新型リーフとホンダ軽EVに積むバッテリーはクリーンな環境で作られていた
国産EVのみならず、量産EVとして世界的にもっとも歴史が続いているモデルといえば、いわずもがな「リーフ」だ。そして、日本においてもっとも売れているEVは、2022~2024年度までの直近3年連続で「サクラ」となっている。
この2台に共通するのは、どちらも日産ブランドのモデルということになるが、それだけではない。航続距離や最高出力など、EVの性能を左右する重要なバッテリーについても、サプライヤー(バッテリーメーカー)は同じだったりする。
それが、「AESC」である。
初代リーフの駆動用・二次バッテリーを製造していた「オートモーティブエナジーサプライコーポレーション」にルーツをもつ同社は、いわゆる自動車メーカーに製品を納めるB to B企業だ。
そのため、一般ユーザー向けの製品を作っている電機メーカーほどの知名度はないかもしれないが、日本のEV市場においてはトップシェアといえる規模を誇り、日本の自動車産業にとっては欠かせない会社といえる。
前述した日産リーフ、サクラ(兄弟車のeKクロスEV)だけでも国産EVのセールスにおいては大半を占めるが、さらにホンダN-VAN e:のバッテリーもAESC製。じつは国産EVオーナーにとって「AESC」は身近な企業・ブランドなのだ。
そんなAESCの、2024年から稼働開始している最新のギガファクトリー「茨城工場」を見学することができた。非常に貴重な機会であり、ファクトリー内で見聞きした情報を共有したい。
将来的には年間20GWh(ギガワットアワー)の生産能力を目指すというAESC茨城工場。現在は、第一棟の3ラインが稼働しているのみで、生産能力は6GWh/年となっているが、それでも紛うことなく“ギガファクトリー”といえる。
見学した日にラインを流れていたのは、ホンダの軽EV向けのバッテリー。ラミネートフィルムで覆われたパウチ型バッテリーが製造されていた。初代リーフ向けのバッテリーの見た目から「レトルトカレーみたい」といわれた、AESCおなじみのタイプである。
ただし、その中身は大きく進化している。茨城のギガファクトリーで作られているのは第5世代のリチウムイオンバッテリーとなっている。その進化は非常に細かいアップデートの積み重ねということだが、目指したのは、エネルギー密度と出力という相反する要素を両立すること。ちなみに、現行リーフやサクラなどのパウチ型バッテリーはAESCの第4世代。茨城のギガファクトリーでは、新型リーフ向けのバッテリーも製造予定だが、そちらは当然第5世代のパウチ型となる。
ところで、リチウムイオンバッテリーといえば正極材を三元系(NMC=ニッケル・マンガン・コバルト)とするタイプが長らく主流だったが、このところリン酸鉄(LFP=リチウム・鉄・リン)を用いるタイプに注目が集まっている。実際、EV用としてLFPリチウムイオンバッテリーを使うケースも増えてきている。
茨城ギガファクトリーで製造されているパウチ型バッテリーがNMCタイプとなっている理由について、AESCは「エネルギー密度に有利で、なおかつ急速充電性能にも優れているため」と説明する。これはAESCがNMCしか扱っていないためのいい訳ではない。同社はEV用バッテリーのほか、ESS(定置型の電力貯蔵システム)も扱っており、ESSでは充電サイクルの耐用性に有利なLFPタイプのリチウムイオンバッテリーを使っている。
NMCとLFPそれぞれのよさを知った上で、EV用としてはNMCが向いていると判断しているのだ。