買った後でも愛車を“アプデ”できる
いまやデジタル技術なしにクルマを語ることはできない。各自動車メーカーとも、デジタルを駆使した様々な手法で商品力アップを図っている。フォルクスワーゲンは、クルマを購入したのちに機能をアップデートできる「ファンクション・オン・デマンド」というサービスを開始。愛車の新しい買い方・使い方を提案している。彼らのデジタル戦略について、フォルクスワーゲン乗用車部門セールス・マーケティング&アフターセールス担当取締役イメルダ・ラベー氏に自動車ジャーナリスト・小川フミオが訊いた。
クルマの“進化”のなかには、デジタライゼーションと呼ばれる機能がある。
車内の照明の色が変えられる機能から、コンピューターのアップグレードによる高性能化まで、デジタル技術を使った進化にはめざましいものがある。
フォルクスワーゲン(VW)では「ファンクション・オン・デマンド」と銘打って、クルマを購入したのち、機能を追加するサービスもいくつかの市場で展開中だ。
さらにこの技術も“進化”中。なかには、自分の設定をクラウドに保存して、クルマを買い替えても、ラジオ局の設定やストリーミングの選択などがキャリーオーバーできて、ゆえにすぐに自分仕様にできる機能の可能性まである。
BEVと相性がいいといわれるファンクション・オン・デマンドなど、VW本社でセールス&マーケティング担当取締役をつとめるイメルダ・ラベー氏に、現状と、近い将来の方針を尋ねた。
機能も顧客ごとにカスタムできる時代へ
──デジタライゼーションをうまく使えば、より顧客ひとりひとりのニーズに即した仕様に仕立てられるかもしれないし、BEVとの相性はとてもいいのでは、と思われます。
はい、そのとおりだと思っています。私たちは、デジタル技術を使ってユーザーとの距離感をいままで以上に縮めたいと考えています。どんなインフォテインメントシステムを提供するのかなど、しっかり考えて実行に移していきたいですね。
私は「インカーCRM」って呼んでいるんですけれど、デジタル技術によって、企業と顧客との関係をうまく管理していって、そのさき、しっかりした関係を築いていけるといいと思います。
──ファンクション・オン・デマンドは、OTA(オーバー ジ エア)など通信を使って自車の機能をアップグレードできたりと、まさにデジタル時代的なサービスですね。
たとえば、LEDマトリックスライト、ハイビームアシスト、パークアシスト、スマートフォンインターフェースなど、あとから購入してインストールできるサービスは、これからどんどん拡大していきそうです。現時点ではあいにく、どれぐらいの規模になるか、数字とともに予想を申し上げるのがむずかしいのですが。
──これからのサービスだから(むずかしい)ということでしょうか。
はい。いまはまだ初期段階だと思います。私たちもいくつかの市場ですでにサービスを展開していますが、消費者に必要なものはなにかを、メーカーとしてあらかじめ予測して用意しておくのが、とてもむずかしいと感じています。市場によってニーズは違いますし。たしかに、誰かからクルマを購入したとき、(運転支援システムやドライブモードや音楽のアーカイブや空調の設定などを)すぐに自分好みのセッティングに変えられるのは喜ばれるでしょう。
──多くのメーカーがいま、同様のサービスを喧伝しはじめていますね。なかには、走行距離に応じて課金するサブスクリプションサービスを使った販売なんて可能性も言及されています。世のなかのニーズはすごい勢いで変化していますね。
商品開発のプロセスにおいて、開発の初期段階で、プリインストールしておく機能と、ファンクション・オン・デマンドで提供する機能とを切り分けておく必要があります。(初期の販売価格も変わってくるし)この切り分けの設定こそ、マーケットにおける成功のカギだと私は思っています。もちろん顧客に価値あるものを提供することこそ、Love Brandになるために重要なのです。
<つづく>
(プロフィール)
Imelda Labbé(イメルダ・ラベー)氏
フォルクスワーゲン乗用車部門
セールス・マーケティング&アフターセールス担当取締役
1967年に、フランス国境ちかくの南西ドイツ(Steinfeld/Pfalz)で生まれ、ユニバーシティ・オブ・マンハイムで経営学を学ぶ。その後米スタンフォード・ユニバーシティで経営学の修士号を取得。1986年から2013年にかけて、独オペルで経験を積んだのち、2013年にVW傘下のシュコダに転職し、同社取締役会のスポークスパースンに。2016年からVWグループでグローバルのアフターセールスなどを担当。2022年7月1日より現職。