Contents
技術戦略と政治的な動きの間
BEVに対する充電器規格の歴史を振り返ってみると、最初に国際的な規格化に動き出したのは日本のCHAdeMO(チャデモ)方式だった。
三菱自動車工業「i-MiEV」と日産「リーフ」が2000年代末から2010年代初頭にかけて量産が始まり、急速充電器の必要性が高まったからだ。
それまで、BEVは20世紀初頭から世界各地で何度も普及する可能性があったものの、電池技術や充電に関する技術がクルマとしてのBEVの社会受容性にマッチするレベルに達しなかったため、本格普及に結びつかなかったという経緯があった。
そのため、大手自動車メーカーによるBEVの本格的な大量生産は、i-MiEVとリーフが事実上の創世期だったと言えるだろう。
つまり、充電器についても2000年代末から2010年代初頭が本格的な普及に向けた創世期であったのだ。
そうした日本主導の急速充電器規格に対して、欧米が反旗を翻した。
それが、CCSだ。
実際、筆者は2010年代前半、米ロサンゼルスで開催された電気自動車等の国際学会を取材した際、急遽CCSの発表会見が実施された。
会見の壇上には、欧米大手メーカー各社の関係者が並び、「CCSこそグローバルスタンダードになるべき規格だ」とし、チャデモの存在意義を事実上、否定した。
そのため、チャデモを推奨してきた日系メーカー各社はかなり動揺していたことを思い出す。
また、すでにチャデモ規格の急速充電器を導入していた欧州の充電インフラ事業者が、事前予告もなく欧米メーカー各社が一方的に新方式導入を発表したことに対して怒りをあらわにし、会見会場内の緊張感が一気に高まった。
その後、中国ではGB/T規格(現在のGB規格)において、チャデモ規格と連携するChaoJi構想が打ち出されたものの、「ChaoJiの実態と今後の動向がつかみづらい」(複数の充電機器メーカー関係者)という声が聞かれる状況だ。
そうした中で、北米ではテスラ方式にもデファクトスタンダードの流れが加速しているのだ。
では、日本市場では今後、どうなっていくのだろうか?
日本市場ではこれまで、CCS導入の具体的な話は自動車メーカー各社の間ではなく、輸入車メーカーもチャデモ規格対応での日本仕様車を仕立ててきている。
そのうえで、テスラ方式が並存している状況だが、現時点でテスラ方式に統一という流れはまったく見えてこない。
また、欧州市場では欧州メーカーがCCS(欧州仕様)がこれからも主流という意思を持っているものと考えられる。
結局、急速充電を含む充電方式については、国や地域の社会情勢によって規格が違うという環境がこれからも続いていくのだろうか?
技術的な視点ではなく、商売としてのデファクトスタンダード、さらに国や地域における政治的な動きなどによって、充電器の規格標準化の動きは今後も、予期せぬことが起こるのかもしれない。