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EV時代が近づいているのになぜ「合成燃料」が注目される? 課題がクリアされれば「エンジン車」に乗り続けられる未来もある!


TEXT:琴條孝詩 PHOTO:TET編集部
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合成燃料が普及することへのメリット

電気自動車(EV)が次世代自動車の主役として注目を集める昨今、多くの自動車ファンがその動向に注目していることだろう。しかし、未来のパワートレインはEVだけが選択肢ではない。水素エネルギーと並び、いま熱い視線を浴びているのが「合成燃料」である。既存のエンジンを活かせる可能性を秘めたこの燃料は、カーボンニュートラル社会実現の切り札となりうるのか。この記事では、合成燃料とはいったいなんなのか、その基本を解説し、その将来性を考察してみよう。

<合成燃料とは?―グリーン水素がポイント>

合成燃料とは、化石燃料の組成と同等のエネルギーをもつ製造燃料の総称で、人工的に製造される燃料のことだ。その代表的なものが「e-fuel(イーフューエル)」とも呼ばれるもの。これは”electrofuel”の略称で、その主な原料は、二酸化炭素(CO2)と水素(H2)である。製造プロセスの核心は、再生可能エネルギー(太陽光や風力など)を用いて水を電気分解し、水素を生成するところから始まる。そして、工場や大気中から回収したCO2と、このグリーン水素を合成することで、ガソリンや軽油、灯油といった、従来の化石燃料とほぼ同じ成分の液体燃料を作り出す。

合成燃料のイメージ

このe-fuelは「カーボンニュートラル」として世界中で注目されている。しかし、なぜe-fuelはカーボンニュートラルと見なされるのだろうか。e-fuelをエンジンで燃焼させれば、当然ながらCO2は排出される。これだけ聞くと、従来のガソリンと何ら変わらないように思えるだろう。

しかし、その製造プロセスにこそ本質がある。製造段階で大気中などからCO2を回収して利用しているため、燃焼時に排出されるCO2と相殺され、理論上大気中のCO2の総量を増やさない、という考え方だ。つまり、地上にある炭素を循環させてエネルギーとして利用する、極めてサステナブルな概念なのである。これは、地下から新たな炭素を掘り起こして燃やす化石燃料とは決定的に異なる点である。

<EV時代における合成燃料の存在意義>

EVの普及が加速する現代において、なぜわざわざ複雑なプロセスを経てe-fuelを作る必要があるのか。そうした疑問をもつ方も少なくないだろう。しかし、e-fuelにはEVが抱える課題を補い、共存しうるだけの明確なメリットが存在する。

もっとも大きいのは、既存のインフラと車両をほぼそのまま活用できること。ガソリンや軽油とほぼ同じ性質を持つため、給油はガソリンスタンドで行え、輸送もタンクローリーでこと足りる。そしてなにより、現在世界中で稼働している十数億台もの内燃機関搭載車を、乗り換えることなく脱炭素化できる可能性を秘めている。EVへの移行には、充電インフラの整備の必要性や高い車両価格というハードルをユーザーに越えてもらわなければならない。が、e-fuelはそれらを一気に飛び越えるポテンシャルをもっている。

合成燃料を使う市販車ベースの実験車

また、エネルギー密度の高さも特筆すべき点だ。EVの航続距離を延ばすには、重く、かさばるバッテリーを大量に搭載する必要があり、とくに大型トラックやバス、建設機械といった分野での完全電動化には技術的な壁が存在する。さらに、船舶や航空機にとって、バッテリーの重量は致命的だ。その点、e-fuelは液体であるためエネルギー密度が非常に高く、軽量かつコンパクトなタンクで大量のエネルギーを貯蔵・輸送できる。これは、電気や水素燃料ではカバーしきれない領域の脱炭素化を実現する、まさに切り札となりうるのだ。

タンクローリーのイメージ

そして、クルマ好きにとって見逃せないのが、内燃機関という文化を未来に残せるという点だろう。効率や合理性だけでは語れない、エンジンの鼓動を感じる官能的なサウンドと振動、それらとともにクルマを操る楽しさは、自動車文化の根幹をなすものだ。e-fuelは、こうしたエンジンの魅力を維持したまま、環境性能を担保できる唯一の選択肢かもしれない。ポルシェが大規模な実証プラントを稼働させたり、日本の自動車メーカーがスーパー耐久シリーズなどモータースポーツの場で開発を進めたりしているのも、その可能性を信じているからにほかならない。

スーパー耐久に参戦するMSPR

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