国産へのこだわりもトヨタならでは
これらを組み立てるには、4つの工程があり、最後に検査が行われる。
まず内側の容器を金型で成形する。ただし、筒状の容器なので上下半分ずつ成形し、つなぎ合わせることになる。その接着には漏れの生じない工法を用いなければならない。当初はレーザー溶接を使っていたが、作業時間がかかるため、接合部分を赤外線で溶かして付ける方法に変更された。
その筒状の容器に、カーボン繊維やガラス繊維を巻き付ける。それも、上下の端は筒を閉じる丸みを帯びた形状であるため、繊維の巻き方が難しい。さらに、片側には口金を取り付けるので、ここで耐圧性はもちろん、漏れが出てもいけない。なおかつ、短時間で巻き終えなければ、生産性が落ち、原価が上がる。人の手でやっても難しい作業を、どう自動化するか。
そして、熱で複合素材の樹脂を硬化させ、完成だ。
最後に、気密性や耐圧性の検査をして出荷となる。もちろん、破損や耐久性に対する保障も行うことになる。
以上のような手間を経て、燃料電池スタックと高圧水素タンクはできあがる。それら製造の仕方をみても、モノ作り自体はもちろん、信頼性や耐久性を確保したうえでの量産が容易でないことは想像できるのではないか。
これを、国内の部品メーカーなど国産ですべて行っているところがトヨタの自負だ。国産にこだわる姿勢は、1955年に初代クラウンを生み出すときからトヨタが貫いてきたことでもある。
1997年に誕生した初代プリウスも、技術の粋を集めた創意工夫のハイブリッド車(HV)だったが、ミライも技術の粋を集めたのは同様で、販売価格は、費用対価値の点で格安といえるのではないか。
この価格を成し遂げているのは、協力メーカーを含めた企業努力だけでなく、路線バスや長距離トラックへの適応を含め、乗用車に限らずFCVを展開していくことで、数量効果としてこなれている可能性がある。
一方、国内トラックメーカーの技術者は、積載重量一杯に荷物を積んだ大型トラックでの長距離輸送では、発電負荷が連続して高くなるため、燃料電池スタックが何十万キロメートルという長年にわたり使えるかどうか、耐久面に懸念があると述べる。
乗用車だけでなく商用車への適用となると、消費財ではなく生産財としての厳しい見方が加わることになる。