試乗会場で確認するかぎり、ID.4 プロ・ローンチエディションにはブリヂストン、ピレリ、ハンコックのタイヤが純正装着されており、私たちが試乗したクルマにはブリヂストンの「トランザ エコ」という低燃費タイヤが装着されていた。前:マクファーソン・ストラット、後:マルチリンクのサスペンションは、電子制御のダンピングコントロールを持たず、20インチのタイヤ&ホイールとの組み合わせでは粗い乗り心地を覚悟していたが、良い意味で予想を裏切られることに。 “RR”BEVならではの走り 走り出すと、タイヤと路面とのコンタクトはスムーズで、乗り心地も思いのほかマイルド。重たいタイヤとホイールを履くわりにはバタつくこともないし、目地段差を超えたときのショックもうまく遮断されている。走行時の動きは落ち着いており、高速走行時のフラットさもまずまず。車両の低い位置に重量物のバッテリーを搭載するおかげで、低重心化が図られ、SUV特有の前後左右の揺れもよく抑えられている。走行中のロードノイズやパターンノイズ、さらに風切り音なども気にならないレベルだ。 高速走行時の直進安定性も良好。一方、コーナーでは、後輪駆動らしい素直で軽快なハンドリングが味わえる。初代ゴルフ以来、基本的にはFFレイアウトを採用してきたフォルクスワーゲンだけに、ID.4の爽快な走りはとても魅力的かつ新鮮なものだった。短時間の試乗だったため、電費や急速充電能力などは確認できなかったものの、スタイリッシュなエクステリアや魅力的なインテリア、スムーズで余裕ある加速性能、快適で楽しい走りなど、その高い仕上がりには目を見張るばかりのID.4。BEVにかけるフォルクスワーゲンの本気が感じられる一台である。 VW ID.4 Pro Launch Edition スペック 全長:4,585mm 全幅:1,850mm 全高:1,640mm ホイールベース:2,770mm 車両重量:2,140kg 乗車定員:5名 交流電力量消費率:153Wh/km(WLTCモード) 一充電走行距離:561km(WLTCモード) 最高出力:150kW(204ps)/4,621-8,000rpm 最大トルク:310Nm(31.6kgm)/0-4,621rpm バッテリー総電力量:77.0kWh トランスミッション:1段固定式 フロントサスペンション:マクファーソン・ストラット式(スタビライザー付) リアサスペンション:マルチリンク式(スタビライザー付) フロントブレーキ:ベンチレーテッドディスク リアブレーキ:ドラム タイヤサイズ:前235/50R20、後255/45R20 車両本体価格:6,365,000円

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TEXT:生方 聡
[VW ID.4試乗記]ID.シリーズの世界戦略車「ID.4」:その 3

簡単な発進までの手順 ID.4 ライトとID.4 プロの一番の違いが、搭載されるバッテリー量だ。ID.4 ライトが8個のバッテリーモジュールで52kWhの容量を確保するのに対して、ID.4 プロでは12個のモジュールで77kWhと、より容量が多い仕様となっている。バッテリー重量はそれぞれ344kgと493kgで、その影響で車両重量も1,950kgと2,140kgと、190kgの開きがある。搭載される電気モーターは、ID.4 ライト、ID.4 プロともに定格出力70kWの交流同期型だが、最高出力は前者が125kW(170ps)であるのに対し、後者は150kW(204ps)と、よりパワフル。一方、最大トルクはともに310Nmを発揮する。気になる航続距離は、ID.4 ライトの388kmに対して、ID.4 プロでは561kmを達成する。 いまどきのBEVだけに、クルマを発進させるまでの手順は簡単。ブレーキペダルを踏み、ドライブモードセレクターでDモード(またはRモード)を選ぶだけ。ステアリングコラム横にあるスタートボタンを、わざわざ押す必要はない。あとはブレーキペダルから足を離せば、ID.4はゆっくりと動き始める(ただし、“オートホールド”が有効になっている場合は、発進時にアクセルペダルを踏んでやる必要がある)。 ここから軽くアクセルペダルを踏むと、スムーズで必要十分な加速を見せるが、動き出しは期待よりもやや控えめ。しかしそれも束の間、少しスピードが乗ってくると、そこからはBEVならではの力強く、伸びやかな加速が待っていた。どうやら意図的に出足を穏やかにしているようで、エンジン車から乗り換えても違和感なく運転できるようにするための配慮らしい。 余裕のある加速性能 一般道はもちろん、高速道路でも、まわりの流れにあわせて走るぶんには、アクセルペダルを深々と踏み込まなくても、余裕ある加速が味わえる。高速道路の合流や追い越しの場面でアクセルペダルを奥まで踏んでみると、シートに背中が沈み込むような迫力こそないものの、2Lガソリンターボエンジン並みの強い加速を発揮。急加速中でもID.4のキャビンは静かに保たれたまま、見る見るスピードを上げていく感覚は、一度味わうと病みつきになる心地よさだ。しかもこのID.4 プロは後輪駆動を採用するため、加速時のトルクを荷重が増す後輪でしっかり受け止めてくれる。大トルクのFF車ではホイールスピンやトルクステアが出るところだが、後輪駆動のID.4 プロでは思い切ってアクセルペダルを踏み切れるのが頼もしいところである。 BEVでは走行中にアクセルペダルから足を離したり、右足の力を緩めると、モーターの発電によりエネルギーを回収しながら減速する回生ブレーキが効くが、ID.4の場合は、Dモードでは回生ブレーキが効かないコースティング(惰力走行)を行う一方、ドライブモードセレクターでBモードを選ぶと強めの減速が可能になる。右足を一気に離しても急ブレーキにはならないが、ふだんの走行なら回生ブレーキだけでほぼカバーできるレベルだ。しかも、回生ブレーキの反応がやや穏やかなぶん、アクセルペダルの操作に神経を尖らせる必要がないのがいい。Bモードを選んでも、車両を完全停止させることはできないが、最終的にブレーキペダルを操作して停止するのが煩わしいとは感じなかった。むしろこのスタイルのほうが、エンジン車からすんなり乗り換えられるに違いない。 VW ID.4 Pro Launch Edition スペック 全長:4,585mm 全幅:1,850mm 全高:1,640mm ホイールベース:2,770mm 車両重量:2,140kg 乗車定員:5名 交流電力量消費率:153Wh/km(WLTCモード) 一充電走行距離:561km(WLTCモード) 最高出力:150kW(204ps)/4,621-8,000rpm 最大トルク:310Nm(31.6kgm)/0-4,621rpm バッテリー総電力量:77.0kWh トランスミッション:1段固定式 フロントサスペンション:マクファーソン・ストラット式(スタビライザー付) リアサスペンション:マルチリンク式(スタビライザー付) フロントブレーキ:ベンチレーテッドディスク リアブレーキ:ドラム タイヤサイズ:前235/50R20、後255/45R20 車両本体価格:6,365,000円

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TEXT:生方 聡
[VW ID.4試乗記]ID.シリーズの世界戦略車「ID.4」:その 2

好印象だが、気になる点もあるインテリア エクステリア以上に好印象なのが、ID.4のインテリアだ。ステッチがアクセントのブラウンのレザレット(人工皮革)がダッシュパネルやシートに施され、シンプルなデザインながら、とても上質に仕立て上げられている。さらに、今回試乗する上級グレードのID.4 プロ・ローンチエディションでは、ルーフに広がるパノラマガラスルーフのおかげで、明るく開放的な雰囲気が楽しめる。 ただ、シンプルなデザインと引き換えに、操作しにくいという難点も。たとえばエアコンの操作は、温度の上下は中央のタッチパネル下にあるタッチスイッチが使えるが、それ以外は設定画面を呼び出し、タッチパネルを操作する必要がある。運転席側にあるパワーウインドーのスイッチも、後席の窓を操作するには「REAR」の部分に触れてから開閉スイッチを上げ下げしなければならず、いままでよりひと手間増えるうえに、スイッチに視線を落とす必要があるのが煩わしい。 センターディスプレイは、ID.4 ライト・ローンチエディションには10インチ、ID.4 プロ・ローンチエディションには12インチのタッチパネルが搭載される。日本に導入される他のフォルクスワーゲン車と異なり、ID.4ではナビゲーションシステムの設定がなく、コネクテッド機能も備わらない。ナビゲーションシステムについては、最新のフォルクスワーゲンのそれが、お世辞にも使いやすいとはいえないことから、スマートフォン連携機能を利用すれば済むことだ。しかし、コネクテッド機能が搭載されないのは、離れたところから充電の操作をしたり、乗車前にエアコンのスイッチを入れておくといった便利な機能が搭載されないことを意味するだけに、できるだけ早い改善を望みたい。 センターディスプレイに比べてかなり小振りなのが、ドライバーインフォメーションディスプレイと呼ばれるメーターパネル。5.3インチのディスプレイには、速度表示のほか、ドライビングデータ、アシスタンスシステム、ルート案内の矢印などを選択して表示することが可能だ。ステアリングコラムに直付けされており、ステアリングと一緒にチルト/テレスコピック調整ができるので、思いのほか見やすい。なお、ルート案内表示はCarPlayでApple標準のマップアプリを使用するときにかぎられる。 充実装備と広々室内 ドライバーインフォメーションディスプレイの右側には、ドライブモードセレクターが設けられている。ステアリングホイールから少し手を伸ばすだけで届き、視界に入る場所にあることから、前進/後退、パーキングの切り替えが簡単にできるのは実に便利だ。ステアリングホイールのスイッチはタッチ式で、左側でアダプティブクルーズコントロール、右側でオーディオの操作ができる。ID.4 プロ・ローンチエディションには、総出力450Wの12チャンネルアンプと、6スピーカー+サブウーファーが備わるフォルクスワーゲンサウンドシステムが搭載されるが、ゴルフ8に設定される“Harman Kardon”プレミアムサウンドシステムに迫る気持ちのいい音が楽しめるのがうれしい。 マイクロフリースとレザレットを組み合わせたフロントシートには、電動の調整機能に加えて、マッサージ機能(ただし運転席のみ)が備わる。シートヒーターやステアリングヒーターなど、少ない電力で効率的に身体を温められる機能もBEVには不可欠だ。一方、リアシートは、ロングホイールベースの恩恵で楽に足が組める余裕があり、また、センタートンネルがないおかげで横の移動が楽に行える。 ラゲッジスペースは、後席を使用する状態でも約90cmの奥行きが確保され、2分割式の後席を倒せば180cmほどに拡大。これなら流行の車中泊も快適だろう。荷室のフロア下には深さ約15cmの収納スペースがあり、充電ケーブルなどを収めるには十分な広さが確保されている。 VW ID.4 Pro Launch Edition スペック 全長:4,585mm 全幅:1,850mm 全高:1,640mm ホイールベース:2,770mm 車両重量:2,140kg 乗車定員:5名 交流電力量消費率:153Wh/km(WLTCモード) 一充電走行距離:561km(WLTCモード) 最高出力:150kW(204ps)/4,621-8,000rpm 最大トルク:310Nm(31.6kgm)/0-4,621rpm バッテリー総電力量:77.0kWh トランスミッション:1段固定式 フロントサスペンション:マクファーソン・ストラット式(スタビライザー付) リアサスペンション:マルチリンク式(スタビライザー付) フロントブレーキ:ベンチレーテッドディスク リアブレーキ:ドラム タイヤサイズ:前235/50R20、後255/45R20 車両本体価格:6,365,000円

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TEXT:生方 聡
[VW ID.4試乗記]ID.シリーズの世界戦略車「ID.4」:その 1

VWのBEV戦略 フォルクスワーゲンは、2026年までに10種類のBEV(バッテリー電気自動車)を投入し、ヨーロッパにおける内燃エンジン搭載車の生産は2033年までに終了する予定である。この目標に向けて、BEVの「ID.」シリーズの最初のモデルであるハッチバックの「ID.3」を2020年10月に発売。これを皮切りに、SUVの「ID.4」、SUVクーペの「ID.5」、“ワーゲンバスの再来”として注目を集めるミニバンの「ID.Buzz」をすでに市場に投入している。このなかから日本市場に最初に送り込まれたのが「ID.4」である。 ID.4は、フォルクスワーゲンのID.シリーズのなかで、世界戦略車と位置づけられる重要なモデル。これまでのフォルクスワーゲンといえば「ゴルフ」や「ポロ」といったハッチバックのイメージが強いが、ID.3はおもにヨーロッパ市場向けのモデルであり、世界的なSUV人気を背景に、グローバルではID.4が主力とされているのだ。 ID.4を含め、ID.シリーズの各モデルは、フォルクスワーゲン・グループがBEV専用に開発したアーキテクチャーであある「MEB(モジュラーエレクトリフィケーションプラットフォーム)」を採用し、長い航続距離、広い室内、ダイナミックな走行性能の実現を目指している。BEVの要である駆動用バッテリーを前後アクスル間の床下に収める一方、駆動用の電気モーターをリアアクスルに1基、またはフロントとリアに計2基搭載するのがMEBの基本的なレイアウトだ。日本で最初に発売される、導入仕様の「ID.4 ライト・ローンチエディション」と「ID.4 プロ・ローンチエディション」は、いずれも1モーターのRRレイアウト。かつての空冷ビートルがRRを採用し、主役が水冷のゴルフに変わるのを機にFFに変わったが、次の時代に向けて再びRRが登場したのは、なんとも感慨深い。 VW流かつBEVとしての工夫が見られるデザイン それはさておき、SUVスタイルのID.4は、ボディサイズが全長4,585×全幅1,850×全高1,640mmと、同社の「ティグアン」とほぼ同じ。しかし、そのプロポーションは大きく異なり、フロントオーバーハングを切り詰め、ホイールベースを長くしたことに加えて、流麗なスタイリングを採用したのが特徴である。BEVにとって空気抵抗の善し悪しは直接航続距離に影響するが、ID.4ではCD値0.28を実現。細かい部分にも空力改善のあとが見られ、伝統的にグリップ式のドアハンドルを用いるフォルクスワーゲンが、このID.4ではフラットなデザインを採用するのもその一例だ。フラップの裏側にはスイッチがあり、それに触れるとドアが開く仕組みである。 それ以外にも、これまでのフォルクスワーゲン車とは明らかに異なるディテールが、ID.4の存在感を際立たせている。ラジエターグリルがなく、人の目を連想させるヘッドライトと、それを結ぶLEDライトストリップが、ID.4であることをアピール。夜間の表情だけを見ると最新のゴルフとの共通性も感じられ、デザインの上ではゴルフ8がID.シリーズへの橋渡し役になっていたことが容易に想像できる。 リアエンドではテールライトを結ぶ赤のライトストリップが目を惹く。さらに、上級モデルのID.4 プロ・ローンチエディションでは、テールライト内に9個の光ファイバーエレメントを重なるように配置することで、他とは異なる表情をつくりだしているのがユニークだ。 こうした工夫が先進的なイメージをもたらすID.4だが、その一方でどこか親しみやすいデザインのエクステリアに、私は好感を抱いた。 VW ID.4 Pro Launch Edition スペック 全長:4,585mm 全幅:1,850mm 全高:1,640mm ホイールベース:2,770mm 車両重量:2,140kg 乗車定員:5名 交流電力量消費率:153Wh/km(WLTCモード) 一充電走行距離:561km(WLTCモード) 最高出力:150kW(204ps)/4,621-8,000rpm 最大トルク:310Nm(31.6kgm)/0-4,621rpm バッテリー総電力量:77.0kWh トランスミッション:1段固定式 フロントサスペンション:マクファーソン・ストラット式(スタビライザー付) リアサスペンション:マルチリンク式(スタビライザー付) フロントブレーキ:ベンチレーテッドディスク リアブレーキ:ドラム タイヤサイズ:前235/50R20、後255/45R20 車両本体価格:6,365,000円

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