コラム 記事一覧

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TEXT:桃田健史
「EVが燃えた」はなぜ刺激的なニュースになるのか? 「だからEVは危険」は偏りすぎた思考

EVの炎上がたびたび報道されている EVが燃えた。 日本ではニュースになることが、まずない。だが、アメリカ、中国、韓国などではこれまで、メーカー名称を明らかにした報道が数多くある。その多くで、メーカーからの詳しい事故報告が公になっていない点について、メディアは厳しく批評している。その報道を見て、SNSではネガティブな投稿が目立つ。 こうしたEVに対する社会の動きを、アンチEVと受け取ればいいのだろうか? そもそも、自動車が燃える事象はEVに限った話ではない。日本でも、ガソリン車やハイブリッド車、そしてトラックやバスなど、ガソリンや軽油を使うクルマが道路上で炎上することはあり得る。発生件数としては少ないとしても、SNS上で衝撃的な映像として紹介されることが少なくない。 その際「クルマは燃えるから、危ない乗りものだ」という見方をする人は多くないという印象がある。 クルマが燃えるには、それなりの原因があり、そうした状況に陥るのはかなり特殊なケースという解釈をしている人が少なくないからだ。 たとえば、大型バスではリヤタイヤがバーストして、ホイールなどが地面と接触して火花が飛び、車体後部に搭載しているエンジン周辺のオイルラインなどに着火する、といったことがある。 だが、エンジンそのものがブローすることで、車両が炎上するまでに至るケースは極めて珍しいだろう。

TAG: #ニュース #炎上 #車両火災
TEXT:御堀直嗣
中国1強になりつつあるEVの現状に待った! GMが新開発した「LMRバッテリー」でアメリカが狙うシェア奪還

GMが開発したLMRバッテリーとは 米国のゼネラルモーターズ(GM)が発表したLMRバッテリーは、リチウムマンガンリッチの意味である。 中国が牽引するLFP(リン酸鉄リチウムイオン)バッテリーと同等の原価でありながら、エネルギー密度が30%以上高いのが特徴と伝えられる。 中国製EV(電気自動車)が、世界的に販売を伸ばしている。背景にあるのは、LFP(リン酸鉄)バッテリーの安さによる、EV価格の低下だ。 日本では、EV販売が踊り場との見方があるが、世界的にはEV販売が盛り返している。補助金に依存できなくなったドイツでも上向きになってきたという。理由は、廉価車種の登場だ。 世界的に、EV販売の最大の課題は一充電走行距離にあるとされてきた。 満充電からの走行距離を伸ばそうとすれば、おのずとバッテリー容量を増加させなければならず、現状、リチウムイオンバッテリーで最上の性能を実現する3元系(コバルト/ニッケル/マンガン)の正極をもつリチウムイオンバッテリーは、性能がよくても原価が高いため、EV価格を押し上げている。なおかつ、それでも高額なEVを買ってもらえるようにと、上級車種での新車攻勢が続き、高いEVしか選択肢がない状況が販売を鈍化させてきた。 そこに、これまで欧州でいえばディーゼルエンジンの小型車に乗ってきた多くの人が買い替えられるようなEVが出はじめた。米国でいえば、日本の軽自動車に相当するであろう大衆的なピックアップトラックのEVが望まれている。 ところが、3元系の電極のリチウムイオンバッテリーを使えば、高額のピックアップトラックになってしまい、市場性が損なわれる。一方で、LFP(リン酸鉄)にしようとすれば、中国製に依存せざるを得ない。 もちろんそれは、現在のトランプ政権の意向にも反することになりかねない。そこで、満を持して登場したのが、GMが発表したLMRバッテリーというわけだ。 原価を安くする要因は、電極材料のマンガン成分を多くしたことにある。 マンガンの電極は、これが初めてではなく、三菱i‐MiEVや初代日産リーフは、正極にマンガン酸リチウムを使っていた。理由は、安全重視のためだ。 マンガンの結晶は、スピネル構造といって、リチウムイオンがたとえすべて抜けだしたとしても結晶構造が壊れず、短絡(ショート)しにくい。したがって、過充電になった際に過熱や発火を起こす懸念が少ないのである。今日なお、日産リーフのバッテリーで火災事故は起きていない。 ただし、バッテリー容量が3元系に比べ少ないのが悩みの種であった。そこで現在では、リーフも3元系に切り替えている。それでも、過去の経験を通じて得た安全対策を施し、いまなおバッテリーを原因とした事故は起きていない。

TAG: #LMRバッテリー #テクノロジー #バッテリー
TEXT:桃田健史
欧州は「EVブランドの確立」を目指さなくなった? EVの車名から考えるEVの立ち位置

車名法則の変更はEV戦略の変化のため? 最近、欧州ブランドでEVに関するネーミングに変化が出てきた。たとえば、メルセデス・ベンツの場合、国内市場における現行EVは「EQA」「EQB」「EQE SUV」「EQS Sedan / EQS SUV」というラインアップだ。つまり、「EQ+クラス」という法則である。 ところが、最新モデルであるGクラスのEVは「G 580 with EQ Technology」と呼ばれている。同モデルはメルセデス・ベンツのEV戦略の変化点だといえよう。 商品として見ると、筆者はこれまでに同モデルをさまざまなシチュエーションで試乗しているが、速さ・悪路走破性・快適性において、グローバルNo1のEVという印象をもっている。 時計の針を少し戻すと、2016年のパリ・モーターショーのメルセデス・ベンツブースに「ジェネレーション EQコンセプト」の姿があった。 その前年の2015年にパリで開催されたCOP21(第21回 気候変動枠組条約 締約国会議)で示された「パリ協定」がキッカケとなり、自動車産業界では本格的なEVシフトに向けた準備が加速した。メルセデス・ベンツとしても、2020年代に入れるとEVシフトが急速進むものと予測し、EV専用ブランドEQをお披露目した形だ。 だが、EVの実需は一定程度までは増加したものの、大ブレイクするまでには至っておらず、また環境に対する投資機運もひと段落した雰囲気がある。 そうしたなか、2023年に入ってからメルセデス・ベンツがEQブランドのあり方を再検討しているとの報道が欧州で目立つようになった。2024年後半にはCセグメントSUVでの次期EVの開発中スパイフォトが出まわるようになり、同モデルの今秋公開を予想する報道がある。さらに、国内販売店でもEQの名称から変更が進んでいる状況だ。 こうした時流を鑑みての、ブランドに対する素早い経営判断は日本メーカーも見習うところが大きいと思う。 また、アウディでもEVに関するモデル名称の変更を進めている。アウディの電動化戦略では、e-Tronをブランド化してきたが、EVについては数字の部分を偶数表記で統一するとしていたが、これを撤回した。現在は、従来どおり車格やボディサイズによって数字を振りわけており、基本的にはそうした発想に戻ることになる。 いずれにしても、中長期的には日本を含めてグローバルでEVシフトがさらに進む可能性は高い。ただし、具体的に「中長期とはいつを指すのか」を現時点で予想することは難しい。 そのうえで、欧州メーカーではEVブランドのあり方を再検討しているわけで、こうした事情は日本メーカーでも同じだといえよう。

TAG: #EVブランド #ブランド名 #車名
TEXT:渡辺陽一郎
ドル箱のミニバンやスーパーハイト軽のEVはなぜない? 本格普及を狙うなら必要なハズも立ちはだかるハードルとは

ミニバンやスーパーハイトワゴンがない理由 2025年上半期(1〜6月)における国内販売状況を見ると、乗用車に占める電気自動車の販売比率はわずか1.4%だった。ハイブリッド(マイルドタイプを含む)の販売比率は52.7%と高いのに、エンジンを搭載しない電気自動車は、ほとんど売られていない。 電気自動車が売れない背景には複数の理由があるが、決定的な事情は車種の不足だ。小型/普通車市場で約半数のシェアをもつトヨタも、トヨタブランドの電気自動車はbZ4Xのみになる。ホンダはHonda eを廃止したから、N-ONE e:の発売を控えるものの、2025年8月時点で用意される電気自動車は軽商用車のN-VAN e:だけだ。スズキはeビターラを2026年3月までに国内導入するが、これが最初の量販電気自動車だから、現時点では販売していない。 このように電気自動車がほしいと思っても、車種が少なすぎて実質的に購入できない。電気自動車が売れないのは当たり前だ。 その結果、2025年上半期に日本で売られた電気自動車の内、軽自動車の日産サクラが32%を占めた。以前はサクラが40%を超えた時期もある。電気自動車にほしい車種が見当たらず、需要が運転しやすくて価格も割安なサクラに集中した。 いい換えると、電気自動車の売れ行きを増やすなら、人気の高いカテゴリーに設定すればいい。ホンダN-BOXやスズキスペーシアのような全高が1700mmを超えるボディにスライドドアを備えた軽自動車のスーパーハイトワゴン、トヨタ・シエンタやホンダ・フリードなどのコンパクトミニバンに電気自動車があれば、売れ行きも増える。 それなのにコンパクトミニバンのSUVは用意されず、軽自動車のサクラは前述のとおり人気車だが、スライドドアは装着されない。 ではなぜミニバンやスーパーハイトワゴンの電気自動車が用意されないのか。 その理由のひとつは床面構造だ。電気自動車では床下に駆動用リチウムイオン電池を搭載する必要があるが、スライドレールや電動開閉機能を加えると、電池の床下搭載が難しくなる。サクラの開発者は「ルークスのようなスライドドアを備えた電気自動車があれば、好調に売れると思うが、実際に開発するのは難しい」と述べた。 ふたつ目の理由は市場の確保だ。電気自動車は、エンジンを搭載する車両に比べて大量に売るのが難しい。そうなると複数の国や地域で販売したいから、軽自動車やミニバンは成立させにくい。サクラも国内で好調に売る必要があり、三菱ブランドのeKクロスEVも用意した。それでも商品化は一種の賭けになる。 これらの事情により、電気自動車にはSUVが多い。天井が高いから、床下に駆動用リチウムイオン電池を搭載しても、室内高を十分に確保できる。またSUVは日本と海外の両市場で人気が高く、販売台数を増やしやすい。 それでも今後は、軽自動車のスーパーハイトワゴンの電気自動車が登場してくる。ホンダの開発者は「N-VAN e:がある以上、N-BOXの電気自動車も技術的には開発できる」という。他社でも電動スライドドアに使われるモーターの取付位置をボディの下側から中央付近に移すなど、電気自動車仕様の開発に向けた準備を進めている。 売れ筋カテゴリーとされる軽自動車のスーパーハイトワゴン、5ナンバーサイズのコンパクトミニバンやコンパクトカーの電気自動車が豊富に開発されると、日本でもEVの普及が進む可能性が高い。

TAG: #スライドドア #ミニバン #新車
TEXT:高橋 優
Zeekrの「7X」はテスラどころかBYDも凌ぐコスパ最強のEV! オーストラリアの次は日本上陸の可能性大

驚愕の鬼コスパSUV Zeekrが右ハンドル市場のオーストラリアで最新EV「7X」の先行受注をスタートしました。テスラ・モデルYよりも安いという優れたコスト競争力を実現したことで、期待される日本国内導入においてもコスト競争力が高いEVとなり得る可能性について、国内販売価格の予測を含めて解説します。 まず、今回のZeekrはすでに中国国内で001、009、X、001FR、007、009 Grand、7X、MIX、007GTというさまざまなBEVを発売中であり、さらに最新フラグシップSUVの9Xには、Zeekr初となるPHEVシステムを採用します。70kWhの超大容量バッテリーを搭載してEV航続距離380kmを確保しています。さらに、中国国内だけではなく、すでに欧州や中南米、中東、東南アジア諸国にも進出しています。 そして今回取り上げたいのが、2024年9月に中国でローンチしたミッドサイズSUV「7X」の存在です。7Xは欧州や東南アジアでも納車がスタートしていました。そして今回、オーストラリア市場においても7Xの先行受注がスタートしたのです。 最初の納車は10月スタートの予定ですが、現地メディアが驚きをもって報じているのがその値段設定です。エントリーグレードで5万7900豪ドル(日本円で約554万円)という安価な値段設定を実現しています。実際に7Xは受注開始1週間を待たずして1000台以上の受注を獲得しており、想定以上の受注動向を踏まえて、限定1000台に対する早期注文キャンペーン特典を8月17日までに急遽延長したという背景すら存在します。 とくに、オーストラリア市場におけるベストセラーEVのテスラモデルYと比較してみると、値段設定で競合グレードを下まわっている状況です。たとえばエントリーグレードでは7Xが480kmの航続距離に対して、モデルYが500kmと同等の航続距離を確保。急速充電性能では7Xが最大450kWの急速充電に対応しており圧倒しながら、3.3kWのV2L機能にも対応。0-100km/h加速も6.0秒とモデルYと同等です。 そして、値段設定でもモデルYよりも1000豪ドル安価に発売することができています。オーストラリアの場合は中国と自由貿易協定を結んでいることから関税ゼロで中国製車両を輸出可能です。とくに追加関税が課されている欧州と比較しても、そのぶんだけ安価に7Xを導入し、ベンチマークのモデルYよりも値段を引き下げることができているのです。 そして、Zeekrはすでに日本市場への参入を正式に表明しており、主力モデルとなるであろう7Xが日本でどれほどのコスト競争力を実現してくるのかに大きな注目が集まっている状況です。とくに今回判明したオーストラリア市場というのは、日本と同じく右ハンドル市場であり、さらに中国側は日本に対して15%の自動車関税を設けているものの、日本側には中国に対して自動車関税を設けていないことから条件が極めて似通っており、値段設定にもオーストラリアと同等水準を期待できるのです。 とくに日本国内においてZeekr 7Xの競合となり得るテスラモデルY、日産アリア、BYDシーライオン7、ヒョンデIONIQ5と比較してみると、やはり7Xは、おおよそ550万円程度となると推測できるエントリーグレードにおいても極めて優れたEV性能を実現している様子が見て取れます。

TAG: #SUV #中国車
TEXT:桃田健史
いくら技術が進歩しても何を買うかを決めるのは人! EVシフトが想像通りに進まないワケ

大手自動車メーカーからEVが登場して約15年 いったい、いつになったらEV本格普及が始まるのか。仮にEV普及が本格化したらガソリン車は完全になくなってしまうのか。そうした疑問をもつ人が最近、増えているのではないだろうか。なぜならば、EV普及の道筋がまだよく見えないからだ。 時計の針を戻すと、2000年代後半から2010年代前半にかけて、EVの歴史のなかで大きな変化があった。大手自動車メーカーとして初めて、EV大量生産が始まったからだ。日産「リーフ」と三菱「i-MiEV」の登場だ。 ただし、この時点で世の中でEVシフトが一気に進むと考えた人は少なかった。コンサルティング企業や証券系投資会社などが行う将来のEV普及予測には、かなりの差があった。 それが、2010年代に起こったテスラブームと中国政府によるNEV(新エネルギー車)政策によってEV普及の速度が少し早まった。さらに、2015年に開催されたCOP21(第21回 気候変動枠組条約 締約国会議)でのパリ協定がトリガーとなり、ESG投資バブルが起こった。ESG投資とは、財務情報だけではなく環境、ソーシャル、ガバナンスを重視する投資のこと。 グローバルで急激なEVシフトが始まったものの、コロナ禍の途中でESG投資バブルは終焉し、自動車メーカー各社はEV事業戦略を大幅に見直しを迫られた。 このように過去15年ほどのEV市場の変化を振り返ってみると、技術的な進化よりも国や地域の政治的な思惑によってEV市場全体が大きく揺さぶられたことがよくわかる。 技術的な視点では、コスト(車両価格)、充電インフラ数、航続距離という3点がEV普及のポイントといわれて久しいが、それだけではEV本格普及が進まないことが、過去15年の経験を踏まえて学んだ人が少なくない。それは、ユーザーだけではなく、自動車メーカー、自動車部品メーカー、電気・建設系インフラ企業、そして政府や地方自治体など、さまざまな分野の人を指す。 だからこそ、日本が主張してきたマルチパルウェイのグローバル市場における正当性が高まっているともいえる。要するに、将来の自動車普及のあり方は、技術論や地政学的な解釈だけでは決まらないということだ。 予想不能な状況では、企業としては次世代事業について「幅広で構える」ことと、それに関するコストとのバランスをどう保つかが重要だ。 結局、地球上でどのようなエネルギーを使って、人が移動するかを決めるのは人である。世の中の流れによって、人の判断は大きく変わることがあり得るということだ。

TAG: #EVシフト
TEXT:琴條孝詩
EV化だけじゃカーボンニュートラルは不可能! この先重要なのはハイブリッドとe-fuelだった

カーボンニュートラルを取り巻く現実は厳しい 近年、世界の自動車業界では、電気自動車(EV)の普及が盛んに推進されているが、その勢いが力をなくしているように見える。米国や欧州では成長率が鈍化ないし横ばい傾向も見られる。国際エネルギー機関(IEA)の高位シナリオでは、2030年に新車販売の約6割がEVになるとされるが、現在の世界シェアは25%程度にとどまっている。現実を見渡してみると、どうやらカーボンニュートラルは現実的に難しいといわざるをえないのではなかろうか。 2021年に開催されたグラスゴー気候合意(COP26)では、CO2のみならず全温室効果ガスの排出量を減らすか吸収するなど、なんらかの方法で相殺し、排出量を実質ゼロにするというネットゼロの重要性が示された。それをきっかけに世界全体が2050年のネットゼロを目指す流れになったが、その目標が実現性の乏しいものになっている。 <世界のEV戦略が直面する現実的な壁> 世界各国がカーボンニュートラルに向けてEV普及を加速させているが、その戦略には大きな問題が存在することがわかった。まず、電力源の問題である。EVは生涯にわたってICE(内燃機関)車より温室効果ガス排出量が少ないとされるが、これは電力網が十分に脱炭素化されている場合の話である。 中国、インド、アメリカ、ドイツなどの主要国では、依然として石炭や天然ガスによる火力発電が電力供給の大部分を占めている。とくに2024年時点で、中国では石炭火力発電が全体の約57%を占めており、EVを普及させても実質的なCO2削減効果は限定的である。欧州でも、ロシア・ウクライナ戦争の影響で天然ガスや石炭への依存がふたたび高まっている国も多い。 さらに深刻なのは、リチウムイオンバッテリーの製造過程における環境負荷である。リチウム、コバルト、ニッケルなどのレアメタルの採掘は、おもにアフリカや南米の発展途上国で、精製・加工の多くは中国で行なわれており、現地の環境破壊や人権問題を引き起こしている。研究によっては、バッテリー製造時のCO2排出量が車両全体の製造時排出量の40〜50%程度とする試算もある。 加えて、充電インフラの整備は世界的に大きく遅れている。ノルウェーと中国が国際的な気候目標達成に必要な速度でEVを普及させているとされるが、これらは例外的な成功例である。アメリカでは2030年までに50万基の充電器設置を目標としているが、現在の設置ペースでは達成困難と予想されている。アフリカや南米などの発展途上国では、充電インフラの整備はさらに困難な状況にある。 こうした現実を考慮すると、EVだけでカーボンニュートラルを実現するのは非常に難しく、より多様で現実的なアプローチが必要となる。とくに、既存の10億台を超えるICE車をどう脱炭素化するかが、地球規模での課題となっている。

TAG: #カーボンニュートラル #マルチパスウェイ #合成燃料
TEXT:高橋 優
新型日産リーフはアメリカで激安EVになる! ただし日本での価格は「安くない」可能性も!!

アメリカにおけるリーフの価格が判明 日産がアメリカ市場で新型リーフの値段を公開し、現在発売されているEVのなかでもっとも安価な値段設定を実現してきました。その一方で日本国内の値段設定が、想定よりも高くなる可能性が浮上してきているという最新動向を解説します。 まず三代目となる新型日産リーフについて、ハッチバックからクロスオーバーSUVに進化しながら、インテリアデザインもアリアのデザインをところどころに継承。さらに調光ガラスルーフや14.3インチのデュアルディスプレイ、BOSEの10スピーカーシステムなど、装備内容も充実させています。 そして今回判明したのが、この秋に世界に先駆けて発売するアメリカ市場において、新型リーフの正式な値段設定が公開されたという動向です。まずアメリカ仕様の新型リーフのバッテリー容量は52.9kWhと75.1kWhの2種類を設定しながら、52.9kWhのSグレードのみ、2026年春以降に納車がスタート。今回値段が公開されたのは、S+、SV+、そしてPlatinum+の3グレードです。 とくに75.1kWhバッテリーが搭載されると、航続距離はEPA基準でも最長488kmと、非常にゆとりの航続距離を実現しています。ちなみに19インチタイヤを選択すると航続距離は417kmと大きく低下することから、日本国内でタイヤサイズを選択できるのかは気になるところです。 また充電性能は最大150kWに対応し、SOC10-80%を30分程度で充電可能です。動力性能は最新の3-in-1パワートレインを採用しており、0-100km/h加速も7.6秒と、重量が増えているものの、先代モデルと同等の加速性能を実現しています。 収納スペースは420リットルのトランク容量と、先代モデルとまったく同等のスペースを確保しながら、最小回転半径は5.3m、最低地上高は135mmと都市型SUVとして必要十分なサイズ感を実現しています。 そして値段設定について、まずPlatinum+グレードが3万8990ドル(日本円で約575万円)を実現しながら、中間グレードのSV+グレードが3万4230ドル(約505万円)、そして75.1kWhバッテリーを搭載するエントリーグレードのS+グレードが2万9990ドル(約442万円)を実現しました。なので、現在インフレやEV関連の原材料コストの高騰によって、アメリカ国内で2万ドル台で発売しているEVは存在しないことから、新型リーフはアメリカ国内で発売されているもっとも安価なEVとなります。 これは、現行型リーフは40kWhバッテリー搭載グレードが2万8140ドルであることから、バッテリー容量や装備内容が大幅に充実したにもかかわらず、ほとんど値上げしてこなかったことになります。そればかりか、2026年春に投入予定のSグレードはさらに値下げされて、おそらく2万8000ドル弱という値段設定で発売されるはずです。2代目よりも安くなるとイメージしてみれば、アメリカ市場を本気で狙ってる値段設定といえるでしょう。 先代のリーフはアメリカ現地の生産工場で生産されていたものの、3代目リーフからは北米での生産を取りやめて、日本の栃木工場で日本市場分と一緒に生産されることになりました。よって輸送費がかかるという点、さらにトランプ関税によって、自動車輸出に対して15%の関税率が課されることでコストは上がっているはずです。それにもかかわらず先代モデルと比較しても安価な値段設定で発売することからも、日産が新型リーフに対して強気の値段を示してきたといえます。

TAG: #価格 #北米 #新車
TEXT:御堀直嗣
ホンダのEVは「Honda e」からじゃないんだぜ! かつて販売したフィットEVを覚えているか?

あのフィットにもEVがあった ホンダは、2012年8月に、フィットEVの国内リース販売を開始した。対象は、自治体や企業というフリート(団体)利用者である。2年間で約200台の限定的な内容だ。 車載するリチウムイオンバッテリーの容量は20kWhで、一充電走行距離は、当時のJC08モードで225kmであった。車両価格は、消費税(5%)込みで400万円である。 車体色は、限定的なリース販売であったこともあり、ブルーパールの1色のみだ。 特徴的なのは、リチウムイオンバッテリーに東芝製のSCiBを採用したことである。 SCiBは、負極にチタン酸リチウムを用いることで、一般的な炭素と比べ、リチウムイオンが負極に出入りする際の容量低下を抑えることができ、急速充電に適しているとされる。 東芝によれば、充放電のサイクル回数が2万回以上とあり、これはほかのリチウムイオンバッテリーの4~5倍にのぼる。一方、容量や電圧で劣る面があるとされるが、フィットEVのモーター出力は92kW、最大トルクは256Nmで、初代日産リーフの80kW、254Nmと比べてもほぼ同等であり、あえて不足があるというほどではないはずだ。 また、SOC(State Of Charge=バッテリーの充電状態)で0~100%まで繰り返し使え、それでも劣化が少ないといわれる。 実際、SCiBは、三菱i‐MiEVでバッテリー容量の小さい10.5kWhのMグレードにも使われ、満充電からの走行距離は短くなるが、バッテリー劣化が少ないため、あえて中古車でMグレードを選ぶ例もあるほどだ。 ホンダ関係者でフィットEVを乗り続けている人も、充電や走行性能でとくべつ劣化に悩むような不満はないと語っている。 5ナンバー車というフィット本来の使い勝手のよさもあり、フィットEVが一部のフリート関係者でのみ使われ終わってしまったのは残念である。 遡ればホンダは、1988年からEVの研究をはじめたという。 最初の実験車は、シビックシャトルをベースにしていたように記憶している(ややあやふやだが……)。1990年代初頭、国内自動車メーカーでEV開発が行われた際、実験車両として選ばれたのは、トヨタRAV4、日産プレーリーなどSUVが多かった。床下にバッテリーを車載する都合上、積載性がよかったためだろう。ただし、当時はいずれも車載するバッテリーは、エンジン車で補器用に使われる鉛酸であった。 次いで、ホンダが本格的にEV開発を進めたのは、ホンダ EVプラスになってからといえる。 このモデルはバッテリーはまだリチウムイオンではなく、ニッケル水素であった。このため、一充電走行距離は10・15モードで210kmである。空調には、ヒートポンプが用いられ、省電力への取り組みがすでにあったといえる。 DCブラシレスモーターの性能値は明らかにされなかったが、試乗する機会があり、運転してみると、EVらしく出足が鋭く、そこからの加速も躍動感があり、VTECのガソリンエンジンで魅了してきた、ホンダ車らしい活気を感じることができた。 国内への導入は1997年に、36カ月のリース販売で、国内法人営業での取引であった。しかも約20台という限定数だ。したがって、フィットEVと同様に、一般の消費者が手にする機会はなかった。 価格は発表されなかったが、リース料金は保守整備を含め26万5000円で、36カ月で954万円に達する。とても一般の手には負えない金額になる。 一方、ホンダEVプラスは米国でも実証実験の一環としてリース販売され、米国では個人への提供もあった。 カリフォルニア州に住む一家族を取材する機会があり、両親と子どもの4人家族に話を聞くと、性能にはとても満足しているとのことであった。米国では未成年の子供を学校へ両親が送り迎えする(あるいは、スクールバスを利用しなければならない)とき、子どもたちにとってEVであることが誇らしく、友達に自慢したという話もあった。 ほかに、自宅の車庫で充電プラグを充電口に差し込むのは子どもの役目で、そうした親の手伝いのできることも子どもたちを喜ばせていた。セルフスタンドでのガソリン給油は、子供にはさせられない。排出ガスを出さないだけでなく、日常的な使い勝手のなかで、子どもにも役割分担できるよさがEVにはあることを知ることができた。

TAG: #EV #名車 #国産車
TEXT:桃田健史
事故ると燃えるイメージのあるEV! 衝突安全性能はエンジン車とは違うもの?

どのメーカーも電池パックの頑丈さには気を使っている 万が一、クルマがぶつかったときに、またはぶつからないように事前に乗員を守ること。前者を衝突安全、後者を予防安全と呼ぶ。 こうしたクルマの衝突安全と予防安全の評価については、第三者機関が行う自動車アセスメントが用いられる。日本では独立行政法人 自動車事故対策機構が行うJNCAP(ジャパン・ニュー・カー・アセスメント・プログラム)において、試験結果が一般にも公開されているところだ。 自動車メーカー各社は、こうした評価を引き上げるために衝突安全性について研究・開発を進めている。その上で、EVの衝突安全性能はどのようなものなのか。また、ガソリン車やハイブリッド車と比べてEVの衝突安全性能には違いがあるのだろうか。 衝突安全について、クルマのパワートレインの違いによって大きな違いはなく、同じ土俵の上で評価される。具体的には、乗員保護性能では、フルラップ前面衝突、新オフセット前面衝突、側面衝突、後面衝突頸部保護の4つの試験。歩行者保護性能では、頭部保護と脚部保護。そして、シートベルト着用警報が試験の対象となる。 一般的に考えて、EVは同じカテゴリーのハイブリッド車やガソリン車と比べて重量が重くなることから衝撃時のエネルギーは大きくなることが、イメージとしてつかめるだろう。そのために、車体構造のあり方について、自動車メーカー各社のノウハウがある。 当然、そうしたノウハウの詳細について自動車メーカーは外部に情報を開示しないが、これまで各社のEV開発担当者らと意見交換したなかでよく出てくるのが、電池パックの頑丈さに対する配慮と、それに伴うクルマ全体の設計方法だ。 EVの衝突時、高い安全性能が求められるのは電池パック。ほとんどのEVは車両の中央の床面に設置されている。そのため、前後からの衝突で電池パックに直接衝撃が加わるケースはあまり多くないと考えられる一方で、側面衝突では電池パックへ大きなインパクトが予想されるため、メーカー各社独自に側面衝突への対応策を打っている。 その上で、側面衝突のみならず、前後からの衝突でも、車体構造が破壊されるような大事故になった場合、電池パックから出火することはあり得ると回答するメーカーが少なくない。こうした火災の危険性は、ガソリン車でも同じだという解釈だ。 また、JNCAPでは、「電気自動車の衝突時における感電保護性能試験」を行っており、それに伴う評価方法も確立されている。具体的には、直接接触保護と間接接触保護、絶縁抵抗測定、残存電圧測定、残存エネルギー測定や、高電圧バッテリーの電解液の漏れや固定状況などについてだ。 今後、EV本格普及期に入ると、衝突安全性能についてさらに踏み込んだ議論が行われることが考えられる。

TAG: #事故 #火災 #衝突安全
連載企画 一覧
VOL.15
本当に日本はEVで「立ち遅れた」のか:知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第15回

ジャパン・モビリティ・ショー開催でにわかに沸き立つ日本のEVマーケット。しかし現実の販売状況は日本において大きく立ち遅れている。技術では先導してきたはずの日本メーカーは、なぜEVで世界をリードできていないのか。この分野のベテランジャーナリストである御堀 直嗣が解説する。 日本の低いEV市場占有率 日本は、世界に先駆けて電気自動車(EV)の市販に踏み切った。2009年に三菱自動車工業が、軽自動車EVの「i-MiEV」を法人向けにリース販売しはじめ、翌10年には一般消費者向けへの販売も開始した。同年には、日産自動車も小型EVの「リーフ」を発売した。この2社によって、EVの量産市販が実現し、ことにリーフは海外への販売も行われ、「i-MiEV」はフランスの当時PSA社にOEM供給された。リーフの販売は世界で累計65万台に達し、その他EVを含めると、日産は世界で100万台のEV販売の実績を持つ。そのうち、日本国内は累計23万台である。 ちなみに、米国テスラは2022年では年間で約130万台、中国のBYDは同年に約90万台規模へ成長している。 同時にまた、世界共通の充電規格であるCHAdeMO(チャデモ)も準備され、リーフが販売される世界の各地域にCHAdeMO充電器の設置が動き出した。 それらを背景に、経済産業省は2012年度補正予算で1,005億円の補助金を計上し、全国に約10万基の充電器を整備するとした。この補助金は全額支給でないため、トヨタ/日産/ホンダ/三菱自の4社が資金を拠出し、補助金で賄いきれない残額を補填することに合意した。 しかし、現在の充電器の数は、急速充電と普通充電を合わせて約2万基である。 国内の新車販売において、EVが占める割合は1%以下という状況が長く続いた。昨2022年、「日産サクラ」と「三菱eKクロスEV」が発売となり、1年で5万台以上を販売することで2%ほどの占有率になろうかという状況にある。 一方、世界全体では、EVの市場占有率が13%になる。米国は5.8%、欧州は12%、中国は21%となっており、日本がいかに低水準であるかがみえてくる。 日本でEV普及が進まなかった理由 EVの先駆者であった日本が、なぜ欧米や中国の後塵を拝するようになったのか。 最大の要因は、せっかく1,005億円という充電基盤整備に対する経済産業省の支援があったにもかかわらず、急速充電器の整備にばかり世間の目が行き、EV利用の基本である基礎充電、すなわち自宅での普通充電(200V)の重要性が広がらなかったからである。ことに、マンションなど集合住宅の駐車場と、月極駐車場への普通充電設置がほぼできなかったことが原因であった。 EVの充電は、普通充電で8~10時間、あるいはそれ以上かかるとされ、これが単純にガソリンスタンドでの給油時間と比較されて、使い勝手が悪いとさまざまな媒体を通じて流布された。いまでもそうした論調が消えていない。しかし、自宅で普通充電できれば、寝ている間に満充電になるので、翌朝出かけるときは満充電で出発できる。 戸建て住宅に住む人はそれができた。ところが、戸建て住宅でも自宅に車庫がなく月極駐車場を利用する人は、近隣の急速充電器を利用しなければならなくなった。 集合住宅に住む人は、敷地内に駐車場が併設されていても、管理組合の同意が得られず普通充電ができない状態に陥った。無知がもたらした悲劇だ。EVを買う意思があっても、手に入れにくい状況があった。 集合住宅の管理組合で賛同が得られない最大の理由は、幹事がEV時代を予測できず、また自分には関係ないとして無視され続けたことにある。設置の経費は、ことに当初は補助金と自動車メーカー4社による補填があったので、ほぼゼロであった。現在でも、施工業者が残金を負担するなどのやりくりで、集合住宅側の負担が軽く済む仕組みが出てきている。それでもなお、管理組合で合意を得るのが難しい状況は払拭できていない。 基礎充電の普及を目指す業者の間でも、さらに難しいとされるのが月極駐車場への普通充電の設置だ。月極駐車場を管理する不動産業者の理解を得にくいという。

VOL.1
リッター200円にもう限界……給油の“枷”をぶっちぎれ!【モデルサードインパクト vol.1】

ガソリン高い、燃費も悪い、限界だ! かつてないほどの猛暑に喘いだであろう今夏。「もういいよ」「もう下がってくれ」と、気温に対して誰もが感じていたと思うが、自動車ユーザーはガソリン価格に対しても同じことを思っていたのではないだろうか。 リッターあたり170円、180円、190円、そして200円の大台を突破……給油をするたびに、誰もが憂鬱な気分になったはずだ。小生はドイツの某オープンスポーツカーに乗っているのだが、リッターあたり平均10kmでハイオク仕様。愛車にガソリンを入れるたび、顔が青ざめていた。 「高額給油という枷から解放されたい……」 EVの購入を決意した所感である。クルマを走らせることは、本来喜びのはず。給油のたびに落ち込むのは本望ではない。 小生は、THE EV TIMES(TET)の編集スタッフを務めています。この9月、「テスラ・モデル3・パフォーマンス」を購入しました。新たな愛車と共に進むEVライフを「モデル・サードインパクト」と銘打ち、連載で紹介していこうと思います。 EVは便利だと実感した「日産リーフ」 小生が初めて体験したEVは「日産リーフ」(2代目)である。遡ること2017年、「リーフ」が2代目になった頃、日産が全国で試乗キャラバンを開催し、小生はその試乗アテンダントを担当していた。そこで「リーフ」を存分に運転することができたのだ。 それゆえ、EVの利便性の高さを実感することになった。スポーツモデル顔負けの力強くスムーズな加速にまず驚いたのだが、給油という枷から外れて自由に走り回れることが大変な魅力に感じた。アイドリング状態でエアコンを入れっぱなしでもガソリン代を気にせずに済む。車内でPCを開けば、そのままオフィスになる。車の用途が無限大に広がると感じた。 充電時間も特別長いとは感じなかった。充電残量が50%くらいになったら、急速充電を使用してあっという間に80%まで回復できる。ちなみに100%まで充電した場合、280kmを走れる表示が出ていたと記憶している(当時は寒い季節で暖房を使用した)。ちょっとした遠出も十分に対応可能。「EVなんて不便」という印象は全く抱かなかった。そこで薄々と「将来はEVもアリだな」と思ったのだ。

VOL.20
VW「ID.4」オーナーはアウトバーンを時速何キロで走る? [ID.4をチャージせよ!:その20]

9月上旬、スイスで開催された「ID.TREFFEN」(ID.ミーティング)を取材した際に、参加していた「ID.4」オーナーに、そのクルマを選んだ理由などを聞きました。 フォルクスワーゲン一筋 鮮やかな“キングズレッドメタリック”のID.4で登場したのは、ドイツのハノーファーからはるばるスイスに駆けつけたデュブラック・マルクスさん。「フォルクスワーゲンT3」のTシャツを着ているくらいですから、かなりのフォルクスワーゲン好きと見ましたが、予想は的中! 「18歳で免許を取ってからこれまで30年間、フォルクスワーゲンしか買ったことがないんですよ」という、まさにフォルクスワーゲン一筋の御仁でした。 彼の愛車はID.4のなかでももっともハイパフォーマンスな「ID.4 GTX」。日本未導入のこのグレードは、2モーターの4WD仕様で、最高出力220kW(299PS)を発揮するというスポーツモデル。こんなクルマに乗れるなんて、なんともうらやましいかぎりです。 そんなマルクスさんにID.4 GTXを購入した理由を尋ねると、「これからはEVの時代だと思ったので!」と明確な答えが返ってきました。とはいえ、ID.ファミリーのトップバッターである「ID.3」が登場した時点ではすぐに動き出すことはありませんでした。「1年半くらい前にID.4 GTXを試乗する機会があって、踏んだ瞬間から力強くダッシュするID.4 GTXのパンチ力にすっかり惚れ込んでしまい、即決でしたよ(笑)」。

VOL.14
欧州メーカーはなぜ電気自動車に走ったのか?:知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第14回

EVの知識を、最新情報から「いまさらこんなこと聞いていいの?」というベーシックな疑問まで、ベテラン・ジャーナリストが答えていく連載。今回は欧州メーカーの特集です。 日本市場参入が遅かった欧州製EV 日本市場では、欧州からの電気自動車(EV)攻勢が活発に見える。ドイツの「BMW i3」が発売されたのは2013年秋で、日本市場へは2014年春に導入された。 日本の自動車メーカーがEVを市販したのは、2009年の「三菱i-MiEV」の法人向けリースが最初で、翌2010年には「i-MiEV」も一般消費者への販売を開始し、同年に「日産リーフ」が発売された。「i3」の発売は、それより数年後になってからのことだ。 ほかに、フォルクスワーゲン(VW)は、「up!」と「ゴルフ」のエンジン車をEVに改造した「e-up!」と「e-ゴルフ」を2015年から日本で発売すると2014年に発表した。だが、急速充電システムのCHAdeMOとの整合性をとることができず、断念している。その後、VWは「e-ゴルフ」を2017年秋に販売を開始した。EV専用車種となる「ID.4」を日本に導入したのは、2022年のことだ。フランスのプジョーが、「e-208」を日本で発売したのは2020年である。 以上のように、欧州全体としては、EVへの関心が高まってきたのは比較的最近のことといえる。 くじかれたディーゼル重視路線 欧州は、クルマの環境対策として、自動車メーカーごとの二酸化炭素(CO2)排出量規制を中心に動いてきた。そして2021年から、1km走行当たりの排出量を企業平均で95gとする対処方法を考えてきた。EU規制は、販売する車種ごとのCO2排出量を問うのではなく、販売するすべての車種の平均値で95gを下回らなければならないという厳しさだ。 対策の基本となったのは、ディーゼルターボ・エンジンを使った排気量の削減と、出力の低下を補う過給器との組み合わせを主体としつつ、ハイブリッドによるさらなる燃費の向上である。 既存のディーゼルターボ・エンジンをできるだけ活用しようとする考えは、欧州メーカーが補機用バッテリーの電圧を世界的な12ボルトから、36ボルトや48ボルトに変更することによるマイルドハイブリッド化に注目してきた様子からもうかがえる。 ところが、2015年にVWが米国市場でディーゼル車の排出ガス規制を偽装していたことが明らかにされた。公的機関での測定では規制値を満たすものの、実走行で急加速などした際に基準を上回る有害物質が排出され、それによって力強い加速を得られるようにした制御が発覚したのである。その影響は、VW車だけでなく、アウディなどVWグループ内に広く影響を及ぼした。

VOL.3
ボルボは新型EVの「EX30」でインテリアに新たな価値を与え、空間を最大限、利用する!

ボルボはEX30の室内で多くの新たなチャレンジを行なっていると謳う。その詳細を小川フミオ氏が訊いていく。連載1回目はこちら、2回目はこちら。 冷たさの排除し素材を“素直”に使う EX30のインテリアが、他車と決定的に違うのは、金属的な表面処理がほとんど見当たらないこと。それは意図的にそうしたのだと、インテリアデザインを統括するリサ・リーブス氏は言う。 「心したのは、冷たさの排除です。使う素材はオネスト、つまり木に見えるものは木であり、また同時に、リサイクル素材を人間にやさしいかたちで使用しました」 インテリアは「ブリーズ」(やさしい風)をはじめ「ミスト」(もや)、「パイン」(松)それに「インディゴ」と4種類(日本はそのうち「ブリーズ」と「ミスト」を導入)。 「ブリーズを例にとると、デザインインスピレーションはサマーデイズ。シート表皮の素材はピクセルニットとノルディコ、ダッシュボードの飾り材はパーティクル、そして空気吹き出し口のカラーはブルーです」 リーブス氏は説明してくれる。 「ピクセルニットはPETボトルをリサイクルしたもの。それを3Dニッティング(立体編み)プロセスでシート用素材にしています。組み合わせるノルディコは、PETボトルなどのリサイクル素材、北欧で計画的に伐採された木から採取された素材、リサイクルされたワインコルクなどで作られたテキスタイルです」 ダッシュボード用のパーティクルは、窓枠やシャッターを中心に工業廃棄物であるプラスチックを粉砕したものだし、フロアマットは漁網をリサイクルしたという。 「リサイクル材とともに、インテリアは雰囲気を統一したので、私たちは“ルーム”という名を与えています。インディゴの場合、デザインインスピレーションは”夜のはじまり”で、デニムをリサイクルしたときに余る糸を使った素材をシート表皮に使っています」 シートじたいは「スニーカーにインスパイアされた形状」(メイヤー氏)だそうだ。

VOL.2
ボルボの新型電気自動車「EX30」にはスターウォーズのデザインが取り入れられている!?

エンジンの回転の盛り上がりには、時に人間的な表現が用いられる。しかしBEV(バッテリー電気自動車)はエンジンもなく無音なため、より無機質な、機械的な印象が強くなる。ボルボはそんなBEVに人間的な要素を入れたと主張する。連載1回目はこちら。 どことなく楽しい感じの表情 ボルボEX30は、いってみれば、二面性のあるモデルだ。ひとつは、地球環境保全(サステナビリティ)を重視したコンセプト。もうひとつは、大トルクの電気モーターの特性を活かしたスポーツ性。 デザイナーは「いずれにしても、BEVと一目でわかってもらうデザインが重要と考えました」(エクステリアデザイン統括のTジョン・メイヤー氏)と言う。 「もちろん、昨今ではICE(エンジン車)かBEVか、デザインをするときあえて差別化をしないのが世界的な流れです。ただし、私たちとしては、スカンジナビアデザインの原則を守りつつデザインしました」 メイヤー氏の言葉を借りて、この場合のスカンジナビアデザインの肝要を説明すると「形態は機能に従う」となる。 「そこで、上部に開口部とグリルはもたせないようにしようと。ただし(インバーターなどのために)空気を採り入れる必要はあるので、下にインレットは設けています」 ボルボ車のデザインアイディンティティである「トール(神の)ハンマー」なる形状のヘッドランプも採用。ただし、カバーで覆った一体型でなく、四角いLEDのマトリックスが独立しているような形状があたらしい。 「そうやって出来上がったのがこのデザインです。顔になっていて、そこには眼があって、鼻があって、口があるんです。どことなく楽しいかんじで、これまで以上に人間的な表情を実現しました」 暴力的でもなければ、ロボット的でもない。メイヤー氏はそこを強調した。

VOL.1
ボルボの新型電気自動車「EX30」は、相反する2面性を合わせ持つ文武両道なクルマ

ボルボの新たなBEV(バッテリー電気自動車)として、ついに10月2日から「サブスク」モデルの申し込みが始まるEX30。この「ボルボ史上最小のBEV」はどのように開発されたのか。ミラノで行われたワールドプレミアに参加した小川フミオ氏が関係者の声とともに振り返る。 スカンディナビアン+デジタル 2023年6月に登場したEX30は、コアコンピューティングテクノロジーを大胆に採用する、ボルボの新世代BEV。 内容にとどまらず、同時に、デザイン面でもさまざまな大胆な試みがなされているのも特徴だ。 いってみれば、伝統的ともいえるスカンディナビアンテイストに、デジタライゼーションの融合。 「私たちのデザイン的価値のすべてを小さなフォーマットで具現」したモデルと、ボルボ・カーズはプレスリリース内で謳う。 「非常に電気自動車的なデザインで(中略)閉じられたシールド(フロントグリルの開口部のこと)とデジタル表現を用いたトールハンマーヘッドライト」がフロント部の特徴とされる。 さらに新世代BEVとしてボルボが狙ったものはなんだろう。ミラノでの発表会において出合った担当デザイナー(たち)に、デザインの見どころと背景にあるコンセプトを取材した。

VOL.5
「BMW iX xDrive50」の高速電費は我慢不要! ロングドライブにうってつけのEV

[THE EV TIMES流・電費ガチ計測] THE EV TIMES(TET)流電費計測の5回目を、8月に「BMW iX xDrive50」で実施した。車高の高いSUVにもかかわらず、高速巡航時に電費が低下しにくいのが特徴だ。その詳細をお伝えする。 ※計測方法などについてはこちら、試乗記はこちらをご覧ください。 100km/h巡航でどんどん行こう iX xDrive50のカタログに記載された「一充電走行距離」は650km(WLTC)で、電池容量は111.5kWhだ。650kmを実現するには、電費が5.83km/kWh(以後、目標電費)を上回る必要がある。 各区間の計測結果は下記表の通り。5.83km/kWhを上回った場合、赤字にしている。 これまでのTETによる電費計測で初めてA区間の往路と平均で目標電費を超えた。A区間のように標高差が少ない場所では同じ状況になり得る、つまり100km/h巡航で一充電走行距離の650km近くを走破できる可能性がある。   100km/h巡航でも600kmは走れそう 各巡航速度の平均電費は下表の通りだ。「航続可能距離」は電費にバッテリー総容量をかけたもの、「一充電走行距離との比率」は650kmに対して、どれほど良いのか、悪いかだ。 iXのエクステリアは、大きなキドニーグリルが特徴的だ。ざっくり言えば全長5m、全幅2m、全高1.7m、車重2.5トンの堂々としたボディだが、Cd値が0.25と優れている。 100km/h巡航におけるiXの電費は、5.71km/kWhであった。絶対的な数値としては決して高くないが、一充電走行距離との比率を計算すると98%と、これまでにTETが計測したデータの中で最高の結果を記録した。120km/h巡航でもこの数字は78%であった。 つまり、iXは高速巡航でも電費の低下が少ないEVだといえる。 ちなみに、過去に計測したメルセデス「EQE 350+」は、この100km/h巡航時の比率が90%だった。EQEはセダンボディで背が低く、Cd値0.22で、高速巡航には有利であることを考えても、iXの98%という数字の凄さが分かる。 この結果は、空力性能の良好さと高効率なパワートレインの賜物ではないかと思う。BMWが「テクノロジー・フラッグシップ」「次世代を見据え、長距離走行が可能な革新的な次世代電気自動車」と謳っているだけのことはある。これらの記録を塗り替えるクルマが現れるのか、今後の計測が楽しみだ。   各巡航速度ごとの比率は以下の通り。80km/hから100km/hに速度を上げると21%電費が悪くなる。120km/hから80km/hに下げると1.6倍の航続距離の伸長が期待できる。

VOL.19
ぐっとパワフルな2024年モデルのフォルクスワーゲン「ID.4」をミュンヘンで緊急試乗! [ID.4をチャージせよ!:その19]

コンパクトSUVタイプの電気自動車「ID.4」が2024年モデルにアップデート。この最新版をドイツ・ミュンヘンでさっそく試乗しました。 モーターのパワーは60kW増し 「ID.4」が2024年モデルにアップデートし、コックピットのデザインが様変わりしたことは、前回のコラムで述べました。さらに今回の仕様変更では、走りにかかわる部分にも手が加えられています。 一番の変更が、新開発のモーターが搭載されたこと。フォルクスワーゲンでは、ID.ファミリーのプレミアムセダンである「ID.7」に、新たに開発した「APP550」型の電気モーターを採用しました。最高出力は210kW(286PS)と実にパワフルです。これが2024年モデルの「ID.4プロ」にも搭載されることになりました。これまでの「ID.4プロ」の最高出力が150kWですので、出力は60kW、4割増しという計算。最大トルクも従来の310Nmから545Nmとなり、こちらは75%の大幅アップです。 バッテリー容量は77kWhで変更はありませんが、2024年モデルからはバッテリーの“プレコンディショニング機能”を搭載し、冬の寒い時期、充電前にバッテリー温度を高めておくことで充電量の低下を抑えることができます。これはうれしい! 他にも、可変ダンピングシステムのDCC(ダイナミックシャシーコントロール)の改良なども行われ、果たしてどんな走りを見せてくれるのか、興味津々です。 早く乗ってみたいなぁ……と思っていたら、なんとうれしいことに、発表されたばかりの2024年式ID.4 プロ・パフォーマンスを、ドイツ・ミュンヘンで試乗するチャンスに恵まれました。試乗時間は約20分と超ショートですが、わが愛車のID.4 プロ・ローンチエディションと比較するには十分な時間です。

VOL.18
ミュンヘンで「ID.4」の2024年モデルに遭遇! [ID.4をチャージせよ!:その18]

ミュンヘンモーターショー(IAA)のメイン会場近くで、フォルクスワーゲンがメディア向けイベントを開催。そこで、2024年モデルの「ID.4」に遭遇しました。 見た目は同じ イベントスペースのパーキングに待機していたのは、“コスタアズールメタリック”のボディが爽やかな「ID.4 プロ・パフォーマンス」。日本のラインアップにはないボディカラーに目を奪われますが、エクステリアデザインはこれまでと同じで、私の愛車の「ID.4 プロ・ローンチエディション」との違いは1インチアップの21インチホイールが装着されていることくらいです。 ところが運転席に座ると、コックピットの眺めに違和感が! マイナーチェンジでもないのに、コックピットのデザインが私のID.4 プロ・ローンチエディションと大きく変わっていました。 ご存じのとおり、フォルクスワーゲンなど多くの輸入ブランドでは“イヤーモデル制”を採用していて、毎年のように細かい仕様変更を実施。エクステリアデザインは一緒でもパワートレインや装備が変わるというのはよくあること。この2024年モデルでは、インテリアのデザインまで様変わりしていたのです。 真っ先に気づいたのが、ダッシュボード中央にあるタッチパネルがリニューアルされていること。2022年モデルのID.4 プロ・ローンチエディションでは12インチのタッチパネルが搭載されていますが、この2024年モデルでは12.9インチにサイズアップが図られたのに加えて、デザインも一新され、明らかに使い勝手が向上していました。

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