ゼロがひとつ足りないという声も!
市販の量産燃料電池車(FCV)として世界を牽引してきたのが、トヨタMIRAI(ミライ)だ。2014年に初代が発売となり、20年に現行車へモデルチェンジした。新車価格は、726万1000~861万円で、グレードや装備の違いなどで7つも選択肢がある。ちなみに、現在はクラウンにもFCVの設定があり、価格は830万円だ。クラウンのハイブリッド車は730万円であり、ほぼミライの価格帯と並んでいる。ミライでもっとも身近な726万1000円と、クラウンハイブリッドの730万円がほぼ同等というのも、衝撃的な価格とみることができなくもない。
そうしたことから、トヨタのFCVは、採算割れで売られているのではないかとの憶測もないではない。そもそも初代ミライが723万6000円で売り出されたとき、海外からは「ゼロが1桁少ないのではないか?」との声もあったといわれる。
ちなみに、ホンダが売り出したCR-V e:FCEVは、809万4900円だ。ただし、このFCVは外部から充電することで、電気自動車(EV)として走れる機能も備える。もう1台、ヒョンデのNEXOは、776万8300円である。
他社のFCVの価格を参考にすれば、ミライが採算割れの新車価格との言い方は当てはまらないだろう。
とはいえ、FCVには高度な技術が詰め込まれている。
燃料電池スタックは、固体高分子型と呼ばれる方式で、正極(空気極)と負極(水素極)の間に挟まれる固体高分子膜(電解質)は、料理などで使うラップのように薄く、その取扱いは慎重かつ繊細さが求められる。また、正負の電極は、カーボンブラックの担体に白金が塗られており、高価だ。材料にしても、製造法にしても、高価であったり高度であったりする燃料電池スタックの製造と、数を求めた量産化は容易でない。
その難易度は、EVに搭載されるリチウムイオンバッテリーの製造も同様だろう。
約700気圧(地上の700倍)となる70MPa(メガ・パスカル)もの高圧水素を携行するための水素タンクも、高度な技術を必要とする。
元素の周期表でもっとも小さな水素は、ほかのあらゆる元素で構成される容器の隙間を容易に抜け出てしまう懸念がある。そこで、ミライの水素タンクは3層構造となっている。水素を入れる一番内側の層は、水素の透過を抑える特殊な分子構造の樹脂で作られている。次に、70MPaの高圧に耐えるため炭素繊維を使った複合素材の層がある。そして、容器全体を保護するためガラス繊維を用いた複合素材による3層目がある。