コラム
share:

水素燃料電池(FC)を世界に誇る先端技術に……現役EV開発エンジニアが「ホンダ・クラリティFUEL CELL」を愛用して実感した燃料電池の可能性(後編)[THE視点]


TEXT:福田 雅敏 PHOTO:福田 雅敏
TAG:

EV技術をそのまま流用でき共存も問題ない

FCEVのネガティブポイントを書いてしまったが、FCEVを否定するつもりは毛頭もない。現在の電動車の代名詞であるバッテリー式EVには、文字通りバッテリーが搭載されている。乗用車タイプでも最大容量100kWhのものを積んでいるものも少なくないし、トラック・バスともなれば、それが数百kWhの単位になる。使用されたレアメタルの量も相当となる。その点、バッテリーの搭載量が少ないFCEVは貴金属が少なくて済む(FCスタックにプラチナは使われている)。

また、燃料である水素の製造も様々な手段がある。「鉄の生成での複製水素」「褐炭から作られる水素」「下水の汚泥から作られる水素」「樹木の廃材から作られるバイオ水素」「クリーン電力を活用した水の電気分解で作られた水素」など、化石燃料に頼らずともこれだけの方法で水素を作れるのだ。

そして肝心なFCEVの車体であるが、FCEV用に特別に新造する必要はない。なぜなら、FCEVとバッテリー式EVの仕組みは、電池からの直流電力を交流に変換するインバーター以下が同じだからだ。

違いはバッテリーを搭載しているか水素タンクを含むFCを搭載しているかの点。現在、バッテリー式EV市場では、モーター一体型駆動装置(イー・アクスル)の開発が激化しているが、そのあたりのものは一式FCEVに流用可能。FCEVの普及はバッテリー式EVの普及の妨げとはならないのだ。

FCEVをより普及させるためには、やはりインフラの整備が欠かせない。日本政府は、2030年までに水素ステーション1,000基の設置目標を挙げているが、その達成のためには行政のバックアップが不可欠だ。先にも書いたが、1日に10台程度の来客では、設置費・固定費。ランニングコストなどを賄えないのである。

さらに、水素燃料価格の補助もほしい。FCEVの普及と水素価格が下がるまでは当面の間の補助は必要と感じる。せめてFCEVのランニングコストがHV(ハイブリッド車)並みになって欲しい。そうでなければ、一般への普及は難しいと感じる。

失策を繰り返すな、今度こそ水素技術を国策へ

先日、トヨタが新型「クラウンセダン」にFCEV仕様があることを発表した。カーボンニュートラルを国をあげて掲げているなら、是非とも「クラウンセダン FCEV」を日本市場に導入してほしいものだ。

一方、民間は政府以上に水素社会化を強力に推し進めている。トヨタやいすゞが参画する商用EVの開発団体「CJPT」は、大規模な商用FCEV施策を実行し始めているし、何よりトヨタはアメリカやヨーロッパの商用社メーカーと、FCモジュールの供給契約を続々と締結している。ドイツの雄BMWもトヨタのFCを採用した。リチウムイオン・バッテリーは中国の後塵を拝しているが、FCEVは現状世界トップクラスのシェアを誇っていると言えるだろう。

これまで日本は、半導体においてもリチウムイオン・バッテリーにおいても一時は世界トップレベルにいたが、いつの間にか海外メーカーにシェアを奪われてしまった。今やそれらはすっかり逆輸入状態なのだ。

水素においても同じ歴史を繰り返すのであろうか。日本のエンジニアの努力を、またまた踏みにじるのであろうか。一人のエンジニアとして、このようなジレンマには二度と陥りたくはない。日本は四方を海に囲まれた水の国である。水素を推さない理由が、どこにあろうか。

TAG:

PHOTO GALLERY

NEWS TOPICS

EVヘッドライン
中国から地球上最強コスパの新星EV現る! IMモーターL6の驚くべきスペックとは
BYDの売り上げ鈍化に注目しても意味なし! むしろ心配すべきはテスラか? BYDは利益率も投資額も驚くべき水準だった
いすゞがピックアップトラック「D-MAX」にBEVを用意! バンコク国際モーターショーでワールドプレミア予定
more
ニュース
ヒョンデに続いてKIAも日本にやってくる! 2026年春の導入を目指し双日が販売代理店契約を締結
BEVになってもジープの頼もしい走りは健在! コンパクトボディで“入門”にもピッタリなブランド初EV「アベンジャー」発売
2030年までに公用車をすべてZEVに! ヒョンデがKONAを横浜市に無償貸与で横浜の脱炭素が加速する
more
コラム
日本のEV販売は全体に減速気味! 日産&三菱とテスラが売れるなかBYDも存在感を増す販売動向
アウディのEVを堪能しつつ未来を考えるツアーに参加! 北海道の大地を巡り改めて「カーボンニュートラル」の大切さが身にしみた
アリアNISMOをじっくりテストしてわかった! 電費は良好も気になるのは「充電性能」!!
more
インタビュー
電動化でもジーリー傘下でも「ロータスらしさ」は消えない? アジア太平洋地区CEOが語るロータスの現在と未来
「EX30」に組み込まれたBEVの動的性能とは。テクニカルリーダーが語る「ボルボらしさ」
「EX30」には、さまざまな可能性を。ボルボのテクニカルリーダーが話す、初の小型BEVにあるもの
more
試乗
【試乗】二度見必至の存在感は普通のコナとはまるで別モノ! イメージを大きく変えたヒョンデ・コナ「N Line」に乗って感じたマルとバツ
ボルボEX30で11時間超えの1000km走行チャレンジ! 課題は90kWまでしか受け入れない充電性能
EV専業の「テスラ」とEVに力を入れる従来の自動車メーカー「ヒョンデ」! モデルYとコナを乗り比べるとまったく違う「乗りもの」だった
more
イベント
「ルパン一味がフィアットと手を組んだだと? ルパ〜ン逮捕だ」 フィアット600e発売を記念した「ルパン三世」とのコラボキャンペーン実施
目のつけどころが「シャープ」なEVコンセプト発表! 「LDK+」を「SHARP Tech-Day’24 “Innovation Showcase”」で公開
1万km走行相当の利用券が10名に当たる! テスラがスーパーチャージャー10周年を記念したキャンペーンを実施
more

PIC UP CONTENTS

デイリーランキング

過去記事一覧

月を選択