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TEXT:御堀直嗣
クルマに長期間乗らないとバッテリーが上がる! だったら満充電のEVでも長期間乗らないとバッテリーは空になる?

クルマに使われるバッテリーにはいくつかの種類がある バッテリーに充電した電力が、これといって電気を使っていないのに時間の経過とともに減ってしまうことを自己放電という。バッテリー自らが放電してしまうという意味だ。 バッテリーに充電した電力は、バッテリーの電極と電解質によって化学的に貯められていて、倉庫に物を収めたというような物理的保管とは異なる。したがって、バッテリー内に生じた化学反応や、バッテリーが置かれている環境としての気温や湿度の違いにより、電力が徐々にではあるが自然に減ってしまう。 クルマの補器用バッテリーとして長年使われてきた12ボルト(V)の鉛酸バッテリーは、ひと月で4~8%ほど自己放電するといわれる。しばらくクルマに乗らずにいると、バッテリー上がりをするひとつの要因といえる。ただし、バッテリー上がりは鉛酸バッテリーの自己放電だけでなく、近年のクルマはキーを差し込まなくてもボタン操作で錠を開閉できるオートロック機能がついていたり、盗難防止の装置が働いていたりというように、待機電力といえる電気がずっと使われているので、そうした機能が電力を消費してもいる。 電気自動車(EV)の駆動用として用いられるリチウムイオンバッテリーはどうか? リチウムイオンバッテリーも自己放電するが、それはひと月に1~5%ほどであるという。鉛酸バッテリーと比べかなり小さな値だ。しかも、車載バッテリーは容量が大きいので、自己放電で充電が空になってしまい、動かなくなるというようなバッテリー上がりの懸念はないに等しいのではないか。 では、EVで補器用として使われる鉛酸の12Vバッテリーは、どうなのか? もちろん、鉛酸バッテリーとしての特性に変わりはない。とはいえ、そもそもEVには駆動用リチウムイオンバッテリーに大容量の電力が貯めてあるので、電気そのものは存在するのだから、そこから鉛酸バッテリーへ充電を行うことで、エンジン車で起こりがちなバッテリー上がりで始動できない懸念は減るだろう。 ただし、自動車メーカーによっては、駆動用リチウムイオンバッテリーから駐車中でも鉛酸バッテリーへ電力を提供し、バッテリー上がりを防ぐ機能を備えていない例もあるようだ。この場合は、EVといえども、長期間駐車したままにしておくと、そもそも鉛酸バッテリーの電力がないことにより、起動しなくなる恐れはある ハイブリッド車で多く使われてきたニッケル水素バッテリーは、自己放電が多いといわれる。ひと月で30%に及ぶこともあるようだ。EVにニッケル水素バッテリーが使われない理由がそこにありそうだ。もちろん、EVの開発初期段階では、鉛酸バッテリーより容量が大きいのでニッケル水素を搭載し、一充電走行距離を伸ばしてきた経緯がある。 しかし、ニッケル水素バッテリーの多くがハイブリッド車(HV)で用いられてきた背景にあるのは、基本的にエンジンで発電したり、走行中の回生により充電したりすることでクルマは走り、充電による大容量の電力への依存度が低いことが、ニッケル水素バッテリーの特性に適していたといえるからではないか。

TAG: #バッテリー #充電
TEXT:石橋 寛
話題のフォルクスワーゲンID.Buzzは50年の準備期間の末に登場ってマジ? EVバスは一日にして成らず!!

たくさんの雛形を経てID.Buzzは市販化された ついに日本に導入されたID.Buzzですが、これまで何台ものコンセプトカーが発表されてきたことご承知のとおりです。ブリー・コンセプトやBudd-eなどなど、そりゃもうたくさんあったのですが、フォルクスワーゲンはおよそ50年前からID.Buzz、すなわちワーゲンバスの電動化を目論んでいたことはさほど知られていません。それだけ長期間にわたって研究していれば、トライ&エラーも増えるというもの。ID.Buzzに辿りつくまでの紆余曲折をざっくりご紹介しましょう。 T2(1972) 1970年、VWは電気駆動システムを備えたクルマを設計する「フューチャー リサーチ」開発部門を設立しました。先見の明というよりも、ドイツは第二次大戦中から電気駆動の開発に取り組んでおり、自国産エネルギーの乏しさを補うことが主目的だったかと。 そこで生まれたのが、ワーゲンバスをベースに880kgものバッテリーを荷台に積んだT2でした。発売当時の1972年はバッテリーの性能も低く、これだけ積んでも航続距離は85kmとわずかなもの。しかも、充電ステーションなどは存在しないため、VWは充電済みバッテリーと積み替えるシステムを考案。およそ5分で交換できたといいますが、やはり荷室を占拠する大型バッテリーは実用的とはいえず、数台を市販したのみでT2プロジェクトは終了しています。 この苦い経験がのちのMEB(モジュラー・エレクトリック・ドライブキット)と呼ばれるEV専用プラットフォームの開発につながったことはいうまでもないでしょう。 マイクロバス・コンセプト(2001) 連綿と続いていた電動Bulli(ブリ:T1バスの愛称、ドイツ語でブルドッグや剛健さの意味)プロジェクトは2000年代初頭、突如としてマイクロバス・コンセプトを発表。ちょうど北米にミニバンブームが訪れていた時期で、VWとしては往年のブリを意識したスタイリングで人気を勝ち取ろうと考えたのでしょう。 ただし、中身はEVでなくV6エンジンを搭載することが予定されていました。時代を考えればプリウスが発売されて間もなく、市場はEVどころかハイブリッドさえスタートしたばかり。もしかすると、1970年代の失敗がEVとして発表することを躊躇わせたのかもしれません。 とはいえ、カリフォルニアのスタジオでデザインされたボディは、数あるコンセプトモデルのなかでも生産型Buzzにほど近いもの。デトロイトショーでの評判も上々で、2002年には量産も計画されたものの、ミニバン市場のヒートアップに輸入車のVWは分が悪いと判断。2004年にあっけなく生産計画の中止が発表されました。 ブリー・コンセプト(2011) ID.Buzzの生産より10年前、早くもEVコンセプトカーとして登場していたのがブリー・コンセプト。スタイルの流れとしてはマイクロバス・コンセプトを受け継ぐものながら、VWの汎用プラットフォーム「MQB」を採用するなど、文脈はまったく違うといっていいでしょう。また、EVとしてお披露目したのも現実性を担保するもので、この翌年にはVWからEVへの大規模投資がほのめかされています。 MQBを使用したためか、マイクロバス・コンセプトよりもコンパクトになりつつ、スペースユーティリティも最適化されています。これには、バッテリーの搭載位置などが奏功しており、T2時代からの研究成果が現れているはず。当時としては破格といっていい40kWhのリチウムイオン電池を積み、航続距離は300kmをベンチマークとしていました。

TAG: #コンセプトカー #ミニバン #輸入車
TEXT:高橋 優
EVの王者BYDの勢いに陰り! 中国の新興勢力やテスラの影響で暗雲立ちこめる

BYDのセールスが下落傾向に 中国 BYDの2025年第2四半期の決算が発表され、収益性が悪化し始めているという驚きの決算内容であることが判明しました。 まず初めに、BYDの第二四半期の販売台数は114.5万台と、前年比+16.1%と成長を実現した一方で、BYDが2025年シーズン通しでの販売目標として社内で当初掲げられていたとされる550万台という数値目標と比較すると、その達成は厳しくなっていると言えます。実際にロイターなど一部メディアによれば、すでにBYDは2025年の販売台数目標を460万台にまで下方修正したとされており、2025年シーズンは成長が鈍化する見通しです。 次に売り上げは2009.2億元(日本円で約4兆1436億円)と、前年同四半期比で+14.0%の成長幅であり、販売単価が横ばいに留まったと言えます。BYDはすでにDenzaやYangwangという高級ブランドを立ち上げ、4月にはHan LとTang LというBYDブランドのフラッグシップを投入済みです。ところがこれらの高級ブランドや高級モデルの販売は芳しくなく、実際に販売単価が伸びていません。 次に、BYDのEVで稼ぐ力を見極める上で重要といえる粗利益について、Q2単体のグループ全体の粗利益率は16.27%と、2022年Q2以来となる3年ぶりの低水準に留まってしまいました。さらに、BYDグループから電子部品や半導体の受託製造部門を担当するBYD Electronicsの粗利益を差し引いてみると、その自動車部門に絞った粗利益率は18.74%と、前年同四半期の22.42%と比較してみても、大きく減少しています。つまり自動車部門においてマージンが顕著に落ちていることを示すのです。 とはいえ、自動車マーケット全体を見渡すと、ドイツ勢やアメリカ勢、日産などのマージンは低下傾向にあり、粗利益率18.74%というのは業界平均レベルの水準を維持しています。 次に、販管費や研究開発費などを差し引いた営業利益率は3.83%と、前年同四半期の6.54%と比較しても大幅に悪化しています。この営業利益率の低さは2022年Q1以来の水準です。その一方で、研究開発費についてはQ2単体で153.7億元(日本円で約3200億円)であり、前年同期比+70.6%と大幅に増加。売り上げ全体に占める研究開発比率も上昇し続けており、直近のQ2も7.65%と史上最高水準です。 よって、営業利益は低下しているものの、研究開発という将来への種まきは加速。ちなみに、世界最大の自動車メーカーであるトヨタは2025年4-6月期で3558億円という研究開発費が計上されていたことから、BYDはすでにトヨタと同等規模の研究開発費を投入していることになります。

TAG: #BYD #セールス #中国市場
TEXT:石井啓介
バッテリーを積むためにはワンオフパーツが山のように必要! 初代フィアット・パンダのEV化に挑戦してみた【その6】

いよいよ電気系の作業に着手!! 「電気熊猫計画」とは、EVライフをもっと楽しくおいしくする「EVごはん」と、旧車のコンバージョンEVを手がける「アビゲイルモータース」が共同で進める往年のイタリアの名車「フィアット・パンダ(初代)」をEV(電気自動車)にコンバートするプロジェクトです。 今回は、第6回目(第5回目はコチラをご覧ください)として、「Step4:レイアウトに沿って画面上で各種マウント類を設計し、製造する。またバッテリーレイアウトに従って、バッテリーボックスを設計製造する」前編に入っていきます! 引き続きよろしくお願いいたします。 山のように届いた金属片との格闘! 前回チラッと出てきましたが、第3弾でボディスキャンして設計した、パワーユニットのブラケットやバッテリーを収める各パーツたちが、精密板金屋さんから大量に到着。 設計図を見ながらが、各パーツを仮組みしてみます。これが、ジグソーパズル的に難解。設計図面とにらめっこしながら、パーツを探しては仮組みするのですが、厚さ2mmと5mmの鉄板を加工したもので重いし、鋭利な角もあって危ないし、しかも、猛暑の工場での作業はツラい……。 このホームベースのような箱は、リヤ下のバッテリーボックスになるもの。設計がギリギリな精密板金のパーツなので、各パーツの重なりまで考えないとうまくハマりません。ひー! プラモデルと違って番号が振ってないので、マジックで番号を振って組み立て方を整理していきます。 これは、リヤシート付近に設置するバッテリーボックス。バッテリーは重いので、車体に分散して配置する設計となっております。 これは3Dプリンターで製作した、ドライブやリバース、ニュートラルなどのセレクタースイッチになるもの。「Panda」ロゴがカワイイ(これが取り付けられるのはいつの日か……)。 気づくと今日も夕方です。仮組みしたバッテリーボックスを、埼玉県の某所にあるショップさんにお願いしてキレイに溶接してもらいます。なかなか地味な仕事が続きますが、どうぞお付き合いくださいませ! 地味な作業は続きます! 次回は「Step4:レイアウトに沿って画面上で各種マウント類を設計し、製造する。またバッテリーレイアウトに従って、バッテリーボックスを設計製造する」後編(もしかしたら中編)をお送りさせていただきます! 引き続きよろしくお願いいたします。 ●充電スポットの美味しいごはん情報をシェアするコミュニティ「EVごはん」が、EVライフを始める人のためのワンストップWEBモール「EVモール」をスタートしました! https://ev-mall.jp/ ●旧い個性的なクルマを日常的に使いたい。そんな願いをカタチに! アビゲイルモータース https://www.abigail-motors.ltd/ ●当プロジェクトへのパーツやシステムのご協賛は随時お待ちしております。ご協賛いただいた際には、当メディアやSNS等でご紹介させていただきます。 info@141marketing.jp

TAG: #コンバート #パンダ #輸入車
TEXT:山本晋也
マイクロEVには「ミニカー」「側車付き軽二輪」と法的に分類される2種がある! それぞれの免許や保険は走れる場所の違いとは?

マイクロEVは大きくふたつにわけられる ひとくちに「EV(電気自動車)」といっても、じつにさまざまなモデルが存在している。大柄なボディに、大容量バッテリーを搭載して、一充電で500kmをラクに超える航続距離を誇るモデルもあれば、小さなボディで街乗りメインといえるスペックのEVもある。 そうしたなかで、もっともコンパクトなボディをもつのがマイクロEVと呼ばれるカテゴリーのモデルだ。最近ではユーチューバーが開発するモデルとしてKGモーターズ・ミボットが話題となっているが、このモデルはマイクロEVの代表格といえる。 全長2490mm・全幅1130mm・全高1465mmという軽自動車より小さなボディの4輪車であるミボットの乗車定員は1名。ひと昔前の軽自動車並みの12インチタイヤを履いていることを考えると、ひとり乗りでなくとも走りの面では成立しそうな気もするが、そこには道路交通法上の理由がある。 ミボットは、いわゆる「ミニカー」カテゴリーで開発されている。ミニカーというのは「3輪以上の原動機付自転車」を指す通称。道路交通法のレギュレーションでは定格出力600W以下のモーターを積んでいることや、乗車定員1名であること、さらに3輪以上であることなどが定められている。 つまり、ミニカー・カテゴリーである限り、1名乗車のマイクロEVしか生まれようがないのだ。ただし、原動機付自転車の4輪版といっても法定速度は60km/hであり、二段階右折も不要。そのため、公道で運転するには原付免許ではなく、四輪免許が必要となる。 「マイクロEVなのに3人乗りの電動トライク(3輪車)を見かけるけど、あれはミニカーじゃないの?」と思った方は鋭い。マイクロEV=ミニカーとはいい切れない。 現実的に、バイクのようなバーハンドルで3名乗車のマイクロEVも多数存在している。「電動トゥクトゥク」と呼ばれるようなモデルだ。これらはミニカーではなく、「側車付き軽二輪」に分類されるモビリティだ。つまり、サイドカーのついた二輪車の電動バージョンといえる。そのため乗車定員3名が可能となっているのだ。 サイドカー付きバイクといっても二輪免許は不要。こちらも四輪免許で運転することができる。軽二輪(250cc以下)と同じ扱いになるので車検が不要なのもメリットだ。なお、原動機付自転車の四輪版であるミニカーも当然ながら車検は必要ない。 また、側車付き軽二輪において定格出力1000W超のモーターを積んでいれば、250cc相当になるため、法律上は高速道路を走行することも可能となる。ただし、現時点で入手できるEVトライクの多くは、性能的に高速道路を走るのに十分な性能を有していないモデルが多い点は気を付けたい。それでも、自動車専用道路となるバイパスなどを通行できるのは、ケースバイケースではメリットとなるだろう。 まとめると、マイクロEVといっても4輪の原動機付自転車であるミニカーと、側車付き軽二輪に分類されるトライクのふたつに大別される。いずれも運転するのに四輪免許が必要な点は共通であるし、法的に車両なので自賠責保険への加入は必須だ。いずれもヘルメットの着用義務はない点も共通している。 維持費に関わる違いとして覚えておきたいのは、任意保険の扱いが異なること。すでに加入している四輪車の任意保険に「ファミリーバイク特約」をつければミニカーにも対応するが、側車付き軽二輪は原付ではないので、専用に任意保険に加入する必要がある。この違いについては留意しておきたい。

TAG: #マイクロEV #次世代モビリティ
TEXT:桃田健史
4つ輪エンブレムじゃなく「AUDI」! VWは「ID.UNYX」! ワーゲングループが中国のZ世代獲得に動く!!

フォルクスワーゲングループが中国で大変身 フォルクスワーゲングループが中国市場で新しいアプローチを始める。VWブランドとしては「ID.UNYX」、アウディでは従来のロゴとは違う新生「AUDI」とした。狙いは若者層であり、革新的、先進的、ファッショナブルといった切り口だ。 そう聞いて、ある意味でオーソドックスな戦略とも受け取れるし、またなぜこのタイミングなのかという疑問を持つ日本のユーザーもいるだろう。 そもそも、フォルクスワーゲングループが中国市場への進出が本格化したのは、海外メーカーのなかではかなり早い1990年代からだ。当時の中国は、欧米や日本の自動車産業界にとっては未開の地であり、共産党政府での統制が厳しいなかでいわゆるカントリーリスクが高いといわれた時代だ。 そんなリスクを背負ってのフォルクスワーゲングループ中国進出は大成功する。2000年代半ば以降にBRICs(ブラジル・ロシア・インド・中国・南アフリカ)と米系証券会社が名付けた新興国のひとつとして中国が世界的な注目を集めるようになったが、ひと足早く中国社会に浸透したVWブランド(上海VW)は、市場から高い信頼を得るに至ったといえる。 当時、中国各地を取材した際、一般ユーザーの憧れのクルマは黒塗りのアウディ・リムジンだといわれていた。中央政府や地方政府のエリート高官らが使用していたからだ。ここでいうリムジンとは、アフターマーケットで改造されたものではなく、自動車メーカーが中国市場向けに専用設計したロングホイールベース車を指す。 その時代、中国国内でのクルマのトレンドは、アメリカン・ライフを感じさせるものや、富の象徴として大きなエンジンをもつことを強調するためにフロントグリルをデフォルメすることがメーカー各社のデザイナーに課せられた宿題であった。 そんな中国市場の急成長初期から20年弱が経過したいま、中国は世界最大の自動車製造・販売国であり、EVやレンジエクステンダーなど、最新電動車の販売台数でも世界を牽引する位置にある。また、2010年代後半以降には、中国ベンチャーや中国地場大手、さらにはHuaweiやXiaomiなど他業種を含めた多様な新ブランドが続々と立ち上がっては消えていく⋯⋯といった厳しい市場環境にある。 そうしたなか、中国では老舗海外ブランドを率いるフォルクスワーゲングループとしては、2030年代を見据えた中期経営計画のなかで、若い世代に焦点をあてたブランド戦略を実行に移したのだ。 急成長と急展開を繰り返す中国市場で、新たなるリスクを覚悟の上でフォルクスワーゲングループのチャレンジが始まった。

TAG: #アウディ #フォルクスワーゲン #中国
TEXT:高橋 優
ガソリン車よりも安くね? ジーリーの6人乗り大型SUVのEV「M9」のコスパが「嘘だろ」レベル

驚愕の高コスパを実現したラージSUVが登場 中国ジーリーが新型大型電動SUVであるM9のワールドプレミアを開催しました。日本円で300万円台という驚きのコスト競争力を実現することによって、先行発売開始24時間で4万台以上の注文を獲得しています。 ジーリーの大衆EV専門ブランドであるギャラクシーは、2023年に立ち上がってからジーリーの開発する大衆セグメントのEVを矢継ぎ早に投入中です。Galaxyブランドの売れ筋はXingyuanというコンパクトEVです。私自身Xingyuanの実車をレビューしたこともありますが、日本円で140万円程度のBEVとは思えないほどに完成度が高く、実際にBYDシーガルやテスラモデルYを上まわり、2025年中国でもっとも売れている自動車に君臨しています。 そして、Galaxyの最新動向として、8月下旬にワールドプレミアされたのが、フルサイズSUVであるM9です。M9は全長5205mm、全幅1999mm、全高1800mm、ホイールベース3030mmというフルサイズSUVセグメントに該当します。 M9で特筆するべきは、ジーリーの最新PHEVエンジン「Thor EM-p」の第二世代を搭載してきているという点でしょう。このPHEV専用エンジンは熱効率47.26%を実現しながら、さらに統合化された電動パワートレイン、Cd値0.285の達成などによって燃費性能を大幅に改善しており、CLTC基準で4.8L/100kmを実現。EV航続距離を含めた最大航続距離も1500km以上を確保しています。 AWDグレードは3つのモーターを搭載するトライモーター仕様で、システム最高出力640kW、最大トルク1165Nmを実現し、0-100km/h加速は4.5秒、最高速も210km/hを実現します。タンクターンや縦列駐車における横スライド駐車にも対応可能。エルクテストでも83km/hをクリアするなど、大型SUVとして優れた動力性能を実現しています。 さらに、インテリアも極めて洗練されています。車載OSは子会社化しているMeizuのFlyme Autoの第二世代を初採用しながら、車載チップはQualcomm Snapdragon 8295Pを搭載。ハイエンドADASも高速道路上だけでなく市街地を含めた追い越しや分岐対応、障害物に対する回避挙動、右左折、ラウンドアバウト、転回などに対応するシティNOA「G-Pilot H5」を採用。デュアルチャンバーエアサスペンションも搭載しています。 そして今回、中国メディアをざわつかせてきたのが先行発売時の値段設定です。なんと19.38万元(日本円で398万円)からという、大型SUVとしては異例となる低価格を実現してきたのです。9月中に正式発売される際にはさらに値下げして発売されるのが慣例であり、おそらく18.38万元(日本円で380万円)程度から発売される見通しです。 まさか3列シートの大型SUVが20万元を遥かに下まわる値段設定を実現してきたということに対して、明らかに業界全体に動揺が広がっているのです。

TAG: #SUV #ニューモデル #中国車
TEXT:御堀直嗣
EVのネックのひとつは重量! その大半はバッテリー! ではなぜバッテリーは重いのか?

EVになると車両重量が重くなる理由 バッテリーは、なぜ重いのか。 ひと言で答えるのはなかなか難しいが、たとえば、補器用バッテリーとして知られる鉛酸バッテリーの電極に使われる鉛は、元素の周期表で82番目であり、26番目の元素である鉄と比べ3.7倍以上重い(周期表上で数字が小さいほうが質量が軽い)。 鉄も鉛も鉱石といって、自然界でつくられた鉱物のうち、人間に役立つ物質だ。 電気自動車(EV)などで使われるリチウムイオンバッテリーの電極に使われる材料で、コバルト、ニッケル、マンガンなどはいずれも鉱石で、周期表ではコバルトが27番目、ニッケルが28番目、マンガンは25番目の元素だ。 三元系と呼ばれる主力のリチウムイオンバッテリーは、この3つの元素を配分して電極をつくっているので、当然それなりの重さになる。 ちなみに鉄は26番目で、アルミニウムは13番目の元素なので、一般に、アルミニウムが軽いといわれるのはそのためだ。鉄は重金属といわれ、鉄以上の重さの金属を重金属としている。アルミニウムは軽金属と区分けされる。 では、コバルトやニッケルより元素番号が小さく、軽いはずの鉄を使ったリン酸鉄のリチウムイオンバッテリーがなぜ重いのかといえば、電極の結晶構造の違いによる。 コバルトやニッケルは、金属としての結晶構造の間に、サンドイッチのようにリチウムイオンを含むため、より多くのリチウムイオンをもつことができる。 一方のリン酸鉄は、電極の結晶構造の隙間に、柱のように結晶を支える構造があり、そこはリチウムイオンが入り込めないので、電極内にもてるリチウムイオンの量が少なくなる。それは、一充電走行距離が短くなることを意味している。 しかしそれでは商品性で、三元系に劣る。そこで、車載量を増やして容量を確保しているため、結果的に重くなる。

TAG: #バッテリー #メカニズム #モーター
TEXT:桃田健史
自動車専売メーカーだけでもかなりの数なのになぜ過当競争に挑む? スマホでお馴染み「ファーウェイ」「シャオミ」がEVに参戦する理由

EVの登場でクルマを提供できるのは自動車メーカーだけではなくなった 中国のEV市場の業界図式がいま、目まぐるしく変化している。そのなかでも、家電やスマートフォンのメーカーでもあるHauwai(ファーウェイ)とXiaomi(シャオミ)の存在感が目立つ。 時計の針を少し戻せば、中国ブランドの乗用EVが立ち上がったのは2010年代に入ってからだ。当時、中国各地で中国ブランドEVを試乗したが、クルマの根本的な走行性能のレベルはけっして高くなかった。いわゆるコンバージョンEVという感じであり、EV専用車がAセグメント、またはそれより小さい日本でいう超小型モビリティのような存在が主流だった。電池メーカーもさまざまなブランドが参入し、中国当局は一時、電池の規格化を一気に進めようとしたことを思い出す。 その後、中国政府によるNEV(新エネルギー車)製造に対する支援施策などにより、従来型の外資メーカーと中国地場メーカーの合弁事業のみならず、中国地場ベンチャーが数多く登場することになる。だが、厳しい価格競争や、一部メーカーでの強引な経営体制などの影響で経営破綻したり、ブランドが消滅したりするケースが目立つようになった。 そうしたなか、満を持して登場したのが家電やスマートフォンの製造販売を本業とするHauweiやXiaomiである。背景にあるのは、やはりSDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)という自動車産業における新しい概念だ。 SDVには定義はない。その上で、自動車産業界にとっては2010年代にCASEと呼ばれた次世代技術のなかで、SDVをきっかけに欧米や中国の電機・IT系事業者が自動車産業におけるゲームチェンジを一気に仕掛けてきた形だ。時期としては、コロナ禍であったこともあり、日本の自動車産業界にとってHauweiやXiaomiの自動車産業界における躍進は、寝耳に水といった印象をもっている人が少なくないだろう。 たとえば、Hauweiは自社EVブランド「問界(AITO)」がある。足がかりとして、中国地場では中堅自動車メーカーのセレスと連携して中国での売れ筋である高級SUV EV市場に打って出た。さらに、2023年にはHauweiが中心となる連合体「HIMA」を発足させる一方で、2024年にはセレスがHauweiからAITOの商標権を買収した。 見方を変えると、Hauweiとしては市場における激しい価格競争のなかで完成車事業の収益性を検討し、車載OSなどSDV関連プラットフォームの提供企業として、サレスやHIMAに加入している中国地場大手の上海汽車などと新たな事業展開を目指すものと推測される。 Hauweiの強みとは、EVという商品そのものだけではなく、市場環境や社会情勢によって大胆な経営判断を実行できる経営体制にあるといえるだろう。

TAG: #スマホ #中国車 #家電 #輸入車
TEXT:高橋 優
いまBYDが激安購入できる! 9月中なら適用される「BYD補助金」の恐るべき中身

最大100万円を超える驚愕の値引き BYDが国内で発売中の全モデルに対する値引き措置を実施しました。とくにシールAWDには最大117万円という大幅値引きを実施するなど、EVのお買い得情報について解説します。 BYDは日本国内に対してアット3、ドルフィン、シール、シーライオン7という4車種を投入済みです。販売台数は月間数百台とまだまだ規模は小さいものの、販売ネットワークを整備しながら、じっくりと販売シェアを拡大するものと思われていました。 その一方で、BYDは日本国内に対してPHEVを追加で導入する方針を表明していますし、2026年後半には軽自動車セグメントのEVを投入する方針も正式表明済みです。BEVだけでなくPHEVをラインアップするという新たな試みも始まっていました。 そして、そのBYDについて新たに判明した最新動向が、9月中における新たな販売プロモーションとして、BYD補助金と題した一律値引き措置を断行してきたという点です。ただしBYD補助金について重要な前提条件が、9月中に成約、なおかつ車両登録を済ませることが条件であるため、すぐに購入を決断する必要があります。 まずインパクトが大きいのがドルフィンのエントリーグレード「Baseline」の存在です。現在299万円2000円で発売中ですが、さらにBYD補助金50万円分の値引きが適用されて249万2000円で購入可能です。さらに政府からのEV購入補助金が35万円適用できることから、それを含めると、なんとドルフィンBaselineは実質214万2000円から購入することができます。 さらにドルフィンBaselineの競合となるヒョンデ・インスターや、軽EVの日産サクラ、ホンダN-ONE e:と比較してみると、インスターと比較してドルフィンのほうが60万円も安価に購入することが可能となります。しかも日産サクラXグレードとも実質の購入金額では大差がありません。サクラと比較しても倍以上の電池容量、航続距離、充電性能を実現していることを踏まえると、やはりドルフィンのコスト競争力の高さは明らかでしょう。 またドルフィンロングレンジに対しても64万円のBYD補助金が適用できるため、実質275万円で購入することが可能です。 アット3については、70万円ものBYD補助金が適用可能であるため、35万円のCEV補助金を含めて、実質313万円から購入することができるようになりました。アット3には58.56kWhのLFPバッテリーが搭載され、85kWの急速充電に対応。コンパクトSUVながら後席にゆとりをもって座れるだけでなく、トランクの収納スペースも440リットルを確保しているなど、ファミリーSUVとしての車内空間の広さも十分です。この電動SUVが実質313万円で購入できるとイメージしてみると、まさにガソリン車と同等以上のコスト競争力といえるはずです。 ちなみに、直近においてヒョンデはコナに対して98.3万円もの値下げを実施中です。廉価グレードVoyageの場合、CEV補助金を含めて実質286.3万円から購入可能であり、アット3の購入を検討する場合はコナを比較検討するのもありだと思います。 シールもRWDグレードに86万円のBYD補助金を適用することで、CEV補助金を含めて実質364万円で購入できるようになりました。さらに4WDグレードに対しては117万円のBYD補助金が適用可能となり、実質420万円から購入可能です。0-100km/h加速3.8秒を実現し、日本車にあるような装備内容はほぼすべて標準搭載。このスポーツセダンが実質420万円で購入可能とイメージしてみると、やはりコスト競争力の高さが光ります。 そして最新モデルであるシーライオン7にもBYD補助金が適用可能です。RWDもAWDも揃って73万円という値引き幅であり、CEV補助金の35万円を含めて、RWDが実質387万円、AWDが実質464万円で購入可能となりました。

TAG: #中国車 #新車販売
連載企画 一覧
VOL.15
本当に日本はEVで「立ち遅れた」のか:知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第15回

ジャパン・モビリティ・ショー開催でにわかに沸き立つ日本のEVマーケット。しかし現実の販売状況は日本において大きく立ち遅れている。技術では先導してきたはずの日本メーカーは、なぜEVで世界をリードできていないのか。この分野のベテランジャーナリストである御堀 直嗣が解説する。 日本の低いEV市場占有率 日本は、世界に先駆けて電気自動車(EV)の市販に踏み切った。2009年に三菱自動車工業が、軽自動車EVの「i-MiEV」を法人向けにリース販売しはじめ、翌10年には一般消費者向けへの販売も開始した。同年には、日産自動車も小型EVの「リーフ」を発売した。この2社によって、EVの量産市販が実現し、ことにリーフは海外への販売も行われ、「i-MiEV」はフランスの当時PSA社にOEM供給された。リーフの販売は世界で累計65万台に達し、その他EVを含めると、日産は世界で100万台のEV販売の実績を持つ。そのうち、日本国内は累計23万台である。 ちなみに、米国テスラは2022年では年間で約130万台、中国のBYDは同年に約90万台規模へ成長している。 同時にまた、世界共通の充電規格であるCHAdeMO(チャデモ)も準備され、リーフが販売される世界の各地域にCHAdeMO充電器の設置が動き出した。 それらを背景に、経済産業省は2012年度補正予算で1,005億円の補助金を計上し、全国に約10万基の充電器を整備するとした。この補助金は全額支給でないため、トヨタ/日産/ホンダ/三菱自の4社が資金を拠出し、補助金で賄いきれない残額を補填することに合意した。 しかし、現在の充電器の数は、急速充電と普通充電を合わせて約2万基である。 国内の新車販売において、EVが占める割合は1%以下という状況が長く続いた。昨2022年、「日産サクラ」と「三菱eKクロスEV」が発売となり、1年で5万台以上を販売することで2%ほどの占有率になろうかという状況にある。 一方、世界全体では、EVの市場占有率が13%になる。米国は5.8%、欧州は12%、中国は21%となっており、日本がいかに低水準であるかがみえてくる。 日本でEV普及が進まなかった理由 EVの先駆者であった日本が、なぜ欧米や中国の後塵を拝するようになったのか。 最大の要因は、せっかく1,005億円という充電基盤整備に対する経済産業省の支援があったにもかかわらず、急速充電器の整備にばかり世間の目が行き、EV利用の基本である基礎充電、すなわち自宅での普通充電(200V)の重要性が広がらなかったからである。ことに、マンションなど集合住宅の駐車場と、月極駐車場への普通充電設置がほぼできなかったことが原因であった。 EVの充電は、普通充電で8~10時間、あるいはそれ以上かかるとされ、これが単純にガソリンスタンドでの給油時間と比較されて、使い勝手が悪いとさまざまな媒体を通じて流布された。いまでもそうした論調が消えていない。しかし、自宅で普通充電できれば、寝ている間に満充電になるので、翌朝出かけるときは満充電で出発できる。 戸建て住宅に住む人はそれができた。ところが、戸建て住宅でも自宅に車庫がなく月極駐車場を利用する人は、近隣の急速充電器を利用しなければならなくなった。 集合住宅に住む人は、敷地内に駐車場が併設されていても、管理組合の同意が得られず普通充電ができない状態に陥った。無知がもたらした悲劇だ。EVを買う意思があっても、手に入れにくい状況があった。 集合住宅の管理組合で賛同が得られない最大の理由は、幹事がEV時代を予測できず、また自分には関係ないとして無視され続けたことにある。設置の経費は、ことに当初は補助金と自動車メーカー4社による補填があったので、ほぼゼロであった。現在でも、施工業者が残金を負担するなどのやりくりで、集合住宅側の負担が軽く済む仕組みが出てきている。それでもなお、管理組合で合意を得るのが難しい状況は払拭できていない。 基礎充電の普及を目指す業者の間でも、さらに難しいとされるのが月極駐車場への普通充電の設置だ。月極駐車場を管理する不動産業者の理解を得にくいという。

VOL.1
リッター200円にもう限界……給油の“枷”をぶっちぎれ!【モデルサードインパクト vol.1】

ガソリン高い、燃費も悪い、限界だ! かつてないほどの猛暑に喘いだであろう今夏。「もういいよ」「もう下がってくれ」と、気温に対して誰もが感じていたと思うが、自動車ユーザーはガソリン価格に対しても同じことを思っていたのではないだろうか。 リッターあたり170円、180円、190円、そして200円の大台を突破……給油をするたびに、誰もが憂鬱な気分になったはずだ。小生はドイツの某オープンスポーツカーに乗っているのだが、リッターあたり平均10kmでハイオク仕様。愛車にガソリンを入れるたび、顔が青ざめていた。 「高額給油という枷から解放されたい……」 EVの購入を決意した所感である。クルマを走らせることは、本来喜びのはず。給油のたびに落ち込むのは本望ではない。 小生は、THE EV TIMES(TET)の編集スタッフを務めています。この9月、「テスラ・モデル3・パフォーマンス」を購入しました。新たな愛車と共に進むEVライフを「モデル・サードインパクト」と銘打ち、連載で紹介していこうと思います。 EVは便利だと実感した「日産リーフ」 小生が初めて体験したEVは「日産リーフ」(2代目)である。遡ること2017年、「リーフ」が2代目になった頃、日産が全国で試乗キャラバンを開催し、小生はその試乗アテンダントを担当していた。そこで「リーフ」を存分に運転することができたのだ。 それゆえ、EVの利便性の高さを実感することになった。スポーツモデル顔負けの力強くスムーズな加速にまず驚いたのだが、給油という枷から外れて自由に走り回れることが大変な魅力に感じた。アイドリング状態でエアコンを入れっぱなしでもガソリン代を気にせずに済む。車内でPCを開けば、そのままオフィスになる。車の用途が無限大に広がると感じた。 充電時間も特別長いとは感じなかった。充電残量が50%くらいになったら、急速充電を使用してあっという間に80%まで回復できる。ちなみに100%まで充電した場合、280kmを走れる表示が出ていたと記憶している(当時は寒い季節で暖房を使用した)。ちょっとした遠出も十分に対応可能。「EVなんて不便」という印象は全く抱かなかった。そこで薄々と「将来はEVもアリだな」と思ったのだ。

VOL.20
VW「ID.4」オーナーはアウトバーンを時速何キロで走る? [ID.4をチャージせよ!:その20]

9月上旬、スイスで開催された「ID.TREFFEN」(ID.ミーティング)を取材した際に、参加していた「ID.4」オーナーに、そのクルマを選んだ理由などを聞きました。 フォルクスワーゲン一筋 鮮やかな“キングズレッドメタリック”のID.4で登場したのは、ドイツのハノーファーからはるばるスイスに駆けつけたデュブラック・マルクスさん。「フォルクスワーゲンT3」のTシャツを着ているくらいですから、かなりのフォルクスワーゲン好きと見ましたが、予想は的中! 「18歳で免許を取ってからこれまで30年間、フォルクスワーゲンしか買ったことがないんですよ」という、まさにフォルクスワーゲン一筋の御仁でした。 彼の愛車はID.4のなかでももっともハイパフォーマンスな「ID.4 GTX」。日本未導入のこのグレードは、2モーターの4WD仕様で、最高出力220kW(299PS)を発揮するというスポーツモデル。こんなクルマに乗れるなんて、なんともうらやましいかぎりです。 そんなマルクスさんにID.4 GTXを購入した理由を尋ねると、「これからはEVの時代だと思ったので!」と明確な答えが返ってきました。とはいえ、ID.ファミリーのトップバッターである「ID.3」が登場した時点ではすぐに動き出すことはありませんでした。「1年半くらい前にID.4 GTXを試乗する機会があって、踏んだ瞬間から力強くダッシュするID.4 GTXのパンチ力にすっかり惚れ込んでしまい、即決でしたよ(笑)」。

VOL.14
欧州メーカーはなぜ電気自動車に走ったのか?:知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第14回

EVの知識を、最新情報から「いまさらこんなこと聞いていいの?」というベーシックな疑問まで、ベテラン・ジャーナリストが答えていく連載。今回は欧州メーカーの特集です。 日本市場参入が遅かった欧州製EV 日本市場では、欧州からの電気自動車(EV)攻勢が活発に見える。ドイツの「BMW i3」が発売されたのは2013年秋で、日本市場へは2014年春に導入された。 日本の自動車メーカーがEVを市販したのは、2009年の「三菱i-MiEV」の法人向けリースが最初で、翌2010年には「i-MiEV」も一般消費者への販売を開始し、同年に「日産リーフ」が発売された。「i3」の発売は、それより数年後になってからのことだ。 ほかに、フォルクスワーゲン(VW)は、「up!」と「ゴルフ」のエンジン車をEVに改造した「e-up!」と「e-ゴルフ」を2015年から日本で発売すると2014年に発表した。だが、急速充電システムのCHAdeMOとの整合性をとることができず、断念している。その後、VWは「e-ゴルフ」を2017年秋に販売を開始した。EV専用車種となる「ID.4」を日本に導入したのは、2022年のことだ。フランスのプジョーが、「e-208」を日本で発売したのは2020年である。 以上のように、欧州全体としては、EVへの関心が高まってきたのは比較的最近のことといえる。 くじかれたディーゼル重視路線 欧州は、クルマの環境対策として、自動車メーカーごとの二酸化炭素(CO2)排出量規制を中心に動いてきた。そして2021年から、1km走行当たりの排出量を企業平均で95gとする対処方法を考えてきた。EU規制は、販売する車種ごとのCO2排出量を問うのではなく、販売するすべての車種の平均値で95gを下回らなければならないという厳しさだ。 対策の基本となったのは、ディーゼルターボ・エンジンを使った排気量の削減と、出力の低下を補う過給器との組み合わせを主体としつつ、ハイブリッドによるさらなる燃費の向上である。 既存のディーゼルターボ・エンジンをできるだけ活用しようとする考えは、欧州メーカーが補機用バッテリーの電圧を世界的な12ボルトから、36ボルトや48ボルトに変更することによるマイルドハイブリッド化に注目してきた様子からもうかがえる。 ところが、2015年にVWが米国市場でディーゼル車の排出ガス規制を偽装していたことが明らかにされた。公的機関での測定では規制値を満たすものの、実走行で急加速などした際に基準を上回る有害物質が排出され、それによって力強い加速を得られるようにした制御が発覚したのである。その影響は、VW車だけでなく、アウディなどVWグループ内に広く影響を及ぼした。

VOL.3
ボルボは新型EVの「EX30」でインテリアに新たな価値を与え、空間を最大限、利用する!

ボルボはEX30の室内で多くの新たなチャレンジを行なっていると謳う。その詳細を小川フミオ氏が訊いていく。連載1回目はこちら、2回目はこちら。 冷たさの排除し素材を“素直”に使う EX30のインテリアが、他車と決定的に違うのは、金属的な表面処理がほとんど見当たらないこと。それは意図的にそうしたのだと、インテリアデザインを統括するリサ・リーブス氏は言う。 「心したのは、冷たさの排除です。使う素材はオネスト、つまり木に見えるものは木であり、また同時に、リサイクル素材を人間にやさしいかたちで使用しました」 インテリアは「ブリーズ」(やさしい風)をはじめ「ミスト」(もや)、「パイン」(松)それに「インディゴ」と4種類(日本はそのうち「ブリーズ」と「ミスト」を導入)。 「ブリーズを例にとると、デザインインスピレーションはサマーデイズ。シート表皮の素材はピクセルニットとノルディコ、ダッシュボードの飾り材はパーティクル、そして空気吹き出し口のカラーはブルーです」 リーブス氏は説明してくれる。 「ピクセルニットはPETボトルをリサイクルしたもの。それを3Dニッティング(立体編み)プロセスでシート用素材にしています。組み合わせるノルディコは、PETボトルなどのリサイクル素材、北欧で計画的に伐採された木から採取された素材、リサイクルされたワインコルクなどで作られたテキスタイルです」 ダッシュボード用のパーティクルは、窓枠やシャッターを中心に工業廃棄物であるプラスチックを粉砕したものだし、フロアマットは漁網をリサイクルしたという。 「リサイクル材とともに、インテリアは雰囲気を統一したので、私たちは“ルーム”という名を与えています。インディゴの場合、デザインインスピレーションは”夜のはじまり”で、デニムをリサイクルしたときに余る糸を使った素材をシート表皮に使っています」 シートじたいは「スニーカーにインスパイアされた形状」(メイヤー氏)だそうだ。

VOL.2
ボルボの新型電気自動車「EX30」にはスターウォーズのデザインが取り入れられている!?

エンジンの回転の盛り上がりには、時に人間的な表現が用いられる。しかしBEV(バッテリー電気自動車)はエンジンもなく無音なため、より無機質な、機械的な印象が強くなる。ボルボはそんなBEVに人間的な要素を入れたと主張する。連載1回目はこちら。 どことなく楽しい感じの表情 ボルボEX30は、いってみれば、二面性のあるモデルだ。ひとつは、地球環境保全(サステナビリティ)を重視したコンセプト。もうひとつは、大トルクの電気モーターの特性を活かしたスポーツ性。 デザイナーは「いずれにしても、BEVと一目でわかってもらうデザインが重要と考えました」(エクステリアデザイン統括のTジョン・メイヤー氏)と言う。 「もちろん、昨今ではICE(エンジン車)かBEVか、デザインをするときあえて差別化をしないのが世界的な流れです。ただし、私たちとしては、スカンジナビアデザインの原則を守りつつデザインしました」 メイヤー氏の言葉を借りて、この場合のスカンジナビアデザインの肝要を説明すると「形態は機能に従う」となる。 「そこで、上部に開口部とグリルはもたせないようにしようと。ただし(インバーターなどのために)空気を採り入れる必要はあるので、下にインレットは設けています」 ボルボ車のデザインアイディンティティである「トール(神の)ハンマー」なる形状のヘッドランプも採用。ただし、カバーで覆った一体型でなく、四角いLEDのマトリックスが独立しているような形状があたらしい。 「そうやって出来上がったのがこのデザインです。顔になっていて、そこには眼があって、鼻があって、口があるんです。どことなく楽しいかんじで、これまで以上に人間的な表情を実現しました」 暴力的でもなければ、ロボット的でもない。メイヤー氏はそこを強調した。

VOL.1
ボルボの新型電気自動車「EX30」は、相反する2面性を合わせ持つ文武両道なクルマ

ボルボの新たなBEV(バッテリー電気自動車)として、ついに10月2日から「サブスク」モデルの申し込みが始まるEX30。この「ボルボ史上最小のBEV」はどのように開発されたのか。ミラノで行われたワールドプレミアに参加した小川フミオ氏が関係者の声とともに振り返る。 スカンディナビアン+デジタル 2023年6月に登場したEX30は、コアコンピューティングテクノロジーを大胆に採用する、ボルボの新世代BEV。 内容にとどまらず、同時に、デザイン面でもさまざまな大胆な試みがなされているのも特徴だ。 いってみれば、伝統的ともいえるスカンディナビアンテイストに、デジタライゼーションの融合。 「私たちのデザイン的価値のすべてを小さなフォーマットで具現」したモデルと、ボルボ・カーズはプレスリリース内で謳う。 「非常に電気自動車的なデザインで(中略)閉じられたシールド(フロントグリルの開口部のこと)とデジタル表現を用いたトールハンマーヘッドライト」がフロント部の特徴とされる。 さらに新世代BEVとしてボルボが狙ったものはなんだろう。ミラノでの発表会において出合った担当デザイナー(たち)に、デザインの見どころと背景にあるコンセプトを取材した。

VOL.5
「BMW iX xDrive50」の高速電費は我慢不要! ロングドライブにうってつけのEV

[THE EV TIMES流・電費ガチ計測] THE EV TIMES(TET)流電費計測の5回目を、8月に「BMW iX xDrive50」で実施した。車高の高いSUVにもかかわらず、高速巡航時に電費が低下しにくいのが特徴だ。その詳細をお伝えする。 ※計測方法などについてはこちら、試乗記はこちらをご覧ください。 100km/h巡航でどんどん行こう iX xDrive50のカタログに記載された「一充電走行距離」は650km(WLTC)で、電池容量は111.5kWhだ。650kmを実現するには、電費が5.83km/kWh(以後、目標電費)を上回る必要がある。 各区間の計測結果は下記表の通り。5.83km/kWhを上回った場合、赤字にしている。 これまでのTETによる電費計測で初めてA区間の往路と平均で目標電費を超えた。A区間のように標高差が少ない場所では同じ状況になり得る、つまり100km/h巡航で一充電走行距離の650km近くを走破できる可能性がある。   100km/h巡航でも600kmは走れそう 各巡航速度の平均電費は下表の通りだ。「航続可能距離」は電費にバッテリー総容量をかけたもの、「一充電走行距離との比率」は650kmに対して、どれほど良いのか、悪いかだ。 iXのエクステリアは、大きなキドニーグリルが特徴的だ。ざっくり言えば全長5m、全幅2m、全高1.7m、車重2.5トンの堂々としたボディだが、Cd値が0.25と優れている。 100km/h巡航におけるiXの電費は、5.71km/kWhであった。絶対的な数値としては決して高くないが、一充電走行距離との比率を計算すると98%と、これまでにTETが計測したデータの中で最高の結果を記録した。120km/h巡航でもこの数字は78%であった。 つまり、iXは高速巡航でも電費の低下が少ないEVだといえる。 ちなみに、過去に計測したメルセデス「EQE 350+」は、この100km/h巡航時の比率が90%だった。EQEはセダンボディで背が低く、Cd値0.22で、高速巡航には有利であることを考えても、iXの98%という数字の凄さが分かる。 この結果は、空力性能の良好さと高効率なパワートレインの賜物ではないかと思う。BMWが「テクノロジー・フラッグシップ」「次世代を見据え、長距離走行が可能な革新的な次世代電気自動車」と謳っているだけのことはある。これらの記録を塗り替えるクルマが現れるのか、今後の計測が楽しみだ。   各巡航速度ごとの比率は以下の通り。80km/hから100km/hに速度を上げると21%電費が悪くなる。120km/hから80km/hに下げると1.6倍の航続距離の伸長が期待できる。

VOL.19
ぐっとパワフルな2024年モデルのフォルクスワーゲン「ID.4」をミュンヘンで緊急試乗! [ID.4をチャージせよ!:その19]

コンパクトSUVタイプの電気自動車「ID.4」が2024年モデルにアップデート。この最新版をドイツ・ミュンヘンでさっそく試乗しました。 モーターのパワーは60kW増し 「ID.4」が2024年モデルにアップデートし、コックピットのデザインが様変わりしたことは、前回のコラムで述べました。さらに今回の仕様変更では、走りにかかわる部分にも手が加えられています。 一番の変更が、新開発のモーターが搭載されたこと。フォルクスワーゲンでは、ID.ファミリーのプレミアムセダンである「ID.7」に、新たに開発した「APP550」型の電気モーターを採用しました。最高出力は210kW(286PS)と実にパワフルです。これが2024年モデルの「ID.4プロ」にも搭載されることになりました。これまでの「ID.4プロ」の最高出力が150kWですので、出力は60kW、4割増しという計算。最大トルクも従来の310Nmから545Nmとなり、こちらは75%の大幅アップです。 バッテリー容量は77kWhで変更はありませんが、2024年モデルからはバッテリーの“プレコンディショニング機能”を搭載し、冬の寒い時期、充電前にバッテリー温度を高めておくことで充電量の低下を抑えることができます。これはうれしい! 他にも、可変ダンピングシステムのDCC(ダイナミックシャシーコントロール)の改良なども行われ、果たしてどんな走りを見せてくれるのか、興味津々です。 早く乗ってみたいなぁ……と思っていたら、なんとうれしいことに、発表されたばかりの2024年式ID.4 プロ・パフォーマンスを、ドイツ・ミュンヘンで試乗するチャンスに恵まれました。試乗時間は約20分と超ショートですが、わが愛車のID.4 プロ・ローンチエディションと比較するには十分な時間です。

VOL.18
ミュンヘンで「ID.4」の2024年モデルに遭遇! [ID.4をチャージせよ!:その18]

ミュンヘンモーターショー(IAA)のメイン会場近くで、フォルクスワーゲンがメディア向けイベントを開催。そこで、2024年モデルの「ID.4」に遭遇しました。 見た目は同じ イベントスペースのパーキングに待機していたのは、“コスタアズールメタリック”のボディが爽やかな「ID.4 プロ・パフォーマンス」。日本のラインアップにはないボディカラーに目を奪われますが、エクステリアデザインはこれまでと同じで、私の愛車の「ID.4 プロ・ローンチエディション」との違いは1インチアップの21インチホイールが装着されていることくらいです。 ところが運転席に座ると、コックピットの眺めに違和感が! マイナーチェンジでもないのに、コックピットのデザインが私のID.4 プロ・ローンチエディションと大きく変わっていました。 ご存じのとおり、フォルクスワーゲンなど多くの輸入ブランドでは“イヤーモデル制”を採用していて、毎年のように細かい仕様変更を実施。エクステリアデザインは一緒でもパワートレインや装備が変わるというのはよくあること。この2024年モデルでは、インテリアのデザインまで様変わりしていたのです。 真っ先に気づいたのが、ダッシュボード中央にあるタッチパネルがリニューアルされていること。2022年モデルのID.4 プロ・ローンチエディションでは12インチのタッチパネルが搭載されていますが、この2024年モデルでは12.9インチにサイズアップが図られたのに加えて、デザインも一新され、明らかに使い勝手が向上していました。

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