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一般的にEVには変速機が搭載されていない
電気自動車(EV)に興味をもち、試乗した人の多くが最初に気づくのは、アクセルペダルを踏むだけでスムースに加速し、アクセルを踏んだぶんだけスピードが出るという感覚だ。内燃機関(ICE)車で慣れ親しんだ、あのギヤチェンジの手応えや、エンジン回転数の変化に伴う音の変化もない。「クルマを運転する醍醐味がない」と感じる方も多いだろう。しかし、そもそもEVの大半には変速機(トランスミッション)が搭載されていない。なぜEVには変速機が搭載されていないのだろうか?
<モーターの特性が変速機を不要にする>
EVに変速機が搭載されていない理由は、電気モーターの出力特性にある。ガソリンエンジンやディーゼルエンジンは、特定の回転域でしか最大トルクを発生できない。低回転域ではトルクが不足し、高回転域では出力が頭打ちになる。この狭い「特定の回転域」を有効に使うために、複数のギヤ比をもつ変速機が必要となる。一方、電気モーターは停止状態から最大トルクを発生でき、幅広い回転域で一定の出力を維持できる。つまり、0回転から最高回転まで、どの回転数帯でも十分な駆動力(トルク)を発揮できるのである。
ただし、モーターの回転数をそのままタイヤに伝えると、回転数が高すぎて実用的な速度にならない。そのため、多くのEVでは「減速機(リダクションユニット)」と呼ばれる単段のギヤを備えている。この減速機は、モーターの回転数を適切に減速してタイヤに伝える役割を果たす。しかし、これは変速機とは異なり、複数のギヤ比をもたない単純な構造だ。
EVは、この固定ギヤ比の減速機だけで、発進から高速走行まで多くの走行シーンをカバーできる。たとえば、テスラのモデル3は約9:1の固定減速比を採用しており、これひとつで時速0kmから200km超まで対応する。ICE車なら5速や6速、あるいはATでは8速以上の変速機が使用されているが、これらの必要な速度域を、たったひとつのギヤ比でこなしてしまうのである。