試乗
share:

ロールス・ロイスはEVになってもロールス・ロイス。「スペクター」海外試乗記


TEXT:小川フミオ PHOTO:Rolls Royce Motor Cars
TAG:
ロールス・ロイス スペクターのフロント

ロールス・ロイス 「Spectre」(スペクター)は、5.5mの巨大なボディに102kWhのバッテリー、430kW/900Nmの2モーターを搭載するクーペEV。V12エンジンを積まなくとも、ロールス・ロイスらしさは健在なのか、否か。米ナパバレーで開催された試乗会で、その完成度を吟味した。

ロールス・ロイス スペクターのサイドビュー

ロールス・ロイス流のEVの“しつけ方”

巨軀にかかわらず、静止から時速100kmまでを4.5秒で加速するスペクターを、ロールス・ロイスでは「ウルトラ・ラグジュアリー・エレクトリック・スーパー・クーペ」と呼ぶ。

これまでロールス・ロイス車を特徴づけていたのは、“粛々と”回るV型12気筒エンジンで、たとえば「ゴースト」の6.7Lエンジンは、1,600rpmで850Nmものトルクを発生する。

ほとんどアクセルペダルを踏み込まなくても、いやそれゆえに、というべきか、静かに、しかし力強く走れるのが、ロールス・ロイス車の身上だった。

「エフォートレス」(力がいらない)とか、「マジックカーペットライド」(空飛ぶじゅうたんのような乗り心地)は、ずっとロールス・ロイスがクルマづくりにおける身上としてきたもの。

スペクターにおいても、これら(水上を滑るように走る「ワフタビリティ」を加えて3つ)を守るのが開発の基本だったそうだ。

「静粛性は最大の贅沢だ、というのが、当時、ミスター・ロールス(ことチャールズ・スチュアート・ロールズが言っていたことで、ゆえに、電動化へのレールはずっと前から敷かれていたのです」

ここ10年のあいだにも、ロールス・ロイスではBEVのプロトタイプを手がけてきたと、ドクター・アヨウビは言う。

「開発にあたっての最大のポイントは、走るマナー。電気自動車はバッテリー容量を大きくしてモータートルクを増やすと、どうしても、どんっと、乗員がのけぞるような発進になりがちです」

それではロールス・ロイスではない、というのが経営陣の判断。そこで、「見えない巨人の手が後ろから車体をぐーっと押しだしてくれるような加速感を目指しました」(ドクター・アヨウビ)。

そのうちのひとつが、アクセルペダルのトラベル(踏み込み量)を長くしたこと。踏み込み量に応じて、ゆるやかにトルクが増していくような設定にしているのだ。

なるほど、私がナパバレー周辺の道でドライブしたときは、そのとおり、ゆるやか、だけど、力強い、そんな言葉で表現できる加速感が味わえた。

ロールス・ロイス スペクターのキャビン

半年以上かけて「EVの音」を開発

そもそも、発進時や加速時は車重などまったく意識させない。BEVになっても「エフォートレス」という言葉どおりだ。

操舵の重さを感じさせない大径ハンドルに手をあてながら、アクセルペダルを踏み込んでみると、面白いぐらい、自分の感覚に忠実にクルマが前へと出ていく。

少しだけ踏み込めば、5.5mになんなんとする全長をもつ車体がそろっと進む。そこから踏み込んでいくと、目が回るような感覚で速度が上がっていくのだ。

このとき、サウンドデザインチームは、加速と減速を表現する音を用意している。高音、中音、低音の帯域を組み合わせたもので、踏み込む速度もパラメターにしながら、ドライバーの気持に沿った、いってみればドライビングの効果音を楽しめる。

最近は、加速にともなう音づくりを音楽家に依頼するケース(ルノーやマセラティ)があるが、ロールス・ロイスは社内で手掛けたようだ。

ロールス・ロイス スペクターのメーターディスプレイ

そのときは、小さいながら立派な機材のそろったホームスタジオまで持つほど、音楽が大好きなデザインディレクターのアンダース・ワーミング氏が、いろいろ意見したとのこと。

「ドライバーの感情を表現したくって、半年以上かけて、私たちが“これだ”と納得できる音を作りましたよ」(ワーミング氏)

はたして、その音は、たしかに強めの加速のときはボリュームも上がり、低音と高音が混ざりあって気分を昂揚させる効果がありそうだった。ただ爆発的な高まりでなく、連続性が強調されている。

エンジンサウンドを模したものでもなく、モーターの音を強調したものでもない、とワーミング氏。ここにも手間をかけているのが、ロールス・ロイスなのです、という言葉を付け加えるのだった。

Vol. 3へ続く

ロールス・ロイス スペクター

全長:5,475mm
全幅:2,144mm
全高:1,573mm
ホイールベース:3,210mm
車両重量:2,890kg
乗車定員:4名
交流電力量消費率:23.6-22.2kWh/100km(WLTCモード)
一充電走行距離:530km(WLTCモード)
最高出力:430kW(585ps)
最大トルク:900Nm(91.8kgm)
バッテリー総電力量:102kWh
モーター数:前1基、後1基
駆動方式:AWD
車両本体価格:4800万円

TAG:

PHOTO GALLERY

NEWS TOPICS

EVヘッドライン
ブレーキダストを封じ込めて環境対策! メルセデス・ベンツが開発したEVならではの技術「インドライブ・ブレーキ」ってどんなもの?
ヒョンデの魅力を日本に伝える新たな拠点! 「ヒョンデ みなとみらい 本社ショールーム」がグランドオープン
中国から地球上最強コスパの新星EV現る! IMモーターL6の驚くべきスペックとは
more
ニュース
新型リーフを筆頭に世界中に新型EVを投入して戦力底上げ! 日産が今後の経営戦略を発表
BEV用の新開発プラットフォーム「PPE」初採用! アウディQ6 e-tron/SQ6 e-tronがついに日本デビュー
交換式バッテリーの実用化は商用・フリートから! 米Ample社と三菱ふそうが提携し都内で実証実験開始
more
コラム
結局「全固体電池」ってなに? どんなメリットがある? 「夢の電池」と言うには時期尚早な次世代バッテリーの中身
「セダンであり、5ドアクーペであり、SUV的でもある」という謎の表現! でも確かにカッコイイ「ボルボES90」をデザインのプロはどう見る?
そういや「スマートグリッド」ってドコいった? EVを蓄電池として利用する流れのいま
more
インタビュー
電動化でもジーリー傘下でも「ロータスらしさ」は消えない? アジア太平洋地区CEOが語るロータスの現在と未来
「EX30」に組み込まれたBEVの動的性能とは。テクニカルリーダーが語る「ボルボらしさ」
「EX30」には、さまざまな可能性を。ボルボのテクニカルリーダーが話す、初の小型BEVにあるもの
more
試乗
【試乗】CR-Vに中身を乗っけただけのプロトなのにもう凄い! ホンダの次世代BEV「0シリーズ」に期待しかない
【試乗】二度見必至の存在感は普通のコナとはまるで別モノ! イメージを大きく変えたヒョンデ・コナ「N Line」に乗って感じたマルとバツ
ボルボEX30で11時間超えの1000km走行チャレンジ! 課題は90kWまでしか受け入れない充電性能
more
イベント
災害時にも活躍できるEVの可能性を淡路島で体験! 「AWAJI EV MEET 2025 from OUTDOOR FEELS」開催決定
売り物ではなく概念を展示するモデリスタ! 正体不明なトヨタbZ4Xはブランドの「新化」という概念を示すスタディモデルだった【大阪オートメッセ2025】
子どもに大人気の電動バギーに大迫力のエアロキットや色が変わるフィルムまで登場! 大阪オートメッセのEV関連出展物はどれもユニークすぎた
more

PIC UP CONTENTS

デイリーランキング

過去記事一覧

月を選択