個人で充電サービスを運営するのは非現実的
日本最大級の急速充電インフラといえるeモビリティパワー(以下、eMP)の場合も同様で、充電に利用した電力量ではなく、急速充電の利用時間をベースの課金となっている。
具体的には、50kW超・急速充電器のビジター使用料金は最初の5分までが税込385円、以後1分あたり77円となっている。つまり、30分で2310円の売上になる。この価格設定で運用、1日12時間ほど利用されると仮定した場合の売上は5万5440円/日となる。
ただし、このように利用料金を徴収するためには、利用者の認証と支払いを可能にするスマホアプリを開発するなどしなければならない。急速充電器の維持管理に加えて、充電器1機だけのために専用アプリを開発・更新し続けるのは現実的ではないだろう。
ちなみに、諸々の設置条件と設置費用という問題をクリアしたけれど、独自の課金システムを構築することができないというのであれば、前述したeMPと提携するという手もある。この場合、同社より急速充電器 の利用料として1分あたり15.4円が支払われる仕組みとなっている。
しかしながら、1日12時間の稼働が確保できたとしても売上は1万1088円でしかなく、年間でも400万円ほどだ。初期の導入コスト、日々の電気料金、さらに機器メンテナンスコスト、なにより建屋との距離を確保するために広い土地が必要であることを考えると、急速充電インフラ単体で個人がビジネスを成立させるというのは厳しそうといえる。
もちろん、急速充電器の設置についてはさまざまな補助金が用意されているので、それらをフル活用すれば赤字にならずに急速充電サービスを提供することはできるかもしれない。しかしながら、個人事業・副業レベルで急速充電器を一基設置するだけの課金ビジネスに取り組むだけの価値があるかといえば微妙というのが現実ではないだろうか。
可能性があるとすれば交通量の多い道沿いに未利用の土地をもっている地主くらいだろうが、そうであっても急速充電器を設置するより儲かる施設はいっぱいあるだろう。
なお、副業として不動産投資を行っている人、興味をもっている人は少なくない。アパートやマンションなど一棟物を所有、賃貸に出して収益を得ようという投資家にとって、EVが増えてくる時代には住民が共同で使える急速充電サービス、もしくは駐車場ごとに普通充電コンセントを用意することは空室リスクを減らす手法となるかもしれない。
結局のところ、ショッピングモールなどが客寄せのために設置するにはメリットがあっても、充電というサービス単体でビジネス化するには時期尚早といえそうだ。キュービクルの規制が緩和されるなど、クルマ一台分くらいのちょっとした空いている土地に急速充電器を設置できるようになれば、話は変わるかもしれないが……。