フォルクスワーゲンID. Buzzに、デンマークとドイツで試乗。その結果、実感できたのは、アウトバーンでも加速や直進性に不足を覚えることのない底力をもつ一方で、街中では人々を自然と笑顔にさせる愛らしさも兼ね備えているという事実だった。ID. Buzzは、電動時代のワーゲンバスとして、多くの人に愛される存在となり得るかもしれない。
商用車部門の知見が活きたパッケージング
フォルクスワーゲンID.Buzzで高速道路を走るのは、いい体験だ。145km/hに設定してある最高速までは加速が衰えることがない。その気になれば、ずっと高めの速度を維持できる。
ボディは見かけより空力がよいようで(空気抵抗のCD値は0.285とか)、するするする〜と速度が伸びていく。リアモーターの後輪駆動だが、直進性は高い。
ちょっと高めのポジションから、少しだけ寝かされているステアリングホイールを握っていると、安定感がしっかりある。
ベルリンからハンブルクまでは、220kWのパワフルなBEV、VW ID.4 GTXと乗り替えながら走った。
ID.4 GTXとID.Buzzは、基本的にはMEBというBEV専用のプラットフォームを使う。リチウムイオン・バッテリーのモジュールを並べたパックを平らにして、その上にボディを載せる方式だ。
しかし、2車はあきらかにキャラクターがちがう。たとえば、ID.Buzzのステアリング。あえてすこしだけ反応を鈍くしてある感じだ。
当然パワーも違うわけだけれど、アクセルペダルの踏み込みに対する加速感も、やっぱりマイルド。ただし不足は感じない。2台はしっかり作り分けがされていると思った。
乗り心地は、前の席も後ろの席も良好。路面の凹凸もうまく吸収してくれる。乗員の姿勢はつねにほぼフラット。
ちょっと気になったのは、風切り音だ。フロントシートにいると、ルーフ前端を風が叩く音が意識される(路面からの音はうまくシャットアウト)。
ドライバーズカーとして、上記のように不満はあまりないのだけれど、ベストシートは、じつは、後席かもしれない。グラスルーフのオプションをつければ、広々とした車内でのんびりしていられる。
「重要視したのは、パッケージング(ボディサイズに対する室内スペース)です」
ID.BuzzはVWの乗用車部門でなく、商用車部門が担当。商用のID.Buzz カーゴが大きな比重を占めることから、ユーロパレット(欧州の物流現場で標準利用されているパレット)などの大きさを勘案したうえでパッケージングが割り出されている。
周囲を笑顔にするデザイン
「ただしエクステリアデザインでは“笑顔”を作ろうと、フロントマスクやカラースキームを考えました」
マーケティングを担当したVWコマーシャルビークル部門のマルクス・シルドマン氏は、コペンハーゲンでの試乗会の際、そう語ってくれた。
ID.Buzzでもうひとつ、印象に強く残っていることがある。コペンハーゲンで乗ったときと同様、ドイツの各都市でも、周囲のドライバーや通行人が笑顔で手を振ってきたのだ。
たしかに、このクルマの最大の魅力はデザインの力を活かしているところだと、このときも思った。
クルマを通して「ラブ ブランド」になろうとしているVWのコンセプトが早くも実を結んできたような印象だった。
フォルクスワーゲンの日本法人では、ID.Buzz標準モデルの日本導入を検討中という。
問題は(といっていいかどうかわからないけれど)価格だ。欧州でも6万ユーロ(1ユーロ154円として約930万円)を超える価格のID.Buzz。いくらのプライスタグをつけるのか。悩んでいるようだ。