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TEXT:桃田健史
国を走るクルマの大半がEV……って中国じゃない! なんと普及率92%の「ノルウェー」はどうしてEV大国になったのか?

国家規模でEV導入を推進したノルウェー EVは踊り場。ここ1〜2年で、そんな表現をよく聞く。とくに日米欧で、当初期待していたほどEV市場が拡大しないことを指す。 たとえば、2024年実績を見ると、欧州全体では15.4%で前年からほぼ横ばい、アメリカは8.1%で微増、そして日本の普通乗用車では1.35%と減少傾向にある状況だ。 そうしたなかで、EV普及率が92%と突出しているのが北欧のノルウェーだ。背景には何があるのだろうか。 もっとも大きな理由は、国による積極的なEV普及策がある。そう聞くと、日本でもカーボンニュートラルを目指してさまざまなEV普及施策を打っているので、いったいノルウェーが何をしているのか興味をもつ人がいるだろう。 決め手は、電力を作る方法にある。ノルウェーの発電構成の約9割が水力発電で残りが風力発電となり、再生可能エネルギーがほぼ100%なのだ。このまま極端な電力構成をもつ国や地域はほかにない。つまり、カーボンニュートラルを考えるうえで重視されるLCA(ライフサイクルアセスメント)の観点で、EVにもっとも適した国だといえる。 自動車におけるLCAでは、発電、燃料の原料の採掘、部品を製造・輸送、完成車製造・輸送、販売、ユーザーによる利用、廃棄といった、クルマの一生でCO2排出量を考慮する。そのうえで、EVが移動するためのエネルギーとして電気を使う場合、日本のように火力発電が約7割では、LCAにおけるカーボンニュートラルが通用しにくい。こうした事情から、日本の自動車メーカーでつくる業界団体である日本自動車工業会(自工会)では、国や地域によってEV、ハイブリッド車、PHEV、FCEV、カーボンニュートラル燃料などを使いわける「マルチパスウェイ」構想を掲げており、それを日本市場にも適用しているところだ。 ノルウェーでは、こうしたマルチパスウェイを第一に考える必要性が低いといえるだろう。さらに、ノルウェー近海は、いわゆる北海油田があり、原油の採掘が盛んである。ノルウェーは自国では原油の利用を抑えて、海外への販売で外貨を稼ぎ、自国でのエネルギーは再生可能エネルギー由来にするという戦略だ。 EVをノルウェー国内で使いやすくできるように、充電インフラを拡充し、また普及促進策として駐車場や道路での優先利用などを推進してきた。また、一般家庭で200V以上の電源をもっていることも、ノルウェーでのEV普及のプラス要因になったという見方もある。 いずれにしても、ノルウェーはエネルギー安全保障の面で特殊な立ち位置にあることで、EV普及率が極めて高いといえる。

TAG: #EVシフト #ノルウェー
TEXT:高橋 優
400万円代の廉価グレードからオフロードモデルまで用意して「ボルボEX30」に死角なし! 中身を徹底分析してライバルと比べてみた

国内でも人気なEX30がさらに進化 ボルボがEX30の2026年モデルの発売をスタートしました。とくにLFPバッテリーを搭載して479万円からとなる最安エントリーグレードや、オフロード仕様となるクロスカントリーなどを追加設定し、さらに魅力的なラインアップとなりました。 ボルボは日本国内において、C40、EX40、そしてEX30という3種類のBEVをラインアップ済みです。さらに、海外市場ではフラグシップSUVとなるEX90や、中国市場専用で大型ミニバンEM90を投入済みです。2025年夏以降に生産をスタートするフラッグシップセダンES90も控えており、順次EVシフトを進めている状況です。 とくに日本国内で発売中の最新EVであるEX30には、69kWhバッテリーというゆとりのバッテリー容量、レベル2のADASやガラスルーフ、高級音響システムなどがすべて標準装備されており、それで559万円という価格でプレミアムブランドとしてはコスト競争力が非常に高く、しかも日本国内でも取りまわしやすいコンパクトSUVであり注目のEVだったわけです。 そして、今回導入されたのが2026年モデルです。これまではUltraシングルモーターのワングレード展開だったものの、全部で5グレード展開へと大幅にラインアップを拡充。まずはエントリーグレードを「Plus シングルモーター」として、51kWhのLFPバッテリーを搭載して装備内容を簡素化。さらに「Ultraツインモーター・パフォーマンス」として、フロントにモーターを追加したAWDグレードを追加導入。加えてオフロード仕様として「クロスカントリーUltraツインモーター・パフォーマンス」もラインアップしました。 とくに注目したいのがエントリーグレード「Plusシングルモーター」です。51kWhのLFPバッテリーを搭載することで、日本WLTCモードで390kmの航続距離を確保。LFPバッテリーなので100%満充電運用が可能であり、基礎充電環境を構築できるユーザーにとってはもってこいのバッテリーといえます。さらに、システム電圧も380Vと、LFPとしては高めに設計されており、出先の急速充電でもプラスに働きます。 ただし、気になるのが、2024年モデルのEX30ではハイカレントコントロールに対応していなかったという点です。つまり、200A以上の急速充電に対応しておらず、日本以外は150kW級で急速充電できることから、そのEX30のもつ本来の急速充電性能が2026年モデルで発揮できているのかどうかは、遠出の際の充電時間短縮には非常に重要な要素となり得ます。 また、残念なのがエントリーグレードのみヒートポンプシステムが搭載されていないという点です。よって、冬場に寒さが厳しくなる地域では電費性能が大きく悪化してしまうことから、「Plusシングルモーター」は沖縄や九州、四国など、比較的温暖な環境となる地域でおすすめといえそうです。 そして値段設定については、「Plusシングルモーター」が479万円、また「Plusシングルモーター・エクステンディッドレンジ」が539万円、2024年モデルとして唯一ラインアップしていた「Ultraシングルモーター・エクステンディッドレンジ」が579万円からと20万円の値上げ、「Ultraツインモーター・パフォーマンス」が629万円、「クロスカントリーUltraツインモーター・パフォーマンス」が649万円となりました。 ちなみに気をつけるべきはCEV補助金額です。中間の3グレードは46万円であるものの、「Plusシングルモーター」と「クロスカントリーUltraツインモーター・パフォーマンス」はどちらも36万円と減額されています。よって「Plusシングルモーター」のCEV補助金を含めた実質的な購入金額は443万円となります。 次に、EX30の競合となり得る新型日産リーフ、BYD Atto 3、ヒョンデ・コナなどのEV性能を比較してみましょう。もし仮に新型リーフが470万円程度からスタートした場合、EX30と同じような値段設定となるものの、補助金で差がつく見通しであることから、リーフのほうが割安になります。また、新型リーフは補助金の助けもあって、BYD Atto 3やヒョンデ・コナと同等の値段設定となりそうです。 とはいえ、このように実用車ブランドのEVと比較しても、EX30というプレミアムブランドの競合車種が同列に評価されるのは異例です。動力性能は0-100km/h加速が5.7秒と競合を圧倒していたり、Harman Kardon製の9スピーカーシステムを採用するなど強みをもちます。まさにLFPバッテリーを採用しながら、EVのサプライチェーンが高度に完成されている中国国内で製造されていることで、優れたコスト競争力を実現してきているのです。 また、注目するべきはエントリーグレードのPlusシングルモーターの標準装備内容です。 ・18インチホイール ・12.3インチの縦長のセンタースクリーン ・プロセッサーはQualcomm Snapdragon 8155 ・USB-Cポートは前後に2つずつ、ワイヤレス充電機も搭載 ・シート調整はすべて手動調整、シートヒーターは非搭載 ・ステアリングヒーターは非搭載 ・ワンペダルドライブ可能 ・5色のアンビエントライト ・ヒートポンプは非搭載 ・リヤサイドガラスのプライバシーガラスは非搭載 ・ガラスルーフは非搭載 ・レベル2ADASは標準装備、自動車線変更も標準搭載 ・海外仕様では対応するV2L機能には非対応 ・最高出力1040Wを発揮するHarman Kardon製の9スピーカーシステム ・エアバッグは7つ、Euro NCAPは最高評価の五つ星 ・車両保証は5年間距離無制限保証 ・5年15万kmまでのエアフィルターやブレーキパッドなどのメンテナンスサービスも標準搭載 ヒートポンプシステムは標準でほしかったと感じるものの、シートヒーターとステアリングヒーターは8万円でオプション設定であり、必要に応じて追加することは可能です。Atto 3やコナと比較してみると、装備内容は貧弱であると感じますが、富裕層のセカンドカーとしては必要にして十分でしょう。このボルボというブランドにどれだけ価値を感じるかがEX30の購入の判断基準といえるのかもしれません。 いずれにしても、今回日本国内に投入してきたボルボEX30の2026年モデルは、実質450万円以内で購入できるLFPバッテリー搭載のエントリーグレードから、0-100km/h加速3.6秒を実現するパフォーマンスAWDグレード、オフロード仕様のクロスカントリーまで一気にラインアップを拡充してきたことで、大衆EVの購入を検討していたユーザーから雪国在住のユーザーまで、非常に魅力的な選択肢となったことは間違いありません。 コンパクト電動SUVセグメントは新型日産リーフやスズキe VITARAも発売されることから、さらに多くの選択肢からEVを選ぶことができそうです。

TAG: #SUV #ボルボ #輸入車
TEXT:琴條孝詩
なぜテスラの保険料は高い? EVならではの要因とテスラ固有の要件が重なった結果だった

EVの保険料が高額なワケ EV(電気自動車)を選ぶ際、購入価格や航続距離、充電インフラといった要素に注目が集まるが、見落とされやすいのが維持費の一部である自動車保険料だ。近年、とくに目立つのは、テスラの保険料が年々上昇しているという情報。その実態と、なぜテスラをはじめとするEVの保険はICE(内燃機関)車より高くなりやすいのか。本記事ではその背景を探ってみたい。 <EVの保険制度はICE車と基本的に同じ構造> 自動車保険の基準料率の算出などを行っている料率算出団体「損害保険料率算出機構」によると、自賠責保険にも任意保険にもEVだけが高くなるような保険料区分は設けられておらず、EVもICE車も保険料の構造に違いはない。 基本料率も「損害保険料率算出団体に関する法律」において、「合理的かつ妥当なものでなければならず、また、不当に差別的なものであってはならない」と定められている。 しかし、現実的にはEVの車両保険の料率クラスはICE車に比べて高めに設定される傾向にある。その理由は、EVとICE車という動力システムの違いではなく、車両価格や修理費用といった実態的な要因にある。 実際、同程度のクラスの車両を比べてみると、レクサスのPHEV「NX450h+」は、補償内容と料率クラスが、対人賠償責任保険:6、対物賠償責任保険:7、人身傷害保険:7、車両保険:9。BEVの「RZ450e」は、対人賠償責任保険:6、対物賠償責任保険:7、人身傷害保険:9、車両保険:13となっていて、人身傷害保険、車両保険の料率は、ともにEVのほうが高い。 日産「サクラ」も見てみよう。「サクラ」のベースモデルとなった軽自動車「デイズ」は対人賠償責任保険:3、対物賠償責任保険:3、人身傷害保険:3、車両保険:5。これに対して「サクラ」は、対人賠償責任保険:5、対物賠償責任保険:5、人身傷害保険:4、車両保険:7、となっている。やはりEVの「サクラ」のほうが料率が高い。 <EVの自動車保険が高いといわれる理由> EV全般において、保険料が一般的に高く設定される傾向がある主な要因は修理費用に起因する。EVは大型かつ高エネルギー密度のバッテリーを床下に搭載する設計が多く、事故で車体下部や前後の構造部分を損傷すると、バッテリーにダメージが及ぶ可能性がある。バッテリーは車両価格の3割近くを占める高価な部品であり、交換となれば修理費用は一気に跳ね上がる。保険会社にとっては修理費用を見越して保険料を引き上げざるを得ない。 また、EVの専用部品はまだ流通量が限られており、修理できる工場やサービス網もICE車に比べて少ない。そのため、軽度の損傷であっても修理コストが高くつき、結果として車両全損の判断が下されるケースも少なくない。こうした修理コストの高さが保険料に反映されるのである。 さらに、EVの重量も見逃せない。バッテリーを搭載することでICE車より車両重量が増し、追突事故を起こした際に相手車両への損害が大きくなりやすいという点が保険会社のリスク評価に影響する。事故の修理費用が高額化するだけでなく、相手への賠償コストまでも増える可能性があり、そのぶんが保険料に織り込まれるのである。

TAG: #事故 #保険料 #自動車保険
TEXT:桃田健史
トランプとマスクの仲違いでどうなる? 普通の自動車メーカーとは違う「政治」に左右されやすいテスラの立ち位置

個人の喧嘩レベルでは収まらないふたりの舌戦 アメリカのドナルド・トランプ大統領と、テスラのイーロン・マスク氏がSNS上で激しく意見をぶつけあうようになって久しい。一時、マスク氏が新党結成に動くのではという見方も出たが、今後については不透明な情勢だ。 そもそも、マスク氏は先の大統領選挙でトランプ氏の支援者として政治の世界に名乗りを上げて注目が集まり、その成果としてマスク氏は特別政府職員という形でトランプ政権入りした。新設された政府効率化省のトップとしてさまざまな施策を打ち出そうとした。 だが、トランプ大統領とマスク氏との間で意見の相違がみられるようになり、5月後半になりマスク氏は特別政府職員を退任。その後も、トランプ政権が重要施策として掲げている減税策について、マスク氏は批判を強めるなど、ふたりの関係はさらに悪化しているようにも見える。 そうとはいえ、政治の世界は報道されない裏の事情があるなど、事の真相が見えず、また先読みができないのが常であり、今後何が起こってもおかしくはないだろう。 いずれにしても、マスク氏としてはテスラや宇宙事業を手がけるスペースXなど、経営者や投資家の立場で経済活動に集中することになる。とくにテスラについては、マスク氏の政治的な発言や行動が欧米でのテスラ不買運動に発展した経緯があり、トランプ政権からの離脱を受けて、「テスラ=マスク氏」としてのブランド価値の早期復興が求められるところだ。 グローバル市場で「EV需要が踊り場」となっているいま、欧州メーカー各社はEVブランドの見直し等に着手することで、さまざまなパワートレインを併存させるマルチソルーションに舵を取っている。また、中国市場でも、エンジンを発電機として使うレンジエクステンダーの需要が伸びていたり、中国メーカーによる海外進出についても一部の国や地域では戦略の見直しが必要な情勢だ。 視野をさらに広げると、先のトランプ大統領とロシアのプーチン大統領の直接会談を経て、いわゆるウクライナ侵攻の終焉を探る段階に差しかかっていることで、天然ガスや水素のエネルギー利用の国際的な枠組みにも変化が起こりそうな気配がある。 テスラはEVを軸足としたエネルギーソリューションカンパニーであり、こうした政治的な動きがテスラの経営を大きく左右する。トランプ大統領とテスラ経営者としてのマスク氏の関係は、米国内でのEV普及施策に対する意見の相違を越えた、より複雑な関係になっているといえるだろう。

TAG: #イーロン・マスク #トランプ
TEXT:山本晋也
「EVは中古価格の落ち込みがヤバい」は過去に引き摺られすぎ! 今後はバッテリーの劣化問題もますます解消へ向かう

EVのリセールバリューを実際の相場から考える 2025年現在、EVといえば「リセールバリューが悪い」ことがクルマ好きの間では定説となっている。たしかに、日産リーフ(初代)や三菱アイミーブといった初期国産EVのリセールバリューは良好とはいえない中古車相場で流通している。新車時400万円前後の価格設定だったリーフが、いまでは50万円以下で流通しているのは事実だ。 しかし、それをもってEV全般の評価としていいのだろうか、という疑問も湧いてくる。そこでEV黎明期に登場したモデルが、10年後にどのような中古車相場を形成しているのか見てみたいと思う。 サンプルとしてテスラのフラッグシップ「モデルS」をピックアップしてみよう。 テスラといえば、グリルレスのフロントマスクが特徴といえるが、じつは2014年に日本上陸したモデルSの初期タイプにはフロントグリル的な意匠が与えられていた。このフロントマスクで販売されていたのは初期の1~2年であったので、グリルのあるモデルSがどのくらいの価格帯で取引されているのかを調べれば、モデルSのリセールバリュー(≒残価率)が見えてくるだろう。 結論からいえば、初期型モデルSの中古車相場は、おおよそ200万~400万円になっている。10年以上前の中古車が数百万円で取引されているのだから、「テスラは残価率が高い!」と思ってしまいそうだが、そう単純な話でもないだろう。なぜなら、モデルSの新車時価格は1250万~1550万円だったからだ。店頭価格で計算しても残価率は20%前後となる。 それでは、同年式で高価格帯の輸入車(エンジン車、ハイブリッド車)はどうなっているのだろうか。たとえば、メルセデス・ベンツのフラッグシップである「Sクラス」は、いわずもがな新車価格が1000万円を超える高級車だが、同じく2014年式の中古車相場を見ると200万~400万円の店頭価格で流通している。 メルセデス・ベンツとテスラだけを比較して結論を出すわけにはいかないだろうし、中古車はすべてコンディションが異なるため、店頭価格だけでリセールバリューを評価することもできないのだが、2014年式のテスラ・モデルSとメルセデス・ベンツSクラスだけで比べると、ユーザーの肌感でいえば、同じような価格帯で入手でき、新車価格と比べると同じようなリセールバリューに落ち着いているといえそうだ。 もちろん、この2台を比較しただけで一般論にすることはできないと思う。それでも、冒頭で記したように、「EVはEVであるだけでリセールバリューが悪い」と決めつけるわけにはいかない結果といえる。エンジン車もEVも、新車から10年以上経てば、同じように価値を下げていくのだ。

TAG: #カーライフ #中古車
TEXT:桃田健史
「EVが燃えた」はなぜ刺激的なニュースになるのか? 「だからEVは危険」は偏りすぎた思考

EVの炎上がたびたび報道されている EVが燃えた。 日本ではニュースになることが、まずない。だが、アメリカ、中国、韓国などではこれまで、メーカー名称を明らかにした報道が数多くある。その多くで、メーカーからの詳しい事故報告が公になっていない点について、メディアは厳しく批評している。その報道を見て、SNSではネガティブな投稿が目立つ。 こうしたEVに対する社会の動きを、アンチEVと受け取ればいいのだろうか? そもそも、自動車が燃える事象はEVに限った話ではない。日本でも、ガソリン車やハイブリッド車、そしてトラックやバスなど、ガソリンや軽油を使うクルマが道路上で炎上することはあり得る。発生件数としては少ないとしても、SNS上で衝撃的な映像として紹介されることが少なくない。 その際「クルマは燃えるから、危ない乗りものだ」という見方をする人は多くないという印象がある。 クルマが燃えるには、それなりの原因があり、そうした状況に陥るのはかなり特殊なケースという解釈をしている人が少なくないからだ。 たとえば、大型バスではリヤタイヤがバーストして、ホイールなどが地面と接触して火花が飛び、車体後部に搭載しているエンジン周辺のオイルラインなどに着火する、といったことがある。 だが、エンジンそのものがブローすることで、車両が炎上するまでに至るケースは極めて珍しいだろう。

TAG: #ニュース #炎上 #車両火災
TEXT:御堀直嗣
中国1強になりつつあるEVの現状に待った! GMが新開発した「LMRバッテリー」でアメリカが狙うシェア奪還

GMが開発したLMRバッテリーとは 米国のゼネラルモーターズ(GM)が発表したLMRバッテリーは、リチウムマンガンリッチの意味である。 中国が牽引するLFP(リン酸鉄リチウムイオン)バッテリーと同等の原価でありながら、エネルギー密度が30%以上高いのが特徴と伝えられる。 中国製EV(電気自動車)が、世界的に販売を伸ばしている。背景にあるのは、LFP(リン酸鉄)バッテリーの安さによる、EV価格の低下だ。 日本では、EV販売が踊り場との見方があるが、世界的にはEV販売が盛り返している。補助金に依存できなくなったドイツでも上向きになってきたという。理由は、廉価車種の登場だ。 世界的に、EV販売の最大の課題は一充電走行距離にあるとされてきた。 満充電からの走行距離を伸ばそうとすれば、おのずとバッテリー容量を増加させなければならず、現状、リチウムイオンバッテリーで最上の性能を実現する3元系(コバルト/ニッケル/マンガン)の正極をもつリチウムイオンバッテリーは、性能がよくても原価が高いため、EV価格を押し上げている。なおかつ、それでも高額なEVを買ってもらえるようにと、上級車種での新車攻勢が続き、高いEVしか選択肢がない状況が販売を鈍化させてきた。 そこに、これまで欧州でいえばディーゼルエンジンの小型車に乗ってきた多くの人が買い替えられるようなEVが出はじめた。米国でいえば、日本の軽自動車に相当するであろう大衆的なピックアップトラックのEVが望まれている。 ところが、3元系の電極のリチウムイオンバッテリーを使えば、高額のピックアップトラックになってしまい、市場性が損なわれる。一方で、LFP(リン酸鉄)にしようとすれば、中国製に依存せざるを得ない。 もちろんそれは、現在のトランプ政権の意向にも反することになりかねない。そこで、満を持して登場したのが、GMが発表したLMRバッテリーというわけだ。 原価を安くする要因は、電極材料のマンガン成分を多くしたことにある。 マンガンの電極は、これが初めてではなく、三菱i‐MiEVや初代日産リーフは、正極にマンガン酸リチウムを使っていた。理由は、安全重視のためだ。 マンガンの結晶は、スピネル構造といって、リチウムイオンがたとえすべて抜けだしたとしても結晶構造が壊れず、短絡(ショート)しにくい。したがって、過充電になった際に過熱や発火を起こす懸念が少ないのである。今日なお、日産リーフのバッテリーで火災事故は起きていない。 ただし、バッテリー容量が3元系に比べ少ないのが悩みの種であった。そこで現在では、リーフも3元系に切り替えている。それでも、過去の経験を通じて得た安全対策を施し、いまなおバッテリーを原因とした事故は起きていない。

TAG: #LMRバッテリー #テクノロジー #バッテリー
TEXT:桃田健史
欧州は「EVブランドの確立」を目指さなくなった? EVの車名から考えるEVの立ち位置

車名法則の変更はEV戦略の変化のため? 最近、欧州ブランドでEVに関するネーミングに変化が出てきた。たとえば、メルセデス・ベンツの場合、国内市場における現行EVは「EQA」「EQB」「EQE SUV」「EQS Sedan / EQS SUV」というラインアップだ。つまり、「EQ+クラス」という法則である。 ところが、最新モデルであるGクラスのEVは「G 580 with EQ Technology」と呼ばれている。同モデルはメルセデス・ベンツのEV戦略の変化点だといえよう。 商品として見ると、筆者はこれまでに同モデルをさまざまなシチュエーションで試乗しているが、速さ・悪路走破性・快適性において、グローバルNo1のEVという印象をもっている。 時計の針を少し戻すと、2016年のパリ・モーターショーのメルセデス・ベンツブースに「ジェネレーション EQコンセプト」の姿があった。 その前年の2015年にパリで開催されたCOP21(第21回 気候変動枠組条約 締約国会議)で示された「パリ協定」がキッカケとなり、自動車産業界では本格的なEVシフトに向けた準備が加速した。メルセデス・ベンツとしても、2020年代に入れるとEVシフトが急速進むものと予測し、EV専用ブランドEQをお披露目した形だ。 だが、EVの実需は一定程度までは増加したものの、大ブレイクするまでには至っておらず、また環境に対する投資機運もひと段落した雰囲気がある。 そうしたなか、2023年に入ってからメルセデス・ベンツがEQブランドのあり方を再検討しているとの報道が欧州で目立つようになった。2024年後半にはCセグメントSUVでの次期EVの開発中スパイフォトが出まわるようになり、同モデルの今秋公開を予想する報道がある。さらに、国内販売店でもEQの名称から変更が進んでいる状況だ。 こうした時流を鑑みての、ブランドに対する素早い経営判断は日本メーカーも見習うところが大きいと思う。 また、アウディでもEVに関するモデル名称の変更を進めている。アウディの電動化戦略では、e-Tronをブランド化してきたが、EVについては数字の部分を偶数表記で統一するとしていたが、これを撤回した。現在は、従来どおり車格やボディサイズによって数字を振りわけており、基本的にはそうした発想に戻ることになる。 いずれにしても、中長期的には日本を含めてグローバルでEVシフトがさらに進む可能性は高い。ただし、具体的に「中長期とはいつを指すのか」を現時点で予想することは難しい。 そのうえで、欧州メーカーではEVブランドのあり方を再検討しているわけで、こうした事情は日本メーカーでも同じだといえよう。

TAG: #EVブランド #ブランド名 #車名
TEXT:渡辺陽一郎
ドル箱のミニバンやスーパーハイト軽のEVはなぜない? 本格普及を狙うなら必要なハズも立ちはだかるハードルとは

ミニバンやスーパーハイトワゴンがない理由 2025年上半期(1〜6月)における国内販売状況を見ると、乗用車に占める電気自動車の販売比率はわずか1.4%だった。ハイブリッド(マイルドタイプを含む)の販売比率は52.7%と高いのに、エンジンを搭載しない電気自動車は、ほとんど売られていない。 電気自動車が売れない背景には複数の理由があるが、決定的な事情は車種の不足だ。小型/普通車市場で約半数のシェアをもつトヨタも、トヨタブランドの電気自動車はbZ4Xのみになる。ホンダはHonda eを廃止したから、N-ONE e:の発売を控えるものの、2025年8月時点で用意される電気自動車は軽商用車のN-VAN e:だけだ。スズキはeビターラを2026年3月までに国内導入するが、これが最初の量販電気自動車だから、現時点では販売していない。 このように電気自動車がほしいと思っても、車種が少なすぎて実質的に購入できない。電気自動車が売れないのは当たり前だ。 その結果、2025年上半期に日本で売られた電気自動車の内、軽自動車の日産サクラが32%を占めた。以前はサクラが40%を超えた時期もある。電気自動車にほしい車種が見当たらず、需要が運転しやすくて価格も割安なサクラに集中した。 いい換えると、電気自動車の売れ行きを増やすなら、人気の高いカテゴリーに設定すればいい。ホンダN-BOXやスズキスペーシアのような全高が1700mmを超えるボディにスライドドアを備えた軽自動車のスーパーハイトワゴン、トヨタ・シエンタやホンダ・フリードなどのコンパクトミニバンに電気自動車があれば、売れ行きも増える。 それなのにコンパクトミニバンのSUVは用意されず、軽自動車のサクラは前述のとおり人気車だが、スライドドアは装着されない。 ではなぜミニバンやスーパーハイトワゴンの電気自動車が用意されないのか。 その理由のひとつは床面構造だ。電気自動車では床下に駆動用リチウムイオン電池を搭載する必要があるが、スライドレールや電動開閉機能を加えると、電池の床下搭載が難しくなる。サクラの開発者は「ルークスのようなスライドドアを備えた電気自動車があれば、好調に売れると思うが、実際に開発するのは難しい」と述べた。 ふたつ目の理由は市場の確保だ。電気自動車は、エンジンを搭載する車両に比べて大量に売るのが難しい。そうなると複数の国や地域で販売したいから、軽自動車やミニバンは成立させにくい。サクラも国内で好調に売る必要があり、三菱ブランドのeKクロスEVも用意した。それでも商品化は一種の賭けになる。 これらの事情により、電気自動車にはSUVが多い。天井が高いから、床下に駆動用リチウムイオン電池を搭載しても、室内高を十分に確保できる。またSUVは日本と海外の両市場で人気が高く、販売台数を増やしやすい。 それでも今後は、軽自動車のスーパーハイトワゴンの電気自動車が登場してくる。ホンダの開発者は「N-VAN e:がある以上、N-BOXの電気自動車も技術的には開発できる」という。他社でも電動スライドドアに使われるモーターの取付位置をボディの下側から中央付近に移すなど、電気自動車仕様の開発に向けた準備を進めている。 売れ筋カテゴリーとされる軽自動車のスーパーハイトワゴン、5ナンバーサイズのコンパクトミニバンやコンパクトカーの電気自動車が豊富に開発されると、日本でもEVの普及が進む可能性が高い。

TAG: #スライドドア #ミニバン #新車
TEXT:高橋 優
Zeekrの「7X」はテスラどころかBYDも凌ぐコスパ最強のEV! オーストラリアの次は日本上陸の可能性大

驚愕の鬼コスパSUV Zeekrが右ハンドル市場のオーストラリアで最新EV「7X」の先行受注をスタートしました。テスラ・モデルYよりも安いという優れたコスト競争力を実現したことで、期待される日本国内導入においてもコスト競争力が高いEVとなり得る可能性について、国内販売価格の予測を含めて解説します。 まず、今回のZeekrはすでに中国国内で001、009、X、001FR、007、009 Grand、7X、MIX、007GTというさまざまなBEVを発売中であり、さらに最新フラグシップSUVの9Xには、Zeekr初となるPHEVシステムを採用します。70kWhの超大容量バッテリーを搭載してEV航続距離380kmを確保しています。さらに、中国国内だけではなく、すでに欧州や中南米、中東、東南アジア諸国にも進出しています。 そして今回取り上げたいのが、2024年9月に中国でローンチしたミッドサイズSUV「7X」の存在です。7Xは欧州や東南アジアでも納車がスタートしていました。そして今回、オーストラリア市場においても7Xの先行受注がスタートしたのです。 最初の納車は10月スタートの予定ですが、現地メディアが驚きをもって報じているのがその値段設定です。エントリーグレードで5万7900豪ドル(日本円で約554万円)という安価な値段設定を実現しています。実際に7Xは受注開始1週間を待たずして1000台以上の受注を獲得しており、想定以上の受注動向を踏まえて、限定1000台に対する早期注文キャンペーン特典を8月17日までに急遽延長したという背景すら存在します。 とくに、オーストラリア市場におけるベストセラーEVのテスラモデルYと比較してみると、値段設定で競合グレードを下まわっている状況です。たとえばエントリーグレードでは7Xが480kmの航続距離に対して、モデルYが500kmと同等の航続距離を確保。急速充電性能では7Xが最大450kWの急速充電に対応しており圧倒しながら、3.3kWのV2L機能にも対応。0-100km/h加速も6.0秒とモデルYと同等です。 そして、値段設定でもモデルYよりも1000豪ドル安価に発売することができています。オーストラリアの場合は中国と自由貿易協定を結んでいることから関税ゼロで中国製車両を輸出可能です。とくに追加関税が課されている欧州と比較しても、そのぶんだけ安価に7Xを導入し、ベンチマークのモデルYよりも値段を引き下げることができているのです。 そして、Zeekrはすでに日本市場への参入を正式に表明しており、主力モデルとなるであろう7Xが日本でどれほどのコスト競争力を実現してくるのかに大きな注目が集まっている状況です。とくに今回判明したオーストラリア市場というのは、日本と同じく右ハンドル市場であり、さらに中国側は日本に対して15%の自動車関税を設けているものの、日本側には中国に対して自動車関税を設けていないことから条件が極めて似通っており、値段設定にもオーストラリアと同等水準を期待できるのです。 とくに日本国内においてZeekr 7Xの競合となり得るテスラモデルY、日産アリア、BYDシーライオン7、ヒョンデIONIQ5と比較してみると、やはり7Xは、おおよそ550万円程度となると推測できるエントリーグレードにおいても極めて優れたEV性能を実現している様子が見て取れます。

TAG: #SUV #中国車
連載企画 一覧
VOL.15
本当に日本はEVで「立ち遅れた」のか:知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第15回

ジャパン・モビリティ・ショー開催でにわかに沸き立つ日本のEVマーケット。しかし現実の販売状況は日本において大きく立ち遅れている。技術では先導してきたはずの日本メーカーは、なぜEVで世界をリードできていないのか。この分野のベテランジャーナリストである御堀 直嗣が解説する。 日本の低いEV市場占有率 日本は、世界に先駆けて電気自動車(EV)の市販に踏み切った。2009年に三菱自動車工業が、軽自動車EVの「i-MiEV」を法人向けにリース販売しはじめ、翌10年には一般消費者向けへの販売も開始した。同年には、日産自動車も小型EVの「リーフ」を発売した。この2社によって、EVの量産市販が実現し、ことにリーフは海外への販売も行われ、「i-MiEV」はフランスの当時PSA社にOEM供給された。リーフの販売は世界で累計65万台に達し、その他EVを含めると、日産は世界で100万台のEV販売の実績を持つ。そのうち、日本国内は累計23万台である。 ちなみに、米国テスラは2022年では年間で約130万台、中国のBYDは同年に約90万台規模へ成長している。 同時にまた、世界共通の充電規格であるCHAdeMO(チャデモ)も準備され、リーフが販売される世界の各地域にCHAdeMO充電器の設置が動き出した。 それらを背景に、経済産業省は2012年度補正予算で1,005億円の補助金を計上し、全国に約10万基の充電器を整備するとした。この補助金は全額支給でないため、トヨタ/日産/ホンダ/三菱自の4社が資金を拠出し、補助金で賄いきれない残額を補填することに合意した。 しかし、現在の充電器の数は、急速充電と普通充電を合わせて約2万基である。 国内の新車販売において、EVが占める割合は1%以下という状況が長く続いた。昨2022年、「日産サクラ」と「三菱eKクロスEV」が発売となり、1年で5万台以上を販売することで2%ほどの占有率になろうかという状況にある。 一方、世界全体では、EVの市場占有率が13%になる。米国は5.8%、欧州は12%、中国は21%となっており、日本がいかに低水準であるかがみえてくる。 日本でEV普及が進まなかった理由 EVの先駆者であった日本が、なぜ欧米や中国の後塵を拝するようになったのか。 最大の要因は、せっかく1,005億円という充電基盤整備に対する経済産業省の支援があったにもかかわらず、急速充電器の整備にばかり世間の目が行き、EV利用の基本である基礎充電、すなわち自宅での普通充電(200V)の重要性が広がらなかったからである。ことに、マンションなど集合住宅の駐車場と、月極駐車場への普通充電設置がほぼできなかったことが原因であった。 EVの充電は、普通充電で8~10時間、あるいはそれ以上かかるとされ、これが単純にガソリンスタンドでの給油時間と比較されて、使い勝手が悪いとさまざまな媒体を通じて流布された。いまでもそうした論調が消えていない。しかし、自宅で普通充電できれば、寝ている間に満充電になるので、翌朝出かけるときは満充電で出発できる。 戸建て住宅に住む人はそれができた。ところが、戸建て住宅でも自宅に車庫がなく月極駐車場を利用する人は、近隣の急速充電器を利用しなければならなくなった。 集合住宅に住む人は、敷地内に駐車場が併設されていても、管理組合の同意が得られず普通充電ができない状態に陥った。無知がもたらした悲劇だ。EVを買う意思があっても、手に入れにくい状況があった。 集合住宅の管理組合で賛同が得られない最大の理由は、幹事がEV時代を予測できず、また自分には関係ないとして無視され続けたことにある。設置の経費は、ことに当初は補助金と自動車メーカー4社による補填があったので、ほぼゼロであった。現在でも、施工業者が残金を負担するなどのやりくりで、集合住宅側の負担が軽く済む仕組みが出てきている。それでもなお、管理組合で合意を得るのが難しい状況は払拭できていない。 基礎充電の普及を目指す業者の間でも、さらに難しいとされるのが月極駐車場への普通充電の設置だ。月極駐車場を管理する不動産業者の理解を得にくいという。

VOL.1
リッター200円にもう限界……給油の“枷”をぶっちぎれ!【モデルサードインパクト vol.1】

ガソリン高い、燃費も悪い、限界だ! かつてないほどの猛暑に喘いだであろう今夏。「もういいよ」「もう下がってくれ」と、気温に対して誰もが感じていたと思うが、自動車ユーザーはガソリン価格に対しても同じことを思っていたのではないだろうか。 リッターあたり170円、180円、190円、そして200円の大台を突破……給油をするたびに、誰もが憂鬱な気分になったはずだ。小生はドイツの某オープンスポーツカーに乗っているのだが、リッターあたり平均10kmでハイオク仕様。愛車にガソリンを入れるたび、顔が青ざめていた。 「高額給油という枷から解放されたい……」 EVの購入を決意した所感である。クルマを走らせることは、本来喜びのはず。給油のたびに落ち込むのは本望ではない。 小生は、THE EV TIMES(TET)の編集スタッフを務めています。この9月、「テスラ・モデル3・パフォーマンス」を購入しました。新たな愛車と共に進むEVライフを「モデル・サードインパクト」と銘打ち、連載で紹介していこうと思います。 EVは便利だと実感した「日産リーフ」 小生が初めて体験したEVは「日産リーフ」(2代目)である。遡ること2017年、「リーフ」が2代目になった頃、日産が全国で試乗キャラバンを開催し、小生はその試乗アテンダントを担当していた。そこで「リーフ」を存分に運転することができたのだ。 それゆえ、EVの利便性の高さを実感することになった。スポーツモデル顔負けの力強くスムーズな加速にまず驚いたのだが、給油という枷から外れて自由に走り回れることが大変な魅力に感じた。アイドリング状態でエアコンを入れっぱなしでもガソリン代を気にせずに済む。車内でPCを開けば、そのままオフィスになる。車の用途が無限大に広がると感じた。 充電時間も特別長いとは感じなかった。充電残量が50%くらいになったら、急速充電を使用してあっという間に80%まで回復できる。ちなみに100%まで充電した場合、280kmを走れる表示が出ていたと記憶している(当時は寒い季節で暖房を使用した)。ちょっとした遠出も十分に対応可能。「EVなんて不便」という印象は全く抱かなかった。そこで薄々と「将来はEVもアリだな」と思ったのだ。

VOL.20
VW「ID.4」オーナーはアウトバーンを時速何キロで走る? [ID.4をチャージせよ!:その20]

9月上旬、スイスで開催された「ID.TREFFEN」(ID.ミーティング)を取材した際に、参加していた「ID.4」オーナーに、そのクルマを選んだ理由などを聞きました。 フォルクスワーゲン一筋 鮮やかな“キングズレッドメタリック”のID.4で登場したのは、ドイツのハノーファーからはるばるスイスに駆けつけたデュブラック・マルクスさん。「フォルクスワーゲンT3」のTシャツを着ているくらいですから、かなりのフォルクスワーゲン好きと見ましたが、予想は的中! 「18歳で免許を取ってからこれまで30年間、フォルクスワーゲンしか買ったことがないんですよ」という、まさにフォルクスワーゲン一筋の御仁でした。 彼の愛車はID.4のなかでももっともハイパフォーマンスな「ID.4 GTX」。日本未導入のこのグレードは、2モーターの4WD仕様で、最高出力220kW(299PS)を発揮するというスポーツモデル。こんなクルマに乗れるなんて、なんともうらやましいかぎりです。 そんなマルクスさんにID.4 GTXを購入した理由を尋ねると、「これからはEVの時代だと思ったので!」と明確な答えが返ってきました。とはいえ、ID.ファミリーのトップバッターである「ID.3」が登場した時点ではすぐに動き出すことはありませんでした。「1年半くらい前にID.4 GTXを試乗する機会があって、踏んだ瞬間から力強くダッシュするID.4 GTXのパンチ力にすっかり惚れ込んでしまい、即決でしたよ(笑)」。

VOL.14
欧州メーカーはなぜ電気自動車に走ったのか?:知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第14回

EVの知識を、最新情報から「いまさらこんなこと聞いていいの?」というベーシックな疑問まで、ベテラン・ジャーナリストが答えていく連載。今回は欧州メーカーの特集です。 日本市場参入が遅かった欧州製EV 日本市場では、欧州からの電気自動車(EV)攻勢が活発に見える。ドイツの「BMW i3」が発売されたのは2013年秋で、日本市場へは2014年春に導入された。 日本の自動車メーカーがEVを市販したのは、2009年の「三菱i-MiEV」の法人向けリースが最初で、翌2010年には「i-MiEV」も一般消費者への販売を開始し、同年に「日産リーフ」が発売された。「i3」の発売は、それより数年後になってからのことだ。 ほかに、フォルクスワーゲン(VW)は、「up!」と「ゴルフ」のエンジン車をEVに改造した「e-up!」と「e-ゴルフ」を2015年から日本で発売すると2014年に発表した。だが、急速充電システムのCHAdeMOとの整合性をとることができず、断念している。その後、VWは「e-ゴルフ」を2017年秋に販売を開始した。EV専用車種となる「ID.4」を日本に導入したのは、2022年のことだ。フランスのプジョーが、「e-208」を日本で発売したのは2020年である。 以上のように、欧州全体としては、EVへの関心が高まってきたのは比較的最近のことといえる。 くじかれたディーゼル重視路線 欧州は、クルマの環境対策として、自動車メーカーごとの二酸化炭素(CO2)排出量規制を中心に動いてきた。そして2021年から、1km走行当たりの排出量を企業平均で95gとする対処方法を考えてきた。EU規制は、販売する車種ごとのCO2排出量を問うのではなく、販売するすべての車種の平均値で95gを下回らなければならないという厳しさだ。 対策の基本となったのは、ディーゼルターボ・エンジンを使った排気量の削減と、出力の低下を補う過給器との組み合わせを主体としつつ、ハイブリッドによるさらなる燃費の向上である。 既存のディーゼルターボ・エンジンをできるだけ活用しようとする考えは、欧州メーカーが補機用バッテリーの電圧を世界的な12ボルトから、36ボルトや48ボルトに変更することによるマイルドハイブリッド化に注目してきた様子からもうかがえる。 ところが、2015年にVWが米国市場でディーゼル車の排出ガス規制を偽装していたことが明らかにされた。公的機関での測定では規制値を満たすものの、実走行で急加速などした際に基準を上回る有害物質が排出され、それによって力強い加速を得られるようにした制御が発覚したのである。その影響は、VW車だけでなく、アウディなどVWグループ内に広く影響を及ぼした。

VOL.3
ボルボは新型EVの「EX30」でインテリアに新たな価値を与え、空間を最大限、利用する!

ボルボはEX30の室内で多くの新たなチャレンジを行なっていると謳う。その詳細を小川フミオ氏が訊いていく。連載1回目はこちら、2回目はこちら。 冷たさの排除し素材を“素直”に使う EX30のインテリアが、他車と決定的に違うのは、金属的な表面処理がほとんど見当たらないこと。それは意図的にそうしたのだと、インテリアデザインを統括するリサ・リーブス氏は言う。 「心したのは、冷たさの排除です。使う素材はオネスト、つまり木に見えるものは木であり、また同時に、リサイクル素材を人間にやさしいかたちで使用しました」 インテリアは「ブリーズ」(やさしい風)をはじめ「ミスト」(もや)、「パイン」(松)それに「インディゴ」と4種類(日本はそのうち「ブリーズ」と「ミスト」を導入)。 「ブリーズを例にとると、デザインインスピレーションはサマーデイズ。シート表皮の素材はピクセルニットとノルディコ、ダッシュボードの飾り材はパーティクル、そして空気吹き出し口のカラーはブルーです」 リーブス氏は説明してくれる。 「ピクセルニットはPETボトルをリサイクルしたもの。それを3Dニッティング(立体編み)プロセスでシート用素材にしています。組み合わせるノルディコは、PETボトルなどのリサイクル素材、北欧で計画的に伐採された木から採取された素材、リサイクルされたワインコルクなどで作られたテキスタイルです」 ダッシュボード用のパーティクルは、窓枠やシャッターを中心に工業廃棄物であるプラスチックを粉砕したものだし、フロアマットは漁網をリサイクルしたという。 「リサイクル材とともに、インテリアは雰囲気を統一したので、私たちは“ルーム”という名を与えています。インディゴの場合、デザインインスピレーションは”夜のはじまり”で、デニムをリサイクルしたときに余る糸を使った素材をシート表皮に使っています」 シートじたいは「スニーカーにインスパイアされた形状」(メイヤー氏)だそうだ。

VOL.2
ボルボの新型電気自動車「EX30」にはスターウォーズのデザインが取り入れられている!?

エンジンの回転の盛り上がりには、時に人間的な表現が用いられる。しかしBEV(バッテリー電気自動車)はエンジンもなく無音なため、より無機質な、機械的な印象が強くなる。ボルボはそんなBEVに人間的な要素を入れたと主張する。連載1回目はこちら。 どことなく楽しい感じの表情 ボルボEX30は、いってみれば、二面性のあるモデルだ。ひとつは、地球環境保全(サステナビリティ)を重視したコンセプト。もうひとつは、大トルクの電気モーターの特性を活かしたスポーツ性。 デザイナーは「いずれにしても、BEVと一目でわかってもらうデザインが重要と考えました」(エクステリアデザイン統括のTジョン・メイヤー氏)と言う。 「もちろん、昨今ではICE(エンジン車)かBEVか、デザインをするときあえて差別化をしないのが世界的な流れです。ただし、私たちとしては、スカンジナビアデザインの原則を守りつつデザインしました」 メイヤー氏の言葉を借りて、この場合のスカンジナビアデザインの肝要を説明すると「形態は機能に従う」となる。 「そこで、上部に開口部とグリルはもたせないようにしようと。ただし(インバーターなどのために)空気を採り入れる必要はあるので、下にインレットは設けています」 ボルボ車のデザインアイディンティティである「トール(神の)ハンマー」なる形状のヘッドランプも採用。ただし、カバーで覆った一体型でなく、四角いLEDのマトリックスが独立しているような形状があたらしい。 「そうやって出来上がったのがこのデザインです。顔になっていて、そこには眼があって、鼻があって、口があるんです。どことなく楽しいかんじで、これまで以上に人間的な表情を実現しました」 暴力的でもなければ、ロボット的でもない。メイヤー氏はそこを強調した。

VOL.1
ボルボの新型電気自動車「EX30」は、相反する2面性を合わせ持つ文武両道なクルマ

ボルボの新たなBEV(バッテリー電気自動車)として、ついに10月2日から「サブスク」モデルの申し込みが始まるEX30。この「ボルボ史上最小のBEV」はどのように開発されたのか。ミラノで行われたワールドプレミアに参加した小川フミオ氏が関係者の声とともに振り返る。 スカンディナビアン+デジタル 2023年6月に登場したEX30は、コアコンピューティングテクノロジーを大胆に採用する、ボルボの新世代BEV。 内容にとどまらず、同時に、デザイン面でもさまざまな大胆な試みがなされているのも特徴だ。 いってみれば、伝統的ともいえるスカンディナビアンテイストに、デジタライゼーションの融合。 「私たちのデザイン的価値のすべてを小さなフォーマットで具現」したモデルと、ボルボ・カーズはプレスリリース内で謳う。 「非常に電気自動車的なデザインで(中略)閉じられたシールド(フロントグリルの開口部のこと)とデジタル表現を用いたトールハンマーヘッドライト」がフロント部の特徴とされる。 さらに新世代BEVとしてボルボが狙ったものはなんだろう。ミラノでの発表会において出合った担当デザイナー(たち)に、デザインの見どころと背景にあるコンセプトを取材した。

VOL.5
「BMW iX xDrive50」の高速電費は我慢不要! ロングドライブにうってつけのEV

[THE EV TIMES流・電費ガチ計測] THE EV TIMES(TET)流電費計測の5回目を、8月に「BMW iX xDrive50」で実施した。車高の高いSUVにもかかわらず、高速巡航時に電費が低下しにくいのが特徴だ。その詳細をお伝えする。 ※計測方法などについてはこちら、試乗記はこちらをご覧ください。 100km/h巡航でどんどん行こう iX xDrive50のカタログに記載された「一充電走行距離」は650km(WLTC)で、電池容量は111.5kWhだ。650kmを実現するには、電費が5.83km/kWh(以後、目標電費)を上回る必要がある。 各区間の計測結果は下記表の通り。5.83km/kWhを上回った場合、赤字にしている。 これまでのTETによる電費計測で初めてA区間の往路と平均で目標電費を超えた。A区間のように標高差が少ない場所では同じ状況になり得る、つまり100km/h巡航で一充電走行距離の650km近くを走破できる可能性がある。   100km/h巡航でも600kmは走れそう 各巡航速度の平均電費は下表の通りだ。「航続可能距離」は電費にバッテリー総容量をかけたもの、「一充電走行距離との比率」は650kmに対して、どれほど良いのか、悪いかだ。 iXのエクステリアは、大きなキドニーグリルが特徴的だ。ざっくり言えば全長5m、全幅2m、全高1.7m、車重2.5トンの堂々としたボディだが、Cd値が0.25と優れている。 100km/h巡航におけるiXの電費は、5.71km/kWhであった。絶対的な数値としては決して高くないが、一充電走行距離との比率を計算すると98%と、これまでにTETが計測したデータの中で最高の結果を記録した。120km/h巡航でもこの数字は78%であった。 つまり、iXは高速巡航でも電費の低下が少ないEVだといえる。 ちなみに、過去に計測したメルセデス「EQE 350+」は、この100km/h巡航時の比率が90%だった。EQEはセダンボディで背が低く、Cd値0.22で、高速巡航には有利であることを考えても、iXの98%という数字の凄さが分かる。 この結果は、空力性能の良好さと高効率なパワートレインの賜物ではないかと思う。BMWが「テクノロジー・フラッグシップ」「次世代を見据え、長距離走行が可能な革新的な次世代電気自動車」と謳っているだけのことはある。これらの記録を塗り替えるクルマが現れるのか、今後の計測が楽しみだ。   各巡航速度ごとの比率は以下の通り。80km/hから100km/hに速度を上げると21%電費が悪くなる。120km/hから80km/hに下げると1.6倍の航続距離の伸長が期待できる。

VOL.19
ぐっとパワフルな2024年モデルのフォルクスワーゲン「ID.4」をミュンヘンで緊急試乗! [ID.4をチャージせよ!:その19]

コンパクトSUVタイプの電気自動車「ID.4」が2024年モデルにアップデート。この最新版をドイツ・ミュンヘンでさっそく試乗しました。 モーターのパワーは60kW増し 「ID.4」が2024年モデルにアップデートし、コックピットのデザインが様変わりしたことは、前回のコラムで述べました。さらに今回の仕様変更では、走りにかかわる部分にも手が加えられています。 一番の変更が、新開発のモーターが搭載されたこと。フォルクスワーゲンでは、ID.ファミリーのプレミアムセダンである「ID.7」に、新たに開発した「APP550」型の電気モーターを採用しました。最高出力は210kW(286PS)と実にパワフルです。これが2024年モデルの「ID.4プロ」にも搭載されることになりました。これまでの「ID.4プロ」の最高出力が150kWですので、出力は60kW、4割増しという計算。最大トルクも従来の310Nmから545Nmとなり、こちらは75%の大幅アップです。 バッテリー容量は77kWhで変更はありませんが、2024年モデルからはバッテリーの“プレコンディショニング機能”を搭載し、冬の寒い時期、充電前にバッテリー温度を高めておくことで充電量の低下を抑えることができます。これはうれしい! 他にも、可変ダンピングシステムのDCC(ダイナミックシャシーコントロール)の改良なども行われ、果たしてどんな走りを見せてくれるのか、興味津々です。 早く乗ってみたいなぁ……と思っていたら、なんとうれしいことに、発表されたばかりの2024年式ID.4 プロ・パフォーマンスを、ドイツ・ミュンヘンで試乗するチャンスに恵まれました。試乗時間は約20分と超ショートですが、わが愛車のID.4 プロ・ローンチエディションと比較するには十分な時間です。

VOL.18
ミュンヘンで「ID.4」の2024年モデルに遭遇! [ID.4をチャージせよ!:その18]

ミュンヘンモーターショー(IAA)のメイン会場近くで、フォルクスワーゲンがメディア向けイベントを開催。そこで、2024年モデルの「ID.4」に遭遇しました。 見た目は同じ イベントスペースのパーキングに待機していたのは、“コスタアズールメタリック”のボディが爽やかな「ID.4 プロ・パフォーマンス」。日本のラインアップにはないボディカラーに目を奪われますが、エクステリアデザインはこれまでと同じで、私の愛車の「ID.4 プロ・ローンチエディション」との違いは1インチアップの21インチホイールが装着されていることくらいです。 ところが運転席に座ると、コックピットの眺めに違和感が! マイナーチェンジでもないのに、コックピットのデザインが私のID.4 プロ・ローンチエディションと大きく変わっていました。 ご存じのとおり、フォルクスワーゲンなど多くの輸入ブランドでは“イヤーモデル制”を採用していて、毎年のように細かい仕様変更を実施。エクステリアデザインは一緒でもパワートレインや装備が変わるというのはよくあること。この2024年モデルでは、インテリアのデザインまで様変わりしていたのです。 真っ先に気づいたのが、ダッシュボード中央にあるタッチパネルがリニューアルされていること。2022年モデルのID.4 プロ・ローンチエディションでは12インチのタッチパネルが搭載されていますが、この2024年モデルでは12.9インチにサイズアップが図られたのに加えて、デザインも一新され、明らかに使い勝手が向上していました。

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