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TEXT:渡辺陽一郎
ヒョンデ・インスターは本当に脅威か? 日本にも安いEVはあるぞ!!

インスターの最安グレードは実質228万7000円 コンパクトな輸入電気自動車のヒョンデ・インスターが2025年4月から日本で販売を開始した。もっとも注目されるのは価格だ。1番安価なカジュアルは284万9000円。国から交付される補助金の56万2000円を差し引くと、実質価格は228万7000円に下がる。 インスター・カジュアルの駆動用電池は総電力量が42kWhで、衝突被害軽減ブレーキや車線に沿って走れるようにパワーステアリングを制御するレーンキーピングアシストなども標準装着する。実用装備を採用しつつ価格を抑えた。 そこで安価な電気自動車を取り上げたい。2025年6月中旬時点で購入できる電気自動車で、もっとも安価な車種とグレードは、三菱eKクロスEV・Gビジネスパッケージだ。 Gビジネスパッケージは法人向けのグレードで、Gに比べるとIRカット/99%UVカットガラス、本革巻きステアリングホイールなどを省いた。その代わり価格も20万4500円安い236万4000円としている。充電ケーブルがオプションといった不満はあるが、それでも20万円を超える価格の引き下げは大きい。 国から交付される補助金額は上級グレードと同額の56万8000円だから、この金額を価格から引いた実質価格は179万6000円に収まる。eKクロスEVのリチウムイオン電池は、総電力量が20kWhと小さいが、ボディがコンパクトで車両重量も1060kgと軽い軽自動車サイズの電気自動車だ。1回の充電でWLTCモードにより180kmを走行できる。 eKクロスEVと基本部分を共通化した日産サクラは、もっとも安価なXが259万9300円だ。eKクロスEV・Gビジネスパッケージに比べて23万5300円高いが、IRカット&UVカットガラスやアルミホイールなどを標準装着する。それでも充電ケーブルはオプション設定だ。補助金額はeKクロスEVよりも少し高い57万4000円で、これを差し引いたサクラXの実質価格は202万5300円になる。 このほか、軽商用車規格の電気自動車にはホンダN-VAN e:がある。もっとも安価なグレードは、リース専用車を除くとe:L4で269万9400円だ。内外装はシンプルだが、助手席と後席を格納すると大容量の荷室に変更できる。e:L4は衝突被害軽減ブレーキや運転支援機能も標準装着する。国から交付される補助金額は57万4000円で、これを差し引いた実質価格は212万5400円だ。 以上のように軽自動車規格の電気自動車は、ヒョンデ・インスターカジュアルの284万9000円と比べてもさらに安い。ただし、リチウムイオン電池の総電力量は、eKクロスEVとサクラが20kWh、N-VAN e:は29.6kWhだが、インスターカジュアルは前述の42kWhに達する。総電力量の違いを考慮すると、インスターカジュアルの買い得度も相応に強まる。

TAG: #価格 #安価
TEXT:高橋 優
新型リーフの競争力はいかほど? 補助金も含めてライバルと徹底比較してみた

新型リーフを競合車と比較! 日産がついに新型リーフの正式発表を行いました。EV性能や装備内容を大幅に進化させたモデルとしてどれほどの競争力を実現しているのかを、とくに日本国内における競合車種と徹底比較します。 まず、新型日産リーフに関する詳細情報は前回の記事で解説済みですのでご参照ください。 そして今回は、新型リーフが日本国内に競合車種と比較してどれほどの競争力を実現しているのかを比較しながら、そこから考察できる新型リーフの強みや弱みを考察していきたいと思います。 この表は日産のクロスオーバーEV、アリアと比較したものです。車両サイズは全長、全幅、全高ともにリーフがひとまわり小さくミニアリアというイメージです。 まず、左側のエントリーグレードである新型リーフB5とアリアB6を比較してみると、バッテリー容量で10kWh程度もリーフのほうが少ないものの、欧州WLTCモードではリーフのほうがむしろ長い航続距離を確保しており、電費性能にトッププライオリティをおいて開発された新型リーフの効率性の高さが見て取れます。 また、右側のロングレンジグレードの比較について、新型リーフB7とアリアB9と比較すると、バッテリー容量では12kWhの差がついていながら、EPA基準でリーフB7が488km、アリアB9が489kmと同等の航続距離を確保しています。いずれにしても、コストの嵩む電池を大きく減らすことで、生産コスト抑制に期待できるのです。 そして、値段設定について、仮にリーフB5が480万円でスタートすると、アリアB6と比較しても大幅に安くなります。とくにアリアとリーフを栃木工場で一括生産することで、いかにして新型EVの生産効率を引き上げて、リーフとともにアリアの生産コストを引き下げられるのかが重要です。その意味において、新型リーフの成功がアリアのコストダウン、それによるモデルチェンジ後の値下げにも繋げることができるのではないかと推測できます。 次に、日本国内における新型リーフの競合車種となる中国BYDのATTO 3、韓国ヒョンデのコナ、さらにはボルボEX30、また同時期に発売となる見込みのスズキe VITARAというコンパクト電動SUVとを比較しましょう。 まずEV性能について、電池容量ではコナとEX30が60kWh超級の電池容量を搭載することで、さらにゆとりの航続距離を確保。他方でリーフはB7もラインアップしており、ロングレンジ需要を満たすことは可能です。 その上で、今回注目したいのは電費性能です。欧州WLTCモードで同列に比較すると、ATTO 3が156Wh/km、EX30が170Wh/km、e VITARAのエントリーグレードが148Wh/km、そしてもっとも電費のいいコナも147Wh/kmであるのに対して、新型リーフB5は140Wh/kmと、競合を凌ぐ電費性能を実現。さらに、より高速走行の比重が高まるEPA基準でも、EX30とコナがそれぞれ116MPGeなのに対して、リーフB5は123MPGeとリード。まさに市街地・高速走行にかかわらず、オールラウンドに電費性能が優れているという点こそ新型リーフの強みといえるのです。 また、充電性能について、最大充電出力でリーフB5がリードしながら、とくにリーフB5の最大の強みとなり得るのが充電時間です。リーフB5は競合を遥かに上まわる30分、場合によっては30分を切ってくるポテンシャルを秘めており、ファーストカーとしての実用性も兼ね備えているといえるでしょう。

TAG: #リーフ #新型 #競合車
TEXT:石井啓介
お金も手順も作業も「コンバートEV」のリアルをリポート! 初代フィアット・パンダのEV化に挑戦してみた【その1】

思い出のフィアット・パンダを電動化でもっと楽しく 「電気熊猫計画」とは、EVライフをもっと楽しくおいしくする「EVごはん」と、旧車のコンバージョンEVを手がける「アビゲイルモータース」が共同で進める往年のイタリアの名車「フィアット・パンダ(初代)」をEV(電気自動車)にコンバートするプロジェクトです。 充電スポットの美味しいごはん情報をシェアするコミュニティ「EVごはん」の主宰者である私141(イシイ)は、子どものころからのクルマ好き。 20代の安月給時代に中古車で買ったフィアット・パンダは、夏は海にドライブデート、冬はスキー場へと大活躍した思い出の愛車。軽自動車のようなコンパクトなボディにブンブンまわる元気なエンジンが最高に楽しいクルマでした。 しかしながら、当時はクルマのメンテナンスに関する知識が少なく、ちょっとしたエンジントラブルで手放してしまったことはいまでも悔やまれます。 月日は過ぎてン十年。 クルマ趣味は続き、英国製のヘリテージカーを楽しみつつ、“往年の世界の名車”を激安中古車で足車として乗り継ぐことを楽しんでおりましたが、5年前に知人からの紹介でテスラを手に入れたことでこれまでのガソリン車にはない、静粛性や小気味よい動力性能、そして、EVコミュニティの楽しさなど、改めて電気自動車の楽しさを知りました。 電気自動車について調べていくなかで、古いガソリン車を電気自動車に改造する「コンバートEV」の存在を知り、旧来の「クルマ好き」が再熱。 「あの思い出のフィアット・パンダをEVでまた乗りたい! あの思い出の続きを楽しみたい!」と、旧車のコンバージョンEVを手がける「アビゲイルモータース」さんに飛び込みました。 「アビゲイルモータース」の代表を務める飯田さんも、旧来のクルマ好きということで意気投合! アビゲイルモータースで開発しているクラシックミニにも試乗させていただき、コンパクトな旧車とEVの相性のよさも実感することとなり、さっそくフィアット・パンダのEV化プロジェクトがスタートしました。といいたいところですが、ベースとなるクルマ探しから、EV化の技術検討などで、あっという間に1年が過ぎました。 ベースとなるパンダは、個人売買でホドホドの程度のものが見つかりましたが、EVコンバートの世界も日進月歩で、モーターとバッテリー及びマネジメントシステム等の調査にかなり時間を要することとなりました。

TAG: #コンバートEV #レストア #旧車
TEXT:桃田健史
激戦区の小型EVにVWがニューモデル「ID.EVERY1」を投入! もし日本に導入されるとどうなる?

日本への導入については未定 ドイツのフォルクスワーゲンは、3月5日、「ID.EVERY1」のワールドプレミアを行った。EVERY1とは、まさにEVERYONE(すべての人)を意味するものであり、同モデルはフォルクスワーゲンEVのエントリーモデルである。 そのため価格設定も意欲的で、欧州市場での新車価格は2万ユーロ(1ユーロ166円換算で、332万円)から。 同社の中期経営計画では、2027年までに新たに9モデルを市場導入するとし、そのうち4モデルがEVとなる。プラットフォームは、新設計のMEB(モデュラー・エレクトリック・ドライブ)。 MEBでは、ID.EVERY 1、さらに上級な25000ユーロ価格帯には「ID.2 all」の導入が決まっているところだ。これら2モデルを、フォルクスワーゲンでは、エレクトリック・アーバンカーファミリーというカテゴリーに位置づけた。 フォルクスワーゲンのアーバンカー商品戦略といえば、欧州では2023年まで製造されていた「up!」を思い出す人もいるだろう。さらに、up!のEVバージョンとしてe-up!もいたが、ID. EVERY 1は、まさにup! の後継車だ。 さて、現時点でID.EVERY 1が日本に導入される目処や時期は明らかになっていない。仮に導入する場合、商品競争力はいかがなものか? 現状、このカテゴリーには韓国ヒョンデ「インスター」が先行しており、中国BYDも日本市場の軽自動車規格に適合する新設計EVを計画しているところだ。 また、台湾の鴻海(ホンハイ)が「モデルB」というコンパクトセグメントカーを用意しており、多数の自動車メーカーへのOEM供給が協議されているところだ。このうち、三菱自動車はオセアニア市場向けに採用しており、今後日本における輸入ブランド、または日系メーカーがモデルBベースのコンパクトEVを日本導入する可能性も否定できないだろう。 このように、ID.EVERY1にはライバルが多数存在するため、仮に日本導入を検討する場合、EVというハードウェアだけではなく、各種パートナー企業と連携したエネルギーマネージメントやインフォテイメントのサービスを融合させることが求められると思う。 2010年代半ば、世界に先駆けてグループ全体でEVシフトを強力に推進してきたフォルクスワーゲン。そこで登場したID.シリーズは、EVERY1の登場によって新たなるステージへと突入していく。

TAG: #ID #ID.EVERY1
TEXT:高橋 優
新型リーフはどんなクルマ? いまわかっている詳細情報全部出し!

ホイールによって航続距離が異なる 日産がついに新型リーフを正式発表してきました。EV性能や装備内容を大幅に進化させたモデルとしてどれほどの競争力を実現しているのか。EV専門メディアとして詳細情報をまとめます。 まず、今回発表された3代目となる新型リーフは、クロスオーバーSUVとして2代目のハッチバックから大きくデザインが変更されました。これらの内外装デザインについてはすでに各メディアで取り上げられているものの、ここではその他メディアではあまり取り上げられていない、新型リーフに採用されている最新テクノロジーや先進装備内容を紹介しながら、国内における値段予測を含めて分析します。 まず初めに、3代目新型リーフと2代目現行型リーフと比較しましょう。3代目では、ネット値で52.9kWhと75.1kWhの2種類のバッテリー容量を搭載。これは2代目の39kWh、59kWhと比較しても増量した格好です。そして、航続距離がもっとも実測値に近い米国EPA基準で最長488kmを達成しました。 ただし、気をつけるべきは、その装着ホイールによって航続距離がかなり変わってくるという点です。とくに北米市場ではスチールとアルミニウムという2種類の18インチホイールをラインアップ。より空力性能の高いスチールは488kmとなる一方、よりデザイン性の高いアルミの場合は463kmに短縮されます。さらに19インチの場合417kmにまで悪化するため、装着タイヤがオプション設定となった場合には注意が必要でしょう。 次に、充電性能について、B7グレードでは最大150kW級の急速充電性能に対応し、B5グレードでも最大105kWに対応。 個人的に期待しているのが充電時間の短さです。というのも、北米市場における公式アナウンス内容は、SOC10%→80%で35分なのですが、アリアの北米市場における充電スピードは、63kWhがSOC20%→80%で35分、87kWhがSOC20%→80%で40分と発表。そして、実測値におけるアリアの充電時間はSOC10%→80%で約33分であることから、新型リーフは30分以内で充電できる可能性が出てくるのです。 このリーフの充電性能は、初代も2代目も乗り継いでいる私をはじめとしたリーフユーザーの多くが苦労した性能です。夏場の熱ダレ問題、さらには冬場の充電制限問題に対応するために水冷式の温調システムを採用しており、まさに2代目とはまったく別物のEVであると捉えるべきでしょう。 次に、動力性能について3代目では、モーター、インバーター、減速機を一体化した3 in 1のパワートレインを採用。よって、高出力化と小型化、静粛性を両立することが可能となり、とくにB7の最高出力は160kW、最大トルクも355Nmを発揮。0-100km/h加速も7.6秒を達成します。 ちなみにモーターの種類は二代目で採用されている永久磁石型同期モーター(PMSM)です。アリアの巻線界磁型同期モーター(EESM)と比較しても、小型化および市街地走行における効率性に強みをもっています。その一方で、EESMと比較しても、高速巡行における電費で不利となり、レアアースを採用することによる地政学上のリスクをはらみます。 また、新型モーターではコイルの種類を丸線ではなく平角線を採用。平角線は丸線と比較しても密に巻くことが可能となり、占積率がアップすることで小型化が可能。さらに、表面積が広くなるため、そのぶんだけ放熱性という観点でもプラスに働くことから、より大電流を流しやすい設計です。 さらに、インバーターも両面冷却構造を採用したことで、とくに効率の落ちる高速域での効率を向上させています。 車両サイズについて、全長が4360mm、全幅が1810mm、全高が1550mm、ホイールベースが2690mmというコンパクトSUVとなりました。2代目と比較しても全長が短くなっており、最小回転半径は19インチタイヤを装着したとしても5.3mと、17インチタイヤを装着した2代目の5.4mと比較しても小まわり性能が向上しています。ちなみにアリアも5.4mと小まわり性能が高く、この取りまわしのよさはCMF-EVプラットフォームの強みといえそうです。 また、車両サイズはコンパクトになりながらも、ホイールベースは2690mmを確保。全長に占めるホイールベースの割合は61.7%で、2代目の60.3%と比較しても向上。これもCMF-EVによる最適化の恩恵でしょう。 さらに、後席足元空間もフルフラット化を実現できているため、車内空間は先代比で開放感が増しているはずです。 ちなみに、このCMF-EVの大きな強みとして、フロント足もと空間のウォークスルー方式を実現しているという点が重要です。通常キャビン内に位置する空調ユニットをボンネット下のエンジンルームに押し込むことで実現可能となります。 ところが、問題となるのはクラッシャブルゾーンの確保です。空調ユニットを前に押し出すということは、そのぶんだけクラッシャブルゾーンが狭くなるためにボンネット部分を延長せざるを得ず、全長を短く抑えることはできなくなるのです。 ところがCMF-EVの強みというのは、衝突時に空調ユニットを積極的に圧壊可能な構造としたという点です。これにより空調ユニットをクラッシャブルゾーンと見立てることで、エンジンルームの長さを延長せずに空調ユニットを押し込んだとしても、クラッシャブルゾーンを確保できるようになったのです。これが全長を短縮させながらフロントのウォークスルー方式を両立できた理由なのです。 確かにEVならではのフロントトランクは採用できていませんが、そもそもCMF-EVは車内空間の最大化にファーカスする設計思想なのです。

TAG: #リーフ #新型
TEXT:御堀直嗣
2000馬力のEVスーパーカーもリーフも同じ金額! 自動車税の面でEVはめちゃくちゃ優遇されている

EVは1リッター以下の区分に該当 毎年、5月末までに支払うクルマの税金が、自動車税であり、軽自動車税だ。この税金は、エンジン排気量を基準に税額が定められている。では、エンジンのない電気自動車(EV)は、無税なのか? 答えは、NOだ。EVも自動車税を支払っている。ただし、エンジン車より割安ではある。 登録車の場合、エンジン排気量の区別は、1ッター以下から6リッター超えまで、10段階に分けられている(東京都)。そしてEVは、もっとも排気量が少ない1リッター以下に該当するとされ、その税額は2万5000円だ。 そのうえで、新車で新規登録を行った場合は、グリーン化特例により、最初の1年分のみおおむね75%の軽課の扱いになる。以後、2万5000円というわけだ。 EVの税額は車格の大小を問わず同一である。5ナンバーEVのヒョンデ・インスターからポルシェ・タイカンなど超高性能EVまで同額になる。 たとえばポルシェ911のカレラ4 GTSは、エンジン車で水平対向6気筒の排気量が3.591リッターだから、6万5500円(令和元年10月1日以降に初度登録)の自動車税額になる。したがってタイカンは、その半分以下でしかない。 軽自動車は、エンジン排気量が660ccと一律なので、それ以上もそれ以下もなく、EVを含め1万800円だ(東京都港区)。ただ、登録車の事例と同じように、新車を新規登録した翌年5月の税額は、グリーン化特例の75%軽減対象車にEVは当てはまるので、2700円になる。

TAG: #維持費 #自動車税
TEXT:桃田健史
新型リーフを日産が公開! 厳しい経営状況のなかで日産はどんな戦略をとるのか?

第3世代リーフはSUV? 日産が6月3日、第3世代「リーフ」に関して、デザインを中心とした情報を正式にリリースした。同月内には、国内で正式発表されるとの報道もある。 いわずもがな、リーフは日産EV戦略の中核であり、また次世代日産のシンボルである。 時計の針を戻せば、2000年代後半、当時のゴーン体制で日産は世界に先駆けてEV事業への本格参入を目指した最終準備段階にあった。 筆者は当時、日産が開発中のEV先行実験車両を日米で試乗している。アメリカでは、西海岸のカリフォルニア州からテネシー州へ北米日産の拠点が移転して間もないころだったが、その敷地内で同実験車両の走行や充電を体験した。 その後、リーフが発売されてから、日本、アメリカ、欧州、そして中近東でリーフを試乗したり、日産のEV開発者らが出席するEV関連の国際会議を数多く取材してきた。 元来、リーフが日産の主力EVとして量産効果を生みながら、セダンモデル、商用モデル、さらにはリーフの技術を活用した小型モビリティなど日産EVワールドを構成する計画だった。 ところが、日産の当初予想に反してEV市場はグローバルで広がらなかった。一方で、独自ブランド戦略を突き進んだテスラの存在感が増していった。 2010年代後半になると、欧州連合の執務機関である欧州委員会による欧州グリーディール政策がきっかけとなり、グローバルでEV関連事業への過剰な投資が進んだ。 そうしたなかで、日産は「アリア」や、国内では「サクラ」を導入。 中国では、BYDを筆頭として中国地場メーカーによるEV価格競争が激化し、EVに限らず日系メーカー各社の事業に大きな打撃を与えるようになった。 コロナ禍を経て、欧州でのEVバブルが収束し、中国ではレンジエクステンダーやPHEVの需要が高まり、そしてアメリカでは第二次トランプ政権による自動車環境政策の大幅な見直しや関税政策が打ち出されているところだ。 以上のようなグローバル市場の動きを踏まえて、日産は北米市場に対しては、近年拡大傾向が明らかになっているハイブリッド市場を見据えて、第3世代e-POWERの導入を進める意向だ。 同システムを採用した次期「エルグランド」も日本市場に導入されることが明らかになっている。詳細は、10月にジャパンモビリティショーで公開されるだろう。そのほか、日本市場向けは、前述の第3世代リーフやサクラに次ぐ軽EVの登場を期待したいところだ。 いずれにしても、エスピノーサ体制での日産事業再生計画が今後、正式に発表されるなかで国や地域別でのEV及びe-POWERの導入ロードマップが明らかになることだろう。

TAG: #リーフ #第3世代
TEXT:石橋 寛
テスラに続けと一攫千金を狙う !? ウガンダにもベトナムにもブラジルにも誕生した新興自動車メーカーの本気度

EVビジネスに挑戦するメーカーが多数 テスラの時価総額はイーロン・マスクとトランプ大統領の決別を受け、かなり下がったものの9000億ドル以上をキープして、自動車メーカーとしてはダントツのトップ。こうした一攫千金にも似たEVビジネスに挑戦する企業はあとを絶たず、いまや世界中にEVメーカーが乱立しているといっても過言ではありません。 ご存じ中国はもちろん、ベトナムやタイといったアジア圏に加え、アフリカやブラジルでもEVメーカーが虎視眈々と次なるテスラを目指しているのです。もっとも、なかには金に目がくらんだかのような頼りないメーカーもいたりして、玉石混交の様子ではあります。 キーラモータース/ウガンダ アフリカ初のEVメーカーとして、2018年にウガンダ政府によって創立されました。が、同国のEVは2007年に国立マケレレ大学の学生たちが作った試作車が出発点。インド市場を対象とした5人乗りのプラグインハイブリッド電気自動車、Vision 200を設計するという世界的なサミットに、アフリカから唯一参加したことがきっかけで、その後も同大がEV開発をリードすることに。2011年にはアフリカ初のオリジナルEV「キーラEV」が完成し、すぐさま政府がキーラモータースを設立して販売ということに。 やっぱり政府主導となると各国の出資も集まるからか、当初の研究室レベルからは格段の進化を遂げています。2016年にソーラーパネルを装備した電動バス「カヨーラ」をリリースすると、アフリカのニーズに沿ったものか大量輸送車をコアに据えながら、さまざまなEVを発売。いまやアフリカ大陸でEVといえばキーラモータース一択、くらいのポジションを築き上げたとか。学生のプロジェクトに目をつけて、それを伸ばして成長させ、さらには一定の成功を収めるという絵に描いたようなストーリーではあります。 ビンファスト/ベトナム 2017年に、ベトナムの最大財閥ビングループが自動車産業に参入するために設立され、当初はガソリン車からスタートしたのですが、2022年にEV専業となっています。驚くべきは翌2023年にアメリカのナスダックに上場すると時価総額が一気に1900億ドルにもふくれあがり、テスラ、トヨタに続く3番手になったこと。これにはアメリカ市場ならではのマネーマジックがあったようですが、ビンファストのEVは、マーケットの妙な動きとは裏腹に着実に存在感を増しているようです。 たとえば、2022年から主力商品となっている「VF8」はご覧のとおり、スタイリッシュなクロスオーバーSUVで、出力380馬力のデュアルモーター×全輪駆動、航続距離もエコモードならば470kmを達成するとされています。また、ベトナム国内だけでなく、アメリカやドイツにも輸出され、戦略的な値付けもあるのか飛ぶように売れているのだとか。 いまでこそEVのビンファストとして知られていますが、創業当初はピニンファリーナやBMWといったパートナーを迎え、ラクス・シリーズというなかなか攻めたモデルを作っていたわけで、EVオンリーになってしまうのはいささかもったいないような気もします。

TAG: #ビジネス #メーカー
TEXT:高橋 優
中国の勢いが止まらない! シャオペンが超最先端ADASを搭載したのに200万円台の激安EVが登場

Xpengの「XNGP」を搭載する最安EV Xpengが大人気車種のMONA M03に対して、ハイエンドADASが搭載された最上級Maxグレードを追加設定しました。発売から1時間で1.2万台以上の注文を獲得することによって、競合となる日産N7の販売にも影響が出る可能性など、競争が激化する中国大衆EVの最前線を解説します。 まずXpengについて、2024年8月末に発売をスタートした大衆セダンのMONA M03が爆発的ヒットを達成。さらに、11月から納車をスタートしている、フラグシップセダンのP7+も月間1万台級の販売台数に到達。これはとくに競合として圧倒的な存在であるシャオミSU7とテスラ・モデル3に次ぐ販売台数であり健闘しているといえます。 この2車種の大ヒットによって、6カ月連続で月間3万台の大台を突破しており好調です。ちなみにXpengは2025年Q1決算においても過去最高の決算内容を実現。Q1販売台数は9.4万台を達成して、前年比+331%という爆増を実現しながら、2023年中盤でマイナスに転じていた粗利益率も15.56%と過去最高水準に到達。さらに営業利益率も-6.59%と、Xpeng史上過去最低水準の赤字幅に抑えることに成功し、2025年Q4における黒字化目標に向けて順調な様子が見て取れます。 そして、Xpengが新たに発売をスタートしたのがMONA M03のMaxグレードです。じつはM03のMaxグレードは、当初2025年2月中に納車をスタートさせる予定だったものの、想定をはるかに上まわる通常グレードの需要によって発売が延期されたのです。実際に通常グレードの販売集中のおかげで、M03は現在月間1.5万台級の販売規模を実現しています。 このグラフは、主要BEVセダンの月間販売台数の変遷を示したものです。トップはシャオミSU7であるものの、4月はM03がNo.2にランクインしています。また、BYDの新型大衆セダンQin L EVも4月は7600台以上を発売。さらに日産N7も大規模納車がスタートし始めており、よってM03としてはMaxグレードを追加することで、競合を迎え撃つ体制を構築しようとしているのです。 今回のMaxグレードにおいてもっとも特筆するべきは、Xpengの最新自動運転システム「XNGP」が標準搭載されているという点です。Xpengの強みはEnd to Endのビジョン方式のハイエンドADASであり、このXNGPを目当てにXpengのEVが人気となっているほどです。 これまでの通常グレードはレベル2 ADASであるXpilotしか搭載されていなかったため、ついにXNGPをM03でも使用可能となり、XpengのハイエンドADASを採用する最安EVとして期待が集まっているのです。 MONA M03は全長4780mm、全幅1896 mm、ホイールベースが2815 mmというミッドサイズセダンセグメントに該当します。車両サイズではテスラ・モデル3と似通ったサイズ感であり、このM0″3″の3もモデル”3″をリスペクトしての命名です。 そしてMaxグレードの発売にあたり、発売開始9カ月という段階でマイナーチェンジを実施しました。とくに新色の内外装カラーを追加設定しながら、ホイールデザインも変更。3.3kWのV2L機能を標準設定したり、シート機能をマッサージにまで対応させるという豪華シートにアップグレード。 これまでのM03の痒いところに手が届くようなマイナーチェンジが発売開始たったの9カ月で行われるという、中国勢の爆速開発体制の様子が見て取れるでしょう。

TAG: #Max #MONA M03 #Xpeng
TEXT:すぎもと たかよし
EVシフト全開のアウディ! Q6 e-tronの新たなデザイン表現をプロが斬る!!

伸びやかで柔らかなスタイリングへの移行期? e-tronシリーズとしてBEVラインアップを着実に進めるアウディが送り出した新型Q6 e-tron。新型プラットフォームによる優れた総合性能と高い効率はもちろん、新しいデザイン哲学もまた注目ポイントとされています。そこで、今回はあらためてそのエクステリアデザインの特徴をチェックしてみましょう。 まず、全体を見渡すとポルシェと共同開発したBEVプラットフォームにより、非常に長いホイールベースと短いオーバーハングの伸びやかなボディに気付きます。また、キャビンフォワード気味に寝かされたAピラーによるキャビンは比較的スリムですが、緩やかに下るルーフラインに沿いつつ、リヤタイヤへ大きな荷重がかかって見えるのもポイント。 近年のアウディデザインは、2014年からデザインを統括してきたマーク・リヒテ氏による筋肉質でエッジの効いたスタイリングが特徴でした。ただ、昨年その後任に就いたマッシモ・フラセッラ氏の影響もあるのか、このQ6では意外にも全体の印象がソフトに変化していることに気付きます。 で、フロントの見所といえば、Q4 e-tronでも見られた開口のないシングルフレームですが、ブラックもしくはボディ色にすることでQ4ほど「浮いた」感じにはなっていません。もうひとつ、フロントではこれまた開口のないサイドエアインテーク部の広大さに目が止まります。 この部分、Q4では金属パーツを使った「ガソリン車風」でしたが、Q6では広く平面的な樹脂製のブラックパーツで覆われ、いかにもBEVであることを提示しているよう。ここは新型のA6 e-tronも同様の表現になっているので、BEVとしての新しい見せ方なのかもしれません。

TAG: #Q6 e-tron #デザイン
連載企画 一覧
VOL.15
本当に日本はEVで「立ち遅れた」のか:知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第15回

ジャパン・モビリティ・ショー開催でにわかに沸き立つ日本のEVマーケット。しかし現実の販売状況は日本において大きく立ち遅れている。技術では先導してきたはずの日本メーカーは、なぜEVで世界をリードできていないのか。この分野のベテランジャーナリストである御堀 直嗣が解説する。 日本の低いEV市場占有率 日本は、世界に先駆けて電気自動車(EV)の市販に踏み切った。2009年に三菱自動車工業が、軽自動車EVの「i-MiEV」を法人向けにリース販売しはじめ、翌10年には一般消費者向けへの販売も開始した。同年には、日産自動車も小型EVの「リーフ」を発売した。この2社によって、EVの量産市販が実現し、ことにリーフは海外への販売も行われ、「i-MiEV」はフランスの当時PSA社にOEM供給された。リーフの販売は世界で累計65万台に達し、その他EVを含めると、日産は世界で100万台のEV販売の実績を持つ。そのうち、日本国内は累計23万台である。 ちなみに、米国テスラは2022年では年間で約130万台、中国のBYDは同年に約90万台規模へ成長している。 同時にまた、世界共通の充電規格であるCHAdeMO(チャデモ)も準備され、リーフが販売される世界の各地域にCHAdeMO充電器の設置が動き出した。 それらを背景に、経済産業省は2012年度補正予算で1,005億円の補助金を計上し、全国に約10万基の充電器を整備するとした。この補助金は全額支給でないため、トヨタ/日産/ホンダ/三菱自の4社が資金を拠出し、補助金で賄いきれない残額を補填することに合意した。 しかし、現在の充電器の数は、急速充電と普通充電を合わせて約2万基である。 国内の新車販売において、EVが占める割合は1%以下という状況が長く続いた。昨2022年、「日産サクラ」と「三菱eKクロスEV」が発売となり、1年で5万台以上を販売することで2%ほどの占有率になろうかという状況にある。 一方、世界全体では、EVの市場占有率が13%になる。米国は5.8%、欧州は12%、中国は21%となっており、日本がいかに低水準であるかがみえてくる。 日本でEV普及が進まなかった理由 EVの先駆者であった日本が、なぜ欧米や中国の後塵を拝するようになったのか。 最大の要因は、せっかく1,005億円という充電基盤整備に対する経済産業省の支援があったにもかかわらず、急速充電器の整備にばかり世間の目が行き、EV利用の基本である基礎充電、すなわち自宅での普通充電(200V)の重要性が広がらなかったからである。ことに、マンションなど集合住宅の駐車場と、月極駐車場への普通充電設置がほぼできなかったことが原因であった。 EVの充電は、普通充電で8~10時間、あるいはそれ以上かかるとされ、これが単純にガソリンスタンドでの給油時間と比較されて、使い勝手が悪いとさまざまな媒体を通じて流布された。いまでもそうした論調が消えていない。しかし、自宅で普通充電できれば、寝ている間に満充電になるので、翌朝出かけるときは満充電で出発できる。 戸建て住宅に住む人はそれができた。ところが、戸建て住宅でも自宅に車庫がなく月極駐車場を利用する人は、近隣の急速充電器を利用しなければならなくなった。 集合住宅に住む人は、敷地内に駐車場が併設されていても、管理組合の同意が得られず普通充電ができない状態に陥った。無知がもたらした悲劇だ。EVを買う意思があっても、手に入れにくい状況があった。 集合住宅の管理組合で賛同が得られない最大の理由は、幹事がEV時代を予測できず、また自分には関係ないとして無視され続けたことにある。設置の経費は、ことに当初は補助金と自動車メーカー4社による補填があったので、ほぼゼロであった。現在でも、施工業者が残金を負担するなどのやりくりで、集合住宅側の負担が軽く済む仕組みが出てきている。それでもなお、管理組合で合意を得るのが難しい状況は払拭できていない。 基礎充電の普及を目指す業者の間でも、さらに難しいとされるのが月極駐車場への普通充電の設置だ。月極駐車場を管理する不動産業者の理解を得にくいという。

VOL.1
リッター200円にもう限界……給油の“枷”をぶっちぎれ!【モデルサードインパクト vol.1】

ガソリン高い、燃費も悪い、限界だ! かつてないほどの猛暑に喘いだであろう今夏。「もういいよ」「もう下がってくれ」と、気温に対して誰もが感じていたと思うが、自動車ユーザーはガソリン価格に対しても同じことを思っていたのではないだろうか。 リッターあたり170円、180円、190円、そして200円の大台を突破……給油をするたびに、誰もが憂鬱な気分になったはずだ。小生はドイツの某オープンスポーツカーに乗っているのだが、リッターあたり平均10kmでハイオク仕様。愛車にガソリンを入れるたび、顔が青ざめていた。 「高額給油という枷から解放されたい……」 EVの購入を決意した所感である。クルマを走らせることは、本来喜びのはず。給油のたびに落ち込むのは本望ではない。 小生は、THE EV TIMES(TET)の編集スタッフを務めています。この9月、「テスラ・モデル3・パフォーマンス」を購入しました。新たな愛車と共に進むEVライフを「モデル・サードインパクト」と銘打ち、連載で紹介していこうと思います。 EVは便利だと実感した「日産リーフ」 小生が初めて体験したEVは「日産リーフ」(2代目)である。遡ること2017年、「リーフ」が2代目になった頃、日産が全国で試乗キャラバンを開催し、小生はその試乗アテンダントを担当していた。そこで「リーフ」を存分に運転することができたのだ。 それゆえ、EVの利便性の高さを実感することになった。スポーツモデル顔負けの力強くスムーズな加速にまず驚いたのだが、給油という枷から外れて自由に走り回れることが大変な魅力に感じた。アイドリング状態でエアコンを入れっぱなしでもガソリン代を気にせずに済む。車内でPCを開けば、そのままオフィスになる。車の用途が無限大に広がると感じた。 充電時間も特別長いとは感じなかった。充電残量が50%くらいになったら、急速充電を使用してあっという間に80%まで回復できる。ちなみに100%まで充電した場合、280kmを走れる表示が出ていたと記憶している(当時は寒い季節で暖房を使用した)。ちょっとした遠出も十分に対応可能。「EVなんて不便」という印象は全く抱かなかった。そこで薄々と「将来はEVもアリだな」と思ったのだ。

VOL.20
VW「ID.4」オーナーはアウトバーンを時速何キロで走る? [ID.4をチャージせよ!:その20]

9月上旬、スイスで開催された「ID.TREFFEN」(ID.ミーティング)を取材した際に、参加していた「ID.4」オーナーに、そのクルマを選んだ理由などを聞きました。 フォルクスワーゲン一筋 鮮やかな“キングズレッドメタリック”のID.4で登場したのは、ドイツのハノーファーからはるばるスイスに駆けつけたデュブラック・マルクスさん。「フォルクスワーゲンT3」のTシャツを着ているくらいですから、かなりのフォルクスワーゲン好きと見ましたが、予想は的中! 「18歳で免許を取ってからこれまで30年間、フォルクスワーゲンしか買ったことがないんですよ」という、まさにフォルクスワーゲン一筋の御仁でした。 彼の愛車はID.4のなかでももっともハイパフォーマンスな「ID.4 GTX」。日本未導入のこのグレードは、2モーターの4WD仕様で、最高出力220kW(299PS)を発揮するというスポーツモデル。こんなクルマに乗れるなんて、なんともうらやましいかぎりです。 そんなマルクスさんにID.4 GTXを購入した理由を尋ねると、「これからはEVの時代だと思ったので!」と明確な答えが返ってきました。とはいえ、ID.ファミリーのトップバッターである「ID.3」が登場した時点ではすぐに動き出すことはありませんでした。「1年半くらい前にID.4 GTXを試乗する機会があって、踏んだ瞬間から力強くダッシュするID.4 GTXのパンチ力にすっかり惚れ込んでしまい、即決でしたよ(笑)」。

VOL.14
欧州メーカーはなぜ電気自動車に走ったのか?:知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第14回

EVの知識を、最新情報から「いまさらこんなこと聞いていいの?」というベーシックな疑問まで、ベテラン・ジャーナリストが答えていく連載。今回は欧州メーカーの特集です。 日本市場参入が遅かった欧州製EV 日本市場では、欧州からの電気自動車(EV)攻勢が活発に見える。ドイツの「BMW i3」が発売されたのは2013年秋で、日本市場へは2014年春に導入された。 日本の自動車メーカーがEVを市販したのは、2009年の「三菱i-MiEV」の法人向けリースが最初で、翌2010年には「i-MiEV」も一般消費者への販売を開始し、同年に「日産リーフ」が発売された。「i3」の発売は、それより数年後になってからのことだ。 ほかに、フォルクスワーゲン(VW)は、「up!」と「ゴルフ」のエンジン車をEVに改造した「e-up!」と「e-ゴルフ」を2015年から日本で発売すると2014年に発表した。だが、急速充電システムのCHAdeMOとの整合性をとることができず、断念している。その後、VWは「e-ゴルフ」を2017年秋に販売を開始した。EV専用車種となる「ID.4」を日本に導入したのは、2022年のことだ。フランスのプジョーが、「e-208」を日本で発売したのは2020年である。 以上のように、欧州全体としては、EVへの関心が高まってきたのは比較的最近のことといえる。 くじかれたディーゼル重視路線 欧州は、クルマの環境対策として、自動車メーカーごとの二酸化炭素(CO2)排出量規制を中心に動いてきた。そして2021年から、1km走行当たりの排出量を企業平均で95gとする対処方法を考えてきた。EU規制は、販売する車種ごとのCO2排出量を問うのではなく、販売するすべての車種の平均値で95gを下回らなければならないという厳しさだ。 対策の基本となったのは、ディーゼルターボ・エンジンを使った排気量の削減と、出力の低下を補う過給器との組み合わせを主体としつつ、ハイブリッドによるさらなる燃費の向上である。 既存のディーゼルターボ・エンジンをできるだけ活用しようとする考えは、欧州メーカーが補機用バッテリーの電圧を世界的な12ボルトから、36ボルトや48ボルトに変更することによるマイルドハイブリッド化に注目してきた様子からもうかがえる。 ところが、2015年にVWが米国市場でディーゼル車の排出ガス規制を偽装していたことが明らかにされた。公的機関での測定では規制値を満たすものの、実走行で急加速などした際に基準を上回る有害物質が排出され、それによって力強い加速を得られるようにした制御が発覚したのである。その影響は、VW車だけでなく、アウディなどVWグループ内に広く影響を及ぼした。

VOL.3
ボルボは新型EVの「EX30」でインテリアに新たな価値を与え、空間を最大限、利用する!

ボルボはEX30の室内で多くの新たなチャレンジを行なっていると謳う。その詳細を小川フミオ氏が訊いていく。連載1回目はこちら、2回目はこちら。 冷たさの排除し素材を“素直”に使う EX30のインテリアが、他車と決定的に違うのは、金属的な表面処理がほとんど見当たらないこと。それは意図的にそうしたのだと、インテリアデザインを統括するリサ・リーブス氏は言う。 「心したのは、冷たさの排除です。使う素材はオネスト、つまり木に見えるものは木であり、また同時に、リサイクル素材を人間にやさしいかたちで使用しました」 インテリアは「ブリーズ」(やさしい風)をはじめ「ミスト」(もや)、「パイン」(松)それに「インディゴ」と4種類(日本はそのうち「ブリーズ」と「ミスト」を導入)。 「ブリーズを例にとると、デザインインスピレーションはサマーデイズ。シート表皮の素材はピクセルニットとノルディコ、ダッシュボードの飾り材はパーティクル、そして空気吹き出し口のカラーはブルーです」 リーブス氏は説明してくれる。 「ピクセルニットはPETボトルをリサイクルしたもの。それを3Dニッティング(立体編み)プロセスでシート用素材にしています。組み合わせるノルディコは、PETボトルなどのリサイクル素材、北欧で計画的に伐採された木から採取された素材、リサイクルされたワインコルクなどで作られたテキスタイルです」 ダッシュボード用のパーティクルは、窓枠やシャッターを中心に工業廃棄物であるプラスチックを粉砕したものだし、フロアマットは漁網をリサイクルしたという。 「リサイクル材とともに、インテリアは雰囲気を統一したので、私たちは“ルーム”という名を与えています。インディゴの場合、デザインインスピレーションは”夜のはじまり”で、デニムをリサイクルしたときに余る糸を使った素材をシート表皮に使っています」 シートじたいは「スニーカーにインスパイアされた形状」(メイヤー氏)だそうだ。

VOL.2
ボルボの新型電気自動車「EX30」にはスターウォーズのデザインが取り入れられている!?

エンジンの回転の盛り上がりには、時に人間的な表現が用いられる。しかしBEV(バッテリー電気自動車)はエンジンもなく無音なため、より無機質な、機械的な印象が強くなる。ボルボはそんなBEVに人間的な要素を入れたと主張する。連載1回目はこちら。 どことなく楽しい感じの表情 ボルボEX30は、いってみれば、二面性のあるモデルだ。ひとつは、地球環境保全(サステナビリティ)を重視したコンセプト。もうひとつは、大トルクの電気モーターの特性を活かしたスポーツ性。 デザイナーは「いずれにしても、BEVと一目でわかってもらうデザインが重要と考えました」(エクステリアデザイン統括のTジョン・メイヤー氏)と言う。 「もちろん、昨今ではICE(エンジン車)かBEVか、デザインをするときあえて差別化をしないのが世界的な流れです。ただし、私たちとしては、スカンジナビアデザインの原則を守りつつデザインしました」 メイヤー氏の言葉を借りて、この場合のスカンジナビアデザインの肝要を説明すると「形態は機能に従う」となる。 「そこで、上部に開口部とグリルはもたせないようにしようと。ただし(インバーターなどのために)空気を採り入れる必要はあるので、下にインレットは設けています」 ボルボ車のデザインアイディンティティである「トール(神の)ハンマー」なる形状のヘッドランプも採用。ただし、カバーで覆った一体型でなく、四角いLEDのマトリックスが独立しているような形状があたらしい。 「そうやって出来上がったのがこのデザインです。顔になっていて、そこには眼があって、鼻があって、口があるんです。どことなく楽しいかんじで、これまで以上に人間的な表情を実現しました」 暴力的でもなければ、ロボット的でもない。メイヤー氏はそこを強調した。

VOL.1
ボルボの新型電気自動車「EX30」は、相反する2面性を合わせ持つ文武両道なクルマ

ボルボの新たなBEV(バッテリー電気自動車)として、ついに10月2日から「サブスク」モデルの申し込みが始まるEX30。この「ボルボ史上最小のBEV」はどのように開発されたのか。ミラノで行われたワールドプレミアに参加した小川フミオ氏が関係者の声とともに振り返る。 スカンディナビアン+デジタル 2023年6月に登場したEX30は、コアコンピューティングテクノロジーを大胆に採用する、ボルボの新世代BEV。 内容にとどまらず、同時に、デザイン面でもさまざまな大胆な試みがなされているのも特徴だ。 いってみれば、伝統的ともいえるスカンディナビアンテイストに、デジタライゼーションの融合。 「私たちのデザイン的価値のすべてを小さなフォーマットで具現」したモデルと、ボルボ・カーズはプレスリリース内で謳う。 「非常に電気自動車的なデザインで(中略)閉じられたシールド(フロントグリルの開口部のこと)とデジタル表現を用いたトールハンマーヘッドライト」がフロント部の特徴とされる。 さらに新世代BEVとしてボルボが狙ったものはなんだろう。ミラノでの発表会において出合った担当デザイナー(たち)に、デザインの見どころと背景にあるコンセプトを取材した。

VOL.5
「BMW iX xDrive50」の高速電費は我慢不要! ロングドライブにうってつけのEV

[THE EV TIMES流・電費ガチ計測] THE EV TIMES(TET)流電費計測の5回目を、8月に「BMW iX xDrive50」で実施した。車高の高いSUVにもかかわらず、高速巡航時に電費が低下しにくいのが特徴だ。その詳細をお伝えする。 ※計測方法などについてはこちら、試乗記はこちらをご覧ください。 100km/h巡航でどんどん行こう iX xDrive50のカタログに記載された「一充電走行距離」は650km(WLTC)で、電池容量は111.5kWhだ。650kmを実現するには、電費が5.83km/kWh(以後、目標電費)を上回る必要がある。 各区間の計測結果は下記表の通り。5.83km/kWhを上回った場合、赤字にしている。 これまでのTETによる電費計測で初めてA区間の往路と平均で目標電費を超えた。A区間のように標高差が少ない場所では同じ状況になり得る、つまり100km/h巡航で一充電走行距離の650km近くを走破できる可能性がある。   100km/h巡航でも600kmは走れそう 各巡航速度の平均電費は下表の通りだ。「航続可能距離」は電費にバッテリー総容量をかけたもの、「一充電走行距離との比率」は650kmに対して、どれほど良いのか、悪いかだ。 iXのエクステリアは、大きなキドニーグリルが特徴的だ。ざっくり言えば全長5m、全幅2m、全高1.7m、車重2.5トンの堂々としたボディだが、Cd値が0.25と優れている。 100km/h巡航におけるiXの電費は、5.71km/kWhであった。絶対的な数値としては決して高くないが、一充電走行距離との比率を計算すると98%と、これまでにTETが計測したデータの中で最高の結果を記録した。120km/h巡航でもこの数字は78%であった。 つまり、iXは高速巡航でも電費の低下が少ないEVだといえる。 ちなみに、過去に計測したメルセデス「EQE 350+」は、この100km/h巡航時の比率が90%だった。EQEはセダンボディで背が低く、Cd値0.22で、高速巡航には有利であることを考えても、iXの98%という数字の凄さが分かる。 この結果は、空力性能の良好さと高効率なパワートレインの賜物ではないかと思う。BMWが「テクノロジー・フラッグシップ」「次世代を見据え、長距離走行が可能な革新的な次世代電気自動車」と謳っているだけのことはある。これらの記録を塗り替えるクルマが現れるのか、今後の計測が楽しみだ。   各巡航速度ごとの比率は以下の通り。80km/hから100km/hに速度を上げると21%電費が悪くなる。120km/hから80km/hに下げると1.6倍の航続距離の伸長が期待できる。

VOL.19
ぐっとパワフルな2024年モデルのフォルクスワーゲン「ID.4」をミュンヘンで緊急試乗! [ID.4をチャージせよ!:その19]

コンパクトSUVタイプの電気自動車「ID.4」が2024年モデルにアップデート。この最新版をドイツ・ミュンヘンでさっそく試乗しました。 モーターのパワーは60kW増し 「ID.4」が2024年モデルにアップデートし、コックピットのデザインが様変わりしたことは、前回のコラムで述べました。さらに今回の仕様変更では、走りにかかわる部分にも手が加えられています。 一番の変更が、新開発のモーターが搭載されたこと。フォルクスワーゲンでは、ID.ファミリーのプレミアムセダンである「ID.7」に、新たに開発した「APP550」型の電気モーターを採用しました。最高出力は210kW(286PS)と実にパワフルです。これが2024年モデルの「ID.4プロ」にも搭載されることになりました。これまでの「ID.4プロ」の最高出力が150kWですので、出力は60kW、4割増しという計算。最大トルクも従来の310Nmから545Nmとなり、こちらは75%の大幅アップです。 バッテリー容量は77kWhで変更はありませんが、2024年モデルからはバッテリーの“プレコンディショニング機能”を搭載し、冬の寒い時期、充電前にバッテリー温度を高めておくことで充電量の低下を抑えることができます。これはうれしい! 他にも、可変ダンピングシステムのDCC(ダイナミックシャシーコントロール)の改良なども行われ、果たしてどんな走りを見せてくれるのか、興味津々です。 早く乗ってみたいなぁ……と思っていたら、なんとうれしいことに、発表されたばかりの2024年式ID.4 プロ・パフォーマンスを、ドイツ・ミュンヘンで試乗するチャンスに恵まれました。試乗時間は約20分と超ショートですが、わが愛車のID.4 プロ・ローンチエディションと比較するには十分な時間です。

VOL.18
ミュンヘンで「ID.4」の2024年モデルに遭遇! [ID.4をチャージせよ!:その18]

ミュンヘンモーターショー(IAA)のメイン会場近くで、フォルクスワーゲンがメディア向けイベントを開催。そこで、2024年モデルの「ID.4」に遭遇しました。 見た目は同じ イベントスペースのパーキングに待機していたのは、“コスタアズールメタリック”のボディが爽やかな「ID.4 プロ・パフォーマンス」。日本のラインアップにはないボディカラーに目を奪われますが、エクステリアデザインはこれまでと同じで、私の愛車の「ID.4 プロ・ローンチエディション」との違いは1インチアップの21インチホイールが装着されていることくらいです。 ところが運転席に座ると、コックピットの眺めに違和感が! マイナーチェンジでもないのに、コックピットのデザインが私のID.4 プロ・ローンチエディションと大きく変わっていました。 ご存じのとおり、フォルクスワーゲンなど多くの輸入ブランドでは“イヤーモデル制”を採用していて、毎年のように細かい仕様変更を実施。エクステリアデザインは一緒でもパワートレインや装備が変わるというのはよくあること。この2024年モデルでは、インテリアのデザインまで様変わりしていたのです。 真っ先に気づいたのが、ダッシュボード中央にあるタッチパネルがリニューアルされていること。2022年モデルのID.4 プロ・ローンチエディションでは12インチのタッチパネルが搭載されていますが、この2024年モデルでは12.9インチにサイズアップが図られたのに加えて、デザインも一新され、明らかに使い勝手が向上していました。

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