#バッテリー
TEXT:御堀直嗣
リチウムが入手困難ならナトリウム! いま注目を集める「ナトリウムイオン電池」ってどんなもの?

未来を担うかもしれない新時代のバッテリー ナトリウムイオンバッテリーとは、リチウムより周期表で原子番号が大きいナトリウムを正極に使うバッテリーをいう。ナトリウムイオンが、正極と負極の間を行き来することで充電と放電を行う仕組みは、リチウムイオンバッテリーと同じだ。 リチウムとナトリウムでは資源の入手のしやすさが異なり、ナトリウムのほうがより豊富に存在するため、EVを含め電動化が進むにつれてバッテリー需要が増大する際に、価格面を含めた手に入れやすさで注目されだした。 ただ、これまでナトリウムイオンバッテリーがあまり話題にならなかったのは、リチウムイオンバッテリーに比べ1セルあたりの電圧が低いためだった。リチウムイオンが4Vであるのに対し、ナトリウムイオンは2.5V程度だ。4割ほど電圧が低いということは、同じ容量を車載した際の一充電走行距離が4割近く短くなることを意味する。 EVに乗る際にもっとも気になるのは一充電走行距離の長さだろう。そこに弱さがあれば、いくら資源が豊富であり原価が安く済んでも、消費者の目は向きにくい。 それでも開発は続けられ、2009年ごろには1セル3Vまで改善できるのではないかという見通しが出てきた。三菱自動車工業からi‐MiEVが発売された年だ。 さらに後年になって、中国でリン酸鉄を正極に使うリチウムイオンバッテリーが登場し、その1セルあたりの電圧は3.2Vである。ナトリウムイオンバッテリーとそれほど違いがないにもかかわらず実用化され、普及段階に入っているのだ。 これまでの開発で、ナトリウムに、資源的に安定性のある鉄、マンガン、マグネシウムを混ぜ、さらに、ニッケルやチタンを加えると、ナトリウムイオンバッテリーも3~3.5Vの性能を出せる見とおしが立ってきた。 そして負極には、リチウムイオンバッテリーで使われる黒鉛ではなくハードカーボンを使うことで、容量を増やし耐久性も上がることがわかってきた。 しかもバッテリー製造は、既存のリチウムイオンバッテリーと同じ生産方法で可能であるという。 高性能を競うのではなく手ごろな価格で適切な性能が得られる小型EVを求めるように市場が変化しはじめ、リン酸鉄の正極をもつリチウムイオンバッテリーがそれを実現しつつある。 同じ理由で、ナトリウムイオンバッテリーでも適切な性能が得られるEV開発と商品性を見極めることができるなら、採用の事例が登場するかもしれない。 EV販売が踊り場であるなどといわれるが、これまで普及型の廉価な量販EVが足りていなかったのであり、より多くの人が購入可能であったり利用しやすかったりするEVが登場すれば、ふたたびEVへの関心は高まるだろう。そのとき、ナトリウムイオンバッテリーがどこまで奮闘できるか。 ナトリウムイオンバッテリーは、リン酸鉄を含め既存のリチウムイオンバッテリーの代替というより、EVの商品性にあわせた選択肢としてまず注目すべきだろう。 もうひとつは、人工知能(AI)の普及が進みはじめた際、その運用に必要な電力を供給するうえで、電力需要の変動に対し蓄電機能が必要になる可能性があり、そうした定置型での需要にナトリウムイオンバッテリーが有効との見方もある。そちらをナトリウムイオンバッテリーで満たせるなら、リチウムイオンバッテリーはEVにより比重を高めることもできる。 まだ本格的な量産体制が整っていない段階で、誰が、いつ、いかに投資に踏み切るか次第で、ナトリウムイオンバッテリーの行く末が決まるだろう。

TAG: #テクノロジー #バッテリー #新技術
TEXT:大内明彦
EVのバッテリーに高電圧化の流れ! そんなクルマの中身の話……と思ったらユーザーにもメリットのある話だった

EVはなぜ高電圧なのか 日常的に使う言葉のなかに「電力」という単語がある。では、その意味は? 答えは読んで字のごとし、電気の力だ。電気の力とは、電気が行う仕事量のことで、この電力を電気的な表記に置き換えると「W(ワット)」となる。 この電力(W)は、電流「A(アンペア)」と電圧「V(ボルト)」の数値によって決まってくる。つまり、W(電力)=A(電流)×V(電圧)ということになる。電気によって得られる仕事量は、電圧、電流が高くなるほど大きくなるということだ。 さて、それでは視点をEVに移してみよう。 EVは、搭載するバッテリーからモーターに電気を供給することで走ることができる。そして、その動力性能(モーターの仕事量=電力)は、電圧と電流によって決まってくる。電圧が高くなるほど、電流が大きくなるほど、その仕事量は増える(性能が上がる)ことになる。逆のいい方をすれば、EVの動力性能を引き上げようとするなら、より高い電圧、より大きな電流の電気をモーターに伝えればよいわけで、このバッテリー電圧、電流がEVの基本性能を決める土台となっている。 次に、現在使われるEVのバッテリーだが、そのほとんどがリチウムイオンタイプが採用されている。では、動力用リチウムイオン電池はどういった構造になっているのか。基本的には、細かなセル(個体)の集合体として作られている。ひとつの例だが、3.7ボルトの電圧をもつセルを96個直列に接続。これで355.2ボルトの電圧が得られ、電流量を確保するため2個並列に接続。セル数の合計は192個となり、この仕様でEVの動力用バッテリーが形成されている。 実際には、現状EV用として使われているバッテリーは400ボルト仕様(バスやトラックは600ボルト仕様)が中心なのだが、これを一気に倍の800ボルト仕様に引き上げようという動きが見られている。3.1〜4.2ボルトのセルを198個組み合わせると613.8〜831.6ボルトとなる。こうした構成によるバッテリーだ。

TAG: #バッテリー #電圧 #高電圧
TEXT:御堀直嗣
クルマのエンジンはオーバーヒートするけどEVのモーターやバッテリーは? 性能面でも重要なEVの熱事情

熱問題はエンジンがなくともつきまとう 電気自動車(EV)でも、温度管理は必要だ。つまり、冷却機能を備える必要がある。ただし、ガソリンエンジンほど高熱を発するわけではない。 ガソリンは、エンジンで燃やすことで千数百℃の高温になる。そこでエンジン内部に水路を張り巡らせ、ラジエターで冷却し、80℃ほどに維持して事なきを得ている。EVのモーターも、高回転で回せば多くの電流が流れ、永久磁石式同期モーターでも固定子(ステーター)の電磁石の銅線が熱をもつようになる。ちなみに回転子(ローター)は永久磁石なので、電気は流れない。 ことに連続して高速走行をしたり、登り坂を走り続けたりするとモーターの回転数が高いまま維持されるため、モーターの温度があがりやすい。一時的には100℃近くになることもあるだろう。そこで、水冷によって50℃ほどに保つようにしている。 そもそも、モーターが過熱してもガソリンエンジンに比べ圧倒的に低い温度までなので、初代リーフが発売されて以降15年が経つが、モーターのオーバーヒートでEVが走行不能になったとか、壊れたという話は耳にしていない。またモーターは、丈夫な原動機であり、車体などが廃車になる時期が来ても、別のクルマで使えるといわれるほど耐久性がある。モーターに起因する故障や問題はあまり気にする必要はないのではないか。 ただし、コンバートEVのようにエンジン車をEVに改造する場合は、使うモーターの種類により冷却が不十分で、空冷のまま高回転運転を続けたりすると故障する可能性はある。かつて、直流直巻モーターを使ったコンバートEVでサーキット走行をした際に、ブラシが焼けるといった症状が出たことがある。 次に、リチウムイオンバッテリーも発熱する。放電でも充電でも、電気の出入りによって発熱する。バッテリーには内部抵抗があり、電気の流れにくさが熱を生み出す。電気の流れは、川にたとえることができる。通常は川幅を超えて水が流れることはないが、集中豪雨があると、川幅を超えて水があふれだし、洪水になる。 電気の流れも、電線の太さに適した流れであれば問題ないが、より多くの電気を流すと、水のようにあふれ出しこそしないものの、流れにくさが熱となって大気へ放出される。バッテリーが熱くなって、ケースが熱を帯びたり、周囲の空気が温まったりするのは、いわば川の洪水のようなものだ。 リチウムイオンバッテリーが快適に作動する温度範囲は、15~35℃といわれる。いわば人が快適に過ごせる温度範囲に近い。もちろん、35℃以上は猛暑日といわれ、熱中症の危険があるわけだが……。リチウムイオンバッテリーも高温が続くと、熱暴走といって異常発熱や発火の危険性が出てくる。こうなると、オーバーヒートというより事故になってしまう懸念がある。 逆に、低温では化学反応が遅くなって性能が落ちる。そこでリチウムイオンバッテリーも、適切な温度管理をすることが大切で、水冷や液体冷却が施されるようになった。そして低温に対しては、温めることも行うようになっている。一方、日産の初代リーフは、空冷を採用していた。 当初のバッテリー容量は24kWhで、軽EVの日産サクラとくらべ4kWh多いだけだった。したがって高速で長時間走ることは限られ、リチウムイオンバッテリーが高温にさらされる機会も限られたはずだ。なおかつ、もしそのような状況になった場合は出力電流を抑えることで温度上昇を抑えた。走行性能は落ちるが、そうした電力制御による温度管理が行われたのである。 低温に対しては、起動すれば間もなくリチウムイオンバッテリーからの放電がはじまり、それによってバッテリー自体も温められていく。充電においても、普通充電を基本にすれば一気に大電流を流さないため、温度変化に対する適応が可能だった。 ところが初代リーフ以降、大容量バッテリーを車載し、一気に長距離を移動したり、それによって消耗した電力を急速充電器で繰り返し充電したりするといった使い方がされるようになり、水冷などにすることで積極的な温度管理が行われるようになった。

TAG: #バッテリー #メカニズム #冷却
TEXT:御堀直嗣
クルマに長期間乗らないとバッテリーが上がる! だったら満充電のEVでも長期間乗らないとバッテリーは空になる?

クルマに使われるバッテリーにはいくつかの種類がある バッテリーに充電した電力が、これといって電気を使っていないのに時間の経過とともに減ってしまうことを自己放電という。バッテリー自らが放電してしまうという意味だ。 バッテリーに充電した電力は、バッテリーの電極と電解質によって化学的に貯められていて、倉庫に物を収めたというような物理的保管とは異なる。したがって、バッテリー内に生じた化学反応や、バッテリーが置かれている環境としての気温や湿度の違いにより、電力が徐々にではあるが自然に減ってしまう。 クルマの補器用バッテリーとして長年使われてきた12ボルト(V)の鉛酸バッテリーは、ひと月で4~8%ほど自己放電するといわれる。しばらくクルマに乗らずにいると、バッテリー上がりをするひとつの要因といえる。ただし、バッテリー上がりは鉛酸バッテリーの自己放電だけでなく、近年のクルマはキーを差し込まなくてもボタン操作で錠を開閉できるオートロック機能がついていたり、盗難防止の装置が働いていたりというように、待機電力といえる電気がずっと使われているので、そうした機能が電力を消費してもいる。 電気自動車(EV)の駆動用として用いられるリチウムイオンバッテリーはどうか? リチウムイオンバッテリーも自己放電するが、それはひと月に1~5%ほどであるという。鉛酸バッテリーと比べかなり小さな値だ。しかも、車載バッテリーは容量が大きいので、自己放電で充電が空になってしまい、動かなくなるというようなバッテリー上がりの懸念はないに等しいのではないか。 では、EVで補器用として使われる鉛酸の12Vバッテリーは、どうなのか? もちろん、鉛酸バッテリーとしての特性に変わりはない。とはいえ、そもそもEVには駆動用リチウムイオンバッテリーに大容量の電力が貯めてあるので、電気そのものは存在するのだから、そこから鉛酸バッテリーへ充電を行うことで、エンジン車で起こりがちなバッテリー上がりで始動できない懸念は減るだろう。 ただし、自動車メーカーによっては、駆動用リチウムイオンバッテリーから駐車中でも鉛酸バッテリーへ電力を提供し、バッテリー上がりを防ぐ機能を備えていない例もあるようだ。この場合は、EVといえども、長期間駐車したままにしておくと、そもそも鉛酸バッテリーの電力がないことにより、起動しなくなる恐れはある ハイブリッド車で多く使われてきたニッケル水素バッテリーは、自己放電が多いといわれる。ひと月で30%に及ぶこともあるようだ。EVにニッケル水素バッテリーが使われない理由がそこにありそうだ。もちろん、EVの開発初期段階では、鉛酸バッテリーより容量が大きいのでニッケル水素を搭載し、一充電走行距離を伸ばしてきた経緯がある。 しかし、ニッケル水素バッテリーの多くがハイブリッド車(HV)で用いられてきた背景にあるのは、基本的にエンジンで発電したり、走行中の回生により充電したりすることでクルマは走り、充電による大容量の電力への依存度が低いことが、ニッケル水素バッテリーの特性に適していたといえるからではないか。

TAG: #バッテリー #充電
TEXT:御堀直嗣
EVのネックのひとつは重量! その大半はバッテリー! ではなぜバッテリーは重いのか?

EVになると車両重量が重くなる理由 バッテリーは、なぜ重いのか。 ひと言で答えるのはなかなか難しいが、たとえば、補器用バッテリーとして知られる鉛酸バッテリーの電極に使われる鉛は、元素の周期表で82番目であり、26番目の元素である鉄と比べ3.7倍以上重い(周期表上で数字が小さいほうが質量が軽い)。 鉄も鉛も鉱石といって、自然界でつくられた鉱物のうち、人間に役立つ物質だ。 電気自動車(EV)などで使われるリチウムイオンバッテリーの電極に使われる材料で、コバルト、ニッケル、マンガンなどはいずれも鉱石で、周期表ではコバルトが27番目、ニッケルが28番目、マンガンは25番目の元素だ。 三元系と呼ばれる主力のリチウムイオンバッテリーは、この3つの元素を配分して電極をつくっているので、当然それなりの重さになる。 ちなみに鉄は26番目で、アルミニウムは13番目の元素なので、一般に、アルミニウムが軽いといわれるのはそのためだ。鉄は重金属といわれ、鉄以上の重さの金属を重金属としている。アルミニウムは軽金属と区分けされる。 では、コバルトやニッケルより元素番号が小さく、軽いはずの鉄を使ったリン酸鉄のリチウムイオンバッテリーがなぜ重いのかといえば、電極の結晶構造の違いによる。 コバルトやニッケルは、金属としての結晶構造の間に、サンドイッチのようにリチウムイオンを含むため、より多くのリチウムイオンをもつことができる。 一方のリン酸鉄は、電極の結晶構造の隙間に、柱のように結晶を支える構造があり、そこはリチウムイオンが入り込めないので、電極内にもてるリチウムイオンの量が少なくなる。それは、一充電走行距離が短くなることを意味している。 しかしそれでは商品性で、三元系に劣る。そこで、車載量を増やして容量を確保しているため、結果的に重くなる。

TAG: #バッテリー #メカニズム #モーター
TEXT:御堀直嗣
中国1強になりつつあるEVの現状に待った! GMが新開発した「LMRバッテリー」でアメリカが狙うシェア奪還

GMが開発したLMRバッテリーとは 米国のゼネラルモーターズ(GM)が発表したLMRバッテリーは、リチウムマンガンリッチの意味である。 中国が牽引するLFP(リン酸鉄リチウムイオン)バッテリーと同等の原価でありながら、エネルギー密度が30%以上高いのが特徴と伝えられる。 中国製EV(電気自動車)が、世界的に販売を伸ばしている。背景にあるのは、LFP(リン酸鉄)バッテリーの安さによる、EV価格の低下だ。 日本では、EV販売が踊り場との見方があるが、世界的にはEV販売が盛り返している。補助金に依存できなくなったドイツでも上向きになってきたという。理由は、廉価車種の登場だ。 世界的に、EV販売の最大の課題は一充電走行距離にあるとされてきた。 満充電からの走行距離を伸ばそうとすれば、おのずとバッテリー容量を増加させなければならず、現状、リチウムイオンバッテリーで最上の性能を実現する3元系(コバルト/ニッケル/マンガン)の正極をもつリチウムイオンバッテリーは、性能がよくても原価が高いため、EV価格を押し上げている。なおかつ、それでも高額なEVを買ってもらえるようにと、上級車種での新車攻勢が続き、高いEVしか選択肢がない状況が販売を鈍化させてきた。 そこに、これまで欧州でいえばディーゼルエンジンの小型車に乗ってきた多くの人が買い替えられるようなEVが出はじめた。米国でいえば、日本の軽自動車に相当するであろう大衆的なピックアップトラックのEVが望まれている。 ところが、3元系の電極のリチウムイオンバッテリーを使えば、高額のピックアップトラックになってしまい、市場性が損なわれる。一方で、LFP(リン酸鉄)にしようとすれば、中国製に依存せざるを得ない。 もちろんそれは、現在のトランプ政権の意向にも反することになりかねない。そこで、満を持して登場したのが、GMが発表したLMRバッテリーというわけだ。 原価を安くする要因は、電極材料のマンガン成分を多くしたことにある。 マンガンの電極は、これが初めてではなく、三菱i‐MiEVや初代日産リーフは、正極にマンガン酸リチウムを使っていた。理由は、安全重視のためだ。 マンガンの結晶は、スピネル構造といって、リチウムイオンがたとえすべて抜けだしたとしても結晶構造が壊れず、短絡(ショート)しにくい。したがって、過充電になった際に過熱や発火を起こす懸念が少ないのである。今日なお、日産リーフのバッテリーで火災事故は起きていない。 ただし、バッテリー容量が3元系に比べ少ないのが悩みの種であった。そこで現在では、リーフも3元系に切り替えている。それでも、過去の経験を通じて得た安全対策を施し、いまなおバッテリーを原因とした事故は起きていない。

TAG: #LMRバッテリー #テクノロジー #バッテリー
TEXT:山本晋也
日本のEVに積まれる発火事故ゼロの超安心バッテリー! EVの助演男優賞「AESC」の最先端工場に潜入!!

新型リーフとホンダ軽EVに積むバッテリーはクリーンな環境で作られていた 国産EVのみならず、量産EVとして世界的にもっとも歴史が続いているモデルといえば、いわずもがな「リーフ」だ。そして、日本においてもっとも売れているEVは、2022~2024年度までの直近3年連続で「サクラ」となっている。 この2台に共通するのは、どちらも日産ブランドのモデルということになるが、それだけではない。航続距離や最高出力など、EVの性能を左右する重要なバッテリーについても、サプライヤー(バッテリーメーカー)は同じだったりする。 それが、「AESC」である。 初代リーフの駆動用・二次バッテリーを製造していた「オートモーティブエナジーサプライコーポレーション」にルーツをもつ同社は、いわゆる自動車メーカーに製品を納めるB to B企業だ。 そのため、一般ユーザー向けの製品を作っている電機メーカーほどの知名度はないかもしれないが、日本のEV市場においてはトップシェアといえる規模を誇り、日本の自動車産業にとっては欠かせない会社といえる。 前述した日産リーフ、サクラ(兄弟車のeKクロスEV)だけでも国産EVのセールスにおいては大半を占めるが、さらにホンダN-VAN e:のバッテリーもAESC製。じつは国産EVオーナーにとって「AESC」は身近な企業・ブランドなのだ。 そんなAESCの、2024年から稼働開始している最新のギガファクトリー「茨城工場」を見学することができた。非常に貴重な機会であり、ファクトリー内で見聞きした情報を共有したい。 将来的には年間20GWh(ギガワットアワー)の生産能力を目指すというAESC茨城工場。現在は、第一棟の3ラインが稼働しているのみで、生産能力は6GWh/年となっているが、それでも紛うことなく“ギガファクトリー”といえる。 見学した日にラインを流れていたのは、ホンダの軽EV向けのバッテリー。ラミネートフィルムで覆われたパウチ型バッテリーが製造されていた。初代リーフ向けのバッテリーの見た目から「レトルトカレーみたい」といわれた、AESCおなじみのタイプである。 ただし、その中身は大きく進化している。茨城のギガファクトリーで作られているのは第5世代のリチウムイオンバッテリーとなっている。その進化は非常に細かいアップデートの積み重ねということだが、目指したのは、エネルギー密度と出力という相反する要素を両立すること。ちなみに、現行リーフやサクラなどのパウチ型バッテリーはAESCの第4世代。茨城のギガファクトリーでは、新型リーフ向けのバッテリーも製造予定だが、そちらは当然第5世代のパウチ型となる。 ところで、リチウムイオンバッテリーといえば正極材を三元系(NMC=ニッケル・マンガン・コバルト)とするタイプが長らく主流だったが、このところリン酸鉄(LFP=リチウム・鉄・リン)を用いるタイプに注目が集まっている。実際、EV用としてLFPリチウムイオンバッテリーを使うケースも増えてきている。 茨城ギガファクトリーで製造されているパウチ型バッテリーがNMCタイプとなっている理由について、AESCは「エネルギー密度に有利で、なおかつ急速充電性能にも優れているため」と説明する。これはAESCがNMCしか扱っていないためのいい訳ではない。同社はEV用バッテリーのほか、ESS(定置型の電力貯蔵システム)も扱っており、ESSでは充電サイクルの耐用性に有利なLFPタイプのリチウムイオンバッテリーを使っている。 NMCとLFPそれぞれのよさを知った上で、EV用としてはNMCが向いていると判断しているのだ。

TAG: #ギガファクトリー #バッテリー #工場
TEXT:御堀直嗣
寒い冬が苦手といわれる電気自動車! 逆に暑い夏はどうなる?

夏はバッテリーの温度が上がりやすい 電気自動車(EV)で使われるリチウムイオンバッテリーは、人間が快適に暮らせる温度が適しているといわれることは、極寒への対処でも話した。 では、近年の猛暑にはどうなのか。 暑さに対しても、やはり人間と同じように適切な対処をしないと、充放電ともに本来の性能を出し切れないことになる。そして、暑さへの課題もバッテリー特性が関係する。 暑さでは、単に外気温の高さだけでなく、高速道路を連続して走行し続けたような場合も、バッテリー温度が上がりやすい。大電流を連続して流し続けるためだ。 電気の使われ方については、EV以外の家庭電化製品やパーソナルコンピュータ(PC)のバッテリーや配線も、出力の高い状態で連続して使うと熱を持つようになる。大きな電流が流れると、余剰分が熱となって外部へ放出されるからだ。バッテリーに過剰な電流が流れ、余剰分が熱となって外へ放出され、それが限度を超えると、膨張したり、発火したりといった不具合や事故につながりかねない。原因は、抵抗だ。 電気の流れは、川にたとえることができる。ある川幅を普段は問題なく水が流れていても、大雨などで水かさが増すと、堤防を越えて洪水を起こしかねない。電気も水も、流れが多すぎれば弊害をもたらす。 それならば、あらかじめ太い電線を使えばいいと思うかもしれない。しかし、無闇に太い配線を用いれば、場所も取るし、重くもなる。 高速道路の利用(大電流を流し続ける)を制限することはできないが、適度な太さの配線により多様な使い道での性能と価格の調和をとり、折り合いをつけることになる。 そのうえで、バッテリーのケースに冷却機能を設け、リチウムイオンバッテリーが機能しやすい温度管理をする対策が行われている。

TAG: #バッテリー #リチウムイオンバッテリー
TEXT:御堀直嗣
リチウムバッテリーは暑いのも寒いのも苦手! EVの性能はバッテリーの温度管理で大きく変わる!!

冬はEVの一充電走行距離が短くなる 電気自動車(EV)で使われるリチウムイオンバッテリーは、人間が快適に暮らせる温度が適しているといわれる。つまり、極寒や酷暑は苦手だ。EVが寒さや暑さを苦手とするのは、バッテリー特性に負うところが大きいだろう。 とくに寒い冬は、EVの一充電走行距離が短くなるといわれる。理由は、低温になると電圧が低下するからである。走行に必要な電力は、電圧×電流なので、電圧が下がれば電力量が減り、そのぶん走れる距離が短くならざるを得ない。 対応策を理解するとき、背景となるのは、やはり人間と同じような環境で最適な性能を発揮するという、リチウムイオンバッテリーの特性だろう。 人間も、寒さで体が硬くなれば、事前にウォーミングアップをすることで、いつもどおりの活動ができるようになる。リチウムイオンバッテリーの充放電は、正(+)負(-)の電極間をイオンが往復することで行われる。したがって、イオンが移動しやすい温度環境を整えることが大切だ。 かつて、発売当初の市販EVは、バッテリーを空冷していたので、停車中を含め意図的な温度管理をできずにいた。走ったとき、走行風で冷やすという効果しか望めなかったのだ。極寒の地では、気温が下がっただけバッテリーが冷えてしまう。つまり、イオンが電極間を移動しにくくなる。移動が鈍れば、電圧が下がる。 対策は、バッテリー温度を下げ過ぎないことで、空冷に替えて液冷を導入することにより、冷媒を温めれば、バッテリーを温度低下から守ることができる。 とはいえ、空冷ではダメということではない。空冷であることを通じて、廃車後のリチウムイオンバッテリー再利用のため、セル単位に分解しやすいことを視野に入れていた。クルマとして最適なだけでなく、リチウムイオンバッテリーという高価な部品を使い尽くすための視点が、EVでは不可欠なのだ。液冷式となった今日も、EV後の再利用を視野に、バッテリーケースの設計を行う必要がある。 リチウムイオンバッテリーの再利用を重視する理由は、廃車後も、なお70%近い容量を残しているからだ。これを定置型の電気施設などで再利用しない手はない。たとえば太陽光や風力など、再生可能エネルギーによる発電の電力を貯めておくのに使える。

TAG: #バッテリー #リチウムイオンバッテリー
TEXT:御堀直嗣
結局「全固体電池」ってなに? どんなメリットがある? 「夢の電池」と言うには時期尚早な次世代バッテリーの中身

電解質を固体にしたのが全固体電池 電解質とは、電気を帯びたものから、電気の基となるイオンを分離し、移動させる作用を促す物質をいう。つまり、バッテリーの電極からイオンを分離する働きがある。 一般に、バッテリーの電解質は液体で、クルマの補器を動かす鉛酸バッテリーも、希硫酸の電解液によって鉛合金の電極を化学反応させ、イオンを分離して電子の移動が起き、電気が流れる。 リチウムイオンバッテリーは、リチウムのイオンが移動するだけで電気が流れる仕組みで、電極の物性は変化しない。リチウムイオンの移動を促すのが電解質で、リチウムイオンバッテリーもこれまでは液体または粘性を持つゲル状だった。この電解質を、無機物の固体にしたのが全固体電池だ。電極も固体、電解質も固体(液体率が0%)なので、すべてが固体の電池ということから、全固体となる。 利点は、電解質が水溶液であったりゲル状であったりする現状では、電解質が蒸発したり、分解したり、液漏れや発火、劣化などを起こす可能性があるが、無機物の固体を使う全固体式であれば、それらの懸念を解決できる可能性がある。 また、固体であることによって、バッテリーを車載するうえで、液体の電解質が偏るなどの懸念も払拭され、つねに安定した性能を発揮し、車両に搭載する際の自由度が増すことへの期待もある。要は、縦でも横でも、自由に置けるということだ。 次に、正負極の電極間をイオンが高速移動することが期待されるので、充放電性能が向上する。かつて、固体の電解質はイオンの移動速度が遅いとされたが、東京工業大学の菅野教授らにより、液体より早く固体のなかを移動するイオンの発見があり、今日の開発競争がはじまったとされている。 そのほか、耐熱性も高く、これまで以上のエネルギー密度をもつ電極材料を容易に使えるようになる。 構造的には、表裏に正極と負極を設定できるバイポーラ型にも適しているとされ、これによって容量の拡大も見込めるだろう。

TAG: #バッテリー #全固体電池

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