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ロールス・ロイス初のピュアEV「Spectre(スペクター)」。大容量のバッテリーと2基のモーターを搭載した4シータークーペは、電気自動車であることよりも、「ロールス・ロイスであること」を念頭に開発されたという。V12で走ろうと、電気で走ろうと、我々は変わらない−−その揺るぎない信条の源泉を、同社CEOが語る。
熱心なファンを失望させたくない
ロールス・ロイスが2023年7月に米国でジャーナリスト向けの試乗会を開催したBEV「スペクター」。注目点は、「ロールス・ロイスであることが第一で、BEVであることはその次」であったこと。
発言の主は、ロールス・ロイス・モーター・カーズを率いるトルステン・ミュラー=エトヴェシュCEO。2010年からロールス・ロイスを率いている、いってみれば「ミスターRR」だ。
ロールス・ロイス以前の経歴をみると、BMWグループでの経験が長い。1989年にBMWに入社し、バイスプレジデントを経て、2000年からミニのブランド戦略と製品マネージメントをディレクターとして統括。2004年にBMWに戻り、シニアバイスプレジデントとして、製品マネージメントやアフターセールスを担当していた。
2022年10月に英国南部グッドウッドにあるロールス・ロイス・モーター・カーズ本社で、ジャーナリスト向けにスペクターのお披露目があったのだが、そこで私がミュラー=エトヴェシュCEOにインタビューしたところ、やはり「ロールス・ロイスであることを念頭に開発している」との発言があった。
「13年間、ロールス・ロイスにいて、ロールス・ロイスの熱心なファンである顧客と接しているうちに、自分のなかで“ロールス・ロイスとはなにか”という概念が形成されていきました」
グッドウッド本社を、新旧のロールス・ロイスに乗った顧客たちが訪ねてくることは少なくないそう。個人的訪問であり、ちょっとロールス・ロイスについて話したいんだけど、と会話が始まるんだとか。
顧客の意見をたいへん大切にしています、とのフレーズが、発言のところどころに出てくるのは、そういうわけだろう。
「熱心なファンを失望させたくない、という思いは強くありました。電気化しても、従来のV12エンジン搭載車と同じ運転感覚をもつ、というのは、じつは大変なことです」
電気自動車「らしさ」は不必要
今回、プレミアムワインで知られるナパバレーの試乗コースのなかにコーヒーストップもあった。駐車場にスペクターを停めると、わらわらっと米国人が駆け寄ってくる。
たいてい笑顔で、「これが電気で走るロールス・ロイスですね」と話しかけてくる。みんなよく知ってるなあと逆にこちらが感心するほどだ。
ビバリーヒルズのロデオドライブで乗ったら、かなり注目されるであろうことを請け合いますよ、とミュラー=エトヴェシュCEOは笑顔で言う。
「お披露目したとき、顧客はみな、誰もが乗りたがりました。でもそのときは、見せられるクルマは1台だけ。顧客はそれを知っていますから、運転席に腰をおろして、“納車が待ちきれないよ”って言うんです。ただ、その時点で、本当にこれがロールス・ロイスのBEVなのか、って確認されました」
ロールス・ロイス初の量産BEVであり、すべてが新しいと知っているひとは多くても、見た目は他のブランドのBEVのような特別感がない。BMWのたとえば新型5シリーズにおけるBEVモデル「i5」のほうが、よほど特別な雰囲気がある。
乗りこんでも、同様。あえてBEVらしいデザインなんてない。そここそ、ミュラー=エトヴェシュCEOが口を酸っぱくして、開発スタッフに説いた目的だったのだそうだ。