小川 フミオ 記事一覧

フォルクスワーゲン ID.2all コンセプトのフロントマスク
TEXT:小川フミオ
フォルクスワーゲンID.2allはBEV時代のザ・ベーシックとなるか。最新コンセプトカーが示す「原点回帰」とは【後編】

フォルクスワーゲンは、2023年3月に電動FFコンパクトハッチのコンセプトカーとしてID.2allを発表。邦貨約300万円台の価格を実現する「小さくて買いやすいBEV」は、ビートルやゴルフのような大衆車になる可能性を秘めている。まさしく原点回帰ともいえる最新BEVについて、自動車ジャーナリスト・小川フミオが同社経営陣にインタビューを敢行。前回につづき、後編をお届けする。 ショーカー完成まで6週間! ヘッドオブデザインのアンドレアス・ミントは「いかなるクルマもコピーしていません」と言う   20インチのホイールを履くタイヤを四隅に配したプロポーションのよさが命だとされる   いま北半球のマーケットではSUVがメインストリームだけれど、ID.2allがハッチバックスタイルで登場したのは、SUVやクロスオーバーのトレンドへの押し戻し? そう問うと、フォルクスワーゲン・ブランド技術開発担当のカイ・グリューニッツ取締役は次のように答えた。 「うーん……このプラットフォームでSUVも作りますから。おそらく、数ヵ月後に。多くの顧客がSUVを求めているのは事実です。ここで言いたいのは、ID.2allは充分魅力的なクルマになったということです」 たしかに、スタイリングのアピール力は強い。ID.2allが次期ポロとして登場しても不思議ではない気がする。 「私たちは、アイコンモデルのDNAを未来へと移植しています。ID.2allはビートル、ゴルフ、ポロへのオマージュでもあります」 そう語るのは、ヘッドオブデザインのアンドレアス・ミント氏。2023年2月に現職に就いたばかりで、そのすぐあと、わずか6週間で、今回のショーカーを作りあげたそうだ。 「たしかに6週間は短かったですが、なにを作るかしっかり頭のなかに青写真があればいいんです。私はフォルクスワーゲンに15年いて、そのあと(VWグループのほかのブランドへ移籍して)離れたときに、外から眺めたことで、どうすればフォルクスワーゲンがいい方向にいくか、客観的に判断できたのだと思います」 BEVっぽさがないスタイリング 円筒形はドライブモードセレクター   前席のパセンジャーシートは倒せば最長2.2mの長尺物を搭載することも可能   Stability(安定感)、Likeability(好感度)、Excitement(感動)の3つの主要な要素に焦点を当ててデザインしている、というミント氏。ID.2allで重視したのが、フロントマスクの造形だそうだ。 「必要だと思ったのはフレンドリーな眼であり、笑顔です。それが私たちが向かっている方向ですね。ID.Buzzを見てみてください。スーパーフレンドリーでしょう。みんな好きになってくれます」 ID.2allで興味深いのは、いってみれば、BEVっぽさがないスタイリングだ。あたらしいポロと言われても、即座に納得できそう。 「私たちはフォクルスワーゲンのアイデンティティを大事にしようとしています。私たちはモンスターフェイスはいらないし、どこにでもあるような電気自動車のデザインも必要ではありません。私にとっては、ゴルフのモダンバージョンといってもいいかもしれません」 一連のインタビューからみえてきたのは、ID.2allは特別なBEVでなく、自然に市場に受け入れられることをめざして開発されたモデルということだ。 背景には、欧州委員会によるエンジンをもった新車の販売禁止への動きが、当然あるだろう。 超ハイスピードで今回のショーカーを作りあげたのは、市場がどうなっても、フォルクスワーゲンは充分対応可能という、投資家ヘのメッセージでもあるはずだ。

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フォルクスワーゲン ID.2all コンセプトのフロントビュー
TEXT:小川フミオ
フォルクスワーゲンID.2allは「大衆のためのBEV」に。300万円台のプライスタグを実現か【前編】

フォルクスワーゲンが発表した最新のコンセプトカー、ID.2all(アイディーツーオール)は、ポロのBEV版とも評される電動コンパクトハッチバック。450kmという充分な走行距離を確保する一方で、邦貨にすると300万円台半ばという挑戦的な価格設定を標榜する“大衆BEV”は、果たしてどのようなクルマなのか。自動車ジャーナリスト・小川フミオが同社経営陣に直撃した。前後編に分けてお届けする。 全長4mの電動FFコンパクトハッチ 右から、T.シェーファーCEO、セールス/マーケティング/アフターセールス担当のI.ラベー取締役、デザインのA.ミント、技術開発担当K.グリューニッツ取締役   フォルクスワーゲン本社が、ID.2all(アイディーツーオール)なる、コンパクトBEVのコンセプトカーを発表した。 2023年3月15日に独ハンブルクで開催された発表会でお披露目されたのは、全長4050mmと比較的コンパクトなID.2all。 スタイリングは、従来のポロやゴルフに連なるイメージで、エンジンを載せたハッチバックといっても不思議でない。 注目すべきふたつめのポイントは、バッテリーを床に敷き詰めたMEBというBEV用プラットフォームを使いつつ、これをフロントモーターの前輪駆動へと転換したこと。 従来のID.シリーズのMEBプラットフォームは、リアモーターの後輪駆動。文字通り180度の転換だ。 モーターの出力は166kW(225ps)で、満充電での走行距離は450kmとされている。 これらはすべて、フォルクスワーゲンのこれからの製品戦略と関連している。 VW乗用車部門のトーマス・シェーファー最高経営責任者(CEO)は、発表会において下記のように語った。 「フォルクスワーゲンは、2025年にヨーロッパ市場向けのID.2allの量産モデルを発表する予定です。その目標は、2万5000ユーロ以下(邦貨約353万円※2023年3月28日時点の為替レートで換算)のベース価格を実現することです」 ID.シリーズのボトムラインを形成しているID.3(2022年モデル)が約4万4000ユーロだから、大きな差がある。欧州メディアでたちどころに話題になったのも簡単に理解できる。 eモビリティを“民主化”する ロワーボディにはモジュラーバッテリーが敷き詰められ、そのうえにアッパーボディが載るが、車高は1530mmに抑えられている   クリーンな造型と、直感的な操作系を特徴としたダッシュボード   「私たちは、フォルクスワーゲンを真の“Love Brand”(愛されるブランド)にするという明確な目標を持って、会社を迅速かつ根本的に変革しています」 愛されるとは、べつの言い方をすると、多くのひとが乗るかつてのフォルクスワーゲンのような求心力を取り戻すこと。 ID.2allの発表会場には「FOR THE PEOPLE」なるスローガンがいたるところに掲げられていた。 シェーファーCEOが壇上に上がるときには、初代ビートルや、タイプ2などとも呼ばれるマイクロバス、初代ゴルフ、カルマンギアタイプ1カブリオレ、といった歴代モデルがステージに登場。 フォルクスワーゲンが社名のとおり「ピープルズカー」として、いかにユーザーの生活を豊かにしてきたか。さらに最新のゴルフRにいたるまで、実車が出てきて、それを実感させてくれた。 ID.2allという車名にこめられた意味も、「all」イコール「すべてのひと」なのだ。シェーファーCEOは言う。 「ID.2allは、私たちのブランドが目指すべき姿を示しています。つまり、私たちはお客様に近い存在となり、最高のテクノロジーと素晴らしいデザインを備えたブランドになります。私たちは、eモビリティを民主化するために、変革を迅速に実行しています」 民主化とはあまり耳慣れない言葉だけれど、要するに、親しみやすい、あるいは、買いやすい、という意味なのだ。

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MOIAプラス6の外観
TEXT:小川フミオ
フォルクスワーゲンの「謎の電動バス」の正体とは?eモビリティサービスの最前線に迫る

フォルクスワーゲンは、BEVを活用したモビリティサービス分野にも積極的に参画する姿勢を示している。2016年にはライドシェアサービス「MOIA(モイア)」をスタート。ハンブルクやハノーファーでは、VW製電動マイクロバスがひとびとの移動を助ける姿が日常になりつつある。彼らは何故モビリティサービスに注力するのか。現地でサービスを体験した自動車ジャーナリスト・小川フミオが、その背景をリポートする。 ハンブルク市内で見かけた謎の車両の正体は MOIAプラス6(左)と、試験走行が始まる自動運転のID.Buzz AD   クルマ椅子での移動のために開発されたVW商用車「Eクラフター」ベースのMOIAの車両   いわゆる「eモビリティ」を活用したサービスには、いろいろなジャンルがあるが、いま、フォルクスワーゲン本社が進めているのは、BEVのマイクロバスを使ったオンデマンド型ライドシェア。 2023年3月に、VWの新型コンパクトBEV、ID.2allの発表会のためハンブルクを訪れた際、「MOIA」と名づけられたこのライドシェアサービスを体験するチャンスをもらえた。 MOIA(モイア)は、2016年にスタートしたVWの事業で、BEVとさまざまなデジタライゼーションを組み合わせたe(電気)モビリティサービスの尖兵といえる。 注目点は、VWがMaaS(Mobility as a Service)もしくはTaaS(Transport as a Service)のプロバイダーになることだ。 eモビリティサービスは、自動車メーカー各社が可能性をさぐっている分野。あたらしい収益源であり、バッテリーを含めて開発や製造におけるBEVのコストシェアのためにも重要なのだ。 VWを例にとれば、「ハンブルクやハノーファーで運用しているMOIAのサービスを、欧州の諸都市や、北米でも展開する計画です」と、MOIAを担当するVW商用車部門のクリスチャン・ゼンガー取締役は説明する。 そもそも、ハンブルク市内のホテルの部屋の窓から道路を見下ろしていたとき、ブロンズ色の車体にブラックルーフのマイクロバスが走行しているのを、ちょくちょく見かけた。 あれはなんだろう、と思っていたところ、それがライドシェアのためにVWVC(VWの商用車部門)が開発した、バッテリー駆動のマイクロバスだった。 企画から開発までたった10ヵ月で完成 ヘッドレストレイントで頭部を覆うようにするだけで個室にいるような気分が高まる   ドライバーの橫には大型スーツケースも楽におけるスペースが   「MOIAプラス6」と名づけられた専用車両。全長は6mで、約30分で80%まで充電可能という。でも、バッテリー容量やモーターなどの詳細は伏せられている。 スライドドアから車内に入ると、ドライバー以外に6名分のシートがそなわっている。シートのヘッドレストレイントは乗員の頭を隠すようなデザインで、けっこう落ち着く。 天井高が高くて、中央が広めの通路。ステップを使って乗り込めるし、ほぼ背をのばしたままのウォークスルーが可能だ。 「企画から開発まで10ヵ月で仕上げました。たいへんな作業でしたが、スピードこそ、このようなビジネスでは大切だと理解しています」(広報担当者) 現在ハンブルクでは、市内にいくつものルートが設定されていて、スマートフォンを使って車両を呼び、かつそのスマホが切符がわりとなる。ドアのところのセンサーが機器を認識すればドアが開く。 料金は、「いまは1キロ1ユーロが基本で、時間帯や利用者数によってある程度変動します。将来はもっと料金を下げたいと考えています」とゼンガー取締役。

TAG: #VWグループ #ドイツ #ライドシェア
TEXT:小川フミオ
フォルクスワーゲン、盤石なBEV生産体制構築へ。3つのギガファクトリーを設置

フォルクスワーゲンはBEV(バッテリー電気自動車)ラインナップの構築を急ピッチで進めている。BEVの開発・生産と並行して、彼らが積極的に推進しているのが、自グループにおけるバッテリー開発・生産の体制強化だ。公式発表によれば、本拠地であるドイツを皮切りに、スペイン、そしてカナダへ、3つのバッテリー工場を新設するという。将来のVWグループBEVを支える車台「SSP(Scalable System Platform)」に適用する統一規格のバッテリーセル「ユニファイドセル」を、そこで大量生産していく姿勢を打ち立てている。勢いに乗るVWのBEV戦略の最前線に、自動車ジャーナリストの小川フミオが迫った。 新生「スカウト」ブランドで北米のEVシフトを推進 脱炭素化の重要性を説くVWグループのテクノロジー担当役員でありPowerCoも担当するトマス・シュマル氏   フォルクスワーゲンは、BEV生産に本格的に向き合っている。最重要パーツであるバッテリーも、自社で開発し生産する動きが、ここにきて急加速中だ。 バッテリーに関するVWの最新の動きは、2023年3月13日に発表された、カナダ・オンタリオ州にバッテリー工場を建設するというもの。 発表の席上で、VWグループのオリバー・ブルーメCEOは、2022年12月に発表した「10ポイントプラン(10項目の計画)」を引き合いに出し、「北米戦略はなかでも最重要」とした。 北米におけるVWの近々の活動は、BEVを中心としたもの。ID.4の現地生産に加え、SUVの元祖ともいわれる「スカウト」の名を復活させ、BEVとしてサウスカロライナ工場で作る計画も進行中だ。 スカウトは、1961年から80年にかけて、米インターナショナルハーベスター社が生産を手がけていた。 86年に、ナビスターインターナショナルコーポレーション社によって買収されたのち、VWは2021年にナビスターを傘下に納め、同時にスカウトの商標権も手に入れている。 独ギガファクトリーは2025年に稼動予定 ザルツギガが稼働したときはカーボンニュートラルの工場になるという   フォルクスワーゲンは2022年にPowerCo SE(SE=欧州株式会社)という子会社を設立。グループのバッテリー関連機能をここに集約させている。 ギガファクトリー(生産を集約した大きな施設)の第1号は、ドイツで2025年からの稼働をめざして建設が進められている。 VW本社のある独ウォルフスブルクから南西40km少々のザルツギッターなる町の郊外にある「ザルツギガ Salzgiga」バッテリー工場。 カナダにおける計画が発表された日、私はちょうど、ザルツギガ(ギガファクトリーにひっかけた新しい呼称)を見学に訪れていた。 広大な敷地内では、研究棟やパイロット生産設備が試験稼働しはじめていて、あとは工場の土台が建設中。25mほどのコンクリート製の支柱が並べられていたりと、壮観な光景だった。 1970年に稼働開始したザルツギッター工場では、当初K70というフォルクスワーゲンセダンを生産(日本には輸入されなかった)。エンジン生産が主業務だ。 2022年7月に、VW(PowerCo)はここにバッテリー工場をつくる計画を発表したのだった。 「2030年までには、ヨーロッパで販売される車両の10台に8台がBEVになると予想しています」とは、フォルクスワーゲンのパトリック・アンドレアス・マイアー最高財務責任者(CFO)の言。 同社では「2026年までに10車種の新しいBEVモデルを発売する予定」(マイアーCFO)といい、工場の改装を含めて生産体制の変革を急ピッチで進めている。 PowerCoは、ここに20億ユーロの投資をして、ユニファイドセル(どのVWのBEVでも使える統一規格のバッテリーセル)の開発・製造を行う。

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BMW iX5 HYDROGENとBMWのオリバー・ツィプセ会長
TEXT:小川フミオ
iX5ハイドロジェンが示唆するBMWの「戦略」とは。オリバー・ツィプセ会長が明かした水素の可能性

BMWが、現行X5をベースに開発した燃料電池自動車「iX5 HYDROGEN(ハイドロジェン)」。2023年2月に、その国際試乗会がベルギーで実施された。本イベントに参加したジャーナリストの小川フミオが、オリバー・ツィプセ取締役会長に、彼らが燃料電池車を今このタイミングでリリースした背景を問うた。 「運転する歓びがなければ作る意味がない」 BMWが2023年2月に水素で走る「iX5」をジャーナリストに試乗させた。BEVに力を入れる同社が、なぜここで、水素で走る燃料電池車を作ったのか。 電気自動車の力強さと、エンジン車のような簡単な充填というメリットをもつ水素自動車。iX5は、水素を分解して電子を取り出し、それをバッテリーに貯蔵してモーターを回す燃料電池車。 いま世界で100台を走らせるという「パイロットフリート」のiX5に乗って、出来のよさに感心しつつ、BMWの戦略を、オリバー・ツィプセ取締役会会長に聞いた。 −−アントワープ(ベルギー)を舞台にしたテストドライブで、iX5に乗って、そのナチュラルさとパワフルさに感心しました。 「私も何度も運転しました。気に入ってもらえて嬉しいです。重視したのは、BMW車が大事にしているドライビングプレジャーです。それがなければ作る意味はない、とまで開発陣は肝に銘じて、iX5を開発したのです。このクルマを通して、未来のために私たちがなにをしているか、理解していただけると幸いです。iX5は、運転する歓びを与えてくれるクルマですよね。ひょっとしたら、ICE(エンジン車)以上に」 −−BMWはそもそも代替燃料車で比較的長い歴史をもっていますね。とくにいまのBMW iにつながるバッテリー駆動の電気自動車では。 「最初が2009年にお披露目したMINI E(150kWの電気モーターを35kWhのバッテリーで駆動)ですね。ミニクーパーをベースに開発した車両で、500台を北米でプライベートユーザーにリース販売しました。そのあと2013年にi3をローンチさせました。今回のiX5は、北米とか日本でテストフリートを走らせるので、私は当時のことを思い出しています」 BEVのみの1本脚ではなく水素との2本脚へ −−それにしても、なぜ水素なのでしょうか。これだけBMW iとしてBEVのラインナップが充実しているのに。 「未来へと歩みを進めるには、1本脚では歩行がむずかしい、と私は言っています。安定して先へと進むためには、もう1本脚があったほうがいいのです。それが水素燃料で走るクルマなのですね。主軸はBEVですが、それを水素でおぎなっていくのです」 −−BEVだけではなにかが足りないということでしょうか。 「たとえば、充電インフラです。このままBEVが増えていくと、それに合わせて充電ステーションを作っていかなくてはなりませんが、たとえば郊外などではペイにしくく、インフラのコストが負担となってのしかかってくることが予想されます。それを水素でおぎなえればというのが私たちの考えです。水素は液体のかたちで運搬可能ですし、化石燃料のように充填が早くできるメリットをもっています」 −−ちょうど昨日(2023年2月14日)欧州委員会が、2035年に内燃機関搭載の乗用車の販売を禁止する法案を採択しました。水素自動車の開発も急務ということでしょうか。 「2026年をめどに欧州委員会は、(ユーロ7とも言われている)ICEの規制をかなり強めると発表したところです。すでに国によっては、BEVが新車販売の6割に達するところもあります。しかし、原料の稀少性とか、充電ステーションの整備とか、27年とか28年には不足の問題が出てくるんじゃないでしょうか。そこで水素です。利点は、稀少な原料をあまり使わないこと、大きなバッテリーを使わないこと、軽量化できることなど、いろいろあげられます」 −−川崎重工業が液体水素を豪州から運んでくる運搬船を手がけるなどしていますね。 「ここで考えるべきは、クルマだけでなく、もっと広い視野でのインフラです。電気の充電インフラは乗用車しか使えません。クルマだけなんです。船舶もトラックも航空機も使っていません。でも水素にはいろいろな業界が注目しています。たとえば、iX5の試乗会の舞台になったアントワープは港湾地区に水素の充填ステーションを持ち、水素で走る小型船も実用化されています」 「これからの20年から30年のあいだのエミッションフリーのために、充電と水素という、ふたつが必要になってくるのではないでしょうか。クルマだけでいえば、市街地なら充電ステーションでもいいでしょう。でも長距離走る場合は、行き先によっては水素のほうが便利ということにもなるかもしれません」

TAG: #iX5 #燃料電池
連載企画 一覧
VOL.15
本当に日本はEVで「立ち遅れた」のか:知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第15回

ジャパン・モビリティ・ショー開催でにわかに沸き立つ日本のEVマーケット。しかし現実の販売状況は日本において大きく立ち遅れている。技術では先導してきたはずの日本メーカーは、なぜEVで世界をリードできていないのか。この分野のベテランジャーナリストである御堀 直嗣が解説する。 日本の低いEV市場占有率 日本は、世界に先駆けて電気自動車(EV)の市販に踏み切った。2009年に三菱自動車工業が、軽自動車EVの「i-MiEV」を法人向けにリース販売しはじめ、翌10年には一般消費者向けへの販売も開始した。同年には、日産自動車も小型EVの「リーフ」を発売した。この2社によって、EVの量産市販が実現し、ことにリーフは海外への販売も行われ、「i-MiEV」はフランスの当時PSA社にOEM供給された。リーフの販売は世界で累計65万台に達し、その他EVを含めると、日産は世界で100万台のEV販売の実績を持つ。そのうち、日本国内は累計23万台である。 ちなみに、米国テスラは2022年では年間で約130万台、中国のBYDは同年に約90万台規模へ成長している。 同時にまた、世界共通の充電規格であるCHAdeMO(チャデモ)も準備され、リーフが販売される世界の各地域にCHAdeMO充電器の設置が動き出した。 それらを背景に、経済産業省は2012年度補正予算で1,005億円の補助金を計上し、全国に約10万基の充電器を整備するとした。この補助金は全額支給でないため、トヨタ/日産/ホンダ/三菱自の4社が資金を拠出し、補助金で賄いきれない残額を補填することに合意した。 しかし、現在の充電器の数は、急速充電と普通充電を合わせて約2万基である。 国内の新車販売において、EVが占める割合は1%以下という状況が長く続いた。昨2022年、「日産サクラ」と「三菱eKクロスEV」が発売となり、1年で5万台以上を販売することで2%ほどの占有率になろうかという状況にある。 一方、世界全体では、EVの市場占有率が13%になる。米国は5.8%、欧州は12%、中国は21%となっており、日本がいかに低水準であるかがみえてくる。 日本でEV普及が進まなかった理由 EVの先駆者であった日本が、なぜ欧米や中国の後塵を拝するようになったのか。 最大の要因は、せっかく1,005億円という充電基盤整備に対する経済産業省の支援があったにもかかわらず、急速充電器の整備にばかり世間の目が行き、EV利用の基本である基礎充電、すなわち自宅での普通充電(200V)の重要性が広がらなかったからである。ことに、マンションなど集合住宅の駐車場と、月極駐車場への普通充電設置がほぼできなかったことが原因であった。 EVの充電は、普通充電で8~10時間、あるいはそれ以上かかるとされ、これが単純にガソリンスタンドでの給油時間と比較されて、使い勝手が悪いとさまざまな媒体を通じて流布された。いまでもそうした論調が消えていない。しかし、自宅で普通充電できれば、寝ている間に満充電になるので、翌朝出かけるときは満充電で出発できる。 戸建て住宅に住む人はそれができた。ところが、戸建て住宅でも自宅に車庫がなく月極駐車場を利用する人は、近隣の急速充電器を利用しなければならなくなった。 集合住宅に住む人は、敷地内に駐車場が併設されていても、管理組合の同意が得られず普通充電ができない状態に陥った。無知がもたらした悲劇だ。EVを買う意思があっても、手に入れにくい状況があった。 集合住宅の管理組合で賛同が得られない最大の理由は、幹事がEV時代を予測できず、また自分には関係ないとして無視され続けたことにある。設置の経費は、ことに当初は補助金と自動車メーカー4社による補填があったので、ほぼゼロであった。現在でも、施工業者が残金を負担するなどのやりくりで、集合住宅側の負担が軽く済む仕組みが出てきている。それでもなお、管理組合で合意を得るのが難しい状況は払拭できていない。 基礎充電の普及を目指す業者の間でも、さらに難しいとされるのが月極駐車場への普通充電の設置だ。月極駐車場を管理する不動産業者の理解を得にくいという。

VOL.1
リッター200円にもう限界……給油の“枷”をぶっちぎれ!【モデルサードインパクト vol.1】

ガソリン高い、燃費も悪い、限界だ! かつてないほどの猛暑に喘いだであろう今夏。「もういいよ」「もう下がってくれ」と、気温に対して誰もが感じていたと思うが、自動車ユーザーはガソリン価格に対しても同じことを思っていたのではないだろうか。 リッターあたり170円、180円、190円、そして200円の大台を突破……給油をするたびに、誰もが憂鬱な気分になったはずだ。小生はドイツの某オープンスポーツカーに乗っているのだが、リッターあたり平均10kmでハイオク仕様。愛車にガソリンを入れるたび、顔が青ざめていた。 「高額給油という枷から解放されたい……」 EVの購入を決意した所感である。クルマを走らせることは、本来喜びのはず。給油のたびに落ち込むのは本望ではない。 小生は、THE EV TIMES(TET)の編集スタッフを務めています。この9月、「テスラ・モデル3・パフォーマンス」を購入しました。新たな愛車と共に進むEVライフを「モデル・サードインパクト」と銘打ち、連載で紹介していこうと思います。 EVは便利だと実感した「日産リーフ」 小生が初めて体験したEVは「日産リーフ」(2代目)である。遡ること2017年、「リーフ」が2代目になった頃、日産が全国で試乗キャラバンを開催し、小生はその試乗アテンダントを担当していた。そこで「リーフ」を存分に運転することができたのだ。 それゆえ、EVの利便性の高さを実感することになった。スポーツモデル顔負けの力強くスムーズな加速にまず驚いたのだが、給油という枷から外れて自由に走り回れることが大変な魅力に感じた。アイドリング状態でエアコンを入れっぱなしでもガソリン代を気にせずに済む。車内でPCを開けば、そのままオフィスになる。車の用途が無限大に広がると感じた。 充電時間も特別長いとは感じなかった。充電残量が50%くらいになったら、急速充電を使用してあっという間に80%まで回復できる。ちなみに100%まで充電した場合、280kmを走れる表示が出ていたと記憶している(当時は寒い季節で暖房を使用した)。ちょっとした遠出も十分に対応可能。「EVなんて不便」という印象は全く抱かなかった。そこで薄々と「将来はEVもアリだな」と思ったのだ。

VOL.20
VW「ID.4」オーナーはアウトバーンを時速何キロで走る? [ID.4をチャージせよ!:その20]

9月上旬、スイスで開催された「ID.TREFFEN」(ID.ミーティング)を取材した際に、参加していた「ID.4」オーナーに、そのクルマを選んだ理由などを聞きました。 フォルクスワーゲン一筋 鮮やかな“キングズレッドメタリック”のID.4で登場したのは、ドイツのハノーファーからはるばるスイスに駆けつけたデュブラック・マルクスさん。「フォルクスワーゲンT3」のTシャツを着ているくらいですから、かなりのフォルクスワーゲン好きと見ましたが、予想は的中! 「18歳で免許を取ってからこれまで30年間、フォルクスワーゲンしか買ったことがないんですよ」という、まさにフォルクスワーゲン一筋の御仁でした。 彼の愛車はID.4のなかでももっともハイパフォーマンスな「ID.4 GTX」。日本未導入のこのグレードは、2モーターの4WD仕様で、最高出力220kW(299PS)を発揮するというスポーツモデル。こんなクルマに乗れるなんて、なんともうらやましいかぎりです。 そんなマルクスさんにID.4 GTXを購入した理由を尋ねると、「これからはEVの時代だと思ったので!」と明確な答えが返ってきました。とはいえ、ID.ファミリーのトップバッターである「ID.3」が登場した時点ではすぐに動き出すことはありませんでした。「1年半くらい前にID.4 GTXを試乗する機会があって、踏んだ瞬間から力強くダッシュするID.4 GTXのパンチ力にすっかり惚れ込んでしまい、即決でしたよ(笑)」。

VOL.14
欧州メーカーはなぜ電気自動車に走ったのか?:知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第14回

EVの知識を、最新情報から「いまさらこんなこと聞いていいの?」というベーシックな疑問まで、ベテラン・ジャーナリストが答えていく連載。今回は欧州メーカーの特集です。 日本市場参入が遅かった欧州製EV 日本市場では、欧州からの電気自動車(EV)攻勢が活発に見える。ドイツの「BMW i3」が発売されたのは2013年秋で、日本市場へは2014年春に導入された。 日本の自動車メーカーがEVを市販したのは、2009年の「三菱i-MiEV」の法人向けリースが最初で、翌2010年には「i-MiEV」も一般消費者への販売を開始し、同年に「日産リーフ」が発売された。「i3」の発売は、それより数年後になってからのことだ。 ほかに、フォルクスワーゲン(VW)は、「up!」と「ゴルフ」のエンジン車をEVに改造した「e-up!」と「e-ゴルフ」を2015年から日本で発売すると2014年に発表した。だが、急速充電システムのCHAdeMOとの整合性をとることができず、断念している。その後、VWは「e-ゴルフ」を2017年秋に販売を開始した。EV専用車種となる「ID.4」を日本に導入したのは、2022年のことだ。フランスのプジョーが、「e-208」を日本で発売したのは2020年である。 以上のように、欧州全体としては、EVへの関心が高まってきたのは比較的最近のことといえる。 くじかれたディーゼル重視路線 欧州は、クルマの環境対策として、自動車メーカーごとの二酸化炭素(CO2)排出量規制を中心に動いてきた。そして2021年から、1km走行当たりの排出量を企業平均で95gとする対処方法を考えてきた。EU規制は、販売する車種ごとのCO2排出量を問うのではなく、販売するすべての車種の平均値で95gを下回らなければならないという厳しさだ。 対策の基本となったのは、ディーゼルターボ・エンジンを使った排気量の削減と、出力の低下を補う過給器との組み合わせを主体としつつ、ハイブリッドによるさらなる燃費の向上である。 既存のディーゼルターボ・エンジンをできるだけ活用しようとする考えは、欧州メーカーが補機用バッテリーの電圧を世界的な12ボルトから、36ボルトや48ボルトに変更することによるマイルドハイブリッド化に注目してきた様子からもうかがえる。 ところが、2015年にVWが米国市場でディーゼル車の排出ガス規制を偽装していたことが明らかにされた。公的機関での測定では規制値を満たすものの、実走行で急加速などした際に基準を上回る有害物質が排出され、それによって力強い加速を得られるようにした制御が発覚したのである。その影響は、VW車だけでなく、アウディなどVWグループ内に広く影響を及ぼした。

VOL.3
ボルボは新型EVの「EX30」でインテリアに新たな価値を与え、空間を最大限、利用する!

ボルボはEX30の室内で多くの新たなチャレンジを行なっていると謳う。その詳細を小川フミオ氏が訊いていく。連載1回目はこちら、2回目はこちら。 冷たさの排除し素材を“素直”に使う EX30のインテリアが、他車と決定的に違うのは、金属的な表面処理がほとんど見当たらないこと。それは意図的にそうしたのだと、インテリアデザインを統括するリサ・リーブス氏は言う。 「心したのは、冷たさの排除です。使う素材はオネスト、つまり木に見えるものは木であり、また同時に、リサイクル素材を人間にやさしいかたちで使用しました」 インテリアは「ブリーズ」(やさしい風)をはじめ「ミスト」(もや)、「パイン」(松)それに「インディゴ」と4種類(日本はそのうち「ブリーズ」と「ミスト」を導入)。 「ブリーズを例にとると、デザインインスピレーションはサマーデイズ。シート表皮の素材はピクセルニットとノルディコ、ダッシュボードの飾り材はパーティクル、そして空気吹き出し口のカラーはブルーです」 リーブス氏は説明してくれる。 「ピクセルニットはPETボトルをリサイクルしたもの。それを3Dニッティング(立体編み)プロセスでシート用素材にしています。組み合わせるノルディコは、PETボトルなどのリサイクル素材、北欧で計画的に伐採された木から採取された素材、リサイクルされたワインコルクなどで作られたテキスタイルです」 ダッシュボード用のパーティクルは、窓枠やシャッターを中心に工業廃棄物であるプラスチックを粉砕したものだし、フロアマットは漁網をリサイクルしたという。 「リサイクル材とともに、インテリアは雰囲気を統一したので、私たちは“ルーム”という名を与えています。インディゴの場合、デザインインスピレーションは”夜のはじまり”で、デニムをリサイクルしたときに余る糸を使った素材をシート表皮に使っています」 シートじたいは「スニーカーにインスパイアされた形状」(メイヤー氏)だそうだ。

VOL.2
ボルボの新型電気自動車「EX30」にはスターウォーズのデザインが取り入れられている!?

エンジンの回転の盛り上がりには、時に人間的な表現が用いられる。しかしBEV(バッテリー電気自動車)はエンジンもなく無音なため、より無機質な、機械的な印象が強くなる。ボルボはそんなBEVに人間的な要素を入れたと主張する。連載1回目はこちら。 どことなく楽しい感じの表情 ボルボEX30は、いってみれば、二面性のあるモデルだ。ひとつは、地球環境保全(サステナビリティ)を重視したコンセプト。もうひとつは、大トルクの電気モーターの特性を活かしたスポーツ性。 デザイナーは「いずれにしても、BEVと一目でわかってもらうデザインが重要と考えました」(エクステリアデザイン統括のTジョン・メイヤー氏)と言う。 「もちろん、昨今ではICE(エンジン車)かBEVか、デザインをするときあえて差別化をしないのが世界的な流れです。ただし、私たちとしては、スカンジナビアデザインの原則を守りつつデザインしました」 メイヤー氏の言葉を借りて、この場合のスカンジナビアデザインの肝要を説明すると「形態は機能に従う」となる。 「そこで、上部に開口部とグリルはもたせないようにしようと。ただし(インバーターなどのために)空気を採り入れる必要はあるので、下にインレットは設けています」 ボルボ車のデザインアイディンティティである「トール(神の)ハンマー」なる形状のヘッドランプも採用。ただし、カバーで覆った一体型でなく、四角いLEDのマトリックスが独立しているような形状があたらしい。 「そうやって出来上がったのがこのデザインです。顔になっていて、そこには眼があって、鼻があって、口があるんです。どことなく楽しいかんじで、これまで以上に人間的な表情を実現しました」 暴力的でもなければ、ロボット的でもない。メイヤー氏はそこを強調した。

VOL.1
ボルボの新型電気自動車「EX30」は、相反する2面性を合わせ持つ文武両道なクルマ

ボルボの新たなBEV(バッテリー電気自動車)として、ついに10月2日から「サブスク」モデルの申し込みが始まるEX30。この「ボルボ史上最小のBEV」はどのように開発されたのか。ミラノで行われたワールドプレミアに参加した小川フミオ氏が関係者の声とともに振り返る。 スカンディナビアン+デジタル 2023年6月に登場したEX30は、コアコンピューティングテクノロジーを大胆に採用する、ボルボの新世代BEV。 内容にとどまらず、同時に、デザイン面でもさまざまな大胆な試みがなされているのも特徴だ。 いってみれば、伝統的ともいえるスカンディナビアンテイストに、デジタライゼーションの融合。 「私たちのデザイン的価値のすべてを小さなフォーマットで具現」したモデルと、ボルボ・カーズはプレスリリース内で謳う。 「非常に電気自動車的なデザインで(中略)閉じられたシールド(フロントグリルの開口部のこと)とデジタル表現を用いたトールハンマーヘッドライト」がフロント部の特徴とされる。 さらに新世代BEVとしてボルボが狙ったものはなんだろう。ミラノでの発表会において出合った担当デザイナー(たち)に、デザインの見どころと背景にあるコンセプトを取材した。

VOL.5
「BMW iX xDrive50」の高速電費は我慢不要! ロングドライブにうってつけのEV

[THE EV TIMES流・電費ガチ計測] THE EV TIMES(TET)流電費計測の5回目を、8月に「BMW iX xDrive50」で実施した。車高の高いSUVにもかかわらず、高速巡航時に電費が低下しにくいのが特徴だ。その詳細をお伝えする。 ※計測方法などについてはこちら、試乗記はこちらをご覧ください。 100km/h巡航でどんどん行こう iX xDrive50のカタログに記載された「一充電走行距離」は650km(WLTC)で、電池容量は111.5kWhだ。650kmを実現するには、電費が5.83km/kWh(以後、目標電費)を上回る必要がある。 各区間の計測結果は下記表の通り。5.83km/kWhを上回った場合、赤字にしている。 これまでのTETによる電費計測で初めてA区間の往路と平均で目標電費を超えた。A区間のように標高差が少ない場所では同じ状況になり得る、つまり100km/h巡航で一充電走行距離の650km近くを走破できる可能性がある。   100km/h巡航でも600kmは走れそう 各巡航速度の平均電費は下表の通りだ。「航続可能距離」は電費にバッテリー総容量をかけたもの、「一充電走行距離との比率」は650kmに対して、どれほど良いのか、悪いかだ。 iXのエクステリアは、大きなキドニーグリルが特徴的だ。ざっくり言えば全長5m、全幅2m、全高1.7m、車重2.5トンの堂々としたボディだが、Cd値が0.25と優れている。 100km/h巡航におけるiXの電費は、5.71km/kWhであった。絶対的な数値としては決して高くないが、一充電走行距離との比率を計算すると98%と、これまでにTETが計測したデータの中で最高の結果を記録した。120km/h巡航でもこの数字は78%であった。 つまり、iXは高速巡航でも電費の低下が少ないEVだといえる。 ちなみに、過去に計測したメルセデス「EQE 350+」は、この100km/h巡航時の比率が90%だった。EQEはセダンボディで背が低く、Cd値0.22で、高速巡航には有利であることを考えても、iXの98%という数字の凄さが分かる。 この結果は、空力性能の良好さと高効率なパワートレインの賜物ではないかと思う。BMWが「テクノロジー・フラッグシップ」「次世代を見据え、長距離走行が可能な革新的な次世代電気自動車」と謳っているだけのことはある。これらの記録を塗り替えるクルマが現れるのか、今後の計測が楽しみだ。   各巡航速度ごとの比率は以下の通り。80km/hから100km/hに速度を上げると21%電費が悪くなる。120km/hから80km/hに下げると1.6倍の航続距離の伸長が期待できる。

VOL.19
ぐっとパワフルな2024年モデルのフォルクスワーゲン「ID.4」をミュンヘンで緊急試乗! [ID.4をチャージせよ!:その19]

コンパクトSUVタイプの電気自動車「ID.4」が2024年モデルにアップデート。この最新版をドイツ・ミュンヘンでさっそく試乗しました。 モーターのパワーは60kW増し 「ID.4」が2024年モデルにアップデートし、コックピットのデザインが様変わりしたことは、前回のコラムで述べました。さらに今回の仕様変更では、走りにかかわる部分にも手が加えられています。 一番の変更が、新開発のモーターが搭載されたこと。フォルクスワーゲンでは、ID.ファミリーのプレミアムセダンである「ID.7」に、新たに開発した「APP550」型の電気モーターを採用しました。最高出力は210kW(286PS)と実にパワフルです。これが2024年モデルの「ID.4プロ」にも搭載されることになりました。これまでの「ID.4プロ」の最高出力が150kWですので、出力は60kW、4割増しという計算。最大トルクも従来の310Nmから545Nmとなり、こちらは75%の大幅アップです。 バッテリー容量は77kWhで変更はありませんが、2024年モデルからはバッテリーの“プレコンディショニング機能”を搭載し、冬の寒い時期、充電前にバッテリー温度を高めておくことで充電量の低下を抑えることができます。これはうれしい! 他にも、可変ダンピングシステムのDCC(ダイナミックシャシーコントロール)の改良なども行われ、果たしてどんな走りを見せてくれるのか、興味津々です。 早く乗ってみたいなぁ……と思っていたら、なんとうれしいことに、発表されたばかりの2024年式ID.4 プロ・パフォーマンスを、ドイツ・ミュンヘンで試乗するチャンスに恵まれました。試乗時間は約20分と超ショートですが、わが愛車のID.4 プロ・ローンチエディションと比較するには十分な時間です。

VOL.18
ミュンヘンで「ID.4」の2024年モデルに遭遇! [ID.4をチャージせよ!:その18]

ミュンヘンモーターショー(IAA)のメイン会場近くで、フォルクスワーゲンがメディア向けイベントを開催。そこで、2024年モデルの「ID.4」に遭遇しました。 見た目は同じ イベントスペースのパーキングに待機していたのは、“コスタアズールメタリック”のボディが爽やかな「ID.4 プロ・パフォーマンス」。日本のラインアップにはないボディカラーに目を奪われますが、エクステリアデザインはこれまでと同じで、私の愛車の「ID.4 プロ・ローンチエディション」との違いは1インチアップの21インチホイールが装着されていることくらいです。 ところが運転席に座ると、コックピットの眺めに違和感が! マイナーチェンジでもないのに、コックピットのデザインが私のID.4 プロ・ローンチエディションと大きく変わっていました。 ご存じのとおり、フォルクスワーゲンなど多くの輸入ブランドでは“イヤーモデル制”を採用していて、毎年のように細かい仕様変更を実施。エクステリアデザインは一緒でもパワートレインや装備が変わるというのはよくあること。この2024年モデルでは、インテリアのデザインまで様変わりしていたのです。 真っ先に気づいたのが、ダッシュボード中央にあるタッチパネルがリニューアルされていること。2022年モデルのID.4 プロ・ローンチエディションでは12インチのタッチパネルが搭載されていますが、この2024年モデルでは12.9インチにサイズアップが図られたのに加えて、デザインも一新され、明らかに使い勝手が向上していました。

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