なぜEV化しただけで騒ぎになるのか?
クルマ好きの間では、ときに車名よりも型式を主語として会話したほうが話が成立する場合があります。「80(ハチマル)」といったらトヨタの2代目スープラだし、「FC」といえばマツダのサバンナRX-7といった具合で、ついぞトヨタ86のように先祖の型式AE86の呼称が、そのまま後の車名にまで昇華するパターンまであるほどです。
いわば車名でいっても何世代かモデルチェンジを行っている場合、何代目とか何年式とかいうよりも、クルマ好きの間では型式でいってしまったほうがパッと頭のなかに姿形が思い出しやすいのです。そして、ひとしきり「あの型は〇〇がダメでね~」「〇〇のパーツだったら流用できるよ」なんて取り留めもなく会話が成立してしまうのも、クルマ好きの悲しい性なのであります。
その型式で呼ばれるクルマのなかにあっても、金字塔ともいえる存在がBNR32(通称:R32)ではないでしょうか。型式でいわれても……という方に説明申し上げますと、1989年に登場した日産スカイラインGT-Rのことです。
日産がレースに勝つために、当時のスカイラインを大幅にモディファイして誕生させた初代スカイラインGT-Rから数えて3代目にあたり、オイルショックを機に一時カタログラインアップから姿を消していたところ、再びレースで勝つことを使命に復活を遂げたため、このR32から続く5代目のR34型までを第2世代GT-Rとカテゴライズするのが、このスカイラインGT-Rなわけです。
R32は当時の日産の技術を結集した意欲作であり、搭載する直列6気筒ツインターボエンジン「RB26DETT」の強烈なパワーとトルク、そしてそれを路面に伝える4WDシステム「アテーサE-TS」とマルチリンクサスペンションにより、卓越した運動性能で多くのカーマニアを魅了した1台です。
登場から30年以上が経過したいまでも、多くの人々を魅了し続ける稀有な日本車ですが、その人気は国内にとどまらず、海外でも大人気。現存台数が減少し、さらに状態の良い個体が数を減らし続けるなか、現在かなりの高値で取引されているのが現状です。
そんなR32GT-Rを日産がEV化するとSNS上で発表したのは2023年3月のこと。もはや神格化されつつある名車のアイデンティティでもある「ガソリンエンジンを捨て、EV化するとは何ごとだ!」 とGT-Rファンだけでなく、クルマ好き界隈が一斉にシュプレヒコールを挙げたのはいうまでもありません。筆者も少なからずそう思いましたし、日産は何を目的にR32をEV化するのかと漠然とした疑問が頭のなかでモヤモヤとしておりました。