コラム 記事一覧

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TEXT:御堀直嗣
「VtoH」は知ってるけど「VtoG」に「VtoL」に……「VもPもIもN」もある!? いま知っておくべきEVまわりの「Vto○」

「VtoG」はスマートグリッドのひとつ 電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)は、駐車しているときも役立つクルマだ。その代表が「VtoH」だろう。VtoHとは、「ヴィークル・トゥ・ホーム」のことである。EVやPHEVの車載バッテリーから、自宅に電気を供給する。 PHEVでも、20kWhほどの駆動用バッテリーを車載するようになり、満充電からであれば、1~2日ほど電力の供給ができる。40~100kWhを積むEVであれば、その何倍もの電力を自宅に供給できることになる。 VtoHのほかに耳にするのが「VtoL」だ。Lは、「Load(ロード)」のことで、電気製品をいう。つまり、車載バッテリーから電気を取り出し、家電製品などを使えるようにする。たとえば、クルマのダッシュボードなどでスマートフォンを自動充電するといったこともそのひとつといえるし、車内でパーソナルコンピュータ(PC)を使い、外部の人と交信したりPCで仕事をしたりすること、ほかにも野外で食事を料理したり、催し物の音響や照明に電気を使えるようにすることなども含まれる。 ことに野外活動では、これまでエンジンで動かしていた発電機に替えてEVやPHEVを電源として使うことにより、騒音や排出ガスの懸念をせず、電気の利用が叶う。 ただし、すべてのEVやPHEVがVtoLの機能を備えているわけではない。 次に、「VtoG」というのは、(電力会社から送電される)系統電力とEVの連携だ。「G」とは、「Grid」のことで、電力会社から送電される系統電力をいう。VtoGは、スマートグリッド(電力の知能化)のひとつといえ、EVを電力網のひとつに加えることにより、発電の平準化や効率化に役立て、発電機の負荷を減らしたり、場合によっては発電所の数を減らしたりするなど、社会基盤の整理に役立つと期待されるEVの利用法だ。 ことにEVは、車載バッテリー容量が多いので、駐車中のEVの電力を、たとえば電力需要の最大時にEVから補うことで、系統電力の負担を減らし、かつ余裕ある電力を社会へ提供する。真夏や真冬の突然の停電や節電を回避できる。そのうえで、電力需要が下がったところで、使った電力をEVへ戻す。こうして、EVの移動という基本性能を損なうことなく、安定した電力基盤を構築する。 これには、一台ごとのEVの利用状況や車載バッテリーの充電量、あるいはすぐに移動するかしないかなど使用実態を把握し、それらを総合的に管理して、統制する機能が必要だ。そこに、AI(人工知能)の活用が求められる。

TAG: #VtoG #VtoH #VtoL #VtoX
TEXT:小林敦志
BYDが小型EV「シーガル」を日本に導入するんじゃ……の噂はウソ! 日本のEV市場の「現在」を考えれば3ナンバーサイズは難しい

シーガルが日本に導入される予定はない 中国BYDオート(比亜迪汽車)の日本法人である、BYD Auto Japanは2025年4月24日(木)に、「2026年後半に日本専用設計の乗用軽BEV(バッテリー電気自動車)の日本国内導入決定」というプレスリリースを発信した。 現状、日本国内でラインアップされているBYD乗用車はいずれもBEVとなり、シーライオン7、シール、ATTO 3、ドルフィンの4車となっている。今回の軽規格乗用BEVの国内導入決定のリリース発信までは、シーガルというコンパクトハッチバックスタイルのBEVが日本に導入されるのではないかと盛り上がることもあったが、この件をビーワイディージャパン広報に確認すると、「シーガルの日本市場導入予定はない」とのことであった。 確認してみると、シーガルはフィリピンやラオス、カンボジア、ミャンマーなど東南アジアのなかで左ハンドル車市場の国々で販売されているとのこと。また、調べてみると、ラテンアメリカ諸国でもドルフィンミニとしてすでにラインアップされ、欧州でもドルフィンサーフの車名でラインアップ予定となっていた。なお「シーガルは中国国内専売車」といった都市伝説のような噂が流れていることについても明確な否定コメントを得ることができた。 中国のBYDホームページに掲載されているシーガル(漢字車名は海鴎)の諸元表をみると、全長3780×全幅1715×全高1540mmとなっており、同じ中国のホームページに掲載されているドルフィン(漢字車名は海豚)のボディサイズと比べると、全長でマイナス500mm、全幅でマイナス55mm、全高でマイナス30mmとなっている。中国仕様のドルフィンが航続距離410、420、520km(CLTC)仕様を用意しているのに対し、中国仕様のシーガルでは305kmと405kmが用意されている。 車格としては前述した日本導入予定の軽規格BEVとドルフィンの中間に位置するモデルと表現することができる。しかし、そのような車格となると、日本国内で重要視されるのはボディサイズが3ナンバーサイズなのか5ナンバーサイズなのか、つまりワイドボディか否かといったことになる。 韓国ヒョンデ自動車は、2025年4月に日本での5ナンバーサイズに収まるBEVとなるインスターを発売した。韓国版軽自動車規格となる“軽車(キョンチャ)”でICE(内燃機関)車となるキャスパーの派生モデルとなり、キャスパーよりボディサイズが拡大されている。韓国版軽自動車サイズ車ベースとなるので、日本でもスンナリと5ナンバー規格に収まることとなった。 日本国内におけるヒョンデの乗用BEVは、インスター以外ではアイオニック5とコナの2車がラインアップされている。インスターはそもそもグローバル戦略モデルなのだが、日本市場に絞れば、ヒョンデとしては軽自動車規格BEVにも興味があったと聞いているが、あえて5ナンバーサイズ登録車規格のBEVで日本市場に勝負をかけたと見ている。 日本国内ではすでに日産と三菱が軽自動車規格のBEVをラインアップしている。とくに日産サクラは発売以来快進撃を続けていたが、2024年秋ごろから急速に販売の落ち込み傾向が目立っていた。サクラはいまでこそ都市部でもよく見かけるようになったが、発売当初は地方部でとくに人気を得た。バスなどの公共交通機関での移動が困難で、高齢となっても日常生活の移動手段として自家用車に頼らなくてはならない地域である。そのような地域に住む高齢のみなさんは、あくまで一般論でいえばクルマで遠出するというシチュエーションは少ない。 通院や買い物など生活圏内の移動が主となる。そのなか、ICE車だとガソリンスタンドの廃業が進み、給油のための移動や時間的負担が大きくなる、給油困難者も地方部で目立ってきた。また、地方部では集合住宅より車庫付き一軒家に住んでいることが多いので、充電施設の設置も容易とのことで、高齢世帯を中心に注目されたのである。 都市部では企業の社用車的ニーズも多いのではないかと筆者は見ている。そのようなニーズにフォーカスしたかは定かではないが、航続距離もカタログ上で180kmとされており、販売現場で説明を聞くと、「遠出を想定したクルマではない」といった話をセールスマンから必ずといっていいほど聞いた。 ただ、軽自動車とはいえBEVなのでICEの軽自動車よりは価格が高いこともあり、日産の登録乗用車に乗っていたユーザーからのダウンサイズも目立っていた。そのなか、高齢となっても所得に余裕があり、しかも心身ともに健康となれば新車を買ったのだからちょっとした遠出もしたくなるだろうが、サクラではなかなかそれを楽しむことはできない。

TAG: #シーガル #日本導入
TEXT:桃田健史
超高出力の急速充電器による短時間チャージも見どころ! フォーミュラEは量産車への技術転用に直結するいまどき珍しいレースカテゴリだった

34秒のピットストップで超高速充電! フォーミュラE シーズン11(2024/2025)第6戦・第7戦を取材するため、モナコを訪れた。この2週間後には、昨年以来の2回目開催となる東京E-PRIXが控えているタイミングだ。 日本のユーザーにとっては、フォーミュラカーといえば、レッドブル角田裕毅選手の人気に湧くF1、そして若手による接近戦が見ものになっている国内スーパーフォーミュラをイメージするだろう。 一方で、フォーミュラEに対する認識はあまり高くないが、昨年の東京E-PRIXによってフォーミュラEに対する理解が日本でも徐々に高まっていると感じる。 そんなフォーミュラEの特徴は、やはりEVであることだ。日本でもEVに関するレースが存在するし、また海外でも各種EVレースがあるが、興行として成立しているケースは極めて少ない。 一方でフォーミュラEは、レースマシンとしてのEVとしてだけではなく、徐々に市場が拡大することが期待される量産型EVに対するユーザーの意識変革を狙っているところが大きな特徴だ。 たとえば、決勝レース中の急速充電「ピットブースト」がある。参戦するすべてのマシンに対して、ピットエリアでの最大出力600kWで急速充電を義務付けるものだ。シーズン10(2024/2025)までは「アタックチャージ」と呼ばれていた。電気容量では3.85kWhで、34秒で充電を完了させる。 充電システムを供給するのは、英国Fortescue社。以前は、ウイリアムズ・アドバンスド・テクノロジーと呼ばれていた企業である。 充電口はマシン後部にあり、充電器はピットボックスの脇に置かれている。ピットブースト作業にあたるのはピットクルーのうちの2名。ひとりが充電ケーブルさばきをし、もうひとりが充電コネクターを両手でもちながら、ピットインしてきたマシンの後方にすばやくまわりこむ。 今回のモナコE-PRIXは土曜、日曜日のそれぞれで予選と決勝を行ったが、ピットブーストは土曜日決勝のみで採用された。 これは、フォーミュラEが、最新EV技術の進化とエキサイティングなレース形式とのバランスを考慮しているからだ。 モータースポーツの存在意義のひとつに、量産車への技術フィードバックがある。フォーミュラEのピットブーストは、急速充電の将来を占う上でとても興味深いレースレギュレーションだと感じる。 なお、フォーミュラEのマシンは、シーズン13(2026/2027)から最大出力が現在の2倍に相当する600kWのフルタイム4WDに進化する。充電機能についても新技術を採用する可能性が高い。

TAG: #フォーミュラE #モータースポーツ
TEXT:渡辺陽一郎
やっぱりEVの値落ちは激しい! エンジン車と残価率を比べるとEVを買いづらい理由が見えてくる

理由はリチウムイオン電池の性能低下にある 「電気自動車はリセールバリュー(数年後に売却するときの価値)が低い」といわれる。リセールバリューの判断は難しいが、残価設定ローンの残価(残存価値)が目安になる。 たとえば電気自動車の日産リーフX(新車価格は408万1000円)では、残価設定ローンの4年後の残価は約110万円だ。残価率(新車価格に占める残価の割合)に置き換えると27%になる。 一方、ミニバンの日産セレナe-POWERハイウェイスターV(新車価格は373万5600円)は、4年後の残価が約180万円だ。新車価格はリーフXがセレナe-POWERハイウェイスターVよりも約35万円高いのに、4年後の残価は、逆に70万円も安くなってしまう。セレナe-POWERハイウェイスターVの4年後の残価率(新車価格に占める残価の割合)は48%だから、リーフXの27%を大幅に上まわる。 それなら電気自動車のリーフに交付される補助金まで含めて計算したらどうなるか。2025年度にリーフXを購入した場合、国から交付される補助金額は89万円だ。新車価格の408万1000円から、この補助金額を差し引くと、実質価格は319万1000円になる。4年後の残価が約110万円であれば、実質価格から割り出した残価率は34%だ。やはり、補助金を引いた実質価格をベースにしても、セレナe-POWERハイウェイスターVの48%よりも低くなってしまう。 リーフに限らず、電気自動車の残価率は全般的に低い。その理由は、駆動用リチウムイオン電池の性能低下にある。充放電を繰り返しながら走行距離が伸びるに連れて、1回の充電で走れる距離が短くなるわけだ。 とくに2010年に発売された初代(先代)リーフは、リチウムイオン電池の総電力量が24kWhと小さかった。性能劣化の対策も行き届いていなかったので、「中古のリーフを買ったら、1回の充電で100kmも走れなかった」という話が聞かれた。 このような事情から「電気自動車の中古車は、走行できる距離が短くて使えない」という話が広がり、中古車価格も下がった。売却額や残価設定ローンの残価も低く、売りにくいクルマとされてしまった。 しかし直近では、電気自動車の開発者は「以前に比べてリチウムイオン電池が劣化しにくく、急速充電器の連続使用にも耐えられるようになった」という。今後は電気自動車のリセールバリューも、少しずつ高まるだろう。

TAG: #リセールバリュー #残価
TEXT:琴條孝詩
バッテリー容量が変わらないのに航続距離が伸びる謎! エンジン車とは違うEVならではの「持続進化」とは

EVならではの特性により性能を向上 近年、電気自動車(EV)において、バッテリー容量が増えていないにもかかわらず、航続距離や充電性能が向上する事例が増えている。こうした現象は、従来の内燃機関(ICE)車の常識とは異なるEVならではの特性に起因している。EVは、ハードウェアを変更せずとも、ソフトウェアの改良や制御技術の進化によって、性能を大幅に向上させることが可能なのである。ここでは、バッテリー容量が同じであるにもかかわらず性能が進化するメカニズムについて、具体例を交えて解説しよう。 <航続距離を伸ばすBMSの進化> EVの航続距離は、単にバッテリー容量の大小に左右されるわけではない。重要な役割を担うのがBMS(Battery Management System:バッテリーマネジメントシステム)だ。BMSは、バッテリーセルごとの電圧や温度、SoC(State Of Charge:充電状態)を監視し、安全かつ効率的にエネルギーを活用できるよう制御を行っている。 近年、BMSのアルゴリズムが高度化し、より緻密な制御が可能となっている。その結果、同じ容量のバッテリーからより多くのエネルギーを安全に引き出すことができ、航続可能距離の延伸につながっている。 たとえば、初期のBMSではバッテリーの劣化や過放電を防ぐため、使用可能な電圧範囲を狭い領域に制限していたが、走行データの蓄積によって安全性が実証された場合、使用可能なバッテリー容量を拡大することが可能となる。これにより、ソフトウェアのアップデートのみで実質的な性能向上が実現されるケースも少なくない。 <空力性能と走行効率の改善による進化> EVの効率は車体設計によっても左右される。なかでも空気抵抗(Cd値)の低減は、航続可能距離向上に極めて有効である。フロントフェイスの形状見直し、アンダーボディの平滑化、ホイールデザインの最適化など、外観上は小さな変更でも、高速走行時の空力性能に大きな影響を与える。 たとえば、テスラModel Sのドアハンドルはドア面とフラットになるフラッシュタイプが採用されている。また、ボディサイドのキャラクターラインを見直すだけで空力係数(Cd値)が改善することもある。これらの変更は、デザイン面での微調整のように見えるが、空気抵抗を数%削減することで、とくに高速道路走行での航続距離に直接反映される。標準で装着されるタイヤサイズも小さいほど航続距離が延びるので、外観を損なわない程度の小さなタイヤサイズを装着している。 加えて、モーターやインバーターといったパワートレインの効率化も見逃せない。たとえば、インバーターに従来のシリコン(Si)ではなく、シリコンカーバイド(SiC)半導体を採用することで、電力変換効率が向上し、発熱が抑えられる。この結果、冷却に要するエネルギーを削減でき、走行効率が向上するのである。

TAG: #充電性能 #航続距離
TEXT:御堀直嗣
水素燃料電池車は大型トラックでこそ活きる? FCVトラックのいまの立ち位置と立ちはだかる課題

FCVの大型トラックの開発が進んでいる 燃料電池車(FCV)といえば、トヨタMIRAIを思い浮かべる読者も多いだろう。 ほかに、乗用車での技術を応用し、大型トラックに燃料電池(FC)を活用しようという動きがある。トヨタ・グループの日野自動車の例があり、ほかにホンダ(本田技研工業)も燃料電池開発は続けていて、いすゞとともに実用化へ向けた開発が行われている。海外では、ドイツのダイムラートラックと、スウェーデンのボルボが取り組んでいる。 国内では、アサヒグループジャパン株式会社(以下、アサヒグループ)、西濃運輸株式会社(以下、西濃運輸)、NEXT Logistics Japan株式会社(以下、NLJ)、ヤマト運輸株式会社(以下、ヤマト運輸)が、2023年5月から、燃料電池トラックの実証走行を開始した。 日野プロフィアという既存の大型トラックを基に、固体高分子形の燃料電池と、70MPa(メガパスカル=約700気圧)の水素タンクを車載する。1回の水素充填で走行できる距離は、約600km(都市間と市街地の混合モードでのトヨタと日野の計測による)であるという。 トラック輸送には、総重量の制約があり、車両重量と積み荷を合わせた重さの上限がある。したがって、電気自動車(EV)では駆動用バッテリーを車載しなければならず、積み荷の重量に限界があると考えられており、FCへの期待が高まった。 一方で、満載の状態で走る大型トラックは、つねに出力が最高の状況で運転されることになり、生産財としての耐久性をFCで得られるかというのが、ディーゼルエンジンとの置き換えにおいてひとつの注目点になる。乗用車は、一度走り出してしまえば全力加速はほぼ必要なく、いわば巡航状態となって出力を下げても速度を維持できる。しかし、トラックではそうはいかないため、耐久性がより重視されるのだ。 次に、水素充填について。 これは乗用車でも短時間に満充填できるところが、ガソリンなどの液体燃料と同様に扱えるとされ、FCトラックでも期待されるところだ。水素ステーションは設置に数億円かかるとされるが、トラック・ターミナルなど必ず立ち寄る場所に設ければ、国内あらゆるところに設置が望まれる乗用車の場合と異なる。 一方で、水素ステーションは10年を超えて代替え時期を迎えるといわれ、10年ごとの数億円規模の設備投資がどこまで輸送費に影響を及ぼすかも、これから検証されることになるだろう。

TAG: #FCV #大型トラック #燃料電池車
TEXT:琴條孝詩
「濡れた手でコンセントを触るな」なんて言われてきたけど……雨の日に屋外の充電器でEVの充電をするのは危険?

雨の日も安全に充電できる 電気自動車(EV)の普及が進むなか、まだEVに馴染みがない方からよく聞かれる質問がある。そのひとつが「雨の日でも充電できるの?」というものだ。幼いころから「濡れた手でコンセントに触るな」といわれてきた私たちにとって、雨のなかで電気を扱うことへの不安は自然なものである。しかし、EVの充電システムは家庭用コンセントとは設計思想が異なる。今回は、雨天時の急速充電の安全性について説明しよう。 <EV充電器の防水・安全設計> まず結論から述べると、当然ともいえるが、現代のEVは雨の日でも安全に充電できるよう設計されている。EVの充電ポートや急速充電器は、厳格な防水基準を満たすよう製造されている。多くの充電器と車両側のコネクタには「IP(Ingress Protection)規格」という国際的な防塵・防水性能の等級に準拠している。 たとえば、国内でもっとも多く普及しているCHAdeMO(チャデモ)コネクタの急速充電器は、ほとんどのメーカーでIP54以上となっている。つまり、防塵については「塵埃の侵入を完全に防止できないが電子機器の動作には問題がない」、防水は「あらゆる方向からの水の飛まつによって機器が影響を受けない」レベルになっている。これにより、雨が降る屋外でも安心して充電操作ができるのだ。 また、急速充電器のコネクタ部分はとくに重要だ。充電コネクタの内部は金属端子が露出しているように見えても、しっかりカバーで保護され、接続時には充電ポートとコネクタがぴったりと合わさり、水の侵入を防ぐ構造になっている。 充電の際には、車両と充電器の間で安全性を確認する通信プロトコルが動作し、問題がなければ電力供給が開始される。たとえば、コネクタを車両に差し込んだときは、まだ電気は流れていない。コネクタがしっかりと車両側のソケットにロックされ、通信による認証や安全確認が完了して初めて、急速充電器から車両へ電力が供給される仕組みである。 この際、水分による異常が検知されれば、システムが自動的に充電を開始しないという多重の安全機構も備わっている。つまり、コネクタを差し込む段階で手が濡れていたとしても、感電するリスクは極めて低い。 さらに、充電システムは漏電対策も万全である。漏電遮断器や接地設備により、万が一の漏電ときには瞬時に電源が遮断される仕組みになっているため、使用者が感電するリスクは極めて低い。実際、日本国内ではEVの充電に関連した感電事故の報告はほとんど聞かれない。

TAG: #充電 #充電器
TEXT:高橋 優
BYDの最新SUV「シーライオン7」で1000kmロングラン! ちょっと気になる点はハイスピード電費と急速充電性能!!

シーライオン7のEV性能を全方位チェック! BYDの最新SUVであるシーライオン7 AWDで恒例の航続距離テストと充電性能テストを行いました。とくにシールや競合の電動SUVと比較してどれほどのEV性能を実現することができたのか。リアルワールドにおける航続距離や充電スピードを徹底リポートします。 ⚫︎主要スペック(※は推定値) ・搭載バッテリー容量(グロス/ネット):82.56/※80kWh ・日本WLTCモード(WLTCモードクラス2)航続距離:540km ・EPA航続距離:※375km ・最大充電出力/SOC 10-80%充電時間:105kW/非公表 ⚫︎装着タイヤ ・245/45R20 ・Michelin Pilot Sport EV ・空気圧:2.9/2.9(前輪/後輪)(適正値2.9/2.9) *航続距離テスト まず、航続距離テストの前提条件は以下のとおりです。 ・GPSスピードの平均車速が時速100kmになるように調整 ・途中ノンストップ ・充電残量100%付近までサービスエリア下り線で充電したあと、途中のインターで折り返して、同じサービスエリア上り線まで戻ってくる。充電残量は10%程度以下まで減らし切る ・車内の空調システムは基本的に21℃オート。一部車種で温度調整あり(今回のシーライオンAWDの場合は24℃オートに設定) ・車種それぞれのオドメーターとGPS上の距離を補正(今回のシーライオンAWD・20インチ純正タイヤ装着の場合はGPS距離と比較して−1.71%の下振れ) 結果:駿河湾沼津SA下り→豊田南IC→駿河湾沼津SA上り ・走行距離:382.0km ・消費電力量:100%→9% ・平均電費:5.23km/kWh(191.2Wh/km) ・外気温:12℃〜15℃ よって、航続距離テストの結果から、充電残量100%状態からSOC0%になるまで、344kmを走破可能であることが確認できました。 *ハイスピードテスト 次に、ハイスピードテストの前提条件は以下のとおりです。 ・GPSスピードの平均車速が時速120kmになるように調整 ・途中ノンストップ ・車内の空調システムは基本的に21℃オート。一部車種で温度調整あり(今回のシーライオンAWDの場合は24℃オートに設定) ・車種それぞれのオドメーターとGPS上の距離を補正(今回のシーライオンAWD・20インチ純正タイヤ装着の場合はGPS距離と比較して−1.71%の下振れ) 結果:駿河湾沼津SA下り→新静岡IC→駿河湾沼津SA上り ・走行距離:94.9km ・消費電力量:81%→51% ・平均電費:4.00km/kWh(250.0Wh/km) ・外気温:12℃ よって、ハイスピードテストの結果から、充電残量100%状態から空になるまで、322kmを走破可能であることが確認できました。 *充電性能テスト ・使用充電器:180kW級急速充電器(テンフィールズファクトリー製FLASH/空冷ケーブル) ・SOC10%〜80%充電時間:39分 ・最大充電出力(SOC):105kW(64%) ・30分回復航続距離(外気温平均13.5℃での航続距離テストベース):230km

TAG: #充電 #長距離
TEXT:齊藤優太
EVの電欠ってどのぐらい発生してる? JAFの出動要請ランキングを調べてみた

タイヤやバッテリーのトラブルが多い 駆動用バッテリーの残量が減ると焦るEV。では、EVの電欠でロードサービスを要請した方はどのくらいいるのでしょうか。この記事では、JAFのロードサービス救援データをもとに、EVによくあるトラブル事例やトラブル回避の方法を解説します。 EVに多いトラブルは? JAFの統計データによると、EVのロードサービス救援で多いのは、タイヤのパンク・バースト・空気圧不足、過放電バッテリー(補機バッテリーの放電)、EV駆動用バッテリーの電池切れとなっています。 JAFが毎月公開している「EVロードサービス件数」の出動理由トップ5は次のとおりです。 【EVロードサービス件数(2025年2月1日〜2月28日)】 1位:タイヤのパンク、バースト、エア圧不⾜(件数:186件、構成比:23.4%) 2位:過放電バッテリー(件数:165件、構成比:20.8%) 3位:EVの駆動用電池切れ(件数:114件、構成比:14.3%) 4位:落輪・落込(件数:94件、構成比:11.8%) 5位:事故(件数:36件、構成比:4.5%) このような統計データからも、EVのトラブルとして多いのは、エンジンを搭載するクルマと同じような内容であることがわかります。 ちなみに、2025年2月1日〜2月28日のJAFロードサービス出動理由(四輪車)は、次のとおりです。 【JAFロードサービス出動理由(2025年2月1日〜2月28日)四輪車合計】 1位:過放電バッテリー(件数:7万6639件、構成比:39.68%) 2位:タイヤのパンク、バースト、エアー圧不⾜(件数:2万9895件、構成比:15.48%) 3位:落輪・落込(件数:1万8471件、構成比:9.56%) 4位:破損・劣化バッテリー(件数:1万6236件、構成比:8.41%) 5位:キー閉じ込み(件数:8130件、構成比:4.21%) 6位:事故(件数:6986件、構成比:3.62%) 7位:燃料切れ(件数:3133件、構成比:1.62%) 8位:スパークプラグ(件数:2574件、構成比:1.33%) 9位:発電機・充電回路(件数:2138件、構成比:1.11%) 10位:ハンドルロック・キー作動機構(件数:1535件、構成比:0.79%) このようなことからも、エンジンを搭載するクルマであっても、EVであっても、タイヤやバッテリー(補機バッテリー)のトラブルのほうが電欠や燃料切れより多いことがわかります。

TAG: #JAF #トラブル
TEXT:高橋 優
BYDの最新車種シーライオン7で1000km走行チャレンジ! 雨でもキチンと働く「ADASの進化」が凄い

BYDの新型SUV「シーライオン7」をテスト! BYDの最新電動SUVであるシーライオン7 AWDで恒例の1000kmチャレンジを行いました。BYDの最新EVがどれほどの長距離走破性能を実現することができたのか。途中の電費や充電の様子を詳細リポートします。 まず、1000kmチャレンジの前提条件は以下のとおりです。 *走行ルート 海老名SA下り(神奈川県) ↓ 加古川北IC(兵庫県) ↓ 海老名SA上り(神奈川県) *走行条件 ・途中充電のための停車以外はノンストップで海老名SA上りを目指す ・車内の空調システムはつねにONにして快適な状態をキープ ・追い越しなどを含めて、制限速度+10%までは許容 ・渋滞や充電エラー、充電渋滞など、車両の問題以外についてはトータルのタイムから除外 ・車種それぞれのオドメーターとGPS上の距離を補正(今回のシーライオンAWD・20インチ純正タイヤ装着の場合はGPS距離と比較して−1.71%の下振れしているため、オドメーター上で983kmの段階でゴール) 1)海老名SA下り→湾岸長島PA下り(150kW級急速充電器) ・走行距離:298.9km ・消費電力量:100%→12% ・平均電費:4.25km/kWh(235.5Wh/km) ・外気温:17℃→17℃ ・天候:雨30% ・充電セッション:12%→63%(28分) まず1000kmチャレンジという観点の前に、最初の充電スポットである湾岸長島PAまで、150kW級急速充電器が急速に普及しているという点は注目するべき最新動向です。具体的には、 ・中井PA ・駿河湾沼津SA ・清水PA ・浜松SA と4つのSA/PAに150kW級が設置されており、東京-大阪間であれば、よほどのことがない限り150kW基のみを使用して往復することができます。この数年で高速道路上の急速充電ネットワークが急速に進化している様子が見て取れます。 そして、シーライオン7は、湾岸長島PAの150kW基でSOC60%前半まで充電しています。これは、シーライオン7がSOC65%程度で約84kWへと充電出力を絞るため、なるべく105kWの充電時間を最大化させるのが狙いです。 2)湾岸長島PA下り→土山SA下り(150kW級急速充電器) ・走行距離:49.0km ・消費電力量:63%→46% ・平均電費:3.60km/kWh(277.6Wh/km) ・外気温:17℃→16℃ ・天候:晴れ ・充電セッション:46%→85%(25分) 1000kmチャレンジとしては初めて利用するサービスエリアです。というのも、2024年度末に150kW基が新設されたからです。この土山SAは標高が高く、多くのEVユーザーにとって利便性の高い充電スポットとなりそうです。1000kmチャレンジという観点では、ここから土山SA上り線まで150kW基が存在しないため、なるべく多くの充電を試みます。シーライオン7はSOC85%程度まで84kWに対応しているものの、その後は50kW以下にまで出力を絞ってしまうことから、SOC85%で充電セッションを切り上げています。 3)土山SA下り→加古川北IC(折り返し)→草津PA上り(90kW級急速充電器) ・走行距離:277.5km ・消費電力量:85%→5% ・平均電費:4.34km/kWh(230.6Wh/km) ・外気温:16℃→13℃ ・天候:雨90% ・充電セッション:5%→18%(9分) すでに折り返し地点を越えました。1000kmチャレンジ最長区間の平均電費は230.6Wh/kmと、2340kgのミッドサイズSUVであるという点、また雨が降っていたという点を踏まえても、もう少し電費が伸びてほしいと感じます。実際に電費が伸びずに手前の草津PAに寄らざるを得ませんでした。草津PAは90kW基なので最小限の充電セッションに留めて150kW基のある土山SAを目指します。

TAG: #充電 #長距離
連載企画 一覧
VOL.15
本当に日本はEVで「立ち遅れた」のか:知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第15回

ジャパン・モビリティ・ショー開催でにわかに沸き立つ日本のEVマーケット。しかし現実の販売状況は日本において大きく立ち遅れている。技術では先導してきたはずの日本メーカーは、なぜEVで世界をリードできていないのか。この分野のベテランジャーナリストである御堀 直嗣が解説する。 日本の低いEV市場占有率 日本は、世界に先駆けて電気自動車(EV)の市販に踏み切った。2009年に三菱自動車工業が、軽自動車EVの「i-MiEV」を法人向けにリース販売しはじめ、翌10年には一般消費者向けへの販売も開始した。同年には、日産自動車も小型EVの「リーフ」を発売した。この2社によって、EVの量産市販が実現し、ことにリーフは海外への販売も行われ、「i-MiEV」はフランスの当時PSA社にOEM供給された。リーフの販売は世界で累計65万台に達し、その他EVを含めると、日産は世界で100万台のEV販売の実績を持つ。そのうち、日本国内は累計23万台である。 ちなみに、米国テスラは2022年では年間で約130万台、中国のBYDは同年に約90万台規模へ成長している。 同時にまた、世界共通の充電規格であるCHAdeMO(チャデモ)も準備され、リーフが販売される世界の各地域にCHAdeMO充電器の設置が動き出した。 それらを背景に、経済産業省は2012年度補正予算で1,005億円の補助金を計上し、全国に約10万基の充電器を整備するとした。この補助金は全額支給でないため、トヨタ/日産/ホンダ/三菱自の4社が資金を拠出し、補助金で賄いきれない残額を補填することに合意した。 しかし、現在の充電器の数は、急速充電と普通充電を合わせて約2万基である。 国内の新車販売において、EVが占める割合は1%以下という状況が長く続いた。昨2022年、「日産サクラ」と「三菱eKクロスEV」が発売となり、1年で5万台以上を販売することで2%ほどの占有率になろうかという状況にある。 一方、世界全体では、EVの市場占有率が13%になる。米国は5.8%、欧州は12%、中国は21%となっており、日本がいかに低水準であるかがみえてくる。 日本でEV普及が進まなかった理由 EVの先駆者であった日本が、なぜ欧米や中国の後塵を拝するようになったのか。 最大の要因は、せっかく1,005億円という充電基盤整備に対する経済産業省の支援があったにもかかわらず、急速充電器の整備にばかり世間の目が行き、EV利用の基本である基礎充電、すなわち自宅での普通充電(200V)の重要性が広がらなかったからである。ことに、マンションなど集合住宅の駐車場と、月極駐車場への普通充電設置がほぼできなかったことが原因であった。 EVの充電は、普通充電で8~10時間、あるいはそれ以上かかるとされ、これが単純にガソリンスタンドでの給油時間と比較されて、使い勝手が悪いとさまざまな媒体を通じて流布された。いまでもそうした論調が消えていない。しかし、自宅で普通充電できれば、寝ている間に満充電になるので、翌朝出かけるときは満充電で出発できる。 戸建て住宅に住む人はそれができた。ところが、戸建て住宅でも自宅に車庫がなく月極駐車場を利用する人は、近隣の急速充電器を利用しなければならなくなった。 集合住宅に住む人は、敷地内に駐車場が併設されていても、管理組合の同意が得られず普通充電ができない状態に陥った。無知がもたらした悲劇だ。EVを買う意思があっても、手に入れにくい状況があった。 集合住宅の管理組合で賛同が得られない最大の理由は、幹事がEV時代を予測できず、また自分には関係ないとして無視され続けたことにある。設置の経費は、ことに当初は補助金と自動車メーカー4社による補填があったので、ほぼゼロであった。現在でも、施工業者が残金を負担するなどのやりくりで、集合住宅側の負担が軽く済む仕組みが出てきている。それでもなお、管理組合で合意を得るのが難しい状況は払拭できていない。 基礎充電の普及を目指す業者の間でも、さらに難しいとされるのが月極駐車場への普通充電の設置だ。月極駐車場を管理する不動産業者の理解を得にくいという。

VOL.1
リッター200円にもう限界……給油の“枷”をぶっちぎれ!【モデルサードインパクト vol.1】

ガソリン高い、燃費も悪い、限界だ! かつてないほどの猛暑に喘いだであろう今夏。「もういいよ」「もう下がってくれ」と、気温に対して誰もが感じていたと思うが、自動車ユーザーはガソリン価格に対しても同じことを思っていたのではないだろうか。 リッターあたり170円、180円、190円、そして200円の大台を突破……給油をするたびに、誰もが憂鬱な気分になったはずだ。小生はドイツの某オープンスポーツカーに乗っているのだが、リッターあたり平均10kmでハイオク仕様。愛車にガソリンを入れるたび、顔が青ざめていた。 「高額給油という枷から解放されたい……」 EVの購入を決意した所感である。クルマを走らせることは、本来喜びのはず。給油のたびに落ち込むのは本望ではない。 小生は、THE EV TIMES(TET)の編集スタッフを務めています。この9月、「テスラ・モデル3・パフォーマンス」を購入しました。新たな愛車と共に進むEVライフを「モデル・サードインパクト」と銘打ち、連載で紹介していこうと思います。 EVは便利だと実感した「日産リーフ」 小生が初めて体験したEVは「日産リーフ」(2代目)である。遡ること2017年、「リーフ」が2代目になった頃、日産が全国で試乗キャラバンを開催し、小生はその試乗アテンダントを担当していた。そこで「リーフ」を存分に運転することができたのだ。 それゆえ、EVの利便性の高さを実感することになった。スポーツモデル顔負けの力強くスムーズな加速にまず驚いたのだが、給油という枷から外れて自由に走り回れることが大変な魅力に感じた。アイドリング状態でエアコンを入れっぱなしでもガソリン代を気にせずに済む。車内でPCを開けば、そのままオフィスになる。車の用途が無限大に広がると感じた。 充電時間も特別長いとは感じなかった。充電残量が50%くらいになったら、急速充電を使用してあっという間に80%まで回復できる。ちなみに100%まで充電した場合、280kmを走れる表示が出ていたと記憶している(当時は寒い季節で暖房を使用した)。ちょっとした遠出も十分に対応可能。「EVなんて不便」という印象は全く抱かなかった。そこで薄々と「将来はEVもアリだな」と思ったのだ。

VOL.20
VW「ID.4」オーナーはアウトバーンを時速何キロで走る? [ID.4をチャージせよ!:その20]

9月上旬、スイスで開催された「ID.TREFFEN」(ID.ミーティング)を取材した際に、参加していた「ID.4」オーナーに、そのクルマを選んだ理由などを聞きました。 フォルクスワーゲン一筋 鮮やかな“キングズレッドメタリック”のID.4で登場したのは、ドイツのハノーファーからはるばるスイスに駆けつけたデュブラック・マルクスさん。「フォルクスワーゲンT3」のTシャツを着ているくらいですから、かなりのフォルクスワーゲン好きと見ましたが、予想は的中! 「18歳で免許を取ってからこれまで30年間、フォルクスワーゲンしか買ったことがないんですよ」という、まさにフォルクスワーゲン一筋の御仁でした。 彼の愛車はID.4のなかでももっともハイパフォーマンスな「ID.4 GTX」。日本未導入のこのグレードは、2モーターの4WD仕様で、最高出力220kW(299PS)を発揮するというスポーツモデル。こんなクルマに乗れるなんて、なんともうらやましいかぎりです。 そんなマルクスさんにID.4 GTXを購入した理由を尋ねると、「これからはEVの時代だと思ったので!」と明確な答えが返ってきました。とはいえ、ID.ファミリーのトップバッターである「ID.3」が登場した時点ではすぐに動き出すことはありませんでした。「1年半くらい前にID.4 GTXを試乗する機会があって、踏んだ瞬間から力強くダッシュするID.4 GTXのパンチ力にすっかり惚れ込んでしまい、即決でしたよ(笑)」。

VOL.14
欧州メーカーはなぜ電気自動車に走ったのか?:知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第14回

EVの知識を、最新情報から「いまさらこんなこと聞いていいの?」というベーシックな疑問まで、ベテラン・ジャーナリストが答えていく連載。今回は欧州メーカーの特集です。 日本市場参入が遅かった欧州製EV 日本市場では、欧州からの電気自動車(EV)攻勢が活発に見える。ドイツの「BMW i3」が発売されたのは2013年秋で、日本市場へは2014年春に導入された。 日本の自動車メーカーがEVを市販したのは、2009年の「三菱i-MiEV」の法人向けリースが最初で、翌2010年には「i-MiEV」も一般消費者への販売を開始し、同年に「日産リーフ」が発売された。「i3」の発売は、それより数年後になってからのことだ。 ほかに、フォルクスワーゲン(VW)は、「up!」と「ゴルフ」のエンジン車をEVに改造した「e-up!」と「e-ゴルフ」を2015年から日本で発売すると2014年に発表した。だが、急速充電システムのCHAdeMOとの整合性をとることができず、断念している。その後、VWは「e-ゴルフ」を2017年秋に販売を開始した。EV専用車種となる「ID.4」を日本に導入したのは、2022年のことだ。フランスのプジョーが、「e-208」を日本で発売したのは2020年である。 以上のように、欧州全体としては、EVへの関心が高まってきたのは比較的最近のことといえる。 くじかれたディーゼル重視路線 欧州は、クルマの環境対策として、自動車メーカーごとの二酸化炭素(CO2)排出量規制を中心に動いてきた。そして2021年から、1km走行当たりの排出量を企業平均で95gとする対処方法を考えてきた。EU規制は、販売する車種ごとのCO2排出量を問うのではなく、販売するすべての車種の平均値で95gを下回らなければならないという厳しさだ。 対策の基本となったのは、ディーゼルターボ・エンジンを使った排気量の削減と、出力の低下を補う過給器との組み合わせを主体としつつ、ハイブリッドによるさらなる燃費の向上である。 既存のディーゼルターボ・エンジンをできるだけ活用しようとする考えは、欧州メーカーが補機用バッテリーの電圧を世界的な12ボルトから、36ボルトや48ボルトに変更することによるマイルドハイブリッド化に注目してきた様子からもうかがえる。 ところが、2015年にVWが米国市場でディーゼル車の排出ガス規制を偽装していたことが明らかにされた。公的機関での測定では規制値を満たすものの、実走行で急加速などした際に基準を上回る有害物質が排出され、それによって力強い加速を得られるようにした制御が発覚したのである。その影響は、VW車だけでなく、アウディなどVWグループ内に広く影響を及ぼした。

VOL.3
ボルボは新型EVの「EX30」でインテリアに新たな価値を与え、空間を最大限、利用する!

ボルボはEX30の室内で多くの新たなチャレンジを行なっていると謳う。その詳細を小川フミオ氏が訊いていく。連載1回目はこちら、2回目はこちら。 冷たさの排除し素材を“素直”に使う EX30のインテリアが、他車と決定的に違うのは、金属的な表面処理がほとんど見当たらないこと。それは意図的にそうしたのだと、インテリアデザインを統括するリサ・リーブス氏は言う。 「心したのは、冷たさの排除です。使う素材はオネスト、つまり木に見えるものは木であり、また同時に、リサイクル素材を人間にやさしいかたちで使用しました」 インテリアは「ブリーズ」(やさしい風)をはじめ「ミスト」(もや)、「パイン」(松)それに「インディゴ」と4種類(日本はそのうち「ブリーズ」と「ミスト」を導入)。 「ブリーズを例にとると、デザインインスピレーションはサマーデイズ。シート表皮の素材はピクセルニットとノルディコ、ダッシュボードの飾り材はパーティクル、そして空気吹き出し口のカラーはブルーです」 リーブス氏は説明してくれる。 「ピクセルニットはPETボトルをリサイクルしたもの。それを3Dニッティング(立体編み)プロセスでシート用素材にしています。組み合わせるノルディコは、PETボトルなどのリサイクル素材、北欧で計画的に伐採された木から採取された素材、リサイクルされたワインコルクなどで作られたテキスタイルです」 ダッシュボード用のパーティクルは、窓枠やシャッターを中心に工業廃棄物であるプラスチックを粉砕したものだし、フロアマットは漁網をリサイクルしたという。 「リサイクル材とともに、インテリアは雰囲気を統一したので、私たちは“ルーム”という名を与えています。インディゴの場合、デザインインスピレーションは”夜のはじまり”で、デニムをリサイクルしたときに余る糸を使った素材をシート表皮に使っています」 シートじたいは「スニーカーにインスパイアされた形状」(メイヤー氏)だそうだ。

VOL.2
ボルボの新型電気自動車「EX30」にはスターウォーズのデザインが取り入れられている!?

エンジンの回転の盛り上がりには、時に人間的な表現が用いられる。しかしBEV(バッテリー電気自動車)はエンジンもなく無音なため、より無機質な、機械的な印象が強くなる。ボルボはそんなBEVに人間的な要素を入れたと主張する。連載1回目はこちら。 どことなく楽しい感じの表情 ボルボEX30は、いってみれば、二面性のあるモデルだ。ひとつは、地球環境保全(サステナビリティ)を重視したコンセプト。もうひとつは、大トルクの電気モーターの特性を活かしたスポーツ性。 デザイナーは「いずれにしても、BEVと一目でわかってもらうデザインが重要と考えました」(エクステリアデザイン統括のTジョン・メイヤー氏)と言う。 「もちろん、昨今ではICE(エンジン車)かBEVか、デザインをするときあえて差別化をしないのが世界的な流れです。ただし、私たちとしては、スカンジナビアデザインの原則を守りつつデザインしました」 メイヤー氏の言葉を借りて、この場合のスカンジナビアデザインの肝要を説明すると「形態は機能に従う」となる。 「そこで、上部に開口部とグリルはもたせないようにしようと。ただし(インバーターなどのために)空気を採り入れる必要はあるので、下にインレットは設けています」 ボルボ車のデザインアイディンティティである「トール(神の)ハンマー」なる形状のヘッドランプも採用。ただし、カバーで覆った一体型でなく、四角いLEDのマトリックスが独立しているような形状があたらしい。 「そうやって出来上がったのがこのデザインです。顔になっていて、そこには眼があって、鼻があって、口があるんです。どことなく楽しいかんじで、これまで以上に人間的な表情を実現しました」 暴力的でもなければ、ロボット的でもない。メイヤー氏はそこを強調した。

VOL.1
ボルボの新型電気自動車「EX30」は、相反する2面性を合わせ持つ文武両道なクルマ

ボルボの新たなBEV(バッテリー電気自動車)として、ついに10月2日から「サブスク」モデルの申し込みが始まるEX30。この「ボルボ史上最小のBEV」はどのように開発されたのか。ミラノで行われたワールドプレミアに参加した小川フミオ氏が関係者の声とともに振り返る。 スカンディナビアン+デジタル 2023年6月に登場したEX30は、コアコンピューティングテクノロジーを大胆に採用する、ボルボの新世代BEV。 内容にとどまらず、同時に、デザイン面でもさまざまな大胆な試みがなされているのも特徴だ。 いってみれば、伝統的ともいえるスカンディナビアンテイストに、デジタライゼーションの融合。 「私たちのデザイン的価値のすべてを小さなフォーマットで具現」したモデルと、ボルボ・カーズはプレスリリース内で謳う。 「非常に電気自動車的なデザインで(中略)閉じられたシールド(フロントグリルの開口部のこと)とデジタル表現を用いたトールハンマーヘッドライト」がフロント部の特徴とされる。 さらに新世代BEVとしてボルボが狙ったものはなんだろう。ミラノでの発表会において出合った担当デザイナー(たち)に、デザインの見どころと背景にあるコンセプトを取材した。

VOL.5
「BMW iX xDrive50」の高速電費は我慢不要! ロングドライブにうってつけのEV

[THE EV TIMES流・電費ガチ計測] THE EV TIMES(TET)流電費計測の5回目を、8月に「BMW iX xDrive50」で実施した。車高の高いSUVにもかかわらず、高速巡航時に電費が低下しにくいのが特徴だ。その詳細をお伝えする。 ※計測方法などについてはこちら、試乗記はこちらをご覧ください。 100km/h巡航でどんどん行こう iX xDrive50のカタログに記載された「一充電走行距離」は650km(WLTC)で、電池容量は111.5kWhだ。650kmを実現するには、電費が5.83km/kWh(以後、目標電費)を上回る必要がある。 各区間の計測結果は下記表の通り。5.83km/kWhを上回った場合、赤字にしている。 これまでのTETによる電費計測で初めてA区間の往路と平均で目標電費を超えた。A区間のように標高差が少ない場所では同じ状況になり得る、つまり100km/h巡航で一充電走行距離の650km近くを走破できる可能性がある。   100km/h巡航でも600kmは走れそう 各巡航速度の平均電費は下表の通りだ。「航続可能距離」は電費にバッテリー総容量をかけたもの、「一充電走行距離との比率」は650kmに対して、どれほど良いのか、悪いかだ。 iXのエクステリアは、大きなキドニーグリルが特徴的だ。ざっくり言えば全長5m、全幅2m、全高1.7m、車重2.5トンの堂々としたボディだが、Cd値が0.25と優れている。 100km/h巡航におけるiXの電費は、5.71km/kWhであった。絶対的な数値としては決して高くないが、一充電走行距離との比率を計算すると98%と、これまでにTETが計測したデータの中で最高の結果を記録した。120km/h巡航でもこの数字は78%であった。 つまり、iXは高速巡航でも電費の低下が少ないEVだといえる。 ちなみに、過去に計測したメルセデス「EQE 350+」は、この100km/h巡航時の比率が90%だった。EQEはセダンボディで背が低く、Cd値0.22で、高速巡航には有利であることを考えても、iXの98%という数字の凄さが分かる。 この結果は、空力性能の良好さと高効率なパワートレインの賜物ではないかと思う。BMWが「テクノロジー・フラッグシップ」「次世代を見据え、長距離走行が可能な革新的な次世代電気自動車」と謳っているだけのことはある。これらの記録を塗り替えるクルマが現れるのか、今後の計測が楽しみだ。   各巡航速度ごとの比率は以下の通り。80km/hから100km/hに速度を上げると21%電費が悪くなる。120km/hから80km/hに下げると1.6倍の航続距離の伸長が期待できる。

VOL.19
ぐっとパワフルな2024年モデルのフォルクスワーゲン「ID.4」をミュンヘンで緊急試乗! [ID.4をチャージせよ!:その19]

コンパクトSUVタイプの電気自動車「ID.4」が2024年モデルにアップデート。この最新版をドイツ・ミュンヘンでさっそく試乗しました。 モーターのパワーは60kW増し 「ID.4」が2024年モデルにアップデートし、コックピットのデザインが様変わりしたことは、前回のコラムで述べました。さらに今回の仕様変更では、走りにかかわる部分にも手が加えられています。 一番の変更が、新開発のモーターが搭載されたこと。フォルクスワーゲンでは、ID.ファミリーのプレミアムセダンである「ID.7」に、新たに開発した「APP550」型の電気モーターを採用しました。最高出力は210kW(286PS)と実にパワフルです。これが2024年モデルの「ID.4プロ」にも搭載されることになりました。これまでの「ID.4プロ」の最高出力が150kWですので、出力は60kW、4割増しという計算。最大トルクも従来の310Nmから545Nmとなり、こちらは75%の大幅アップです。 バッテリー容量は77kWhで変更はありませんが、2024年モデルからはバッテリーの“プレコンディショニング機能”を搭載し、冬の寒い時期、充電前にバッテリー温度を高めておくことで充電量の低下を抑えることができます。これはうれしい! 他にも、可変ダンピングシステムのDCC(ダイナミックシャシーコントロール)の改良なども行われ、果たしてどんな走りを見せてくれるのか、興味津々です。 早く乗ってみたいなぁ……と思っていたら、なんとうれしいことに、発表されたばかりの2024年式ID.4 プロ・パフォーマンスを、ドイツ・ミュンヘンで試乗するチャンスに恵まれました。試乗時間は約20分と超ショートですが、わが愛車のID.4 プロ・ローンチエディションと比較するには十分な時間です。

VOL.18
ミュンヘンで「ID.4」の2024年モデルに遭遇! [ID.4をチャージせよ!:その18]

ミュンヘンモーターショー(IAA)のメイン会場近くで、フォルクスワーゲンがメディア向けイベントを開催。そこで、2024年モデルの「ID.4」に遭遇しました。 見た目は同じ イベントスペースのパーキングに待機していたのは、“コスタアズールメタリック”のボディが爽やかな「ID.4 プロ・パフォーマンス」。日本のラインアップにはないボディカラーに目を奪われますが、エクステリアデザインはこれまでと同じで、私の愛車の「ID.4 プロ・ローンチエディション」との違いは1インチアップの21インチホイールが装着されていることくらいです。 ところが運転席に座ると、コックピットの眺めに違和感が! マイナーチェンジでもないのに、コックピットのデザインが私のID.4 プロ・ローンチエディションと大きく変わっていました。 ご存じのとおり、フォルクスワーゲンなど多くの輸入ブランドでは“イヤーモデル制”を採用していて、毎年のように細かい仕様変更を実施。エクステリアデザインは一緒でもパワートレインや装備が変わるというのはよくあること。この2024年モデルでは、インテリアのデザインまで様変わりしていたのです。 真っ先に気づいたのが、ダッシュボード中央にあるタッチパネルがリニューアルされていること。2022年モデルのID.4 プロ・ローンチエディションでは12インチのタッチパネルが搭載されていますが、この2024年モデルでは12.9インチにサイズアップが図られたのに加えて、デザインも一新され、明らかに使い勝手が向上していました。

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