コラム 記事一覧

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TEXT:御堀直嗣
EVには専用プラットフォームと共用プラットフォームがある! だったら専用プラットフォームを開発する必要ある?

EV専用プラットフォームは簡素化しやすい 電気自動車(EV)専用プラットフォームか、ハイブリッド車(HV)などとの共用プラットフォームか。 その判断は、EVを主力と考えるかどうかでわかれるだろう。 そもそも、プラグインハイブリッド車(PHEV)を含め、エンジンを併用するクルマは、搭載する部品がEVより多くの点数を必要とする。 エンジンや変速機(必ずしも必要ではない事例もある)は誰でも思いつくが、ほかに、燃料タンクはもちろん、燃料をタンクからエンジンへ送るためのポンプや配管も、エンジンや変速機といった一体型のアッセンブリーとは別に、車体に配置される。排出ガス浄化のための触媒や、排気音を抑える消音器(マフラー)、外へ排出ガスを吐き出すための配管が、エンジンルームから車体後部まで床下に経路を必要とする。 EVは、ほぼ床下一面に搭載されるリチウムイオンバッテリーのケースが、プラットフォームの剛性向上に一役買うが、それ以外の車種では、床構造に剛性強化のための構造が必要になる。床下構造がより複雑になる傾向にあるのが、HVなどエンジンとモーターを併用する車種だ。 それに対しEVは、そもそも部品点数が少ないこともあり、また先に述べたようにバッテリーケースが車体補強の一部として活用されることもあって、簡素な構造にしやすい。それが、ギガキャストとよばれる一体構造の鋳造技術で活かされる。 結論として、エンジンの有無によって、プラットフォームは別仕立てであるのが合理的だ。 しかし、EVとHVとで、それぞれ別に専用プラットフォームを設計・開発し、機能上の合理性を優先すれば、同じ車種でありながらふたつの設計・開発という余分な予算を必要とする。できるなら、共用したいというのが、作る側の本音だろう。 また、当面の販売動向として、EVよりHVの比率が多いと判断すれば、共用できるプラットフォームをEVにも転用できる設計にするのが適切との判断となるだろう。

TAG: #ギガキャスト #プラットフォーム
TEXT:高橋 優
BYDがエンジンありのクルマを日本に導入予定! 気になるPHEV「シーライオン6」はやっぱり低価格で勝負!!

BYDのPHEVモデルがもうすぐやってくる 日本国内でBYDの新型モデル「シーライオン6」のテスト車両が目撃されています。2025年末以降に投入予定のPHEVモデルがどれほどの完成度を実現しているのか。気になる値段設定を海外マーケットの値段設定から予測します。 まず日本市場におけるBYDは、すでに日本国内にATTO 3、ドルフィン、シール、そしてシーライオン7という4車種を投入済みです。その上で2025年末に初のPHEV導入を決定しながら、ちょうど1年後となる2026年後半には軽自動車セグメントのEVを投入する方針を表明しています。すでに一部のネット上におけるスパイショットから、ホンダN-BOXと瓜二つの、スライドドア採用のスーパーハイトになることが判明済みです。日産サクラだけでなくホンダN-ONE :eの発売もスタートすることから、軽自動車セグメントのEVがさらに盛り上がるはずです。 そして今回取り上げたいのが、軽自動車EVとともに注目されていたPHEVモデルの存在です。すでにネット上での目撃情報が増えており、車両形状からほぼシーライオン6で確定しており、年末ごろの発売に向けて準備が進められている模様です。 このシーライオン6は中国市場におけるSong. Plusと同じモデルです。すでにSong Plusは欧州市場においてSeal Uとして発売中ですし、東南アジアオセアニア地域でもシーライオン6として発売中です。 シーライオン6はFWDグレードとともに、後輪側にもモーターを搭載したAWDグレードを両方設定。バッテリー容量は18.3kWhのLFPバッテリーを搭載しながら、1.5リッターPHEVシステムであるDMシステムが搭載されています。よって欧州WLTCモードにおいて80kmのEV航続距離を確保しながら、60リットルの燃料タンクを組み合わせることによって、最大航続距離も1080kmを確保しています。 PHEVの強みは、通勤や買い物などの日常使いを電気のみでまかないながら、途中充電が必要となるロングトリップでは、充電を気にすることなくガソリンだけで走行することができるという点です。日常使いは電気のみの走行で運用コストを下げたり、EVならではの静粛性や制振性の高い乗り心地を実現しながら、ロングトリップにおける充電の煩わしさからストレスフリーとなるという、BEVとガソリン車のいいとこ取りが自慢です。 また、シーライオン6では最大18kWの急速充電にも対応しており、日本版ではおそらくチャデモ規格を採用することで、V2Hにも対応してくる見込みです。さらに中国国内では設定されていないAWDグレードでは、最高出力238kW、最大トルク550N・mを発揮することで、0-100km/h加速が5.9秒と俊敏な動力性能も実現。とくに四輪駆動方式は雪国で訴求力が高く、雪国におけるBYDのシェア拡大にも期待されます。 値段設定は、値段設定が似通っているオーストラリア市場で、FWDグレードが、42990オーストラリアドル(約416万円)、AWDグレードが日本円で約513万円となっています。

TAG: #PHEV #SUV #新車
TEXT:桃田健史
ただエンジンがバッテリー&モーターに変わるワケじゃない! EVシフトは製造業の産業構造が変わるほどの大きな出来事だった

EVシフトは自動車メーカーだけの問題ではない EVシフトが進むと、自動車部品メーカーはどうなっていくのだろうか。こうした話題が最近、経済ニュースなどで取り上げられることが少なくない。 その際、新車1台あたりの構成部品の数について、エンジン車は約3万点に対してEVは約2万点だという一般論が紹介される。この分野については、経済産業省・関東経済産業局がNTTデータ経営研究所への委託業務として行った調査報告「令和4年度電動化シフトを踏まえた地域自動車部品サプライヤーの技術力・開発力向上に向けた動向調査」に詳しい。 それによると、エンジン車の部品点数は約3万点。構成要素で見ると、エンジン部品がもっとも多く7000〜8000点といったところ。そのほか、電動・変速部品、懸架(サスペンション)・制動部品、車体部品などがある。 このうち、EVになっても、車体部品と懸架(サスペンション)・制御部品はガソリン車と比べて部品点数としての変化が少ない。車体部品とは、ボディの外板、バックドアやサンルーフ、バンパー、ヘッドライト、ドアミラー、フロントグリル、フロントガラスなどだ。つまり、外観としてのクルマや骨格において、EVでも走る・曲がる・止まるという基本的な要因はガソリン車と比べて大きく変わらないという解釈だ。 一方で、エンジン部品は、シリンダーブロックやシリンダーヘッドなどエンジン本体部品、バブルなどの動弁系部品、燃料タンク・燃料ポンプ・燃料噴射装置などの燃料系部品、そしてインテークマニホールドやマフラーなどの吸排気系部分など、構成部品は多岐にわたる。これらが、駆動用モーター、インバーター、DC-DCコンバータとなり、変速機についてもいわゆるe-アクスルとしてモーター等と一体化される場合が多い。 こうして改めてエンジン車とEVとの部品構成を見ると、部品メーカーの視点では、エンジン関連サプライヤーの再編が進むが、ほかの領域はこれまでと変わらないと思うかもしれない。 だが、車体についてもいわゆるギガキャストなど、大型のキャスティング(鋳物)製造によって部品点数が大幅に変わったり、また電装関連部品も従来の自動車産業界のサプライヤー以外が参入する可能性も否定できない。 さらには、車両の企画・開発・シミュレーション・部品発注(購買)・生産、販売後のバリューチェーンにおける各種サービスに至るまで、SDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)といった領域で車載OS(オペレーティング・システム)を中核とするデータプラットフォームで管理される時代がやってきそうだ。 そうなると、これまでのようなOEM(自動車メーカー)からティア1、ティア2、ティア3といった段階的な部品発注の仕組みそのものが大きく崩れてしまうかもしれない。実際、ここ1〜2年で、欧米のSDV関連ベンダーの多くが日本市場参入に積極的で、そうした新しい仕組み作りを提唱している。 EVシフトは、単なるガソリン車のパワートレイン転換ではなく、産業界のみならず地域社会を巻き込んだ大きな社会変革なのだ。

TEXT:御堀直嗣
150kWの急速充電器ならアッという間に満タンなハズ……があれ? EVの充電量が思ったよりも回復しない理由

150kW級充電器の恩恵は限定的なもの 国内のCHAdeMO(チャデモ)でも、150kW級の高出力充電器の設置がはじまっている。一方、せっかく高出力充電器を探したのに、思ったほど充電できなかったという経験をもつ人がいるかもしれない。それはなぜか。 まず、150kWの高性能急速充電器であっても、30分の充電時間では、最大でもその半分の75kWしか充電できないことになる。150kWとか90kW、あるいは現在の標準的な50kWという急速充電器の性能は、1時間での充電能力を指しているからだ。 次に、150kWの充電器ではブーストモードを備えた機器があり、その場合は充電の初めに最大の出力を15分だけ出せるような仕組みにしている。ただ、それを実現するには、EV側の備えが必要だ。EV側の備えとは、バッテリーの充電残量がかなり少ない状態であること。また、車両の仕様として、高電圧での充電が可能な性能を満たしていること。 充電残量が少ないとは、SOC(バッテリー残量)のパーセンテージが低い状態をいう。それはメーター表示で確認できる。 急速充電は、たとえるならコップに水を入れるとき、水道の蛇口を全開にして大量の水を一気に注ぎこむ状況といえる。そして、コップから水をこぼさないようにしなければならないという条件が付く。コップから水が溢れてしまう状況とは、過充電を意味し、バッテリーが過熱するなどの支障をきたす恐れがある。 水がコップから溢れてこぼれないようにするには、あふれ出す前に蛇口を絞ってちょろちょろといった水の出方にするはずだ。急速充電も同じように、最初は最大電力で充電をはじめたとしても、途中から充電量を絞り、過充電にならない制御が行われる。 SOCがまだ50%前後あるような状態で急速充電しようとしても、EV側が過充電にならないように制限するため、高性能充電器を使ってもあまり充電できないという結果になる。ひとつの目安として、SOCが20%を切るような状況で急速充電するなら、その充電器本来の最高性能で充電をはじめられる可能性が高まる。 とはいえ、充電量が回復してくれば過充電にならないよう充電量は絞られるので、150kWの充電器で30分充電すれば75kWは充電できるはずだと思っても、それより少ない充電量になっても、充電制御上やむをえないことだ。

TAG: #インフラ #充電器 #急速充電器
TEXT:琴條孝詩
EV時代が近づいているのになぜ「合成燃料」が注目される? 課題がクリアされれば「エンジン車」に乗り続けられる未来もある!

合成燃料が普及することへのメリット 電気自動車(EV)が次世代自動車の主役として注目を集める昨今、多くの自動車ファンがその動向に注目していることだろう。しかし、未来のパワートレインはEVだけが選択肢ではない。水素エネルギーと並び、いま熱い視線を浴びているのが「合成燃料」である。既存のエンジンを活かせる可能性を秘めたこの燃料は、カーボンニュートラル社会実現の切り札となりうるのか。この記事では、合成燃料とはいったいなんなのか、その基本を解説し、その将来性を考察してみよう。 <合成燃料とは?―グリーン水素がポイント> 合成燃料とは、化石燃料の組成と同等のエネルギーをもつ製造燃料の総称で、人工的に製造される燃料のことだ。その代表的なものが「e-fuel(イーフューエル)」とも呼ばれるもの。これは”electrofuel”の略称で、その主な原料は、二酸化炭素(CO2)と水素(H2)である。製造プロセスの核心は、再生可能エネルギー(太陽光や風力など)を用いて水を電気分解し、水素を生成するところから始まる。そして、工場や大気中から回収したCO2と、このグリーン水素を合成することで、ガソリンや軽油、灯油といった、従来の化石燃料とほぼ同じ成分の液体燃料を作り出す。 このe-fuelは「カーボンニュートラル」として世界中で注目されている。しかし、なぜe-fuelはカーボンニュートラルと見なされるのだろうか。e-fuelをエンジンで燃焼させれば、当然ながらCO2は排出される。これだけ聞くと、従来のガソリンと何ら変わらないように思えるだろう。 しかし、その製造プロセスにこそ本質がある。製造段階で大気中などからCO2を回収して利用しているため、燃焼時に排出されるCO2と相殺され、理論上大気中のCO2の総量を増やさない、という考え方だ。つまり、地上にある炭素を循環させてエネルギーとして利用する、極めてサステナブルな概念なのである。これは、地下から新たな炭素を掘り起こして燃やす化石燃料とは決定的に異なる点である。 <EV時代における合成燃料の存在意義> EVの普及が加速する現代において、なぜわざわざ複雑なプロセスを経てe-fuelを作る必要があるのか。そうした疑問をもつ方も少なくないだろう。しかし、e-fuelにはEVが抱える課題を補い、共存しうるだけの明確なメリットが存在する。 もっとも大きいのは、既存のインフラと車両をほぼそのまま活用できること。ガソリンや軽油とほぼ同じ性質を持つため、給油はガソリンスタンドで行え、輸送もタンクローリーでこと足りる。そしてなにより、現在世界中で稼働している十数億台もの内燃機関搭載車を、乗り換えることなく脱炭素化できる可能性を秘めている。EVへの移行には、充電インフラの整備の必要性や高い車両価格というハードルをユーザーに越えてもらわなければならない。が、e-fuelはそれらを一気に飛び越えるポテンシャルをもっている。 また、エネルギー密度の高さも特筆すべき点だ。EVの航続距離を延ばすには、重く、かさばるバッテリーを大量に搭載する必要があり、とくに大型トラックやバス、建設機械といった分野での完全電動化には技術的な壁が存在する。さらに、船舶や航空機にとって、バッテリーの重量は致命的だ。その点、e-fuelは液体であるためエネルギー密度が非常に高く、軽量かつコンパクトなタンクで大量のエネルギーを貯蔵・輸送できる。これは、電気や水素燃料ではカバーしきれない領域の脱炭素化を実現する、まさに切り札となりうるのだ。 そして、クルマ好きにとって見逃せないのが、内燃機関という文化を未来に残せるという点だろう。効率や合理性だけでは語れない、エンジンの鼓動を感じる官能的なサウンドと振動、それらとともにクルマを操る楽しさは、自動車文化の根幹をなすものだ。e-fuelは、こうしたエンジンの魅力を維持したまま、環境性能を担保できる唯一の選択肢かもしれない。ポルシェが大規模な実証プラントを稼働させたり、日本の自動車メーカーがスーパー耐久シリーズなどモータースポーツの場で開発を進めたりしているのも、その可能性を信じているからにほかならない。

TAG: #e-fuel #バイオフューエル #燃料
TEXT:高橋 優
日本のEVは世界でどのぐらい売れてる? 販売動向の現在を探ってみた

2025年の日本メーカーのEVシフト動向を調査 日本メーカーの2025年上半期の最新EV販売動向が判明しました。EVシフトで遅れているといわれている日本メーカーの立ち位置と下半期以降の注目EV動向を含めて解説します。 まず、トヨタの最新EVシフト動向を確認します。このグラフはBEVとPHEVの月間販売台数の変遷を示したものです。2022年5月からbZ4X(ハブボルト問題による長期販売停止によって実際の大規模納車開始は2022年10月以降)、2023年3月からbZ3、2025年3月からbZ3X、そして2025年6月からbZ5がそれぞれ発売され、販売台数が大きく伸びています。 他方で、2025年6月度のBEV販売台数は1万7014台と、前年同月比+23.7%の成長を実現しているものの、この1〜2年ほどの販売の伸びと比較すると鈍化しているように見えます。これは、bZ3Xの販売が伸びたもののbZ3の販売が低迷していることが要因でしょう。 さらに、トヨタのEVシフトで気になるのが、BEV販売台数がヨタの想定よりも順調ではないという点です。トヨタは年度初めにBEVやPHEVの年度販売台数予測を発表し、たとえば2023年度のBEV販売台数目標を、年度当初は20.2万台と予測。ところが年度途中から、その目標達成は不可能として12.3万台まで大幅に下方修正し、結局2023年度のBEV販売台数は11.66万台と、その大幅下方修正後の目標値にすら届いていなかったのです。 さらに2024年度のBEV販売台数目標を、年度当初は17.1万台と発表していたものの、2024年度第二四半期決算で16万台へと下方修正。そのうえ第三四半期決算内で14.2万台にさらに下方修正し、結局2024年度は14万4513台と、最新の下方修正後の目標値をギリギリ達成してきた格好です。 トヨタは、すでに2025年度のBEV販売目標をとして31万台という挑戦的な販売目標を提示しているものの、過去2〜3年のEVシフト達成率を踏まえると、目標達成を懸念せざるを得ないのです。 とはいえトヨタは2025年にEVのラインアップを大幅に拡充する予定です。まず、中国市場について、すでに3月中にbZ3Xの発売をスタートし、6月単体の販売台数は6030台と好調です。また、bZ5が6月から発売開始、2025年度末までに中大型セダンのbZ7も投入予定です。次に欧州市場では、新型bZ4XとともにCH-RのEVバージョンであるCH-R+、またスズキe VITARAの兄弟車となるアーバンクルーザーの発売を予定しています。さらに、欧州と東南アジア向けとしてタイでハイラックスのEVバージョンも生産予定ですし、レクサス2車種目のEVとして、ESのEVバージョンもグローバルに投入予定です。 次はEVのパイオニアである日産のEVシフト動向です。このグラフは日産のモデル別BEV販売台数と、新車販売全体に占めるBEVの販売シェア率の変遷を示したものです。日産は、2022年末にBEV販売シェア率が6%を突破するなど順調でしたが、2023年以降、EV販売シェア率は減少トレンドに。実際に2025年2月単体のシェア率は2.56%と最低水準のシェア率に留まってしまっていました。とくにアリアの販売台数が思ったほど伸びず、モデル末期のリーフの販売失速も重なったことが要因でしょう。 その一方で、現在日産でもっとも売れているEVがN7です。4月末にローンチしてから急速に販売台数を増加させ、最新データが判明している7月単体では6455台と絶好調です。8月は生産体制を増強して1万台の生産台数を計画するほどです。新車販売全体に占めるBEVシェア率も4.63%と、2023年1月以来となる高水準を記録しています。 とくにN7は、海外へ展開する方針も表明しながら、さらに欧州市場にはマイクラEVを投入。そしてグローバル全体では新型リーフも投入されます。もしかしたら2026年3月単体で、史上最高の10%近いBEVシェア率を達成するかもしれません。

TAG: #EV販売台数 #国産車
TEXT:御堀直嗣
EVの修理は町の修理工場でもできるの? そもそもエンジン車のように機関が不調になることがほぼない、が答えだった

そもそも修理の機会自体がまれ 電気自動車(EV)の保守管理について、自動車メーカーと通じる販売店の整備工場以外、一般の整備工場でも対応できるのかどうか。ことに、高度な技術が詰め込まれた精密な部品であるバッテリーや、これまでエンジン車では扱う機会の限られたモーターの修理はできるのだろうか。 まず、バッテリーとモーターという、EVの中核を成す部品は、修理の対象になる機会は少ないはずだ。バッテリーについては、EVで使われるリチウムイオンバッテリーは無人化して乾燥した全自動の工場内で生産されるので、それを修理することはほぼ無理だ。自動車メーカー系の販売店でも手に余るだろう。 なおかつEVのバッテリーは、クルマとして使えなくなった場合でも6~7割以上の容量を残しているので、修理という段階には至らないのではないか。一部のセルが不具合に陥った際は交換するしかない。しかし、そのためにバッテリーケースを分解することは、新しいEVになればなるほど難しくなっている。 理由は、充放電において安定して効率的な電気の出し入れを行うため、温度管理をする機能がバッテリーケースには組み込まれているからだ。液体冷却を採用する例が多く、その配管を外すのは難しいだろう。したがって、リチウムイオンバッテリーの二次利用においても、バッテリーケースごと活用する方向で考える事例が増えている。 次にモーターについては、まず10年やそこらで故障することはないのではないか。初代リーフが発売された当時から、車体が廃車になってもモーターは次のクルマで使えるといわれたほどモーターの耐久性は高い。ほかの例でいえば、家庭電化製品の洗濯機や冷蔵庫はかなり長い年月使いつづけることができているのではないか。それほどモーターは耐久性が高い。 また、多くのEVで使われている永久磁石式同期モーターの回転子(ローター)の磁石は、ネオジムという希少金属を混ぜることで、子どもが遊ぶような一般のフェライト磁石に比べ10倍ともいわれる磁力を備えている。したがって、一度くっついてしまうと人の力で離すことはできない。専用の機器を使ってようやくといった強烈な磁力を備えているのだ。 モーターの製造現場でも、うかつに磁石同士がくっついてしまうことのないよう慎重な作業が行われるほどだ。そうした超高性能な磁石を用いたモーターは、容易に修理のできる部品とはいえないだろう。 一般の整備工場に対して、EVだから特殊な技術が必要だからというのではなく、そもそもバッテリーもモーターも壊れにくい部品であるうえ耐久性が非常に高いので、メーカー直属の整備工場であろうと一般的な町工場であろうと、修理という対象になりにくい構成部品なのである。

TAG: #メンテナンス #修理
TEXT:桃田健史
三菱の新EVはピニンファリーナデザインの「モデルB」が濃厚! 自社製EVもあったのに台湾企業からのOEMを選んだ理由とは?

ホンハイ製の三菱車はモデルBが有力 三菱自動車工業(以下、三菱)は5月、「Foxtronと電気自動車のOEM供給について覚書を締結」したと発表した。Foxtronとは、Foxconn(鴻海精密工業)の傘下にある電気自動車開発を行う企業。鴻海(以下、ホンハイ)といえば、ホンダと日産の経営統合が協議された昨年末から今年前半にかけて、日産との関係についてさまざまな噂がメディアやSNSで飛び交った企業だ。 今回の三菱とホンハイとの協業については、ホンハイが開発したEVを台湾の裕隆汽車製造(以下、ユーロン)で生産し、2026年後半からオーストラリアやニュージーランドで販売する計画だ。当該モデルについての詳細は、三菱から明らかにされていない。 ただし、ホンハイが4月に都内で開催した「EV戦略説明会」を取材した際、プレゼンテーションのなかで登場した「MODEL B」が、三菱向けである可能性が極めて高い。なぜならば、2025年に台湾で投入し、2026年には日本OEM向けでオセアニアに投入するとの記載があったからだ。 MODEL Bは、イタリアのカロッツェリアであるピニンファリーナがデザインを担当した、斬新な都市型小型EV。ボディ寸法は、全長4315mm×全幅1885mm×全高1535mm、ホイールベースが2800mm。モーター性能は、リヤ駆動では170kW/340Nm、またAWDでは344kW/680Nmだ。バッテリー容量は58kWhで、満充電での後続距離は欧州NEDCモードで500kmとした。 三菱としては、電動車については、ホンダ・日産・三菱のアライアンスの活用も今後、継続的に協議する可能性を残しつつも、三菱が得意とするオセアニア地域や東南アジア等で早期に導入できるEVが必要だったといえる。開発から製造まで、社外に委託することでそれを実現した。 三菱といえば、1900年代初頭から続くグローバルEV史のなかで、大手自動車メーカーとしては日産「リーフ」とほぼ同時に、「i-MiEV」を市場導入したEV業界の先駆者だ。i-MiEVでの電動化に関する知見を、アウトランダーPHEVの商品改良によってさらに磨きをかけている。 そうしたなか、今回のホンハイ・ユーロンからEVのOEM供給を受けることは、三菱にとって事業の大きな転換を感じさせる出来事だといえる。まさに、100年に一度の自動車産業大変革の象徴だ。 見方を変えれば、日系メーカーのなかでは比較的、身軽な三菱だからこそできた大きな決断だともいえるだろう。 改めてホンハイと日産との協業も噂されるなか、ホンハイが提供するEVの新しいビジネスモデルに今後も注目していきたい。

TAG: #OEM #三菱 #鴻海
TEXT:石井啓介
中古の日産リーフのバッテリーパックをGET! 初代フィアット・パンダのEV化に挑戦してみた【その4】

いよいよ電気系の作業に着手! 「電気熊猫計画」とは、EVライフをもっと楽しくおいしくする「EVごはん」と、旧車のコンバージョンEVを手掛ける「アビゲイルモータース」が共同で進める往年のイタリアの名車「フィアット・パンダ(初代)」をEV(電気自動車)にコンバートするプロジェクトです。 今回は、第4回目(第3回目はコチラをご覧ください)として、「Step3:マネジメントシステムを購入。マニュアルを熟読する。一方でパンダのデータとモーターなど、パーツ類のデータを画面上でレイアウトしていく」前半をご紹介したいと思います。 その前に細かいことも EVコンバートにおける電気系作業は、まさにメインとなる作業ですが、その前に細々とした作業を行います。 ベース車両のパンダ君は、まあ程度は悪くないですが、とはいえ30年近い前の旧車なので、あちこち錆が出てきています。せっかく未来に引き継ぐクルマですので、錆は止めておきたいということで錆を落として、錆止めを塗布。 見えなくなるところですが、きれいにしておきました。 バンパーも、ツヤがなくて白ボケしていたので、下地を作ってマットブラックで塗装。細かい傷は残りましたが、キレイになりました。 EVコンバートで最初に出てくるのがエンジン及びエンジンまわりのパーツ類です。 貴重な旧車パーツですので「産廃」で捨てるのはもったいないと思い、お声がけしたのが神奈川県で小型車大好きな“変態”自動車セレクトショップ「GATTINA」さん。 パンだのEVコンバートで出た「エンジンなどの関連パーツいりませんか?」とご相談したら「ぜひ!」ということで駆けつけてくれました。エンジンやらミッションやら、ガソリンタンクやら、なんとか積み込んで帰っていただきました! どこかのパンダさんの窮地を救うことができれば嬉しいです! バッテリー到着! そんなことをしていると、中古の日産リーフのバッテリーパックをヤフオクでゲット。1日がかりでバラします。 バッテリーパックは全部で48個。ひとつひとつが重量物で重い! とはいえ落とすと大変なので丁寧に扱う必要ありなので気を抜けません。 ※低圧電気取扱作業者の資格を持つアビゲイルモータース代表飯田さんの指導のもと、私(石井)は周辺の片づけを中心に行っております。 さらに電気の世界へ ということで、ここからどんどんと「電気」の世界に入っていきます。次回はStep3:マネジメントシステムを購入。マニュアルを熟読する。後編となります。引き続きよろしくお願いいたします。 充電スポットの美味しいごはん情報をシェアするコミュニティ「EVごはん」 https://ev-gohan.com/ 旧い個性的なクルマを日常的に使いたい。そんな願いをカタチに! 「アビゲイルモータース」 https://www.abigail-motors.ltd/ 代わりのないクルマ専門店「GATTINA」 https://gattina.net/

TAG: #コンバートEV #旧車
TEXT:山本晋也
日本のEVに積まれる発火事故ゼロの超安心バッテリー! EVの助演男優賞「AESC」の最先端工場に潜入!!

新型リーフとホンダ軽EVに積むバッテリーはクリーンな環境で作られていた 国産EVのみならず、量産EVとして世界的にもっとも歴史が続いているモデルといえば、いわずもがな「リーフ」だ。そして、日本においてもっとも売れているEVは、2022~2024年度までの直近3年連続で「サクラ」となっている。 この2台に共通するのは、どちらも日産ブランドのモデルということになるが、それだけではない。航続距離や最高出力など、EVの性能を左右する重要なバッテリーについても、サプライヤー(バッテリーメーカー)は同じだったりする。 それが、「AESC」である。 初代リーフの駆動用・二次バッテリーを製造していた「オートモーティブエナジーサプライコーポレーション」にルーツをもつ同社は、いわゆる自動車メーカーに製品を納めるB to B企業だ。 そのため、一般ユーザー向けの製品を作っている電機メーカーほどの知名度はないかもしれないが、日本のEV市場においてはトップシェアといえる規模を誇り、日本の自動車産業にとっては欠かせない会社といえる。 前述した日産リーフ、サクラ(兄弟車のeKクロスEV)だけでも国産EVのセールスにおいては大半を占めるが、さらにホンダN-VAN e:のバッテリーもAESC製。じつは国産EVオーナーにとって「AESC」は身近な企業・ブランドなのだ。 そんなAESCの、2024年から稼働開始している最新のギガファクトリー「茨城工場」を見学することができた。非常に貴重な機会であり、ファクトリー内で見聞きした情報を共有したい。 将来的には年間20GWh(ギガワットアワー)の生産能力を目指すというAESC茨城工場。現在は、第一棟の3ラインが稼働しているのみで、生産能力は6GWh/年となっているが、それでも紛うことなく“ギガファクトリー”といえる。 見学した日にラインを流れていたのは、ホンダの軽EV向けのバッテリー。ラミネートフィルムで覆われたパウチ型バッテリーが製造されていた。初代リーフ向けのバッテリーの見た目から「レトルトカレーみたい」といわれた、AESCおなじみのタイプである。 ただし、その中身は大きく進化している。茨城のギガファクトリーで作られているのは第5世代のリチウムイオンバッテリーとなっている。その進化は非常に細かいアップデートの積み重ねということだが、目指したのは、エネルギー密度と出力という相反する要素を両立すること。ちなみに、現行リーフやサクラなどのパウチ型バッテリーはAESCの第4世代。茨城のギガファクトリーでは、新型リーフ向けのバッテリーも製造予定だが、そちらは当然第5世代のパウチ型となる。 ところで、リチウムイオンバッテリーといえば正極材を三元系(NMC=ニッケル・マンガン・コバルト)とするタイプが長らく主流だったが、このところリン酸鉄(LFP=リチウム・鉄・リン)を用いるタイプに注目が集まっている。実際、EV用としてLFPリチウムイオンバッテリーを使うケースも増えてきている。 茨城ギガファクトリーで製造されているパウチ型バッテリーがNMCタイプとなっている理由について、AESCは「エネルギー密度に有利で、なおかつ急速充電性能にも優れているため」と説明する。これはAESCがNMCしか扱っていないためのいい訳ではない。同社はEV用バッテリーのほか、ESS(定置型の電力貯蔵システム)も扱っており、ESSでは充電サイクルの耐用性に有利なLFPタイプのリチウムイオンバッテリーを使っている。 NMCとLFPそれぞれのよさを知った上で、EV用としてはNMCが向いていると判断しているのだ。

TAG: #ギガファクトリー #バッテリー #工場
連載企画 一覧
VOL.15
本当に日本はEVで「立ち遅れた」のか:知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第15回

ジャパン・モビリティ・ショー開催でにわかに沸き立つ日本のEVマーケット。しかし現実の販売状況は日本において大きく立ち遅れている。技術では先導してきたはずの日本メーカーは、なぜEVで世界をリードできていないのか。この分野のベテランジャーナリストである御堀 直嗣が解説する。 日本の低いEV市場占有率 日本は、世界に先駆けて電気自動車(EV)の市販に踏み切った。2009年に三菱自動車工業が、軽自動車EVの「i-MiEV」を法人向けにリース販売しはじめ、翌10年には一般消費者向けへの販売も開始した。同年には、日産自動車も小型EVの「リーフ」を発売した。この2社によって、EVの量産市販が実現し、ことにリーフは海外への販売も行われ、「i-MiEV」はフランスの当時PSA社にOEM供給された。リーフの販売は世界で累計65万台に達し、その他EVを含めると、日産は世界で100万台のEV販売の実績を持つ。そのうち、日本国内は累計23万台である。 ちなみに、米国テスラは2022年では年間で約130万台、中国のBYDは同年に約90万台規模へ成長している。 同時にまた、世界共通の充電規格であるCHAdeMO(チャデモ)も準備され、リーフが販売される世界の各地域にCHAdeMO充電器の設置が動き出した。 それらを背景に、経済産業省は2012年度補正予算で1,005億円の補助金を計上し、全国に約10万基の充電器を整備するとした。この補助金は全額支給でないため、トヨタ/日産/ホンダ/三菱自の4社が資金を拠出し、補助金で賄いきれない残額を補填することに合意した。 しかし、現在の充電器の数は、急速充電と普通充電を合わせて約2万基である。 国内の新車販売において、EVが占める割合は1%以下という状況が長く続いた。昨2022年、「日産サクラ」と「三菱eKクロスEV」が発売となり、1年で5万台以上を販売することで2%ほどの占有率になろうかという状況にある。 一方、世界全体では、EVの市場占有率が13%になる。米国は5.8%、欧州は12%、中国は21%となっており、日本がいかに低水準であるかがみえてくる。 日本でEV普及が進まなかった理由 EVの先駆者であった日本が、なぜ欧米や中国の後塵を拝するようになったのか。 最大の要因は、せっかく1,005億円という充電基盤整備に対する経済産業省の支援があったにもかかわらず、急速充電器の整備にばかり世間の目が行き、EV利用の基本である基礎充電、すなわち自宅での普通充電(200V)の重要性が広がらなかったからである。ことに、マンションなど集合住宅の駐車場と、月極駐車場への普通充電設置がほぼできなかったことが原因であった。 EVの充電は、普通充電で8~10時間、あるいはそれ以上かかるとされ、これが単純にガソリンスタンドでの給油時間と比較されて、使い勝手が悪いとさまざまな媒体を通じて流布された。いまでもそうした論調が消えていない。しかし、自宅で普通充電できれば、寝ている間に満充電になるので、翌朝出かけるときは満充電で出発できる。 戸建て住宅に住む人はそれができた。ところが、戸建て住宅でも自宅に車庫がなく月極駐車場を利用する人は、近隣の急速充電器を利用しなければならなくなった。 集合住宅に住む人は、敷地内に駐車場が併設されていても、管理組合の同意が得られず普通充電ができない状態に陥った。無知がもたらした悲劇だ。EVを買う意思があっても、手に入れにくい状況があった。 集合住宅の管理組合で賛同が得られない最大の理由は、幹事がEV時代を予測できず、また自分には関係ないとして無視され続けたことにある。設置の経費は、ことに当初は補助金と自動車メーカー4社による補填があったので、ほぼゼロであった。現在でも、施工業者が残金を負担するなどのやりくりで、集合住宅側の負担が軽く済む仕組みが出てきている。それでもなお、管理組合で合意を得るのが難しい状況は払拭できていない。 基礎充電の普及を目指す業者の間でも、さらに難しいとされるのが月極駐車場への普通充電の設置だ。月極駐車場を管理する不動産業者の理解を得にくいという。

VOL.1
リッター200円にもう限界……給油の“枷”をぶっちぎれ!【モデルサードインパクト vol.1】

ガソリン高い、燃費も悪い、限界だ! かつてないほどの猛暑に喘いだであろう今夏。「もういいよ」「もう下がってくれ」と、気温に対して誰もが感じていたと思うが、自動車ユーザーはガソリン価格に対しても同じことを思っていたのではないだろうか。 リッターあたり170円、180円、190円、そして200円の大台を突破……給油をするたびに、誰もが憂鬱な気分になったはずだ。小生はドイツの某オープンスポーツカーに乗っているのだが、リッターあたり平均10kmでハイオク仕様。愛車にガソリンを入れるたび、顔が青ざめていた。 「高額給油という枷から解放されたい……」 EVの購入を決意した所感である。クルマを走らせることは、本来喜びのはず。給油のたびに落ち込むのは本望ではない。 小生は、THE EV TIMES(TET)の編集スタッフを務めています。この9月、「テスラ・モデル3・パフォーマンス」を購入しました。新たな愛車と共に進むEVライフを「モデル・サードインパクト」と銘打ち、連載で紹介していこうと思います。 EVは便利だと実感した「日産リーフ」 小生が初めて体験したEVは「日産リーフ」(2代目)である。遡ること2017年、「リーフ」が2代目になった頃、日産が全国で試乗キャラバンを開催し、小生はその試乗アテンダントを担当していた。そこで「リーフ」を存分に運転することができたのだ。 それゆえ、EVの利便性の高さを実感することになった。スポーツモデル顔負けの力強くスムーズな加速にまず驚いたのだが、給油という枷から外れて自由に走り回れることが大変な魅力に感じた。アイドリング状態でエアコンを入れっぱなしでもガソリン代を気にせずに済む。車内でPCを開けば、そのままオフィスになる。車の用途が無限大に広がると感じた。 充電時間も特別長いとは感じなかった。充電残量が50%くらいになったら、急速充電を使用してあっという間に80%まで回復できる。ちなみに100%まで充電した場合、280kmを走れる表示が出ていたと記憶している(当時は寒い季節で暖房を使用した)。ちょっとした遠出も十分に対応可能。「EVなんて不便」という印象は全く抱かなかった。そこで薄々と「将来はEVもアリだな」と思ったのだ。

VOL.20
VW「ID.4」オーナーはアウトバーンを時速何キロで走る? [ID.4をチャージせよ!:その20]

9月上旬、スイスで開催された「ID.TREFFEN」(ID.ミーティング)を取材した際に、参加していた「ID.4」オーナーに、そのクルマを選んだ理由などを聞きました。 フォルクスワーゲン一筋 鮮やかな“キングズレッドメタリック”のID.4で登場したのは、ドイツのハノーファーからはるばるスイスに駆けつけたデュブラック・マルクスさん。「フォルクスワーゲンT3」のTシャツを着ているくらいですから、かなりのフォルクスワーゲン好きと見ましたが、予想は的中! 「18歳で免許を取ってからこれまで30年間、フォルクスワーゲンしか買ったことがないんですよ」という、まさにフォルクスワーゲン一筋の御仁でした。 彼の愛車はID.4のなかでももっともハイパフォーマンスな「ID.4 GTX」。日本未導入のこのグレードは、2モーターの4WD仕様で、最高出力220kW(299PS)を発揮するというスポーツモデル。こんなクルマに乗れるなんて、なんともうらやましいかぎりです。 そんなマルクスさんにID.4 GTXを購入した理由を尋ねると、「これからはEVの時代だと思ったので!」と明確な答えが返ってきました。とはいえ、ID.ファミリーのトップバッターである「ID.3」が登場した時点ではすぐに動き出すことはありませんでした。「1年半くらい前にID.4 GTXを試乗する機会があって、踏んだ瞬間から力強くダッシュするID.4 GTXのパンチ力にすっかり惚れ込んでしまい、即決でしたよ(笑)」。

VOL.14
欧州メーカーはなぜ電気自動車に走ったのか?:知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第14回

EVの知識を、最新情報から「いまさらこんなこと聞いていいの?」というベーシックな疑問まで、ベテラン・ジャーナリストが答えていく連載。今回は欧州メーカーの特集です。 日本市場参入が遅かった欧州製EV 日本市場では、欧州からの電気自動車(EV)攻勢が活発に見える。ドイツの「BMW i3」が発売されたのは2013年秋で、日本市場へは2014年春に導入された。 日本の自動車メーカーがEVを市販したのは、2009年の「三菱i-MiEV」の法人向けリースが最初で、翌2010年には「i-MiEV」も一般消費者への販売を開始し、同年に「日産リーフ」が発売された。「i3」の発売は、それより数年後になってからのことだ。 ほかに、フォルクスワーゲン(VW)は、「up!」と「ゴルフ」のエンジン車をEVに改造した「e-up!」と「e-ゴルフ」を2015年から日本で発売すると2014年に発表した。だが、急速充電システムのCHAdeMOとの整合性をとることができず、断念している。その後、VWは「e-ゴルフ」を2017年秋に販売を開始した。EV専用車種となる「ID.4」を日本に導入したのは、2022年のことだ。フランスのプジョーが、「e-208」を日本で発売したのは2020年である。 以上のように、欧州全体としては、EVへの関心が高まってきたのは比較的最近のことといえる。 くじかれたディーゼル重視路線 欧州は、クルマの環境対策として、自動車メーカーごとの二酸化炭素(CO2)排出量規制を中心に動いてきた。そして2021年から、1km走行当たりの排出量を企業平均で95gとする対処方法を考えてきた。EU規制は、販売する車種ごとのCO2排出量を問うのではなく、販売するすべての車種の平均値で95gを下回らなければならないという厳しさだ。 対策の基本となったのは、ディーゼルターボ・エンジンを使った排気量の削減と、出力の低下を補う過給器との組み合わせを主体としつつ、ハイブリッドによるさらなる燃費の向上である。 既存のディーゼルターボ・エンジンをできるだけ活用しようとする考えは、欧州メーカーが補機用バッテリーの電圧を世界的な12ボルトから、36ボルトや48ボルトに変更することによるマイルドハイブリッド化に注目してきた様子からもうかがえる。 ところが、2015年にVWが米国市場でディーゼル車の排出ガス規制を偽装していたことが明らかにされた。公的機関での測定では規制値を満たすものの、実走行で急加速などした際に基準を上回る有害物質が排出され、それによって力強い加速を得られるようにした制御が発覚したのである。その影響は、VW車だけでなく、アウディなどVWグループ内に広く影響を及ぼした。

VOL.3
ボルボは新型EVの「EX30」でインテリアに新たな価値を与え、空間を最大限、利用する!

ボルボはEX30の室内で多くの新たなチャレンジを行なっていると謳う。その詳細を小川フミオ氏が訊いていく。連載1回目はこちら、2回目はこちら。 冷たさの排除し素材を“素直”に使う EX30のインテリアが、他車と決定的に違うのは、金属的な表面処理がほとんど見当たらないこと。それは意図的にそうしたのだと、インテリアデザインを統括するリサ・リーブス氏は言う。 「心したのは、冷たさの排除です。使う素材はオネスト、つまり木に見えるものは木であり、また同時に、リサイクル素材を人間にやさしいかたちで使用しました」 インテリアは「ブリーズ」(やさしい風)をはじめ「ミスト」(もや)、「パイン」(松)それに「インディゴ」と4種類(日本はそのうち「ブリーズ」と「ミスト」を導入)。 「ブリーズを例にとると、デザインインスピレーションはサマーデイズ。シート表皮の素材はピクセルニットとノルディコ、ダッシュボードの飾り材はパーティクル、そして空気吹き出し口のカラーはブルーです」 リーブス氏は説明してくれる。 「ピクセルニットはPETボトルをリサイクルしたもの。それを3Dニッティング(立体編み)プロセスでシート用素材にしています。組み合わせるノルディコは、PETボトルなどのリサイクル素材、北欧で計画的に伐採された木から採取された素材、リサイクルされたワインコルクなどで作られたテキスタイルです」 ダッシュボード用のパーティクルは、窓枠やシャッターを中心に工業廃棄物であるプラスチックを粉砕したものだし、フロアマットは漁網をリサイクルしたという。 「リサイクル材とともに、インテリアは雰囲気を統一したので、私たちは“ルーム”という名を与えています。インディゴの場合、デザインインスピレーションは”夜のはじまり”で、デニムをリサイクルしたときに余る糸を使った素材をシート表皮に使っています」 シートじたいは「スニーカーにインスパイアされた形状」(メイヤー氏)だそうだ。

VOL.2
ボルボの新型電気自動車「EX30」にはスターウォーズのデザインが取り入れられている!?

エンジンの回転の盛り上がりには、時に人間的な表現が用いられる。しかしBEV(バッテリー電気自動車)はエンジンもなく無音なため、より無機質な、機械的な印象が強くなる。ボルボはそんなBEVに人間的な要素を入れたと主張する。連載1回目はこちら。 どことなく楽しい感じの表情 ボルボEX30は、いってみれば、二面性のあるモデルだ。ひとつは、地球環境保全(サステナビリティ)を重視したコンセプト。もうひとつは、大トルクの電気モーターの特性を活かしたスポーツ性。 デザイナーは「いずれにしても、BEVと一目でわかってもらうデザインが重要と考えました」(エクステリアデザイン統括のTジョン・メイヤー氏)と言う。 「もちろん、昨今ではICE(エンジン車)かBEVか、デザインをするときあえて差別化をしないのが世界的な流れです。ただし、私たちとしては、スカンジナビアデザインの原則を守りつつデザインしました」 メイヤー氏の言葉を借りて、この場合のスカンジナビアデザインの肝要を説明すると「形態は機能に従う」となる。 「そこで、上部に開口部とグリルはもたせないようにしようと。ただし(インバーターなどのために)空気を採り入れる必要はあるので、下にインレットは設けています」 ボルボ車のデザインアイディンティティである「トール(神の)ハンマー」なる形状のヘッドランプも採用。ただし、カバーで覆った一体型でなく、四角いLEDのマトリックスが独立しているような形状があたらしい。 「そうやって出来上がったのがこのデザインです。顔になっていて、そこには眼があって、鼻があって、口があるんです。どことなく楽しいかんじで、これまで以上に人間的な表情を実現しました」 暴力的でもなければ、ロボット的でもない。メイヤー氏はそこを強調した。

VOL.1
ボルボの新型電気自動車「EX30」は、相反する2面性を合わせ持つ文武両道なクルマ

ボルボの新たなBEV(バッテリー電気自動車)として、ついに10月2日から「サブスク」モデルの申し込みが始まるEX30。この「ボルボ史上最小のBEV」はどのように開発されたのか。ミラノで行われたワールドプレミアに参加した小川フミオ氏が関係者の声とともに振り返る。 スカンディナビアン+デジタル 2023年6月に登場したEX30は、コアコンピューティングテクノロジーを大胆に採用する、ボルボの新世代BEV。 内容にとどまらず、同時に、デザイン面でもさまざまな大胆な試みがなされているのも特徴だ。 いってみれば、伝統的ともいえるスカンディナビアンテイストに、デジタライゼーションの融合。 「私たちのデザイン的価値のすべてを小さなフォーマットで具現」したモデルと、ボルボ・カーズはプレスリリース内で謳う。 「非常に電気自動車的なデザインで(中略)閉じられたシールド(フロントグリルの開口部のこと)とデジタル表現を用いたトールハンマーヘッドライト」がフロント部の特徴とされる。 さらに新世代BEVとしてボルボが狙ったものはなんだろう。ミラノでの発表会において出合った担当デザイナー(たち)に、デザインの見どころと背景にあるコンセプトを取材した。

VOL.5
「BMW iX xDrive50」の高速電費は我慢不要! ロングドライブにうってつけのEV

[THE EV TIMES流・電費ガチ計測] THE EV TIMES(TET)流電費計測の5回目を、8月に「BMW iX xDrive50」で実施した。車高の高いSUVにもかかわらず、高速巡航時に電費が低下しにくいのが特徴だ。その詳細をお伝えする。 ※計測方法などについてはこちら、試乗記はこちらをご覧ください。 100km/h巡航でどんどん行こう iX xDrive50のカタログに記載された「一充電走行距離」は650km(WLTC)で、電池容量は111.5kWhだ。650kmを実現するには、電費が5.83km/kWh(以後、目標電費)を上回る必要がある。 各区間の計測結果は下記表の通り。5.83km/kWhを上回った場合、赤字にしている。 これまでのTETによる電費計測で初めてA区間の往路と平均で目標電費を超えた。A区間のように標高差が少ない場所では同じ状況になり得る、つまり100km/h巡航で一充電走行距離の650km近くを走破できる可能性がある。   100km/h巡航でも600kmは走れそう 各巡航速度の平均電費は下表の通りだ。「航続可能距離」は電費にバッテリー総容量をかけたもの、「一充電走行距離との比率」は650kmに対して、どれほど良いのか、悪いかだ。 iXのエクステリアは、大きなキドニーグリルが特徴的だ。ざっくり言えば全長5m、全幅2m、全高1.7m、車重2.5トンの堂々としたボディだが、Cd値が0.25と優れている。 100km/h巡航におけるiXの電費は、5.71km/kWhであった。絶対的な数値としては決して高くないが、一充電走行距離との比率を計算すると98%と、これまでにTETが計測したデータの中で最高の結果を記録した。120km/h巡航でもこの数字は78%であった。 つまり、iXは高速巡航でも電費の低下が少ないEVだといえる。 ちなみに、過去に計測したメルセデス「EQE 350+」は、この100km/h巡航時の比率が90%だった。EQEはセダンボディで背が低く、Cd値0.22で、高速巡航には有利であることを考えても、iXの98%という数字の凄さが分かる。 この結果は、空力性能の良好さと高効率なパワートレインの賜物ではないかと思う。BMWが「テクノロジー・フラッグシップ」「次世代を見据え、長距離走行が可能な革新的な次世代電気自動車」と謳っているだけのことはある。これらの記録を塗り替えるクルマが現れるのか、今後の計測が楽しみだ。   各巡航速度ごとの比率は以下の通り。80km/hから100km/hに速度を上げると21%電費が悪くなる。120km/hから80km/hに下げると1.6倍の航続距離の伸長が期待できる。

VOL.19
ぐっとパワフルな2024年モデルのフォルクスワーゲン「ID.4」をミュンヘンで緊急試乗! [ID.4をチャージせよ!:その19]

コンパクトSUVタイプの電気自動車「ID.4」が2024年モデルにアップデート。この最新版をドイツ・ミュンヘンでさっそく試乗しました。 モーターのパワーは60kW増し 「ID.4」が2024年モデルにアップデートし、コックピットのデザインが様変わりしたことは、前回のコラムで述べました。さらに今回の仕様変更では、走りにかかわる部分にも手が加えられています。 一番の変更が、新開発のモーターが搭載されたこと。フォルクスワーゲンでは、ID.ファミリーのプレミアムセダンである「ID.7」に、新たに開発した「APP550」型の電気モーターを採用しました。最高出力は210kW(286PS)と実にパワフルです。これが2024年モデルの「ID.4プロ」にも搭載されることになりました。これまでの「ID.4プロ」の最高出力が150kWですので、出力は60kW、4割増しという計算。最大トルクも従来の310Nmから545Nmとなり、こちらは75%の大幅アップです。 バッテリー容量は77kWhで変更はありませんが、2024年モデルからはバッテリーの“プレコンディショニング機能”を搭載し、冬の寒い時期、充電前にバッテリー温度を高めておくことで充電量の低下を抑えることができます。これはうれしい! 他にも、可変ダンピングシステムのDCC(ダイナミックシャシーコントロール)の改良なども行われ、果たしてどんな走りを見せてくれるのか、興味津々です。 早く乗ってみたいなぁ……と思っていたら、なんとうれしいことに、発表されたばかりの2024年式ID.4 プロ・パフォーマンスを、ドイツ・ミュンヘンで試乗するチャンスに恵まれました。試乗時間は約20分と超ショートですが、わが愛車のID.4 プロ・ローンチエディションと比較するには十分な時間です。

VOL.18
ミュンヘンで「ID.4」の2024年モデルに遭遇! [ID.4をチャージせよ!:その18]

ミュンヘンモーターショー(IAA)のメイン会場近くで、フォルクスワーゲンがメディア向けイベントを開催。そこで、2024年モデルの「ID.4」に遭遇しました。 見た目は同じ イベントスペースのパーキングに待機していたのは、“コスタアズールメタリック”のボディが爽やかな「ID.4 プロ・パフォーマンス」。日本のラインアップにはないボディカラーに目を奪われますが、エクステリアデザインはこれまでと同じで、私の愛車の「ID.4 プロ・ローンチエディション」との違いは1インチアップの21インチホイールが装着されていることくらいです。 ところが運転席に座ると、コックピットの眺めに違和感が! マイナーチェンジでもないのに、コックピットのデザインが私のID.4 プロ・ローンチエディションと大きく変わっていました。 ご存じのとおり、フォルクスワーゲンなど多くの輸入ブランドでは“イヤーモデル制”を採用していて、毎年のように細かい仕様変更を実施。エクステリアデザインは一緒でもパワートレインや装備が変わるというのはよくあること。この2024年モデルでは、インテリアのデザインまで様変わりしていたのです。 真っ先に気づいたのが、ダッシュボード中央にあるタッチパネルがリニューアルされていること。2022年モデルのID.4 プロ・ローンチエディションでは12インチのタッチパネルが搭載されていますが、この2024年モデルでは12.9インチにサイズアップが図られたのに加えて、デザインも一新され、明らかに使い勝手が向上していました。

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