#水素インフラ
AEM水電解装置の導入と同時に設置された水素貯蔵システム(東京ガス)
TEXT:福田 雅敏、ABT werke
グリーン水素を23区内にて“製造直売”……東京ガス、「千住水素ステーション」にて国内初の実施[2023.07.18]

既存のステーションを乗用FCEV30台/日の生産能力を有する簡易型のグリーン水素製造・直売所に刷新 輸送コストを削減でき水素価格の低下に効果的か 【THE 視点】東京ガスは7月13日、「千住水素ステーション」において、「AEM水電解装置」を使用した水素の製造・販売を国内で初めて開始したと発表した。 本ステーションは、2016年の営業開始から敷地内にて都市ガスから製造した水素を販売してきた。しかし昨年度の夏に、実質再生可能エネルギー100%(非化石証書付与済み)の電力へ切り替えたことから、「AEM水電解装置」(※)を導入し、CO2フリーの水素の製造・販売が可能となった。 ※AEM:Anion Exchange Membrane(陰イオン交換膜)の略 「AEM水電解装置」は、比較的新技術のため採用の実例は少ないのだが、以下の特徴を持つ。 「シンプルな構造」 「小型のモジュールを組み合わせ水素の製造量を柔軟に調整可能」 「限られたスペースを有効可能」 「セルの部材に使用できる材料の選択肢が広い」 「セルスタックの低コスト化が可能」 ちなみに今回導入した「AEM水電解装置」は、30モジュールを組み合わせ、水素製造量15Nm3/h規模の設備となっている。モジュール単位での操作が可能で、障害が発生した際も設備全体の運転を継続可能。水素製造装置の稼働率を上げるために夜間も水素製造を行い、今回同時に設置した水素タンクに1MPa未満で貯蔵するという。 東京ガスは、「AEM水電解装置」の適切なシステム構成や運転管理等のノウハウの獲得を進め、工場や水素ステーション等それぞれの現場に最適化した「AEM水電解装置」の導入支援や、水素供給ビジネスの展開を狙うとしている。 燃料電池車(FCEV)は走行時のCO2排出はゼロだが、肝心な水素の製造には電気が必要。今回の設備は、FCEVのカーボンフリーの度合いを高めるのに効果的であろう。 ステーション内にて水素を製造する「オンサイト方式」をとったことも注目点である。輸送の必要がないため、CO2の削減に効果的と言える。 15Nm3/hの水素製造能力は、1日に換算すると360Nm3となる。乗用タイプのFCEVの水素充填量を5kgとすると、30台分に相当する量だ。 東京ガスの水素ステーションでの価格は、正直なところ比較的高額である。しかしこの設備の導入が進めば水素価格の低減を期待できるし、カーボンフリーに貢献できるとなれば、今後積極的に利用を考えたい。是非ともこの現場を見学したいものだ。 (福田雅敏-EV開発エンジニア、THE EV TIMES エグゼクティブ・アドバイザー) ★★ポルシェ、新型コンセプトEV「ポルシェ・ビジョン357・スピードスター」を発表……オープンボディのスポーツモデル、「718 GT4 eパフォーマンス」の技術を活用[詳細はこちら<click>] ★★フォード、「マスタング・マッハ-E・ラリー」を公開……ラリーテイストを盛り込んだデザインを採用、ヨーロッパとアメリカに導入予定 ★★パワーエックス、蓄電池型の超急速充電器「ハイパーチャージャー」が「チャデモ」に対応……今夏よりパワーエックスのチャージングステーションに設置予定[詳細はこちら<click>] ★★フォーミュラE第14戦ローマ、日産のノーマン・ナトーが2位表彰台……優勝はジェイク・デニス(アバランチ・アンドレッティ)で、ランキングのトップに ★ヒョンデ、「アイオニック5 N」を発表……ヒョンデの高性能車「N」初のモデル、2モーター式のAWDで最高出力650ps(478kW)[詳細はこちら<click>] ★GM、「ハマー EV 3X ピックアップ」の航続距離が拡大……新グレード「エクストリーム・オフロード・パッケージ」を追加、航続距離は613km ★イギリスの新興バッテリーメーカー「nyobolt」、6分で充電を完了できるバッテリー技術を開発……航続距離250km以内なら完全充電、既存の充電インフラをそのまま使用可能 ★アウディ、「Böllinger Höfe」工場にて最新のファクトリー・オートメーションが7月から本格稼働……「e-tron GT クワトロ」「RS e-tron GT」の生産に活用 ★テスラ、「1Day試乗キャンペーン」を実施……7月31日(月)まで、「モデル3」「モデルY」を用意 ★プラゴ、神奈川県内のミニストップ3店舗にEV用充電器を設置……綾瀬大上店/都筑荏田南4丁目店/中原下新城3丁目店にて、最高出力50kWタイプの急速充電器「プラゴ・ラピッド」を1基ずつ ★テラモーターズ、沖縄県のホテル「むら咲むら」<中頭郡読谷村>にEV用充電器を導入 ★JAF、電動キックボードの衝突実験結果を公開……ヘルメットなしの危険性を訴求 ★日産、東京東村山市とEVの活用施策で連携……「リーフ」6台を公用車に導入、電源車としての活用も視野 ★フォーミュラE第13ローマ、ミッチ・エヴァンス(ジャガーTCS)がポール・トゥ・ウィン……レースは大クラッシュが発生する荒れた展開に デイリーEVヘッドライン[2023.07.18]

TAG: #THE視点 #国内ビジネス #水素インフラ
TEXT:福田 雅敏、ABT werke
新「水素基本戦略」を閣議決定、15兆円の投資はFCEV普及に活かせるか[2023.06.08]

水素価格は値上がりが続き現実と乖離する点も FCEVの普及には価格低下と総合水素ステーションの設置が必要 【THE 視点】内閣官房は6月6日、「再生可能エネルギー・水素等関係閣僚会議(第4回)」にて、「水素基本戦略」を改定した。官民合わせて、15年間で15兆円を、水素関連事業に投資する。 合わせて経済産業省傘下の資源エネルギー庁は同日、「令和4年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2023)」を公開した。その中において、水素価格の低下を目指すことを明言した。 白書には、「水素社会の実現に向けた取組の加速」の項目があり、「水素社会の実現を通じて、カーボンニュートラルを達成するためには、水素の供給コスト削減と、多様な分野における需要創出を一体的に進める必要がある」と書かれている。 具体的には、「一般的な水素ステーションにおいて、100円/Nm3(ノルマルリューベ:空気量を表す単位)で販売されている水素の供給コストを、2030年に30円/Nm3(CIF価格)、2050年には20円/Nm3(同)以下に低減し……(以下略)」とのこと。 水素ステーションで現在販売されている水素の価格は、1kg当たりの単価だ。1kgで11.14Nm3となることから、100/Nm3と報告される水素の価格は、1,114円/kgとなる。 しかし、昨年までは1,100円/kg(税込)程度であった水素の価格は、今年の初めから4月にかけておよそ1.5倍の1,650円/kgとなったところが多い。こうなると、2030年に現在の価格の3割程度(およそ1/3)とされる報告書の価格とつじつまが合わない。2030年の時点で、白書内にて2050年の目標としている1/5程度にしなければならないということになる。 また水素ステーションの数も、現在およそ170ヵ所とされているが、政府は2030年までに1,000ヵ所を目指すという。 しかし、今後増えるであろう商用FCEV(燃料電池車)の導入拡大を見据えた施策を加速させるためには、もう少し実際の現場を捉えなければいけない。 トヨタやホンダは、トラック・メーカーと協業して大型商用FCEVの開発・導入を加速させる方針を示している。しかし現在、大型車に対応した水素ステーションはまだまだ少ない。乗用車・大型車ともに利用できる大型の水素ステーションなどのインフラ整備を進めなければ、普及の加速は難しいだろう。 筆者は日頃の足としてFCEVに乗っている。現在値上がりしてしまった水素の価格では、ランニングコストで比較するとハイブリッド車には到底及ばす一昔前のガソリン車並みとなってしまっている。 今後の普及を考えると、2030年以前に水素価格を現状の価格の1/3以下にしなければ、エンジン式のクルマと比較してランニングコストが合わない。更に言えば、先に記述したとおり1/5程度まで下げないことには、FCEVが日常の足として日本に浸透するのは困難だ。 なお、水素エネルギーとFCEVに関して、当媒体の以下の記事でも述べているので、ぜひご一読いただきたい。 FCEVは実用的だが一般普及はまだ早いか……現役EV開発エンジニアが「ホンダ・クラリティFUEL CELL」を愛用して実感した燃料電池の可能性(前編) [THE視点] 水素燃料電池(FC)を世界に誇る先端技術に……現役EV開発エンジニアが「ホンダ・クラリティFUEL CELL」を愛用して実感した燃料電池の可能性(後編)[THE視点] (福田雅敏-EV開発エンジニア、THE EV TIMES エグゼクティブ・アドバイザー) ★★ボルボ、EVの新型コンパクトSUV「EX30」を欧州で発表……最高出力315kW(428ps)のAWDで、最大航続距離は480km[詳細はこちら<click>] ★★Jvolt、デジタル・サイネージ搭載のEV用充電器を発売……EV用充電器を広告映像などのPR掲示板に活用可能 ★★ホンダ、インドで中型SUV「エレベート」を発表……3年以内に「エレベート」ベースのEVを発売 ★アウディ、鹿児島県屋久島町にEV用充電器(最高出力8kW)を設置……屋久島の脱炭素化についての包括的提携の一環にて ★北海道、道内のFCEV導入事例を公表……2023年3月に、十勝総合振興局や胆振総合振興局に「トヨタ・ミライ」を計3台など ★テスラ、在庫車・認定中古車の購入キャンペーンを実施中……登録代行手数料(10万円)無料など ★フィアット、「アバルト500e」のデザイン・モチーフを紹介……「サソリ」のエンブレムをモチーフとした空力デザインなどをボディの随所に ★国土交通省、「ラストワンマイル・モビリティ/自動車DX・GXに関する検討会」(第5回)を開催……中央合同庁舎3号館<東京都千代田区>10階共用会議室にて、6月12日(月)13時〜15時 デイリーEVヘッドライン[2023.06.08]

TAG: #THE視点 #水素インフラ #燃料電池車(FCEV)
TEXT:福田 雅敏
水素燃料電池(FC)を世界に誇る先端技術に……現役EV開発エンジニアが「ホンダ・クラリティFUEL CELL」を愛用して実感した燃料電池の可能性(後編)[THE視点]

[前編]では、実際に筆者が乗る「ホンダ・クラリティFUEL CELL」の印象を中心に、ランニングコストはどのくらいかかるかを示した。そこで示したものは、車両が悪いわけでは断じてなく、整備がまだまだ整っていない水素インフラ全体の問題を内包している。[後編]では、現在の水素ステーションの問題などに触れつつ、水素社会の未来について簡単に考察してみたい。 採算度外視が実情の水素ステーション運営 日頃から燃料電池車(FCEV)に乗っていて感じるのは、水素ステーションのインフラ整備の問題だ。筆者の走行パターンでは、水素を満充填時の航続可能距離が450~500kmと表示される。これだけであればガソリン車と遜色なく思われるが、ステーションの少なさが問題なのである。ガソリンスタンド、EVステーションの数はいずれも3万ヵ所前後であるのに対して、水素ステーションは4月現在170ヵ所程度である。 高速道路に至っては、5月現在1つもないのだ(現在、東名高速足柄SAに建設中)。筆者の通勤ルートは片道50kmあるが、その間にあるのは、通勤ルート近辺に3ヵ所である。少し遠くに行ってようやく2ヵ所。東京・神奈川エリアでこの状況である。 さらに開店時間にも制限がある。10時~16時まで・13時~18時までという開店時間で、全部のステーションがいつでも使えるわけではないのである。おまけに日曜はステーションが休みの場合も多い。 ただ、店側のやる気がないわけでは決してない。実際に店員さんに話を聞くと、1日に充填に訪れるFCEVは10台程度だという。1台5,000円の料金と計算しても1日5万円しか売り上げがないことになる。これでは水素ステーションが増えないのも納得がいくというものだ。 ちなみにだが、水素充填の渋滞を経験したこともある。都内のとある水素ステーションでの話だが、2台あるディスペンサーのうち1台が故障。その1台をFCバスが使用していた。FCバスは充填量が多いため時間がかかる。1台にかかる時間は約20分。このバスの後にもう1台FCバスの予約が入っていたため、都合40分待つことになった。 その時間ももったいないので、先に40分ぶんの用事を済ませてからステーションに戻ると、FCバスの充填は済んでいて「ミライ」が充填をしていた。そしていざ自分の番になると、先にタンクローリーからステーションに水素を充填するという。それに要する時間が50分。偶然に偶然が重なった例だが、このように長時間待たされた経験があった。 このようなリスクを考え、筆者は航続可能距離が200kmを切ると水素の充填を考えるようにしている。加えて言うなれば、FCEVは“水欠”になったら終わり。ロードサービスを呼んだとしても、水素ステーションが開いていないことには五里霧中となってしまうのだ。 実際にFCEVが必要な現場で車両が水欠寸前になり、水素を求めた挙句200kmも離れた場所までレッカーされたという冗談のような実話もある。もし夜中に水欠となれば目も当てられない状況になるだろう。運良く自宅まで辿り着けたとしても、そこには水素はないのだ。EV用充電器の設置が世界から比べて遅れている日本だが、FCEVの視点から比べると、羨ましいほどのインフラが整っているように見える。

TAG: #THE視点 #水素インフラ #燃料電池車(FCEV)

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