普通充電と急速充電の違い
電気自動車(EV)について最大の懸念が、充電だろう。そこから一充電走行距離が多い少ないといった議論が盛んになる。
しかし、充電の本質を理解すれば、たいした懸念材料ではない。そもそも、充電に対する理解不足が世界的な混乱をもたらしている。
EVの充電には、普通充電と急速充電がある。
普通充電とは、100ボルトまたは200ボルト(V)の電圧で、時間をかけて駆動用バッテリー(現状ではリチウムイオン・バッテリーが主流)に充電する方法だ。コンセントなどから交流の電気を流し、車載の充電器で直流に変換してリチウムイオン・バッテリー(以下、LIB)に充電する。普通充電ではバッテリーの劣化も抑えられる。
急速充電は500~800Vの高電圧で一気に電気を流し、短時間にLIBに充電する方法である。急速充電器で交流から直流へあらかじめ変換しておき、EVのLIBへ直流電気で充電する。リチウムイオンに限らずバッテリーの電気は直流なので、一気に充電することができる。ただし、大電流を流すために安全の上で満充電にはしにくく、またLIBを劣化させやすくもある。
基礎充電あっての電気自動車
充電方式に普通充電と急速充電の2通りがある以外に、充電という行為そのものにも種類がある。ひとつが基礎充電だ。ほかには目的地充電と経路充電がある。
基礎充電では、自宅や事務所などで寝ていたり仕事をしていたりする間に、普通充電で時間をかけてじっくり充電して、満充電にする。これこそがEVの充電の基本だ。これなくして、EVを使いこなすことはできない。
また、基礎充電を行うことで、EVへの充電によって電力が逼迫するという問題を起こさずに済む。自宅で夜間に基礎充電すれば、そもそも電力使用量が減る時間帯なので、系統電力の逼迫など起こるはずもない。電力使用量が増える日中に急速充電で間に合わせようとするから電力逼迫が懸念され、世の中すべてがEVになったら原子力発電所を10基増設しなければならないといった勘違いが生じる。夜間に基礎充電すれば、電力会社に喜ばれこそすれ、困らせることはない。
ところが、国内ではマンションなど集合住宅の駐車場に、基礎充電用の200Vコンセントを設置できない状況が、初代リーフの発売により量産EVが実現してから13年も解決されずにきた。人々のEVへの理解不足によるかもしれないが、そのために、やむを得ず急速充電を増やさなければならない事態に陥ったのである。
自宅での基礎充電と外出先での目的地充電
基礎充電の次に普及しなければならないのが、普通充電による目的地充電だ。
目的地充電とは、宿泊施設や仕事場、食事処、買い物をする店など、出掛けた先の駐車場で充電することをいう。宿泊施設であれば、家と同じように寝ている間に普通充電で満充電にできる。仕事先であれば、仕事をしている間に満充電にできる。ただしこの場合は日中になってしまうが、日中の電力消費が最大になる時間帯を避けて充電管理することも不可能ではない。
食事処や買い物の店などでは、急速充電が適切ではないかと思うかもしれない。しかし、食事や買い物などでの滞在時間は1~2時間はあり、急速充電は30分で一度仕切り直しになるので、後続のEVがいれば待たせることになる。そこで食事や買い物を中断して充電の様子を確認しなければならない。スマートフォンで情報を得ることはできるが、それでも食事や会話に夢中になったり、買い物選びに集中したりしにくくなる。
目的地充電の普通充電では、もちろん満充電に足りないだろう。だが、そこから次の目的地まで移動する電力が確保できればよいのであって、次の訪問地でも目的地充電できれば、少しずつの充電を繰り返しながら帰宅できる。
基礎充電と目的地充電こそが、EVを最大に有効活用する充電方法だ。