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クルマのエンジンはオーバーヒートするけどEVのモーターやバッテリーは? 性能面でも重要なEVの熱事情


TEXT:御堀直嗣 PHOTO:日産自動車/BOSCH/TET編集部
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熱問題はエンジンがなくともつきまとう

電気自動車(EV)でも、温度管理は必要だ。つまり、冷却機能を備える必要がある。ただし、ガソリンエンジンほど高熱を発するわけではない。

ガソリンは、エンジンで燃やすことで千数百℃の高温になる。そこでエンジン内部に水路を張り巡らせ、ラジエターで冷却し、80℃ほどに維持して事なきを得ている。EVのモーターも、高回転で回せば多くの電流が流れ、永久磁石式同期モーターでも固定子(ステーター)の電磁石の銅線が熱をもつようになる。ちなみに回転子(ローター)は永久磁石なので、電気は流れない。

ことに連続して高速走行をしたり、登り坂を走り続けたりするとモーターの回転数が高いまま維持されるため、モーターの温度があがりやすい。一時的には100℃近くになることもあるだろう。そこで、水冷によって50℃ほどに保つようにしている。

上り坂を走るEV

そもそも、モーターが過熱してもガソリンエンジンに比べ圧倒的に低い温度までなので、初代リーフが発売されて以降15年が経つが、モーターのオーバーヒートでEVが走行不能になったとか、壊れたという話は耳にしていない。またモーターは、丈夫な原動機であり、車体などが廃車になる時期が来ても、別のクルマで使えるといわれるほど耐久性がある。モーターに起因する故障や問題はあまり気にする必要はないのではないか。

ただし、コンバートEVのようにエンジン車をEVに改造する場合は、使うモーターの種類により冷却が不十分で、空冷のまま高回転運転を続けたりすると故障する可能性はある。かつて、直流直巻モーターを使ったコンバートEVでサーキット走行をした際に、ブラシが焼けるといった症状が出たことがある。

次に、リチウムイオンバッテリーも発熱する。放電でも充電でも、電気の出入りによって発熱する。バッテリーには内部抵抗があり、電気の流れにくさが熱を生み出す。電気の流れは、川にたとえることができる。通常は川幅を超えて水が流れることはないが、集中豪雨があると、川幅を超えて水があふれだし、洪水になる。

電気の流れも、電線の太さに適した流れであれば問題ないが、より多くの電気を流すと、水のようにあふれ出しこそしないものの、流れにくさが熱となって大気へ放出される。バッテリーが熱くなって、ケースが熱を帯びたり、周囲の空気が温まったりするのは、いわば川の洪水のようなものだ。

EVバッテリーのイメージ

リチウムイオンバッテリーが快適に作動する温度範囲は、15~35℃といわれる。いわば人が快適に過ごせる温度範囲に近い。もちろん、35℃以上は猛暑日といわれ、熱中症の危険があるわけだが……。リチウムイオンバッテリーも高温が続くと、熱暴走といって異常発熱や発火の危険性が出てくる。こうなると、オーバーヒートというより事故になってしまう懸念がある。

逆に、低温では化学反応が遅くなって性能が落ちる。そこでリチウムイオンバッテリーも、適切な温度管理をすることが大切で、水冷や液体冷却が施されるようになった。そして低温に対しては、温めることも行うようになっている。一方、日産の初代リーフは、空冷を採用していた。

当初のバッテリー容量は24kWhで、軽EVの日産サクラとくらべ4kWh多いだけだった。したがって高速で長時間走ることは限られ、リチウムイオンバッテリーが高温にさらされる機会も限られたはずだ。なおかつ、もしそのような状況になった場合は出力電流を抑えることで温度上昇を抑えた。走行性能は落ちるが、そうした電力制御による温度管理が行われたのである。

初代日産リーフのスタイリング

低温に対しては、起動すれば間もなくリチウムイオンバッテリーからの放電がはじまり、それによってバッテリー自体も温められていく。充電においても、普通充電を基本にすれば一気に大電流を流さないため、温度変化に対する適応が可能だった。

ところが初代リーフ以降、大容量バッテリーを車載し、一気に長距離を移動したり、それによって消耗した電力を急速充電器で繰り返し充電したりするといった使い方がされるようになり、水冷などにすることで積極的な温度管理が行われるようになった。

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