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TEXT:桃田 健史
農業機器大手「やまびこ」が自律型草刈り機など次世代小型EV公開。独自発電システムにも注目

小型屋外作業機器の大手「やまびこ」が国内最大級の農業関連見本市「第10回 国際スマート農業EXPO」で次世代小型電動器のコンセプトモデルを出展した。自律走行草刈機やロボット芝刈機など、EVとして機能と自動化技術を連動させた最新機器の国内普及を図る。 「やまびこ」ってどんな会社? 東京都青梅市に本社を置く、株式会社「やまびこ」。 一般消費者には、馴染みが薄い企業名かもしれない。 だが、同社が扱うブランドを見ると、その存在の大きさを認識できるだろう。 「KIORITZ(共立)」、「shindaiwa(新ダイワ)」、そして「ECHO(エコー)」。 こうした名前を、ホームセンターで販売されている農業関連機器コーナーで見かけたことがある人もいるはずだ。 株式会社やまびこのホームページによると、同社は株式会社共立と新ダイワ工業株式会社が2008年12月に持株会社を設立し、2009年10月に両社を吸収合併して誕生した、とある。 共立は、1947年に共立農機として東京で設立。刈払機(かりはらいき)やチェーンソーなどを開発し販売してきた。 一方、新ダイワ工業は1952年に広島で創業。チェーンソー、小型発電機、大型ディーゼル発電機、また高圧洗浄機なども開発していた企業だ。 こうした老舗メーカーどうしが、農業や林業など一次産業におけるイノベーションを起こすため、「やまびこ」となって次世代技術の開発にまい進しているのだ。 自律・自動走行の最新モデル 今回の出展で来場者の注目を浴びていたのが、自律走行草刈機「RCM600 AUTO」。 やまびこの草刈機では、遠隔操作によるラジコ型草刈機「RCM600」がすでに発売されている。これをベースに自律走行させるモデルが登場したというわけだ。 自律走行するシステムでは、まず最初に作業エリアの四隅のマーカーを搭載カメラで認識させた上で、カメラとライダーで周辺情報を得ながら走行する。 ライダーは最近、自動車のADAS(先進運転支援システム)用として搭載が増えているセンサーのひとつだ。 「RCM600 AUTO」では、用途な走行条件によって、ラジコン機能と自律機能を切り替えて使うことができるのが特徴である。 もうひとつ、来場者の目を引いたコンセプトモデルが、ロボット芝刈機「TM-1000 RTK GNSS」だ。 このRTKとは、リアル・タイム・キネマティックのこと。位置情報システムといえば、衛星測位システムのGPS(グローバルポジショニングシステム)が知られている。GPSはアメリカ独自の衛星システムの名称であり、衛星測位システムの総称はGNSS(グローバル・ナビゲーション・サテライト・システム)。 RTKでは、GNSS(全地球航法衛星システム)による衛星測位に加えて、地上に基準点(固定局)を置いて、そこからLTEなどで通信する。これにより、一般的なGPSでは数メートルが数十メートルある位置の誤差を数センチ以内まで一気に縮小することができる。 一般的なロボット芝刈機の場合、自機位置をGPSで測定しており、位置の誤差が大きいため、対応するエリアをランダムに走行することで結果的に芝を綺麗に刈っている。 一方、RTKを使うと隅から綺麗に芝を刈ることができる。これを、パターン走行と呼ぶ。 すでに海外では昨年あたりから実用化されているが、国内向けでは、やまびこが先行してプロトタイプを開発した。

TAG: #やまびこ #草刈機
TEXT:桃田 健史
EVの走行中給電を東大が日本発の公道実証実験へ 。普及が進まない背景にも迫る

東京大学大学院と民間企業各社が共同で進める「走行中給電システム」の研究が大きな転換期を迎えた。東大・柏の葉スマートシティ(千葉県柏市)で日本初の「公道での実験」を開始すると、2023年10月3日に発表された。今回は量産化に向けてどのような可能性があるのか? 約5年の研究を経て社会実験へ 今回の実証は、東京大学、柏市、その他の関係機関と「柏ITS推進協議会」の枠組みによる「電気自動車の走行中給電技術開発の取り組み」として実施されるものだ。 関係機関とは具体的に、ブリヂストン、日本精工、ローム、東洋電機製造、小野測器、デンソー、三井不動産、SWCC、カーメイト、そして千葉大学の研究室を指す。 2018年から、これら関係者と東大が走行中給電システムを開発してきた。 また、2019年からは国土交通省の「スマートシティモデル事業(先行モデルプロジェクト)」の選定を受けている。 こうした共同研究開発の流れを受けて、今回の実証は国土交通省「道路に関する新たな取り組みの現地実証実験(社会実験)」として採択され、2023年10月から2025年3月まで、柏の葉キャンパス駅西口至近の市道で実施するものだ。 3つのポイント 本実験のポイントは大きく3つある。 ひとつ目は、様々な車両で使えること。EVでも、プラグインハイブリッド車でも使用可能なシステムとした。 二つ目は、標準化を目指すこと。例えば、待機電力を極力小さくして車両検知を短時間で行う新しい車両検知システムを開発している。 そして三つ目は、コイルと路面を一体化したプレキャストコイルの耐久性を検証することだ。 こうした走行中給電の実用化に向けた新しい試みには大いに期待したいところだ。 一方で、走行中給電や、EV等の電動車における非接触給電については、2010年代前半から中盤頃と比べると、近年は実用化に向けた話題が日本国内ではあまり聞かれなくなった印象がある。 その背景には何があるのか? まず、EV等の電動車における非接触給電については、2000年代末から2010年代頭に三菱「i-MiEV」と日産「リーフ」登場した後に、各種のベンチャー企業が独自に、または大手自動車メーカー各社と共同開発する形でプロトタイプを公開した。 当時、日米欧の各地でそうした非接触給電プロジェクトについて詳しく取材した。 標準化の議論についても、米自動車技術会(SAE)の関連シンポジウムに定常的に参加して、その動向を追った。 だが、EV自体の普及がグローバルでなかなか進まない中、非接触給電の量産効果が見込めないという時代がしばらく続く。 その後、2010年代後半になり、グローバルでESG投資(環境、社会性、ガバナンスを重視する企業経営や投資に対する考え方)が拡大したことで、EV需要が一気に高まったものの、EVの搭載バッテリー量の大型化に伴い、充電については急速充電器の高出力化に重きが置かれるようになった。 直近では、2023年になってから、複数の日系自動車メーカーの電動化システム関係者に対して非接触充電の普及の可能性を聞いたところ「コストメリットと利便性において、従来の充電方式と併行して、またはとってかわって広く普及するには、まだかなり時間がかる」という回答だった。 非接触型と接触型での走行中給電 一方で、走行中充電については、非接触型と接触型の大きく2通りがある。 前者については、2010年代前半から、韓国の国立大学であるKAIST(韓国科学技術院)が精力的な研究開発を進めていた。実際、同大学の担当研究室を取材し、技術的な詳しい話を聞いた。 だが、現時点で韓国では、同技術の本格的な普及には至っていないのが実状だ。 また、接触型の走行中給電では、スウェーデン政府関連機関が高速道路の一部でパンタグラフ式装置を使った大型トラックで実証実験を行ったり、ホンダは日本国内の自動車関連施設でホンダ独自の方式で研究開発を進めているところだ。 こうした各方面での走行中給電システムに、今回の柏の葉での実証実験が加わることで、走行中給電の社会受容性の検証と、規格標準化による実用化が促進されることを大いに期待したい。

TAG: #充電インフラ #東京大学 #走行中給電
TEXT:西川 淳
ロータス「エメヤ」にとにかく早く乗りたい!エンジン?モーター?動力源はどうでもいい!

2017年に中国・ジーリーの傘下に入りロータスは新たな歩みを始めた。その方向性は明確に電動化を目指すものだ。そして、ここにきて「エヴァイヤ」「エレトレ」「エメヤ」とフル電動モデルのデビューを迎えた。この“歩み”を支えたテクノロジーについて西川淳氏が語る。前編はこちら。 “古いけれど新しい”ブランドの必勝法 ハイパーSUVの「エレトレ」を日本でも発表したのち、矢継ぎ早にハイパーGTセダンの「エメヤ」をニューヨーク、続いてパリにて披露した。既存のモーターショーや英国という場所、つまりは伝統的な要素に縛られることなくライフスタイルブランドとしてグローバルに堂々と展開していこうという、それは覚悟の現れだ。近い将来にはコンパクトSUVが、2026年には満を侍して新たな電動スポーツカーも登場する。このスピーディさこそ“古いけれど新しい”ブランドにとって電動化時代というチャンスの荒波を乗り切るための必勝法というわけだ。 ジーリーはボルボやスマート、プロトンなど世界中のブランドに影響力を広げてきた。メルセデス・ベンツの筆頭株主にもなったし、ルノーとの協業も発表した。今最も注目すべき自動車会社の一つだろう。彼らの目指すところは自動車ビジネスの質的転換だ。メーカーからサービスプロバイダーへ。だからこそさまざまな形で影響力の及ぶ範囲を広めようとしている。 電動化はそのための最も大きな柱の一つ。なかでも2020年に発表したSEA(サスティナブル・エクスペリエンス・アーキテクチャ)と呼ばれる新EVプラットフォームの役目は重要だ。世界初のB2B・B2Cのオープンソースハードウェア。AセグメントからEセグメントまで対応可能な800Vスケートボードスタイルのアーキテクチャである。ロータスがエレトレやエメヤで初採用したEPA(エレクトリック・プレミアム・アーキテクチャー)もまた、SEAをベースにロータスの技術陣が専用に開発したもの。ちなみにエレトレ及びエメヤの生産拠点は武漢に新設された最新式のファクトリーで、スポーツカー系のみ英国となる。 SEAにはモーターやバッテリーシステムといったハードウェアはもちろんのこと、コネクテッドや自動運転など近未来のBEV(バッテリー電気自動車)に付随するソフトウェア(サービス)のさまざまも含まれている。今後、SEAを積極的に活用する会社が増えることだろう。そのためにも格好の宣伝材料となるボルボやロータスの商業的成功は必須だ。つまり今度こそロータスはちゃんと育ててもらえる、と筆者は見た。

TAG: #エメヤ #スーパースポーツ #ロータス
TEXT:西川 淳
電動化時代に「ロータス」が得た本当のリスタート、今度こそ経営は“安定飛行”となるか?

ロータスの車名は「エ」から始まるのが伝統だ。近年のラインナップはエミーラ、エヴァイヤ、エレトレ、エメヤの4車種で、なんとエミーラ以外の3モデルは電気自動車だ。テスラなどのEV専門ブランドを除けば、最も「電化率」が高いブランドだろう。そんな新生ロータスのエレトレ、エメヤと相次いで実車を目の当たりにした西川淳氏は何を想ったのか、レポートを寄せてもらった。 よく知られていないブランドだからこそできる大胆なチャレンジ ロータスと聞いて、あなたはどんなことを思い出しますか? 自動車メーカーであることをなんとなく知ってはいても、いったい具体的にどんなモデルを思い浮かべるのだろう?さしずめエリーゼに代表されるライトウェイトスポーツカーブランド、という答えが大半だろうか。別ブランドも含めロータスセブンはいまだに人気のプリミティヴ・スポーツカーの代表格だろう。スーパーカー世代ならヨーロッパやエスプリか。もっとマニアックにコーリン・チャプマンと一連のF1マシンを思い出すだろうか。ウィングカーとか。50年代から70年代にかけてモータースポーツ界とライトウェイトスポーツカー界を席巻したブランドだと、日本の車好きの中には正しい歴史を語ってくれる方もきっと多いことだろう。 けれども世界にとってはそれほど馴染みのあるブランドではない。デザイントップのベン・ペインは筆者にこう語った。「そうなんだ、よく知られているようで知られていない。だからこそ大胆なチャレンジもできるし、逆にヘリテージを有効に活用することもできる。ゼロからのスタートではない。けれども挑戦的でエキサイティングだ」 その歴史は決して平坦ではなかった。特に天才エンジニアにしてビジネスにも長けた創始者が亡くなってからというもの、その道は荊であったと言っていい。度重なる買収劇、いずれの新たな親たちもこの歴史あるブランドを我慢強く育て直そうとは思わなかったようだ。最新の親元を除いて……。

TAG: #エヴァイヤ #スーパースポーツ #ロータス
TEXT:桃田 健史
スズキが小型EVで一気に主導権を握る? JMSに量産濃厚と見られるモデルを続々導入の背景

スズキは2023年10月3日、「JAPAN MOBILITY SHOW2023」の出展が概要を発表した。 このニュースを受けて、自動車産業界の様々なところから「ついにスズキが(EVで)本気になった!」という驚きの声が聞こえてくる。その内容とは? EVラインアップ強化の中、様々な電動小型モビリティ登場 出展車を見ると、四輪車では、EV世界戦略車第一弾「eVX」を筆頭に、軽ワゴンEV「eWX」、商用軽バンEV「e EVERY CONCEPT」が出る。 さらに注目は、様々な電動小型モビリティにある。 例えば、次世代四脚モビリティ「MOQBA(モクバ)」は、ベースのシャーシとアタッチメントを組み合わせて、ボディバリエーションを「椅子モード」、「立ち乗りモード」そして「担架モード」へと変身させる、電動パーソナル/マルチユースモビリティだ。 高齢者向け、観光向け、さらに災害時での対応などで実用化が大いに期待される参考出品である。 イメージとしては、米シリコンバレーのスタートアップが考案するような次世代ロボット型のモビリティとも言えるだろう。 特定原付の四輪版が登場 次いで、「SUZU-RIDE」と「SUZU-CARGO」については、いますぐ量産されても不思議ではない印象がある。 キモは、車両区分が「特定小型原動機自転車(特定原付)」であること。 特定原付については、2023年7月1日に改正道路交通法が施行されてから、いわゆる電動キックボードに世間の注目が集まった。 車両規定としては、特定原付は2輪、3輪、または4輪が可能であり、今回スズキの提案は四輪の特定原付となる。 そのため、16歳以上では免許不要で、最高速度は時速20km以下。一定の技術条件を満たせば時速6km以下で一部の歩道を通行することも可能となる。 さらに、電動小型配送ロボット「LM-A」も出展する。2023年4月1日の改正道路交通法の施行により、「遠隔操作型小型車」の実用化への道が開かれた。 このように、スズキは直近での法改正を鑑みて、実用における利便性を十分に考慮した様々な電動小型モビリティを世に送り出そうとしているのだ。 スズキはこれまで、小型電動モビリティとしては、電動車いす「セニアカー」を企画製造・販売してきた。今後も、セニアカー事業は継続する。 電動車いすでは、医療関連製品という立ち位置があり、スズキとしてはその枠を超えたモノづくりや市場展開について”あえて控えてきた”印象がある。実際、筆者はスズキ本社を介してセニアカー関連の取材をしてきており、そうした実感がある。 今回の様々な小型電動モビリティ登場は、明らかに「次世代に向けた方向転換」というイメージだ。

TAG: #スズキ #電動小型モビリティ
TEXT:桃田 健史
コスモ石油「ASF2.0」を使ったB2B向けEVリースパッケージ「ゼロカボプラン」を発表

「ココロも満タンに」のキャッチフレーズでお馴染みのコスモ石油。コスモ石油マーケティングは2023年10月4日、都内で会見を開き「EV導入をきっかけに脱炭素化へ~コスモ・ゼロカボプラン」を発表した。あわせて、同プランで使用する「ASF2.0」の公道試乗会も行った。 コスモがワンストップでEVのB2Bを提供 コスモ石油がまた、新しいユーザーサービスを始める。 今回は、EVのB2B(ビジネス・トゥ・ビジネス)を主体とした事業展開となる。 その基盤となるのが「コスモMyカーリース」だ。 テレビCMなどでよく見かける、「コスモMyカーリース」。国産全メーカー・全車種からクルマが選べ、オプションも自由に選択できる。頭金は0円で車検、税金、メインテナンスも含めたパッケージ商品となっている。 近年は、自動車メーカー各社が様々なタイプのリースやサブスクリプションモデルを導入しているが、コスモ石油の場合、全国各地にあるコスモ石油のガソリンスタンドが事業の起点となる。 そのため、ガソリンの給油、またはEVの充電などでガソリンスタンドに訪れた際、コスモMyカーリースのユーザーは、気軽にガソリンスタンド関係者に声をかけ、日々のメインテンスについて相談できることも、大きな魅力だ。 コスモMyカーリースは導入以来、総契約台数は10万台を突破している人気商品で、このうち乗用が85%、そして商用が15%という割合だ。 そうした中、コスモ石油を含むコスモエネルギーグループでは、電力小売り事業の「コスモでんき」を展開しており、そうした電力供給に加えて、EV向けの充電器に関する工事一式や補助金申請、そしてEVの整備と、商用EVリースをフルパッケージ化した、「ゼロカボプラン」を導入することになったというわけだ。 資本参加するASF製商用軽EVを使用 コスモ「ゼロカボプラン」で使うEVは、日本発EVベンチャーのASF製「ASF2.0」となる。 ASFは、いわゆるファブレス企業だが、海外生産のEVを日本仕様に仕立てるのではなく、ゼロベースで日本向けEVとして設計・製造する。 2020年6月に佐川急便と「小型電気自動車の共同開発を開始する基本合意の締結」を発表し、自動車産業界やIT産業界から大きな注目を浴びた。 その後、2020年12月に総合商社の双日、また2021年6月にはコスモ石油マーケティングとコスモエネルギーホールディングスとの資本提携を発表し、着実に事業基盤を固めてきた。 そして今回、コスモが新たに事業展開する「ゼロカボプラン」に「ASF2.0」を提供することになった。 実車を確認すると、佐川急便など利用者の声を最大限に活かした、いわゆる「マーケットイン」型の商品開発を丁寧に行ってきたことがよく分かる。 前席周辺のレイアウトや、備品、書類用のポケットや取り外し可能な小型デスク、また荷室はフルフラットとしており、ASF関係者によると荷室容積はスズキ「エブリィ」に近く軽商用としてはかなり広い。 バッテリーはリン酸鉄リチウムイオン電池で、電池容量は30kWh。満充電での航続距離はメーカー測定値で209km。充電方式は、出力3kWや6kWなどの普通充電、またはチャデモ規格による急速充電も可能だがクルマ側の最大受け入れ出力は最大で30kW。 現状でV2HやV2Lには対応していないが、今後の仕様変更で対応は可能という。

TAG: #ASF2.0 #コスモ石油 #ゼロカボプラン
TEXT:生方 聡
VW「ID.4」オーナーはアウトバーンを時速何キロで走る? [ID.4をチャージせよ!:その20]

9月上旬、スイスで開催された「ID.TREFFEN」(ID.ミーティング)を取材した際に、参加していた「ID.4」オーナーに、そのクルマを選んだ理由などを聞きました。 フォルクスワーゲン一筋 鮮やかな“キングズレッドメタリック”のID.4で登場したのは、ドイツのハノーファーからはるばるスイスに駆けつけたデュブラック・マルクスさん。「フォルクスワーゲンT3」のTシャツを着ているくらいですから、かなりのフォルクスワーゲン好きと見ましたが、予想は的中! 「18歳で免許を取ってからこれまで30年間、フォルクスワーゲンしか買ったことがないんですよ」という、まさにフォルクスワーゲン一筋の御仁でした。 彼の愛車はID.4のなかでももっともハイパフォーマンスな「ID.4 GTX」。日本未導入のこのグレードは、2モーターの4WD仕様で、最高出力220kW(299PS)を発揮するというスポーツモデル。こんなクルマに乗れるなんて、なんともうらやましいかぎりです。 そんなマルクスさんにID.4 GTXを購入した理由を尋ねると、「これからはEVの時代だと思ったので!」と明確な答えが返ってきました。とはいえ、ID.ファミリーのトップバッターである「ID.3」が登場した時点ではすぐに動き出すことはありませんでした。「1年半くらい前にID.4 GTXを試乗する機会があって、踏んだ瞬間から力強くダッシュするID.4 GTXのパンチ力にすっかり惚れ込んでしまい、即決でしたよ(笑)」。

TAG: #ID.4 #VW
TEXT:御堀 直嗣
欧州メーカーはなぜ電気自動車に走ったのか?:知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第14回

EVの知識を、最新情報から「いまさらこんなこと聞いていいの?」というベーシックな疑問まで、ベテラン・ジャーナリストが答えていく連載。今回は欧州メーカーの特集です。 日本市場参入が遅かった欧州製EV 日本市場では、欧州からの電気自動車(EV)攻勢が活発に見える。ドイツの「BMW i3」が発売されたのは2013年秋で、日本市場へは2014年春に導入された。 日本の自動車メーカーがEVを市販したのは、2009年の「三菱i-MiEV」の法人向けリースが最初で、翌2010年には「i-MiEV」も一般消費者への販売を開始し、同年に「日産リーフ」が発売された。「i3」の発売は、それより数年後になってからのことだ。 ほかに、フォルクスワーゲン(VW)は、「up!」と「ゴルフ」のエンジン車をEVに改造した「e-up!」と「e-ゴルフ」を2015年から日本で発売すると2014年に発表した。だが、急速充電システムのCHAdeMOとの整合性をとることができず、断念している。その後、VWは「e-ゴルフ」を2017年秋に販売を開始した。EV専用車種となる「ID.4」を日本に導入したのは、2022年のことだ。フランスのプジョーが、「e-208」を日本で発売したのは2020年である。 以上のように、欧州全体としては、EVへの関心が高まってきたのは比較的最近のことといえる。 くじかれたディーゼル重視路線 欧州は、クルマの環境対策として、自動車メーカーごとの二酸化炭素(CO2)排出量規制を中心に動いてきた。そして2021年から、1km走行当たりの排出量を企業平均で95gとする対処方法を考えてきた。EU規制は、販売する車種ごとのCO2排出量を問うのではなく、販売するすべての車種の平均値で95gを下回らなければならないという厳しさだ。 対策の基本となったのは、ディーゼルターボ・エンジンを使った排気量の削減と、出力の低下を補う過給器との組み合わせを主体としつつ、ハイブリッドによるさらなる燃費の向上である。 既存のディーゼルターボ・エンジンをできるだけ活用しようとする考えは、欧州メーカーが補機用バッテリーの電圧を世界的な12ボルトから、36ボルトや48ボルトに変更することによるマイルドハイブリッド化に注目してきた様子からもうかがえる。 ところが、2015年にVWが米国市場でディーゼル車の排出ガス規制を偽装していたことが明らかにされた。公的機関での測定では規制値を満たすものの、実走行で急加速などした際に基準を上回る有害物質が排出され、それによって力強い加速を得られるようにした制御が発覚したのである。その影響は、VW車だけでなく、アウディなどVWグループ内に広く影響を及ぼした。

TAG: #EV #EV知識・基礎の基礎 #御堀 直嗣 #電気自動車
TEXT:桃田 健史
トヨタの全固体電池量産に向けた技術進化を実感。“夢の電池”ではなく、量産目前の現実味が。

トヨタが2027~28年頃を目途に量産する予定の全固体電池。愛知県内のトヨタ貞宝工場で、試作に向けた開発ラインを視察。想像していたことは少し違った印象を受けた。トヨタの真骨頂であるTPS(トヨタ生産方式)によるカラクリをじっくり見た。 化学の世界での最新技術を期待するも… トヨタが2023年9月中旬に愛知県豊田市とその周辺で、一部報道陣向け実施した「モノづくりワークショップ2023」。 その中で、注目の話題が全固体電池の開発ラインだ。 設置されているのは、貞宝(ていほう)工場。今回の視察では、同工場内で次世代電池普及版(バイポーラ型リチウムイオン電池)の開発ラインを見た後に、全固体電池の開発ラインを見るという順番だった。 現行のリチウムイオン電池(または次世代電池普及版等)が正極と負極がセパレーターを挟み、これらを液状の電解液で覆う構成であるのに対して、全固体電池は電解液の役割を固体で行うタイプの電池を指す。 一般的には、充放電の効率や、安全性が高まると言われてる。 今回の視察では、次世代電池普及版(バイポーラ型リチウムイオン電池)で、集電体に負極または正極を塗工する工程を見ており、「いかにも電池技術らしい化学の領域での最新技術」という印象があった。 そのため、視察のメインイベントというべき全固体電池の開発ラインでも、化学的な技術詳細が明らかになるのではないか。 そんな期待を抱いての視察だった。 だが、全固体電池の開発ラインはビニールの壁で覆われており、その内部に入ることはできなかった。 今回公開されたのは、加工された電池部品を組立てる工程のみだった。

TAG: #トヨタ #全固体電池
ギガキャストの試作品(写真右)。プレス工程と溶接工程を必要とする従来品(写真左)と比べて工程数は一気に減る。出典:トヨタ
TEXT:桃田 健史
トヨタ「ギガキャスト」の正体を初公開の明知工場で見た。これからのクルマ作りには必須技術か

本格的なBEV(バッテリー電気自動車)普及に向けて、自動車メーカー各社の技術開発競争が熱を帯びている。 その中で注目されるのが、ギガキャストと呼ばれる鋳造技術だ。トヨタは23年6月公開の試作品に続き、その製造現場の様子を公開した。 ギガキャストに定義はまだない 鋳造に関する新しい生産技術「ギガキャスト」という表現を、2020年代に入ってから自動車産業界でよく耳にするようになった。 情報の出所は、大きく2つ。 ひとつは、テスラだ。BEV専業メーカーであるテスラにとっては、内燃機関を主体とする一般的な自動車メーカーでは実現しないような、大胆な発想を数多く持っている。 そうした企業としての姿勢は、商品開発のみならず、生産技術についても同様だ。ギガキャストも、そのひとつだと言える。 もうひとつは、中国企業によるギガキャストの採用だ。中国では2010年代からEVベンチャーが数多く創業している。まったくゼロからのスタートであり、さらに中国国内のみならず、グローバルから積極的に資金調達を行うためには、斬新な設計思想と、それに伴う大胆な生産技術が必要だったと言えるだろう。 そこに、ギガキャストが採用されたのだ。 ただし、こうしたギガキャストには様々な手法があり、国や地域の自動車技術会などで明確に定義付けされているわけではない。 トヨタは2023年6月上旬に、静岡県裾野市で実施した「テクニカルワークショップ2023」でギガキャストによって製造した試作品を展示している。 さらに、トヨタは2023年9月中旬に豊田市とその周辺にある3つの工場を舞台として、一部報道陣向けに実施した「モノづくりワークショップ2023」で、トヨタでいうギガキャストの試作用設備を視察した。

TAG: #ギガキャスト #トヨタ
連載企画 一覧
VOL.15
本当に日本はEVで「立ち遅れた」のか:知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第15回

ジャパン・モビリティ・ショー開催でにわかに沸き立つ日本のEVマーケット。しかし現実の販売状況は日本において大きく立ち遅れている。技術では先導してきたはずの日本メーカーは、なぜEVで世界をリードできていないのか。この分野のベテランジャーナリストである御堀 直嗣が解説する。 日本の低いEV市場占有率 日本は、世界に先駆けて電気自動車(EV)の市販に踏み切った。2009年に三菱自動車工業が、軽自動車EVの「i-MiEV」を法人向けにリース販売しはじめ、翌10年には一般消費者向けへの販売も開始した。同年には、日産自動車も小型EVの「リーフ」を発売した。この2社によって、EVの量産市販が実現し、ことにリーフは海外への販売も行われ、「i-MiEV」はフランスの当時PSA社にOEM供給された。リーフの販売は世界で累計65万台に達し、その他EVを含めると、日産は世界で100万台のEV販売の実績を持つ。そのうち、日本国内は累計23万台である。 ちなみに、米国テスラは2022年では年間で約130万台、中国のBYDは同年に約90万台規模へ成長している。 同時にまた、世界共通の充電規格であるCHAdeMO(チャデモ)も準備され、リーフが販売される世界の各地域にCHAdeMO充電器の設置が動き出した。 それらを背景に、経済産業省は2012年度補正予算で1,005億円の補助金を計上し、全国に約10万基の充電器を整備するとした。この補助金は全額支給でないため、トヨタ/日産/ホンダ/三菱自の4社が資金を拠出し、補助金で賄いきれない残額を補填することに合意した。 しかし、現在の充電器の数は、急速充電と普通充電を合わせて約2万基である。 国内の新車販売において、EVが占める割合は1%以下という状況が長く続いた。昨2022年、「日産サクラ」と「三菱eKクロスEV」が発売となり、1年で5万台以上を販売することで2%ほどの占有率になろうかという状況にある。 一方、世界全体では、EVの市場占有率が13%になる。米国は5.8%、欧州は12%、中国は21%となっており、日本がいかに低水準であるかがみえてくる。 日本でEV普及が進まなかった理由 EVの先駆者であった日本が、なぜ欧米や中国の後塵を拝するようになったのか。 最大の要因は、せっかく1,005億円という充電基盤整備に対する経済産業省の支援があったにもかかわらず、急速充電器の整備にばかり世間の目が行き、EV利用の基本である基礎充電、すなわち自宅での普通充電(200V)の重要性が広がらなかったからである。ことに、マンションなど集合住宅の駐車場と、月極駐車場への普通充電設置がほぼできなかったことが原因であった。 EVの充電は、普通充電で8~10時間、あるいはそれ以上かかるとされ、これが単純にガソリンスタンドでの給油時間と比較されて、使い勝手が悪いとさまざまな媒体を通じて流布された。いまでもそうした論調が消えていない。しかし、自宅で普通充電できれば、寝ている間に満充電になるので、翌朝出かけるときは満充電で出発できる。 戸建て住宅に住む人はそれができた。ところが、戸建て住宅でも自宅に車庫がなく月極駐車場を利用する人は、近隣の急速充電器を利用しなければならなくなった。 集合住宅に住む人は、敷地内に駐車場が併設されていても、管理組合の同意が得られず普通充電ができない状態に陥った。無知がもたらした悲劇だ。EVを買う意思があっても、手に入れにくい状況があった。 集合住宅の管理組合で賛同が得られない最大の理由は、幹事がEV時代を予測できず、また自分には関係ないとして無視され続けたことにある。設置の経費は、ことに当初は補助金と自動車メーカー4社による補填があったので、ほぼゼロであった。現在でも、施工業者が残金を負担するなどのやりくりで、集合住宅側の負担が軽く済む仕組みが出てきている。それでもなお、管理組合で合意を得るのが難しい状況は払拭できていない。 基礎充電の普及を目指す業者の間でも、さらに難しいとされるのが月極駐車場への普通充電の設置だ。月極駐車場を管理する不動産業者の理解を得にくいという。

VOL.1
リッター200円にもう限界……給油の“枷”をぶっちぎれ!【モデルサードインパクト vol.1】

ガソリン高い、燃費も悪い、限界だ! かつてないほどの猛暑に喘いだであろう今夏。「もういいよ」「もう下がってくれ」と、気温に対して誰もが感じていたと思うが、自動車ユーザーはガソリン価格に対しても同じことを思っていたのではないだろうか。 リッターあたり170円、180円、190円、そして200円の大台を突破……給油をするたびに、誰もが憂鬱な気分になったはずだ。小生はドイツの某オープンスポーツカーに乗っているのだが、リッターあたり平均10kmでハイオク仕様。愛車にガソリンを入れるたび、顔が青ざめていた。 「高額給油という枷から解放されたい……」 EVの購入を決意した所感である。クルマを走らせることは、本来喜びのはず。給油のたびに落ち込むのは本望ではない。 小生は、THE EV TIMES(TET)の編集スタッフを務めています。この9月、「テスラ・モデル3・パフォーマンス」を購入しました。新たな愛車と共に進むEVライフを「モデル・サードインパクト」と銘打ち、連載で紹介していこうと思います。 EVは便利だと実感した「日産リーフ」 小生が初めて体験したEVは「日産リーフ」(2代目)である。遡ること2017年、「リーフ」が2代目になった頃、日産が全国で試乗キャラバンを開催し、小生はその試乗アテンダントを担当していた。そこで「リーフ」を存分に運転することができたのだ。 それゆえ、EVの利便性の高さを実感することになった。スポーツモデル顔負けの力強くスムーズな加速にまず驚いたのだが、給油という枷から外れて自由に走り回れることが大変な魅力に感じた。アイドリング状態でエアコンを入れっぱなしでもガソリン代を気にせずに済む。車内でPCを開けば、そのままオフィスになる。車の用途が無限大に広がると感じた。 充電時間も特別長いとは感じなかった。充電残量が50%くらいになったら、急速充電を使用してあっという間に80%まで回復できる。ちなみに100%まで充電した場合、280kmを走れる表示が出ていたと記憶している(当時は寒い季節で暖房を使用した)。ちょっとした遠出も十分に対応可能。「EVなんて不便」という印象は全く抱かなかった。そこで薄々と「将来はEVもアリだな」と思ったのだ。

VOL.20
VW「ID.4」オーナーはアウトバーンを時速何キロで走る? [ID.4をチャージせよ!:その20]

9月上旬、スイスで開催された「ID.TREFFEN」(ID.ミーティング)を取材した際に、参加していた「ID.4」オーナーに、そのクルマを選んだ理由などを聞きました。 フォルクスワーゲン一筋 鮮やかな“キングズレッドメタリック”のID.4で登場したのは、ドイツのハノーファーからはるばるスイスに駆けつけたデュブラック・マルクスさん。「フォルクスワーゲンT3」のTシャツを着ているくらいですから、かなりのフォルクスワーゲン好きと見ましたが、予想は的中! 「18歳で免許を取ってからこれまで30年間、フォルクスワーゲンしか買ったことがないんですよ」という、まさにフォルクスワーゲン一筋の御仁でした。 彼の愛車はID.4のなかでももっともハイパフォーマンスな「ID.4 GTX」。日本未導入のこのグレードは、2モーターの4WD仕様で、最高出力220kW(299PS)を発揮するというスポーツモデル。こんなクルマに乗れるなんて、なんともうらやましいかぎりです。 そんなマルクスさんにID.4 GTXを購入した理由を尋ねると、「これからはEVの時代だと思ったので!」と明確な答えが返ってきました。とはいえ、ID.ファミリーのトップバッターである「ID.3」が登場した時点ではすぐに動き出すことはありませんでした。「1年半くらい前にID.4 GTXを試乗する機会があって、踏んだ瞬間から力強くダッシュするID.4 GTXのパンチ力にすっかり惚れ込んでしまい、即決でしたよ(笑)」。

VOL.14
欧州メーカーはなぜ電気自動車に走ったのか?:知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第14回

EVの知識を、最新情報から「いまさらこんなこと聞いていいの?」というベーシックな疑問まで、ベテラン・ジャーナリストが答えていく連載。今回は欧州メーカーの特集です。 日本市場参入が遅かった欧州製EV 日本市場では、欧州からの電気自動車(EV)攻勢が活発に見える。ドイツの「BMW i3」が発売されたのは2013年秋で、日本市場へは2014年春に導入された。 日本の自動車メーカーがEVを市販したのは、2009年の「三菱i-MiEV」の法人向けリースが最初で、翌2010年には「i-MiEV」も一般消費者への販売を開始し、同年に「日産リーフ」が発売された。「i3」の発売は、それより数年後になってからのことだ。 ほかに、フォルクスワーゲン(VW)は、「up!」と「ゴルフ」のエンジン車をEVに改造した「e-up!」と「e-ゴルフ」を2015年から日本で発売すると2014年に発表した。だが、急速充電システムのCHAdeMOとの整合性をとることができず、断念している。その後、VWは「e-ゴルフ」を2017年秋に販売を開始した。EV専用車種となる「ID.4」を日本に導入したのは、2022年のことだ。フランスのプジョーが、「e-208」を日本で発売したのは2020年である。 以上のように、欧州全体としては、EVへの関心が高まってきたのは比較的最近のことといえる。 くじかれたディーゼル重視路線 欧州は、クルマの環境対策として、自動車メーカーごとの二酸化炭素(CO2)排出量規制を中心に動いてきた。そして2021年から、1km走行当たりの排出量を企業平均で95gとする対処方法を考えてきた。EU規制は、販売する車種ごとのCO2排出量を問うのではなく、販売するすべての車種の平均値で95gを下回らなければならないという厳しさだ。 対策の基本となったのは、ディーゼルターボ・エンジンを使った排気量の削減と、出力の低下を補う過給器との組み合わせを主体としつつ、ハイブリッドによるさらなる燃費の向上である。 既存のディーゼルターボ・エンジンをできるだけ活用しようとする考えは、欧州メーカーが補機用バッテリーの電圧を世界的な12ボルトから、36ボルトや48ボルトに変更することによるマイルドハイブリッド化に注目してきた様子からもうかがえる。 ところが、2015年にVWが米国市場でディーゼル車の排出ガス規制を偽装していたことが明らかにされた。公的機関での測定では規制値を満たすものの、実走行で急加速などした際に基準を上回る有害物質が排出され、それによって力強い加速を得られるようにした制御が発覚したのである。その影響は、VW車だけでなく、アウディなどVWグループ内に広く影響を及ぼした。

VOL.3
ボルボは新型EVの「EX30」でインテリアに新たな価値を与え、空間を最大限、利用する!

ボルボはEX30の室内で多くの新たなチャレンジを行なっていると謳う。その詳細を小川フミオ氏が訊いていく。連載1回目はこちら、2回目はこちら。 冷たさの排除し素材を“素直”に使う EX30のインテリアが、他車と決定的に違うのは、金属的な表面処理がほとんど見当たらないこと。それは意図的にそうしたのだと、インテリアデザインを統括するリサ・リーブス氏は言う。 「心したのは、冷たさの排除です。使う素材はオネスト、つまり木に見えるものは木であり、また同時に、リサイクル素材を人間にやさしいかたちで使用しました」 インテリアは「ブリーズ」(やさしい風)をはじめ「ミスト」(もや)、「パイン」(松)それに「インディゴ」と4種類(日本はそのうち「ブリーズ」と「ミスト」を導入)。 「ブリーズを例にとると、デザインインスピレーションはサマーデイズ。シート表皮の素材はピクセルニットとノルディコ、ダッシュボードの飾り材はパーティクル、そして空気吹き出し口のカラーはブルーです」 リーブス氏は説明してくれる。 「ピクセルニットはPETボトルをリサイクルしたもの。それを3Dニッティング(立体編み)プロセスでシート用素材にしています。組み合わせるノルディコは、PETボトルなどのリサイクル素材、北欧で計画的に伐採された木から採取された素材、リサイクルされたワインコルクなどで作られたテキスタイルです」 ダッシュボード用のパーティクルは、窓枠やシャッターを中心に工業廃棄物であるプラスチックを粉砕したものだし、フロアマットは漁網をリサイクルしたという。 「リサイクル材とともに、インテリアは雰囲気を統一したので、私たちは“ルーム”という名を与えています。インディゴの場合、デザインインスピレーションは”夜のはじまり”で、デニムをリサイクルしたときに余る糸を使った素材をシート表皮に使っています」 シートじたいは「スニーカーにインスパイアされた形状」(メイヤー氏)だそうだ。

VOL.2
ボルボの新型電気自動車「EX30」にはスターウォーズのデザインが取り入れられている!?

エンジンの回転の盛り上がりには、時に人間的な表現が用いられる。しかしBEV(バッテリー電気自動車)はエンジンもなく無音なため、より無機質な、機械的な印象が強くなる。ボルボはそんなBEVに人間的な要素を入れたと主張する。連載1回目はこちら。 どことなく楽しい感じの表情 ボルボEX30は、いってみれば、二面性のあるモデルだ。ひとつは、地球環境保全(サステナビリティ)を重視したコンセプト。もうひとつは、大トルクの電気モーターの特性を活かしたスポーツ性。 デザイナーは「いずれにしても、BEVと一目でわかってもらうデザインが重要と考えました」(エクステリアデザイン統括のTジョン・メイヤー氏)と言う。 「もちろん、昨今ではICE(エンジン車)かBEVか、デザインをするときあえて差別化をしないのが世界的な流れです。ただし、私たちとしては、スカンジナビアデザインの原則を守りつつデザインしました」 メイヤー氏の言葉を借りて、この場合のスカンジナビアデザインの肝要を説明すると「形態は機能に従う」となる。 「そこで、上部に開口部とグリルはもたせないようにしようと。ただし(インバーターなどのために)空気を採り入れる必要はあるので、下にインレットは設けています」 ボルボ車のデザインアイディンティティである「トール(神の)ハンマー」なる形状のヘッドランプも採用。ただし、カバーで覆った一体型でなく、四角いLEDのマトリックスが独立しているような形状があたらしい。 「そうやって出来上がったのがこのデザインです。顔になっていて、そこには眼があって、鼻があって、口があるんです。どことなく楽しいかんじで、これまで以上に人間的な表情を実現しました」 暴力的でもなければ、ロボット的でもない。メイヤー氏はそこを強調した。

VOL.1
ボルボの新型電気自動車「EX30」は、相反する2面性を合わせ持つ文武両道なクルマ

ボルボの新たなBEV(バッテリー電気自動車)として、ついに10月2日から「サブスク」モデルの申し込みが始まるEX30。この「ボルボ史上最小のBEV」はどのように開発されたのか。ミラノで行われたワールドプレミアに参加した小川フミオ氏が関係者の声とともに振り返る。 スカンディナビアン+デジタル 2023年6月に登場したEX30は、コアコンピューティングテクノロジーを大胆に採用する、ボルボの新世代BEV。 内容にとどまらず、同時に、デザイン面でもさまざまな大胆な試みがなされているのも特徴だ。 いってみれば、伝統的ともいえるスカンディナビアンテイストに、デジタライゼーションの融合。 「私たちのデザイン的価値のすべてを小さなフォーマットで具現」したモデルと、ボルボ・カーズはプレスリリース内で謳う。 「非常に電気自動車的なデザインで(中略)閉じられたシールド(フロントグリルの開口部のこと)とデジタル表現を用いたトールハンマーヘッドライト」がフロント部の特徴とされる。 さらに新世代BEVとしてボルボが狙ったものはなんだろう。ミラノでの発表会において出合った担当デザイナー(たち)に、デザインの見どころと背景にあるコンセプトを取材した。

VOL.5
「BMW iX xDrive50」の高速電費は我慢不要! ロングドライブにうってつけのEV

[THE EV TIMES流・電費ガチ計測] THE EV TIMES(TET)流電費計測の5回目を、8月に「BMW iX xDrive50」で実施した。車高の高いSUVにもかかわらず、高速巡航時に電費が低下しにくいのが特徴だ。その詳細をお伝えする。 ※計測方法などについてはこちら、試乗記はこちらをご覧ください。 100km/h巡航でどんどん行こう iX xDrive50のカタログに記載された「一充電走行距離」は650km(WLTC)で、電池容量は111.5kWhだ。650kmを実現するには、電費が5.83km/kWh(以後、目標電費)を上回る必要がある。 各区間の計測結果は下記表の通り。5.83km/kWhを上回った場合、赤字にしている。 これまでのTETによる電費計測で初めてA区間の往路と平均で目標電費を超えた。A区間のように標高差が少ない場所では同じ状況になり得る、つまり100km/h巡航で一充電走行距離の650km近くを走破できる可能性がある。   100km/h巡航でも600kmは走れそう 各巡航速度の平均電費は下表の通りだ。「航続可能距離」は電費にバッテリー総容量をかけたもの、「一充電走行距離との比率」は650kmに対して、どれほど良いのか、悪いかだ。 iXのエクステリアは、大きなキドニーグリルが特徴的だ。ざっくり言えば全長5m、全幅2m、全高1.7m、車重2.5トンの堂々としたボディだが、Cd値が0.25と優れている。 100km/h巡航におけるiXの電費は、5.71km/kWhであった。絶対的な数値としては決して高くないが、一充電走行距離との比率を計算すると98%と、これまでにTETが計測したデータの中で最高の結果を記録した。120km/h巡航でもこの数字は78%であった。 つまり、iXは高速巡航でも電費の低下が少ないEVだといえる。 ちなみに、過去に計測したメルセデス「EQE 350+」は、この100km/h巡航時の比率が90%だった。EQEはセダンボディで背が低く、Cd値0.22で、高速巡航には有利であることを考えても、iXの98%という数字の凄さが分かる。 この結果は、空力性能の良好さと高効率なパワートレインの賜物ではないかと思う。BMWが「テクノロジー・フラッグシップ」「次世代を見据え、長距離走行が可能な革新的な次世代電気自動車」と謳っているだけのことはある。これらの記録を塗り替えるクルマが現れるのか、今後の計測が楽しみだ。   各巡航速度ごとの比率は以下の通り。80km/hから100km/hに速度を上げると21%電費が悪くなる。120km/hから80km/hに下げると1.6倍の航続距離の伸長が期待できる。

VOL.19
ぐっとパワフルな2024年モデルのフォルクスワーゲン「ID.4」をミュンヘンで緊急試乗! [ID.4をチャージせよ!:その19]

コンパクトSUVタイプの電気自動車「ID.4」が2024年モデルにアップデート。この最新版をドイツ・ミュンヘンでさっそく試乗しました。 モーターのパワーは60kW増し 「ID.4」が2024年モデルにアップデートし、コックピットのデザインが様変わりしたことは、前回のコラムで述べました。さらに今回の仕様変更では、走りにかかわる部分にも手が加えられています。 一番の変更が、新開発のモーターが搭載されたこと。フォルクスワーゲンでは、ID.ファミリーのプレミアムセダンである「ID.7」に、新たに開発した「APP550」型の電気モーターを採用しました。最高出力は210kW(286PS)と実にパワフルです。これが2024年モデルの「ID.4プロ」にも搭載されることになりました。これまでの「ID.4プロ」の最高出力が150kWですので、出力は60kW、4割増しという計算。最大トルクも従来の310Nmから545Nmとなり、こちらは75%の大幅アップです。 バッテリー容量は77kWhで変更はありませんが、2024年モデルからはバッテリーの“プレコンディショニング機能”を搭載し、冬の寒い時期、充電前にバッテリー温度を高めておくことで充電量の低下を抑えることができます。これはうれしい! 他にも、可変ダンピングシステムのDCC(ダイナミックシャシーコントロール)の改良なども行われ、果たしてどんな走りを見せてくれるのか、興味津々です。 早く乗ってみたいなぁ……と思っていたら、なんとうれしいことに、発表されたばかりの2024年式ID.4 プロ・パフォーマンスを、ドイツ・ミュンヘンで試乗するチャンスに恵まれました。試乗時間は約20分と超ショートですが、わが愛車のID.4 プロ・ローンチエディションと比較するには十分な時間です。

VOL.18
ミュンヘンで「ID.4」の2024年モデルに遭遇! [ID.4をチャージせよ!:その18]

ミュンヘンモーターショー(IAA)のメイン会場近くで、フォルクスワーゲンがメディア向けイベントを開催。そこで、2024年モデルの「ID.4」に遭遇しました。 見た目は同じ イベントスペースのパーキングに待機していたのは、“コスタアズールメタリック”のボディが爽やかな「ID.4 プロ・パフォーマンス」。日本のラインアップにはないボディカラーに目を奪われますが、エクステリアデザインはこれまでと同じで、私の愛車の「ID.4 プロ・ローンチエディション」との違いは1インチアップの21インチホイールが装着されていることくらいです。 ところが運転席に座ると、コックピットの眺めに違和感が! マイナーチェンジでもないのに、コックピットのデザインが私のID.4 プロ・ローンチエディションと大きく変わっていました。 ご存じのとおり、フォルクスワーゲンなど多くの輸入ブランドでは“イヤーモデル制”を採用していて、毎年のように細かい仕様変更を実施。エクステリアデザインは一緒でもパワートレインや装備が変わるというのはよくあること。この2024年モデルでは、インテリアのデザインまで様変わりしていたのです。 真っ先に気づいたのが、ダッシュボード中央にあるタッチパネルがリニューアルされていること。2022年モデルのID.4 プロ・ローンチエディションでは12インチのタッチパネルが搭載されていますが、この2024年モデルでは12.9インチにサイズアップが図られたのに加えて、デザインも一新され、明らかに使い勝手が向上していました。

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