VWのBEV戦略
フォルクスワーゲンは、2026年までに10種類のBEV(バッテリー電気自動車)を投入し、ヨーロッパにおける内燃エンジン搭載車の生産は2033年までに終了する予定である。この目標に向けて、BEVの「ID.」シリーズの最初のモデルであるハッチバックの「ID.3」を2020年10月に発売。これを皮切りに、SUVの「ID.4」、SUVクーペの「ID.5」、“ワーゲンバスの再来”として注目を集めるミニバンの「ID.Buzz」をすでに市場に投入している。このなかから日本市場に最初に送り込まれたのが「ID.4」である。
ID.4は、フォルクスワーゲンのID.シリーズのなかで、世界戦略車と位置づけられる重要なモデル。これまでのフォルクスワーゲンといえば「ゴルフ」や「ポロ」といったハッチバックのイメージが強いが、ID.3はおもにヨーロッパ市場向けのモデルであり、世界的なSUV人気を背景に、グローバルではID.4が主力とされているのだ。
ID.4を含め、ID.シリーズの各モデルは、フォルクスワーゲン・グループがBEV専用に開発したアーキテクチャーであある「MEB(モジュラーエレクトリフィケーションプラットフォーム)」を採用し、長い航続距離、広い室内、ダイナミックな走行性能の実現を目指している。BEVの要である駆動用バッテリーを前後アクスル間の床下に収める一方、駆動用の電気モーターをリアアクスルに1基、またはフロントとリアに計2基搭載するのがMEBの基本的なレイアウトだ。日本で最初に発売される、導入仕様の「ID.4 ライト・ローンチエディション」と「ID.4 プロ・ローンチエディション」は、いずれも1モーターのRRレイアウト。かつての空冷ビートルがRRを採用し、主役が水冷のゴルフに変わるのを機にFFに変わったが、次の時代に向けて再びRRが登場したのは、なんとも感慨深い。
VW流かつBEVとしての工夫が見られるデザイン
それはさておき、SUVスタイルのID.4は、ボディサイズが全長4,585×全幅1,850×全高1,640mmと、同社の「ティグアン」とほぼ同じ。しかし、そのプロポーションは大きく異なり、フロントオーバーハングを切り詰め、ホイールベースを長くしたことに加えて、流麗なスタイリングを採用したのが特徴である。BEVにとって空気抵抗の善し悪しは直接航続距離に影響するが、ID.4ではCD値0.28を実現。細かい部分にも空力改善のあとが見られ、伝統的にグリップ式のドアハンドルを用いるフォルクスワーゲンが、このID.4ではフラットなデザインを採用するのもその一例だ。フラップの裏側にはスイッチがあり、それに触れるとドアが開く仕組みである。
それ以外にも、これまでのフォルクスワーゲン車とは明らかに異なるディテールが、ID.4の存在感を際立たせている。ラジエターグリルがなく、人の目を連想させるヘッドライトと、それを結ぶLEDライトストリップが、ID.4であることをアピール。夜間の表情だけを見ると最新のゴルフとの共通性も感じられ、デザインの上ではゴルフ8がID.シリーズへの橋渡し役になっていたことが容易に想像できる。
リアエンドではテールライトを結ぶ赤のライトストリップが目を惹く。さらに、上級モデルのID.4 プロ・ローンチエディションでは、テールライト内に9個の光ファイバーエレメントを重なるように配置することで、他とは異なる表情をつくりだしているのがユニークだ。
こうした工夫が先進的なイメージをもたらすID.4だが、その一方でどこか親しみやすいデザインのエクステリアに、私は好感を抱いた。