レクサスはBEV(バッテリー電気自動車)のRZ450eにスピンドル“ボディ”を初めて採用、それまでのスピンドルグリルから大胆な変更となった。しかし、自動車ジャーナリスト・小川フミオ氏は、もう一歩BEVならではのデザインに踏み出して欲しかったと考える。その真意とは。
スピンドルボディのデビュー作
レクサスRZ450eは、あたらしいボディスタイリングをもっている。「BEVならではのシームレスな加速感とトルクフルな躍動感を表現」(プレスリリース)と説明される。
ちょっと情緒がかった表現なので、的確に解釈できるか自信はないけれど、たしかに前後のフェンダーのふくらみが力強さを表すいっぽう、傾斜の強いリアウインドウなどがスポーティだ。
プレミアムサイズのセダンとは表現がことなる。
キャビンは、リアウインドウがあえて強めに寝かされるとともに、Aピラーだけボディ同色の、自動車デザイン用語でいう逆カンチレバールーフを採用。
後輪あたりのリアクォーターパネルへとキャラクターラインがキックアップしてきて、車体にまとわりついた風などがばっと上に抜けていくようなデザインも、よく出来たスポーツクーペ、レクサスLCに通じる表現で痛快。
加えて、従来のICE車やハイブリッド車などとも一線を画している。
レクサス車のシンボルでもあった「スピンドルグリル」を廃し、ボディぜんたいの“かたまり感”でもって「スピンドルボディ」を作りあげたとされる。
スピンドルグリルを設定した2012年あたりで、すでにその先の電動化は視野に入っていたはず。ここがむずかしいところで、BMWはうまくやっているけれど、メルセデス・ベンツはグリルへのこだわりは捨て、エンブレムに集中している。
かつてのデザイン部長は「スピンドルグリルはシルエットを使えば、ピュアEVのフロントグリルにもじゅうぶん使える考え抜かれたものです」と私に説明してくれたことがある。
たしかに、レクサスといえばスピンドルグリル。10年で完全に定着したといえる。RZではそれを捨ててしまったのか。執拗に過去の実績にこだわる必要はないけれど、トヨタもそこはあんまりこだわっていないな。
フロントにエンジンがないのでキャビンとのあいだの隔壁をもっと前に出して、Aピラーをさらに前進させるデザインも出来たように思うけれど、レクサスでは、冒険的な手法は採らなかったようだ。
個人的にはサイドビューは好きだけれど、壁感というか、グリル開口部をなくしてそのままのっぺりしたパネルにしてしまったフロントグリルには、いまひとつ審美性を見出しにくい。そこは惜しい点である。