「ワーゲンバスの再来」といわれる、フォルクスワーゲンのID. Buzz。欧州ではすでに販売がスタートしており、その愛嬌あふれる風貌ですでに街の人気モノになっている模様。最新電動ミニバンの実力を探るべく、ドイツのアウトバーンで早速試乗へと連れ出した。 コペンハーゲンの街で大人気 私がID.Buzz 標準モデルに初めて乗ったのは、2022年9月初頭だった。デンマーク・コペンハーゲンで開催された国際試乗会で、実車に初対面したのだった。 コペンハーゲンも、他の北欧諸国に準じてBEVの普及率が高い国。フォルクスワーゲンのID.3がタクシーで使われていたのも印象的だった。 このときは、コペンハーゲン周辺を走りまわると、さすがというか、BEVの認識が高いだけあって、歩行者や周囲のクルマの乗員が笑顔で手を振ってくれた。 そういうひとは、ID.Buzzの存在をすでに知っているのだろう。これがあのクルマ、とクルマを停めた場所で話しかけれたことも、数回にわたってあったのだ。 こういうふうに、周囲を笑顔にするクルマっていうのはいいな、と私は改めて感心。BEVは前提として、もうひとつは、やはりデザインの力だろう。内装を見せて、というひともけっこういたから。 アウトバーンでちょっとだけ困ったのは…… そのあと、2023年春に、もういちど、欧州をドライブする機会をもらえた。そのときは、ドイツのベルリンからハンブルクまで。約300kmをID.Buzzで走った。基本的にはずっとアウトバーン。 ベルリンでは曇りで比較的暖かかったものの、アウトバーンを北西に上がっていくうちに、天候はみるみる悪化。途中は降雪に見舞われたのだった(ちょっと前の話なので……)。 正直に書くと、寒くなったのでヒーター(エアコン)を入れたところ、走行可能距離がいきなり短くなって焦った。アウトバーンを走ったことのあるひとはご存知だろうが、サービスステーションがそれほど多くない。 サービスステーションにたどり着いても、充電器が必ずしも作動しているとは限らない。ちょっと焦りつつ、エアコンをオフにして、やや寒いのもガマンして、充電器をみつけることが出来た。 速い速度の充電器だったので、コーヒー一杯飲んでいるあいだに、かなりの量の充電を達成。どこでも、こういうふうにスムーズに運べたら、BEVの普及率も上がるのではと思ったものだ。 タイプ2の感覚がよみがえる 4,712mmの全長、1,927mmの全高をもつ4ドア(後席用はスライドドア)のボディを、2,989mmとかなり長いホイールベースをもつシャシーに載せたID.Buzz。 MEBというBEV専用のシャシーは、床下にリチウムイオン・バッテリーを敷き詰めた設計で、電池はたくさん積めるし、工場での組み立て効率もいいようだ。 「前車軸の上に座るようなドライビングポジションなど、オリジナルのT1を思わせる感覚を意識しました」 デザインを担当したフォルスワーゲン・コマーシャルビークルのデザイン統括、アルバート・キルツィンガーの言葉がプレスリリースでは紹介されている。 T1とは、タイプ2ともよばれる初代のマイクロバス。ID.Buzzのイメージソースになったモデルだ。 1950年に登場。VWビートルのシャシーを使って開発された。2.4mのホイールベースをもった、リアエンジンの後輪駆動。 ボディタイプはじつに豊富で、マイクロバスから、大きなオープンの荷台をもった2人乗りまで作られた。 北米だと1960年代中盤に、ヒッピーたちにも愛されたようだ。ピースフルなクルマ、というイメージはそのへんから喧伝されてきたのである。 ID.Buzzは、ひとことでいうと、マイルドな加速性能と、快適な乗り心地で扱いやすいクルマだ。 150kWの出力と300Nmのトルクを発揮するモーターをリアに搭載。77kWhのバッテリーと組み合わされている。 発進時からトルクがモリモリと出る。車重は2.4トンあるが、加速中に重さは意識させない。 VWは、最高速を145km/hに抑えている。バッテリーの性能を考えてのこと、と説明を受けた。 それでもまあ、アウトバーンを走るのには、まずまず不足感はない。 ピースフルといっては言い過ぎかもしれないけれど、ほんわかした気分の室内にいると、このぐらいの性能でもいいじゃん、と思えてくるのだった。 私がアウトバーンを走ったときは春先だったため、途中、吹雪に見舞われた。それでも後輪駆動ながら、ID.Buzzはまったく不安を感じさせず、走り抜いたのだった。 ちょっと困ったのは、バッテリーだ。アウトバーンは充電施設がだいぶ充実していると聞いていたものの、じっさいに行ってみると、使えなかったりすることもあった。 そこで、コートを着込み、エアコンはオフ。ウインドウの曇り取りのデフロスターだけは適時回しての、バッテリー容量温存走行となった。 Vol.3へ続く