燃料電池車の未来は見通せない情勢
燃料電池車はこれから先、いったいどうなっていくのだろうか? そんな疑問を持っているユーザーが少なくないはずだ。
燃料電池車の量産車は、日本車ではトヨタMIRAIに次いで、直近ではクラウン(セダン)FCEVとホンダCR-V e:FCEVが登場したものの、販売台数はかなり限定的だからだ。
そうしたなか、トヨタとドイツのBMWは9月、「水素社会実現に向けた協力関係を強化」に関して基本合意書を締結したと発表した。トヨタとBMWといえば、2010年代から燃料電池車に関する共同研究を進めてきており、「なぜこのタイミングで関係を強化するのか?」と、さらなる疑問をもつ人もいるだろう。
背景にあるのは、欧州連合(EU)やEU加盟各国が水面下で進めているエネルギーセキュリティ政策だ。
欧州ではとくに北欧で、2000年代から水素のエネルギー活用についてさまざまな施策を打ってきており、その後は欧州各国で再生可能エネルギーと水素の関係性についての議論が進んだ。それが、ロシアのウクライナ侵攻によって事態は急変する。欧州はいま、世界各地からさまざまな手法で水素を確保するために、極めて積極的な動きをみせているのだ。
一方、トヨタは昨年6月、乗用車や商用車(中型トラック)向け燃料電池車だけではなく、鉄道や定置型などB2B(事業者間取引)による燃料電池の外販を強化することを表明した。
今回、トヨタとBMWの提携は、燃料電池車に限定した話ではなく、燃料電池を含むさまざまな水素活用を視野に入れたものだといえよう。BMWとしても、欧州で進む水素社会構想に対して、トヨタがもつ技術が必要不可欠だと判断したと考えられる。
時代を振り返ると、日本では2000年代から、次世代自動車の筆頭として注目を浴びた。当時の小泉首相やトヨタとホンダの社長らが参加して首相官邸近くで実施した燃料電池車の公道試乗会は、大きなニュースとなった。
日本が世界をリードするとして、まさに”鳴り物入り”だったが……。本格的な量産が始まったのは、トヨタMIRAI。その登場に合わせて国は、2015年を「水素元年」と呼んだ。
家庭用のエネファームに加えて、燃料電池車の活用が増えることで、燃料電池の普及が一気に進めるという構想だった。水素インフラについても野心的な普及計画を公表するに至った。
しかし、現時点で乗用の燃料電池車の未来が見通せない情勢である。欧州での政治的な動きが今後、日本での乗用燃料電池車の普及にどんな影響を与えることになるのか。その動向を注視していきたい。