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TEXT:桃田 健史
ホンダ、松江市の「堀川めぐり」で小型EV船舶、2023年8月からの実証実験で着実な成果

ホンダが島根県松江市の遊覧観光船「堀川遊覧船(堀川めぐり)」を使ってEV化の実証実験を行っている、小型船舶用の電動推進機プロトタイプについて運営事業者や利用者などから好評である。なぜ、ホンダは小型船舶のEV化を進めているのか? 有名観光スポットを次世代化 山陰を巡る中で、定番の観光スポットとして松江市の「堀川遊覧船(堀川めぐり)」が挙げられる。 松江市は、日本海、宍道湖、中海に囲われた地形が特徴だ。 そうした中に、国宝の松江城があり、また自然豊かな松江を感じる自然区、市街地、そして歴史的な建造物がある歴史区などのエリアが隣接している。 さらに、その周囲には四十間掘川、京橋川、米子川、北田川、城山内堀川などが流れているという、特徴的な街の風景がある。 このような、街中の川を小舟に乗って遊覧するのが「堀川めぐり」だ。運営するのは、公益財団法人 松江市観光振興公社。 営業時間は、3月1日から10月10日までは午前9時から午後5時まで、また10月11日から2月末までは午前9時から午後4時までと、春夏秋冬の松江の街の雰囲気を楽しめる。 船の定員は10人から12人で、料金は大人1600円。遊覧時間は約50分である。 乗船中は、船頭さんの名調子で、松江の歴史や観光スポットについての話を聞く。 カーボンニュートラルに対する考え方が一致 今回の実証実験は、ホンダと松江市のカーボンニュートラルに対する考え方が一致したことで実施している。 ホンダは、四輪車については2040年までにグローバルで全ての新車販売モデルをEV化、またはFCEV(燃料電池車)化することを経営方針として打ち出している。 さらにその先、2050年にはホンダが手がける四輪車事業以外の、二輪車と船舶(船外機等)を含めた全ての事業でカーボンニュートラルを目指すとしている。 一方で、松江市の場合、脱炭素先行地域としてカーボンニュートラル観光という指針を掲げて、地方創生に取り組んでいるところだ。 そうした中で、松江市の主要な観光アイテムである「堀川めぐり」を、ホンダの先端技術によってカーボンニュートラル化する試みを始めたというわけだ。 搭載する動力系機器は、ホンダが、出力4kWの電動パワーユニットと、着脱式可搬リチウムイオン電池の「モバイル・パワー・パック(MPP)」を、またギアケースとロワーユニットなどのフレーム領域をトーハツが開発を担当した。 静粛性高く、ノントラブル これまでの実証実験について、ホンダの小型電動推進機機の開発責任者である高橋能大氏は「電動化の価値の検討としては、かなりの手応えを感じている」とポジティブな感想を持っている。 8月の実証開始から、関係者の試乗会を中心に100人以上が乗船しているが「不快な振動が全くない」「水面を滑るように進む」といった、振動や音に関する高い評価の声が多いという。 実証期間中、機器の不具合はなく、引き続き長期的な観点での各部の劣化などの評価をしていく予定だという。 今後については、バッテリーの交換作業を含めて、運営サイドの運航の効率化の検討を進める。 10月下旬からは、松江市民を対象としたモニター運航も実施される。 近い将来、「堀川めぐり」の船が全てEV化する日が来るかもしれない。

TAG: #EV船舶 #MPP #ホンダ
TEXT:桃田 健史
ホンダが2026年から東京で電動ロボタクシー導入を発表。自動運転レベル4事業を推進

ホンダ、GM、クルーズの3社が2023年10月19日、都内で会見し「自動運転タクシーサービス」を2026年初頭に開始し、これに伴い合弁会社を2024年に設立することを発表した。会見に参加して詳しく取材した。 狙いは「新しい移動体験」 会見の中で紹介された車は、「クルーズ・オリジン」。クルーズ、GM、ホンダが共同開発した自動運転専用車両だ。 車内は、乗車員が対面して着座するレイアウトになっており、運転席がない、いわゆるドライバーレスの自動運転レベル4の車両である。 同車を使うサービスは、ユーザーがスマートフォンアプリを通じて乗車場所と目的地を指定することで、配車から決済まで一貫して配車システムが行う。 想定されるニーズとしては、ビジネスパーソンが車内で打ち合わせをしたり、ウェブ会議をしたり、または移動時間を活用してリラックスしたり。また、家族や友人でワイワイと移動時間を楽しんだり。そのほか、音楽や映像を楽しめるエンターテインメント空間としての商用利用など、様々な可能性について、ホンダを含む3社が示唆した。 ホンダの三部敏宏社長は「ホンダが目指すのは、『自由な移動の喜び』の創造だ。クルーズとGMとの協業による自動運転タクシーサービスを通じて、日本のお客様に新たな移動の価値を体験して欲しい」と、自動運転を使う事業の目的を表現した。 また、オンラインで参加したGM会長 兼 CEOのメアリー・バーラ氏は「GMは常にモビリティの未来に投資してきた。ホンダとのパートナーシップにより、ソフトウエアとハードウエアにおける最先端技術を活用して、移動におけるイノベーションを目指す」と、3社による共同研究開発の意義を語った。 2026年初頭に東京都心で導入 クルーズの自動運転サービスは、GMの小型EVシボレー「ボルト」ベースの車両を使いアメリカで社会実装されている。 日本での事業は、2026年初頭に「クルーズ・オリジン」を東京の都心で数十台導入することから始めるとした。そのために、2024年に3社で合弁会社を設立する。 その上で、自動運転を取り巻く社会情勢や、各地域での需要を考慮した上で、まずはGMシボレー「ボルト」をベースとした車両に運転車が乗った状態で、自動運転レベル2で公道での実証実験を進める。自動運転によるタクシーサービス運用が可能であるレベルまでシステムを磨き上げてから、「クルーズ・オリジン」を導入する流れとなる。 社会実装での最初のステップとしては、500台規模の運用を目指す。 これらの業績を踏まえて、台数の増加や、実施するエリアの拡大を考慮するとした。 事業性について、クルーズのアメリカでの実績を踏まえると、日本での採算性を高めることは十分に可能というのが、ホンダの見解だ。 「クルーズ・オリジン」の実車は、Japan Mobiility Show 2023(一般公開:2023年10月28日~11月5日)にホンダブースで展示される予定である。 自動運転をタクシーやバスのようにして使うビジネスモデルについては、すでにベンチャー各社が日本市場に参入しており、今回のホンダ・GMクルーズの登場によって市場動向が今後どのように変化するのがが注目される。

TAG: #GM #クルーズ #ホンダ
TEXT:桃田 健史
ホンダがエネマネで三菱商事とタッグ組む背景、EV需要拡大で必然となる新体系事業とはなにか?

ホンダと三菱商事はエネルギーマネージメント事業に関して協業することを発表した。EV搭載電池のリユースや、V2G(ヴィークル・トゥ・グリッド)等で新しいビジネスの将来性についてホンダ実証実験をもとに考察する。 電池リースは必然 ホンダと三菱商事は2023年10月12日、「EV普及を見据えた新事業創出に向けた覚書を締結」したと発表した。 具体的には、ホンダが2024年から順次発売予定の軽EVに搭載されるバッテリーのモニタリング機能を高度化するなどして、バッテリーのリサイクルを含めたバッテリーのライフタイムにおけるマネージメント事業を行う。 ホンダは2040年までにグローバルで製造販売する全ての四輪車をEV・FCEV化するとしており、電池のリユース事業を早期に構築する必要がある。 そのため、自動車販売事業やエネルギー関連事業をグローバルで展開する三菱商事と連携することは、ユーザーの視点からも十分理解できるといえるだろう。 他の事例では、日産が住友商事と電池リユース関連事業をすでに展開している。 エネマネで、ホンダ独自の実証で十分な知見あり もうひとつの事業が、V2G(ヴィークル・トゥ・グリッド)を通じたエネルギーマネージメント事業だ。 ホンダは2012年から自社でエネルギーマネージメントに関する実証試験を行ってきた。 埼玉大学近くに、ホンダ・スマート・ホーム・システム(HSHS)を設置し、ホンダ(本田技研工業または本田技術研究所)の従業員家族が一戸建て住宅で生活しながら、EVを活用したエネルギーマネージメントのデータを集約する方法だ。 さいたま市と2011年5月に締結した「E-KIZUNA Project」をきっかけに始まったもので、EVは「フィットEV」で始まり、現在は「Honda e」を使用している。 これまで三つの期間で、年間電気代、年間CO2削減量、そして家エネルギー率(※)という3つの指標でデータを比較した。 ※家エネルギー率:家全体の電力需要に対する、EVなどを含めた家のエネルギーマネージメント領域が負担する電力量の比率 現在は第四期となっており、可搬式バッテリーのモバイル・パワー・パック(MPP)によるエネルギー・ストレージ・システム(ESS)も活用している。 こうしたHSHSの知見を、かまぼこの老舗「鈴廣(すずひろ)」本社(神奈川県小田原市)の実証試験に活かしている。 鈴廣はホンダと連携する以前から、太陽光発電と地中熱による換気システムをBEMS(ビルディング・エネルギー・マネージメント・システム)を採用しており、2022年2月からホンダと連携した実証試験を実施している。「Honda e」5台と、ニチコン製のEVパワーステーションを導入した。 課題はマネタイズ このように、EV用蓄電池リユースやEVを活用したエネルギーマネージメントについて、 ホンダは三菱商事と事業化に向けて、各種の実証実験を進化させていくことになるだろう。 その上で、どのようなサービス事業をどのような価格設定で行うのか? 三菱商事では現在、三菱商事エネルギーがガソリンスタンド事業等でエンドユーザー向けの事業開発を行っており、こうした知見を下にB2B(事業者間)やB2G(行政向け事業)などでホンダと連携した新たなる事業展開が期待される。

TAG: #V2G #ホンダ #三菱商事
TEXT:烏山 大輔
トヨタ製電気自動車の試金石!? モビリティショーに出展するコンセプトカー2台を発表

トヨタは、10月26日(木)から開催されるジャパンモビリティショー2023に、2台のBEV(バッテリーEV)のコンセプトカーをを出展すると発表した。 これぞ電動化の真骨頂 1台目は「FT-3e」でSUV的スタイルのクルマだ。もう1台は「FT-Se」で、電動スポーツカーだ。 プレスリリースの記述で一番感銘を受けたのは「この2台は基本コンポーネントを共有している」の部分だ。 おそらくプラットフォーム、モーター、バッテリーのことだと思うが、クルマが「走る」ための要素を共用し、SUVもスポーツカーも作れてしまうのが、BEVの面白さであり、利点ではないだろうか。 例えばICE(内燃機関)に置き換えると、ハリアーとスープラのベースを一緒にするのはかなりの難題だ。フロントにエンジンを搭載していることだけは共通だが、搭載の仕方が横置きと縦置きで異なるし、駆動方式ももちろん違う。 こういったBEVの「上屋ボディ作り分け」に関する技術力が高まり、ノウハウも蓄積されれば、ICEの時代には想像もできなかった自由なデザインが可能になるだろう。 そうすれば今回のコンセプトカーのようにベースは一緒にもかかわらず、SUVやスポーツカーに加えて、セダンやミニバンだって作れるようになるかもしれない。 それはトヨタに限らずBEVを開発しているメーカー全てに言えることだ。だからこそ競合他社を凌ぐ価値を生み出そうとしている。この2車においては次のような点だと思う。

TAG: #コンセプトカー #ジャパンモビリティショー #トヨタ
TEXT:小川 フミオ
「エアコンソール」ってなに? BMWが急速なデジタル化に対応するためにとった戦略とは?

昨今、クルマにとって電動化とともに重要なのはデジタル化だ。「CASE」がその象徴だろう。BMWはこの自動車界における大変革期を、あるポルトガルの企業と乗り越えようとしていた。 ソフトウェアに特化した企業と手を組む 電気化を推進するとともに、いわゆるデジタライゼーションに力を入れているBMW。おもしろい取材を、i5の試乗会が開催されたポルトガル・リスボンで出来た。 私が訪れたのは、リスボンのちょっと郊外にある再開発地区。経済危機を経たポルトガルが、新たな振興策としてテック産業に力を入れると宣言したのが2018年。一帯は誘致地区だと思う。 ITの知識と技術を豊富に持った人材がどんどん育ってきているのを背景に、BMWでは、「クリティカルソフトウェア Critical Software」とのジョイントベンチャーで、「クリティカルテックワークス Critical TechWorks」なる企業を立ち上げている。 「私たちは、車両のデジタライゼーションが急ピッチで進むことを以前から予想しており、さまざまな形で、しかも速いペースで、それに対処する必要性をずっと感じていました」 背景について、BMWから出向して、クリティカルテックワークスを統括するヨッヘン・キルシュバウム氏はそう説明する。 「もちろん、私たちが本社を置くミュンヘンを中心に、ドイツでも人材を探しました。でも限界があるのです。そこで国境をまたいで、この業務にぴったりの企業を探したのです」 キルシュバウム氏は、BMW本社に20年以上在籍し、主業務は、ソフトウェア開発。なかにはコネクテッドカー、インフォテイメント、自動運転が含まれているそうだ。 「BMWは言うまでもなく100パーセントのソフトウェア企業ではありません。でも私たちが探したのは、最初からソフトウェアに100パーセント特化した企業でした。そして出合ったのが、ポルトガルのクリティカルソフトウェア。ジョイントベンチャーをスタートさせたのが2018年でした」

TAG: #BMW #エアコンソール
TEXT:桃田 健史
「トヨタ×出光」会見から見えてきた全固体電池を搭載するEVの未来。どんなクルマが登場する?

トヨタと出光興産は2023年10月12日に共同記者会見を開き「バッテリーEV用全固体電池の量産実現に向けた協業を開始する」と発表した。 3つのフェーズで協業進める 共同会見の柱は、量産に向けたロードマップだった。 協業内容については、量産実証、初期量産、そして本格量産の検討という3つのフェーズを示した。 フェーズ1では、硫化物固体電解質について、品質・コスト・納期に検証する。 続くフェーズ2では、出光興産による量産実証を通じて、硫化物固体電解質の製造と量産化を推進。 これと並行してトヨタは、この硫化物固体電解質を使う全固体電池を搭載したバッテリーEVを開発し、2027年から2028年の市場導入を目指す。 これまでトヨタは、同年6月に同社東富士研究所(静岡県裾野市)で報道陣向けに実施した「トヨタテクニカルワークショップ2023」で全固体電池を2027年から2028年に実用化すると発表。 これを受けて、同年9月には愛知県内のトヨタ貞宝(ていほう)工場で、全固体電池の製造ラインの一部も初公開している。 その際は、板上になった電池部材が流れる上下二つのコンベアが同期して、電池部材は速く、また正確に積層される様子を見た。 だが、全固体電池の技術のキモとなる、固体電解質についてや、正極および負極に関する技術的な情報開示はなかった。 そしてフェーズ3では、本格量産による量産効果と事業性を追求する、とした。 トヨタの電動化方針は、あくまでもマルチパスウェイを維持 会見の中で、トヨタの佐藤恒治社長は、全固体電池のバッテリーEVに与えるメリットについて、①充電時間の短縮、②航続距離の拡大、③高出力化、④液状電解質のように温度の影響を受けにくいため高温・高電圧に強く電池としての安定性が高い、という4点を挙げた。 その上で、全固体電池を搭載したバッテリーEVの種類の可能性についても示唆した。 ひとつは、高い動力性能を実現するため高出力モーターを必要とするスポーツカー。 もうひとつは、毎日のオペレーションの中で急速充電の頻度が高くなる傾向の商用車だ。 さらに、エネルギー密度が高いことで、比較的容量が大きな電池でも小型化が可能となるため、クルマのデザインの自由度が高まることも考えられるとも指摘している。 また、佐藤社長は日頃から「クルマ屋がつくるバッテリーEV」という表現を使い、トヨタらしいバッテリーEVの企画・開発・生産を強調している。それに関連して、全固体電池搭載バッテリーEVについても「トヨタらしさ」を追求するための自由度が広がるという見方も示した。

TAG: #トヨタ #全固体電池
TEXT:桃田 健史
トヨタの「FCEVキッチンカー」、再生可能エネルギーの研究開発と社会実装が進む福島県で展開!

再生可能エネルギーに積極的な福島県で、トヨタがFCEV(燃料電池車)を活用した新たな試みを展開している。いくつかあるプロジェクトの中から、地元観光業者と連携した「キッチンカー」を使うプロジェクトに注目したい。 福島で展示の燃料電池キッチンカーとは? 福島県は2011年3月の東日本大震災と福島第一原発での事故が発生した後、県内におけるエネルギー需給に関して再生可能エネルギーを積極的に導入する施策を行ってきた。 その一環として、地元ふくしまの事業者や、国内外の再生可能エネルギー関連事業者が一堂に介する場として、また国内外に向けて福島発の再生可能エネルギーに係わる情報発進の場として「ふくしま再生可能エネルギー産業フェア」を開催している。 その現場を取材したところ、展示会場にトヨタ製FCEV(燃料電池車)のキッチンカーの展示があった。 出展者は、地元の交通事業者である郡山観光交通株式会社だ。 車両は、オーストラリア仕様のトヨタ「ハイエース」がベース。 車両の寸法は、全長5,910mmx全幅1,950mmx全高2,600mmで車両総重量は3,390kg。 車両の仕組みは、車体前部にFC(燃料電池)スタックと昇圧コンバータがあり、その少し後ろにモーター、駆動用バッテリーと縦方向に搭載される。 駆動力はプロペラシャフトで車体後部に伝わり、デファレンシャルギアを介して後輪を動かすFR車である。 本格的な厨房設備を装備 展示では、ホンダ製の可搬型外部給電機器を車体前部のコネクター部分に装着してV2Lを行っていた。 これは車両から直流入力を行い、そこから交流(100V/200V)で出力して車内の調理機器の電力として活用している。 調理器具としては、IHクッキングヒーター、スチームコンベクションオーブン、コールドテーブル冷蔵庫、換気扇、容量80Lの排水タンク、同量の上水タンク、そして電気温水器などあり、本格的な料理を作ることができる装備内容となっている。 郡山観光交通では、同車をつかった「Magonote travel(マゴノテトラベル)」という商品を立案。 キャッチフレーズは「水素で、もっと楽しもう!」。 「水素×学び」では、地域の子ども向け探求学習の素材として出張講習を実施。 またアウトドアシーンでの活用を模索。 そして「水素×防災」としての利活用について、常に準備をしているという。

TAG: #FCEVキッチンカー #郡山観光交通
TEXT:ABT werke
リッター200円にもう限界……給油の“枷”をぶっちぎれ!【モデルサードインパクト vol.1】

ガソリン高い、燃費も悪い、限界だ! かつてないほどの猛暑に喘いだであろう今夏。「もういいよ」「もう下がってくれ」と、気温に対して誰もが感じていたと思うが、自動車ユーザーはガソリン価格に対しても同じことを思っていたのではないだろうか。 リッターあたり170円、180円、190円、そして200円の大台を突破……給油をするたびに、誰もが憂鬱な気分になったはずだ。小生はドイツの某オープンスポーツカーに乗っているのだが、リッターあたり平均10kmでハイオク仕様。愛車にガソリンを入れるたび、顔が青ざめていた。 「高額給油という枷から解放されたい……」 EVの購入を決意した所感である。クルマを走らせることは、本来喜びのはず。給油のたびに落ち込むのは本望ではない。 小生は、THE EV TIMES(TET)の編集スタッフを務めています。この9月、「テスラ・モデル3・パフォーマンス」を購入しました。新たな愛車と共に進むEVライフを「モデル・サードインパクト」と銘打ち、連載で紹介していこうと思います。 EVは便利だと実感した「日産リーフ」 小生が初めて体験したEVは「日産リーフ」(2代目)である。遡ること2017年、「リーフ」が2代目になった頃、日産が全国で試乗キャラバンを開催し、小生はその試乗アテンダントを担当していた。そこで「リーフ」を存分に運転することができたのだ。 それゆえ、EVの利便性の高さを実感することになった。スポーツモデル顔負けの力強くスムーズな加速にまず驚いたのだが、給油という枷から外れて自由に走り回れることが大変な魅力に感じた。アイドリング状態でエアコンを入れっぱなしでもガソリン代を気にせずに済む。車内でPCを開けば、そのままオフィスになる。車の用途が無限大に広がると感じた。 充電時間も特別長いとは感じなかった。充電残量が50%くらいになったら、急速充電を使用してあっという間に80%まで回復できる。ちなみに100%まで充電した場合、280kmを走れる表示が出ていたと記憶している(当時は寒い季節で暖房を使用した)。ちょっとした遠出も十分に対応可能。「EVなんて不便」という印象は全く抱かなかった。そこで薄々と「将来はEVもアリだな」と思ったのだ。

TAG: #EVライフ #スポーツEV #連載
TEXT:桃田 健史
農業機器大手「やまびこ」が自律型草刈り機など次世代小型EV公開。独自発電システムにも注目

小型屋外作業機器の大手「やまびこ」が国内最大級の農業関連見本市「第10回 国際スマート農業EXPO」で次世代小型電動器のコンセプトモデルを出展した。自律走行草刈機やロボット芝刈機など、EVとして機能と自動化技術を連動させた最新機器の国内普及を図る。 「やまびこ」ってどんな会社? 東京都青梅市に本社を置く、株式会社「やまびこ」。 一般消費者には、馴染みが薄い企業名かもしれない。 だが、同社が扱うブランドを見ると、その存在の大きさを認識できるだろう。 「KIORITZ(共立)」、「shindaiwa(新ダイワ)」、そして「ECHO(エコー)」。 こうした名前を、ホームセンターで販売されている農業関連機器コーナーで見かけたことがある人もいるはずだ。 株式会社やまびこのホームページによると、同社は株式会社共立と新ダイワ工業株式会社が2008年12月に持株会社を設立し、2009年10月に両社を吸収合併して誕生した、とある。 共立は、1947年に共立農機として東京で設立。刈払機(かりはらいき)やチェーンソーなどを開発し販売してきた。 一方、新ダイワ工業は1952年に広島で創業。チェーンソー、小型発電機、大型ディーゼル発電機、また高圧洗浄機なども開発していた企業だ。 こうした老舗メーカーどうしが、農業や林業など一次産業におけるイノベーションを起こすため、「やまびこ」となって次世代技術の開発にまい進しているのだ。 自律・自動走行の最新モデル 今回の出展で来場者の注目を浴びていたのが、自律走行草刈機「RCM600 AUTO」。 やまびこの草刈機では、遠隔操作によるラジコ型草刈機「RCM600」がすでに発売されている。これをベースに自律走行させるモデルが登場したというわけだ。 自律走行するシステムでは、まず最初に作業エリアの四隅のマーカーを搭載カメラで認識させた上で、カメラとライダーで周辺情報を得ながら走行する。 ライダーは最近、自動車のADAS(先進運転支援システム)用として搭載が増えているセンサーのひとつだ。 「RCM600 AUTO」では、用途な走行条件によって、ラジコン機能と自律機能を切り替えて使うことができるのが特徴である。 もうひとつ、来場者の目を引いたコンセプトモデルが、ロボット芝刈機「TM-1000 RTK GNSS」だ。 このRTKとは、リアル・タイム・キネマティックのこと。位置情報システムといえば、衛星測位システムのGPS(グローバルポジショニングシステム)が知られている。GPSはアメリカ独自の衛星システムの名称であり、衛星測位システムの総称はGNSS(グローバル・ナビゲーション・サテライト・システム)。 RTKでは、GNSS(全地球航法衛星システム)による衛星測位に加えて、地上に基準点(固定局)を置いて、そこからLTEなどで通信する。これにより、一般的なGPSでは数メートルが数十メートルある位置の誤差を数センチ以内まで一気に縮小することができる。 一般的なロボット芝刈機の場合、自機位置をGPSで測定しており、位置の誤差が大きいため、対応するエリアをランダムに走行することで結果的に芝を綺麗に刈っている。 一方、RTKを使うと隅から綺麗に芝を刈ることができる。これを、パターン走行と呼ぶ。 すでに海外では昨年あたりから実用化されているが、国内向けでは、やまびこが先行してプロトタイプを開発した。

TAG: #やまびこ #草刈機
TEXT:桃田 健史
EVの走行中給電を東大が日本発の公道実証実験へ 。普及が進まない背景にも迫る

東京大学大学院と民間企業各社が共同で進める「走行中給電システム」の研究が大きな転換期を迎えた。東大・柏の葉スマートシティ(千葉県柏市)で日本初の「公道での実験」を開始すると、2023年10月3日に発表された。今回は量産化に向けてどのような可能性があるのか? 約5年の研究を経て社会実験へ 今回の実証は、東京大学、柏市、その他の関係機関と「柏ITS推進協議会」の枠組みによる「電気自動車の走行中給電技術開発の取り組み」として実施されるものだ。 関係機関とは具体的に、ブリヂストン、日本精工、ローム、東洋電機製造、小野測器、デンソー、三井不動産、SWCC、カーメイト、そして千葉大学の研究室を指す。 2018年から、これら関係者と東大が走行中給電システムを開発してきた。 また、2019年からは国土交通省の「スマートシティモデル事業(先行モデルプロジェクト)」の選定を受けている。 こうした共同研究開発の流れを受けて、今回の実証は国土交通省「道路に関する新たな取り組みの現地実証実験(社会実験)」として採択され、2023年10月から2025年3月まで、柏の葉キャンパス駅西口至近の市道で実施するものだ。 3つのポイント 本実験のポイントは大きく3つある。 ひとつ目は、様々な車両で使えること。EVでも、プラグインハイブリッド車でも使用可能なシステムとした。 二つ目は、標準化を目指すこと。例えば、待機電力を極力小さくして車両検知を短時間で行う新しい車両検知システムを開発している。 そして三つ目は、コイルと路面を一体化したプレキャストコイルの耐久性を検証することだ。 こうした走行中給電の実用化に向けた新しい試みには大いに期待したいところだ。 一方で、走行中給電や、EV等の電動車における非接触給電については、2010年代前半から中盤頃と比べると、近年は実用化に向けた話題が日本国内ではあまり聞かれなくなった印象がある。 その背景には何があるのか? まず、EV等の電動車における非接触給電については、2000年代末から2010年代頭に三菱「i-MiEV」と日産「リーフ」登場した後に、各種のベンチャー企業が独自に、または大手自動車メーカー各社と共同開発する形でプロトタイプを公開した。 当時、日米欧の各地でそうした非接触給電プロジェクトについて詳しく取材した。 標準化の議論についても、米自動車技術会(SAE)の関連シンポジウムに定常的に参加して、その動向を追った。 だが、EV自体の普及がグローバルでなかなか進まない中、非接触給電の量産効果が見込めないという時代がしばらく続く。 その後、2010年代後半になり、グローバルでESG投資(環境、社会性、ガバナンスを重視する企業経営や投資に対する考え方)が拡大したことで、EV需要が一気に高まったものの、EVの搭載バッテリー量の大型化に伴い、充電については急速充電器の高出力化に重きが置かれるようになった。 直近では、2023年になってから、複数の日系自動車メーカーの電動化システム関係者に対して非接触充電の普及の可能性を聞いたところ「コストメリットと利便性において、従来の充電方式と併行して、またはとってかわって広く普及するには、まだかなり時間がかる」という回答だった。 非接触型と接触型での走行中給電 一方で、走行中充電については、非接触型と接触型の大きく2通りがある。 前者については、2010年代前半から、韓国の国立大学であるKAIST(韓国科学技術院)が精力的な研究開発を進めていた。実際、同大学の担当研究室を取材し、技術的な詳しい話を聞いた。 だが、現時点で韓国では、同技術の本格的な普及には至っていないのが実状だ。 また、接触型の走行中給電では、スウェーデン政府関連機関が高速道路の一部でパンタグラフ式装置を使った大型トラックで実証実験を行ったり、ホンダは日本国内の自動車関連施設でホンダ独自の方式で研究開発を進めているところだ。 こうした各方面での走行中給電システムに、今回の柏の葉での実証実験が加わることで、走行中給電の社会受容性の検証と、規格標準化による実用化が促進されることを大いに期待したい。

TAG: #充電インフラ #東京大学 #走行中給電
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VOL.15
本当に日本はEVで「立ち遅れた」のか:知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第15回

ジャパン・モビリティ・ショー開催でにわかに沸き立つ日本のEVマーケット。しかし現実の販売状況は日本において大きく立ち遅れている。技術では先導してきたはずの日本メーカーは、なぜEVで世界をリードできていないのか。この分野のベテランジャーナリストである御堀 直嗣が解説する。 日本の低いEV市場占有率 日本は、世界に先駆けて電気自動車(EV)の市販に踏み切った。2009年に三菱自動車工業が、軽自動車EVの「i-MiEV」を法人向けにリース販売しはじめ、翌10年には一般消費者向けへの販売も開始した。同年には、日産自動車も小型EVの「リーフ」を発売した。この2社によって、EVの量産市販が実現し、ことにリーフは海外への販売も行われ、「i-MiEV」はフランスの当時PSA社にOEM供給された。リーフの販売は世界で累計65万台に達し、その他EVを含めると、日産は世界で100万台のEV販売の実績を持つ。そのうち、日本国内は累計23万台である。 ちなみに、米国テスラは2022年では年間で約130万台、中国のBYDは同年に約90万台規模へ成長している。 同時にまた、世界共通の充電規格であるCHAdeMO(チャデモ)も準備され、リーフが販売される世界の各地域にCHAdeMO充電器の設置が動き出した。 それらを背景に、経済産業省は2012年度補正予算で1,005億円の補助金を計上し、全国に約10万基の充電器を整備するとした。この補助金は全額支給でないため、トヨタ/日産/ホンダ/三菱自の4社が資金を拠出し、補助金で賄いきれない残額を補填することに合意した。 しかし、現在の充電器の数は、急速充電と普通充電を合わせて約2万基である。 国内の新車販売において、EVが占める割合は1%以下という状況が長く続いた。昨2022年、「日産サクラ」と「三菱eKクロスEV」が発売となり、1年で5万台以上を販売することで2%ほどの占有率になろうかという状況にある。 一方、世界全体では、EVの市場占有率が13%になる。米国は5.8%、欧州は12%、中国は21%となっており、日本がいかに低水準であるかがみえてくる。 日本でEV普及が進まなかった理由 EVの先駆者であった日本が、なぜ欧米や中国の後塵を拝するようになったのか。 最大の要因は、せっかく1,005億円という充電基盤整備に対する経済産業省の支援があったにもかかわらず、急速充電器の整備にばかり世間の目が行き、EV利用の基本である基礎充電、すなわち自宅での普通充電(200V)の重要性が広がらなかったからである。ことに、マンションなど集合住宅の駐車場と、月極駐車場への普通充電設置がほぼできなかったことが原因であった。 EVの充電は、普通充電で8~10時間、あるいはそれ以上かかるとされ、これが単純にガソリンスタンドでの給油時間と比較されて、使い勝手が悪いとさまざまな媒体を通じて流布された。いまでもそうした論調が消えていない。しかし、自宅で普通充電できれば、寝ている間に満充電になるので、翌朝出かけるときは満充電で出発できる。 戸建て住宅に住む人はそれができた。ところが、戸建て住宅でも自宅に車庫がなく月極駐車場を利用する人は、近隣の急速充電器を利用しなければならなくなった。 集合住宅に住む人は、敷地内に駐車場が併設されていても、管理組合の同意が得られず普通充電ができない状態に陥った。無知がもたらした悲劇だ。EVを買う意思があっても、手に入れにくい状況があった。 集合住宅の管理組合で賛同が得られない最大の理由は、幹事がEV時代を予測できず、また自分には関係ないとして無視され続けたことにある。設置の経費は、ことに当初は補助金と自動車メーカー4社による補填があったので、ほぼゼロであった。現在でも、施工業者が残金を負担するなどのやりくりで、集合住宅側の負担が軽く済む仕組みが出てきている。それでもなお、管理組合で合意を得るのが難しい状況は払拭できていない。 基礎充電の普及を目指す業者の間でも、さらに難しいとされるのが月極駐車場への普通充電の設置だ。月極駐車場を管理する不動産業者の理解を得にくいという。

VOL.1
リッター200円にもう限界……給油の“枷”をぶっちぎれ!【モデルサードインパクト vol.1】

ガソリン高い、燃費も悪い、限界だ! かつてないほどの猛暑に喘いだであろう今夏。「もういいよ」「もう下がってくれ」と、気温に対して誰もが感じていたと思うが、自動車ユーザーはガソリン価格に対しても同じことを思っていたのではないだろうか。 リッターあたり170円、180円、190円、そして200円の大台を突破……給油をするたびに、誰もが憂鬱な気分になったはずだ。小生はドイツの某オープンスポーツカーに乗っているのだが、リッターあたり平均10kmでハイオク仕様。愛車にガソリンを入れるたび、顔が青ざめていた。 「高額給油という枷から解放されたい……」 EVの購入を決意した所感である。クルマを走らせることは、本来喜びのはず。給油のたびに落ち込むのは本望ではない。 小生は、THE EV TIMES(TET)の編集スタッフを務めています。この9月、「テスラ・モデル3・パフォーマンス」を購入しました。新たな愛車と共に進むEVライフを「モデル・サードインパクト」と銘打ち、連載で紹介していこうと思います。 EVは便利だと実感した「日産リーフ」 小生が初めて体験したEVは「日産リーフ」(2代目)である。遡ること2017年、「リーフ」が2代目になった頃、日産が全国で試乗キャラバンを開催し、小生はその試乗アテンダントを担当していた。そこで「リーフ」を存分に運転することができたのだ。 それゆえ、EVの利便性の高さを実感することになった。スポーツモデル顔負けの力強くスムーズな加速にまず驚いたのだが、給油という枷から外れて自由に走り回れることが大変な魅力に感じた。アイドリング状態でエアコンを入れっぱなしでもガソリン代を気にせずに済む。車内でPCを開けば、そのままオフィスになる。車の用途が無限大に広がると感じた。 充電時間も特別長いとは感じなかった。充電残量が50%くらいになったら、急速充電を使用してあっという間に80%まで回復できる。ちなみに100%まで充電した場合、280kmを走れる表示が出ていたと記憶している(当時は寒い季節で暖房を使用した)。ちょっとした遠出も十分に対応可能。「EVなんて不便」という印象は全く抱かなかった。そこで薄々と「将来はEVもアリだな」と思ったのだ。

VOL.20
VW「ID.4」オーナーはアウトバーンを時速何キロで走る? [ID.4をチャージせよ!:その20]

9月上旬、スイスで開催された「ID.TREFFEN」(ID.ミーティング)を取材した際に、参加していた「ID.4」オーナーに、そのクルマを選んだ理由などを聞きました。 フォルクスワーゲン一筋 鮮やかな“キングズレッドメタリック”のID.4で登場したのは、ドイツのハノーファーからはるばるスイスに駆けつけたデュブラック・マルクスさん。「フォルクスワーゲンT3」のTシャツを着ているくらいですから、かなりのフォルクスワーゲン好きと見ましたが、予想は的中! 「18歳で免許を取ってからこれまで30年間、フォルクスワーゲンしか買ったことがないんですよ」という、まさにフォルクスワーゲン一筋の御仁でした。 彼の愛車はID.4のなかでももっともハイパフォーマンスな「ID.4 GTX」。日本未導入のこのグレードは、2モーターの4WD仕様で、最高出力220kW(299PS)を発揮するというスポーツモデル。こんなクルマに乗れるなんて、なんともうらやましいかぎりです。 そんなマルクスさんにID.4 GTXを購入した理由を尋ねると、「これからはEVの時代だと思ったので!」と明確な答えが返ってきました。とはいえ、ID.ファミリーのトップバッターである「ID.3」が登場した時点ではすぐに動き出すことはありませんでした。「1年半くらい前にID.4 GTXを試乗する機会があって、踏んだ瞬間から力強くダッシュするID.4 GTXのパンチ力にすっかり惚れ込んでしまい、即決でしたよ(笑)」。

VOL.14
欧州メーカーはなぜ電気自動車に走ったのか?:知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第14回

EVの知識を、最新情報から「いまさらこんなこと聞いていいの?」というベーシックな疑問まで、ベテラン・ジャーナリストが答えていく連載。今回は欧州メーカーの特集です。 日本市場参入が遅かった欧州製EV 日本市場では、欧州からの電気自動車(EV)攻勢が活発に見える。ドイツの「BMW i3」が発売されたのは2013年秋で、日本市場へは2014年春に導入された。 日本の自動車メーカーがEVを市販したのは、2009年の「三菱i-MiEV」の法人向けリースが最初で、翌2010年には「i-MiEV」も一般消費者への販売を開始し、同年に「日産リーフ」が発売された。「i3」の発売は、それより数年後になってからのことだ。 ほかに、フォルクスワーゲン(VW)は、「up!」と「ゴルフ」のエンジン車をEVに改造した「e-up!」と「e-ゴルフ」を2015年から日本で発売すると2014年に発表した。だが、急速充電システムのCHAdeMOとの整合性をとることができず、断念している。その後、VWは「e-ゴルフ」を2017年秋に販売を開始した。EV専用車種となる「ID.4」を日本に導入したのは、2022年のことだ。フランスのプジョーが、「e-208」を日本で発売したのは2020年である。 以上のように、欧州全体としては、EVへの関心が高まってきたのは比較的最近のことといえる。 くじかれたディーゼル重視路線 欧州は、クルマの環境対策として、自動車メーカーごとの二酸化炭素(CO2)排出量規制を中心に動いてきた。そして2021年から、1km走行当たりの排出量を企業平均で95gとする対処方法を考えてきた。EU規制は、販売する車種ごとのCO2排出量を問うのではなく、販売するすべての車種の平均値で95gを下回らなければならないという厳しさだ。 対策の基本となったのは、ディーゼルターボ・エンジンを使った排気量の削減と、出力の低下を補う過給器との組み合わせを主体としつつ、ハイブリッドによるさらなる燃費の向上である。 既存のディーゼルターボ・エンジンをできるだけ活用しようとする考えは、欧州メーカーが補機用バッテリーの電圧を世界的な12ボルトから、36ボルトや48ボルトに変更することによるマイルドハイブリッド化に注目してきた様子からもうかがえる。 ところが、2015年にVWが米国市場でディーゼル車の排出ガス規制を偽装していたことが明らかにされた。公的機関での測定では規制値を満たすものの、実走行で急加速などした際に基準を上回る有害物質が排出され、それによって力強い加速を得られるようにした制御が発覚したのである。その影響は、VW車だけでなく、アウディなどVWグループ内に広く影響を及ぼした。

VOL.3
ボルボは新型EVの「EX30」でインテリアに新たな価値を与え、空間を最大限、利用する!

ボルボはEX30の室内で多くの新たなチャレンジを行なっていると謳う。その詳細を小川フミオ氏が訊いていく。連載1回目はこちら、2回目はこちら。 冷たさの排除し素材を“素直”に使う EX30のインテリアが、他車と決定的に違うのは、金属的な表面処理がほとんど見当たらないこと。それは意図的にそうしたのだと、インテリアデザインを統括するリサ・リーブス氏は言う。 「心したのは、冷たさの排除です。使う素材はオネスト、つまり木に見えるものは木であり、また同時に、リサイクル素材を人間にやさしいかたちで使用しました」 インテリアは「ブリーズ」(やさしい風)をはじめ「ミスト」(もや)、「パイン」(松)それに「インディゴ」と4種類(日本はそのうち「ブリーズ」と「ミスト」を導入)。 「ブリーズを例にとると、デザインインスピレーションはサマーデイズ。シート表皮の素材はピクセルニットとノルディコ、ダッシュボードの飾り材はパーティクル、そして空気吹き出し口のカラーはブルーです」 リーブス氏は説明してくれる。 「ピクセルニットはPETボトルをリサイクルしたもの。それを3Dニッティング(立体編み)プロセスでシート用素材にしています。組み合わせるノルディコは、PETボトルなどのリサイクル素材、北欧で計画的に伐採された木から採取された素材、リサイクルされたワインコルクなどで作られたテキスタイルです」 ダッシュボード用のパーティクルは、窓枠やシャッターを中心に工業廃棄物であるプラスチックを粉砕したものだし、フロアマットは漁網をリサイクルしたという。 「リサイクル材とともに、インテリアは雰囲気を統一したので、私たちは“ルーム”という名を与えています。インディゴの場合、デザインインスピレーションは”夜のはじまり”で、デニムをリサイクルしたときに余る糸を使った素材をシート表皮に使っています」 シートじたいは「スニーカーにインスパイアされた形状」(メイヤー氏)だそうだ。

VOL.2
ボルボの新型電気自動車「EX30」にはスターウォーズのデザインが取り入れられている!?

エンジンの回転の盛り上がりには、時に人間的な表現が用いられる。しかしBEV(バッテリー電気自動車)はエンジンもなく無音なため、より無機質な、機械的な印象が強くなる。ボルボはそんなBEVに人間的な要素を入れたと主張する。連載1回目はこちら。 どことなく楽しい感じの表情 ボルボEX30は、いってみれば、二面性のあるモデルだ。ひとつは、地球環境保全(サステナビリティ)を重視したコンセプト。もうひとつは、大トルクの電気モーターの特性を活かしたスポーツ性。 デザイナーは「いずれにしても、BEVと一目でわかってもらうデザインが重要と考えました」(エクステリアデザイン統括のTジョン・メイヤー氏)と言う。 「もちろん、昨今ではICE(エンジン車)かBEVか、デザインをするときあえて差別化をしないのが世界的な流れです。ただし、私たちとしては、スカンジナビアデザインの原則を守りつつデザインしました」 メイヤー氏の言葉を借りて、この場合のスカンジナビアデザインの肝要を説明すると「形態は機能に従う」となる。 「そこで、上部に開口部とグリルはもたせないようにしようと。ただし(インバーターなどのために)空気を採り入れる必要はあるので、下にインレットは設けています」 ボルボ車のデザインアイディンティティである「トール(神の)ハンマー」なる形状のヘッドランプも採用。ただし、カバーで覆った一体型でなく、四角いLEDのマトリックスが独立しているような形状があたらしい。 「そうやって出来上がったのがこのデザインです。顔になっていて、そこには眼があって、鼻があって、口があるんです。どことなく楽しいかんじで、これまで以上に人間的な表情を実現しました」 暴力的でもなければ、ロボット的でもない。メイヤー氏はそこを強調した。

VOL.1
ボルボの新型電気自動車「EX30」は、相反する2面性を合わせ持つ文武両道なクルマ

ボルボの新たなBEV(バッテリー電気自動車)として、ついに10月2日から「サブスク」モデルの申し込みが始まるEX30。この「ボルボ史上最小のBEV」はどのように開発されたのか。ミラノで行われたワールドプレミアに参加した小川フミオ氏が関係者の声とともに振り返る。 スカンディナビアン+デジタル 2023年6月に登場したEX30は、コアコンピューティングテクノロジーを大胆に採用する、ボルボの新世代BEV。 内容にとどまらず、同時に、デザイン面でもさまざまな大胆な試みがなされているのも特徴だ。 いってみれば、伝統的ともいえるスカンディナビアンテイストに、デジタライゼーションの融合。 「私たちのデザイン的価値のすべてを小さなフォーマットで具現」したモデルと、ボルボ・カーズはプレスリリース内で謳う。 「非常に電気自動車的なデザインで(中略)閉じられたシールド(フロントグリルの開口部のこと)とデジタル表現を用いたトールハンマーヘッドライト」がフロント部の特徴とされる。 さらに新世代BEVとしてボルボが狙ったものはなんだろう。ミラノでの発表会において出合った担当デザイナー(たち)に、デザインの見どころと背景にあるコンセプトを取材した。

VOL.5
「BMW iX xDrive50」の高速電費は我慢不要! ロングドライブにうってつけのEV

[THE EV TIMES流・電費ガチ計測] THE EV TIMES(TET)流電費計測の5回目を、8月に「BMW iX xDrive50」で実施した。車高の高いSUVにもかかわらず、高速巡航時に電費が低下しにくいのが特徴だ。その詳細をお伝えする。 ※計測方法などについてはこちら、試乗記はこちらをご覧ください。 100km/h巡航でどんどん行こう iX xDrive50のカタログに記載された「一充電走行距離」は650km(WLTC)で、電池容量は111.5kWhだ。650kmを実現するには、電費が5.83km/kWh(以後、目標電費)を上回る必要がある。 各区間の計測結果は下記表の通り。5.83km/kWhを上回った場合、赤字にしている。 これまでのTETによる電費計測で初めてA区間の往路と平均で目標電費を超えた。A区間のように標高差が少ない場所では同じ状況になり得る、つまり100km/h巡航で一充電走行距離の650km近くを走破できる可能性がある。   100km/h巡航でも600kmは走れそう 各巡航速度の平均電費は下表の通りだ。「航続可能距離」は電費にバッテリー総容量をかけたもの、「一充電走行距離との比率」は650kmに対して、どれほど良いのか、悪いかだ。 iXのエクステリアは、大きなキドニーグリルが特徴的だ。ざっくり言えば全長5m、全幅2m、全高1.7m、車重2.5トンの堂々としたボディだが、Cd値が0.25と優れている。 100km/h巡航におけるiXの電費は、5.71km/kWhであった。絶対的な数値としては決して高くないが、一充電走行距離との比率を計算すると98%と、これまでにTETが計測したデータの中で最高の結果を記録した。120km/h巡航でもこの数字は78%であった。 つまり、iXは高速巡航でも電費の低下が少ないEVだといえる。 ちなみに、過去に計測したメルセデス「EQE 350+」は、この100km/h巡航時の比率が90%だった。EQEはセダンボディで背が低く、Cd値0.22で、高速巡航には有利であることを考えても、iXの98%という数字の凄さが分かる。 この結果は、空力性能の良好さと高効率なパワートレインの賜物ではないかと思う。BMWが「テクノロジー・フラッグシップ」「次世代を見据え、長距離走行が可能な革新的な次世代電気自動車」と謳っているだけのことはある。これらの記録を塗り替えるクルマが現れるのか、今後の計測が楽しみだ。   各巡航速度ごとの比率は以下の通り。80km/hから100km/hに速度を上げると21%電費が悪くなる。120km/hから80km/hに下げると1.6倍の航続距離の伸長が期待できる。

VOL.19
ぐっとパワフルな2024年モデルのフォルクスワーゲン「ID.4」をミュンヘンで緊急試乗! [ID.4をチャージせよ!:その19]

コンパクトSUVタイプの電気自動車「ID.4」が2024年モデルにアップデート。この最新版をドイツ・ミュンヘンでさっそく試乗しました。 モーターのパワーは60kW増し 「ID.4」が2024年モデルにアップデートし、コックピットのデザインが様変わりしたことは、前回のコラムで述べました。さらに今回の仕様変更では、走りにかかわる部分にも手が加えられています。 一番の変更が、新開発のモーターが搭載されたこと。フォルクスワーゲンでは、ID.ファミリーのプレミアムセダンである「ID.7」に、新たに開発した「APP550」型の電気モーターを採用しました。最高出力は210kW(286PS)と実にパワフルです。これが2024年モデルの「ID.4プロ」にも搭載されることになりました。これまでの「ID.4プロ」の最高出力が150kWですので、出力は60kW、4割増しという計算。最大トルクも従来の310Nmから545Nmとなり、こちらは75%の大幅アップです。 バッテリー容量は77kWhで変更はありませんが、2024年モデルからはバッテリーの“プレコンディショニング機能”を搭載し、冬の寒い時期、充電前にバッテリー温度を高めておくことで充電量の低下を抑えることができます。これはうれしい! 他にも、可変ダンピングシステムのDCC(ダイナミックシャシーコントロール)の改良なども行われ、果たしてどんな走りを見せてくれるのか、興味津々です。 早く乗ってみたいなぁ……と思っていたら、なんとうれしいことに、発表されたばかりの2024年式ID.4 プロ・パフォーマンスを、ドイツ・ミュンヘンで試乗するチャンスに恵まれました。試乗時間は約20分と超ショートですが、わが愛車のID.4 プロ・ローンチエディションと比較するには十分な時間です。

VOL.18
ミュンヘンで「ID.4」の2024年モデルに遭遇! [ID.4をチャージせよ!:その18]

ミュンヘンモーターショー(IAA)のメイン会場近くで、フォルクスワーゲンがメディア向けイベントを開催。そこで、2024年モデルの「ID.4」に遭遇しました。 見た目は同じ イベントスペースのパーキングに待機していたのは、“コスタアズールメタリック”のボディが爽やかな「ID.4 プロ・パフォーマンス」。日本のラインアップにはないボディカラーに目を奪われますが、エクステリアデザインはこれまでと同じで、私の愛車の「ID.4 プロ・ローンチエディション」との違いは1インチアップの21インチホイールが装着されていることくらいです。 ところが運転席に座ると、コックピットの眺めに違和感が! マイナーチェンジでもないのに、コックピットのデザインが私のID.4 プロ・ローンチエディションと大きく変わっていました。 ご存じのとおり、フォルクスワーゲンなど多くの輸入ブランドでは“イヤーモデル制”を採用していて、毎年のように細かい仕様変更を実施。エクステリアデザインは一緒でもパワートレインや装備が変わるというのはよくあること。この2024年モデルでは、インテリアのデザインまで様変わりしていたのです。 真っ先に気づいたのが、ダッシュボード中央にあるタッチパネルがリニューアルされていること。2022年モデルのID.4 プロ・ローンチエディションでは12インチのタッチパネルが搭載されていますが、この2024年モデルでは12.9インチにサイズアップが図られたのに加えて、デザインも一新され、明らかに使い勝手が向上していました。

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