コラム 記事一覧

コラム コラム
TEXT:高橋 優
イマドキのEVバッテリーは思ったほど劣化しない! 7000台の調査でわかった20万km・30万km走行車のバッテリー残存率

EVバッテリーの劣化状況を調査 EVのバッテリー劣化に関して、第三者機関によるEV7000台以上を対象とした大規模な調査が実施されました。EVを購入するうえで重要な指標となるバッテリーの劣化問題に関する基礎知識を含めて解説します。 今回のEVのバッテリー劣化に関する最新の調査結果として、ドイツの自動車関連のコンサルティング会社のP3グループが、街なかを走っているEVのバッテリー劣化状況を調査しました。EVにおける高電圧バッテリーは生産コストの2〜3割を占めることからリセールバリューにも直結します。一方で、ネット上などでは、EVのバッテリーが想像以上に早く劣化してしまうなどの言説が飛び交っており、EVの普及という観点でバッテリー劣化に関する調査は極めて重要であると前置きされています。 今回の調査はP3グループの所有する50台のBEVとともに、バッテリー劣化に関する独自調査を実施する第三者機関と提携して、調査に協力する合計7000台以上ものBEVに、独自のOBDコネクターを装着。SOC100%から10%までを実際に運転し、その際に消費した電力量をリアルタイムでサーバーに記録。そこから外気温や走行シチュエーションによる影響を考慮したうえでバッテリー使用容量を判定。その車種ごとの新車時におけるバッテリー容量と走行距離から、それぞれのバッテリー劣化率を計算するという方法です。 まず、バッテリー劣化の調査を理解する上で押さえておくべき前提知識が、グロス容量とネット容量という2種類のバッテリー容量が存在するという点です。まずグロス容量は紛れもなくそのバッテリーパックのバッテリー容量を指します。他方で、過充電や過放電によるバッテリーへのダメージを避けるためなどを理由に、自動車メーカーはユーザーが実際に使用可能なバッテリー容量を意図的に制限。そのバッファーを除いた容量がネット容量となります。たとえば日産アリアでは91kWhのグロス容量を搭載しているものの、実際に使用可能なネット容量は87kWhに制限されています。 ちなみにその公称ネット容量と、車載ディスプレイ上に表示される100%から0%の使用可能電力量が一部車種で異なるという点も注意するべき点です。たとえばアリアの場合、ディスプレイ上で充電残量が0%と表示されたとしても、使用可能なネット容量はまだ4.5kWh程度(航続距離換算で20km以上に相当)残っています。 また、一部メーカーではバッファー容量を一定の走行距離などが経過すると一部開放したり、OTAアップデートによってバッファー容量を一部開放するなどの措置を行っています。いずれにしても、一般ユーザーがバッテリーの劣化状況を正確に判断することは難しいという点は押さえておくべきでしょう。 そして、この7000台以上の30kWh以上のバッテリーを搭載するBEVを調査した結果を示したグラフを見てみると、 ・約10万km走行した車両のバッテリー残存率は90%をわずかに超えている ・約20万km走行した車両のバッテリー残存率は88%程度 ・約30万km走行した車両のバッテリー残存率は87%程度で推移 欧州市場では概ね20万km以上走行させた車両は廃車となり、アメリカ市場でも約30万kmが廃車までのボーダーラインであることから、廃車までのバッテリー劣化率は約10%前半程度という調査結果が判明したわけです。 じつはテスラもモデル3とモデルYのロングレンジグレードにおけるバッテリー劣化率のデータを公開しています。20万km走行時点で80%後半程度、30万km走行時点でも85%程度を維持しています。 また、押さえておくべきバッテリー劣化の特徴のひとつに、新品状態からの劣化スピードが比較的早いという点が挙げられます。新品時ではバッテリーの負極側に形成されるSEI被膜が安定しておらず、そのSEI被膜の形成段階でリチウムが析出、その分だけエネルギー貯蔵量が減ってしまいます。これは経年劣化でも同様に発生していくものの、初期の形成時と比較すると影響は少なく、よってバッテリーの劣化度合いも初期劣化が終わると落ち着きます。バッテリー劣化のグラフでも初期の劣化スピードから徐々に劣化スピードが緩やかになっている様子が見て取れます。

TAG: #バッテリー #劣化
TEXT:山本晋也
180SXとの加速バトルで勝利するCM……は面白いけど失敗だった!? 初代日産リーフが残した偉大なる足跡

2010年に登場した初代リーフ 2024年上期の当期純利益が前期比で9割以上減(2962億円→192億円)となったことが話題になるなど、ネガティブなニュースが目立つ日産自動車。一部には「EVに特化したことが危機的な経営状況を招いた」といった声もあるようです。 EVに力を入れすぎた結果、現時点でニーズの高まっているプラグインハイブリッドやe-POWER(シリーズハイブリッド)の市場投入が十分でない……という見方が、そうした批判を生んでいるそう。とはいえ、日産の主力商品はまだまだガソリンエンジン車であって、EVシフトはそれほど進んでいないという事実もあるのですが、おそらく「リーフ」というEV専用モデルをいち早く販売した、EVの先駆者というイメージが、そうした印象を生んでいるのでしょう。 逆にいえば、自動車ファンにとって、それほど「リーフ」というのは衝撃的なモデルであり、EVシフトを象徴する1台として認識されているといえます。いま、あらためて初代リーフが登場したときの自動車ファンに与えた大きなインパクトを振り返ってみたいと思います。 初代リーフが日本で正式に発表されたのは2010年3月のことでした。バッテリー総電力量は24kWhでJC08モードでの一充電航続距離は200km。エントリーグレードの価格は376万4250円で、当時の補助金は最大78万円となっていましたので、ギリギリ300万円を切るくらいの車両価格になるという感覚でした。いまほどクルマの値段が上がっていない時代でしたから、かなり高価な印象もありましたが、“ある程度”実用的なEV専用モデルが購入できるようになるというのは大いに話題となりました。 そんな最初のリーフに、筆者が触れたのは忘れもしない2010年12月4日のこと。実際に発売開始となった直後の試乗となりました。もっとも、いまも昔も日産に取材する伝手があまりない筆者は、日産のヘッドクォーターで開催された一般向け試乗会に当選、発売が始まったばかりのリーフを運転することができたのです。 当時の印象を思い出せば、ドライビングフィールは「自然」をキーワードに仕上げられていたと記憶しております。アクセルペダルに対する反応は、いきなり最大トルクを発生できる電気モーターでありつつ徐々にトルクが盛り上がっていくような感触になっていましたし、回生ブレーキと協調していながらブレーキペダルの操作に違和感も覚えないものでした。 メカニズム的に注目したのは、当時としてはかなりしっかりとした「リヤディフューザー」を備えていた点。2010年にはエンジン車においてもディフューザー的な空力デバイスが装備されるモデルが増えていましたが、どうしてもマフラーが存在しているため、理想的とはいい難い形状のモデルも見受けられました。 しかして、リーフの場合は、フロア下からリヤバンパーにかけて“キレイ”に一体化したディフューザー形状となっていたのです。航続距離を稼ぐために空気抵抗を減らす必要があるためでしょうが、EVは空力デザインにおいても自由度が高いと確認させられたのも初代リーフの思い出です。

TAG: #リーフ #初代 #名車
TEXT:渡辺陽一郎
バッテリーを交換してまで乗り続けるケースはレア! EVはバッテリーの寿命=クルマの寿命と捉える人がほとんどだった

ディーラーでバッテリーを交換した例は少ない 電気自動車の購入時に気になることは、駆動用リチウムイオン電池の劣化だ。充電と放電を繰り返すと、充電できる量が減ってくる。充電量が減ると、1回の充電で走行できる距離が短くなる。先代(初代)日産リーフのユーザーからは、「リーフを使っていると次第に走行可能な距離が短くなり、最後は満充電でも100km少々しか走らなくなった」という話を聞いた。 直近で電気自動車の開発者に尋ねると、「いまはリチウムイオン電池の温度管理も入念に行われ、10年ほど前に比べると電池の劣化が大幅に抑えられている」とコメントされた。 また、電気自動車ではリチウムイオン電池に関する保証も行っている。たとえば現行リーフでは「新車登録から8年間、あるいは16万km走行の早いほうにおいて、リチウムイオン電池の容量計が8セグメント以下になると、修理や部品交換によって9セグメント以上になることを保証する」としている。 ここではリチウムイオン電池を新品に交換するとは表現されていない。保証修理も含めて、リチウムイオン電池を交換するユーザーはどの程度いるのか、販売店に尋ねた。「規定の範囲内(新車登録から8年間、あるいは16万km走行の早いほうなど)であれば、リチウムイオン電池や部品の交換、修理などを保証している。しかし実際には、リチウムイオン電池を交換した例は少ない」 少なくとも8年間は劣化が少なく、それを超えて保証対象からはずれると、車両の価値が下がってしまう。そのために電池容量計が8セグメント以下になっても、有償で交換するユーザーはほとんどいないわけだ。電気自動車の寿命と判断される。 そして、電気自動車に搭載されて劣化したリチウムイオン電池は、クルマではなく汎用の蓄電池などに使われる。電気自動車のリチウムイオン電池は容量が大きく、その割に中古になれば価格が下がる。開発者は「車載用としては劣化が進んで航続可能距離が短くなっても、蓄電池に転用すれば十分な性能を発揮できる。汎用の蓄電池に比べると割安だ」という。 つまり、劣化したリチウムイオン電池には、蓄電池など車載用とは別の使い方があるわけだ。このような事情も含めて、電気自動車の電池を載せ換えて使うユーザーは少ないようだ。

TAG: #バッテリー #交換
TEXT:琴條孝詩
じつは凄い「のっぺり顔」! EVの「グリルレス」「フラットボトム」が生む多大なるメリットとは

EVには従来型のグリルが不要 <エンジン冷却不要で実現するクリーンなフロントフェイス> 電気自動車(EV)の普及が進むなか、その特徴的なデザインに気付いた読者も多いだろう。とくにフロントマスクに注目すると、従来のガソリン車などの内燃機関車(ICE)で当たり前だった大きなラジエーターグリルが存在しないケースが多い。これは単なるデザイン上の選択ではなく、EVの構造特性がもたらす空力性能の向上だ。 ICE車では、エンジンを冷却するためのラジエター、冷却風を導くためのインテーク、そしてそれを排出するためのアウトレットが必要不可欠である。そのため、フロントグリルは車両にとって必須のものだった。一方、EVは電動モーターと電池システムの冷却方法が根本的に異なるため、従来型のグリルが不要となる。この変化は単なる外観の問題ではなく、空気抵抗を劇的に低減する重要なイノベーションだ。 代表的な例として、テスラ・モデルYやフォルクスワーゲンID.4などの最新EVモデルでは、従来の大型グリルを完全に排除、または大幅に縮小している。これにより、空気の流れを妨げる障害物が減少し、車両前面の空力特性が大きく改善される。 <フラットアンダーボディがもたらす空力革命> EVのもうひとつの特徴は、車体下面の構造にある。ICE車では、エンジン、トランスミッション、排気系統など、多くの部品が車体下部に配置されている。これらは不規則な形状となり、空気の流れを乱す要因となっていた。 対してEVでは、バッテリーパックを床下に平面的に配置できる。この特性を活かし、多くのEVは車体下面を可能な限りフラット化されている。下面を流れる空気の乱れを抑制し、揚力の低減と空気抵抗の軽減を実現し、はるかに空力学的に洗練されたボディデザインを可能にした。 とくに高速走行時には、このフラットアンダーボディの効果が顕著に表れ、航続距離の向上にも貢献。また、車体底面を流れる空気の速度が増すことで、ダウンフォースと呼ばれる“車体を地面に押し付ける力”が働き、走行安定性も向上する。

TAG: #デザイン #空気抵抗
TEXT:高橋 優
2024年の日本国内のEV販売は完全に失速! 2025年に明るい材料はあるのか?

EVシェア率は2年前と同等に 日本国内の最直近11月のEV販売動向が判明しました。販売台数、EVシェア率ともに前年比マイナス成長というEVシフト停滞模様を解説します(商用軽EVである日産クリッパーEVとホンダN-VAN e:の販売台数は執筆時点では判明していないため、販売台数とシェア率は微増の見込み)。 まず、このグラフは2018年以降のBEVとPHEVの合計販売台数を月間ベースで示したものです。2024年11月の販売台数は1万504台と前年同月比でマイナス7.6%。とくに2023年12月以降12カ月連続で前年同月比マイナス成長という、EVシフト減速の流れが一過性のものではなくなっている様子が見て取れます。 次に、新車販売全体に占めるBEVとPHEVの販売台数の合計の比率を示したグラフを見てみると、直近の11月は2.9%と、前年同月に記録した2.99%と比較してもシェア率が停滞しています。 そのうえ2年前である2022年11月のEVシェア率が2.74%であったことから、じつは2年前のEVシェア率と同等水準と、EVシフトが後退状況にある様子が見て取れます。 次に、普通車セグメントの日本メーカーと輸入車メーカー、さらに軽自動車セグメントにわけて示したグラフを見てみると、白で示されている輸入EVは前年同月並みの販売台数に留まったものの、ピンクで示されている日本メーカーの普通車セグメントのBEV販売台数は889台と、前年同月比-22.7%という落ち込み具合です。 つまり、現在の日本国内のEVシフト後退のもっとも大きな要因は、日産リーフやアリア、トヨタbZ4Xのような国産の普通車セグメントの需要低下が要因であると結論づけることができます。 また、BEVの累計販売台数を年別に比較すると、2024年11カ月間において6万台弱ものBEVを発売したものの、2023年の11カ月間では8.4万台強を発売していたことから、2024年シーズンはEVシフト後退の一年となることがほぼ確定的となりました。 さらに、日本のBEV販売シェア率が世界の主要国と比較してどれほどの立ち位置であるのかを確認してみましょう。日本はデータが確定した直近の10月において1.56%という販売シェア率だったものの、最新データが判明している10月の世界全体のシェア率は16%に到達。さらに、10月の中国市場は30%に到達しています。 つまり、中国国内で売れている新車のうち10台に3台がBEVという状況です。いまだにBEVが64台に1台という日本とは別次元である様子が見て取れます。

TAG: #EVシフト #販売
TEXT:小鮒康一
リーフやi-MiEV以前にも量産EVはあった! じつは長〜い国産EVの歴代モデルを振り返る!!

1990年代にもEVが量産されていた いまでは日常的に見かけることも増えてきたEVたち。その普及の第一歩といえるのが、2010年に市販モデルがリリースされた三菱i-MiEVと日産リーフによるところが大きいといえる。 ただ、それ以前にも量産されたEVは存在していた。今回はそんな黎明期に登場した量産EVを何台かピックアップしてご紹介しよう。 トヨタRAV4 EV 現在はPHEVモデルもラインアップするトヨタのミドルクラスSUVのRAV4。ただ、EVモデルはなんと初代モデルの時代にすでに存在していたのだ。 1996年7月に発表、同年9月に発売を開始したRAV4 EVは、初代RAV4の3ドアモデルをベースとし、駆動用バッテリーを床下に収納したもの。駆動方式は前輪駆動となり、最高出力は45kW/165N・mと現代のEVに比べるとかなりマイルドなものとなっていた。 搭載されていたバッテリーはニッケル水素バッテリーで、満充電の航続可能距離は10・15モードで215kmとなっており、4人分の座席とヒートポンプ式エアコンを装備して実用にも十分に耐えうるものとなっていた点も特筆すべきポイント。 ただ、メーカーの希望小売価格は495万円と高額で、ユーザーのほとんどが官公庁などのリース契約となっており、結局328台をリリースするに留まっている。 ホンダEVプラス 現在、電動化を推し進めているホンダも1990年代にEVをリリースしていたメーカーのひとつで、1997年9月にEVプラスというハッチバックモデルのリース販売をスタートさせている。 このEVプラスは、一見すると当時のコンパクトカーであるロゴに似たスタイルをもっており、ロゴをベースとしたEVと勘違いされることもあるが、全長は4045mmとロゴよりも30cm近く長く、全幅も1750mmの3ナンバーサイズとなっていることからもわかるように、EV専用に開発されたオリジナルボディだったのだ。 EVプラスは今後のEVの開発にフィードバックを行う目的で実際の走行・使用状況のデータを収集可能な記録装置を備えており、リース販売が終了後はすべてホンダが車両を回収していた。 10・15モードの航続可能距離は210kmとなっており、最高速度は130km/h以上と日常使いには十分な性能をもっていたが、本格的なホンダの量産EVは2020年に登場したHonda eまで待たねばならなかった。

TAG: #名車 #量産 #電気自動車
TEXT:御堀直嗣
スマホならまだイケるのにEVのバッテリーは容量が70%を切ったら交換ってなぜ? 容量以外に求められるEV独特の性能とは

EVのバッテリーにはゆとりが不可欠 世界的に、ほとんどの自動車メーカーは電気自動車(EV)の車載リチウムイオンバッテリーについて、保証期間以前に容量が70%を切った場合、交換などの補償をするとしている。バッテリー容量がまだ7割近く残っているというのに、なぜ交換対象になるのか? 理由は、電気の利用の仕方による。これまで、一般的な電気製品はある一定の電流の使い方だったが、EVはそれと異なる使用条件になる。 電灯はもとより、冷蔵庫や電子レンジ、あるいはスマートフォンなども、基本は一定の電気の流れで稼働する製品だ。もちろん、スマートフォンの場合、動画を観る際などにより多くの電気を必要とする例もあるが、それでもEVほど急な増減はないので、一定電流で機能する定格出力が表示されている。 一方、EVに限らずクルマは、発進・停止を含め頻繁に加減速する使われ方なので、電気の利用も電流が増えたり減ったりし、なおかつ急加速では大量の電気を一気に必要とするので、バッテリー側のゆとりが不可欠だ。 EVのバッテリー容量が70%以下になったとすると、一充電走行距離が減るだけでなく、アクセルペダルを踏んでも運転者の操作(意図)どおりに加速できなくなる。それでは、交通の流れに乗りにくくなるばかりか、緊急回避のような場面で遅れを生じる懸念も出る。そこで、容量が70%を切るような状態になったら、クルマとしての使用には耐えないことになる。 対して、ある一定の電気を使うのが前提の電気製品では、じわじわと電気を使い続けるので、バッテリー容量がゼロになるまで使えるというわけだ。ことに、ニッケル水素バッテリーや、かつてのニッケル・カドミウム・バッテリーは、容量がゼロになってから充電したほうがよいとされている。いわゆるメモリー効果といわれる特性による。

TAG: #バッテリー #リチウムイオンバッテリー
TEXT:山本晋也
EVとV2H機器があれば停電時でも普通に家で生活できる? 使用電力について計算してみた!

出力制限は存在するのか? EVのもっている電力は、モデルによって走行以外に利用できるのもメリットになっている。EVに備わる100Vコンセントなどを利用してアウトドアなどで家電を利用するのはV2L(Vehicle to Loadの略称)といって、通常は1500W(15A・100V)が上限となっている。 その上をいくのがV2H (Vehicle to Homeの略称)で、日本ではCHAdeMOの急速充電ポートを利用して専用機器とつなぎ、EVの電力を家庭に供給するシステムがスタンダードとなっている。 太陽光発電と組み合わせて日常的に家庭全体のエネルギー最適化を図るという狙いで利用することもあれば、災害時のバックアップとして捉え、長時間の停電でもストレスなく生活を送るためにV2H機器を設置することもある。なお、V2Hを設置できるのはおもに戸建てとなる。 しかし、巷では「じつはEVには出力制限があるのでV2Hを使っても日常生活は送れないらしい」というネガティブなウワサも流れている。はたして、EVでV2Hを活用するときに問題となるような“出力制限”は存在するのであろうか。 その前に、家庭ではどのくらいの電力を使用しているのか整理してみよう。 個別のケースでは差は生じるだろうが、一般論でいえば戸建ての家庭の月間消費電力量は約400kWhとされている。オール電化の戸建てで電力によりお湯を沸かしていたり床暖房を利用していたりすると、冬季では1000kWhを超えるケースもあるようだが、ひとまず月間消費電力量が400kWhという条件で考えてみよう。 単純計算すると1日あたりの消費電力量は13kWhだ。 多くの家庭では電気契約をアンペア数によっているだろうが、日本の電圧は100Vのため30Aであれば瞬間的に使える上限は3kW、60Aでは6kWといった風に計算できる。常時、ギリギリの電力消費をしているわけではないだろうし、13kWhという数値を24時間で割ると、おおよそ平均的に5A相当の消費をしているイメージになる。 電気ヒーターやアイロン、ヘアドライヤー、トースターなど瞬間的に大きな電力消費をするものを我慢すれば、計算的にはV2Lの活用でも災害時に生活することは不可能ではないともいえる。 ただし、車内のコンセントに延長コードをつないでエアコンや冷蔵庫などを稼働させるというのはいろいろな意味で現実的ではない。V2Lは避難所の駐車場で車中泊するようなシチュエーションでは十分に活用できても、家庭全体に供給するには力不足であるし、利便性も悪い。

TAG: #V2H #給電 #蓄電池
TEXT:高橋 優
中国メーカーEVの安さには誰も追いつけない! 驚異のコスパで「Xpeng P7+」が登場するや3時間で3万台以上が売れた

バッテリー容量60.7kWhで航続距離615kmを実現 中国Xpengが新型フラグシップセダンのP7+の正式発売をスタートしました。発売開始3時間で3.1万台以上の確定注文を獲得するなど、爆発的ヒット状態となっている最新動向を解説します。 今回取り上げていきたいのが中国のEVスタートアップXpengの存在です。Xpengは最新の11月単体で3万台以上の販売台数を達成。史上最高の販売台数に大きく貢献したのがMONA M03という大衆セダンの存在です。Xpengの強みである高性能ADASを採用しながら11.98万元(約250万円)からというコスト競争力を実現することで、3カ月連続で月間1万台以上の納車台数を達成しています。 そして、このM03の流れを止めないために間髪入れずに投入してきたのが、フラグシップセダンとして長らくラインアップしていたP7の上級バージョン、P7+の存在です。全長5056mm、全幅1937mmと、P7と比較しても車両サイズをひとまわり大きくすることで、競合のシャオミSU7をベンチマークとしながら、もともとスポーツセダンというP7のコンセプトを刷新し、車内空間の快適性に振ったファミリーセダンとして追求してきた格好です。 P7+において特筆するべきは、電費性能を極限にまで引き上げてきたという点でしょう。P7+の電費性能は11.4kWh/100kmと、中国で発売されているミッドサイズ以上のEVとしては最高水準の効率性を実現。よって、60.7kWhというバッテリー容量で615kmという航続距離を確保しています。このバッテリー容量の少なさこそ、P7+のコスト競争力において決定的に重要な指標につながるのです。 この電費性能の追求のために空力性能を示すCd値は0.206を達成しながら、ヒートポンプシステムを含めた熱マネージメントを統括する最新のX-HP 3.0を採用することで、少ないバッテリー容量でも最大の航続距離を実現。 充電性能もCレートで3Cを達成することによって、SOC80%まで20分の充電時間を達成。Xpengは中国全土に480kW級の液冷式の超急速充電器を配備しており、最新の急速充電器「S5」の場合、最大電流値800A、最大電圧800V、最高出力800kWとテスラスーパーチャージャーの1.6倍もの充電出力を発揮可能です。 2024年7月末時点で中国全土1300箇所の充電ステーションを運営しているものの、2026年末までには4500カ所もの液冷式の超急速充電器を含む、1万カ所の充電ステーションを構築する方針も表明済みです。 また、中国のEVEエナジーと開発した、800Vシステムとしては業界最薄の109mmを実現する超薄型バッテリーパックをCell to Bobyとして搭載することで、車高を抑えながら車内空間の最大化を実現。トランク部分の収納スペースが725リットルと、たとえば競合となるアウディA6Lが430リットル、メルセデス・ベンツEクラスが540リットルと圧倒。SUVセグメントのアウディQ5Lとメルセデス・ベンツGLCが550リットルと比較しても圧倒。後席を倒した1列目以降の最大積載量は2221リットルと、テスラ・モデルYをも凌ぐ積載性を実現しています。 ちなみに前後のアンダーボディに対して最大1万6000トン級のギガキャスティングを導入することによって、そのぶんだけアンダーボディのコンパクト化、軽量化、剛性向上に貢献するなど、とにかく最新EVテクノロジー満載です。 そして、なんといっても18.68万元、日本円にして399万円という破格の値段設定を実現してきたのです。

TAG: #P7+ #Xpeng
TEXT:まるも亜希子
やっぱりエアコンの使用は電力消費がかなり激しい! 冬場のEVでバッテリーを温存しつつ快適に暖を取る方法とは?

暖房器具の活用が有効! EVにとって冬は苦手な季節といわれます。理由としては、リチウムイオンバッテリーの温度が低下するとバッテリー内で生成できる電気量が減少してしまうことや、充電効率が低下してしまうことなどが挙げられます。エンジン車のように人を温めるヒーターに使える熱源がなく、すべてバッテリーの電力でまかなう必要があるため、そのぶん航続距離が短くなる傾向にあることも苦手といわれる理由となっています。 事実、EVが市場に出たばかりのころは、寒いからといってエアコンを使いすぎてしまうと航続距離が減ってしまうため、ダウンコートのなかにカイロをたくさん貼り付けて暖を取り、エアコンはオフにしたまま走っているEVユーザーも見かけたほど。まだバッテリー容量が小さく、効率もいまほど進化していなかった時代は涙ぐましい努力をして航続距離を稼いでいたのです。 実際、冬場にEVでエアコンの暖房を使った場合と使わなかった場合では、バッテリー残量にどれくらいの差が出るのでしょうか。JAFユーザーテストで同一車種のEV4台を使って行ったテストがあります。テスト車1はエアコンを25度オートに設定。テスト車2はエアコンはオフのまま電気ソケットから電気毛布を使って暖をとりました。テスト車3はエアコンはオフのまま純正シートヒーターと電気フットヒーターを併用。テスト車4は普通の毛布のみで、体感に応じてエアコンのオン/オフを使用。 この条件で夜7時〜0時までの5時間、バッテリー残量70%の状態からシステムオンで検証した結果は、テスト車1の残量が38%。テスト車2は66%でもっとも残量が多くなりました。テスト車3と4はどちらも60%とまずまずの残量をキープ。ただし、テスト車1以外は決して快適といえる暖かさではなく、部分的な寒さに耐えていたとのこと。 この結果からわかるのは、やはり快適なのはエアコンの暖房を使うことなのですが、航続距離を少しでものばしながら暖を取りたいならば、ステアリングヒーターやシートヒーターを併用したり、電気ソケットからの電源で使える暖房器具を活用する方法が有効だということがわかります。

TAG: #冬 #電費
連載企画 一覧
VOL.15
本当に日本はEVで「立ち遅れた」のか:知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第15回

ジャパン・モビリティ・ショー開催でにわかに沸き立つ日本のEVマーケット。しかし現実の販売状況は日本において大きく立ち遅れている。技術では先導してきたはずの日本メーカーは、なぜEVで世界をリードできていないのか。この分野のベテランジャーナリストである御堀 直嗣が解説する。 日本の低いEV市場占有率 日本は、世界に先駆けて電気自動車(EV)の市販に踏み切った。2009年に三菱自動車工業が、軽自動車EVの「i-MiEV」を法人向けにリース販売しはじめ、翌10年には一般消費者向けへの販売も開始した。同年には、日産自動車も小型EVの「リーフ」を発売した。この2社によって、EVの量産市販が実現し、ことにリーフは海外への販売も行われ、「i-MiEV」はフランスの当時PSA社にOEM供給された。リーフの販売は世界で累計65万台に達し、その他EVを含めると、日産は世界で100万台のEV販売の実績を持つ。そのうち、日本国内は累計23万台である。 ちなみに、米国テスラは2022年では年間で約130万台、中国のBYDは同年に約90万台規模へ成長している。 同時にまた、世界共通の充電規格であるCHAdeMO(チャデモ)も準備され、リーフが販売される世界の各地域にCHAdeMO充電器の設置が動き出した。 それらを背景に、経済産業省は2012年度補正予算で1,005億円の補助金を計上し、全国に約10万基の充電器を整備するとした。この補助金は全額支給でないため、トヨタ/日産/ホンダ/三菱自の4社が資金を拠出し、補助金で賄いきれない残額を補填することに合意した。 しかし、現在の充電器の数は、急速充電と普通充電を合わせて約2万基である。 国内の新車販売において、EVが占める割合は1%以下という状況が長く続いた。昨2022年、「日産サクラ」と「三菱eKクロスEV」が発売となり、1年で5万台以上を販売することで2%ほどの占有率になろうかという状況にある。 一方、世界全体では、EVの市場占有率が13%になる。米国は5.8%、欧州は12%、中国は21%となっており、日本がいかに低水準であるかがみえてくる。 日本でEV普及が進まなかった理由 EVの先駆者であった日本が、なぜ欧米や中国の後塵を拝するようになったのか。 最大の要因は、せっかく1,005億円という充電基盤整備に対する経済産業省の支援があったにもかかわらず、急速充電器の整備にばかり世間の目が行き、EV利用の基本である基礎充電、すなわち自宅での普通充電(200V)の重要性が広がらなかったからである。ことに、マンションなど集合住宅の駐車場と、月極駐車場への普通充電設置がほぼできなかったことが原因であった。 EVの充電は、普通充電で8~10時間、あるいはそれ以上かかるとされ、これが単純にガソリンスタンドでの給油時間と比較されて、使い勝手が悪いとさまざまな媒体を通じて流布された。いまでもそうした論調が消えていない。しかし、自宅で普通充電できれば、寝ている間に満充電になるので、翌朝出かけるときは満充電で出発できる。 戸建て住宅に住む人はそれができた。ところが、戸建て住宅でも自宅に車庫がなく月極駐車場を利用する人は、近隣の急速充電器を利用しなければならなくなった。 集合住宅に住む人は、敷地内に駐車場が併設されていても、管理組合の同意が得られず普通充電ができない状態に陥った。無知がもたらした悲劇だ。EVを買う意思があっても、手に入れにくい状況があった。 集合住宅の管理組合で賛同が得られない最大の理由は、幹事がEV時代を予測できず、また自分には関係ないとして無視され続けたことにある。設置の経費は、ことに当初は補助金と自動車メーカー4社による補填があったので、ほぼゼロであった。現在でも、施工業者が残金を負担するなどのやりくりで、集合住宅側の負担が軽く済む仕組みが出てきている。それでもなお、管理組合で合意を得るのが難しい状況は払拭できていない。 基礎充電の普及を目指す業者の間でも、さらに難しいとされるのが月極駐車場への普通充電の設置だ。月極駐車場を管理する不動産業者の理解を得にくいという。

VOL.1
リッター200円にもう限界……給油の“枷”をぶっちぎれ!【モデルサードインパクト vol.1】

ガソリン高い、燃費も悪い、限界だ! かつてないほどの猛暑に喘いだであろう今夏。「もういいよ」「もう下がってくれ」と、気温に対して誰もが感じていたと思うが、自動車ユーザーはガソリン価格に対しても同じことを思っていたのではないだろうか。 リッターあたり170円、180円、190円、そして200円の大台を突破……給油をするたびに、誰もが憂鬱な気分になったはずだ。小生はドイツの某オープンスポーツカーに乗っているのだが、リッターあたり平均10kmでハイオク仕様。愛車にガソリンを入れるたび、顔が青ざめていた。 「高額給油という枷から解放されたい……」 EVの購入を決意した所感である。クルマを走らせることは、本来喜びのはず。給油のたびに落ち込むのは本望ではない。 小生は、THE EV TIMES(TET)の編集スタッフを務めています。この9月、「テスラ・モデル3・パフォーマンス」を購入しました。新たな愛車と共に進むEVライフを「モデル・サードインパクト」と銘打ち、連載で紹介していこうと思います。 EVは便利だと実感した「日産リーフ」 小生が初めて体験したEVは「日産リーフ」(2代目)である。遡ること2017年、「リーフ」が2代目になった頃、日産が全国で試乗キャラバンを開催し、小生はその試乗アテンダントを担当していた。そこで「リーフ」を存分に運転することができたのだ。 それゆえ、EVの利便性の高さを実感することになった。スポーツモデル顔負けの力強くスムーズな加速にまず驚いたのだが、給油という枷から外れて自由に走り回れることが大変な魅力に感じた。アイドリング状態でエアコンを入れっぱなしでもガソリン代を気にせずに済む。車内でPCを開けば、そのままオフィスになる。車の用途が無限大に広がると感じた。 充電時間も特別長いとは感じなかった。充電残量が50%くらいになったら、急速充電を使用してあっという間に80%まで回復できる。ちなみに100%まで充電した場合、280kmを走れる表示が出ていたと記憶している(当時は寒い季節で暖房を使用した)。ちょっとした遠出も十分に対応可能。「EVなんて不便」という印象は全く抱かなかった。そこで薄々と「将来はEVもアリだな」と思ったのだ。

VOL.20
VW「ID.4」オーナーはアウトバーンを時速何キロで走る? [ID.4をチャージせよ!:その20]

9月上旬、スイスで開催された「ID.TREFFEN」(ID.ミーティング)を取材した際に、参加していた「ID.4」オーナーに、そのクルマを選んだ理由などを聞きました。 フォルクスワーゲン一筋 鮮やかな“キングズレッドメタリック”のID.4で登場したのは、ドイツのハノーファーからはるばるスイスに駆けつけたデュブラック・マルクスさん。「フォルクスワーゲンT3」のTシャツを着ているくらいですから、かなりのフォルクスワーゲン好きと見ましたが、予想は的中! 「18歳で免許を取ってからこれまで30年間、フォルクスワーゲンしか買ったことがないんですよ」という、まさにフォルクスワーゲン一筋の御仁でした。 彼の愛車はID.4のなかでももっともハイパフォーマンスな「ID.4 GTX」。日本未導入のこのグレードは、2モーターの4WD仕様で、最高出力220kW(299PS)を発揮するというスポーツモデル。こんなクルマに乗れるなんて、なんともうらやましいかぎりです。 そんなマルクスさんにID.4 GTXを購入した理由を尋ねると、「これからはEVの時代だと思ったので!」と明確な答えが返ってきました。とはいえ、ID.ファミリーのトップバッターである「ID.3」が登場した時点ではすぐに動き出すことはありませんでした。「1年半くらい前にID.4 GTXを試乗する機会があって、踏んだ瞬間から力強くダッシュするID.4 GTXのパンチ力にすっかり惚れ込んでしまい、即決でしたよ(笑)」。

VOL.14
欧州メーカーはなぜ電気自動車に走ったのか?:知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第14回

EVの知識を、最新情報から「いまさらこんなこと聞いていいの?」というベーシックな疑問まで、ベテラン・ジャーナリストが答えていく連載。今回は欧州メーカーの特集です。 日本市場参入が遅かった欧州製EV 日本市場では、欧州からの電気自動車(EV)攻勢が活発に見える。ドイツの「BMW i3」が発売されたのは2013年秋で、日本市場へは2014年春に導入された。 日本の自動車メーカーがEVを市販したのは、2009年の「三菱i-MiEV」の法人向けリースが最初で、翌2010年には「i-MiEV」も一般消費者への販売を開始し、同年に「日産リーフ」が発売された。「i3」の発売は、それより数年後になってからのことだ。 ほかに、フォルクスワーゲン(VW)は、「up!」と「ゴルフ」のエンジン車をEVに改造した「e-up!」と「e-ゴルフ」を2015年から日本で発売すると2014年に発表した。だが、急速充電システムのCHAdeMOとの整合性をとることができず、断念している。その後、VWは「e-ゴルフ」を2017年秋に販売を開始した。EV専用車種となる「ID.4」を日本に導入したのは、2022年のことだ。フランスのプジョーが、「e-208」を日本で発売したのは2020年である。 以上のように、欧州全体としては、EVへの関心が高まってきたのは比較的最近のことといえる。 くじかれたディーゼル重視路線 欧州は、クルマの環境対策として、自動車メーカーごとの二酸化炭素(CO2)排出量規制を中心に動いてきた。そして2021年から、1km走行当たりの排出量を企業平均で95gとする対処方法を考えてきた。EU規制は、販売する車種ごとのCO2排出量を問うのではなく、販売するすべての車種の平均値で95gを下回らなければならないという厳しさだ。 対策の基本となったのは、ディーゼルターボ・エンジンを使った排気量の削減と、出力の低下を補う過給器との組み合わせを主体としつつ、ハイブリッドによるさらなる燃費の向上である。 既存のディーゼルターボ・エンジンをできるだけ活用しようとする考えは、欧州メーカーが補機用バッテリーの電圧を世界的な12ボルトから、36ボルトや48ボルトに変更することによるマイルドハイブリッド化に注目してきた様子からもうかがえる。 ところが、2015年にVWが米国市場でディーゼル車の排出ガス規制を偽装していたことが明らかにされた。公的機関での測定では規制値を満たすものの、実走行で急加速などした際に基準を上回る有害物質が排出され、それによって力強い加速を得られるようにした制御が発覚したのである。その影響は、VW車だけでなく、アウディなどVWグループ内に広く影響を及ぼした。

VOL.3
ボルボは新型EVの「EX30」でインテリアに新たな価値を与え、空間を最大限、利用する!

ボルボはEX30の室内で多くの新たなチャレンジを行なっていると謳う。その詳細を小川フミオ氏が訊いていく。連載1回目はこちら、2回目はこちら。 冷たさの排除し素材を“素直”に使う EX30のインテリアが、他車と決定的に違うのは、金属的な表面処理がほとんど見当たらないこと。それは意図的にそうしたのだと、インテリアデザインを統括するリサ・リーブス氏は言う。 「心したのは、冷たさの排除です。使う素材はオネスト、つまり木に見えるものは木であり、また同時に、リサイクル素材を人間にやさしいかたちで使用しました」 インテリアは「ブリーズ」(やさしい風)をはじめ「ミスト」(もや)、「パイン」(松)それに「インディゴ」と4種類(日本はそのうち「ブリーズ」と「ミスト」を導入)。 「ブリーズを例にとると、デザインインスピレーションはサマーデイズ。シート表皮の素材はピクセルニットとノルディコ、ダッシュボードの飾り材はパーティクル、そして空気吹き出し口のカラーはブルーです」 リーブス氏は説明してくれる。 「ピクセルニットはPETボトルをリサイクルしたもの。それを3Dニッティング(立体編み)プロセスでシート用素材にしています。組み合わせるノルディコは、PETボトルなどのリサイクル素材、北欧で計画的に伐採された木から採取された素材、リサイクルされたワインコルクなどで作られたテキスタイルです」 ダッシュボード用のパーティクルは、窓枠やシャッターを中心に工業廃棄物であるプラスチックを粉砕したものだし、フロアマットは漁網をリサイクルしたという。 「リサイクル材とともに、インテリアは雰囲気を統一したので、私たちは“ルーム”という名を与えています。インディゴの場合、デザインインスピレーションは”夜のはじまり”で、デニムをリサイクルしたときに余る糸を使った素材をシート表皮に使っています」 シートじたいは「スニーカーにインスパイアされた形状」(メイヤー氏)だそうだ。

VOL.2
ボルボの新型電気自動車「EX30」にはスターウォーズのデザインが取り入れられている!?

エンジンの回転の盛り上がりには、時に人間的な表現が用いられる。しかしBEV(バッテリー電気自動車)はエンジンもなく無音なため、より無機質な、機械的な印象が強くなる。ボルボはそんなBEVに人間的な要素を入れたと主張する。連載1回目はこちら。 どことなく楽しい感じの表情 ボルボEX30は、いってみれば、二面性のあるモデルだ。ひとつは、地球環境保全(サステナビリティ)を重視したコンセプト。もうひとつは、大トルクの電気モーターの特性を活かしたスポーツ性。 デザイナーは「いずれにしても、BEVと一目でわかってもらうデザインが重要と考えました」(エクステリアデザイン統括のTジョン・メイヤー氏)と言う。 「もちろん、昨今ではICE(エンジン車)かBEVか、デザインをするときあえて差別化をしないのが世界的な流れです。ただし、私たちとしては、スカンジナビアデザインの原則を守りつつデザインしました」 メイヤー氏の言葉を借りて、この場合のスカンジナビアデザインの肝要を説明すると「形態は機能に従う」となる。 「そこで、上部に開口部とグリルはもたせないようにしようと。ただし(インバーターなどのために)空気を採り入れる必要はあるので、下にインレットは設けています」 ボルボ車のデザインアイディンティティである「トール(神の)ハンマー」なる形状のヘッドランプも採用。ただし、カバーで覆った一体型でなく、四角いLEDのマトリックスが独立しているような形状があたらしい。 「そうやって出来上がったのがこのデザインです。顔になっていて、そこには眼があって、鼻があって、口があるんです。どことなく楽しいかんじで、これまで以上に人間的な表情を実現しました」 暴力的でもなければ、ロボット的でもない。メイヤー氏はそこを強調した。

VOL.1
ボルボの新型電気自動車「EX30」は、相反する2面性を合わせ持つ文武両道なクルマ

ボルボの新たなBEV(バッテリー電気自動車)として、ついに10月2日から「サブスク」モデルの申し込みが始まるEX30。この「ボルボ史上最小のBEV」はどのように開発されたのか。ミラノで行われたワールドプレミアに参加した小川フミオ氏が関係者の声とともに振り返る。 スカンディナビアン+デジタル 2023年6月に登場したEX30は、コアコンピューティングテクノロジーを大胆に採用する、ボルボの新世代BEV。 内容にとどまらず、同時に、デザイン面でもさまざまな大胆な試みがなされているのも特徴だ。 いってみれば、伝統的ともいえるスカンディナビアンテイストに、デジタライゼーションの融合。 「私たちのデザイン的価値のすべてを小さなフォーマットで具現」したモデルと、ボルボ・カーズはプレスリリース内で謳う。 「非常に電気自動車的なデザインで(中略)閉じられたシールド(フロントグリルの開口部のこと)とデジタル表現を用いたトールハンマーヘッドライト」がフロント部の特徴とされる。 さらに新世代BEVとしてボルボが狙ったものはなんだろう。ミラノでの発表会において出合った担当デザイナー(たち)に、デザインの見どころと背景にあるコンセプトを取材した。

VOL.5
「BMW iX xDrive50」の高速電費は我慢不要! ロングドライブにうってつけのEV

[THE EV TIMES流・電費ガチ計測] THE EV TIMES(TET)流電費計測の5回目を、8月に「BMW iX xDrive50」で実施した。車高の高いSUVにもかかわらず、高速巡航時に電費が低下しにくいのが特徴だ。その詳細をお伝えする。 ※計測方法などについてはこちら、試乗記はこちらをご覧ください。 100km/h巡航でどんどん行こう iX xDrive50のカタログに記載された「一充電走行距離」は650km(WLTC)で、電池容量は111.5kWhだ。650kmを実現するには、電費が5.83km/kWh(以後、目標電費)を上回る必要がある。 各区間の計測結果は下記表の通り。5.83km/kWhを上回った場合、赤字にしている。 これまでのTETによる電費計測で初めてA区間の往路と平均で目標電費を超えた。A区間のように標高差が少ない場所では同じ状況になり得る、つまり100km/h巡航で一充電走行距離の650km近くを走破できる可能性がある。   100km/h巡航でも600kmは走れそう 各巡航速度の平均電費は下表の通りだ。「航続可能距離」は電費にバッテリー総容量をかけたもの、「一充電走行距離との比率」は650kmに対して、どれほど良いのか、悪いかだ。 iXのエクステリアは、大きなキドニーグリルが特徴的だ。ざっくり言えば全長5m、全幅2m、全高1.7m、車重2.5トンの堂々としたボディだが、Cd値が0.25と優れている。 100km/h巡航におけるiXの電費は、5.71km/kWhであった。絶対的な数値としては決して高くないが、一充電走行距離との比率を計算すると98%と、これまでにTETが計測したデータの中で最高の結果を記録した。120km/h巡航でもこの数字は78%であった。 つまり、iXは高速巡航でも電費の低下が少ないEVだといえる。 ちなみに、過去に計測したメルセデス「EQE 350+」は、この100km/h巡航時の比率が90%だった。EQEはセダンボディで背が低く、Cd値0.22で、高速巡航には有利であることを考えても、iXの98%という数字の凄さが分かる。 この結果は、空力性能の良好さと高効率なパワートレインの賜物ではないかと思う。BMWが「テクノロジー・フラッグシップ」「次世代を見据え、長距離走行が可能な革新的な次世代電気自動車」と謳っているだけのことはある。これらの記録を塗り替えるクルマが現れるのか、今後の計測が楽しみだ。   各巡航速度ごとの比率は以下の通り。80km/hから100km/hに速度を上げると21%電費が悪くなる。120km/hから80km/hに下げると1.6倍の航続距離の伸長が期待できる。

VOL.19
ぐっとパワフルな2024年モデルのフォルクスワーゲン「ID.4」をミュンヘンで緊急試乗! [ID.4をチャージせよ!:その19]

コンパクトSUVタイプの電気自動車「ID.4」が2024年モデルにアップデート。この最新版をドイツ・ミュンヘンでさっそく試乗しました。 モーターのパワーは60kW増し 「ID.4」が2024年モデルにアップデートし、コックピットのデザインが様変わりしたことは、前回のコラムで述べました。さらに今回の仕様変更では、走りにかかわる部分にも手が加えられています。 一番の変更が、新開発のモーターが搭載されたこと。フォルクスワーゲンでは、ID.ファミリーのプレミアムセダンである「ID.7」に、新たに開発した「APP550」型の電気モーターを採用しました。最高出力は210kW(286PS)と実にパワフルです。これが2024年モデルの「ID.4プロ」にも搭載されることになりました。これまでの「ID.4プロ」の最高出力が150kWですので、出力は60kW、4割増しという計算。最大トルクも従来の310Nmから545Nmとなり、こちらは75%の大幅アップです。 バッテリー容量は77kWhで変更はありませんが、2024年モデルからはバッテリーの“プレコンディショニング機能”を搭載し、冬の寒い時期、充電前にバッテリー温度を高めておくことで充電量の低下を抑えることができます。これはうれしい! 他にも、可変ダンピングシステムのDCC(ダイナミックシャシーコントロール)の改良なども行われ、果たしてどんな走りを見せてくれるのか、興味津々です。 早く乗ってみたいなぁ……と思っていたら、なんとうれしいことに、発表されたばかりの2024年式ID.4 プロ・パフォーマンスを、ドイツ・ミュンヘンで試乗するチャンスに恵まれました。試乗時間は約20分と超ショートですが、わが愛車のID.4 プロ・ローンチエディションと比較するには十分な時間です。

VOL.18
ミュンヘンで「ID.4」の2024年モデルに遭遇! [ID.4をチャージせよ!:その18]

ミュンヘンモーターショー(IAA)のメイン会場近くで、フォルクスワーゲンがメディア向けイベントを開催。そこで、2024年モデルの「ID.4」に遭遇しました。 見た目は同じ イベントスペースのパーキングに待機していたのは、“コスタアズールメタリック”のボディが爽やかな「ID.4 プロ・パフォーマンス」。日本のラインアップにはないボディカラーに目を奪われますが、エクステリアデザインはこれまでと同じで、私の愛車の「ID.4 プロ・ローンチエディション」との違いは1インチアップの21インチホイールが装着されていることくらいです。 ところが運転席に座ると、コックピットの眺めに違和感が! マイナーチェンジでもないのに、コックピットのデザインが私のID.4 プロ・ローンチエディションと大きく変わっていました。 ご存じのとおり、フォルクスワーゲンなど多くの輸入ブランドでは“イヤーモデル制”を採用していて、毎年のように細かい仕様変更を実施。エクステリアデザインは一緒でもパワートレインや装備が変わるというのはよくあること。この2024年モデルでは、インテリアのデザインまで様変わりしていたのです。 真っ先に気づいたのが、ダッシュボード中央にあるタッチパネルがリニューアルされていること。2022年モデルのID.4 プロ・ローンチエディションでは12インチのタッチパネルが搭載されていますが、この2024年モデルでは12.9インチにサイズアップが図られたのに加えて、デザインも一新され、明らかに使い勝手が向上していました。

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