日本で唯一のEVミニバン「ID.Buzz」に勝機はあるのか?
フォルクスワーゲンの大型EVミニバン「ID.Buzz」が日本に上陸した。ここ日本では、全長約4.2mのコンパクトなトヨタ・シエンタやホンダ・フリードから、全長約5mに迫りスペースユーティリティとラグジュアリー性を極めたトヨタ・アルファード/ヴェルファイアに至るまで、さまざまなタイプのミニバンがラインアップされ成熟した市場が形成されている。
それだけに、ID.Buzzがポップな見た目と日本市場で唯一のEVミニバンという特徴を武器にしても、最安モデルのノーマルホイールベース「Pro」で888万9000円と、決して安くはない車両本体価格が足かせとなり、あまり多くの販売台数は見込めないはずだ。
フォルクスワーゲングループジャパンの名誉のためにお断りすると、ドイツでの車両価格は6万ユーロ前後、日本円に換算して約980万円前後なので、輸送費や日本に合わせたローカライズ作業を考えれば十分頑張った価格設定だと言える。しかし、ミニバンに900万円というのは庶民的な価格ではない。
そのような高額なミニバン、ましてやEVに対して風当たりの強い日本でフォルクスワーゲンはどのように販売していくつもりなのだろうか。そしてID.Buzzを選ぶ顧客層をどのように想定しているのだろうか。ID.Buzzの発表会場で聞いた関係者のコメントをもとに紐解くとしよう。
ふたつの異なるターゲット層
ID.Buzzの新車発表会後、記者らの囲み取材に応じたフォルクスワーゲン ジャパンのブランドディレクターであるイモー・ブッシュマン氏は、ID.Buzzの購入者像はふたつあると語った。
「このID.Buzzを、ご自身の2台目もしくは3台目として所有されるお客さまをターゲットとしています。フォルクスワーゲンの歴史やヘリテージに理解のある方、そして電気自動車などの新しいテクノロジーに関心の強い方を主な対象としています」
「もうひとつのターゲット層ですが、それはいわゆるファミリー層です。クルマを1台しかお持ちでない方のなかでも、MPV(いわゆるミニバン)や新しいテクノロジーを好む方を対象としています。そして、フォルクスワーゲンに求められるクラフトマンシップや安全性、ドライビングパフォーマンスを高く評価してくださる方をターゲットとしています」
後者のターゲット層は想定の範囲内というか、いわゆるミニバンの正当なターゲット層だと感じたが、前者に関しては想定外の回答だった。900万円前後のEVミニバンがセカンドカー? そんな需要が本当にあるのだろうか。