コラム
share:

開発競争が激烈! 電気自動車用リチウムイオン・バッテリー:知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第11回


TEXT:御堀 直嗣
TAG:

進化を続けるリチウムイオン・バッテリー

電気自動車(EV)の技術について、いまさら聞きにくい基本的なことから詳しく丁寧に説明していく本コラム。今回はリチウムイオン・バッテリーを題材とする。

電気自動車への懸念として、いまだにバッテリー火災などの不安を訴える声がある。一方で、ガソリンエンジン車も、故障や事故などで燃えるということは起きており、いずれにしても危険性への正しい理解が必要だ。

多くのEVの動力源であるリチウムイオン・バッテリーの正極(+)材料は活物質と呼ばれ、量産化でまず使われたのは、コバルト酸リチウムだ。その結晶構造は層状になっており、リチウムイオンを多く含むことができる。つまり充電容量が大きいということだ。

しかしながら弱点もある。充電の際にはリチウムイオンが負極(-)へ移動するので、コバルト酸リチウムの結晶構造からリチウムイオンが抜けていく。ここで、過充電してしまうと、コバルト酸リチウムの結晶からリチウムイオンがすべて抜け出てしまうので、結晶構造が崩れやすくなる。これによって短絡(ショート)が起き、発熱や発火が起きてしまうのだ。それが、携帯電話やパーソナルコンピューターの火災事故などにつながった。

そこで、過充電にならないよう充電することが求められ、たとえば100%まで充電しないようにするとか、充電器に過充電を予防する制御を織り込むなどによって、安全を保とうとしてきた。しかし、満充電にしてこそ、その電気機器の性能を長時間、存分に使えるのであって、少なめの充電に抑えては、使い勝手を悪くする。そこは電気自動車(EV)でも同様で、一充電走行距離が短くなってしまう。

そこで、「三菱i-MiEV」や初代「日産リーフ」は、正極(+)にマンガン酸リチウムを用いた。この結晶構造は“スピネル”と呼ばれ、マンガンの結晶構造に崩れにくい柱が備わっている。その安全性については、本コラム第3回で説明した。

かつて、EVの走行距離に不満が指摘された背景に、より安全を重視したリチウムイオン・バッテリー電極の採用があったのだ。

安全を保ちながら、より長い一充電走行距離の実現のため現在使われているのが、三元系と呼ばれる正極(+)材料だ。“三元”とは3つの元素を指す。コバルト、ニッケル、マンガンの3種の元素を組み合わせている。コバルトはリチウムイオンを多く含み、ニッケルはエネルギー密度が高く、マンガンはスピネル構造によって安全性が高い。それぞれの元素の特徴を活かし、より高性能でありながら安全性を確保したリチウムイオン・バッテリーができあがった。

中国産リン酸鉄リチウムイオンの登場

しかし、コバルトは資源量に限りがあり、ニッケルも材料費が高騰しはじめている。資源をより安定的に、かつ安価な素材で電極を構成することがEV普及の鍵となりはじめた。

そこに登場したのが、リン酸鉄リチウムを正極(+)に用いるリチウムイオン・バッテリーだ。オリビン構造と呼ばれる強固な結晶構造を持ち、常温で塑性変形しにくく、熱安定性も高いため、安全性に優れるとされている。一方、三元系に比べ1セル(バッテリーの最小単位)の電圧がやや低く、充電容量が少ないともいわれる。

中国のBYDは、“ブレードバッテリー”と呼ぶ長細い電極形状で、容量の確保に一手を打った。小分けされたバッテリーを何個も組み合わせるよりも、電極を細長くし面積を稼いだバッテリーのほうが1枚の電極面積を大きく取れる。一方で組み合わせによって生じるセル間の配線を減らすことができる。このため、バッテリーケース内の空間を有効活用することで容量不足を補える。

米国のテスラも、「モデル3」の量販にあわせるようにリン酸鉄のリチウムイオン・バッテリーの採用に踏み切り、こちらはCATL(中国)の箱型バッテリーを、モジュールに組むことなしにセルを並べることで、車載量を稼いでいるのではないかとみられる。

いずれに場合も実用上の難点はとくにみられていない。リン酸鉄の正極は素材の希少性に左右されにくく、毒性もないなどの特徴があるが、バッテリー製造に手間がかかるともいわれる。

TAG:

PHOTO GALLERY

NEWS TOPICS

EVヘッドライン
中国から地球上最強コスパの新星EV現る! IMモーターL6の驚くべきスペックとは
BYDの売り上げ鈍化に注目しても意味なし! むしろ心配すべきはテスラか? BYDは利益率も投資額も驚くべき水準だった
いすゞがピックアップトラック「D-MAX」にBEVを用意! バンコク国際モーターショーでワールドプレミア予定
more
ニュース
日本高圧電気とENEOSがEVトラックの未来を切り開く! 日本初のEV商用車向け充電ステーション実現のために「柱上設置型高圧受電設備」を開発
定額サブスクは法人ユーザーにもメリット大! KINTOがトヨタのPHEV4車種の取り扱いを開始
EV用充電器を潮風から守れ! 耐塩害ボックス付き充電器をアウディジャパンがまさかの自社開発
more
コラム
BYDがじわり進出もまだ日本のエンジン車が有利! EVシフトが進む「日本車天国」タイの動向
人気の軽EVのライバルとなるか? 日本導入も確実なヒョンデの小型EV「インスター」の気になる中身
価格競争力は十分! スペックも凄い! 驚異のEV「BYDシール」を「テスラモデル3」と徹底比較してみた
more
インタビュー
「EX30」に組み込まれたBEVの動的性能とは。テクニカルリーダーが語る「ボルボらしさ」
「EX30」には、さまざまな可能性を。ボルボのテクニカルリーダーが話す、初の小型BEVにあるもの
災害に強いクルマは「PHEV+SUV+4WD」! 特務機関NERVがアウトランダーPHEVを選ぶ当然の理由
more
試乗
EV専業の「テスラ」とEVに力を入れる従来の自動車メーカー「ヒョンデ」! モデルYとコナを乗り比べるとまったく違う「乗りもの」だった
誰もが感じる「ポルシェに乗っている」という感覚! ポルシェはBEVでもやっぱりスポーツカーだった
佐川急便とASFが共同開発した軽商用EV「ASF2.0」に乗った! 走りは要改善も将来性を感じる中身
more
イベント
中国市場のニーズに合わせて開発! 日産が北京モーターショー2024で新エネルギー車のコンセプトカーを出展
レース前に特別に潜入! フォーミュラEに参戦する日産チームのテント内は驚きと発見が詰まっていた
日産がフォーミュラE「Tokyo E-Prix」開催前スペシャルイベントを開催! 六本木ヒルズアリーナに1夜限りのサーキットが出現
more

PIC UP CONTENTS

デイリーランキング

過去記事一覧

月を選択