インタビュー 記事一覧

インタビュー インタビュー
TEXT:小川フミオ
「フォーミュラEのおかげでI-PACEの航続距離が伸びました」マネージング・ディレクターが語るジャガーの電動化

フォーミュラEを傍らにして「私たちはこれからBEVのメーカーになる」と明言するグローバー氏に、小川フミオはジャガーの未来像を聞き出す。それは同社の電動化における存在価値への言及だった。 レースからロード、ロードからレース −−フォーミュラEでの活動は、ジャガーの未来と密接に関係しているということですね。 「フォーミュラEはよくご存知のとおり、完全なBEVのレースです。私たちはこれからBEVのメーカーになるので、相性がいいんです。いままで以上に結びつきを強めていくつもりです。いま、私たちがフォーミュラEの活動から得られるものはたくさんあると思っています。それを私たちは、”Race To Road”、レースカーからロードカーへ、と呼んでます」 −−興味ぶかいです。レースからロード、ロードからレースっていう、ジャガーのスローガンですね。 「たとえば、フォーミュラEマシンの技術を応用して、I-PACE(アイペース=ジャガーが2018年から作っているBEV)の航続距離を30マイル、延長することができました。なので、このレースはとてもいい結果をもたらしてくれているんです」 −−つまりフォーミュラEへの参戦は、技術的も、そしておそらくイメージ的にも、ジャガーにとっておおいにプラスになると。 「いまのところ、技術的な恩恵が大きいです。電動化することで、いままでより若い世代の興味を惹きつけることができると思っています。フォーミュラEが、そもそも、そういう側面を強くもったレースですし。なので、信じている方向へと進む先にあるのが、私たちにとって、よいかたちの未来なのです」 −−それと同時に、モータースポーツ活動における存在感ですね。たんにBEVのブランドでなく、レースでちゃんと速い、というのはイメージ的にも重要なはずです。 「そうです、モータースポーツで強い、という私たちの強みを知らしめていくことも、同時に重要です。これまで私たちが積みかさねてきたモータースポーツにおける栄光が、これからも目標になっています。ただしそれをサステナブルなやりかたで追求する。そこに、今後のジャガーの存在価値があります」 電動化における存在価値は、サー・ウイリアム・ライオンズが導いている −−プロダクションについての質問です。ジャガーはどうやって、電動化の時代に存在価値を高めていこうと考えていますか。 「ブランドはたいへん重要だし、守っていく価値のあるものだと理解しています。90年におよぶ、たいへん豊かな内容の歴史です。そもそもジャガーが大きく評価されたのは、世界でもっとも美しいクルマを作ったからです。ジャガーの前身であるSSカーズの創設者サー・ウイリアム・ライオンズは、こう言っています。ジャガーの名声は、既存のクルマのコピーでないところから発したのだと」 −−それはたいへん興味ぶかい発言だし、ジャガーがその言葉を少なくとも1960年代までは忠実に守ってきたのは、歴史を振り返るとよくわかります。 「そうなのです。それを守ってきたのです。というか、これからもういちど、創設者によるクルマづくりの精神を考え、ジャガーの最高の時代に立ちかえるべきだと考えています。ジャガーは、ほかと違っていることを厭わなかった。なにかをやるにしても、ほかのメーカーとは、違うようにやろうとしました」 <Vol.3へ続く>

TAG: #ジャガー #フォーミュラE #戦略
TEXT:小川フミオ
「ジャガーはフォーミュラEの技術を量産車へ」マネージング・ディレクターが語る電動化への姿勢

フォーミュラEへ参戦するジャガーの本気度を目の当たりにした小川フミオは、サーキットで同社マネージング・ディレクターに、その真意を問いかける。 技術的蓄積を、次世代量産車に投入 英国のジャガーはいま、ピュアEVのブランドへと舵を切りつつある。ピュアEVのレース「フォーミュラE」に本腰を入れて取り組み、そこで得た経験を「I-PACE」の改良に注ぎ込む。 それだけでない、と言うのは、ジャガー担当マネージングディレクターのロードン・グローバー氏だ。 ジャガーは2016年から参戦しているフォーミュラEで得た技術的蓄積を、次の世代の量産車開発に反映しているそうだ。 2023年7月29日にロンドンで、フォーミュラE選手権が開催されたのを機に、グローバー氏に、BEVへと向かうジャガーの姿勢をインタビューするチャンスを得た。 「レース活動は、私たちのDNA」 次は、レースが行われたイーストロンドンの「ExCeLロンドン」を舞台に、グローバー氏との一問一答。 −−ジャガーTCSレーシングは、今回ロンドンで最終戦を迎える2022−23年のフォーミュラEで好成績を記録しています。 「フォーミュラEは、私たちのブランドにとって、とても大切だと思ってやってきました。なぜなら、レース活動は、私たちのDNAの一部だからです。私たちは、ずっとモータースポーツ活動を続けてきました。最初は1949年に時速120マイルと世界最速を謳ったスポーツカーを発表し、その年シルバーストン(サーキット)でレースに投入、翌50年はXK120Sとしてルマン24時間レースに出走し、プライベートのエントラントが総合12位で完走しています。そのあとも、ルマンで2回優勝したCタイプ(51年)、4回優勝したDタイプ(54年)、ずっと後になりますが、88年のデイトナ24時間レースとルマンで優勝したXJR-9、そして2000年から2004年にかけてはF1にも参戦していました。でも、今回は、地球環境保全(サステナビリティ)を念頭に置いたレース活動として、フォーミュラEに参戦しています」 −−でも、2016−17年のシーズン3でフォーミュラEに参戦してから、平坦な道ではなかったはずです。2020−21年シーズンでようやく3位に浮上するまで、6位とか7位とかで低迷していました。シーズン9はとりわけ調子いいですね。 「そうなんです。ずいぶん多くのシーズンを過ごしてきて感じるのは、シーズンごとに、フォーミュラEはどんどん力をつけてきているなということです。それに、大きくなっています。たとえば、宣伝力がついてきているし、観客動員数もどんどん多くなっています。今回のロンドンでは、ピット前の観客席は満員に見えますよね。シリーズごとに人気が出ている証明でしょう」 −−ジャガーが強くなったのは、いいパートナーと組めているからでしょうか。 「それもあります。私たちと一緒に組みたいと言ってくれるパートナー企業が増えています。そうすると、どんどん高い技術力が手に入ります。それに、あなたがたのようなジャーナリストが取材に来てくれる。こうして、フォーミュラEでの活動は、さまざまな面で、いい成果を私たちにもたらしてくれるのです」 <Vol.2へ続く>

TAG: #ジャガー #フォーミュラE #モータースポーツ
TEXT:曽宮 岳大
アイオニック5オーナー、ななみんさんにスマートハウス化されたご自宅を見せてもらった

ご自宅のスマートハウス化に向け、「蓄電池を買うよりコスパが良い」ということでEVに興味を持つようになり、ヒョンデ アイオニック5を“動く蓄電池”として、そして移動手段としても愛用されているななみんさん。前編に続き、今回は立派なご自宅を見せていただいたので、ご紹介したい。 リフォームと併せて約10kWの太陽光パネルを設置 大きな戸建てのご自宅には、リフォームの際に家庭用としては大容量の10kWの太陽光パネルが装着されている。そこで発電した電力は、家庭の使用環境に合うようにパワーコンディショナーにより直流から交流に変換され、屋内の分電盤に送電される。また屋外のV2Hにも接続されており、クルマへの充電やクルマから自宅への放電が可能となっている。   ななみんさんは、そもそもなぜスマートハウス化をやってみようと思ったのですか? 「以前は都内の戸建てに住んでいたんです。私は元々ガジェットや家電好きで、おうちハック(自宅時間を効率的に過ごすためのノウハウ)を色々と試してみたのですが、賃貸物件だったので、例えば節電をしようとしても、できることに限界を感じていたんです。そこでリモートワークが可能になったのを機に、郊外の大きめのおうちに引っ越し、太陽光パネルを導入してスマートハウス化を実現しよう!という流れになりました」 スマートハウス化にあたり、必要となる様々な設備の仕様やスペックはどのように決めたのですか? 「重量鉄骨の一戸建てを購入し、住む前に家をリフォームしたので、その際にハウスメーカーさんと相談しながら決めていきました。担当の方から“この屋根の面積と強度があれば家庭用の最大容量である10kWの太陽光パネルを載せられますよ”とお聞きしたので、エクソルの太陽光パネルを約10kW分載せることにしました。施工にあたっては、屋根の塗り替えをするために足場を組むので、それをそのまま活用して太陽光パネルの設置工事をしてもらいました」   パワーコンディショナーはどのように決めたのですか? 「パワーコンディショナーはいくつか候補がありましたので、その中から保証期間の長いものを選択しました。というのも、パワーコンディショナーは常時作動するもので、故障の可能性があると聞いていましたので、保証期間が15年のオムロンの製品を選びました。4kWと5.5kWの2台のパワーコンディショナーを設置し、システム容量は9.5kWとなります」   「あとはHEMS(ヘムス=ホームエネルギーマネジメントシステム)という、電力の使用状況を見える化する機器を導入しました。そこまではハウスメーカーさんの取り扱い機種の中から選択し、リフォームの中で対応しました」 >>>次ページ V2HはニチコンのEVステーションをチョイス

TAG: #アイオニック5 #オーナーインタビュー #スマートハウス
ロールス・ロイス スペクターのフロントビュー
TEXT:小川フミオ
ロールス・ロイスはEV時代もスペックを語らない。CEOが語るスペクターが目指した「あるべき姿」

ロールス・ロイスはかつて、エンジンパワーをことさらに語らず「必要にして十分」とのみ記していた。今回、スペクターについてのインタビューでも、CEOはほとんど数字について触れることはなかった。電気自動車の時代になっても、彼らは彼らの流儀を守り続ける。その事実は、そんなところにも表れているようだ。 リリースに時間がかかった理由 ロールス・ロイスのBEV「スペクター」が登場するまでに、意外なほど長い時間がかかった、といえるかもしれない。 他社が次々とBEVを発表するのを横目に見ながら、満を持してのお披露目が2022年10月。そしてジャーナリストに試乗の機会が提供されたのが2023年7月。 「時間がかかったのは認めます。理由は、私たちがやるからには、完璧なモデルを出したかったからです。BEVの研究は、すでに知っているひとも多いと思いますが、10年以上にわたって続けてきました。そこでついに、ということです」 ロールス・ロイス・モーター・カーズのトルステン・ミュラー=エトヴェシュCEOは語る。スペクターはセグメントで初のBEVであるのも事実。なのでそう慌てる必要もなかったと続ける。じっくりと完璧をめざす。それがロールス・ロイスの姿勢というのだ。 いっぽう、ロールス・ロイスのBEVは、ドライブトレインをBMW「i7」と共用するというグループ内の計画に沿ったタイミングもあったのでは、と推測される。 ただし、あまりに皆がi7との共通点を質問するので、一度はロールス・ロイス側から、商品(スペクター)説明に先立って「みなさんは2台がじつは同じクルマなんじゃないかと聞きたいかもしれないですが(間を置いて)まったく異なったクルマです」と前置きしたこともあったと聞く。 スペクターは(i7と異なり)アルミニウムの押出し材を使ったスペースフレーム構造を採用する。ロールス・ロイスが「アーキテクチャー・オブ・ラグジュアリー」と呼ぶものだ。設計の自由度は高く、2030年までにラインナップを電動化するというロールス・ロイスの計画に適したものという。 「スペクターを皮切りに、これから、BEVモデルが出てきます。そのときも、ロールス・ロイス車のポリシーともいえる、エフォートレスドライビングやマジックカーペットライドは守ります。先に進みながらもヘリティッジを大切にする。このポリシーで作る未来のBEVは、デザインは新しいかもしれません。でも誰が乗ってもすぐに、ロールス・ロイスだ、とわかるモデルになっていくはずです」 数字よりも大切なこと インタビューをしていて、私がおもしろいなと思ったのは、ほとんど数字が出てこないことだ。バッテリー容量の話もないし、航続距離や加速性能の自慢もない。 CO2排出量を含めた地球環境保全のことは、すこし触れられたが、話題の内容は、もうすこし漠然とした“ロールス・ロイスらしさ”について。ただし別の面からみれば、モーターやバッテリーの性能よりも広い視野に立った、クルマづくりのポリシーの話である。 「私たちは数字のことを語りませんね。数字をどうこういうブランドではないのです。私たちにとって重要なのは“フィーリング”を伝えて、それを理解してもらうこと。具体的に語るのは難しいテーマなのは承知しています。作る側としては、からだに染みついたフィーリングで、乗ってもらうと、すぐに私たちの意図をわかっていただけるのです」 ミュラー=エトヴェシュCEOは、どう説明したらいいのだろうと一瞬思ったのか、ちょっとじれったそうに、そう言いながら、笑顔を見せる。たしかに「数字よりもフィーリングだ」なんて堂々と言える自動車メーカーが、ほかにどれだけあるだろうか。 「電動化してもロールス・ロイスらしさを守るには、きちんとした設計が必要です。私たちは、いまのカリナンやゴーストを電動化することはありません。これから登場するロールス・ロイスのBEVは、まったく新しいものです」 新しい、でも、伝統的。こういう興味深い命題を抱えながら製品づくりをするところが、まさにロールス・ロイスなのだろう。

TAG: #EV #スペクター #ロールス・ロイス #電気自動車
ロールス・ロイス スペクターのフロントビュー
TEXT:小川フミオ
誰が乗ってもロールス・ロイスと感じるEVが出来た理由。CEOが語るスペクターが目指した「あるべき姿」

ロールス・ロイス「スペクター」は、電気自動車だからといって、これまでのICE車と大きくかけ離れたデザインや仕掛けは与えられていない。なぜなら、グッドウッドから送り出すべきは、斬新なEVではなく、あくまでロールス・ロイスであるべきだから。同社CEOはそう語る。 ロールス・ロイスならではの開発要件 「ロールス・ロイスが手がけるBEVは、いかにもBEVでございというデザインである必要はありません」 そう語るのは、ロールス・ロイス・モーター・カーズのトルステン・ミュラー=エトヴェシュCEOだ。最初はシリコンバレーも候補地だったけれど、顧客のライフスタイルとの相性がよりよい場所にしようと選ばれたというプレミアムワインの産地、ナパバレーでの試乗会でのインタビューにおける発言だ。 スタイルしかり、とミュラー=エトヴェシュCEOは続ける。 「BEVを開発しようと決定してから私の頭のなかにずっとあったイメージは、乗るひとに感動してもらえるスタイルがほしい、ということでした。そこでワーミング(デザイン統括)とディスカッションし、美しいファストバックのクーペこそ、ロールス・ロイス初のBEVにふさわしい、と決めました」 クーペ(本来はホイールベースを短く切り詰めた、という意味)といっても、きちんと4人の大人が乗れるパッケージングは重要というのも、スペクター開発当初からの要件だった。 ロールス・ロイスの調査によると、顧客の多くは、パーソナルな雰囲気の強いクーペを好んでも、それでも友人たちと4人でレストランに出かけるなどのスタイルを送れるクルマを欲しがっているそうだ。 顧客に提供したいロールス・ロイス像とは、よく書かれているように、従来からロールス・ロイスが大事にしてきた特徴を、きちんと備えているものだったそうだ。 「ロールス・ロイスでは、いくつもの要件があります。力の要らない操縦性であるエフォートレスドライビング、飛んでいるように路面からの衝撃を受けず、そして静かなマジックカーペットライド、それにワフタビリティと私たちが呼ぶ静かな水面を進んでいくような乗り心地とか。これらを、スペクターも継承するのが、私が開発陣に対して出した条件です」 目指したのはICE車と同じフィーリング 結果は、まさにミュラー=エトヴェシュCEOの要望どおりに仕上がった。スペクターがBEVと知らされないまま運転する機会をもったロールス・ロイス車のオーナーがいたとしたら、操縦性になんの違和感も抱かないにちがいない。 「開発総責任者を務めてくれたドクター・アヨウビは、私が何を求めているか、最初に“BEVを作ることになったよ”と電話したときに、すぐ理解してくれたようです。私のなかにも、彼のなかにも、もはやロールス・ロイス車のフィーリングが染みついていて、なので、何度もテスト車の試乗を繰り返すなかで、お互いの言いたいことはすぐにわかったんです」 とくにBEVは、エンジン車と車体構造が異なるし、重心位置もちがう。スペクターに乗った瞬間に驚くのは、102kWhもの大容量のプリズム型バッテリーのパックを搭載しているはずなのに、床面は低く、サイドシルも低いこと。従来のICEのロールス・ロイスそのままなのだ。 「同じような乗り心地を実現することに彼は苦労していましたが、どんどんよくなっていって、それに感心しました。私が欲しいものを彼はちゃんと与えてくれる。私たちは言ってみれば、魂でつながる兄弟みたいだなあと思いました」 Vol. 3につづく

TAG: #EV #スペクター #ロールス・ロイス #電気自動車
ロールス・ロイス スペクターのフロントビュー
TEXT:小川フミオ
ロールス・ロイスがEV開発でも貫く独自の流儀とは。CEOが語るスペクターが目指した「あるべき姿」

ロールス・ロイス初のピュアEV「Spectre(スペクター)」。大容量のバッテリーと2基のモーターを搭載した4シータークーペは、電気自動車であることよりも、「ロールス・ロイスであること」を念頭に開発されたという。V12で走ろうと、電気で走ろうと、我々は変わらない−−その揺るぎない信条の源泉を、同社CEOが語る。 熱心なファンを失望させたくない ロールス・ロイスが2023年7月に米国でジャーナリスト向けの試乗会を開催したBEV「スペクター」。注目点は、「ロールス・ロイスであることが第一で、BEVであることはその次」であったこと。 発言の主は、ロールス・ロイス・モーター・カーズを率いるトルステン・ミュラー=エトヴェシュCEO。2010年からロールス・ロイスを率いている、いってみれば「ミスターRR」だ。 ロールス・ロイス以前の経歴をみると、BMWグループでの経験が長い。1989年にBMWに入社し、バイスプレジデントを経て、2000年からミニのブランド戦略と製品マネージメントをディレクターとして統括。2004年にBMWに戻り、シニアバイスプレジデントとして、製品マネージメントやアフターセールスを担当していた。 2022年10月に英国南部グッドウッドにあるロールス・ロイス・モーター・カーズ本社で、ジャーナリスト向けにスペクターのお披露目があったのだが、そこで私がミュラー=エトヴェシュCEOにインタビューしたところ、やはり「ロールス・ロイスであることを念頭に開発している」との発言があった。 「13年間、ロールス・ロイスにいて、ロールス・ロイスの熱心なファンである顧客と接しているうちに、自分のなかで“ロールス・ロイスとはなにか”という概念が形成されていきました」 グッドウッド本社を、新旧のロールス・ロイスに乗った顧客たちが訪ねてくることは少なくないそう。個人的訪問であり、ちょっとロールス・ロイスについて話したいんだけど、と会話が始まるんだとか。 顧客の意見をたいへん大切にしています、とのフレーズが、発言のところどころに出てくるのは、そういうわけだろう。 「熱心なファンを失望させたくない、という思いは強くありました。電気化しても、従来のV12エンジン搭載車と同じ運転感覚をもつ、というのは、じつは大変なことです」 電気自動車「らしさ」は不必要 今回、プレミアムワインで知られるナパバレーの試乗コースのなかにコーヒーストップもあった。駐車場にスペクターを停めると、わらわらっと米国人が駆け寄ってくる。 たいてい笑顔で、「これが電気で走るロールス・ロイスですね」と話しかけてくる。みんなよく知ってるなあと逆にこちらが感心するほどだ。 ビバリーヒルズのロデオドライブで乗ったら、かなり注目されるであろうことを請け合いますよ、とミュラー=エトヴェシュCEOは笑顔で言う。 「お披露目したとき、顧客はみな、誰もが乗りたがりました。でもそのときは、見せられるクルマは1台だけ。顧客はそれを知っていますから、運転席に腰をおろして、“納車が待ちきれないよ”って言うんです。ただ、その時点で、本当にこれがロールス・ロイスのBEVなのか、って確認されました」 ロールス・ロイス初の量産BEVであり、すべてが新しいと知っているひとは多くても、見た目は他のブランドのBEVのような特別感がない。BMWのたとえば新型5シリーズにおけるBEVモデル「i5」のほうが、よほど特別な雰囲気がある。 乗りこんでも、同様。あえてBEVらしいデザインなんてない。そここそ、ミュラー=エトヴェシュCEOが口を酸っぱくして、開発スタッフに説いた目的だったのだそうだ。 Vol. 2へつづく

TAG: #EV #スペクター #ロールス・ロイス #電気自動車
TEXT:小川フミオ
スペクターの開発は好機だった、と語る開発責任者が、初の量産BEVへ込めた「ロールス・ロイスのDNA」とは

振り返るドクター・ミヒア・アヨウビ氏。それはBEVにおいて「ロールス・ロイス」を実現する新たな術だったことを、自動車ジャーナリスト・小川フミオが訊き出す。 ロールス・ロイスのDNAに忠実なプロダクト ロールス・ロイス初の量産BEV「スペクター」のエンジニアリングを統括した、ドクター・ミヒア・アヨウビは、シャシーやサスペンションシステムなど、ロールス・ロイスらしさを実現するため、多大な努力を要したという。 ーーBEVはロールス・ロイスにとって、いってみれば、なじみのあるもの、ということですが。それは技術的な蓄積のことでしょうか。それとももっと根源的なことなのでしょうか。つまり、クルマづくりの思想につながるもの、という。 「電気はシンプルな技術です。たいへんだったのは、クルマをどう動かすか、でした。電気の動力は困難を伴う技術だからでなく、もてる技術を最大限使って、私たちのDNAに忠実なプロダクトをあらたに設計しなおすことでした」 ーー重要だったのは、クルマの“挙動”をどう作るか、だと? 「ロールス・ロイスを特徴づけている、いくつかのキーワードがあります。それについては、何度となく触れているとおりですが、もういちどおさらいしてみましょう。“エフォートレス”(な操縦性を生み出すの)はラテラルなクルマの動き、”ワフタビリティ”は縦方向の動き、“マジックカーペットライド”は垂直方向の動きです。もちろん、それらの協調制御が必要なのです。まずそれらをどう実現できるかが課題でした」 ーーははあ、なるほど。 「思いどおりのハンドリングを作りだすことは、たいへん重要です。山岳路のようなワインディングロードを走っていて、カーブに入るときは、ステアリングホイールの舵角をうまく当て勘でぱっと決めていける。そうすると、乗っているひとは、クルマを思い通りに操れると自信をもてるわけです。ロールス・ロイスの顧客には、ステアリングホイールを指でつまむようにして操縦できる特性を好んできたひとも少なからずいます。それは、スポーティではないけれど、正確な、ロールス・ロイスならではの操舵特性も大きく寄与しているのです」 技術をいかす好機 ーーそのためにはさまざまな技術が必要だったのですね。 「車体のねじれ剛性をどう制御するか、ですね。クルマにかかる力と、その方向が合致していることこそ、思いどおりのハンドリングと、エフォートレスな操舵特性に必要なものなのです。BEVというと一般的に、車体ぜんたいを強固に設計するのですが、スペクターではキャビンの前後ともに、あえてすこし曲げ剛性を落として、全体がしなやかに動くように設計しています」 ーーコーナリング特性については、重いバッテリーを床下に積むBEVは安定性が高いという特徴をもっています。 「重心高が高いと、コーナリング中に車体のロール角が大きくなるのはご存知のとおり。車体の過大なロールは快適な乗り心地のために避けたいので、私たちはアクティブロールバーを採用しました。左右のサスペンションの動きを個別に制御できるので、スポーティにもコンフォタブルにも走ることが可能なのです」 ーー開発はチャレンジの連続だったわけですね。 「クルマの開発においては、まずエンジンから始めることが多々あります。今回は正反対ともいえるアプローチです。私たちはボディから手をつけました。ホイールから考えようと。それがもっとも難しかった点です。ただし、無理かもしれないことに挑戦するという意味でのチャレンジなら、そうではありません。これは私たちにとっての好機だったのです」 <完>

TAG: #EV #スペクター #ロールス・ロイス
TEXT:小川フミオ
スペクターの開発で、つねに念頭においてあったこととは何か。開発責任者が語る「ロールス・ロイスらしさ」

「すべてにおいて、クルマが揺れないこと」とドクター・ミヒア・アヨウビ氏は、BEVのスペクターで意図したロールス・ロイスらしさの一端をいう。その実現への要素を、自動車ジャーナリスト・小川フミオが訊いた。 V12とおなじように走ること。先ず、ホイールから ロールス・ロイス初の量産BEV「スペクター」のエンジニアリングを統括したドクター・ミヒア・アヨウビと、彼のチームが、開発中に、つねに念頭に置いていたのは、従来のV12気筒搭載のロールス・ロイス車とおなじように走ることだったという。 ーークルマの開発においては、「BMW i7」と歩調を同じくする必要があったのでしょうか。 「スペクターの発表いらい、よく質問されました。なかには”同じ中身なんですよね”という質問ありました。じっさいはまったく違います。スペクターのプラットフォームは、私たちがアーキテクチャー・オブ・ラジュアリーと名づけたアルミニウムの押出し材を使ったスペースフレームです」 ーー開発にあたって難しい部分はどんなところでしたか。 「いろいろありました。23インチの大径ホイールを履かせることになったので。ホイールは、とても重要なのです。クルマと道とのインターフェイスであり、ドライブトレイン、ステアリング、アクティブロールバー、エアサスペンション、アクティブダンパーといったスペクターの機能と、密接に結びついています。 ーーたしかにクルマの物理的な要素はすべて関連づいていますね。 「そこで私たちは、車輪からスペックを決めていくことにしました。まず最終減速比を決め、そこから戻っていって、モーターのトルクを決定していったのです。なぜかというと、スムーズなトルクで、私たちが“ワフタビリティ”(水の上を進んでいくように走るの意)と呼ぶ走行特性を実現するためです」 「私たちの“エフォートレス・ドライビング”」 ーートルクの設定でもロールス・ロイスらしさが大事だったということですね。 「トルクがたっぷりあるBEVのキックダウン(アクセルペダルを強く踏み込むこと)は、野生の馬みたいなかんじでしょう。ロールス・ロイス的ではないですね。ゴルフはプレーしますか? ゴルフでのベストショットって、クラブを一所懸命振る感覚がなく、すーっと無意識的に腕を振り抜くかんじでしょう。それと私たちの“エフォートレス・ドライビング”は近いものがあります」 ーーエフォートレスはロールス・ロイスが長いあいだ使ってきた単語ですね。 「とてもスムーズに走る印象を与えること。クルマの慣性質量を計算して、どの速度域でもそれを頭に入れながら適切なトルクをコントロールできるように設定しています。それが“ワフタブル”であること。船が水上をいくように。加速、コーナリング、ブレーキングすべてのおいて、クルマが揺れないことが重要です。たとえ車中で、シャンパーニュを満たしたグラスを手にしていても、なんの問題もなく走れる。私たちはこれをChampagne Stopと呼んでいます」 ーーたしかに、たとえワインディングロードを速いペースで走っても、強いGは感じられません。 「私たちは強すぎる加速は抑えたんです。もしそうすると、クルマはピッチングの挙動を生じます。そこで加速のときは慣性質量を感じさせないような動きを意識しました。乗っているひとにとって、車内はラグジュアリーなリビングルームなのです。なのでそれにふさわしい走りが体験できなくてはなりません」 Vol.4へ続く

TAG: #EV #スペクター #ロールス・ロイス
TEXT:小川フミオ
スペクターの開発責任者が語るロールス・ロイスにとっての「電気化」とは

BEVを作るのではなく、ロールス・ロイスを作る意識。スペクターの開発責任者のドクター・ミヒア・アヨウビ氏は語る。この理由を、自動車ジャーナリスト・小川フミオがインタビューを通して明らかにする。 それは1本の電話からはじまった ーー最初に、「ロールス・ロイスがBEVを作る」と、トルステン・ミュラー=エトベシュCEOから連絡があったのですね。 「はい、それは電話で、夜中の2時でした。“ミヒア、BEVを作ろう”と。私は即座に応えました。“ロールス・ロイスを作るんですね”と。エンジニアたちやデザイナーたちのあいだで、このことはマントラのように唱えられているんですが、では、ロールス・ロイスって何を意味しているのか。作るがわからすると、ロールス・ロイスのプロダクトは、すばらしいデザインと、みごとな技術とクラフツマンシップが融合したものです」 ーーもういちど確認させてください。そこにはBEVであることが重要な要素だったのですか。 「電気化をまっさきに強調する意味はないんです。電気化は、いってみれば、なんでもないのです。電気化されたドライブトレインは、たしかに現在最高レベルにあると自負しているものの、でも、スペクターという新型車を構成する、たんなる部品にすぎないのです」 エモーショナルなものに ーーV12気筒エンジンからの自然な置き換えなのですね。 「これまで私たちの顧客は、ロールス・ロイス車のV12の静粛性と、大きなトルクを使ってアクセルペダルを強く踏まなくても進んでいく独特な走り、そして変速ショックが感じられず、1段のギアだけしか使っていないようなスムーズさを愛していました。電動化は時代の趨勢という部分もありますが、それより、私たちにとっては、当然の移行という側面が強いのです」 ーーついにこのときが来た、ということですか。 「私たちは長いあいだ、BEVを研究してきました。その過程で、たとえば102EXと名付けたコンセプトモデルを公開しました」 ーー4ドアセダンである「ファントム」をベースにした電動車として、2011年のジュネーブ自動車ショーで公開されたモデルですね。エンジンルームに、モーター、インバーター、バッテリーを入れて、車体色は「アトランティッククローム」なる明るいブルーの車体色で、輝くスピリット・オブ・エクスタシーも印象的でした。 「いまを電気の時代というなら、このときにロールス・ロイスがBEVを出すなら、私たちにとって最初の量産BEVは、デザイン的にも、観たひとの気分を沸き立たせるようなエモーショナルなものであるべきです。そこでスペクターはクーペボディになりました。シルエットの美しさを実現するのは、デザインチームにとって、なかなかたいへんな作業だったようですが。サルーンやSUVを作るのも、私たちにとってはむずかしいことではありません」 Vol.3へ続く

TAG: #EV #スペクター #ロールス・ロイス
TEXT:小川フミオ
ロールス・ロイスがBEVを手がけることとは。開発責任者が語る「スペクター」開発ストーリー

初のBEV「スペクター」を発表したロールス・ロイス。自動車ジャーナリスト・小川フミオが、同社のEVへの考えを、開発責任者ドクター・ミヒア・アヨウビ氏から訊き出す。 ロールス・ロイスのフィーリングを、最新のテクノロジーで ロールス・ロイスが初めて手がけた量産BEV「スペクター」。 開発の立役者といえば、ロールス・ロイス・モーターカーズ社でディレクター・オブ・エンジニアリングを務めるドクター・ミヒア・アヨウビだ。 「ロールス・ロイスにとって最も重要なのことは、どんなパワートレインだろうと”ロールス・ロイスらしさ”を保持すること。彼ならそれが何を意味しているかわかっています」 同社の、トルステン・ミュラー=エトベシュCEOのお墨付きを得ているのが、ドクター・アヨウビだ。 ドクター・アヨウビへのインタビューでおもしろかったのは、いっぷう変わった内容になったこと。 通常、新車発表の場だと、いかに新しいクルマを作ろうと思ったかが話の中心になる。それに対して、スペクターでは(上記のように)いかに従来のロールス・ロイスと同様のフィーリングを実現したかについてドクター・アヨウビは語った。 ーースペクターの特徴を、開発責任者の立場から解説していただけますか。 「スペクターを語るとき、私は数字を使わないんです。数字っていうのは、出力とかバッテリー容量とかですけれど。なぜかというと、ロールス・ロイスの特徴は数字で語れないからなのです」 ーーというと? 「私と私の開発チームがやった仕事は、ロールス・ロイスの哲学と、製品のもつ、いってみればフィーリングを、最新のテクノロジーで実現することでした。なので、スペクターについて語りたいのは、いかにしてそれを電気で実現したかということです」 「私が作ったのはBEVではないのです」 ーーミュラー=エトヴェシュCEOも、そもそもロールス・ロイスは電気と相性のいいクルマだったと言っていました。 「そうなんです。電気化はロールス・ロイスにとって新しいことではありません。創業当時に電気化のアイディアがありましたから。創業者のひとり、サー・ヘンリー・ロイスは機械エンジニアでなく電気エンジニアでした。彼の父も電気エンジニアでした」 ーーそれは歴史の本にも書いてある事実ですね。 「私が強く信じているのは、彼が12気筒エンジンを設計したとき、頭のなかにあったのは、電気モーターで走るようなエンジンを作りたいってことです。当時もエンジニアはみな、鉄道だって、電気になるだろうと信じていました。でもじっさいは技術的な問題から、蒸気機関でした。自動車に関しても同様だったのですが、動力源になりうる技術的な裏付けと、充電時間など、障壁がたちふさがっていたんですね」 ーーそして、ついにその時がきた、と。 「私たちは、電気モーターを動力源につかえるぐらい技術が発展するはずと予測していていましたし、このところ、私たちの顧客のなかから、ロールス・ロイスの電動化をポジティブに考える声が上がってきました。すべてのタイミングが合致して、私たちはこうしてEV化の考えをじっさいに実現することになったのです」 ドクター・ミヒア・アヨウビ(Dr. Mihiar Ayoubi氏)プロフィール BMWグループからロールス・ロイスに入社し、20年以上にわたって、コンセプト、アーキテクチャー、インテグレーション部門の責任者を務める。これまで音響・振動、ダイナミクス開発、シャシー制御システム、ドライブトレイン開発、全輪駆動、ドライバー・アシスタンス・システムなどの部門を統括。また、ニューファントムのエンジニアリング・コンセプトにも携わっており、ロールス・ロイスにも精通している。2018年3月1日付けで、ロールス・ロイス・モーター・カーズ社ディレクター・オブ・エンジニアリングに就任。ダルムシュタット工科大学で制御システム工学と応用人工知能の学位と博士号を取得。 Vol.2へ続く

TAG: #EV #スペクター #ロールス・ロイス

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EVヘッドライン
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BYDの売り上げ鈍化に注目しても意味なし! むしろ心配すべきはテスラか? BYDは利益率も投資額も驚くべき水準だった
いすゞがピックアップトラック「D-MAX」にBEVを用意! バンコク国際モーターショーでワールドプレミア予定
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ニュース
EVの充電がプラグを接続するだけに! Terra Chargeがプラグアンドチャージ対応EV充電器を2025年度から設置開始
BYDの勢いが止まらない! 新エネルギー車の生産台数が世界初の1000万台を突破
日産からセダンのEVが出るぞ! 中国向け車両「N7」を初公開
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コラム
AM放送が聴けない「電気自動車」が数多く存在! FMラジオは搭載されているのになぜ?
新車が買えないレベルで人気沸騰中のメルセデス・ベンツGクラス! EVが売れない日本でも「G 580 with EQ Technology」ならバカ売れするか?
自宅で充電できないけどEVを買う人が増えている! ただしいまのインフラ状況だと「セカンドカー」で乗るのが正解
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インタビュー
電動化でもジーリー傘下でも「ロータスらしさ」は消えない? アジア太平洋地区CEOが語るロータスの現在と未来
「EX30」に組み込まれたBEVの動的性能とは。テクニカルリーダーが語る「ボルボらしさ」
「EX30」には、さまざまな可能性を。ボルボのテクニカルリーダーが話す、初の小型BEVにあるもの
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試乗
【試乗】二度見必至の存在感は普通のコナとはまるで別モノ! イメージを大きく変えたヒョンデ・コナ「N Line」に乗って感じたマルとバツ
ボルボEX30で11時間超えの1000km走行チャレンジ! 課題は90kWまでしか受け入れない充電性能
EV専業の「テスラ」とEVに力を入れる従来の自動車メーカー「ヒョンデ」! モデルYとコナを乗り比べるとまったく違う「乗りもの」だった
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イベント
外からもまる見えな全面ガラスドアも高齢化が進む地域のモビリティとして最適!? タジマの超低床グリーンスローモビリティ「NAO2」が斬新すぎた
EVはレアメタルが詰まった都市鉱山! CEATEC2024でBASC展示が提唱するサーキュラーエコノミーというバッテリーとは
畳めるバイク! 階段を上り下りできるカート! 自由な発想のEV小型モビリティが作る明るい未来を見た!!
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