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TEXT:高橋 優
日産の新型EVは大型SUV! 「N8」と見られるその中身を提携メーカーの「eπ008」から占う

N7と同じ流れで大型SUVを導入か 日産が中国市場でスマッシュヒットを飛ばしているN7に続く新型EVについて、売れ筋の中大型SUVを投入してくるのではないかという最新動向を、そのベースとなる車種の存在、そして現在中国市場で盛り上がる3列シート搭載大型SUVセグメントの最新動向を含めて解説します。 まず、今回取り上げていきたいのが日産の新型EV動向です。日産は4月末に中国市場でミッドサイズセダンN7の正式発売をスタートさせて、すでに発売開始50日間で2万台の受注を獲得。さらに、6月中に世界戦略車として三代目となる新型リーフを発表しました。さらに欧州市場ではマイクラEVを2025年末までに投入予定です。 そして、欧州以上にEVシフトが進んでいる中国市場には、2027年夏までにN7を含めて合計9車種の新エネルギー車を展開する方針を表明しています。すでに2車種目は、フロンティアプロというピックアップトラックのPHEVを2025年末までに導入する方針です。 そして、日産は2024年の北京オートショー内にて、今後の新型EVのベースとなるコンセプトモデルを4車種も発表していたという背景が存在します。 まずセダンのEvoコンセプトはPHEVであると説明されており、もしかしたら2025年後半に投入予定のN7のEREV(レンジエクステンダーEV)を指しているのかもしれません。 次にEraコンセプトは都市型コンパクトSUVのPHEVと発表されています。日産の売れ筋であるキャッシュカイやエクストレイルのPHEVバージョンとしてラインアップされるのかもしれません。 そして、今回取り上げていきたいのがEpochコンセプトの存在です。このEpochコンセプトはBEVであると説明されており、より大型のSUVと推測可能です。もしかしたらエクストレイルよりも大きく、パスファインダー級のフラグシップSUVとしてラインアップされるのかもしれません。 じつは、このパスファインダーのような3列シート搭載の大型SUVセグメントは、現在多くのEVがラインアップされています。とくに豪華シート、リヤエンタメスクリーン、冷温庫という「三種の神器」が重要視されており、このような豪華装備内容を網羅した大型電動SUVが人気となっているのです。 そして、とくにEpochコンセプトとともに、日産の大型
SUV導入の可能性が高まっていると推測できる理由が、合弁先であるDongfengのEV専門ブランド「eπ」から、すでに大型SUVがラインアップされているという点です。じつはeπからは007というミッドサイズセダンが発売済みであり、日産も同じくミッドサイズセダンのN7を発売しています。 Dongfengとの車両パーツ調達などで協調しているはずであり、よって似たようなセグメントからEVが投入されることになるのは当然の流れといえるでしょう。つまり、eπ007だけではなく、eπ008と同セグメント、つまり大型SUVセグメントのEVを日産も導入してくる可能性が高いのです。 今回取り上げていきたいeπ008は、全長5002mm、全幅1972mm、全高1732mm、ホイールベースが3025mmという中大型SUVセグメントに分類されます。日本国内ではフルサイズSUVに該当しますが、中国市場では一般的に全長5200mm級がフルサイズ大型SUVと分類されるためです。 また、eπ008で重要なポイントが、BEVとともにEREVもラインアップしている点です。このグラフは中大型以上の電動SUVの月間販売台数の変遷を示したものです。とくにモデル名の後ろに記載されている値段設定を見てみれば、30万元(約600万円)以上というプレミアムセグメントに該当する車種が多いことがわかります。他方で、eπ008やリープモーターC16はどちらも日本円換算で300万円台で発売。今後はプレミアムセグメントだけではなく大衆セグメントでも大型電動SUVのラインアップが拡大していくはずです。

TAG: #SUV #新型車
TEXT:山本晋也
「EV不便じゃん」って感じる人は計画性がない人? オーナーが語るEV乗りに向いている人の条件

ルーティンのある人はEVオーナーに向いている EV(電気自動車)に対しては賛否両論だ。エンジン車では実現不可能なレベルでの静粛性やスムースネスはEVの価値といえるし、大出力モーターによる刺激的な走りを誇るハイパフォーマンスなEVも少なくない。 さらに、ガソリン価格の上昇傾向が強まる昨今は、家庭や職場で充電することでランニングコストを抑えられるという経済的メリットに注目して、EVへの乗り換えを検討している人も少なくないだろう。 その一方で、EV否定派は「充電がどうにも不安」という声があるのも事実。急速充電を利用したとしても、現状の技術レベルにおいてはガソリンや軽油を給油するのに比べれば何倍もの時間を要するし、急速充電インフラ自体も完璧に整備されているとはいいがたい。 しかし、充電の手間や時間だけを理由にEVを拒絶してしまうのはもったいないケースもあると感じている。初代リーフでEV生活をはじめ、いまはフィアット500eを所有してEVのあるカーライフを送っている筆者の経験をもとに、EVに向いたライフスタイル、その反対にまったくEVに向いていないライフスタイルを紹介したいと思う。 EVに向いたライフスタイルのキーワードは「ルーティン」だ。 クルマの用途は人それぞれだろうが、たとえば通勤・通学や近場の買い物で乗ることがほとんど、といったライフスタイルであれば、マイカーで走るルートはある程度固定されているはずだ。 平日は、朝起きて職場に行き、帰路で買い物に立ち寄る……といったルーティン的にクルマを利用しているのであれば、ストレスなく生活を送るのに必要な航続距離もわかりやすい。戸建てに住んでいて、普通充電の設備を用意できるのであれば、なおさらだ。 日々の走行範囲をカバーできる性能をもつEVを選べば、日々の生活に「帰宅して充電器につなぐ」といったルーティンを加えるだけで、翌朝までにバッテリーは満足いくレベルに充電されているだろう。 これはまさに、寝る前にスマホを充電するような感覚だ。充電がルーティン化すれば、EVにシフトしてもまったく問題ない。むしろ、たまにガソリンスタンドに立ち寄って給油するというルーティン外の行為が不要になるので、むしろライフスタイルを快適にするといえる。 週末にしかマイカーを使わないような人でも、毎週同じようなエリアのゴルフ場に行くだとか、決まった海岸でサーフィンを楽しんでいるといったライフスタイルであれば、自分に必要な航続距離は判断できる。 現在のEVであれば、満充電で500km以上を走行できるモデルも少なくない。ニーズに見合った性能をもつEVを選べば、「週末は日帰りレジャーを楽しんでいる」というユーザーであってもストレスを感じることなくEVシフトは可能だろう。

TAG: #オーナー #新車購入
TEXT:琴條孝詩
EVって変速機がないって聞くけどなんで? じつは変速機がないことによる多大なメリットが存在した

一般的にEVには変速機が搭載されていない 電気自動車(EV)に興味をもち、試乗した人の多くが最初に気づくのは、アクセルペダルを踏むだけでスムースに加速し、アクセルを踏んだぶんだけスピードが出るという感覚だ。内燃機関(ICE)車で慣れ親しんだ、あのギヤチェンジの手応えや、エンジン回転数の変化に伴う音の変化もない。「クルマを運転する醍醐味がない」と感じる方も多いだろう。しかし、そもそもEVの大半には変速機(トランスミッション)が搭載されていない。なぜEVには変速機が搭載されていないのだろうか? <モーターの特性が変速機を不要にする> EVに変速機が搭載されていない理由は、電気モーターの出力特性にある。ガソリンエンジンやディーゼルエンジンは、特定の回転域でしか最大トルクを発生できない。低回転域ではトルクが不足し、高回転域では出力が頭打ちになる。この狭い「特定の回転域」を有効に使うために、複数のギヤ比をもつ変速機が必要となる。一方、電気モーターは停止状態から最大トルクを発生でき、幅広い回転域で一定の出力を維持できる。つまり、0回転から最高回転まで、どの回転数帯でも十分な駆動力(トルク)を発揮できるのである。 ただし、モーターの回転数をそのままタイヤに伝えると、回転数が高すぎて実用的な速度にならない。そのため、多くのEVでは「減速機(リダクションユニット)」と呼ばれる単段のギヤを備えている。この減速機は、モーターの回転数を適切に減速してタイヤに伝える役割を果たす。しかし、これは変速機とは異なり、複数のギヤ比をもたない単純な構造だ。 EVは、この固定ギヤ比の減速機だけで、発進から高速走行まで多くの走行シーンをカバーできる。たとえば、テスラのモデル3は約9:1の固定減速比を採用しており、これひとつで時速0kmから200km超まで対応する。ICE車なら5速や6速、あるいはATでは8速以上の変速機が使用されているが、これらの必要な速度域を、たったひとつのギヤ比でこなしてしまうのである。

TAG: #トランスミッション #変速機
TEXT:御堀直嗣
急速充電は人間の「早食い競争」のようなもの! 急速充電の多用が電池の劣化を早めるワケ

EVの充電の基本は普通充電 電気自動車(EV)にとって欠かすことのできない充電は、日本のみならず世界的に急速充電を中心に進められてきた。背景にあるのは、ガソリンスタンドでの給油の代わりとの発想があったからだろう。 加えて日本では、人口の多い都市部で7割前後に及ぶ集合住宅での居住状況が、普通充電の設置に足かせとなってきた。また、戸建て住宅であっても、自宅に車庫のない家では月極駐車場を利用することになり、集合住宅における普通充電の設置以上に困難な状況が解消されずにいる。 再三繰り返してきたが、EVの充電の基本は基礎充電といわれる、自宅や勤め先での普通充電だ。これが、車載のリチウムイオンバッテリーの劣化を抑え、あらゆる意味でEVの充電の基本は基礎充電を最適に利用する条件になる。 では、急速充電はなぜリチウムイオンバッテリーを早く劣化させてしまうのか? リチウムイオンバッテリーの充電と放電は、正極(+極)に用いられる金属に含まれるリチウムイオンが、負極(-極)へ移動して充電、その負極から正極へ移動することで放電、すなわちEVの充電の基本は基礎充電が走るエネルギーになる。 そして充電の際、正極から負極へ移動するとき、急速充電では短時間に充電が終わるよう、リチウムイオンはものすごく速く負極へ移動していく。 負極の材料は、グラファイトと呼ばれる炭素の鉱物だ。その結晶の内部へリチウムイオンが入っていくとき、移動速度が速すぎてうまくグラファイトの結晶構造に入ってゆけないと、リチウムはイオンではなくなり金属になってしまう。これを析出という。一度金属になると、イオンへは戻れない。そうしたことが起こらないよう、急速充電といえども慎重な制御が必要だ。制御の失敗が、発火事故などにつながる可能性がある。 また、負極のグラファイトに一気にリチウムイオンが入り込むと、結晶が膨張する。リチウムイオンの出入りが急だと、膨張と収縮が急激に繰り返されることになり、電極がひび割れる可能性が強まる。つまり性能が劣化するということだ。

TAG: #急速充電 #普通充電
TEXT:桃田健史
スバルに求めてるのはコレよ! 新型EV「トレイルシーカー」の日本導入を切望!!

スバルがアメリカで新型EVを公開 うわぁ、これならEVでも買ってもいいかもしれない。日本でもそんなふうに思った人がいるかもしれない。スバルの新型EV「トレイルシーカー」のことである。 毎年恒例4月にマンハッタンで実施された米ニューヨークオートショー。アメリカ国内のみならず世界の自動車産業界がトランプ関税によって大きく振りまわされており、先行き不透明感が増しているなか、トレイルシーカーがかっこいいEVとして、来場者の注目を集めた。 アメリカ人がトレイルシーカーに惹かれる理由は、とてもシンプルだ。 いわば、ウィルダネスのEVバージョンというイメージがあるのだ。ウィルダネスは、アウトバックやフォレスターに採用されている、スバル米国法人のSOA(スバル・オブ・アメリカ)が独自企画したグレードだ。 もはや、ひとつのモデルのグレードというより、サブブランドのような存在価値が出てきた。スバルとしては、そんなウィルダネス効果をEVにも導入したといえよう。 正直なところ、トヨタが主導し、スバルと協業した「bZ4X」と「ソルテラ」の受注はグローバルで大きく伸びたとはいい難い状況だ。 スバルとしては、2027年以降に自社開発EVを群馬県大泉に新設する新工場で量産する計画だ。パナソニックエネジーが同工場の近くに電池製造工場を建てるという、スバルとしては事業の大転換期を迎えようとしているところだ。 そうしたEV本格普及期への移行期として、スバルとしては現在の資産をフル活用した新型EVの市場導入が必要だ。生産計画のロードマップでは、2026年を目処にガソリン車とEVの混流ラインを群馬県矢島工場で実現するとしている。 そこにハマるのが、トレイルシーカーだ。合わせて登場した「ソルテラ」のビッグマイナーチェンジと基本構造を共有化しているものと考えられる。 バッテリー容量は74.7kWh、AWDでのシステム最大出力は375馬力。2026年以降にアメリカでの導入を予定している。日本導入については未定だ。 ソルテラのビックマイナーチェンジ版については当然、日本にも導入されるはずだ。ならば、トレイルシーカーを是非、日本市場に投入していただき、2027年以降のスバル自社開発EVに向けたキックオフになることを期待したい。 あわせて、フォレスター・ウィルダネスについても、トレイルシーカーの存在意義を明確化するため、日本での正規販売を求めたい。

TAG: #トレイルシーカー #新型
TEXT:青山尚暉
いまサクラもeKクロスEVも売れている! かつて三菱が挑戦したi-MiEVはもっと評価されてもいいクルマだった

2009年に世界初の量産EVが誕生 2009年、大手の自動車メーカーとして世界初の電気自動車(軽自動車のEV)を大量生産したのが、三菱のアイミーブだった。バッテリー容量は16kWhで、JC08モードによる航続距離は120km。エアコンを使用すると約100km、ヒーターを使うと約80kmと公表されていた。2009年は法人向けの販売でスタートしたのだが、発売当初の車両本体価格は459万9000円。EV補助金を差し引くと実質320万9000円だった。 ここでは一般ユーザー向けのアイミーブについてのみ、話を進めるが、個人向けの販売は2010年からで、車両本体価格は398万円に引き下げられ、EV補助金によって実質負担額は284万円となった。2011年にも価格引き下げが行われ、ベースグレードのMが260万円、上級グレードのGで380万円となり、実質負担額はMで188万円となり、一気に身近なEVとなったのである(以来、一部改良ごとに値下げされている!!)。 アイミーブの大きな転機は2018年。道路運送車両の保安基準改正に適合すべく、バンパー形状を一新。全長が85mm伸び、軽自動車規格を超えたことで、登録車(白ナンバーの小型車)扱いになっている。もっとも、車両パッケージは軽自動車規格のままだから、乗車定員は4名のままである。 そんなアイミーブは、フランスのプジョーやシトロエンにOEM供給され、プジョー・イオン、シトロエンC-Zeroとして発売されていた経緯もある。世界初の量産EVであり、海外でも活躍していたことから、その未来、売れ行きはなかなかのもの……とはいかなかった。

TAG: #軽自動車 #量産
TEXT:石井啓介
エンジンも燃料タンクも外してスッカラカン! 初代フィアット・パンダのEV化に挑戦してみた【その2】

いよいよスタート! 「電気熊猫計画」とは、EVライフをもっと楽しくおいしくする「EVごはん」と、旧車のコンバージョンEVを手がける「アビゲイルモータース」が共同で進める往年のイタリアの名車「フィアット・パンダ(初代)」をEV(電気自動車)にコンバートするプロジェクトです。 今回は、第二回目(第一回目はコチラをご覧ください)として、「Step1.フィアット・パンダのエンジンを取り外し、エンジンルームを3Dスキャンし機器レイアウト等の詳細設計を行う」編をご紹介したいと思います。 フィアット・パンダ“老熊猫”を紹介 作業開始の前に、今回のベースとなるフィアット・パンダをご紹介しますね。 フィアット・パンダ(初代)は、イタリアの自動車メーカー「フィアット」社が1980年代を中心に製造・販売していた小型ハッチバック車で、伝説のカーデザイナーであるジョルジェット・ジウジアーロ氏のデザインによる簡潔ながらもスペース効率にも優れたスタイリングが特徴です。 開発および製造コストの低減のため、すべての窓を平滑な板ガラスとするなど、ボディは直線と平面によるシンプルなもので、延べ400万台以上もの台数が生産されたというクラシックミニと並ぶコンパクトカーの名車といえます。 今回手に入れたフィアット・パンダは、1996年式の中後期モデルで、グレードは、FFのCLX。排気量1100ccのエンジンとCVTミッションで約7万kmを走ったクルマです。明るめのネイビーブルーのような「ミッドナイトメタリックブルー」のボディは、一部錆が見られましたが、全体的にはしっかりとしたクルマです。とはいえ、製造より30年近く経った個体ですので、だいぶ「ご老体」ではあります。 これを、外観はなるべくオリジナルを維持しながら、新しいテクノロジーを駆使して、将来にわたって長生きしてもらおうというのが今回のコンセプトになります。

TAG: #コンバートEV #旧車
TEXT:渡辺陽一郎
コスパ最高の韓国生まれのEV「インスター」! ライバルとお買い得度を比べてみた

中級グレードのボヤージュに注目 電気自動車のヒョンデ・インスターは、輸入車でありながら、価格の安さで注目される。グレードは3種類用意され、もっとも安価なカジュアルは284万9000円だ。ただし、ヘッドライトはハロゲンで、運転支援機能や後方の並走車両を検知する安全装備やアルミホイールは装着されない。 その意味では、中級グレードのボヤージュに注目したい。カーナビ情報と連動させた車間距離を自動制御できるクルーズコントロール、後方の並走車両を検知して知らせるブラインドスポットコリジョン、前席シートヒーター、ルーフレール、15インチアルミホイールなどを標準装着した。さらに、リチウムイオン電池の総電力量もカジュアルの42kWhに対して49kWhに拡大され、1回の充電でWLTCモードにより458kmを走行できる。 ボヤージュの価格は335万5000円だから、カジュアルよりも50万6000円高いが、ニーズの高い装備を標準装着している。 さらに、22万円を加えてラウンジを選ぶと、電動スライドドアや前席のシートベンチレーションが加わり、アルミホイールが17インチに拡大される。ラウンジの装備は、必須とはいえないが、内外装をオシャレにして快適性をさらに高めたいユーザーには選ぶ価値が高い。販売店も「人気のグレードはラウンジ」という。 買い得グレードを335万5000円のボヤージュとすれば、同じ価格帯のライバル車として、まずは日産サクラがある。サクラは軽自動車とあってリチウムイオン電池は20kWhと小さく、1回の充電で走れる距離も180kmと短いが、価格も割安だ。インスターボヤージュの価格は前述の335万5000円で、国から交付される補助金の56万2000円を差し引くと279万3000円だ。サクラは運転支援のプロパイロットやSOSコールなどを標準装着する上級のGでも308万2200円だから、補助金の57万4000円を差し引くと、250万8200円になる。 サクラGにインスターボヤージュと同じ予算を投入すれば、オプションのプレミアムパッケージ(5万5000円)を装着して内装の質感をさらに向上させ、車庫入れを容易にするプロパイロットパーキング(7万7000円)なども装着できる。 つまり、一家に1台のファーストカーとして長距離を移動するならインスター・ボヤージュ、2台目のセカンドカーとして街なかだけを走るならサクラGという選び方が可能だ。インスターにも選択の余地が十分にある。 このほか、インスター・ボヤージュのライバル車として、BYDドルフィン・ベースラインも挙げられる。駆動用リチウムイオン電池の総電力量は44.9kWhで、1回の充電で400kmを走行できる。インスター・ボヤージュの458kmに比べて少し短いが実用的だ。装備は充実しており、衝突被害軽減ブレーキ、運転支援機能、12.8インチのタッチスクリーンなどを備える。BYDドルフィンベースラインの価格は299万2000円で、補助金額の35万円を差し引くと264万2000円になる。サクラGよりは高いが、インスター・ボヤージュよりは安い。 ボディサイズから見るとフィアット500eもライバル車だが、内外装がオシャレで装備も充実する代わりに、価格は577万円以上と高い。電気自動車を安価に買うなら、ヒョンデ・インスター、BYDドルフィン、日産サクラ、その姉妹車になる三菱eKクロスEVから選びたい。

TAG: #新車 #購入
TEXT:御堀直嗣
「風が吹けば桶屋が儲かる」的な理屈がいまEVでも起こっている! 充電スポットがあるとお店が儲かるのはナゼ?

充電設備の在り方を考えるべき 電気自動車(EV)の充電器近くの店などが売り上げを伸ばしたという話があるそうだ。私は、まだ直接耳にしていないが、嬉しい情報だ。 とはいえ、まだ事例は限られるかもしれない。日本のEV普及が海外に比べ大きく出遅れているからだ。この先、EVの普及が進めば、そうした事例が増える可能性がある。それに際し、充電設備のあり方を、もう一度よく考えてみることが大切ではないだろうか。 EVへの充電は、200Vの普通充電が基本だ。自宅や勤め先などで行う基礎充電と、旅先や仕事先など、訪ね先で行う目的地充電がある。 もうひとつが、高電圧・大電流を利用し、直流で充電する急速充電になる。これは、移動途中に行う充電を指し、経路充電という。当初は、50kW以下の出力であったが、今日では3倍の150kWという大電力を供給するまでに至っている。海外では、さらに高電力の急速充電器の整備も行われている。 ところで、冒頭の充電器のある場所で商売が繁盛するかという視点でいえは、急速充電が適していると考えられがちだ。しかし、急速充電器を設置するとなると、1000万円前後といわれる投資が必要で、そう簡単に誰もが設置できるものではない。 一方、200Vの普通充電は、長い時間停車する自宅や勤め先、あるいは旅先の宿などに適していて、経路充電には不向きだと考えられがちだ。 だが、会話を楽しみながらゆっくり食事をするような飲食店、あるいはウインドウショッピングを含め買い物を楽しむような場所、たとえばアウトレットなどのようなところでは、必ずしも急速充電器でなくても、普通充電器である程度の目的は果たせるのではないか。逆に急速充電器では時間が足りず、食事や買い物をしている途中で、次の充電希望者のため充電枠からクルマを移動しなければならなくなることもあるだろう。 もちろん普通充電では、急速充電のように満充電に近い80%というような充電量は稼げないかもしれない。しかし、移動の仕方によっては、200Vで1~2時間充電することにより、次の目的地までの余裕が得られることになる。あるいは自宅に帰る補充電との発想ができれば、必ずしも急速充電器でなければならないことはない。 経路充電でもあり、ある種の目的地充電でもあるような、折衷案だ。 たとえば3kWの普通充電では、1時間で3kWしか補充電できないので、50kWhというような大容量のリチウムイオンバッテリーを車載するEVでは、たった6%しか回復できない。しかし、20kWhのサクラやeKクロスEVなら15%も回復できる。もし2時間止まっていたなら30%の回復になり、約3分の1の充電量となって、次への移動や帰宅などへの安心感が明らかに違ってくる。 6kWの普通充電設備なら、さらに2倍の充電ができるので、必ずしも車載バッテリーの容量が大きく、高価なEVを買わなくても済むと考えられるようになるかもしれない。 仕事でEVを利用する場合でも、商談先や打ち合わせ先の事業所に普通充電器があれば、打ち合わせなどで1~2時間止まり、それを一日に何件かかけ持ちするとしても、次の事業所まで移動できればよいと考えられるようになるのではないか。 その際の充電料金は、有料でよく、それならば、相手が発注元であっても遠慮はいらないだろう。

TAG: #充電器 #急速充電 #普通充電
TEXT:桃田健史
イーロンマスクの動きで不買運動まで起こったテスラ! EVが伸び悩むいまこの先の戦略はどうなる?

イーロン・マスクの一挙手一投足が経営に影響 6月に入って連日、「トランプ vs マスク」に関する報道が続いた。マスクとは、テスラCEO(最高経営責任者)のイーロン・マスク氏のことである。 ただし、今回の件でマスク氏はテスラ経営者としてではなく、アメリカ連邦政府の政府効率化省のトップとして報道されることが多い。その名のとおり、行政機関での無駄を削減することが、トランプ大統領がマスク氏に与えたタスクだったが、その強引な方策に解雇された職員やその家族から猛烈な反発が出た。 そうしたマスク氏に対する気もちが、テスラの不買運動へと飛び火した。また、欧州市場でもマスク氏の公的、または私的(テスラCEOとして)の発言がテスラの販売に大きな影響を及ぼした。 このような経営者の動向が、自動車メーカーの業績に直接関わるケースは極めてまれである。テスラの場合、創業時は投資家として、また2000年代末にテスラが窮地に陥ってからは経営トップとして表舞台に躍り出たマスク氏の一挙手一投足が、テスラの経営を大きく左右するというプロセスが続いた。 現状、そうした「テスラ=マスク氏」という構図が、テスラ事業にネガティブに作用しているといわざるを得ない。 一方で、テスラ事業そのものを見ると、モデルラインアップでは売れ筋「モデルY」と「モデル3」が熟成期となり、また「サイバートラック」の販売が頭打ち。新事業として、ロボットタクシーや人型ロボットを自社イベントでプロモーションし、一部は社会実装のステージに入っているものの、実質的なビジネスプランの先行きは未だ不透明な状況だ。 また、中国ではBYDを筆頭とする中国地場メーカーによるEV価格競争が激化するなかで、テスラとしては新たなるセグメントでの新車導入が必要な時期なのかもしれない。 時代を少し振り返ってみると、2000年代のEV業界は「リーフ」と「i-MiEV」が大手自動車メーカー初量産のEVとして市場の基盤を作った。2010年代に入るとテスラの「モデルS」構想が具体化したものの、安定的な生産に達するまでかなり長い年月を必要とした。 ところが、「モデル3」の登場と世界的なESG投資拡大によって、テスラの販売台数、そして株価が急上昇していった。ESG投資とは、従来のように財務状況だけではく、環境、ソーシャル(社会性)、ガバナンスを重視した投資のことだ。 そうした時代の波に乗ったテスラは、マスク氏の政権入りという高みに達したのだが、世界的なEGS投資のトレンドがすでにピークから下降に向かい、世界最大の中国市場で地場EVメーカーが躍進するなど、テスラにとって、またマスク氏にとってビジネスのステージが再び大きく変わり始めているのだと思う。 今後のテスラの動向を注視していきたい。

TAG: #イーロン・マスク #トランプ大統領
連載企画 一覧
VOL.15
本当に日本はEVで「立ち遅れた」のか:知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第15回

ジャパン・モビリティ・ショー開催でにわかに沸き立つ日本のEVマーケット。しかし現実の販売状況は日本において大きく立ち遅れている。技術では先導してきたはずの日本メーカーは、なぜEVで世界をリードできていないのか。この分野のベテランジャーナリストである御堀 直嗣が解説する。 日本の低いEV市場占有率 日本は、世界に先駆けて電気自動車(EV)の市販に踏み切った。2009年に三菱自動車工業が、軽自動車EVの「i-MiEV」を法人向けにリース販売しはじめ、翌10年には一般消費者向けへの販売も開始した。同年には、日産自動車も小型EVの「リーフ」を発売した。この2社によって、EVの量産市販が実現し、ことにリーフは海外への販売も行われ、「i-MiEV」はフランスの当時PSA社にOEM供給された。リーフの販売は世界で累計65万台に達し、その他EVを含めると、日産は世界で100万台のEV販売の実績を持つ。そのうち、日本国内は累計23万台である。 ちなみに、米国テスラは2022年では年間で約130万台、中国のBYDは同年に約90万台規模へ成長している。 同時にまた、世界共通の充電規格であるCHAdeMO(チャデモ)も準備され、リーフが販売される世界の各地域にCHAdeMO充電器の設置が動き出した。 それらを背景に、経済産業省は2012年度補正予算で1,005億円の補助金を計上し、全国に約10万基の充電器を整備するとした。この補助金は全額支給でないため、トヨタ/日産/ホンダ/三菱自の4社が資金を拠出し、補助金で賄いきれない残額を補填することに合意した。 しかし、現在の充電器の数は、急速充電と普通充電を合わせて約2万基である。 国内の新車販売において、EVが占める割合は1%以下という状況が長く続いた。昨2022年、「日産サクラ」と「三菱eKクロスEV」が発売となり、1年で5万台以上を販売することで2%ほどの占有率になろうかという状況にある。 一方、世界全体では、EVの市場占有率が13%になる。米国は5.8%、欧州は12%、中国は21%となっており、日本がいかに低水準であるかがみえてくる。 日本でEV普及が進まなかった理由 EVの先駆者であった日本が、なぜ欧米や中国の後塵を拝するようになったのか。 最大の要因は、せっかく1,005億円という充電基盤整備に対する経済産業省の支援があったにもかかわらず、急速充電器の整備にばかり世間の目が行き、EV利用の基本である基礎充電、すなわち自宅での普通充電(200V)の重要性が広がらなかったからである。ことに、マンションなど集合住宅の駐車場と、月極駐車場への普通充電設置がほぼできなかったことが原因であった。 EVの充電は、普通充電で8~10時間、あるいはそれ以上かかるとされ、これが単純にガソリンスタンドでの給油時間と比較されて、使い勝手が悪いとさまざまな媒体を通じて流布された。いまでもそうした論調が消えていない。しかし、自宅で普通充電できれば、寝ている間に満充電になるので、翌朝出かけるときは満充電で出発できる。 戸建て住宅に住む人はそれができた。ところが、戸建て住宅でも自宅に車庫がなく月極駐車場を利用する人は、近隣の急速充電器を利用しなければならなくなった。 集合住宅に住む人は、敷地内に駐車場が併設されていても、管理組合の同意が得られず普通充電ができない状態に陥った。無知がもたらした悲劇だ。EVを買う意思があっても、手に入れにくい状況があった。 集合住宅の管理組合で賛同が得られない最大の理由は、幹事がEV時代を予測できず、また自分には関係ないとして無視され続けたことにある。設置の経費は、ことに当初は補助金と自動車メーカー4社による補填があったので、ほぼゼロであった。現在でも、施工業者が残金を負担するなどのやりくりで、集合住宅側の負担が軽く済む仕組みが出てきている。それでもなお、管理組合で合意を得るのが難しい状況は払拭できていない。 基礎充電の普及を目指す業者の間でも、さらに難しいとされるのが月極駐車場への普通充電の設置だ。月極駐車場を管理する不動産業者の理解を得にくいという。

VOL.1
リッター200円にもう限界……給油の“枷”をぶっちぎれ!【モデルサードインパクト vol.1】

ガソリン高い、燃費も悪い、限界だ! かつてないほどの猛暑に喘いだであろう今夏。「もういいよ」「もう下がってくれ」と、気温に対して誰もが感じていたと思うが、自動車ユーザーはガソリン価格に対しても同じことを思っていたのではないだろうか。 リッターあたり170円、180円、190円、そして200円の大台を突破……給油をするたびに、誰もが憂鬱な気分になったはずだ。小生はドイツの某オープンスポーツカーに乗っているのだが、リッターあたり平均10kmでハイオク仕様。愛車にガソリンを入れるたび、顔が青ざめていた。 「高額給油という枷から解放されたい……」 EVの購入を決意した所感である。クルマを走らせることは、本来喜びのはず。給油のたびに落ち込むのは本望ではない。 小生は、THE EV TIMES(TET)の編集スタッフを務めています。この9月、「テスラ・モデル3・パフォーマンス」を購入しました。新たな愛車と共に進むEVライフを「モデル・サードインパクト」と銘打ち、連載で紹介していこうと思います。 EVは便利だと実感した「日産リーフ」 小生が初めて体験したEVは「日産リーフ」(2代目)である。遡ること2017年、「リーフ」が2代目になった頃、日産が全国で試乗キャラバンを開催し、小生はその試乗アテンダントを担当していた。そこで「リーフ」を存分に運転することができたのだ。 それゆえ、EVの利便性の高さを実感することになった。スポーツモデル顔負けの力強くスムーズな加速にまず驚いたのだが、給油という枷から外れて自由に走り回れることが大変な魅力に感じた。アイドリング状態でエアコンを入れっぱなしでもガソリン代を気にせずに済む。車内でPCを開けば、そのままオフィスになる。車の用途が無限大に広がると感じた。 充電時間も特別長いとは感じなかった。充電残量が50%くらいになったら、急速充電を使用してあっという間に80%まで回復できる。ちなみに100%まで充電した場合、280kmを走れる表示が出ていたと記憶している(当時は寒い季節で暖房を使用した)。ちょっとした遠出も十分に対応可能。「EVなんて不便」という印象は全く抱かなかった。そこで薄々と「将来はEVもアリだな」と思ったのだ。

VOL.20
VW「ID.4」オーナーはアウトバーンを時速何キロで走る? [ID.4をチャージせよ!:その20]

9月上旬、スイスで開催された「ID.TREFFEN」(ID.ミーティング)を取材した際に、参加していた「ID.4」オーナーに、そのクルマを選んだ理由などを聞きました。 フォルクスワーゲン一筋 鮮やかな“キングズレッドメタリック”のID.4で登場したのは、ドイツのハノーファーからはるばるスイスに駆けつけたデュブラック・マルクスさん。「フォルクスワーゲンT3」のTシャツを着ているくらいですから、かなりのフォルクスワーゲン好きと見ましたが、予想は的中! 「18歳で免許を取ってからこれまで30年間、フォルクスワーゲンしか買ったことがないんですよ」という、まさにフォルクスワーゲン一筋の御仁でした。 彼の愛車はID.4のなかでももっともハイパフォーマンスな「ID.4 GTX」。日本未導入のこのグレードは、2モーターの4WD仕様で、最高出力220kW(299PS)を発揮するというスポーツモデル。こんなクルマに乗れるなんて、なんともうらやましいかぎりです。 そんなマルクスさんにID.4 GTXを購入した理由を尋ねると、「これからはEVの時代だと思ったので!」と明確な答えが返ってきました。とはいえ、ID.ファミリーのトップバッターである「ID.3」が登場した時点ではすぐに動き出すことはありませんでした。「1年半くらい前にID.4 GTXを試乗する機会があって、踏んだ瞬間から力強くダッシュするID.4 GTXのパンチ力にすっかり惚れ込んでしまい、即決でしたよ(笑)」。

VOL.14
欧州メーカーはなぜ電気自動車に走ったのか?:知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第14回

EVの知識を、最新情報から「いまさらこんなこと聞いていいの?」というベーシックな疑問まで、ベテラン・ジャーナリストが答えていく連載。今回は欧州メーカーの特集です。 日本市場参入が遅かった欧州製EV 日本市場では、欧州からの電気自動車(EV)攻勢が活発に見える。ドイツの「BMW i3」が発売されたのは2013年秋で、日本市場へは2014年春に導入された。 日本の自動車メーカーがEVを市販したのは、2009年の「三菱i-MiEV」の法人向けリースが最初で、翌2010年には「i-MiEV」も一般消費者への販売を開始し、同年に「日産リーフ」が発売された。「i3」の発売は、それより数年後になってからのことだ。 ほかに、フォルクスワーゲン(VW)は、「up!」と「ゴルフ」のエンジン車をEVに改造した「e-up!」と「e-ゴルフ」を2015年から日本で発売すると2014年に発表した。だが、急速充電システムのCHAdeMOとの整合性をとることができず、断念している。その後、VWは「e-ゴルフ」を2017年秋に販売を開始した。EV専用車種となる「ID.4」を日本に導入したのは、2022年のことだ。フランスのプジョーが、「e-208」を日本で発売したのは2020年である。 以上のように、欧州全体としては、EVへの関心が高まってきたのは比較的最近のことといえる。 くじかれたディーゼル重視路線 欧州は、クルマの環境対策として、自動車メーカーごとの二酸化炭素(CO2)排出量規制を中心に動いてきた。そして2021年から、1km走行当たりの排出量を企業平均で95gとする対処方法を考えてきた。EU規制は、販売する車種ごとのCO2排出量を問うのではなく、販売するすべての車種の平均値で95gを下回らなければならないという厳しさだ。 対策の基本となったのは、ディーゼルターボ・エンジンを使った排気量の削減と、出力の低下を補う過給器との組み合わせを主体としつつ、ハイブリッドによるさらなる燃費の向上である。 既存のディーゼルターボ・エンジンをできるだけ活用しようとする考えは、欧州メーカーが補機用バッテリーの電圧を世界的な12ボルトから、36ボルトや48ボルトに変更することによるマイルドハイブリッド化に注目してきた様子からもうかがえる。 ところが、2015年にVWが米国市場でディーゼル車の排出ガス規制を偽装していたことが明らかにされた。公的機関での測定では規制値を満たすものの、実走行で急加速などした際に基準を上回る有害物質が排出され、それによって力強い加速を得られるようにした制御が発覚したのである。その影響は、VW車だけでなく、アウディなどVWグループ内に広く影響を及ぼした。

VOL.3
ボルボは新型EVの「EX30」でインテリアに新たな価値を与え、空間を最大限、利用する!

ボルボはEX30の室内で多くの新たなチャレンジを行なっていると謳う。その詳細を小川フミオ氏が訊いていく。連載1回目はこちら、2回目はこちら。 冷たさの排除し素材を“素直”に使う EX30のインテリアが、他車と決定的に違うのは、金属的な表面処理がほとんど見当たらないこと。それは意図的にそうしたのだと、インテリアデザインを統括するリサ・リーブス氏は言う。 「心したのは、冷たさの排除です。使う素材はオネスト、つまり木に見えるものは木であり、また同時に、リサイクル素材を人間にやさしいかたちで使用しました」 インテリアは「ブリーズ」(やさしい風)をはじめ「ミスト」(もや)、「パイン」(松)それに「インディゴ」と4種類(日本はそのうち「ブリーズ」と「ミスト」を導入)。 「ブリーズを例にとると、デザインインスピレーションはサマーデイズ。シート表皮の素材はピクセルニットとノルディコ、ダッシュボードの飾り材はパーティクル、そして空気吹き出し口のカラーはブルーです」 リーブス氏は説明してくれる。 「ピクセルニットはPETボトルをリサイクルしたもの。それを3Dニッティング(立体編み)プロセスでシート用素材にしています。組み合わせるノルディコは、PETボトルなどのリサイクル素材、北欧で計画的に伐採された木から採取された素材、リサイクルされたワインコルクなどで作られたテキスタイルです」 ダッシュボード用のパーティクルは、窓枠やシャッターを中心に工業廃棄物であるプラスチックを粉砕したものだし、フロアマットは漁網をリサイクルしたという。 「リサイクル材とともに、インテリアは雰囲気を統一したので、私たちは“ルーム”という名を与えています。インディゴの場合、デザインインスピレーションは”夜のはじまり”で、デニムをリサイクルしたときに余る糸を使った素材をシート表皮に使っています」 シートじたいは「スニーカーにインスパイアされた形状」(メイヤー氏)だそうだ。

VOL.2
ボルボの新型電気自動車「EX30」にはスターウォーズのデザインが取り入れられている!?

エンジンの回転の盛り上がりには、時に人間的な表現が用いられる。しかしBEV(バッテリー電気自動車)はエンジンもなく無音なため、より無機質な、機械的な印象が強くなる。ボルボはそんなBEVに人間的な要素を入れたと主張する。連載1回目はこちら。 どことなく楽しい感じの表情 ボルボEX30は、いってみれば、二面性のあるモデルだ。ひとつは、地球環境保全(サステナビリティ)を重視したコンセプト。もうひとつは、大トルクの電気モーターの特性を活かしたスポーツ性。 デザイナーは「いずれにしても、BEVと一目でわかってもらうデザインが重要と考えました」(エクステリアデザイン統括のTジョン・メイヤー氏)と言う。 「もちろん、昨今ではICE(エンジン車)かBEVか、デザインをするときあえて差別化をしないのが世界的な流れです。ただし、私たちとしては、スカンジナビアデザインの原則を守りつつデザインしました」 メイヤー氏の言葉を借りて、この場合のスカンジナビアデザインの肝要を説明すると「形態は機能に従う」となる。 「そこで、上部に開口部とグリルはもたせないようにしようと。ただし(インバーターなどのために)空気を採り入れる必要はあるので、下にインレットは設けています」 ボルボ車のデザインアイディンティティである「トール(神の)ハンマー」なる形状のヘッドランプも採用。ただし、カバーで覆った一体型でなく、四角いLEDのマトリックスが独立しているような形状があたらしい。 「そうやって出来上がったのがこのデザインです。顔になっていて、そこには眼があって、鼻があって、口があるんです。どことなく楽しいかんじで、これまで以上に人間的な表情を実現しました」 暴力的でもなければ、ロボット的でもない。メイヤー氏はそこを強調した。

VOL.1
ボルボの新型電気自動車「EX30」は、相反する2面性を合わせ持つ文武両道なクルマ

ボルボの新たなBEV(バッテリー電気自動車)として、ついに10月2日から「サブスク」モデルの申し込みが始まるEX30。この「ボルボ史上最小のBEV」はどのように開発されたのか。ミラノで行われたワールドプレミアに参加した小川フミオ氏が関係者の声とともに振り返る。 スカンディナビアン+デジタル 2023年6月に登場したEX30は、コアコンピューティングテクノロジーを大胆に採用する、ボルボの新世代BEV。 内容にとどまらず、同時に、デザイン面でもさまざまな大胆な試みがなされているのも特徴だ。 いってみれば、伝統的ともいえるスカンディナビアンテイストに、デジタライゼーションの融合。 「私たちのデザイン的価値のすべてを小さなフォーマットで具現」したモデルと、ボルボ・カーズはプレスリリース内で謳う。 「非常に電気自動車的なデザインで(中略)閉じられたシールド(フロントグリルの開口部のこと)とデジタル表現を用いたトールハンマーヘッドライト」がフロント部の特徴とされる。 さらに新世代BEVとしてボルボが狙ったものはなんだろう。ミラノでの発表会において出合った担当デザイナー(たち)に、デザインの見どころと背景にあるコンセプトを取材した。

VOL.5
「BMW iX xDrive50」の高速電費は我慢不要! ロングドライブにうってつけのEV

[THE EV TIMES流・電費ガチ計測] THE EV TIMES(TET)流電費計測の5回目を、8月に「BMW iX xDrive50」で実施した。車高の高いSUVにもかかわらず、高速巡航時に電費が低下しにくいのが特徴だ。その詳細をお伝えする。 ※計測方法などについてはこちら、試乗記はこちらをご覧ください。 100km/h巡航でどんどん行こう iX xDrive50のカタログに記載された「一充電走行距離」は650km(WLTC)で、電池容量は111.5kWhだ。650kmを実現するには、電費が5.83km/kWh(以後、目標電費)を上回る必要がある。 各区間の計測結果は下記表の通り。5.83km/kWhを上回った場合、赤字にしている。 これまでのTETによる電費計測で初めてA区間の往路と平均で目標電費を超えた。A区間のように標高差が少ない場所では同じ状況になり得る、つまり100km/h巡航で一充電走行距離の650km近くを走破できる可能性がある。   100km/h巡航でも600kmは走れそう 各巡航速度の平均電費は下表の通りだ。「航続可能距離」は電費にバッテリー総容量をかけたもの、「一充電走行距離との比率」は650kmに対して、どれほど良いのか、悪いかだ。 iXのエクステリアは、大きなキドニーグリルが特徴的だ。ざっくり言えば全長5m、全幅2m、全高1.7m、車重2.5トンの堂々としたボディだが、Cd値が0.25と優れている。 100km/h巡航におけるiXの電費は、5.71km/kWhであった。絶対的な数値としては決して高くないが、一充電走行距離との比率を計算すると98%と、これまでにTETが計測したデータの中で最高の結果を記録した。120km/h巡航でもこの数字は78%であった。 つまり、iXは高速巡航でも電費の低下が少ないEVだといえる。 ちなみに、過去に計測したメルセデス「EQE 350+」は、この100km/h巡航時の比率が90%だった。EQEはセダンボディで背が低く、Cd値0.22で、高速巡航には有利であることを考えても、iXの98%という数字の凄さが分かる。 この結果は、空力性能の良好さと高効率なパワートレインの賜物ではないかと思う。BMWが「テクノロジー・フラッグシップ」「次世代を見据え、長距離走行が可能な革新的な次世代電気自動車」と謳っているだけのことはある。これらの記録を塗り替えるクルマが現れるのか、今後の計測が楽しみだ。   各巡航速度ごとの比率は以下の通り。80km/hから100km/hに速度を上げると21%電費が悪くなる。120km/hから80km/hに下げると1.6倍の航続距離の伸長が期待できる。

VOL.19
ぐっとパワフルな2024年モデルのフォルクスワーゲン「ID.4」をミュンヘンで緊急試乗! [ID.4をチャージせよ!:その19]

コンパクトSUVタイプの電気自動車「ID.4」が2024年モデルにアップデート。この最新版をドイツ・ミュンヘンでさっそく試乗しました。 モーターのパワーは60kW増し 「ID.4」が2024年モデルにアップデートし、コックピットのデザインが様変わりしたことは、前回のコラムで述べました。さらに今回の仕様変更では、走りにかかわる部分にも手が加えられています。 一番の変更が、新開発のモーターが搭載されたこと。フォルクスワーゲンでは、ID.ファミリーのプレミアムセダンである「ID.7」に、新たに開発した「APP550」型の電気モーターを採用しました。最高出力は210kW(286PS)と実にパワフルです。これが2024年モデルの「ID.4プロ」にも搭載されることになりました。これまでの「ID.4プロ」の最高出力が150kWですので、出力は60kW、4割増しという計算。最大トルクも従来の310Nmから545Nmとなり、こちらは75%の大幅アップです。 バッテリー容量は77kWhで変更はありませんが、2024年モデルからはバッテリーの“プレコンディショニング機能”を搭載し、冬の寒い時期、充電前にバッテリー温度を高めておくことで充電量の低下を抑えることができます。これはうれしい! 他にも、可変ダンピングシステムのDCC(ダイナミックシャシーコントロール)の改良なども行われ、果たしてどんな走りを見せてくれるのか、興味津々です。 早く乗ってみたいなぁ……と思っていたら、なんとうれしいことに、発表されたばかりの2024年式ID.4 プロ・パフォーマンスを、ドイツ・ミュンヘンで試乗するチャンスに恵まれました。試乗時間は約20分と超ショートですが、わが愛車のID.4 プロ・ローンチエディションと比較するには十分な時間です。

VOL.18
ミュンヘンで「ID.4」の2024年モデルに遭遇! [ID.4をチャージせよ!:その18]

ミュンヘンモーターショー(IAA)のメイン会場近くで、フォルクスワーゲンがメディア向けイベントを開催。そこで、2024年モデルの「ID.4」に遭遇しました。 見た目は同じ イベントスペースのパーキングに待機していたのは、“コスタアズールメタリック”のボディが爽やかな「ID.4 プロ・パフォーマンス」。日本のラインアップにはないボディカラーに目を奪われますが、エクステリアデザインはこれまでと同じで、私の愛車の「ID.4 プロ・ローンチエディション」との違いは1インチアップの21インチホイールが装着されていることくらいです。 ところが運転席に座ると、コックピットの眺めに違和感が! マイナーチェンジでもないのに、コックピットのデザインが私のID.4 プロ・ローンチエディションと大きく変わっていました。 ご存じのとおり、フォルクスワーゲンなど多くの輸入ブランドでは“イヤーモデル制”を採用していて、毎年のように細かい仕様変更を実施。エクステリアデザインは一緒でもパワートレインや装備が変わるというのはよくあること。この2024年モデルでは、インテリアのデザインまで様変わりしていたのです。 真っ先に気づいたのが、ダッシュボード中央にあるタッチパネルがリニューアルされていること。2022年モデルのID.4 プロ・ローンチエディションでは12インチのタッチパネルが搭載されていますが、この2024年モデルでは12.9インチにサイズアップが図られたのに加えて、デザインも一新され、明らかに使い勝手が向上していました。

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