フォーミュラEを傍らにして「私たちはこれからBEVのメーカーになる」と明言するグローバー氏に、小川フミオはジャガーの未来像を聞き出す。それは同社の電動化における存在価値への言及だった。
レースからロード、ロードからレース
−−フォーミュラEでの活動は、ジャガーの未来と密接に関係しているということですね。
「フォーミュラEはよくご存知のとおり、完全なBEVのレースです。私たちはこれからBEVのメーカーになるので、相性がいいんです。いままで以上に結びつきを強めていくつもりです。いま、私たちがフォーミュラEの活動から得られるものはたくさんあると思っています。それを私たちは、”Race To Road”、レースカーからロードカーへ、と呼んでます」
−−興味ぶかいです。レースからロード、ロードからレースっていう、ジャガーのスローガンですね。
「たとえば、フォーミュラEマシンの技術を応用して、I-PACE(アイペース=ジャガーが2018年から作っているBEV)の航続距離を30マイル、延長することができました。なので、このレースはとてもいい結果をもたらしてくれているんです」
−−つまりフォーミュラEへの参戦は、技術的も、そしておそらくイメージ的にも、ジャガーにとっておおいにプラスになると。
「いまのところ、技術的な恩恵が大きいです。電動化することで、いままでより若い世代の興味を惹きつけることができると思っています。フォーミュラEが、そもそも、そういう側面を強くもったレースですし。なので、信じている方向へと進む先にあるのが、私たちにとって、よいかたちの未来なのです」
−−それと同時に、モータースポーツ活動における存在感ですね。たんにBEVのブランドでなく、レースでちゃんと速い、というのはイメージ的にも重要なはずです。
「そうです、モータースポーツで強い、という私たちの強みを知らしめていくことも、同時に重要です。これまで私たちが積みかさねてきたモータースポーツにおける栄光が、これからも目標になっています。ただしそれをサステナブルなやりかたで追求する。そこに、今後のジャガーの存在価値があります」
電動化における存在価値は、サー・ウイリアム・ライオンズが導いている
−−プロダクションについての質問です。ジャガーはどうやって、電動化の時代に存在価値を高めていこうと考えていますか。
「ブランドはたいへん重要だし、守っていく価値のあるものだと理解しています。90年におよぶ、たいへん豊かな内容の歴史です。そもそもジャガーが大きく評価されたのは、世界でもっとも美しいクルマを作ったからです。ジャガーの前身であるSSカーズの創設者サー・ウイリアム・ライオンズは、こう言っています。ジャガーの名声は、既存のクルマのコピーでないところから発したのだと」
−−それはたいへん興味ぶかい発言だし、ジャガーがその言葉を少なくとも1960年代までは忠実に守ってきたのは、歴史を振り返るとよくわかります。
「そうなのです。それを守ってきたのです。というか、これからもういちど、創設者によるクルマづくりの精神を考え、ジャガーの最高の時代に立ちかえるべきだと考えています。ジャガーは、ほかと違っていることを厭わなかった。なにかをやるにしても、ほかのメーカーとは、違うようにやろうとしました」
<Vol.3へ続く>