[前編]では、実際に筆者が乗る「ホンダ・クラリティFUEL CELL」の印象を中心に、ランニングコストはどのくらいかかるかを示した。そこで示したものは、車両が悪いわけでは断じてなく、整備がまだまだ整っていない水素インフラ全体の問題を内包している。[後編]では、現在の水素ステーションの問題などに触れつつ、水素社会の未来について簡単に考察してみたい。
採算度外視が実情の水素ステーション運営
日頃から燃料電池車(FCEV)に乗っていて感じるのは、水素ステーションのインフラ整備の問題だ。筆者の走行パターンでは、水素を満充填時の航続可能距離が450~500kmと表示される。これだけであればガソリン車と遜色なく思われるが、ステーションの少なさが問題なのである。ガソリンスタンド、EVステーションの数はいずれも3万ヵ所前後であるのに対して、水素ステーションは4月現在170ヵ所程度である。
高速道路に至っては、5月現在1つもないのだ(現在、東名高速足柄SAに建設中)。筆者の通勤ルートは片道50kmあるが、その間にあるのは、通勤ルート近辺に3ヵ所である。少し遠くに行ってようやく2ヵ所。東京・神奈川エリアでこの状況である。
さらに開店時間にも制限がある。10時~16時まで・13時~18時までという開店時間で、全部のステーションがいつでも使えるわけではないのである。おまけに日曜はステーションが休みの場合も多い。
ただ、店側のやる気がないわけでは決してない。実際に店員さんに話を聞くと、1日に充填に訪れるFCEVは10台程度だという。1台5,000円の料金と計算しても1日5万円しか売り上げがないことになる。これでは水素ステーションが増えないのも納得がいくというものだ。
ちなみにだが、水素充填の渋滞を経験したこともある。都内のとある水素ステーションでの話だが、2台あるディスペンサーのうち1台が故障。その1台をFCバスが使用していた。FCバスは充填量が多いため時間がかかる。1台にかかる時間は約20分。このバスの後にもう1台FCバスの予約が入っていたため、都合40分待つことになった。
その時間ももったいないので、先に40分ぶんの用事を済ませてからステーションに戻ると、FCバスの充填は済んでいて「ミライ」が充填をしていた。そしていざ自分の番になると、先にタンクローリーからステーションに水素を充填するという。それに要する時間が50分。偶然に偶然が重なった例だが、このように長時間待たされた経験があった。
このようなリスクを考え、筆者は航続可能距離が200kmを切ると水素の充填を考えるようにしている。加えて言うなれば、FCEVは“水欠”になったら終わり。ロードサービスを呼んだとしても、水素ステーションが開いていないことには五里霧中となってしまうのだ。
実際にFCEVが必要な現場で車両が水欠寸前になり、水素を求めた挙句200kmも離れた場所までレッカーされたという冗談のような実話もある。もし夜中に水欠となれば目も当てられない状況になるだろう。運良く自宅まで辿り着けたとしても、そこには水素はないのだ。EV用充電器の設置が世界から比べて遅れている日本だが、FCEVの視点から比べると、羨ましいほどのインフラが整っているように見える。