コラム 記事一覧

コラム コラム
TEXT:御堀直嗣
EVのスペシャリストが選出! 後世に語り継ぐべきEV遺産!!

三菱i-MiEVや日産リーフに採用されたバッテリー 私が考えるEV遺産の第一は、三菱i-MiEVや日産の初代リーフが採用した、マンガン酸リチウムを正極に使ったEV用リチウムイオンバッテリーの実用化だ。 マンガン酸リチウムを正極に使ったリチウムイオンバッテリーは何が凄いかというと、安全性の高さである。 リチウムイオンバッテリーは、旭化成に在籍した吉野 彰(2019年にノーベル化学賞を受賞)が実用化し、まずラップトップ式パーソナルコンピュータ(PC)や携帯電話などで商品化された。そのリチウムイオンバッテリーの正極は、コバルト酸リチウムだった。小さくて軽く、多くの充電容量をもつことができたが、過充電により熱を持ち、膨張や発火の懸念があった。 そのような危険性をはらんだまま何百セルも搭載して、EVで火災事故が起きては大ごとである。携帯電話で使われたリチウムイオンバッテリーは、3Wh程度であったが、EVでは初代リーフでも24kWhの容量を持ち、それは携帯電話の8000倍になる。それが発火したら、ただごとで済まないことは想像できるだろう。 そこで開発されたのが、マンガン酸リチウムを正極に使うリチウムイオンバッテリーである。 マンガンとコバルトでは、結晶構造が違う。 マンガンは、スピネル構造と呼ばれ、リチウムがマンガンの結晶の隙間に収まる状態になっている。これに対し、コバルトの結晶は層状構造と呼ばれ、コバルトの層と層の間にリチウムが、やはり層状に挟まれた状態で収まっている。 充電の際は、負極へリチウムイオンが移動する。スピネル構造のマンガンは、リチウムがすべて負極へ移動したとしても結晶構造が崩れない。一方のコバルトは、層と層の間にあったリチウムがすべて抜けてしまうと、建物の床が落ちるようにコバルトの結晶構造が崩れる。これが短絡(ショート)の一因となり、発熱や膨張、あるいは発火といった事態を起こす懸念が生じる。 一方、スピネル構造のマンガンは、リチウムが入り込む隙間がコバルトに比べ少ないので、充電容量が小さくなる。つまり、満充電からの走行距離が短くなってしまう。 それでもあえて三菱自動車工業と日産が、世界初といえるEVを市販するにあたり、マンガン酸リチウムを正極に使うリチウムイオンバッテリーを実用化し、それなりの一充電走行距離を実現した意義は大きい。

TAG: #リチウムイオンバッテリー #技術
TEXT:高橋 優
BYDの更なる一手は欧州獲り!? ドルフィンサーフの投入で小型EVバトルはどうなる?

BYDのコンパクトカーが欧州で発売 BYDは、待望されていたコンパクトEV「ドルフィンサーフ」を発売しました。2万ユーロ以下というコスト競争力を実現することで、欧州でもっとも安価なEVのひとつとして欧州へのプレゼンスをさらに高めようとしています。 まず、BYDの欧州市場における最新動向について、このグラフはBYDの2025年シーズンにおける車種別の月間登録台数の変遷を示したものです。BYDは着々と販売台数を伸ばしており、直近の4月は欧州で1.2万台超を販売。欧州全体の登録台数に占めるBYDのマーケットシェア率は1.16%と史上最高を更新しており、欧州におけるBYDのプレゼンスが高まっている状況です。 とくにBYDの需要急増にもっとも大きく貢献しているのがシールU(中国市場ではSong Plus、グローバルサウスにおいてはシーライオン6として発売)というミッドサイズSUVの存在です。シールUはBEVとともにPHEVもラインアップし、PHEVの販売台数が大半を占めています。実際に4月のシールUのPHEVバージョンの登録台数は5294台であり、これはBYDの登録台数全体のうちの42.3%に相当します。 PHEVは、BYDだけでなくその他の中国勢も欧州にこぞってラインアップを拡大中です。4月における中国勢のPHEV登録台数は9649台であり、これは前年比で546%という急成長です。これは欧州で売れたPHEVの販売総数の10%が中国製であることを意味します。 欧州は、中国製EVに対する追加関税措置を課しているものの、この対象はあくまでもBEVであり、PHEVは基本関税の10%で済むのです。よってBYDは、追加関税措置の影響による短期的な販売鈍化を回避するために、シールUを筆頭とするPHEVの販売にも同時に注力してきているわけです。 そしてBYDは、2025年末までにハンガリーの車両生産工場の稼働をスタートさせます。さらに、2026年前半にはトルコ工場の稼働もスタート予定であり、これらの欧州域内における現地工場が稼働することによって、BYDは現在PHEVに対する10%の関税、そしてBEVに対する27%の関税を回避することが可能となります。よって、その分だけ車両の値段設定を安価にすることが可能となるのです。 そして、BYDが欧州に投入した新型モデルがドルフィンサーフです。ドルフィンサーフは、中国市場でシーガル、グローバルサウスではドルフィンミニと命名されて発売中です。ドルフィンサーフは、全長3990mm、全幅1720mm、全高1590mm、ホイールベースが2500mmというコンパクトカーです。たとえば全長3950mm、全幅1965mmのトヨタ・ヤリス、全長4045mm、全幅1695mmの日産ノートと同じようなサイズ感で、日本でも扱いやすいサイズとなります。 ドルフィンサーフは2種類のバッテリー容量と2種類のモーターを組み合わせた3グレード展開です。とくにエントリーグレード「Active」は30kWhという控えめなバッテリー容量ながら、WLTPサイクルに基づくWLTCモードクラス3で220kmという航続距離を確保。中級グレードであるBoostには43.2kWhが搭載され、322kmという航続距離を実現しています。 また、充電性能について、じつは中国市場におけるシーガルでは、30.08kWhと38.88kWhという2種類の電池容量をラインアップしているものの、シーガルの30.08kWh搭載グレードは、最大30kWの急速充電にしか対応していません。ところがドルフィンサーフの30kWhでは最大65kWの急速充電に対応しており、中国仕様の倍の充電性能を実現しているのです。また、ドルフィンサーフは、11kWの普通充電とともに3.3kWのV2L機能も標準設定しており、EVの使い方を広げる優れた性能となっています。

TAG: #ドルフィンサーフ #欧州
TEXT:石橋 寛
EVが普及しない……とか言われるのは4輪! 2輪の世界はどうなってる?

中国が世界シェアの70%を占める これだけEVのニュースが溢れかえっているのに、一般家庭への普及となるとさほど進んでいない印象を受けるのは筆者だけではないでしょう。クルマがそうなら、嗜好品ともいわれるオートバイの世界ではどうなっているのでしょう。2輪のEVについても、各国からさまざまなモデルが登場しているものの、クルマ同様にさほど普及しているようには見えません。そのあたりのリアルを探ってみましょう。 2輪のEVは4輪のEVに遅れること70年くらいでしょうか、1895年には特許の出願がなされていました。20世紀にはいるとすぐに電動バイクが世に出され、メディアがテストした記事をリリースしています。それによると、「1回の充電で120~160kmの航続が可能」とか「3速ギヤで最高速は56km/h」とのことですが、真偽のほどは確かめようがありません。だいたい、電源からしてどんなものを使っていたのか不明ですし、制御についても現代のそれとは比べ物にならないはず。 このあたり、エジソンが作ったEVも似たようなもので、高コストというデメリットと合わせて普及に至らなかった要因でしょう。 4輪と同じく、2輪EVのバッテリーも当初の鉛蓄電池から始まって、燃料電池/ニッケルカドミウム、リチウムイオンなどなど進化の一途。また、モーターにしても航空機のスターターモーターを流用したり、可変リクラタンスモーターといったバイクならではのイノベーションも繰り返し行われています。 こうした背景から頭ひとつ抜け出たのは、ほかでもない中国メーカー。電動スクーターという比較的部品も少なく、生産もしやすい製品からスタートして、現在では世界シェアの70%を握っています。余談ながら、電動キックボードについても中国のリードは変わらないばかりか、シェアは90%以上とのこと。

TAG: #2輪 #バイク
TEXT:琴條孝詩
EV推しのオーナーが本音で語る! ここが嫌だよEVライフ!!

多くのオーナーが充電に苦労 電気自動車(EV)はここ数年で確実に普及が進み、道路を眺めていてもその数がぐっと増えている。私自身も3年前からEVオーナーとなっている。世間でよく耳にする「静粛性が高い」「排ガス臭がしない」「メンテナンスコストが低い」という肯定的な声はウソではない。だが、ことさら「EVはどんな感じですか?」などと聞かれると、とかく表面的ないい点ばかり話してしまうのも人情だ。しかし、愛着をもっているからこそ、あえて「ここは本当に困る」「これにはイラつく」という、EVオーナーが胸の内に隠す“嫌なポイント”について率直に書いてみたい。 <充電設備への“家事情”ハードル> EVの弱点として真っ先に挙げられるのが充電インフラの問題だろう。自宅にEV充電設備を設置するのがベストだが、そうでない多くのオーナーがこの点で苦労している。たとえばマンションやアパート住まいの人にとって、自宅充電は夢のまた夢だ。管理組合に充電設備の設置を交渉しても、「コストが高い」「誰が責任をもつのか」などと議論が平行線をたどるまま進展しないことはよくある。 戸建て住宅でも、EV充電設備を新たに設置するためには、安くもない追加工事費がかかる。私もわざわざコストをかけてまでEV専用の200Vコンセントを設置するのに二の足を踏み、もともとガレージにあった100Vコンセントで8A程度と、アンペア数を低くして充電している。しかし、この電圧では20%程度の残バッテリー容量から80%充電にするには24時間以上かかる。場合によってはもっとかかる。これが200V普通充電であっても、6~8時間かかるのは当たり前。数分で満タンになるICE(内燃機関)車と比べると不便さを感じる。仕事が忙しく深夜帰宅して、そのまま朝イチで出発するようなスケジュールでは、自宅では十分に充電できない。 この場合、近くの急速充電器を利用するしかない。そもそも外出先での充電は「急速充電器がどこにどれだけあるか」を常にアタマのどこかで意識して把握しておかなければならない。しかし、いつも急速充電器が使用できるとは限らない。故障のこともあるし先客がいれば最悪充電までに30分、加えて自車の充電に30分の合計約1時間は待つ必要がある。私はテスラ所有なので他メーカーのEVオーナーよりは恵まれている。というのも、自宅の3〜5km圏内にいくつかのテスラ専用SC(スーパーチャージャー)があり、SCは故障も少なく、満車になるということもめったにない。

TAG: #オーナー #所有
TEXT:山本晋也
EVを安く乗るなら「回生ブレーキ」の効率化をマスターすべし! EVオーナーが語る誰でもできるエコテク

減速エネルギーで充電するのが回生ブレーキの役割 最初に所有したEVが初代リーフで、2025年になってイタリアのEV「フィアット500e」を乗り始めた筆者。500eは軽量なコンパクトEVということもあって、日常的に10km/kWhを超える好電費で走れることも珍しくない。 初代リーフに乗っていたときも、200km近く走ったときの区間電費で9km/kWhを超えることはあった。同じような走り方で、なおかつ最新のEVであれば、電費の数字が向上するのは自然というのが正直な感想だ。 ※2021年頃、リーフ専用アプリに表示された走行距離と電費 こうした話をしても、EVのあるカーライフを送っていない人からすると、「その数字はどのくらいいいのかわからない」といわれてしまうことのほうが多い。日常的にEVに乗っていないと、電費の数字を見てもピンとこないのも当然だろう。 『km/kWh』という単位は1kWhの電力量で走れる距離を示すものだ。つまり、数字が大きいほど同じ電力量で長い距離を走れるわけだから、電費において優秀といえる。 たとえば、フィアット500eの搭載するバッテリー総電力量は42kWhで、カタログスペックの一充電走行距離は335kmとなっている。この数字から『km/kWh』の電費を計算すると、7.9km/kWhとなる。冒頭に記した10km/kWhを超える電費は、カタログスペックを上まわったことになる。 ちなみに、初代リーフはバッテリー総電力量が30kWhで、カタログに記載されている一充電走行距離は228km(当時はJC08モード)だった。ここから計算すると、7.6km/kWhがカタログスペックの電費と考えられ、これを超えた電費で走ったということは、上手にエコドライブができたという意味になるのだ。 このように電費の説明をすると、つづけて「電費をよくするEVならではの運転テクニックがあるの?」と聞かれることも多い。 筆者もつねに好電費が達成できるわけではなく、もっとエコドライブの上手なEVオーナーはたくさんいるのも承知しているが、EVのエコドライブにおいて筆者が気を付けている最大のポイントは、「回生ブレーキを効率的に活用する」ことだ。 EVに限らずHEV(ハイブリッドカー)などの電動車全般にあって、エンジン車にない機能が「回生ブレーキ」で、電動車においては非常に重要な役割を果たしている。 ご存知のように、回生ブレーキというのは減速時に駆動モーターを使って発電、バッテリーを充電する機能だ。一度、バッテリーから放出した電力を回収するということは、そのぶんだけ航続距離を伸ばすことにつながる。 誤解を恐れず単純化すると、100kmの距離を移動したときに加速で12kWhの電力を消費したとして、回生ブレーキによって2kWhを充電できれば、トータルでの消費電力は10kWhになるため、この区間での電費は10km/kWhと計算できる。 EVにしろHEVにしろ、技術的な進化による回生ブレーキによる発電・充電性能は進化している。この機能を活用しない手はない。

TAG: #ドラテク #回生ブレーキ
TEXT:桃田健史
最近自動車業界で名前を見かけることが増えた「鴻海(ホンハイ)」! 自動車メーカーじゃないけどいったいナニモノ?

電機・電子業界での知名度が高い「ホンハイ」 2024年末、「ホンハイ」という名前がメディアに登場する機会が一気に増えた。ホンダと日産の経営統合に関して、あくまでも「噂」としてホンハイの存在が注目されたからだ。 ホンハイとは、台湾の鴻海科技集団のこと。日本では電機・電子業界での知名度が高い一方で、自動車産業界、そしてユーザーにとっては「初めて聞いた会社名」という人が少なくないだろう。 じつはこの会社、総売上高が約32兆円、また時価総額で約24兆円にも及ぶ大企業なのだ。 事業内容は、電子機器受託製造(EMS)で、その世界シェアは46.1%(直近データ:2023年)を誇る。どんな電子機器かといえば、スマートフォン、タブレット、デスクトップコンピューター、サーバー、ゲーム機、モニター、テレビ、自動搬送ロボットなど幅広い。 契約先の企業は、アマゾン、アップル、マイクロソフト、グーグル、ソニー、任天堂など、世界トップメーカーがズラリと並ぶ。 そんなホンハイは、コロナ禍前の2010年代後半、売上が高止まったことを受けて、中期的な成長戦略として「3+3」を打ち出した。産業として、EV、デジタルヘルス、ロボティクスという3分野。また、テクノロジーとして、AI(人工知能)、半導体、新たな通信コミュニケーションという3つだ。   「3+3」のなかでも、EVは単価が高いため、ホンハイとしては重要項目として位置付けている。EVについては徐々に拡大をしている高付加価値型と、今後さらに需要が増えるであろう低価格EV及び商業EVという、大きくふたつの括りがあると市場を分析している。 現在の戦略としては、ホンハイがEV市場を分析して独自にベースモデルを企画する。これを自動車メーカー各社に購入してもらうというもの。製造も当然、ホンハイが行うため、自動車メーカーとしては手間が省ける。 どんなモデルがあるかといえば、「モデルC」は、北米向けのコンパクトSUV。バッテリー容量が58kWhと83kWhがあり、航続距離はそれぞれ500kmと700km。すでに顧客(=自動車メーカー)がついている。 また、コンパクトクラスのクロスオーバー「モデルB」はバッテリー容量が58kWhで航続距離が500km。後輪駆動と四輪駆動がある。イタリアのピニンファリーナによる斬新なデザインが特徴だ。 2026年第2四半期には、オセアニア市場に対応した三菱自動車向けとして契約が成立している。 ホンハイとしては今後、各種モデルで顧客(=自動車メーカー)を増やしたいところだが、果たして思惑通りにことが進むのだろうか? 今後の動向を注視したい。

TAG: #ホンハイ #台湾
TEXT:大内明彦
4モーターの4WDも簡単に実現可能! エンジン車の4WDではできないEV四駆の底知れぬ可能性

EV は「四輪独立駆動」が可能!? 化石燃料(ガソリン、軽油など石油燃料)を使う内燃機関車に対して、電気モーターを動力とするEVの優れている点はなにか? 最大の違いは、燃料を燃焼しないことからEVは燃焼ガスを排出しない、簡単にいえば、排気ガスを出さないことが特徴として捉えられている。つまり、排出ガスがゼロだから大気に対して無公害、ということである。二酸化炭素も窒素酸化物も炭化水素も排出しない。だから、世界的な趨勢として、今後新たな内燃機関車は生産・販売をせず、その代わりにEVを普及させようという流れになったワケだ。 ところで、内燃機関車に対してEVの優れる点は、無公害車両ということだけなのだろうか。電気モーターを動力源とするEVの基本構造を考えてみると、自ずとその利点、特長が見えてくる。内燃機関(エンジン)は、小型・軽量といってもそれなりのサイズ、重量になってしまうが、それに対するEVの電気モーターは、かなり軽量コンパクトな仕様となっている。自動車の車体に搭載して使う動力源としての電気モーターは、スペースも含めた搭載性で相当に自由度が高くなる。 何をいいたいのかというと、内燃機関車の場合は、必然的にエンジンはひとつになってしまうが(例外的に競技車両でツインエンジンという形態も存在したが)、軽量コンパクトな電気モーターは、ひとつの車体に複数個を搭載することが可能、ということだ。極論すれば、自動車の標準的な形態を4輪車とした場合、4輪それぞれに専用の駆動モーターを装備することもできる、ということだ。 それはつまり4輪駆動? それなら現在の内燃機関車で数多く実用化されているではないか、となるのだが、4輪それぞれに駆動用の電気モーターを備えるということは、別の言葉で表現すれば「四輪独立駆動」ということである。それぞれのタイヤに伝える駆動力を、それぞれ独立して発生することができる、という点が大きな特長となる。

TAG: #モーター #駆動方式
TEXT:高橋 優
EVシフトの減速は幻想!? 世界規模でみたEVシェア率の伸びは想像を超えていた!

BEVとPHEVの合計販売台数は163.5万台超 2025年3月における世界全体のEV販売動向が判明しました。EVシフト減速といわれるなか、EVシフト減速のリアルとともに、2025年シーズンに注目するべき最新EV動向を含めて解説します。 まず初めに、最新のデータが判明している2025年3月の世界全体でのBEVとPHEVの合計販売台数は163.5万台超に到達し、前年同月比+24.4%となりました。成長率の内訳について、PHEVは前年同月比+14%だった一方で、BEVは+32%で成長しており、PHEVよりも販売台数が伸びています。 さらに、新車販売全体に占めるBEVとPHEVの合計販売台数のシェア率も、3月単体では25%に到達しています。前年同月が19%だったことを踏まえると、シェア率の伸びが加速している状況です。 次に、BEVに絞った販売動向について、1月から3月のQ1合計におけるBEV販売台数とBEVシェア率の変遷を2023年シーズンから追ってみると、黄色で示されたBEVの販売シェア率は9%、10%、そして14%とシェア率が上昇中です。2025年通期でのBEVシェア率20%にも期待可能でしょう。 また、世界の主要マーケットと比較したBEVシェア率の変遷について、日本市場のBEVシェア率は3月単体で1.56%と低迷しているものの、世界全体では17%に到達しており、主要先進地域において日本のBEVシェア率がまったく伸びていない様子も見て取れるでしょう。 次に、このEVシフト減速という言説が間違っているといえる世界全体のEVシフト成長の流れにおいて、人気のEVを分析しましょう。まず2025年Q1におけるBEVとPHEVの販売台数ランキングトップ20を見てみると、トップからテスラ・モデルY、BTD Song、テスラ・モデル3、ジーリーXingyuan、BYDシーガル、Hong Guang Mini EV、シャオミSU7と続いています。 また、トップ20のうちBYDが9車種、ジーリーが3車種ランクイン。とくにトップ20のうち、テスラと中国勢以外でランクインできたのはフォルクスワーゲンID.4だけであり、BYDやジーリーを筆頭とする中国勢の躍進の様子が見て取れます。 その一方で、それらの人気車種を2024年Q1での販売台数と比較しましょう。まず注目するべきは、ジーリーのXingyuan、Starship 7、シャオミSU7、BYD Qin L、Seal 06、Xpeng Mona M03、Li Auto L6であり、これらは1年前には発売されていなかった新型モデルです。また、BYD Song、テスラ・モデル3、BYDシーガル、Hong Guang Mini EVは、前年比で販売台数を伸ばしているものの、テスラ・モデルY、BYD Qin Plus、Yuan Plusは前年比で販売台数が減少しています。BYD Qin PlusとYuan PlusはQin LやYuan Upが登場したことによる販売が鈍化したことが推測可能です。モデルYはモデルチェンジにおける買い控えと生産ラインの切り替えが要因として考えられます。 そして、この人気車種ランキングにおいて注目するべきさらなるポイントとして、中国とアメリカ、欧州という主要マーケットを抜いたその他のマーケットにおける人気EVランキングについて、トップからBYD Song、テスラ・モデルY、Vinfast VF3、BYD ATTO 3が人気です。とくにベトナムの振興メーカーVinfastの小型SUV「VF3」の快進撃には驚かされるでしょう。 また、ピックアップトラックセグメントについて、3月単体でトップに躍り出たのがBYD Shark 6です。Q1全体だと、フォードF-150 Lightningが販売台数トップを維持しているものの、このShark 6はオーストラリアやメキシコ市場などの一部マーケットでしか販売されておらず、ピックアップが人気のタイ市場をはじめとする東南アジアで本格的に発売がスタートすると、F-150 Lightningを抜くはずです。 Q1のテスラ・サイバートラックは約6300台と、F-150 Lightningを下まわるという販売低迷に見舞われています。一時は予約台数200万台に達したなどといわれていたサイバートラックの低迷は、在庫過剰、生産ラインの稼働率低下によるテスラ全体の収益性低迷の理由とも推測でき、今後の販売動向には注目が集まります。

TAG: #EVシフト #普及 #販売
TEXT:大内明彦
いずれEV時代がくるならモータースポーツも全部EVになる? 現時点では「荒唐無稽」といわざるを得ないワケ

当初のフォーミュラEではバッテリー容量の限界がネックに 将来的に、すべてではないにせよ、自動車の大半はEVになるのではないか、と見られている。そして、現在懸念されるEVの問題点は、動力のエネルギー源となる電気をどうやって確保、補充(充電)するかに終始している。現状、EVで電力を蓄えておく装置は、充放電可能なバッテリーが主力となっている。 そして、承知のとおり、バッテリーは蓄えてある電力を使い切ってしまうと、新たに充電しなければ電力源として機能しなくなってしまう。問題は、その充電に要する時間だ。一般的な乗用車であれば、ガソリン/軽油を使う従来の内燃機関車なら、まず3分もあれば満タンにできるが、EVの場合だと急速充電で30分、それも全容量の80%というのが現状だ。 さて、視点をモータースポーツに移してみよう。つまり、EVはモータースポーツのベース車両となり得るか否かということである。現在、EVモータースポーツの頂点に位置するのはフォーミュラEだ。というより、ほかのカテゴリーで本格的なEVの導入はなく、フォーミュラE自体も新たな時代のモーターレーシングという観点で、試験的に始められたレースである。そして、当初よりネックとなったのがバッテリーの問題だった。 つい最近まで、フォーミュラEのレース距離は「45分」の時間レースだった。つまり、45分間のレースであればバッテリー容量が足り、レースを成立させることができる、と判断できたことによるレース距離の設定だった。逆にいえば、45分の走行時間がフォーミュラEの上限距離、と見なせる規定と考えてもよかった。 余談だが、フォーミュラEの発足にあたり、バッテリー容量の不足を懸念して、それなりのレース距離で争うことを可能にするため、バッテリーをカセット式のユニットとしてピットインで交換して再スタート、あるいは同一スペックの車両をもう1台ピットに用意しておき、バッテリーを使い切るタイミングで車両を乗り換え再スタートする、など搭載バッテリーの容量に対する対応策が検討される経緯もあった。

TAG: #モータースポーツ #レース
TEXT:山本晋也
これがトヨタの本気だぜ! 新型bZ4Xの日本導入が待ち遠しい!!

「bZ4Xツーリング」が登場! トヨタが初めてEV専用プラットフォーム「e-TNGA」を採用して開発したのがbZ4X。日本では2022年からリース販売を開始、2023年11月にはリアルな航続距離を伸ばすなどの改良を施したうえで一般販売を始めている。同ブランドのEV戦略において、リーダー役を任されたモデルだ。 もっとも、日本においてトヨタには「エンジン車を大事にするブランド」というイメージがある影響なのか、bZ4Xの販売は好調とはいえない。月販2桁であることがほとんどで、現実的にはニッチ向けのレアモデルとなっている。 スペック的には、総電力量71.4kWhのバッテリーを積み、エントリーグレードのFWD車では567kmと余裕の一充電走行距離を誇る。急速充電についても150kWの高出力タイプに対応するなど、ライバルと比べて見劣りするわけではない。正直、なぜここまで日本市場で存在感が薄れているのか不思議なくらいだ。 そんなbZ4Xに商品改良の動きが見えてきた。 2025年3月には欧州にて商品改良の内容を発表、2025年5月には欧州で「bZ4Xツーリング」、アメリカでは「bZウッドランド」と名付けられたストレッチバージョンを発表した。全長が140mm伸びて4830mmとなった、この新バリエーションは日本でも「bZ4Xツーリング」の名前で発売されるという。 まずは欧州で発表されたbZ4Xの改良内容から整理してみよう。 外観ではフロントバンパーの形状が大きく変わっていることが目立つ。従来モデルはどこかのっぺりとした顔に見えるが、新型ではロアグリルまわりがスクエアに飛び出した形状となり、アグレッシブな印象さえ与えてくれる。 こうした顔の変化に合わせてパフォーマンスも向上している。現在、販売されている日本仕様の最高出力はFWDで150kW、4WDで160kWとなっているが、欧州で発表された新型bZ4Xの最高出力は252kWと大幅なパワーアップを果たした。

TAG: #改良 #新型
連載企画 一覧
VOL.15
本当に日本はEVで「立ち遅れた」のか:知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第15回

ジャパン・モビリティ・ショー開催でにわかに沸き立つ日本のEVマーケット。しかし現実の販売状況は日本において大きく立ち遅れている。技術では先導してきたはずの日本メーカーは、なぜEVで世界をリードできていないのか。この分野のベテランジャーナリストである御堀 直嗣が解説する。 日本の低いEV市場占有率 日本は、世界に先駆けて電気自動車(EV)の市販に踏み切った。2009年に三菱自動車工業が、軽自動車EVの「i-MiEV」を法人向けにリース販売しはじめ、翌10年には一般消費者向けへの販売も開始した。同年には、日産自動車も小型EVの「リーフ」を発売した。この2社によって、EVの量産市販が実現し、ことにリーフは海外への販売も行われ、「i-MiEV」はフランスの当時PSA社にOEM供給された。リーフの販売は世界で累計65万台に達し、その他EVを含めると、日産は世界で100万台のEV販売の実績を持つ。そのうち、日本国内は累計23万台である。 ちなみに、米国テスラは2022年では年間で約130万台、中国のBYDは同年に約90万台規模へ成長している。 同時にまた、世界共通の充電規格であるCHAdeMO(チャデモ)も準備され、リーフが販売される世界の各地域にCHAdeMO充電器の設置が動き出した。 それらを背景に、経済産業省は2012年度補正予算で1,005億円の補助金を計上し、全国に約10万基の充電器を整備するとした。この補助金は全額支給でないため、トヨタ/日産/ホンダ/三菱自の4社が資金を拠出し、補助金で賄いきれない残額を補填することに合意した。 しかし、現在の充電器の数は、急速充電と普通充電を合わせて約2万基である。 国内の新車販売において、EVが占める割合は1%以下という状況が長く続いた。昨2022年、「日産サクラ」と「三菱eKクロスEV」が発売となり、1年で5万台以上を販売することで2%ほどの占有率になろうかという状況にある。 一方、世界全体では、EVの市場占有率が13%になる。米国は5.8%、欧州は12%、中国は21%となっており、日本がいかに低水準であるかがみえてくる。 日本でEV普及が進まなかった理由 EVの先駆者であった日本が、なぜ欧米や中国の後塵を拝するようになったのか。 最大の要因は、せっかく1,005億円という充電基盤整備に対する経済産業省の支援があったにもかかわらず、急速充電器の整備にばかり世間の目が行き、EV利用の基本である基礎充電、すなわち自宅での普通充電(200V)の重要性が広がらなかったからである。ことに、マンションなど集合住宅の駐車場と、月極駐車場への普通充電設置がほぼできなかったことが原因であった。 EVの充電は、普通充電で8~10時間、あるいはそれ以上かかるとされ、これが単純にガソリンスタンドでの給油時間と比較されて、使い勝手が悪いとさまざまな媒体を通じて流布された。いまでもそうした論調が消えていない。しかし、自宅で普通充電できれば、寝ている間に満充電になるので、翌朝出かけるときは満充電で出発できる。 戸建て住宅に住む人はそれができた。ところが、戸建て住宅でも自宅に車庫がなく月極駐車場を利用する人は、近隣の急速充電器を利用しなければならなくなった。 集合住宅に住む人は、敷地内に駐車場が併設されていても、管理組合の同意が得られず普通充電ができない状態に陥った。無知がもたらした悲劇だ。EVを買う意思があっても、手に入れにくい状況があった。 集合住宅の管理組合で賛同が得られない最大の理由は、幹事がEV時代を予測できず、また自分には関係ないとして無視され続けたことにある。設置の経費は、ことに当初は補助金と自動車メーカー4社による補填があったので、ほぼゼロであった。現在でも、施工業者が残金を負担するなどのやりくりで、集合住宅側の負担が軽く済む仕組みが出てきている。それでもなお、管理組合で合意を得るのが難しい状況は払拭できていない。 基礎充電の普及を目指す業者の間でも、さらに難しいとされるのが月極駐車場への普通充電の設置だ。月極駐車場を管理する不動産業者の理解を得にくいという。

VOL.1
リッター200円にもう限界……給油の“枷”をぶっちぎれ!【モデルサードインパクト vol.1】

ガソリン高い、燃費も悪い、限界だ! かつてないほどの猛暑に喘いだであろう今夏。「もういいよ」「もう下がってくれ」と、気温に対して誰もが感じていたと思うが、自動車ユーザーはガソリン価格に対しても同じことを思っていたのではないだろうか。 リッターあたり170円、180円、190円、そして200円の大台を突破……給油をするたびに、誰もが憂鬱な気分になったはずだ。小生はドイツの某オープンスポーツカーに乗っているのだが、リッターあたり平均10kmでハイオク仕様。愛車にガソリンを入れるたび、顔が青ざめていた。 「高額給油という枷から解放されたい……」 EVの購入を決意した所感である。クルマを走らせることは、本来喜びのはず。給油のたびに落ち込むのは本望ではない。 小生は、THE EV TIMES(TET)の編集スタッフを務めています。この9月、「テスラ・モデル3・パフォーマンス」を購入しました。新たな愛車と共に進むEVライフを「モデル・サードインパクト」と銘打ち、連載で紹介していこうと思います。 EVは便利だと実感した「日産リーフ」 小生が初めて体験したEVは「日産リーフ」(2代目)である。遡ること2017年、「リーフ」が2代目になった頃、日産が全国で試乗キャラバンを開催し、小生はその試乗アテンダントを担当していた。そこで「リーフ」を存分に運転することができたのだ。 それゆえ、EVの利便性の高さを実感することになった。スポーツモデル顔負けの力強くスムーズな加速にまず驚いたのだが、給油という枷から外れて自由に走り回れることが大変な魅力に感じた。アイドリング状態でエアコンを入れっぱなしでもガソリン代を気にせずに済む。車内でPCを開けば、そのままオフィスになる。車の用途が無限大に広がると感じた。 充電時間も特別長いとは感じなかった。充電残量が50%くらいになったら、急速充電を使用してあっという間に80%まで回復できる。ちなみに100%まで充電した場合、280kmを走れる表示が出ていたと記憶している(当時は寒い季節で暖房を使用した)。ちょっとした遠出も十分に対応可能。「EVなんて不便」という印象は全く抱かなかった。そこで薄々と「将来はEVもアリだな」と思ったのだ。

VOL.20
VW「ID.4」オーナーはアウトバーンを時速何キロで走る? [ID.4をチャージせよ!:その20]

9月上旬、スイスで開催された「ID.TREFFEN」(ID.ミーティング)を取材した際に、参加していた「ID.4」オーナーに、そのクルマを選んだ理由などを聞きました。 フォルクスワーゲン一筋 鮮やかな“キングズレッドメタリック”のID.4で登場したのは、ドイツのハノーファーからはるばるスイスに駆けつけたデュブラック・マルクスさん。「フォルクスワーゲンT3」のTシャツを着ているくらいですから、かなりのフォルクスワーゲン好きと見ましたが、予想は的中! 「18歳で免許を取ってからこれまで30年間、フォルクスワーゲンしか買ったことがないんですよ」という、まさにフォルクスワーゲン一筋の御仁でした。 彼の愛車はID.4のなかでももっともハイパフォーマンスな「ID.4 GTX」。日本未導入のこのグレードは、2モーターの4WD仕様で、最高出力220kW(299PS)を発揮するというスポーツモデル。こんなクルマに乗れるなんて、なんともうらやましいかぎりです。 そんなマルクスさんにID.4 GTXを購入した理由を尋ねると、「これからはEVの時代だと思ったので!」と明確な答えが返ってきました。とはいえ、ID.ファミリーのトップバッターである「ID.3」が登場した時点ではすぐに動き出すことはありませんでした。「1年半くらい前にID.4 GTXを試乗する機会があって、踏んだ瞬間から力強くダッシュするID.4 GTXのパンチ力にすっかり惚れ込んでしまい、即決でしたよ(笑)」。

VOL.14
欧州メーカーはなぜ電気自動車に走ったのか?:知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第14回

EVの知識を、最新情報から「いまさらこんなこと聞いていいの?」というベーシックな疑問まで、ベテラン・ジャーナリストが答えていく連載。今回は欧州メーカーの特集です。 日本市場参入が遅かった欧州製EV 日本市場では、欧州からの電気自動車(EV)攻勢が活発に見える。ドイツの「BMW i3」が発売されたのは2013年秋で、日本市場へは2014年春に導入された。 日本の自動車メーカーがEVを市販したのは、2009年の「三菱i-MiEV」の法人向けリースが最初で、翌2010年には「i-MiEV」も一般消費者への販売を開始し、同年に「日産リーフ」が発売された。「i3」の発売は、それより数年後になってからのことだ。 ほかに、フォルクスワーゲン(VW)は、「up!」と「ゴルフ」のエンジン車をEVに改造した「e-up!」と「e-ゴルフ」を2015年から日本で発売すると2014年に発表した。だが、急速充電システムのCHAdeMOとの整合性をとることができず、断念している。その後、VWは「e-ゴルフ」を2017年秋に販売を開始した。EV専用車種となる「ID.4」を日本に導入したのは、2022年のことだ。フランスのプジョーが、「e-208」を日本で発売したのは2020年である。 以上のように、欧州全体としては、EVへの関心が高まってきたのは比較的最近のことといえる。 くじかれたディーゼル重視路線 欧州は、クルマの環境対策として、自動車メーカーごとの二酸化炭素(CO2)排出量規制を中心に動いてきた。そして2021年から、1km走行当たりの排出量を企業平均で95gとする対処方法を考えてきた。EU規制は、販売する車種ごとのCO2排出量を問うのではなく、販売するすべての車種の平均値で95gを下回らなければならないという厳しさだ。 対策の基本となったのは、ディーゼルターボ・エンジンを使った排気量の削減と、出力の低下を補う過給器との組み合わせを主体としつつ、ハイブリッドによるさらなる燃費の向上である。 既存のディーゼルターボ・エンジンをできるだけ活用しようとする考えは、欧州メーカーが補機用バッテリーの電圧を世界的な12ボルトから、36ボルトや48ボルトに変更することによるマイルドハイブリッド化に注目してきた様子からもうかがえる。 ところが、2015年にVWが米国市場でディーゼル車の排出ガス規制を偽装していたことが明らかにされた。公的機関での測定では規制値を満たすものの、実走行で急加速などした際に基準を上回る有害物質が排出され、それによって力強い加速を得られるようにした制御が発覚したのである。その影響は、VW車だけでなく、アウディなどVWグループ内に広く影響を及ぼした。

VOL.3
ボルボは新型EVの「EX30」でインテリアに新たな価値を与え、空間を最大限、利用する!

ボルボはEX30の室内で多くの新たなチャレンジを行なっていると謳う。その詳細を小川フミオ氏が訊いていく。連載1回目はこちら、2回目はこちら。 冷たさの排除し素材を“素直”に使う EX30のインテリアが、他車と決定的に違うのは、金属的な表面処理がほとんど見当たらないこと。それは意図的にそうしたのだと、インテリアデザインを統括するリサ・リーブス氏は言う。 「心したのは、冷たさの排除です。使う素材はオネスト、つまり木に見えるものは木であり、また同時に、リサイクル素材を人間にやさしいかたちで使用しました」 インテリアは「ブリーズ」(やさしい風)をはじめ「ミスト」(もや)、「パイン」(松)それに「インディゴ」と4種類(日本はそのうち「ブリーズ」と「ミスト」を導入)。 「ブリーズを例にとると、デザインインスピレーションはサマーデイズ。シート表皮の素材はピクセルニットとノルディコ、ダッシュボードの飾り材はパーティクル、そして空気吹き出し口のカラーはブルーです」 リーブス氏は説明してくれる。 「ピクセルニットはPETボトルをリサイクルしたもの。それを3Dニッティング(立体編み)プロセスでシート用素材にしています。組み合わせるノルディコは、PETボトルなどのリサイクル素材、北欧で計画的に伐採された木から採取された素材、リサイクルされたワインコルクなどで作られたテキスタイルです」 ダッシュボード用のパーティクルは、窓枠やシャッターを中心に工業廃棄物であるプラスチックを粉砕したものだし、フロアマットは漁網をリサイクルしたという。 「リサイクル材とともに、インテリアは雰囲気を統一したので、私たちは“ルーム”という名を与えています。インディゴの場合、デザインインスピレーションは”夜のはじまり”で、デニムをリサイクルしたときに余る糸を使った素材をシート表皮に使っています」 シートじたいは「スニーカーにインスパイアされた形状」(メイヤー氏)だそうだ。

VOL.2
ボルボの新型電気自動車「EX30」にはスターウォーズのデザインが取り入れられている!?

エンジンの回転の盛り上がりには、時に人間的な表現が用いられる。しかしBEV(バッテリー電気自動車)はエンジンもなく無音なため、より無機質な、機械的な印象が強くなる。ボルボはそんなBEVに人間的な要素を入れたと主張する。連載1回目はこちら。 どことなく楽しい感じの表情 ボルボEX30は、いってみれば、二面性のあるモデルだ。ひとつは、地球環境保全(サステナビリティ)を重視したコンセプト。もうひとつは、大トルクの電気モーターの特性を活かしたスポーツ性。 デザイナーは「いずれにしても、BEVと一目でわかってもらうデザインが重要と考えました」(エクステリアデザイン統括のTジョン・メイヤー氏)と言う。 「もちろん、昨今ではICE(エンジン車)かBEVか、デザインをするときあえて差別化をしないのが世界的な流れです。ただし、私たちとしては、スカンジナビアデザインの原則を守りつつデザインしました」 メイヤー氏の言葉を借りて、この場合のスカンジナビアデザインの肝要を説明すると「形態は機能に従う」となる。 「そこで、上部に開口部とグリルはもたせないようにしようと。ただし(インバーターなどのために)空気を採り入れる必要はあるので、下にインレットは設けています」 ボルボ車のデザインアイディンティティである「トール(神の)ハンマー」なる形状のヘッドランプも採用。ただし、カバーで覆った一体型でなく、四角いLEDのマトリックスが独立しているような形状があたらしい。 「そうやって出来上がったのがこのデザインです。顔になっていて、そこには眼があって、鼻があって、口があるんです。どことなく楽しいかんじで、これまで以上に人間的な表情を実現しました」 暴力的でもなければ、ロボット的でもない。メイヤー氏はそこを強調した。

VOL.1
ボルボの新型電気自動車「EX30」は、相反する2面性を合わせ持つ文武両道なクルマ

ボルボの新たなBEV(バッテリー電気自動車)として、ついに10月2日から「サブスク」モデルの申し込みが始まるEX30。この「ボルボ史上最小のBEV」はどのように開発されたのか。ミラノで行われたワールドプレミアに参加した小川フミオ氏が関係者の声とともに振り返る。 スカンディナビアン+デジタル 2023年6月に登場したEX30は、コアコンピューティングテクノロジーを大胆に採用する、ボルボの新世代BEV。 内容にとどまらず、同時に、デザイン面でもさまざまな大胆な試みがなされているのも特徴だ。 いってみれば、伝統的ともいえるスカンディナビアンテイストに、デジタライゼーションの融合。 「私たちのデザイン的価値のすべてを小さなフォーマットで具現」したモデルと、ボルボ・カーズはプレスリリース内で謳う。 「非常に電気自動車的なデザインで(中略)閉じられたシールド(フロントグリルの開口部のこと)とデジタル表現を用いたトールハンマーヘッドライト」がフロント部の特徴とされる。 さらに新世代BEVとしてボルボが狙ったものはなんだろう。ミラノでの発表会において出合った担当デザイナー(たち)に、デザインの見どころと背景にあるコンセプトを取材した。

VOL.5
「BMW iX xDrive50」の高速電費は我慢不要! ロングドライブにうってつけのEV

[THE EV TIMES流・電費ガチ計測] THE EV TIMES(TET)流電費計測の5回目を、8月に「BMW iX xDrive50」で実施した。車高の高いSUVにもかかわらず、高速巡航時に電費が低下しにくいのが特徴だ。その詳細をお伝えする。 ※計測方法などについてはこちら、試乗記はこちらをご覧ください。 100km/h巡航でどんどん行こう iX xDrive50のカタログに記載された「一充電走行距離」は650km(WLTC)で、電池容量は111.5kWhだ。650kmを実現するには、電費が5.83km/kWh(以後、目標電費)を上回る必要がある。 各区間の計測結果は下記表の通り。5.83km/kWhを上回った場合、赤字にしている。 これまでのTETによる電費計測で初めてA区間の往路と平均で目標電費を超えた。A区間のように標高差が少ない場所では同じ状況になり得る、つまり100km/h巡航で一充電走行距離の650km近くを走破できる可能性がある。   100km/h巡航でも600kmは走れそう 各巡航速度の平均電費は下表の通りだ。「航続可能距離」は電費にバッテリー総容量をかけたもの、「一充電走行距離との比率」は650kmに対して、どれほど良いのか、悪いかだ。 iXのエクステリアは、大きなキドニーグリルが特徴的だ。ざっくり言えば全長5m、全幅2m、全高1.7m、車重2.5トンの堂々としたボディだが、Cd値が0.25と優れている。 100km/h巡航におけるiXの電費は、5.71km/kWhであった。絶対的な数値としては決して高くないが、一充電走行距離との比率を計算すると98%と、これまでにTETが計測したデータの中で最高の結果を記録した。120km/h巡航でもこの数字は78%であった。 つまり、iXは高速巡航でも電費の低下が少ないEVだといえる。 ちなみに、過去に計測したメルセデス「EQE 350+」は、この100km/h巡航時の比率が90%だった。EQEはセダンボディで背が低く、Cd値0.22で、高速巡航には有利であることを考えても、iXの98%という数字の凄さが分かる。 この結果は、空力性能の良好さと高効率なパワートレインの賜物ではないかと思う。BMWが「テクノロジー・フラッグシップ」「次世代を見据え、長距離走行が可能な革新的な次世代電気自動車」と謳っているだけのことはある。これらの記録を塗り替えるクルマが現れるのか、今後の計測が楽しみだ。   各巡航速度ごとの比率は以下の通り。80km/hから100km/hに速度を上げると21%電費が悪くなる。120km/hから80km/hに下げると1.6倍の航続距離の伸長が期待できる。

VOL.19
ぐっとパワフルな2024年モデルのフォルクスワーゲン「ID.4」をミュンヘンで緊急試乗! [ID.4をチャージせよ!:その19]

コンパクトSUVタイプの電気自動車「ID.4」が2024年モデルにアップデート。この最新版をドイツ・ミュンヘンでさっそく試乗しました。 モーターのパワーは60kW増し 「ID.4」が2024年モデルにアップデートし、コックピットのデザインが様変わりしたことは、前回のコラムで述べました。さらに今回の仕様変更では、走りにかかわる部分にも手が加えられています。 一番の変更が、新開発のモーターが搭載されたこと。フォルクスワーゲンでは、ID.ファミリーのプレミアムセダンである「ID.7」に、新たに開発した「APP550」型の電気モーターを採用しました。最高出力は210kW(286PS)と実にパワフルです。これが2024年モデルの「ID.4プロ」にも搭載されることになりました。これまでの「ID.4プロ」の最高出力が150kWですので、出力は60kW、4割増しという計算。最大トルクも従来の310Nmから545Nmとなり、こちらは75%の大幅アップです。 バッテリー容量は77kWhで変更はありませんが、2024年モデルからはバッテリーの“プレコンディショニング機能”を搭載し、冬の寒い時期、充電前にバッテリー温度を高めておくことで充電量の低下を抑えることができます。これはうれしい! 他にも、可変ダンピングシステムのDCC(ダイナミックシャシーコントロール)の改良なども行われ、果たしてどんな走りを見せてくれるのか、興味津々です。 早く乗ってみたいなぁ……と思っていたら、なんとうれしいことに、発表されたばかりの2024年式ID.4 プロ・パフォーマンスを、ドイツ・ミュンヘンで試乗するチャンスに恵まれました。試乗時間は約20分と超ショートですが、わが愛車のID.4 プロ・ローンチエディションと比較するには十分な時間です。

VOL.18
ミュンヘンで「ID.4」の2024年モデルに遭遇! [ID.4をチャージせよ!:その18]

ミュンヘンモーターショー(IAA)のメイン会場近くで、フォルクスワーゲンがメディア向けイベントを開催。そこで、2024年モデルの「ID.4」に遭遇しました。 見た目は同じ イベントスペースのパーキングに待機していたのは、“コスタアズールメタリック”のボディが爽やかな「ID.4 プロ・パフォーマンス」。日本のラインアップにはないボディカラーに目を奪われますが、エクステリアデザインはこれまでと同じで、私の愛車の「ID.4 プロ・ローンチエディション」との違いは1インチアップの21インチホイールが装着されていることくらいです。 ところが運転席に座ると、コックピットの眺めに違和感が! マイナーチェンジでもないのに、コックピットのデザインが私のID.4 プロ・ローンチエディションと大きく変わっていました。 ご存じのとおり、フォルクスワーゲンなど多くの輸入ブランドでは“イヤーモデル制”を採用していて、毎年のように細かい仕様変更を実施。エクステリアデザインは一緒でもパワートレインや装備が変わるというのはよくあること。この2024年モデルでは、インテリアのデザインまで様変わりしていたのです。 真っ先に気づいたのが、ダッシュボード中央にあるタッチパネルがリニューアルされていること。2022年モデルのID.4 プロ・ローンチエディションでは12インチのタッチパネルが搭載されていますが、この2024年モデルでは12.9インチにサイズアップが図られたのに加えて、デザインも一新され、明らかに使い勝手が向上していました。

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