初のBEV「スペクター」を発表したロールス・ロイス。自動車ジャーナリスト・小川フミオが、同社のEVへの考えを、開発責任者ドクター・ミヒア・アヨウビ氏から訊き出す。
ロールス・ロイスのフィーリングを、最新のテクノロジーで
ロールス・ロイスが初めて手がけた量産BEV「スペクター」。
開発の立役者といえば、ロールス・ロイス・モーターカーズ社でディレクター・オブ・エンジニアリングを務めるドクター・ミヒア・アヨウビだ。
「ロールス・ロイスにとって最も重要なのことは、どんなパワートレインだろうと”ロールス・ロイスらしさ”を保持すること。彼ならそれが何を意味しているかわかっています」
同社の、トルステン・ミュラー=エトベシュCEOのお墨付きを得ているのが、ドクター・アヨウビだ。
ドクター・アヨウビへのインタビューでおもしろかったのは、いっぷう変わった内容になったこと。
通常、新車発表の場だと、いかに新しいクルマを作ろうと思ったかが話の中心になる。それに対して、スペクターでは(上記のように)いかに従来のロールス・ロイスと同様のフィーリングを実現したかについてドクター・アヨウビは語った。
ーースペクターの特徴を、開発責任者の立場から解説していただけますか。
「スペクターを語るとき、私は数字を使わないんです。数字っていうのは、出力とかバッテリー容量とかですけれど。なぜかというと、ロールス・ロイスの特徴は数字で語れないからなのです」
ーーというと?
「私と私の開発チームがやった仕事は、ロールス・ロイスの哲学と、製品のもつ、いってみればフィーリングを、最新のテクノロジーで実現することでした。なので、スペクターについて語りたいのは、いかにしてそれを電気で実現したかということです」
「私が作ったのはBEVではないのです」
ーーミュラー=エトヴェシュCEOも、そもそもロールス・ロイスは電気と相性のいいクルマだったと言っていました。
「そうなんです。電気化はロールス・ロイスにとって新しいことではありません。創業当時に電気化のアイディアがありましたから。創業者のひとり、サー・ヘンリー・ロイスは機械エンジニアでなく電気エンジニアでした。彼の父も電気エンジニアでした」
ーーそれは歴史の本にも書いてある事実ですね。
「私が強く信じているのは、彼が12気筒エンジンを設計したとき、頭のなかにあったのは、電気モーターで走るようなエンジンを作りたいってことです。当時もエンジニアはみな、鉄道だって、電気になるだろうと信じていました。でもじっさいは技術的な問題から、蒸気機関でした。自動車に関しても同様だったのですが、動力源になりうる技術的な裏付けと、充電時間など、障壁がたちふさがっていたんですね」
ーーそして、ついにその時がきた、と。
「私たちは、電気モーターを動力源につかえるぐらい技術が発展するはずと予測していていましたし、このところ、私たちの顧客のなかから、ロールス・ロイスの電動化をポジティブに考える声が上がってきました。すべてのタイミングが合致して、私たちはこうしてEV化の考えをじっさいに実現することになったのです」
ドクター・ミヒア・アヨウビ(Dr. Mihiar Ayoubi氏)プロフィール
BMWグループからロールス・ロイスに入社し、20年以上にわたって、コンセプト、アーキテクチャー、インテグレーション部門の責任者を務める。これまで音響・振動、ダイナミクス開発、シャシー制御システム、ドライブトレイン開発、全輪駆動、ドライバー・アシスタンス・システムなどの部門を統括。また、ニューファントムのエンジニアリング・コンセプトにも携わっており、ロールス・ロイスにも精通している。2018年3月1日付けで、ロールス・ロイス・モーター・カーズ社ディレクター・オブ・エンジニアリングに就任。ダルムシュタット工科大学で制御システム工学と応用人工知能の学位と博士号を取得。
Vol.2へ続く