小川 フミオ 記事一覧

ボルボ EX30の発表会でプレゼンするボルボ カーズのジム・ローワンCEO
TEXT:小川フミオ
ボルボが二兎を追わずに目指すものは何か。彼らがEVメーカーに「変身」した理由をCEOに訊く

ボルボにとって、電動化は氷山の一角。現在同社の舵取り役を務めるジム・ローワンCEOはそう語る。彼らは果たしてどこを目指しているのか。どうして内燃機関の開発を止めたのか。自動車ジャーナリスト・小川フミオがCEOインタビューを通して、ボルボが見ている明日の姿を浮き彫りにする。 ソフトウェアやマテリアルに注目すべし ボルボ・カーズのジム・ローワンCEOは、これからの生き残りにおいては、素材の開発とコアコンピューティングテクノロジーが大事になる、とする。 ミラノにおけるEX30の発表会場で行なったインタビューから、要点を紹介していこう。 −−電動化が進んでいくなかで、自動車メーカーは何をやるべきか。ボルボ・カーズの考えはいかなるものか。 「電動化は氷山の一角にすぎません。私たちがいま行なおうとしているのは“変革”であって、電動化自体が目的ではないのです。電気モーターか、内燃機関か。みんな議論をそこで終わらせてしまっています。いま起きつつあるのは、実際はもっと深いところでの変革なのです」 −−ボルボが起こそうとしているのは、クルマ自体の変革か。 「いま、電動化とともに注目すべきは、コアコンピューターテクノロジー、ソフトウェア、シリコンといった分野であり、そして、忘れてはならないのが素材です」 −−クルマにおける変革は、見えないところで起こるということか。 「モーターは同期型か非同期型かとか、インバーターモジュールはどうするかなどといった議論もあります。いまさかんに取り沙汰されている話題でいうと、窒化ガリウムを使ったインバーターとか、パワー半導体のシリコンカーバイド(SiC)とか。要するにマテリアルサイエンスともいうべき領域が、私たち企業の未来に大きくかかわってくるのです」 −−自動車メーカーはまったく新しい領域に足を踏み入れはじめている。 「いまや、私たちはどんどん極小な領域に足を踏み入れていっています。サブアトミック(原子核内部)のところまで分け入っているわけです。ナノテクノロジーの分野が、この先の開発において、どんどん重要になっていくと思っています」 “エンジン”の選択肢より、新技術へ −−2023年6月に発表したEX30ではLFPバッテリーとNMCバッテリーというふうに、クルマのユーザーが何を求めているかによって使い分けている。 「駆動用バッテリーにしても、リチウムイオンとひと言でくくれなくなっていますから。今回は、性能はまずまずのレベルですが比較的廉価で、都市で使うぶんにはなんの問題もないLFP(リン酸鉄リチウムイオン)バッテリーも搭載しました。さらに、シリコン負極(アノード)の開発を進めたり、またソリッドステートタイプ(全個体電池)もそろそろ現実ものとなってきたりという具合ですね」 −−ボルボ・カーズは2021年6月に「ソフトウェアがクルマを定義する時代がくる」としていた。素材とともにコンピューティングも重要な要素になる。 「コアコンピューティングテクノロジーがクルマの“性能”を左右する時代です。ビジョン処理とAI、一般的なコンピューティング、それにインフォテインメントと、さまざまな機能において重要なのです。私たちは、このさきクルマはソフトウェアによってスペックスが決まってくると思っていて、これからのプロダクトをSoftware-Defined Carと定義しています」 −−自動車の作りかたが根本的に変わってくる。ボルボ・カーズはさまざまな企業と提携したりしながら、あたらしい道を開拓していく姿勢が明確だ。 「(先述の素材を含めて)すべてを同時に行なっていかなくてはいけないのです。そんな時代に、ICEもBEVもというのでは、私たちのような規模の企業にとって、負担が大きすぎます。そこで私たちは電動化を選んだのです。あたらしい技術にこれからも投資していきます」 Vol. 3へ続く

ボルボ EX30の発表会でプレゼンするボルボ カーズのジム・ローワンCEO
TEXT:小川フミオ
ボルボが電動化の先に見る明日とは。彼らがEVメーカーに「変身」した理由をCEOに訊く

ボルボ・カーズはいち早く電動化に向けて大きな一歩を踏み出したメーカーのひとつ。とりわけ彼らは、リサイクル素材を多用するなど、ボルボ=サステナブルなイメージを強化するEVを精力的にリリースしている。何故彼らは電動化に“全振り”する戦略を採ったのか。ジム・ローワンCEOに、自動車ジャーナリスト・小川フミオが直撃した。 ボルボはこれからどこへ向かうのか 2023年6月に発表したコンパクトサイズのSUV、EX30で大きくBEVメーカーへの変身へと舵を切った感のあるボルボ。 EX30は、中国の吉利汽車とプラットフォームの共用戦略も採用。生産も中国で行なう一方、北米での販売も行なうなど、ボルボにとって、重要な車種だ。 2022年3月からボルボ・カーズの舵取りを行なっているジム・ローワンCEOに、ミラノでのEX30発表の機会をとらえて、インタビューを行なった。 スコットランド出身のローワン氏はダイソンCEOも務めていた経歴の持ち主。ローワンCEOを迎えたボルボは、EX90を2022年11月にストックホルムで公開。 このとき、ローワン氏は世界中から集まったプレスの前に姿を見せた。私もそのとき最前列でステージを見学させてもらった。 日本人の耳にはちょっとクセのある英語とともに、1965年生まれという先入観を吹き飛ばすような精力的な身振り手振りでもって、このさきボルボ・カーズは大胆にカーボンフットプリント(二酸化炭素排出量)の削減に取り組んでいくと語った。 EX90は(読者のかたは先刻ご承知のように)BEVの大型SUV。「30分の充電で600km以上走るBEVで、私たちがいまどういう姿勢であり、そしてこれからどこへ向かうかを示す指標です」と、ローワンCEOはそのとき述べた。 リサイクル素材の使用を大々的に謳っていたのも印象的だった。たとえば、スチールでは11%、アルミニウムでは25%、そしてプラスチックは15%(重量では48kg)がリサイクル素材となるという。 「電動化自体が目標ではない」 その流れのなかで、次に発表したのが、EX30である。ローワンCEOはなにを考えているか。 各テーマごとに、ローワンCEOのコメントとして、インタビューでの回答のなかから抜き出してみた。 −−現在、ボルボが掲げている目標のなかで、もっとも重要なものはなにか。 「一般的に言っているのは、2030年までに販売するクルマをすべてBEVにすることです」 −−電動化を着々と進めている。 「電気化自体が目標というわけではないのです。目指しているのは、サステナビリティ、地球環境保全です。そのために、カーボンフットプリントを削減します。パワートレインが電気になればそれでサステナブル、というわけではありません。部品、生産、廃棄まで含めて、2025年までに、2018年比で約40%、二酸化炭素を減じていく大胆な目標を立てました」 −−EX30ではリサイクルパーツの多用が謳われている。 「カーボンフットプリント減少のために重要なのは、クルマのなかで使う素材の選択です。リサイクルしたアルミニウム、リサイクルした鉄、リサイクルしたプラスチック。往々にしてリサイクル素材はコストがかかりますが、そこは問題でなく、正しいことをやっているのがもっとも重要なのです」 −−さらに素材には踏み込んでいる。 「私たちは、グリーンスチールを使う最初のメーカーです(注:現時点では未使用)。製造プロセスこそ一般のスチールとおなじですが、(製鉄プロセスにおいて通常コークスを使う際の二酸化炭素排出量を抑制する)水素を利用することでカーボンフットプリントを減らすことが出来ます。私はこれはいい選択だと思っています」 −−このさきもカーボンフットプリント削減への努力は惜しまない。 「私たちが掲げている目標は、2025年までにカーボンフットプリントを2018年比で40%減らすことです。そこに向かって、こうして着々と進んでいるのです」 Vol. 2へ続く

TAG: #EX90 #トップインタビュー #ボルボ
TEXT:小川 フミオ
大幅に進化した安全性と先進装備![レクサスUX300e試乗記]

レクサスUX300eのソフトウェアもマイナーチェンジの範囲にとどまらないような大幅なアップデートとなったが、自動車ジャーナリスト・小川フミオ氏のデザイン面での唯一の指摘とは。 ユーザーの声にもこたえるレクサスの真摯な姿勢 2023年3月30日にマイナーチェンジを受けたレクサスUX300e。予防安全技術の機能拡充とマルチメディアシステムなどの先進装備の進化も、大きな眼目とされている。 内容的には「Lexus Safety System +(レクサス・セイフティシステム・プラス)」の機能拡充がひとつ。 今回、単眼カメラとミリ波レーダーの性能を向上。「プリクラッシュセーフティ」の対応領域を拡大し、交差点右折前の対向直進車や、右左折時の横断歩行者も検知可能になったとされる。 ドライバーがなにかをよけようとステアリングホイールを操舵した際、(おそらく安全な危機回避の範囲内で)車線からはみださないよう操舵をアシストする緊急時操舵支援も追加された。 「レーダークルーズコントロール」に、カーブの大きさに合わせてあらかじめ減速するカーブ速度抑制機能も追加された。 さらに、車両の前後左右に搭載したカメラの映像を合成してセンターディスプレイに表示する「パノラミックビューモニター」における「床下表示機能」を追加。 路面の映像を車両直下に合成表示するこの機能は、他社(たとえばランドローバー)では、クリアサイト・グラウンドビューなどと呼ばれるもの。 モニタースクリーンにおいて、車両の下の路面状況や、自車のタイヤ位置などの把握が出来る。オフロードでもっともありがたい機能だけれど、狭い市街地の車庫入れなどでも使えるのだ。 12.3インチの横型タッチディスプレイを採用したマルチメディアシステムはスクリーンタッチでの操作が可能になった。 使ってみて印象的だったのは、音声認識機能。私のばあい「ヘイ、レクサス」と(日本語っぽく)呼びかけることで起動。 ナビゲーションシステムの目的地設定と、音楽再生のコマンドを試してみた。以前よりずっと感度が向上して、使いやすくなっている。 なんでも、これまでのシステムには“使い勝手がよくない”というユーザーの声がわりと多くメーカーに寄せられていたようで、至急に改善しなくてはいけない項目と認識されていたようだ。 「ディスプレイのタッチスクリーン化に伴い、インパネ及びコンソール周辺の形状やスイッチレイアウトを最適化」したとレクサスでは謳う。 たしかにそのとおりで、直感的に使えるし、いちぶの欧州車と違いエアコンなどの操作のための物理的スイッチが残されているのもありがたい。 ただあえて言えば、ダッシュボードとシートまわりのデザインは、やや退屈。ここは、たとえばフォルスクワーゲンのID.4やメルセデス・ベンツEQAなどの意欲的なデザインに負けていないか。 保守的なデザインを好むユーザーの嗜好性を考慮したり、使い勝手と先進性のバランスをとっていくのはムズカシイ作業とよーく承知のうえで、あえての注文です。 レクサスUX300e version L 全長:4,495mm 全幅:1,840mm 全高:1,540mm ホイールベース:2,640mm 車両重量:1,820kg 前後重量配分:前970kg、後850kg 乗車定員:5名 交流電力量消費率:141Wh/km(WLTCモード) 一充電走行距離:512km(WLTCモード) 最高出力:150kW(203ps) 最大トルク:300Nm(30.5kgm) バッテリー総電力量:72.8kWh モーター数:前1基 トランスミッション:1段固定 駆動方式:FWD フロントサスペンション:マクファーソン・ストラット式 リアサスペンション:ダブルウィッシュボーン式 フロントブレーキ:ベンチレーテッドディスク リアブレーキ:ベンチレーテッドディスク タイヤサイズ:前225/50R18、後225/50R18 最小回転半径:5.2m 荷室容量:310L 車両本体価格:685万円

TAG: #SUV #UX300e #レクサス
TEXT:小川 フミオ
乗り心地の良さとファントゥドライブを持ち合わせたe-SUV[レクサスUX300e試乗記]

レクサスUX300eのマイナーチェンジの走りに関してはどんなアップデートなのか、その詳細と価格が近いライバルについてを自動車ジャーナリスト・小川フミオ氏に語ってもらった。 運転好きな方にもおすすめの電気自動車 2023年3月30日にマイナーチェンジを受けたレクサスUX300e。新しいバッテリーパック搭載で、航続距離が伸びたいっぽう、走りの性能もあきらかに上がっている。 ひとことでいうと、楽しい。 「上質ですっきりと奥深い走りの味」をさらにきわめるというのが、今回のマイナーチェンジを受けもった開発陣の狙いだったそうだ。 リアのパフォーマンスダンパーは継続使用。加えて、サイドドア及び、テールゲート周辺のボディ開口部のスポット溶接打点を20点追加することでボディ剛性を強化。 加えて、EPS(電子制御のパワーステアリング)やダンパー設定の最適化を実施。 バッテリーを床下に置いた低重心パッケージの利点をさらに活かすべく、テストコースで「徹底的に走り込み」をしたと、レクサスでは謳う。 加速感も減速感もナチュラルで、ドライバーの感覚にぴったり寄り添うような走りが体験できる印象が強い。 ステアリングホイールの操舵感は、このところのレクサス車(およびトヨタ車)と共通の、しっかり感が強いもの。乗ってすぐは、重くてびっくりするひともいるのでは。 かつてのBEV(バッテリー電気自動車)によく見られた、ことさら初期加速の速さを強調したようなキャラクターでないものの、300Nmのトルクをもつモーターで前輪を駆動するので、速いことは速い。 調子にのって加速して、ちょっときつめのカーブにさしかかったときに、思ったより操舵感が重くて、切り遅れてしまう、なんてことが、初めて乗ったときには起こりうる。 ただし、この操縦感覚にはすぐ馴れる。馴れると、じつに気持ちいい。見ている方向や腕の動き、やアクセルペダルを踏む足など、すべてが一体化して感じられるようになる。 このところ、NX(現在のモデルの発売は2021年10月)、RX(同2022年11月)が、走りも楽しい仕上がりで印象的だったせいもあり、UXの存在感が私のなかではやや希薄だったのは事実。 マイナーチェンジしたUX300eは、バッテリーパックの床下配置による低重心化で、前後重量配分や慣性モーメントなど、バランスがとれた操縦性を有し、かつパワートレインや操舵感覚はナチュラル。 運転が好きなひとなら、パワートレインの内容をとびこえて、UX300eをきっと気に入ると思う。

TAG: #SUV #UX300e #レクサス
TEXT:小川フミオ
UX300eの唯一の弱点とは? パッケージングを観察する[レクサスUX300e試乗記]

年次改良でクルマとしての基本性能を上げているレクサスのラインナップの中で、BEV専用車種ではないUX300eの唯一の弱点とは?前回(その1をリンクさせる)に引き続き、自動車ジャーナリスト・小川フミオさんによるレポートです。 着実な進化を遂げているレクサス レクサスUXシリーズの発売は2018年。当初はガソリンのUX200と、ハイブリッドのUX250hが出て、20年にBEVのUX300eが追加された。 さいきんのレクサスで感心するのは、年次改良で、確実にクルマがよくなっていくこと。 内装や外装の色使いが派手派手しくなるとか、豪華装備が増えるとかでない。クルマの基本である“走り”の性能が向上しているのだ。 UX300eも例外でない。2023年3月30日のマイナーチェンジで、バッテリー性能が見直されたのも一例だ。 従来の54.4kWhから72.8kWhに容量が増え、満充電での航続距離は512kmに。従来比、約40%増しなので、かなりの性能アップだ。 たしかに、市街地をドライブしているぐらいでは、バッテリー残量計の減りはかなりゆるやか。結局、私の試乗では、バッテリーを空にすることはできなかった。

TAG: #UX300e #レクサス
TEXT:小川フミオ
「生活のなかに溶け込む電気自動車」と呼べる理由[レクサスUX300e試乗記]

レクサスRZ450eの試乗記に続き、自動車ジャーナリスト・小川フミオ氏によるUX300eの試乗記をお届けする。RZ450eの発売と同時にUX300eはマイナーチェンジが施された。大幅な航続距離の伸長以外にはどんな内容があるのだろうか。 ナチュラルな操縦感覚 レクサスが2023年3月30日に実施した、UX300eのマイナーチェンジ。結論からいって、たいへんナチュラルな操縦感覚に仕上がって、私のなかの好感度は大幅に上昇している。 ご存知のように、UX300eはレクサス初のBEV。ベースになったUXシリーズは、トヨタRAV4とを基本的にシャシーを共用。それをベースにピュアEVに仕立てたのはたいへんだったろう。 レクサスがやったのは、各部の徹底的な補強。そもそも、従来型でも大きめの駆動用バッテリーを床下に収めるため、車両は低重心。相乗効果で、印象的な操縦性能をもっていた。 2022年にはUXシリーズは、「F SPORT」にヤマハ発動機が開発したパフォーマンスダンパーを装着。 UX300eに「F SPORT」の設定はないけれど、ハンドリングと快適性ともに追求できるパフォーマンスダンパーは、おごられていた。それは、今回も継続される。 今回のUX300e、レクサスによる、マイナーチェンジの眼目は下記のとおり。 ・実用性の高いバッテリーEVモデルの更なる進化 ・新開発の電池パックにより航続距離512km、従来型比約40%向上 ・クルマの体幹を鍛え、UXの上質ですっきりと奥深い走りをさらに深化 ・予防安全技術の機能拡充とマルチメディアシステムなどの先進装備の進化 バッテリー容量が、従来の54.4kWhから、72.8kWhに拡大。モーターの150kWの最高出力と300Nmの最大トルクの値は変わらないが、満充電での走行距離が367kmから512kmへと伸びている。

TAG: #UX300e #レクサス
VWゴルフ GTIの歴代モデルスケッチ
TEXT:小川フミオ
フォルクスワーゲンのアイコン、ゴルフの存続やいかに。VW首脳陣に訊く電動化のミライ

電動化への道を急ピッチで切り拓くフォルクスワーゲンだが、やはりクルマ好きとして気になるのは、彼らを象徴するプロダクトであるゴルフの行方だ。ベーシックカーの王様であるゴルフもまた、BEV化を果たすのか、否か。フォルクスワーゲン乗用車部門セールス・マーケティング&アフターセールス担当取締役、イメルダ・ラベー氏に自動車ジャーナリスト・小川フミオが切り込んだ。 ゴルフは電動化するのか? BEV時代を迎えつつあるいま、フォルクスワーゲン(VW)はどのような製品戦略をとっていくのだろう。 Love Brandであるために、というVWの目的を達成する手段として、「手の届きやすいBEVを提供する」こととともに「顧客が欲しくなるVWモデルを増やす」というものもある。 とりわけ昔からのVWファンだったら、もっとも気になるのは、ゴルフの行方ではないだろうか。はたして電動化するのか。するとしたら、いつなのか−−。 VWのセールス&マーケティング担当重役のイメルダ・ラベー氏に、その質問をぶつけてみた。 ──ID.シリーズにラインナップが集約されていくのかどうかわかりませんが、仮にそうなると、早晩ゴルフはなくなってしまうのでしょうか。 ゴルフは残ります。VWはゴルフ。ゴルフはVW。そのイメージは大事にしていきたいと思っています。ただ、(初代ゴルフが1974年に発売されたあと)他のアイコニックなプロダクトが、折りにふれて顧客に受け容れられてきています。直近でいうと、SUVが大人気の日本市場におけるティグアンです。指名買いをしてくれるモデルに成長しています。 ──2023年6月初頭に北米で発表したID.Buzzロングホイールベースのように、かつて北米で高い人気をもっていたマイクロバスのイメージを現代に活かしたモデルを作れるのも、フォルクスワーゲンの強みですね。 私たちの製品戦略は、過去のアイコン的なプロダクトを、BEVのポートフォリオ(ラインナップ)のなかにうまく組み込んでいくことです。まさにID.Buzzはいい例で、アイコニックな製品を完全にBEV化できて、かつ大きな評判を呼んでいます。   GTIやRの生産は当面継続へ ──ということは、ゴルフのBEV化も比較的容易であると? いえいえ。ブランドのヘリテイジをきちんと反映しつつ、これからの製品戦略に沿ったプロダクト。これが私たちがプロダクトを開発する際の基準です。かりにゴルフを電動化するとしたら、ゴルフのアイデンティティを完全に反映したプロダクトでなくてはなりません。なにをもってゴルフをゴルフと認めるか。出来上がったプロダクトを、消費者がゴルフと完璧に納得してくれなくてはならないのです。そのコンセプトが完全に出来上がるまで、電動化したゴルフは発表しません。 ──日本市場ではBEVの市場占有率が、たとえば北欧と較べると著しく低いと思います。かりにBEV化したゴルフを出されても、ファンは戸惑うのではないでしょうか。いまの話を聞いて、ホッとしているファンもいるかもしれません(笑) 日本に限らず、BEVのシェアが低い市場はいくつもあります。私たちとしても、ある日とつぜんICE(エンジン車)の販売を取りやめるようなことはしません。ICEパーフェクションといって、当面はゴルフGTIやRなどを含めて、エモーショナルな価値をもつモデルは生産を続けますし、性能向上だって図っていきます。ゴルフも同様です。ICEとして、より磨きをかけたモデルを2024年後半に発表します。電動化はその次の時代に向けて、ということになるでしょうね」 <完> (プロフィール) Imelda Labbé(イメルダ・ラベー)氏 フォルクスワーゲン乗用車部門 セールス・マーケティング&アフターセールス担当取締役 1967年に、フランス国境ちかくの南西ドイツ(Steinfeld/Pfalz)で生まれ、ユニバーシティ・オブ・マンハイムで経営学を学ぶ。その後米スタンフォード・ユニバーシティで経営学の修士号を取得。1986年から2013年にかけて、独オペルで経験を積んだのち、2013年にVW傘下のシュコダに転職し、同社取締役会のスポークスパースンに。2016年からVWグループでグローバルのアフターセールスなどを担当。2022年7月1日より現職。

TAG: #コンパクトカー #マーケティング #戦略
フォルクスワーゲンのBEVファミリー、ID.シリーズのイメージ
TEXT:小川フミオ
フォルクスワーゲンのEVは「サブスク」が鍵を握る? VW首脳陣に訊く電動化のミライ

買った後でも愛車を“アプデ”できる いまやデジタル技術なしにクルマを語ることはできない。各自動車メーカーとも、デジタルを駆使した様々な手法で商品力アップを図っている。フォルクスワーゲンは、クルマを購入したのちに機能をアップデートできる「ファンクション・オン・デマンド」というサービスを開始。愛車の新しい買い方・使い方を提案している。彼らのデジタル戦略について、フォルクスワーゲン乗用車部門セールス・マーケティング&アフターセールス担当取締役イメルダ・ラベー氏に自動車ジャーナリスト・小川フミオが訊いた。 クルマの“進化”のなかには、デジタライゼーションと呼ばれる機能がある。 車内の照明の色が変えられる機能から、コンピューターのアップグレードによる高性能化まで、デジタル技術を使った進化にはめざましいものがある。 フォルクスワーゲン(VW)では「ファンクション・オン・デマンド」と銘打って、クルマを購入したのち、機能を追加するサービスもいくつかの市場で展開中だ。 さらにこの技術も“進化”中。なかには、自分の設定をクラウドに保存して、クルマを買い替えても、ラジオ局の設定やストリーミングの選択などがキャリーオーバーできて、ゆえにすぐに自分仕様にできる機能の可能性まである。 BEVと相性がいいといわれるファンクション・オン・デマンドなど、VW本社でセールス&マーケティング担当取締役をつとめるイメルダ・ラベー氏に、現状と、近い将来の方針を尋ねた。 機能も顧客ごとにカスタムできる時代へ ──デジタライゼーションをうまく使えば、より顧客ひとりひとりのニーズに即した仕様に仕立てられるかもしれないし、BEVとの相性はとてもいいのでは、と思われます。 はい、そのとおりだと思っています。私たちは、デジタル技術を使ってユーザーとの距離感をいままで以上に縮めたいと考えています。どんなインフォテインメントシステムを提供するのかなど、しっかり考えて実行に移していきたいですね。 私は「インカーCRM」って呼んでいるんですけれど、デジタル技術によって、企業と顧客との関係をうまく管理していって、そのさき、しっかりした関係を築いていけるといいと思います。 ──ファンクション・オン・デマンドは、OTA(オーバー ジ エア)など通信を使って自車の機能をアップグレードできたりと、まさにデジタル時代的なサービスですね。 たとえば、LEDマトリックスライト、ハイビームアシスト、パークアシスト、スマートフォンインターフェースなど、あとから購入してインストールできるサービスは、これからどんどん拡大していきそうです。現時点ではあいにく、どれぐらいの規模になるか、数字とともに予想を申し上げるのがむずかしいのですが。 ──これからのサービスだから(むずかしい)ということでしょうか。 はい。いまはまだ初期段階だと思います。私たちもいくつかの市場ですでにサービスを展開していますが、消費者に必要なものはなにかを、メーカーとしてあらかじめ予測して用意しておくのが、とてもむずかしいと感じています。市場によってニーズは違いますし。たしかに、誰かからクルマを購入したとき、(運転支援システムやドライブモードや音楽のアーカイブや空調の設定などを)すぐに自分好みのセッティングに変えられるのは喜ばれるでしょう。 ──多くのメーカーがいま、同様のサービスを喧伝しはじめていますね。なかには、走行距離に応じて課金するサブスクリプションサービスを使った販売なんて可能性も言及されています。世のなかのニーズはすごい勢いで変化していますね。 商品開発のプロセスにおいて、開発の初期段階で、プリインストールしておく機能と、ファンクション・オン・デマンドで提供する機能とを切り分けておく必要があります。(初期の販売価格も変わってくるし)この切り分けの設定こそ、マーケットにおける成功のカギだと私は思っています。もちろん顧客に価値あるものを提供することこそ、Love Brandになるために重要なのです。 <つづく> (プロフィール) Imelda Labbé(イメルダ・ラベー)氏 フォルクスワーゲン乗用車部門 セールス・マーケティング&アフターセールス担当取締役 1967年に、フランス国境ちかくの南西ドイツ(Steinfeld/Pfalz)で生まれ、ユニバーシティ・オブ・マンハイムで経営学を学ぶ。その後米スタンフォード・ユニバーシティで経営学の修士号を取得。1986年から2013年にかけて、独オペルで経験を積んだのち、2013年にVW傘下のシュコダに転職し、同社取締役会のスポークスパースンに。2016年からVWグループでグローバルのアフターセールスなどを担当。2022年7月1日より現職。

TAG: #コンパクトカー #マーケティング #戦略
TEXT:小川 フミオ
[レクサスRZ450e]EV激戦区のライバルを探る[試乗記:その5]

RZ450eはミドルクラスのSUVで、現在のBEVの主流に属する。ゆえに数々の競合車が待ち構える。 まさに群雄割拠 RZ450eバージョンLの価格は880万円。どんなライバルが市場にあるだろう。 シャシーを共用するトヨタ「bZ4X」(FWD600万円/AWD650万円)は、モーターの出力がやや低くなるいっぽう、満充電からの走行距離はFWDモデルで559kmと、449kmのRZを大きく上回る。 スバル「ソルテラ」(FWD594万円〜/AWD638万円〜)も、FWD仕様はフロントに150kWのモーター(のみ)。AWDは前後80kW1基ずつ、とbZ4Xと同様のスペックだ。 日産には、全長4,595mm、ホイールベース2,775mmで、470km走る「アリア」(FWD539万円、AWDは近いうちに発売)がある。 ただし、レクサスのユーザーは、トヨタや日産でなく、輸入車のほうが気になるかもしれない。 BEV(バッテリーEV)に熱心なBMWだと「i4」(848万円〜)。全長4,785mm、ホイールベース2,855mmと、全長では4,805mmのRZより短く、ホイールベースは2,850mmなのでi4が長い。 満充電からの走行距離は、604kmを謳うi4が、494kmのRZをはるかにしのいでいる。部分的なパートナーとしてトヨタ/レクサスといい関係にあるBMWだが、ここでは見習うべきお手本か。 アウディでは、「Q4 e-tron」(638万円)と「Q4 Sportback e-tron」(730万円)が価格面で近い。全長は4,590mm、ホイールベースは2,765mmなので、Q4 e-tronのほうがコンパクト。そのせいか、航続距離は594kmと長い。 メルセデス・ベンツでは「EQA」(782万円)と「EQB」(822万円)という2台のSUVが価格的に、RZ450eと重なってくる。 EQBでは全長4,685mm、ホイールベース2,830mm。寸法はRZに近く、走行距離もEQBの520kmなので、やはりRZ450eとだいぶ重なってくる。 こうやって比較してみると、だいぶ市場がにぎやかになっているのが、あらためて分かる。

TAG: #BMW i4 #bZ4X #EQA #EQB #Q4 e-tron #RZ450e #SUV #アリア #ソルテラ
VW ゴルフ GTIのフロントビュー
TEXT:小川フミオ
フォルクスワーゲンのアイコン「GTI」は生き残るのか。VW首脳陣に訊く電動化のミライ

BEVとFun To Driveは好相性 フォルクスワーゲンが得意とするのは、大衆に愛されるベーシックカーづくりだ。しかしその一方で、GTIやRの称号を冠するホットなモデルも多くのファンを魅了している。電動化時代にも、そのアイコンは生き残ることができるか、否か。フォルクスワーゲン乗用車部門セールス・マーケティング&アフターセールス担当取締役のイメルダ・ラベー氏に、自動車ジャーナリスト・小川フミオがインタビューした。 BEVに熱心に取り組むフォルクスワーゲン(VW)。いっぽう同社には、「ゴルフGTI」や「ポロGTI」といった、アイコニックなスポーツモデルがある。 1976年の初代以来、ゴルフGTIという他に並ぶもののないセグメントを市場のなかで確立したVW。GTIは、高性能エンジンを、スポーティなセッティングがほどこされたサスペンションシステムとともに、セリングポイントとしてきたモデル、と言い換えてもいい。 BEVの時代にあって、VWの考えるFun To Driveは、どのようなかたちになっていくのだろう。 VWブランドのセールス&マーケティング担当取締役のイメルダ・ラベー氏は「Fun To Driveは今後も大事にしていきたい」と話す。 ──VWは電動化を急速に進めている印象ですが、BEVにおけるFun To Driveはどう定義していますか。 BEVはごく低い速度域からトルクがたっぷり。加速性能もいいし、BEVはFun To Driveを含めたエモーショナルなクルマを作るいい土台だと思っています。デザインも同様です。ID.2 allのデザインは好例でしょう。エモーショナルなパワーが伝わるカタチと、大きな反響を呼んでいるほどです。内装においても過去のモデルの要素を採り入れてエモーショナルな価値を追求。私はこれがVWのFun To Driveだと思っています。   GTIは「存続させていきたい」 ──VWでエモーショナルな価値をもったモデルといえば、従来、ゴルフGTIとゴルフRが代表格でした。ゴルフGTIは、今後も残るのでしょうか。 ゴルフにしてもポロにしても、GTIはたいへんアイコニックなブランドです。世界中にファンが多く、ソーシャルメディアの世界でも、リアルな世界でも、ファンのコミュニティでの結びつきはたいへん強いものです。なので私たちは、GTIというブランドを存続させていきたいと考えています。 ──VWではGTIのファンコミュニティにも積極的にかかわっていると聞きます。 ながいあいだ、オーストリアのWörtherseeにおいて毎年、GTIミーティングが有志の手によって開催されていましたが、残念ながら地元の自治体の判断で2023年からは開催できなくなりました。そこで私たちは、2024年から(VW本社のある)ウォルフスブルクで、このミーティングを行なえるようにしました。 ──GTIはパワフルな前輪駆動、Rは大きなパワーを4つの車輪に配分する全輪駆動と、従来のモデルにとっては、駆動方式やドライブトレインが大事でした。もちろん、エンジンのフィールも。どのようなかたちでの存続を考えていますか。 現時点ではっきりしたことは申し上げられないのですが、たとえば、GTIフィーリングのようなものはBEVでも作りだせると考えています。GTIもRも、エモーショナルな価値を強く持ったモデルです。そのコアにある価値を見据えて、それを今後も提供していこうと思っています。ただしBEVでもGTIは成立するというのが私たちの考えです。だいたい次の路線は決まったのですが、残念ながら、ここでそれについて申し上げるのは時期尚早です。 <つづく> (プロフィール) Imelda Labbé(イメルダ・ラベー)氏 フォルクスワーゲン乗用車部門 セールス・マーケティング&アフターセールス担当取締役 1967年に、フランス国境ちかくの南西ドイツ(Steinfeld/Pfalz)で生まれ、ユニバーシティ・オブ・マンハイムで経営学を学ぶ。その後米スタンフォード・ユニバーシティで経営学の修士号を取得。1986年から2013年にかけて、独オペルで経験を積んだのち、2013年にVW傘下のシュコダに転職し、同社取締役会のスポークスパースンに。2016年からVWグループでグローバルのアフターセールスなどを担当。2022年7月1日より現職。

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連載企画 一覧
VOL.15
本当に日本はEVで「立ち遅れた」のか:知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第15回

ジャパン・モビリティ・ショー開催でにわかに沸き立つ日本のEVマーケット。しかし現実の販売状況は日本において大きく立ち遅れている。技術では先導してきたはずの日本メーカーは、なぜEVで世界をリードできていないのか。この分野のベテランジャーナリストである御堀 直嗣が解説する。 日本の低いEV市場占有率 日本は、世界に先駆けて電気自動車(EV)の市販に踏み切った。2009年に三菱自動車工業が、軽自動車EVの「i-MiEV」を法人向けにリース販売しはじめ、翌10年には一般消費者向けへの販売も開始した。同年には、日産自動車も小型EVの「リーフ」を発売した。この2社によって、EVの量産市販が実現し、ことにリーフは海外への販売も行われ、「i-MiEV」はフランスの当時PSA社にOEM供給された。リーフの販売は世界で累計65万台に達し、その他EVを含めると、日産は世界で100万台のEV販売の実績を持つ。そのうち、日本国内は累計23万台である。 ちなみに、米国テスラは2022年では年間で約130万台、中国のBYDは同年に約90万台規模へ成長している。 同時にまた、世界共通の充電規格であるCHAdeMO(チャデモ)も準備され、リーフが販売される世界の各地域にCHAdeMO充電器の設置が動き出した。 それらを背景に、経済産業省は2012年度補正予算で1,005億円の補助金を計上し、全国に約10万基の充電器を整備するとした。この補助金は全額支給でないため、トヨタ/日産/ホンダ/三菱自の4社が資金を拠出し、補助金で賄いきれない残額を補填することに合意した。 しかし、現在の充電器の数は、急速充電と普通充電を合わせて約2万基である。 国内の新車販売において、EVが占める割合は1%以下という状況が長く続いた。昨2022年、「日産サクラ」と「三菱eKクロスEV」が発売となり、1年で5万台以上を販売することで2%ほどの占有率になろうかという状況にある。 一方、世界全体では、EVの市場占有率が13%になる。米国は5.8%、欧州は12%、中国は21%となっており、日本がいかに低水準であるかがみえてくる。 日本でEV普及が進まなかった理由 EVの先駆者であった日本が、なぜ欧米や中国の後塵を拝するようになったのか。 最大の要因は、せっかく1,005億円という充電基盤整備に対する経済産業省の支援があったにもかかわらず、急速充電器の整備にばかり世間の目が行き、EV利用の基本である基礎充電、すなわち自宅での普通充電(200V)の重要性が広がらなかったからである。ことに、マンションなど集合住宅の駐車場と、月極駐車場への普通充電設置がほぼできなかったことが原因であった。 EVの充電は、普通充電で8~10時間、あるいはそれ以上かかるとされ、これが単純にガソリンスタンドでの給油時間と比較されて、使い勝手が悪いとさまざまな媒体を通じて流布された。いまでもそうした論調が消えていない。しかし、自宅で普通充電できれば、寝ている間に満充電になるので、翌朝出かけるときは満充電で出発できる。 戸建て住宅に住む人はそれができた。ところが、戸建て住宅でも自宅に車庫がなく月極駐車場を利用する人は、近隣の急速充電器を利用しなければならなくなった。 集合住宅に住む人は、敷地内に駐車場が併設されていても、管理組合の同意が得られず普通充電ができない状態に陥った。無知がもたらした悲劇だ。EVを買う意思があっても、手に入れにくい状況があった。 集合住宅の管理組合で賛同が得られない最大の理由は、幹事がEV時代を予測できず、また自分には関係ないとして無視され続けたことにある。設置の経費は、ことに当初は補助金と自動車メーカー4社による補填があったので、ほぼゼロであった。現在でも、施工業者が残金を負担するなどのやりくりで、集合住宅側の負担が軽く済む仕組みが出てきている。それでもなお、管理組合で合意を得るのが難しい状況は払拭できていない。 基礎充電の普及を目指す業者の間でも、さらに難しいとされるのが月極駐車場への普通充電の設置だ。月極駐車場を管理する不動産業者の理解を得にくいという。

VOL.1
リッター200円にもう限界……給油の“枷”をぶっちぎれ!【モデルサードインパクト vol.1】

ガソリン高い、燃費も悪い、限界だ! かつてないほどの猛暑に喘いだであろう今夏。「もういいよ」「もう下がってくれ」と、気温に対して誰もが感じていたと思うが、自動車ユーザーはガソリン価格に対しても同じことを思っていたのではないだろうか。 リッターあたり170円、180円、190円、そして200円の大台を突破……給油をするたびに、誰もが憂鬱な気分になったはずだ。小生はドイツの某オープンスポーツカーに乗っているのだが、リッターあたり平均10kmでハイオク仕様。愛車にガソリンを入れるたび、顔が青ざめていた。 「高額給油という枷から解放されたい……」 EVの購入を決意した所感である。クルマを走らせることは、本来喜びのはず。給油のたびに落ち込むのは本望ではない。 小生は、THE EV TIMES(TET)の編集スタッフを務めています。この9月、「テスラ・モデル3・パフォーマンス」を購入しました。新たな愛車と共に進むEVライフを「モデル・サードインパクト」と銘打ち、連載で紹介していこうと思います。 EVは便利だと実感した「日産リーフ」 小生が初めて体験したEVは「日産リーフ」(2代目)である。遡ること2017年、「リーフ」が2代目になった頃、日産が全国で試乗キャラバンを開催し、小生はその試乗アテンダントを担当していた。そこで「リーフ」を存分に運転することができたのだ。 それゆえ、EVの利便性の高さを実感することになった。スポーツモデル顔負けの力強くスムーズな加速にまず驚いたのだが、給油という枷から外れて自由に走り回れることが大変な魅力に感じた。アイドリング状態でエアコンを入れっぱなしでもガソリン代を気にせずに済む。車内でPCを開けば、そのままオフィスになる。車の用途が無限大に広がると感じた。 充電時間も特別長いとは感じなかった。充電残量が50%くらいになったら、急速充電を使用してあっという間に80%まで回復できる。ちなみに100%まで充電した場合、280kmを走れる表示が出ていたと記憶している(当時は寒い季節で暖房を使用した)。ちょっとした遠出も十分に対応可能。「EVなんて不便」という印象は全く抱かなかった。そこで薄々と「将来はEVもアリだな」と思ったのだ。

VOL.20
VW「ID.4」オーナーはアウトバーンを時速何キロで走る? [ID.4をチャージせよ!:その20]

9月上旬、スイスで開催された「ID.TREFFEN」(ID.ミーティング)を取材した際に、参加していた「ID.4」オーナーに、そのクルマを選んだ理由などを聞きました。 フォルクスワーゲン一筋 鮮やかな“キングズレッドメタリック”のID.4で登場したのは、ドイツのハノーファーからはるばるスイスに駆けつけたデュブラック・マルクスさん。「フォルクスワーゲンT3」のTシャツを着ているくらいですから、かなりのフォルクスワーゲン好きと見ましたが、予想は的中! 「18歳で免許を取ってからこれまで30年間、フォルクスワーゲンしか買ったことがないんですよ」という、まさにフォルクスワーゲン一筋の御仁でした。 彼の愛車はID.4のなかでももっともハイパフォーマンスな「ID.4 GTX」。日本未導入のこのグレードは、2モーターの4WD仕様で、最高出力220kW(299PS)を発揮するというスポーツモデル。こんなクルマに乗れるなんて、なんともうらやましいかぎりです。 そんなマルクスさんにID.4 GTXを購入した理由を尋ねると、「これからはEVの時代だと思ったので!」と明確な答えが返ってきました。とはいえ、ID.ファミリーのトップバッターである「ID.3」が登場した時点ではすぐに動き出すことはありませんでした。「1年半くらい前にID.4 GTXを試乗する機会があって、踏んだ瞬間から力強くダッシュするID.4 GTXのパンチ力にすっかり惚れ込んでしまい、即決でしたよ(笑)」。

VOL.14
欧州メーカーはなぜ電気自動車に走ったのか?:知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第14回

EVの知識を、最新情報から「いまさらこんなこと聞いていいの?」というベーシックな疑問まで、ベテラン・ジャーナリストが答えていく連載。今回は欧州メーカーの特集です。 日本市場参入が遅かった欧州製EV 日本市場では、欧州からの電気自動車(EV)攻勢が活発に見える。ドイツの「BMW i3」が発売されたのは2013年秋で、日本市場へは2014年春に導入された。 日本の自動車メーカーがEVを市販したのは、2009年の「三菱i-MiEV」の法人向けリースが最初で、翌2010年には「i-MiEV」も一般消費者への販売を開始し、同年に「日産リーフ」が発売された。「i3」の発売は、それより数年後になってからのことだ。 ほかに、フォルクスワーゲン(VW)は、「up!」と「ゴルフ」のエンジン車をEVに改造した「e-up!」と「e-ゴルフ」を2015年から日本で発売すると2014年に発表した。だが、急速充電システムのCHAdeMOとの整合性をとることができず、断念している。その後、VWは「e-ゴルフ」を2017年秋に販売を開始した。EV専用車種となる「ID.4」を日本に導入したのは、2022年のことだ。フランスのプジョーが、「e-208」を日本で発売したのは2020年である。 以上のように、欧州全体としては、EVへの関心が高まってきたのは比較的最近のことといえる。 くじかれたディーゼル重視路線 欧州は、クルマの環境対策として、自動車メーカーごとの二酸化炭素(CO2)排出量規制を中心に動いてきた。そして2021年から、1km走行当たりの排出量を企業平均で95gとする対処方法を考えてきた。EU規制は、販売する車種ごとのCO2排出量を問うのではなく、販売するすべての車種の平均値で95gを下回らなければならないという厳しさだ。 対策の基本となったのは、ディーゼルターボ・エンジンを使った排気量の削減と、出力の低下を補う過給器との組み合わせを主体としつつ、ハイブリッドによるさらなる燃費の向上である。 既存のディーゼルターボ・エンジンをできるだけ活用しようとする考えは、欧州メーカーが補機用バッテリーの電圧を世界的な12ボルトから、36ボルトや48ボルトに変更することによるマイルドハイブリッド化に注目してきた様子からもうかがえる。 ところが、2015年にVWが米国市場でディーゼル車の排出ガス規制を偽装していたことが明らかにされた。公的機関での測定では規制値を満たすものの、実走行で急加速などした際に基準を上回る有害物質が排出され、それによって力強い加速を得られるようにした制御が発覚したのである。その影響は、VW車だけでなく、アウディなどVWグループ内に広く影響を及ぼした。

VOL.3
ボルボは新型EVの「EX30」でインテリアに新たな価値を与え、空間を最大限、利用する!

ボルボはEX30の室内で多くの新たなチャレンジを行なっていると謳う。その詳細を小川フミオ氏が訊いていく。連載1回目はこちら、2回目はこちら。 冷たさの排除し素材を“素直”に使う EX30のインテリアが、他車と決定的に違うのは、金属的な表面処理がほとんど見当たらないこと。それは意図的にそうしたのだと、インテリアデザインを統括するリサ・リーブス氏は言う。 「心したのは、冷たさの排除です。使う素材はオネスト、つまり木に見えるものは木であり、また同時に、リサイクル素材を人間にやさしいかたちで使用しました」 インテリアは「ブリーズ」(やさしい風)をはじめ「ミスト」(もや)、「パイン」(松)それに「インディゴ」と4種類(日本はそのうち「ブリーズ」と「ミスト」を導入)。 「ブリーズを例にとると、デザインインスピレーションはサマーデイズ。シート表皮の素材はピクセルニットとノルディコ、ダッシュボードの飾り材はパーティクル、そして空気吹き出し口のカラーはブルーです」 リーブス氏は説明してくれる。 「ピクセルニットはPETボトルをリサイクルしたもの。それを3Dニッティング(立体編み)プロセスでシート用素材にしています。組み合わせるノルディコは、PETボトルなどのリサイクル素材、北欧で計画的に伐採された木から採取された素材、リサイクルされたワインコルクなどで作られたテキスタイルです」 ダッシュボード用のパーティクルは、窓枠やシャッターを中心に工業廃棄物であるプラスチックを粉砕したものだし、フロアマットは漁網をリサイクルしたという。 「リサイクル材とともに、インテリアは雰囲気を統一したので、私たちは“ルーム”という名を与えています。インディゴの場合、デザインインスピレーションは”夜のはじまり”で、デニムをリサイクルしたときに余る糸を使った素材をシート表皮に使っています」 シートじたいは「スニーカーにインスパイアされた形状」(メイヤー氏)だそうだ。

VOL.2
ボルボの新型電気自動車「EX30」にはスターウォーズのデザインが取り入れられている!?

エンジンの回転の盛り上がりには、時に人間的な表現が用いられる。しかしBEV(バッテリー電気自動車)はエンジンもなく無音なため、より無機質な、機械的な印象が強くなる。ボルボはそんなBEVに人間的な要素を入れたと主張する。連載1回目はこちら。 どことなく楽しい感じの表情 ボルボEX30は、いってみれば、二面性のあるモデルだ。ひとつは、地球環境保全(サステナビリティ)を重視したコンセプト。もうひとつは、大トルクの電気モーターの特性を活かしたスポーツ性。 デザイナーは「いずれにしても、BEVと一目でわかってもらうデザインが重要と考えました」(エクステリアデザイン統括のTジョン・メイヤー氏)と言う。 「もちろん、昨今ではICE(エンジン車)かBEVか、デザインをするときあえて差別化をしないのが世界的な流れです。ただし、私たちとしては、スカンジナビアデザインの原則を守りつつデザインしました」 メイヤー氏の言葉を借りて、この場合のスカンジナビアデザインの肝要を説明すると「形態は機能に従う」となる。 「そこで、上部に開口部とグリルはもたせないようにしようと。ただし(インバーターなどのために)空気を採り入れる必要はあるので、下にインレットは設けています」 ボルボ車のデザインアイディンティティである「トール(神の)ハンマー」なる形状のヘッドランプも採用。ただし、カバーで覆った一体型でなく、四角いLEDのマトリックスが独立しているような形状があたらしい。 「そうやって出来上がったのがこのデザインです。顔になっていて、そこには眼があって、鼻があって、口があるんです。どことなく楽しいかんじで、これまで以上に人間的な表情を実現しました」 暴力的でもなければ、ロボット的でもない。メイヤー氏はそこを強調した。

VOL.1
ボルボの新型電気自動車「EX30」は、相反する2面性を合わせ持つ文武両道なクルマ

ボルボの新たなBEV(バッテリー電気自動車)として、ついに10月2日から「サブスク」モデルの申し込みが始まるEX30。この「ボルボ史上最小のBEV」はどのように開発されたのか。ミラノで行われたワールドプレミアに参加した小川フミオ氏が関係者の声とともに振り返る。 スカンディナビアン+デジタル 2023年6月に登場したEX30は、コアコンピューティングテクノロジーを大胆に採用する、ボルボの新世代BEV。 内容にとどまらず、同時に、デザイン面でもさまざまな大胆な試みがなされているのも特徴だ。 いってみれば、伝統的ともいえるスカンディナビアンテイストに、デジタライゼーションの融合。 「私たちのデザイン的価値のすべてを小さなフォーマットで具現」したモデルと、ボルボ・カーズはプレスリリース内で謳う。 「非常に電気自動車的なデザインで(中略)閉じられたシールド(フロントグリルの開口部のこと)とデジタル表現を用いたトールハンマーヘッドライト」がフロント部の特徴とされる。 さらに新世代BEVとしてボルボが狙ったものはなんだろう。ミラノでの発表会において出合った担当デザイナー(たち)に、デザインの見どころと背景にあるコンセプトを取材した。

VOL.5
「BMW iX xDrive50」の高速電費は我慢不要! ロングドライブにうってつけのEV

[THE EV TIMES流・電費ガチ計測] THE EV TIMES(TET)流電費計測の5回目を、8月に「BMW iX xDrive50」で実施した。車高の高いSUVにもかかわらず、高速巡航時に電費が低下しにくいのが特徴だ。その詳細をお伝えする。 ※計測方法などについてはこちら、試乗記はこちらをご覧ください。 100km/h巡航でどんどん行こう iX xDrive50のカタログに記載された「一充電走行距離」は650km(WLTC)で、電池容量は111.5kWhだ。650kmを実現するには、電費が5.83km/kWh(以後、目標電費)を上回る必要がある。 各区間の計測結果は下記表の通り。5.83km/kWhを上回った場合、赤字にしている。 これまでのTETによる電費計測で初めてA区間の往路と平均で目標電費を超えた。A区間のように標高差が少ない場所では同じ状況になり得る、つまり100km/h巡航で一充電走行距離の650km近くを走破できる可能性がある。   100km/h巡航でも600kmは走れそう 各巡航速度の平均電費は下表の通りだ。「航続可能距離」は電費にバッテリー総容量をかけたもの、「一充電走行距離との比率」は650kmに対して、どれほど良いのか、悪いかだ。 iXのエクステリアは、大きなキドニーグリルが特徴的だ。ざっくり言えば全長5m、全幅2m、全高1.7m、車重2.5トンの堂々としたボディだが、Cd値が0.25と優れている。 100km/h巡航におけるiXの電費は、5.71km/kWhであった。絶対的な数値としては決して高くないが、一充電走行距離との比率を計算すると98%と、これまでにTETが計測したデータの中で最高の結果を記録した。120km/h巡航でもこの数字は78%であった。 つまり、iXは高速巡航でも電費の低下が少ないEVだといえる。 ちなみに、過去に計測したメルセデス「EQE 350+」は、この100km/h巡航時の比率が90%だった。EQEはセダンボディで背が低く、Cd値0.22で、高速巡航には有利であることを考えても、iXの98%という数字の凄さが分かる。 この結果は、空力性能の良好さと高効率なパワートレインの賜物ではないかと思う。BMWが「テクノロジー・フラッグシップ」「次世代を見据え、長距離走行が可能な革新的な次世代電気自動車」と謳っているだけのことはある。これらの記録を塗り替えるクルマが現れるのか、今後の計測が楽しみだ。   各巡航速度ごとの比率は以下の通り。80km/hから100km/hに速度を上げると21%電費が悪くなる。120km/hから80km/hに下げると1.6倍の航続距離の伸長が期待できる。

VOL.19
ぐっとパワフルな2024年モデルのフォルクスワーゲン「ID.4」をミュンヘンで緊急試乗! [ID.4をチャージせよ!:その19]

コンパクトSUVタイプの電気自動車「ID.4」が2024年モデルにアップデート。この最新版をドイツ・ミュンヘンでさっそく試乗しました。 モーターのパワーは60kW増し 「ID.4」が2024年モデルにアップデートし、コックピットのデザインが様変わりしたことは、前回のコラムで述べました。さらに今回の仕様変更では、走りにかかわる部分にも手が加えられています。 一番の変更が、新開発のモーターが搭載されたこと。フォルクスワーゲンでは、ID.ファミリーのプレミアムセダンである「ID.7」に、新たに開発した「APP550」型の電気モーターを採用しました。最高出力は210kW(286PS)と実にパワフルです。これが2024年モデルの「ID.4プロ」にも搭載されることになりました。これまでの「ID.4プロ」の最高出力が150kWですので、出力は60kW、4割増しという計算。最大トルクも従来の310Nmから545Nmとなり、こちらは75%の大幅アップです。 バッテリー容量は77kWhで変更はありませんが、2024年モデルからはバッテリーの“プレコンディショニング機能”を搭載し、冬の寒い時期、充電前にバッテリー温度を高めておくことで充電量の低下を抑えることができます。これはうれしい! 他にも、可変ダンピングシステムのDCC(ダイナミックシャシーコントロール)の改良なども行われ、果たしてどんな走りを見せてくれるのか、興味津々です。 早く乗ってみたいなぁ……と思っていたら、なんとうれしいことに、発表されたばかりの2024年式ID.4 プロ・パフォーマンスを、ドイツ・ミュンヘンで試乗するチャンスに恵まれました。試乗時間は約20分と超ショートですが、わが愛車のID.4 プロ・ローンチエディションと比較するには十分な時間です。

VOL.18
ミュンヘンで「ID.4」の2024年モデルに遭遇! [ID.4をチャージせよ!:その18]

ミュンヘンモーターショー(IAA)のメイン会場近くで、フォルクスワーゲンがメディア向けイベントを開催。そこで、2024年モデルの「ID.4」に遭遇しました。 見た目は同じ イベントスペースのパーキングに待機していたのは、“コスタアズールメタリック”のボディが爽やかな「ID.4 プロ・パフォーマンス」。日本のラインアップにはないボディカラーに目を奪われますが、エクステリアデザインはこれまでと同じで、私の愛車の「ID.4 プロ・ローンチエディション」との違いは1インチアップの21インチホイールが装着されていることくらいです。 ところが運転席に座ると、コックピットの眺めに違和感が! マイナーチェンジでもないのに、コックピットのデザインが私のID.4 プロ・ローンチエディションと大きく変わっていました。 ご存じのとおり、フォルクスワーゲンなど多くの輸入ブランドでは“イヤーモデル制”を採用していて、毎年のように細かい仕様変更を実施。エクステリアデザインは一緒でもパワートレインや装備が変わるというのはよくあること。この2024年モデルでは、インテリアのデザインまで様変わりしていたのです。 真っ先に気づいたのが、ダッシュボード中央にあるタッチパネルがリニューアルされていること。2022年モデルのID.4 プロ・ローンチエディションでは12インチのタッチパネルが搭載されていますが、この2024年モデルでは12.9インチにサイズアップが図られたのに加えて、デザインも一新され、明らかに使い勝手が向上していました。

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