曽宮 岳大 記事一覧

TEXT:曽宮 岳大
「クルマ好きだからテスラを選んだ」 モデル3オーナー、石井さんが感じた衝撃

EVを充電中、待ち時間を楽しめるグルメを会員同士が紹介しあうコミュニティ『EVごはん』。その運営に携わられている石井啓介さんは、大が付くクルマ好きで、BMW M3を夢見つつ、愛車に迎えることになったのが「モデル3」だった。多くのクルマを乗り継ぎ、テスラでのEVライフを楽しんでいるエンスージャストに、なぜテスラを選んだのか、そしてEVを所有することで変化したカーライフやコミュニティの楽しみについてうかがった。 常識を根底から覆す販売方法に湧いた興味 聞けば石井さんは、子どもの頃からのクルマ好き。自動車雑誌を買いあさっていた学生時代を経て、大人になってからは往年の名車の中古車を1年おきぐらいに買い換えるカーライフを送ってきた。自動車関連業界を得意とするマーケティング会社を運営する一方で、EVライフをより楽しめる場を作りたいと『EVごはん』をスタート。そうした経験からも、クルマへの関心の強さや豊富な経験をうかがい知ることができる。そんな石井さんは、どんな理由からテスラを選んだのか。 「僕はずっとクルマ好きで、『EVはつまらない』とか『クルマ好きがEVに行ったら終わり』みたいな風潮がある中で、フラットにEVを見てきたつもりです。もっとも仕事の関係で15年ぐらい前の初期の国産のEVにも触れる機会があった時には、EVはまだ航続距離が短く、実用レベルにないと感じましたし、5年ぐらい前にプライベートで日産リーフの1週間モニターを経験したときには、だいぶ進化を感じたものの、それでもまだまだかなと思っていたんです。コロナ禍のなか2020年にクルマを乗り換えようと思った時、たまには新車を買ってみようと色々なクルマに試乗したのですが、どれも面白く感じなくて。あるとき知人にテスラを紹介してもらい、乗ってみたところ衝撃を受けたんです」   黎明期のEVに乗った時は、どのあたりに不満を感じたのですか? 「加速はスムーズだし、車内は静かで面白さも感じたのですが、クルマ好きの目線では動力性能も卓越したものではなかったし、ハンドリングも良いというレベルまでには達していなかったと思います。僕は一番好きなクルマはBMW M3なんですけど、やはりお値段的に買えるものではないので。そこでテスラに乗ってみたところ、動力性能はM3並に高いことを知り、強く惹かれたんです(笑)」   EVが勢いよく加速する感覚を経験済みだったにもかかわらず、テスラの加速は他のEVとは違ったと? 「そうですね。全然違いましたね。あとはクルマに関する仕事をずっとやってきて、販売店でクルマを売るためにはどうしたらいいかということに携わってきた身として、スマホでポチッとするだけでクルマを買うというところに衝撃を受けました。テスラのショールームに行ってもお茶ひとつ出なかったし、セールスはいないし、職業柄、正直驚きましたね。これで5〜600万円やそれ以上するクルマを売るのか……と。従来の自動車マーケティングが全否定された感じがして衝撃でしたね。と同時にこんな時代が来たんだ、と。これは経験しておきたいという興味をそそられた部分もあります」

TAG: #モデル3
TEXT:曽宮 岳大
サソリの毒はEVになっても不変!? 「アバルト 500e」の予約注文が欧州で1500台超え。人気の理由を探ってみた

アバルト初の電気自動車となる「アバルト 500e」がヨーロッパで好評を持って受け入れられているようだ。ステランティスの発表によると、2022年11月22日に発表されたアバルト500eの初回限定車「ローンチエディション」は、1,949台の予定販売台数のうち、2月末時点で1,500台以上の注文予約が入っているとのこと。現在、アバルトは500eのヨーロッパツアーを展開中で、受注はさらに伸びそうだ。 アバルトならではの「デザイン」「性能」「音」 フィアット500eをベースに、内外装や機関にアバルト流のチューンアップが施され、昨年11月に披露された「アバルト500e」。アバルトといえば、可愛らしさの中にもスポーティが際立つ小粋なルックスや見た目以上の強烈な走り、そしてチューニングメーカーもびっくりの迫力のエキゾーストサウンドで世界中のクルマ好きを魅了。日本でも大人気を呼んでいる。   そうしたトラディショナルな魅力を持つアバルトだけに、電動化された500eの反響は気になるところだったが、結果は数字が示す通り。Bセグメントに属する小型車で43,000ユーロ(約622万円)からというサイズの割に高価格帯な設定にもかかわらず、好調な販売を示している。なぜアバルト500eは人気を集められるのか。その理由を探ってみたい。 第一にクルマ作りの巧みさが挙げられるだろう。アバルトファンを魅了している大きな要素は、「デザイン」「性能」「音」の3つ。これは創始者カルロ・アバルトの時代からのアバルトの伝統であり、今なお貫かれている特長だ。この点において、新生アバルト500eはファンの期待に応える特長を500eに与えている点が注目に値する。 ガソリン車を上回るパフォーマンス まずはデザイン。アバルト500eは、フィアット・チンクエチェントの可愛らしさをキープしながら、ひと目でアバルトとわかるデザインを持っている。それも歴代モデルの雰囲気を残しながらも従来型のコピー&ペイストで仕上げるのではなく、新規デザインで“らしさ”を再現していると言えるだろう。 例えば丸目ヘッドライトや、フェンダーに被さるようなボンネットフード、タイヤを四隅に追いやったプロポーション、下に行くに連れボリューム感が増すプロポーションなどは、紛う方なきチンクエチェントのそれ。アバルト版ではその特長を生かしながら、フロントのリップスポイラーやエアインテーク、アバルト専用のアルミホイール、地面に這いつくばるような印象を与えるサイドスカートおよびABARTHのレタリングなどにより、スポーティな雰囲気をグンと高めている。 性能面については、パワートレインを既存の1.4  Lターボエンジンからモーターに変更しつつも、さらなる高性能化を図っている。最高出力こそ116kW(155hp)と既存の595コンペティツィオーネ(135kW/180hp)に一歩譲るものの、モーターの特性を生かしたレスポンスの良さや、20km/hから40km/hまでの加速性能、60km/hから100km/hまでの加速性能において、従来モデルを上回る性能を達成しているという。 ちなみに500eの最大トルクは235Nmで、既存の595 Competizioneのノーマルモード時の230Nmを上回る。その結果、バロッコのテストコースにおけるラップタイムでEV版アバルトは、従来のガソリンモデルに1秒以上の差をつけているという。サーキットでもしっかり速いマシンに仕上げられているようだ。今後さらなるハイチューン版の登場も期待できそうだ。

TAG: #500e
TEXT:曽宮 岳大
純正ホイールに変化。MINI(ミニ)が電気自動車に採用したホイールはエコなだけでなく、スタイリッシュで空力にも配慮

自動車に使われる素材に変化が見られつつある。最近では、環境保護の観点から本革不使用をうたうメーカーが出てきたり、リサイクル素材の使用を強化するなど、エコな素材の利用を模索する取り組みが加速している。そうしたなか、BMWグループはMINI(ミニ)の限定の電気自動車「ミニ・クーパーSEコンバーチブル」に、リサイクルアルミで作られたホイールを採用。強度や品質を確保しつつ、CO2排出量を大幅に低減し、さらに空力面にも配慮した革新的なホイールを完成させた。 CO2排出量を最大75%削減 「ミニ・クーパーSEコンバーチブル」に純正採用されるアルミホイールは、リサイクル素材のみで作られている。アルミホイールへの完全リサイクル素材の採用は、量販モデルでは同ブランド初という。なお同ホイールは、アルミホイールメーカー、ロナール(Ronal)とBMWのコラボレーションにより実現したもの。参考までにロナールは現在、アフターマーケット用ホイールとして有名なSPEEDLINE(スピードライン)の供給元でもある。 BMWグループによれば、再生アルミニウムを使用することで、原材料の消費を抑えられるだけでなく、製造工程においてエネルギー消費の大きい電解工程を省けるため、CO2排出量を大幅に抑えられるという。具体的にはアルミニウム1kgあたりのCO2排出量は0.16kg で済み、従来品に比べると工場でのCO2排出量を最大75%削減できるとのこと。 ディスク面に空力デザインを採用 完成したアルミホイールは、デザインも特徴的。4本あるスポークのうちの1本がセンターキャップと繋がった非対称デザインを採用となっており、ミニらしいユニークかつ目を惹くディスク形状となっている。 さらに細かに見ていくと、スポーク間の空間を半分ほど覆うインレイが設けられている点に注目したい。これはホイール内への空気の巻き込みを防ぐことで、空力を向上させるもの。通常のホイールではブレーキの冷却のため、スポーク間の空間を確保したものが一般的だが、ミニ・クーパーSEコンバーチブルはEVゆえ、通常のブレーキ以外に回生ブレーキで制動力を生み出すことができるゆえ、このような特殊なデザインを採用しやすいのかもしれない。

TAG: #MINI #ホイール
TEXT:曽宮 岳大
ジープからEVが続々。ステランティス、2022年はEVを29万台弱販売。2023年に登場するSUVのニューモデル3台

米ジープや伊フィアット、仏プジョーなど15のブランドを展開する自動車大手ステランティス・グループ。2022年には、前年比26%増の168億ユーロ(約2兆4175億円)の純利益をあげた。拡大市場の電気自動車(EV)は、2022年に前年比41%増の28万8000台を販売し、台数を急増させた。2023年はさらに9車種のEVを投入すると意気込む。なかでも注目はジープ。2023年には3モデルが登場する予定だ。 次なる狙いは米市場 ステランティスの発表によると、2022年の自動車販売は純利益と調整後営業利益で過去最高を達成した。同グループは、2030年までに純利益を2021年比で倍増させ、10年間連続で2桁台の利益率を上げるという野心的な戦略を掲げているが、2022年はその目標をクリアした格好だ。 成長市場のEVについては、現在23台をラインナップしており、グローバルで28万8000台を販売した。EU加盟国内で商用車のEV販売で首位、EV全体では2位となったほか、イタリアでは「フィアット ニュー500(日本名:500e)」が首位、フランスでは「プジョー e-208」が販売ナンバー1を獲得している。ステランティスは2030年までにCO2排出量を半減(2021年比)させる目標を掲げており、2022年は11%の削減を達成した。 ステランティス・グループのEV攻勢は今後も続く。現在23台のEVラインナップを2024年末までには47台に増やす計画だ。その勢いを強力に加速させるのがジープ。2022年末に欧州で披露された「アベンジャー(Avenger)」のほか、北米では2023年中に「リーコン(Recon)」と「ワゴニアS(Wagoneer S)」の発表が予定されている。 ジープが海外向けに展開するコンパクトSUV「アベンジャー」 ジープ初のバッテリーEV(BEV)として登場したアベンジャーは、Bセグメントに位置する全長4.08mのコンパクトSUV。欧州をはじめとする海外市場向けに用意するモデルだ。航続距離は400km(WLTPモード)を達成し、急速充電を使用すれば3分の充電で30kmの走行が可能という。アベンジャーは日本にも導入される見通しだ。 ルビコントレイルを横断できる走破性と航続距離「リーコン」 アベンジャーが欧州など海外向けであるのに対し、リーコンは、北米を主戦場とするEV。完全新設計となるEV専用モデルで、4×4モデルが展開される。ジープでは、過酷なオフロードコース「ルビコントレイル」を走破した、卓越したオフロード性能を持つモデルに「Trail Rated」という特別な称号を与えているが、リーコンはルビコントレイルを横断し、街まで戻ってこられるだけの航続距離を確保するとのこと。2023年前半に北米で受注が開始され、2024年に北米での生産開始が予定されている。 航続距離640km級のプレミアムSUV「 ワゴニアS」  ジープが2021年に発表した大型SUV「ワゴニア」にもEVの設定が計画されている。コードネーム「ワゴニアS」と呼ばれるそのモデルは、1充電あたりの航続距離は640km、最高出力は440kW(600ps)、0-96km/h加速は3.5秒を誇る、高性能プレミアムSUVだ。先進技術と充実した豪華装備が与えられる模様で、ラインナップの中でも存在感を放つモデルとなりそう。こちらも2023年前半に受注が開始され、2024年の生産開始が計画されている。 EV化の波は欧州で急速に進んでいるが、北米市場でも電動モデルの発表が相次いでいる。ステランティスのような大手が人気ブランドからEVを発表すると、その勢いにさらに弾みがつくだろう。 ジープでは2030年までにEVのフルラインナップを完成させ、モデル数や販売台数の面でSUVナンバーワンを目指すとしている。今後の動向を楽しみに見守りたい。

TEXT:曽宮 岳大
MINI初のオープンEV「クーパーSEコンバーチブル」製品詳報

BMWは電気自動車の「クーパーSEコンバーチブル」を欧州において999台限定で発売することを発表した。現在欧州におけるMINIの電動モデルのラインナップは、ハッチバックの「クーパーSE」と、プラグインハイブリッドの「クロスオーバーPHEV」(現地名カントリーマンPHEV)の2種類で、これに限定モデルとしてオープン版の「SEコンバーチブル」が加わる格好だ。さらに2023年中に新たなEVが披露される予定もある。 クルマ好きを刺激する4シーターオープンEV ミニがEVの「ミニクーパーSE」を発表したのは2020年。クーパーSのEV版ということで「SE」の呼称が与えられた3ドアハッチバックは、欧州で堅調に台数を伸ばし2022年には2万7000台を販売。ミニ全体の22%を占めた。 今回の「クーパーSEコンバーチブル」の設定は、こうした欧州におけるEVの需要の高まりに応えるもの。オープン+EVというニッチな仕様を仕向地のニーズに応じて展開できるのは、生産ラインが柔軟な生産体制に対応できることを示している。なおクーパーSEコンバーチブルはオランダの工場においてミニコンバーチブルと同じ生産ラインで組み立てが行われる。 クーパーSEコンバーチブルは、ブラックとシルバーの2種類のボディカラーが設定され、ドアハンドルやサイドガーニッシュ、ライト周りにはブロンズの装飾が施される。また、ドアシルのトリムとサイドガーニッシュには限定車であることを示す「1 of 999」の文字が入る。 ホイールは、「エレクトリックパワースポーク」と呼ばれる2トーン仕様の17インチ専用アルミホイールが採用される。こちらは循環素材を用いるとともに、製造時にグリーン電力を用い環境に配慮したものとなっている。 インテリアは、ヒーター機能付きのナッパレザー製スポーツステアリングホイールや、シートヒーター付きのスポーツシートなど、スポーティ感と快適性を共に高めた仕様となる。他にもピアノブラックの加飾やアンビエントライト、EVのみのイエローのカラーアクセントにより、特別感が高められているのが特徴。また、ストップ&ゴー機能付きのアダプティブクルーズコントロールや、ミニドライビングアシストなど運転支援機能も備えている。

TAG: #BMW #MINI
TEXT:曽宮 岳大
トヨタ、「次世代のBEV」をレクサスブランドで展開。2026年を目処にEVに最適化したクルマづくりを展開

トヨタ自動車は4月1日からの新体制を明らかにすると共に、新体制下で進めるクルマづくりの方向性について発表を行った。会見では、4月1日付で新たに社長に就任する佐藤恒治執行役員が自らの想いを口にした。そのスピーチの中からEV目線で重要なポイントをご紹介したい。 “豊田章男経営”を継承 「もっといいクルマづくり」という掛け声を発し、自らマスターテストドライバーを務めながら、トヨタ車の基本性能の向上や“味”のあるクルマづくりを推進してきた豊田章男社長。彼が旗を振った13年間でトヨタ車には味の濃いモデルが増え、GR系モデルの展開など、趣味性の深いモデルも数多く登場した。クルマ好き社長の真骨頂を見せてくれた格好だ。 そして4月1日付で社長に就任する佐藤恒治次期社長は、1992年入社。技術畑の出身で、シャシー設計、レクサスGS開発担当主査、レクサスLC開発責任者などを経て2020年に執行役員に。豊田社長からの指名により新社長に就任することになった。会見では、「4月からは“豊田章男経営”を新体制で実践していく」と意欲を述べた。 “豊田章男経営”とは、もっといいクルマづくりや、議論よりも現場でまず行動する、といった豊田社長が育んだクルマづくりの思想だ。 「電動化」「知能化」「多様化」を3本柱に 3本柱を立てて説明する欧米式のプレゼンテーションスタイルも豊田社長譲り。佐藤次期社長率いる新体制でのクルマづくりのテーマは、「電動化」「知能化」「多様化」の3本。 「電動化」については、「マルチパスウェイをブラさず、全方位で取り組んでいく」と述べた。これは2021年12月のEV戦略の説明会で豊田社長が語った、電動化を推進しつつ、社会の変化に柔軟に対応できるよう多様なパワートレインの可能性を模索していくというスタンスと同様の内容だ。マルチパスウェイとは、複数のアプローチをとっていくという意味。例えば自然エネルギーが豊富な地域ではEVを、南米ではバイオエタノールをエネルギーとするという具合に各地の市場で適材適所のパワートレインを提供する方針だ。 ただ今回のプレゼンではEVについて、もう一歩踏み込んだ内容が語られた。それは2026年を目標に電池やプラットフォーム、クルマづくりなどを、EV向けに最適化した「次世代のEV」をレクサスから送り出すということ。 バッテリーについては、トヨタでは全固体電池や次世代リチウムイオン・バッテリーなど複数の商品開発を進めていることを明らかにしているが、今回はこの点については触れられていない。

TAG: #トヨタ #レクサス
TEXT:曽宮岳大
ロールス・ロイス、ブランド初のEV「スペクター」にブランド史上最も厳しいテストを実施。2023年後半の発売に向け、250万kmのテストは最終ステージへ

ロールス・ロイス初となる電気自動車「スペクター」。イギリスの超高級車ブランドは、2023年第4四半期に予定するそのラグジュアリー4シータークーペの発売に向け、現在世界各地で走行テストを実施している。ブランド初のEVとなるだけに、そのテストはブランド史上最も厳格に実施されているという。どんなテストが行われているのか。 氷点下40度から摂氏50度の猛暑まで スペクターは、ロールス・ロイスが2022年10月に発表したラグジュアリー2ドアクーペ。ロールス・ロイスは2030年までに全モデルを電動化するとしており、スペクターはその第一弾として、ブランドの歴史に名を刻む重要なモデルとなる。 それだけに開発テストは通常以上に入念に行っているようだ。設定されたテストプログラムは総走行距離で250万kmにも及ぶという。テストは2021年冬、北極圏にほど近いスウェーデン・アリエプローグにおいて開始され、−40℃の世界でパフォーマンスや雪道におけるハンドリング性能が試された。 現在は南アフリカの北ケープ州と西ケープ州の2箇所において猛暑地のテストを実施している。北部は乾燥した猛暑、南部は多湿の地中海性気候という異なる状況下で、最高気温は50℃を超えることがあるという。そうした厳しい条件のなか砂利道や砂塵など様々な路面を走らせ、あらゆる状況下における信頼性の検証や、ハードウェアおよびソフトウェアの調整を行ない、改良を加えているという。 こうした検証を通じて、2万5000に及ぶパフォーマンス関連パーツ機能の調整が行われる。テストでは、“マージナル・ゲイン”の法則なる手法を取り入れているという。これは個々の部品の小さな改良の積み重ねにより、大きな成果を得ようという考え方。EVという新たな分野における開発となるだけに、これまで以上に幅広い検証プロセスを用いて、品質向上に努めているようだ。 具体的な例では、電気自動車に欠かせない回生ブレーキ。スペクターの開発では、そのフィーリングの検証や調整に実に1500時間が費やされたという。他にもロールス・ロイスの特長とされる“マジックカーペットライド(魔法の絨毯のような乗り心地)”を実現するため、ゴム製サスペンションブッシュの硬度変化が起こる高温下においても適切なブッシュ特性が発揮されるように検証を行っているという。乗り心地は「超」が付く高級車にとって非常に重要な要素となるだけに、入念に開発を進めているようだ。

TAG: #ロールス・ロイス #発売前モデル
TEXT:曽宮岳大
シカゴオートショー開幕、シボレーやクライスラー、ダッジなどがSUVやマッスルカーの電気自動車を出展

120年以上の歴史を持つアメリカの伝統的な自動車見本市「シカゴ・オートショー2023」が現地時間2月11日、幕を開ける。同モーターショーでは人気の高いSUV市場を狙い、各ブランドから様々なSUVが出展される。発売予定の新型EVや、コンセプトカーを中心に代表的なモデルをいくつかご紹介しよう。 今年登場する人気SUVのEV版「シボレー・ブレイザーEV」 2023年夏から順次販売が開始されるシボレー・ブレイザーEVは、現地ではミッドサイズに位置付けられる4ドア・5人乗りのSUV。歴史あるブレイザーのブランド力やスタイリッシュなデザインを強みに、「フォード マスタング マッハE」や「テスラ モデルY」などのライバル車を追撃する。 航続距離や装備の異なる4つのグレードが設定され、メーカー公称の航続距離は247~320マイル(約395〜512km)。価格は約45,000〜66,000ドル(約590〜867万円)に設定される。高出力版の「SS」グレードは、最高出力415kW(557hp)を生み出し、0-96km/h加速が約4秒という加速性能を誇り、従来の大排気量V8に匹敵する性能を誇る。 充電は11.5kWの家庭用電源と190kWの急速充電に対応し、後者では10分の充電時間で78マイル(約125km)走行可能とされる。最新モデルらしく運転支援装置も充実しており、高速道路で有効なハンズフリー機能や、ステアリングやブレーキ、ギアチェンジを自動化したパーキングアシスト機能などを備える。 スタート価格400万円を切る電動SUV「シボレー・エクイノックスEV」 同じくシボレー・ブランドが出展する「エクイノックスEV」は、ブレイザーEVよりも小さく、コンパクトSUVに位置付けられる4ドア・5人乗りのEVだ。2023年後半に発売が予定され、価格は30,000ドル(約394万円)から設定される。「フォルクスワーゲンID.4」や「日産アリア」あたりと競合することになりそうだ。 パワートレインならびに駆動方式は、FFとeAWDが設定され、FFモデルでは最大300マイル(約480km)の航続距離を実現。この点ではクラス上のモデルに引けを取らない。また、最高出力はFFモデルで156kW(210hp)、eAWDモデルでは216kW(290hp)を発生し、0-60マイル(約96km)を6秒台でこなすという。充電は家庭用120V/240V電源のほか150kWの急速充電に対応し、後者では10分の充電で約70マイル(約110km)走行できるという。

TAG: #クライスラー #シカゴオートショー2023 #シボレー #ダッジ
TEXT:曽宮岳大
次世代バッテリーの実用化近づく。日産自動車、オープン2シーターコンセプト「MAX-OUT(マックスアウト)」の実車公開

予定される15台の新型バッテリーEVの中にはスポーツカーも!? 日産自動車が2月4日に実車を初披露した2シーターオープンコンセプト「MAX-OUT(マックスアウト)」。そのお披露目を兼ねた記者発表では、グローバルプロダクトマーケティング部 理事のパンディクシラ・ポンズ氏と、第二プロダクトデザイン部 シニアデザインダイレクターのアローバ・ジオバーニ氏(ビデオ出演)、同デザインマネージャーのユー・リーハオ氏が登壇しプレゼンテーションを行うと共に、ポンズ氏とリーハオ氏がプレスからの質問に応じてくれた。このコンセプトカーにどのような意味が込められているのか。会場で得られた情報を報告したい。 マックスアウトは、2021年11月にバーチャルで公開された3台のコンセプトカーのうちの1台。実車公開となった今回のお披露目では、Nissan Ambition 2030で発表された電動化計画が順調に進んでいることを示す狙いもあるようだ。   同計画では、日産が2030年までに23台の電動モデルを投入し、このうちの15台はバッテリーEVとなることが明らかにされている。様々なカテゴリーのバッテリーEVが今後登場することが期待できそうだが、その中には走りの楽しさを追求したスポーツモデルも想定されていることをマックスアウトは示唆している。ピュアスポーツカーをラインアップしているブランドは数少ないなか、日産は「GT-R」と「フェアレディZ」の2台のスポーツカーをラインアップし、その伝統を守っているのだ。 ではマックスアウトは、次世代EVスポーツの姿を示したものなのか。この点については、日産は「具体的な生産の予定はない」としており、マックスアウトがこのままの形で市販化されることはなさそうだ。とはいうものの、マックスアウトには将来の市販EVスポーツに受け継がれそうなデザインや技術が随所に散りばめられているのだ。 密度2倍、充電時間1/3の全固体電池を搭載 まずはデザインとパッケージングについて。マックスアウトでは「全固体電池」の搭載を想定し設計されている。全固体電池とは、日産が2028年度中の実用化を目指して自社で開発・生産を予定している次世代バッテリー。その特徴は、従来のリチウムイオン電池に対して2倍とされる高いエネルギー密度と、約1/3という充電時間の早さ。コスト低減に寄与するという。 これによりバッテリーのコンパクト化や、一充電でより長距離を走れるEVの実現が可能になり、より幅広いジャンルのクルマに採用しやすくなる。EV専用プラットフォームとの組み合わせにより床のフラット化と低重心化が可能となり、スポーツカーの運動性能向上にも寄与する。 マックスアウトでは、空気抵抗が少ない流線型のフォルムや、床下の完全フラット化により空力の向上を実現しており、エモーショナルなフォルムや電量消費の低減を両立している。

TEXT:Text:曽宮岳大
双日自動車がBYDのディーラー事業に参入 横浜と名古屋に店舗設置へ

双日株式会社は、BYDの日本法人であるBYDオートジャパン株式会社と、乗用車ディーラーに関する契約を締結したと発表した。 双日自動車では、日本、アジア、中南米などで卸売・小売事業を展開しており、韓国ブランド車や中国ブランド車の取り扱いを強化している。BYD事業では、輸入ブランド車の販売などで実績のあるグループ会社がBYDオート横浜中央(2023年4月中に開業予定)、ならびにBYDオート名古屋北(2023年度中に開業予定)の2店舗を運営することを発表した。 また、これらの店舗オープン前には開発準備室を設け、1月31日に発売された「BYD ATTO 3(アット3)」の受注・販売を行う。開発準備室は、神奈川県横浜市中区(2023年4月オープン予定)と、愛知県清須市春日に設置する予定だ。 BYD ATTO 3は、BYDブランドの日本向け第1弾となる電動クロスオーバーSUV。ボディサイズは、全長4455mm×全幅1875mm×全高1615mmと、コンパクト-ミッドサイズ(Cセグメント)に位置するSUVモデルで、58.56kWhのリチウムイオン・バッテリーを搭載し、航続距離485kmを誇る。車両価格(440万円)に対する航続距離の長さでは日産リーフを凌駕し、国内での売れ行きに注目が集まる。 なおBYDオートジャパンでは、2025年末までに100を超えるショールームの設置を目標に掲げており、それまでの期間は商談や試乗の案内ができる開発準備室を設置し、BYD車の販売とブランドの認知向上を図っていく。 並行してラインナップの拡充を図り、2023年中にEVコンパクトカーの「DOLPHIN(ドルフィン)」を投入。2023 年後半にはセダンの「SEAL(シール)」の国内展開も予定している。

連載企画 一覧
VOL.15
本当に日本はEVで「立ち遅れた」のか:知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第15回

ジャパン・モビリティ・ショー開催でにわかに沸き立つ日本のEVマーケット。しかし現実の販売状況は日本において大きく立ち遅れている。技術では先導してきたはずの日本メーカーは、なぜEVで世界をリードできていないのか。この分野のベテランジャーナリストである御堀 直嗣が解説する。 日本の低いEV市場占有率 日本は、世界に先駆けて電気自動車(EV)の市販に踏み切った。2009年に三菱自動車工業が、軽自動車EVの「i-MiEV」を法人向けにリース販売しはじめ、翌10年には一般消費者向けへの販売も開始した。同年には、日産自動車も小型EVの「リーフ」を発売した。この2社によって、EVの量産市販が実現し、ことにリーフは海外への販売も行われ、「i-MiEV」はフランスの当時PSA社にOEM供給された。リーフの販売は世界で累計65万台に達し、その他EVを含めると、日産は世界で100万台のEV販売の実績を持つ。そのうち、日本国内は累計23万台である。 ちなみに、米国テスラは2022年では年間で約130万台、中国のBYDは同年に約90万台規模へ成長している。 同時にまた、世界共通の充電規格であるCHAdeMO(チャデモ)も準備され、リーフが販売される世界の各地域にCHAdeMO充電器の設置が動き出した。 それらを背景に、経済産業省は2012年度補正予算で1,005億円の補助金を計上し、全国に約10万基の充電器を整備するとした。この補助金は全額支給でないため、トヨタ/日産/ホンダ/三菱自の4社が資金を拠出し、補助金で賄いきれない残額を補填することに合意した。 しかし、現在の充電器の数は、急速充電と普通充電を合わせて約2万基である。 国内の新車販売において、EVが占める割合は1%以下という状況が長く続いた。昨2022年、「日産サクラ」と「三菱eKクロスEV」が発売となり、1年で5万台以上を販売することで2%ほどの占有率になろうかという状況にある。 一方、世界全体では、EVの市場占有率が13%になる。米国は5.8%、欧州は12%、中国は21%となっており、日本がいかに低水準であるかがみえてくる。 日本でEV普及が進まなかった理由 EVの先駆者であった日本が、なぜ欧米や中国の後塵を拝するようになったのか。 最大の要因は、せっかく1,005億円という充電基盤整備に対する経済産業省の支援があったにもかかわらず、急速充電器の整備にばかり世間の目が行き、EV利用の基本である基礎充電、すなわち自宅での普通充電(200V)の重要性が広がらなかったからである。ことに、マンションなど集合住宅の駐車場と、月極駐車場への普通充電設置がほぼできなかったことが原因であった。 EVの充電は、普通充電で8~10時間、あるいはそれ以上かかるとされ、これが単純にガソリンスタンドでの給油時間と比較されて、使い勝手が悪いとさまざまな媒体を通じて流布された。いまでもそうした論調が消えていない。しかし、自宅で普通充電できれば、寝ている間に満充電になるので、翌朝出かけるときは満充電で出発できる。 戸建て住宅に住む人はそれができた。ところが、戸建て住宅でも自宅に車庫がなく月極駐車場を利用する人は、近隣の急速充電器を利用しなければならなくなった。 集合住宅に住む人は、敷地内に駐車場が併設されていても、管理組合の同意が得られず普通充電ができない状態に陥った。無知がもたらした悲劇だ。EVを買う意思があっても、手に入れにくい状況があった。 集合住宅の管理組合で賛同が得られない最大の理由は、幹事がEV時代を予測できず、また自分には関係ないとして無視され続けたことにある。設置の経費は、ことに当初は補助金と自動車メーカー4社による補填があったので、ほぼゼロであった。現在でも、施工業者が残金を負担するなどのやりくりで、集合住宅側の負担が軽く済む仕組みが出てきている。それでもなお、管理組合で合意を得るのが難しい状況は払拭できていない。 基礎充電の普及を目指す業者の間でも、さらに難しいとされるのが月極駐車場への普通充電の設置だ。月極駐車場を管理する不動産業者の理解を得にくいという。

VOL.1
リッター200円にもう限界……給油の“枷”をぶっちぎれ!【モデルサードインパクト vol.1】

ガソリン高い、燃費も悪い、限界だ! かつてないほどの猛暑に喘いだであろう今夏。「もういいよ」「もう下がってくれ」と、気温に対して誰もが感じていたと思うが、自動車ユーザーはガソリン価格に対しても同じことを思っていたのではないだろうか。 リッターあたり170円、180円、190円、そして200円の大台を突破……給油をするたびに、誰もが憂鬱な気分になったはずだ。小生はドイツの某オープンスポーツカーに乗っているのだが、リッターあたり平均10kmでハイオク仕様。愛車にガソリンを入れるたび、顔が青ざめていた。 「高額給油という枷から解放されたい……」 EVの購入を決意した所感である。クルマを走らせることは、本来喜びのはず。給油のたびに落ち込むのは本望ではない。 小生は、THE EV TIMES(TET)の編集スタッフを務めています。この9月、「テスラ・モデル3・パフォーマンス」を購入しました。新たな愛車と共に進むEVライフを「モデル・サードインパクト」と銘打ち、連載で紹介していこうと思います。 EVは便利だと実感した「日産リーフ」 小生が初めて体験したEVは「日産リーフ」(2代目)である。遡ること2017年、「リーフ」が2代目になった頃、日産が全国で試乗キャラバンを開催し、小生はその試乗アテンダントを担当していた。そこで「リーフ」を存分に運転することができたのだ。 それゆえ、EVの利便性の高さを実感することになった。スポーツモデル顔負けの力強くスムーズな加速にまず驚いたのだが、給油という枷から外れて自由に走り回れることが大変な魅力に感じた。アイドリング状態でエアコンを入れっぱなしでもガソリン代を気にせずに済む。車内でPCを開けば、そのままオフィスになる。車の用途が無限大に広がると感じた。 充電時間も特別長いとは感じなかった。充電残量が50%くらいになったら、急速充電を使用してあっという間に80%まで回復できる。ちなみに100%まで充電した場合、280kmを走れる表示が出ていたと記憶している(当時は寒い季節で暖房を使用した)。ちょっとした遠出も十分に対応可能。「EVなんて不便」という印象は全く抱かなかった。そこで薄々と「将来はEVもアリだな」と思ったのだ。

VOL.20
VW「ID.4」オーナーはアウトバーンを時速何キロで走る? [ID.4をチャージせよ!:その20]

9月上旬、スイスで開催された「ID.TREFFEN」(ID.ミーティング)を取材した際に、参加していた「ID.4」オーナーに、そのクルマを選んだ理由などを聞きました。 フォルクスワーゲン一筋 鮮やかな“キングズレッドメタリック”のID.4で登場したのは、ドイツのハノーファーからはるばるスイスに駆けつけたデュブラック・マルクスさん。「フォルクスワーゲンT3」のTシャツを着ているくらいですから、かなりのフォルクスワーゲン好きと見ましたが、予想は的中! 「18歳で免許を取ってからこれまで30年間、フォルクスワーゲンしか買ったことがないんですよ」という、まさにフォルクスワーゲン一筋の御仁でした。 彼の愛車はID.4のなかでももっともハイパフォーマンスな「ID.4 GTX」。日本未導入のこのグレードは、2モーターの4WD仕様で、最高出力220kW(299PS)を発揮するというスポーツモデル。こんなクルマに乗れるなんて、なんともうらやましいかぎりです。 そんなマルクスさんにID.4 GTXを購入した理由を尋ねると、「これからはEVの時代だと思ったので!」と明確な答えが返ってきました。とはいえ、ID.ファミリーのトップバッターである「ID.3」が登場した時点ではすぐに動き出すことはありませんでした。「1年半くらい前にID.4 GTXを試乗する機会があって、踏んだ瞬間から力強くダッシュするID.4 GTXのパンチ力にすっかり惚れ込んでしまい、即決でしたよ(笑)」。

VOL.14
欧州メーカーはなぜ電気自動車に走ったのか?:知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第14回

EVの知識を、最新情報から「いまさらこんなこと聞いていいの?」というベーシックな疑問まで、ベテラン・ジャーナリストが答えていく連載。今回は欧州メーカーの特集です。 日本市場参入が遅かった欧州製EV 日本市場では、欧州からの電気自動車(EV)攻勢が活発に見える。ドイツの「BMW i3」が発売されたのは2013年秋で、日本市場へは2014年春に導入された。 日本の自動車メーカーがEVを市販したのは、2009年の「三菱i-MiEV」の法人向けリースが最初で、翌2010年には「i-MiEV」も一般消費者への販売を開始し、同年に「日産リーフ」が発売された。「i3」の発売は、それより数年後になってからのことだ。 ほかに、フォルクスワーゲン(VW)は、「up!」と「ゴルフ」のエンジン車をEVに改造した「e-up!」と「e-ゴルフ」を2015年から日本で発売すると2014年に発表した。だが、急速充電システムのCHAdeMOとの整合性をとることができず、断念している。その後、VWは「e-ゴルフ」を2017年秋に販売を開始した。EV専用車種となる「ID.4」を日本に導入したのは、2022年のことだ。フランスのプジョーが、「e-208」を日本で発売したのは2020年である。 以上のように、欧州全体としては、EVへの関心が高まってきたのは比較的最近のことといえる。 くじかれたディーゼル重視路線 欧州は、クルマの環境対策として、自動車メーカーごとの二酸化炭素(CO2)排出量規制を中心に動いてきた。そして2021年から、1km走行当たりの排出量を企業平均で95gとする対処方法を考えてきた。EU規制は、販売する車種ごとのCO2排出量を問うのではなく、販売するすべての車種の平均値で95gを下回らなければならないという厳しさだ。 対策の基本となったのは、ディーゼルターボ・エンジンを使った排気量の削減と、出力の低下を補う過給器との組み合わせを主体としつつ、ハイブリッドによるさらなる燃費の向上である。 既存のディーゼルターボ・エンジンをできるだけ活用しようとする考えは、欧州メーカーが補機用バッテリーの電圧を世界的な12ボルトから、36ボルトや48ボルトに変更することによるマイルドハイブリッド化に注目してきた様子からもうかがえる。 ところが、2015年にVWが米国市場でディーゼル車の排出ガス規制を偽装していたことが明らかにされた。公的機関での測定では規制値を満たすものの、実走行で急加速などした際に基準を上回る有害物質が排出され、それによって力強い加速を得られるようにした制御が発覚したのである。その影響は、VW車だけでなく、アウディなどVWグループ内に広く影響を及ぼした。

VOL.3
ボルボは新型EVの「EX30」でインテリアに新たな価値を与え、空間を最大限、利用する!

ボルボはEX30の室内で多くの新たなチャレンジを行なっていると謳う。その詳細を小川フミオ氏が訊いていく。連載1回目はこちら、2回目はこちら。 冷たさの排除し素材を“素直”に使う EX30のインテリアが、他車と決定的に違うのは、金属的な表面処理がほとんど見当たらないこと。それは意図的にそうしたのだと、インテリアデザインを統括するリサ・リーブス氏は言う。 「心したのは、冷たさの排除です。使う素材はオネスト、つまり木に見えるものは木であり、また同時に、リサイクル素材を人間にやさしいかたちで使用しました」 インテリアは「ブリーズ」(やさしい風)をはじめ「ミスト」(もや)、「パイン」(松)それに「インディゴ」と4種類(日本はそのうち「ブリーズ」と「ミスト」を導入)。 「ブリーズを例にとると、デザインインスピレーションはサマーデイズ。シート表皮の素材はピクセルニットとノルディコ、ダッシュボードの飾り材はパーティクル、そして空気吹き出し口のカラーはブルーです」 リーブス氏は説明してくれる。 「ピクセルニットはPETボトルをリサイクルしたもの。それを3Dニッティング(立体編み)プロセスでシート用素材にしています。組み合わせるノルディコは、PETボトルなどのリサイクル素材、北欧で計画的に伐採された木から採取された素材、リサイクルされたワインコルクなどで作られたテキスタイルです」 ダッシュボード用のパーティクルは、窓枠やシャッターを中心に工業廃棄物であるプラスチックを粉砕したものだし、フロアマットは漁網をリサイクルしたという。 「リサイクル材とともに、インテリアは雰囲気を統一したので、私たちは“ルーム”という名を与えています。インディゴの場合、デザインインスピレーションは”夜のはじまり”で、デニムをリサイクルしたときに余る糸を使った素材をシート表皮に使っています」 シートじたいは「スニーカーにインスパイアされた形状」(メイヤー氏)だそうだ。

VOL.2
ボルボの新型電気自動車「EX30」にはスターウォーズのデザインが取り入れられている!?

エンジンの回転の盛り上がりには、時に人間的な表現が用いられる。しかしBEV(バッテリー電気自動車)はエンジンもなく無音なため、より無機質な、機械的な印象が強くなる。ボルボはそんなBEVに人間的な要素を入れたと主張する。連載1回目はこちら。 どことなく楽しい感じの表情 ボルボEX30は、いってみれば、二面性のあるモデルだ。ひとつは、地球環境保全(サステナビリティ)を重視したコンセプト。もうひとつは、大トルクの電気モーターの特性を活かしたスポーツ性。 デザイナーは「いずれにしても、BEVと一目でわかってもらうデザインが重要と考えました」(エクステリアデザイン統括のTジョン・メイヤー氏)と言う。 「もちろん、昨今ではICE(エンジン車)かBEVか、デザインをするときあえて差別化をしないのが世界的な流れです。ただし、私たちとしては、スカンジナビアデザインの原則を守りつつデザインしました」 メイヤー氏の言葉を借りて、この場合のスカンジナビアデザインの肝要を説明すると「形態は機能に従う」となる。 「そこで、上部に開口部とグリルはもたせないようにしようと。ただし(インバーターなどのために)空気を採り入れる必要はあるので、下にインレットは設けています」 ボルボ車のデザインアイディンティティである「トール(神の)ハンマー」なる形状のヘッドランプも採用。ただし、カバーで覆った一体型でなく、四角いLEDのマトリックスが独立しているような形状があたらしい。 「そうやって出来上がったのがこのデザインです。顔になっていて、そこには眼があって、鼻があって、口があるんです。どことなく楽しいかんじで、これまで以上に人間的な表情を実現しました」 暴力的でもなければ、ロボット的でもない。メイヤー氏はそこを強調した。

VOL.1
ボルボの新型電気自動車「EX30」は、相反する2面性を合わせ持つ文武両道なクルマ

ボルボの新たなBEV(バッテリー電気自動車)として、ついに10月2日から「サブスク」モデルの申し込みが始まるEX30。この「ボルボ史上最小のBEV」はどのように開発されたのか。ミラノで行われたワールドプレミアに参加した小川フミオ氏が関係者の声とともに振り返る。 スカンディナビアン+デジタル 2023年6月に登場したEX30は、コアコンピューティングテクノロジーを大胆に採用する、ボルボの新世代BEV。 内容にとどまらず、同時に、デザイン面でもさまざまな大胆な試みがなされているのも特徴だ。 いってみれば、伝統的ともいえるスカンディナビアンテイストに、デジタライゼーションの融合。 「私たちのデザイン的価値のすべてを小さなフォーマットで具現」したモデルと、ボルボ・カーズはプレスリリース内で謳う。 「非常に電気自動車的なデザインで(中略)閉じられたシールド(フロントグリルの開口部のこと)とデジタル表現を用いたトールハンマーヘッドライト」がフロント部の特徴とされる。 さらに新世代BEVとしてボルボが狙ったものはなんだろう。ミラノでの発表会において出合った担当デザイナー(たち)に、デザインの見どころと背景にあるコンセプトを取材した。

VOL.5
「BMW iX xDrive50」の高速電費は我慢不要! ロングドライブにうってつけのEV

[THE EV TIMES流・電費ガチ計測] THE EV TIMES(TET)流電費計測の5回目を、8月に「BMW iX xDrive50」で実施した。車高の高いSUVにもかかわらず、高速巡航時に電費が低下しにくいのが特徴だ。その詳細をお伝えする。 ※計測方法などについてはこちら、試乗記はこちらをご覧ください。 100km/h巡航でどんどん行こう iX xDrive50のカタログに記載された「一充電走行距離」は650km(WLTC)で、電池容量は111.5kWhだ。650kmを実現するには、電費が5.83km/kWh(以後、目標電費)を上回る必要がある。 各区間の計測結果は下記表の通り。5.83km/kWhを上回った場合、赤字にしている。 これまでのTETによる電費計測で初めてA区間の往路と平均で目標電費を超えた。A区間のように標高差が少ない場所では同じ状況になり得る、つまり100km/h巡航で一充電走行距離の650km近くを走破できる可能性がある。   100km/h巡航でも600kmは走れそう 各巡航速度の平均電費は下表の通りだ。「航続可能距離」は電費にバッテリー総容量をかけたもの、「一充電走行距離との比率」は650kmに対して、どれほど良いのか、悪いかだ。 iXのエクステリアは、大きなキドニーグリルが特徴的だ。ざっくり言えば全長5m、全幅2m、全高1.7m、車重2.5トンの堂々としたボディだが、Cd値が0.25と優れている。 100km/h巡航におけるiXの電費は、5.71km/kWhであった。絶対的な数値としては決して高くないが、一充電走行距離との比率を計算すると98%と、これまでにTETが計測したデータの中で最高の結果を記録した。120km/h巡航でもこの数字は78%であった。 つまり、iXは高速巡航でも電費の低下が少ないEVだといえる。 ちなみに、過去に計測したメルセデス「EQE 350+」は、この100km/h巡航時の比率が90%だった。EQEはセダンボディで背が低く、Cd値0.22で、高速巡航には有利であることを考えても、iXの98%という数字の凄さが分かる。 この結果は、空力性能の良好さと高効率なパワートレインの賜物ではないかと思う。BMWが「テクノロジー・フラッグシップ」「次世代を見据え、長距離走行が可能な革新的な次世代電気自動車」と謳っているだけのことはある。これらの記録を塗り替えるクルマが現れるのか、今後の計測が楽しみだ。   各巡航速度ごとの比率は以下の通り。80km/hから100km/hに速度を上げると21%電費が悪くなる。120km/hから80km/hに下げると1.6倍の航続距離の伸長が期待できる。

VOL.19
ぐっとパワフルな2024年モデルのフォルクスワーゲン「ID.4」をミュンヘンで緊急試乗! [ID.4をチャージせよ!:その19]

コンパクトSUVタイプの電気自動車「ID.4」が2024年モデルにアップデート。この最新版をドイツ・ミュンヘンでさっそく試乗しました。 モーターのパワーは60kW増し 「ID.4」が2024年モデルにアップデートし、コックピットのデザインが様変わりしたことは、前回のコラムで述べました。さらに今回の仕様変更では、走りにかかわる部分にも手が加えられています。 一番の変更が、新開発のモーターが搭載されたこと。フォルクスワーゲンでは、ID.ファミリーのプレミアムセダンである「ID.7」に、新たに開発した「APP550」型の電気モーターを採用しました。最高出力は210kW(286PS)と実にパワフルです。これが2024年モデルの「ID.4プロ」にも搭載されることになりました。これまでの「ID.4プロ」の最高出力が150kWですので、出力は60kW、4割増しという計算。最大トルクも従来の310Nmから545Nmとなり、こちらは75%の大幅アップです。 バッテリー容量は77kWhで変更はありませんが、2024年モデルからはバッテリーの“プレコンディショニング機能”を搭載し、冬の寒い時期、充電前にバッテリー温度を高めておくことで充電量の低下を抑えることができます。これはうれしい! 他にも、可変ダンピングシステムのDCC(ダイナミックシャシーコントロール)の改良なども行われ、果たしてどんな走りを見せてくれるのか、興味津々です。 早く乗ってみたいなぁ……と思っていたら、なんとうれしいことに、発表されたばかりの2024年式ID.4 プロ・パフォーマンスを、ドイツ・ミュンヘンで試乗するチャンスに恵まれました。試乗時間は約20分と超ショートですが、わが愛車のID.4 プロ・ローンチエディションと比較するには十分な時間です。

VOL.18
ミュンヘンで「ID.4」の2024年モデルに遭遇! [ID.4をチャージせよ!:その18]

ミュンヘンモーターショー(IAA)のメイン会場近くで、フォルクスワーゲンがメディア向けイベントを開催。そこで、2024年モデルの「ID.4」に遭遇しました。 見た目は同じ イベントスペースのパーキングに待機していたのは、“コスタアズールメタリック”のボディが爽やかな「ID.4 プロ・パフォーマンス」。日本のラインアップにはないボディカラーに目を奪われますが、エクステリアデザインはこれまでと同じで、私の愛車の「ID.4 プロ・ローンチエディション」との違いは1インチアップの21インチホイールが装着されていることくらいです。 ところが運転席に座ると、コックピットの眺めに違和感が! マイナーチェンジでもないのに、コックピットのデザインが私のID.4 プロ・ローンチエディションと大きく変わっていました。 ご存じのとおり、フォルクスワーゲンなど多くの輸入ブランドでは“イヤーモデル制”を採用していて、毎年のように細かい仕様変更を実施。エクステリアデザインは一緒でもパワートレインや装備が変わるというのはよくあること。この2024年モデルでは、インテリアのデザインまで様変わりしていたのです。 真っ先に気づいたのが、ダッシュボード中央にあるタッチパネルがリニューアルされていること。2022年モデルのID.4 プロ・ローンチエディションでは12インチのタッチパネルが搭載されていますが、この2024年モデルでは12.9インチにサイズアップが図られたのに加えて、デザインも一新され、明らかに使い勝手が向上していました。

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