#EV
TEXT:加藤 ヒロト
みんなに勧められる車だが、多くの人が欲する車ではないかも[トヨタ・bZ3試乗記]

前回はデザインについて語ってもらったが、今回はいよいよbZ3の走りについて、加藤博人氏にインプレッションを報告してもらう。一体どんな走りのBEVに仕上がっているのだろうか。 トヨタ車らしい優しいドライビングフィール bZ3は大きく分けて二つのモデルが存在しており、それぞれ異なるバッテリーを搭載する。ひとつが容量49.92 kWh、そしてもう一方が容量65.28 kWhとなる。どちらもBYDグループの子会社である「弗迪」が製造するリン酸鉄リチウムイオン電池で、CLTC方式での航続距離はそれぞれ517 kmと616 kmを誇る。保証は10年/20万 kmまで続く万全のサポート体制だ。 モーターの出力は前者が181 hp、後者が241 hpと異なるが、どちらもシングルモーターの前輪駆動で、ツインモーターの四輪駆動モデルは設定されていない。人によっては、この点に関して少し物足りなさを感じるかもしれない。  グレード体系は航続距離517 kmのモデルがひとつ、そして616 kmのモデルが二つ用意される3グレード構成となる。最上級グレードは下のグレードでオプション装備となる後方追突予告警報(RCW)、リヤクロストラフィックアラート(RCTA)、ブラインドスポットモニター(BSM)、パノラミックビューモニターシステム、ドライバー疲労披露検知機能、ドア開閉時警告機能、ステアリングハンドルヒーター、シートヒーター、アンビエントライトなどの装備が標準装備となる。また、車外へ電源を供給するV2H/V2Lへはオプションとして対応する。 運転するために座り込むと、前回の記事で紹介したように内装は驚きの連続だ。だが、アクセルを踏んで得られる加速感はとても優しく、上手に制御されていると感じた。BEVと言えばなんでもかんでも「力強い加速」をアピールしがちだし、中には出だしの制御がイマイチな車種も多い。その中でbZ3の加速フィーリングは自然で疲れないし、これならガソリン車からの転換も不自由なくおこなえると感じた。   この「運転のしやすさ」に、トヨタらしい設計思想の本質が現れていると思うのだ。流行に敏感な一部の消費者たちはこの加速感を「鈍い」と切り捨てるとも聞いたが、普及価格帯のBEVにおいて大切なのは「0-100 km/h加速」の速さではなく、従来の自動車と変わらないフィーリングなのだ。物事の本質を見極められる消費者でなければ、bZ3の良さには一生気がつかないままかもしれない。 スポーツセダンではないため、コーナリングは良い意味で普通だ。段差や路面の凹凸も程よく吸収してくれるので、純粋に居心地の良い車である印象を覚えた。ドライブモードは「ノーマル」「エコ」「スノー」「スポーツ」の4種類で、スポーツモードでは多少加速感が鋭くなるが、劇的な変化とまでは行かない。室内空間は前席と後席ともに高く広く作られており、あらゆる点において「ちょうど良い塩梅」を目指したBEVなのだと感じた。

TAG: #bZ3 #EV #トヨタ
TEXT:加藤 ヒロト
外装の不思議なデザインと使いやすいインテリア[トヨタ・bZ3試乗記]

前回に続き、加藤博人氏による「トヨタbZ3」のレポートをお届けする。今回はbZ3のデザインを観察していく。これまでのトヨタの車と異なる個性はあるのだろうか。 見れば見るほど不思議なデザイン トヨタ bZ3のボディサイズは、全長4,725 mm x 全幅1,835 mm x 全高1,480 mmと、全体的なサイズ感は「プリウス」と「カムリ」の間と言えるだろう。ホイールベースはカムリが2,825 mmなのに対し、bZ3は2,880 mmを確保している。 「クラウン」や「ランドクルーザー」よりも30 mm長いホイールベースのおかげで室内空間は素晴らしく広いが、それと同時にエクステリアは言わば「ショートノーズ・ショートデッキ」のような不思議なプロポーションを持つ。4ドアセダンにも関わらず、その見た目は伝統的なセダン形状でもなければ、流行りのクーペ風セダンとも少し違うシルエットであり、そこがbZ3の存在感を唯一無二なものにしている要素のひとつかもしれない。 フロントマスクは「bZ4X」でもすっかりお馴染みの「ハンマーヘッド」形状だ。高さ5分の4ぐらいの位置に前端を設定し、そこから上は鋭く、下はなだらかに続くラインを特徴とする。優れた空力性能はハンマーヘッドだけでなく、フロントフェンダー前端やボンネット両端に位置する空気の通り道も大きく貢献している。そのおかげもあってか、一目見ただけでは理解しにくい、複雑なプレスラインで構成されるフロント周りとなっているのだ。昨今の新興ブランドはどこもシンプルな造形を目指しては似たり寄ったりなデザインだが、それとは一線を画す見た目が街中でbZ3という存在を際立たせているのだと感じた。 サイドはフロントほど複雑ではないものの、有機的なプレスラインからは造形美を感じ取ることができる。Cd値0.218を実現させた要素のひとつであるドアハンドルは、内蔵式のように見えるが、実は表面がフタとなっており、そこに手を差し込んで手前に引くことでドアを開けるスタイルとなる。初見ではどこかに挟まれないかと不安になる「真実の口」のようだったが、慣れてしまえばどうってことはない。 先ほど「ショートデッキ」と形容したように、最後端の膨らみは最小限に抑えられている。それでもトランク容量は439 Lが確保されており、このサイズにしては比較的多めではないだろうか。流行りの一文字テールは両端が三角形の寄木細工のようになっており、近未来的、機械的なルックスに少しばかりの暖かさをもたらしている。

TAG: #bZ3 #EV #トヨタ
TEXT:加藤 ヒロト
中国でしか販売していないトヨタ車「bZ3」誕生の背景とは[トヨタ・bZ3試乗記]

「2022年に、中国新車販売に占めるBEV(バッテリー電気自動車)のシェアは20%に達し、その販売台数は500万台を超え、世界最大のBEV市場になった」中国でのBEV関連のニュースを見るたびにその普及の勢いに圧倒される。そんな中国で販売されているBEVはどんなクルマに仕上がっているのだろうか。今回は昨年発売された「トヨタbZ3」について、中国自動車業界に精通する加藤博人氏よりレポートを寄せてもらった。 拡大するトヨタのBEV政策 トヨタは2021年4月、上海モーターショー2021にてBEVサブブランド「bZ」と、初のモデルである「bZ4X」を発表した。よく勘違いされるが、これはトヨタにとって初めての電気自動車(BEV)ではない。 1990年代には少量ながらも「タウンエース バン EV」や「クラウンマジェスタ EV」、そして「RAV4 EV」などを世に送り出してきた。世界に「ハイブリッド」というものを知らしめた初代プリウスが1997年に登場してからしばらくはハイブリッド車(HEV)の普及に向けて尽力するかたわら、燃料電池車(FCEV)の研究開発にも勤しむようになる。 2019年には久々のBEVである「C-HR EV」「イゾア EV」を発表、中国現地で製造・販売をおこなっている。乗用車以外にも、歩行領域や超小型モビリティにおけるトヨタの取り組みは目立っており、ひとつの選択肢に拘らない、幅広いゾーンをカバーすることに注力している。 ここ数年は中国市場を特に見据えたBEV展開に積極的だ。2022年にはbZシリーズ第二弾の「bZ3」を発売した。ついこの間開催された上海モーターショー2023ではbZシリーズから2台のコンセプトカー「bZ Sport Crossover Concept」「bZ FlexSpace Concept」を発表、中国市場において2024年中の販売開始を目標にしている。 これ以外にも多くのBEVを中国に導入するとしており、多くの新ブランド・新車種が日々誕生する中国市場でトヨタがいかにプレゼンスを発揮し続けるかが焦点だ。

TAG: #bZ3 #EV #トヨタ
TEXT:小川フミオ
「EタイプのインパクトをEVで再現したい」ジャガー・マネージング・ディレクターが語る電動化への姿勢

フォーミュラEから次世代ジャガーBEVを語ってきたグローバー氏は、ジャガーEタイプの存在を話しはじめる。それは、既存にとらわれない新しい価値観の創造だった、と。 Eタイプが示してくれたこと −−フォーミュラEの話から、2025年という新世代のジャガーBEVにまで話題が飛びました。つまり、ジャガーにとっての電動化をいうときに、活動はみな有機的につながっているのですね。あたらしいBEVの話をもうすこし聞かせてください。 「私たちは、他のコピーをしない、他とちがっていることを敢えて厭わない、という創業者のスピリットを大事にしながら、次世代車の開発に取り組んでいます。過去の例でいうと、やはり、1961年のジャガーEタイプです」 −−ジャガーの名声を不動のものにしたスポーツGTですね。 「このクルマが発表された時点で、世界中のひとは、それまで同じようなクルマを観たことがなかったはずです。あのカタチもコンセプトも、世のなかにそれまで存在していませんでした。それと同じようなインパクトを、新世代BEVで提供したいと私たちは意気込んでいます。過去をこのように振り返りながら、いままで存在しなかったクルマを未来に出す。これが私たちの考えなのです」 ジャガーを顧客とともに全く新しいものへ −−新世代のBEVはかなり上のマーケットを狙うものになると聞いていますが、どうなのでしょうか。 「なぜ、私たちがさらに上級マーケットへ移行しようとしているのか、ということですね。これまでセールスが好調だったジャガーの製品を振り返ってみると、そこに答えがあるのです。私たちがもっとも成功を収めた製品と同じようなところを狙うべきだというのが、私たちの結論なのです。これから、市場動向がどう変わっていくか、みていくと、生産台数をしぼって、高価格政策を採っていくのが、もっともジャガーというブランドにふさわしいと結論づけています」 −−高価格政策なのですね。 「おおざっぱですが、いまの2倍以上の価格です。高価格は、ジャガーというブランドにそぐわないものではありません。大事なことは、高価格の正当化です。そのために、いまのジャガーのプロダクトとはまったくちがったものを作らなくてはなりません。ほんとうにちがったプロダクトになるので、ユーザーエクスペリエンスとか、マーケティング戦略も、とうぜん、従来と同じというわけにはいきません」 −−具体的に教えてもらえるものがありますか。 「かんたんにいうと、顧客とダイレクトにつながりたいと考えています。オンライン販売の可能性もそのうちのひとつだし、逆にオンラインからオフラインへと、顧客が簡単に移れるようにするのも重要だと考えています。ブランドブティックを開くこともあるでしょうし、ポップアップにも取り組んでいきたいです。まだ計画段階ですが、かりにいうなら、ロンドンやパリや東京といった都市にブランドストアを直営で開き、顧客とのつながりをこれまで以上にしっかり持っていきたいと思っています。つまり、BEVを機会に、プロダクトを新開発するだけでなく、ジャガーをまったく新しいものにしたいのです。私たちは、既存の価値観にとらわれず、大胆で、恐れず新しいことを実行するブランドなのです。それをわかってくれるひとと価値観を共有したい思いです」 <了>

TAG: #EV #ジャガー #戦略
ロールス・ロイス スペクターのフロントビュー
TEXT:小川フミオ
ロールス・ロイスはEV時代もスペックを語らない。CEOが語るスペクターが目指した「あるべき姿」

ロールス・ロイスはかつて、エンジンパワーをことさらに語らず「必要にして十分」とのみ記していた。今回、スペクターについてのインタビューでも、CEOはほとんど数字について触れることはなかった。電気自動車の時代になっても、彼らは彼らの流儀を守り続ける。その事実は、そんなところにも表れているようだ。 リリースに時間がかかった理由 ロールス・ロイスのBEV「スペクター」が登場するまでに、意外なほど長い時間がかかった、といえるかもしれない。 他社が次々とBEVを発表するのを横目に見ながら、満を持してのお披露目が2022年10月。そしてジャーナリストに試乗の機会が提供されたのが2023年7月。 「時間がかかったのは認めます。理由は、私たちがやるからには、完璧なモデルを出したかったからです。BEVの研究は、すでに知っているひとも多いと思いますが、10年以上にわたって続けてきました。そこでついに、ということです」 ロールス・ロイス・モーター・カーズのトルステン・ミュラー=エトヴェシュCEOは語る。スペクターはセグメントで初のBEVであるのも事実。なのでそう慌てる必要もなかったと続ける。じっくりと完璧をめざす。それがロールス・ロイスの姿勢というのだ。 いっぽう、ロールス・ロイスのBEVは、ドライブトレインをBMW「i7」と共用するというグループ内の計画に沿ったタイミングもあったのでは、と推測される。 ただし、あまりに皆がi7との共通点を質問するので、一度はロールス・ロイス側から、商品(スペクター)説明に先立って「みなさんは2台がじつは同じクルマなんじゃないかと聞きたいかもしれないですが(間を置いて)まったく異なったクルマです」と前置きしたこともあったと聞く。 スペクターは(i7と異なり)アルミニウムの押出し材を使ったスペースフレーム構造を採用する。ロールス・ロイスが「アーキテクチャー・オブ・ラグジュアリー」と呼ぶものだ。設計の自由度は高く、2030年までにラインナップを電動化するというロールス・ロイスの計画に適したものという。 「スペクターを皮切りに、これから、BEVモデルが出てきます。そのときも、ロールス・ロイス車のポリシーともいえる、エフォートレスドライビングやマジックカーペットライドは守ります。先に進みながらもヘリティッジを大切にする。このポリシーで作る未来のBEVは、デザインは新しいかもしれません。でも誰が乗ってもすぐに、ロールス・ロイスだ、とわかるモデルになっていくはずです」 数字よりも大切なこと インタビューをしていて、私がおもしろいなと思ったのは、ほとんど数字が出てこないことだ。バッテリー容量の話もないし、航続距離や加速性能の自慢もない。 CO2排出量を含めた地球環境保全のことは、すこし触れられたが、話題の内容は、もうすこし漠然とした“ロールス・ロイスらしさ”について。ただし別の面からみれば、モーターやバッテリーの性能よりも広い視野に立った、クルマづくりのポリシーの話である。 「私たちは数字のことを語りませんね。数字をどうこういうブランドではないのです。私たちにとって重要なのは“フィーリング”を伝えて、それを理解してもらうこと。具体的に語るのは難しいテーマなのは承知しています。作る側としては、からだに染みついたフィーリングで、乗ってもらうと、すぐに私たちの意図をわかっていただけるのです」 ミュラー=エトヴェシュCEOは、どう説明したらいいのだろうと一瞬思ったのか、ちょっとじれったそうに、そう言いながら、笑顔を見せる。たしかに「数字よりもフィーリングだ」なんて堂々と言える自動車メーカーが、ほかにどれだけあるだろうか。 「電動化してもロールス・ロイスらしさを守るには、きちんとした設計が必要です。私たちは、いまのカリナンやゴーストを電動化することはありません。これから登場するロールス・ロイスのBEVは、まったく新しいものです」 新しい、でも、伝統的。こういう興味深い命題を抱えながら製品づくりをするところが、まさにロールス・ロイスなのだろう。

TAG: #EV #スペクター #ロールス・ロイス #電気自動車
ロールス・ロイス スペクターのフロントビュー
TEXT:小川フミオ
誰が乗ってもロールス・ロイスと感じるEVが出来た理由。CEOが語るスペクターが目指した「あるべき姿」

ロールス・ロイス「スペクター」は、電気自動車だからといって、これまでのICE車と大きくかけ離れたデザインや仕掛けは与えられていない。なぜなら、グッドウッドから送り出すべきは、斬新なEVではなく、あくまでロールス・ロイスであるべきだから。同社CEOはそう語る。 ロールス・ロイスならではの開発要件 「ロールス・ロイスが手がけるBEVは、いかにもBEVでございというデザインである必要はありません」 そう語るのは、ロールス・ロイス・モーター・カーズのトルステン・ミュラー=エトヴェシュCEOだ。最初はシリコンバレーも候補地だったけれど、顧客のライフスタイルとの相性がよりよい場所にしようと選ばれたというプレミアムワインの産地、ナパバレーでの試乗会でのインタビューにおける発言だ。 スタイルしかり、とミュラー=エトヴェシュCEOは続ける。 「BEVを開発しようと決定してから私の頭のなかにずっとあったイメージは、乗るひとに感動してもらえるスタイルがほしい、ということでした。そこでワーミング(デザイン統括)とディスカッションし、美しいファストバックのクーペこそ、ロールス・ロイス初のBEVにふさわしい、と決めました」 クーペ(本来はホイールベースを短く切り詰めた、という意味)といっても、きちんと4人の大人が乗れるパッケージングは重要というのも、スペクター開発当初からの要件だった。 ロールス・ロイスの調査によると、顧客の多くは、パーソナルな雰囲気の強いクーペを好んでも、それでも友人たちと4人でレストランに出かけるなどのスタイルを送れるクルマを欲しがっているそうだ。 顧客に提供したいロールス・ロイス像とは、よく書かれているように、従来からロールス・ロイスが大事にしてきた特徴を、きちんと備えているものだったそうだ。 「ロールス・ロイスでは、いくつもの要件があります。力の要らない操縦性であるエフォートレスドライビング、飛んでいるように路面からの衝撃を受けず、そして静かなマジックカーペットライド、それにワフタビリティと私たちが呼ぶ静かな水面を進んでいくような乗り心地とか。これらを、スペクターも継承するのが、私が開発陣に対して出した条件です」 目指したのはICE車と同じフィーリング 結果は、まさにミュラー=エトヴェシュCEOの要望どおりに仕上がった。スペクターがBEVと知らされないまま運転する機会をもったロールス・ロイス車のオーナーがいたとしたら、操縦性になんの違和感も抱かないにちがいない。 「開発総責任者を務めてくれたドクター・アヨウビは、私が何を求めているか、最初に“BEVを作ることになったよ”と電話したときに、すぐ理解してくれたようです。私のなかにも、彼のなかにも、もはやロールス・ロイス車のフィーリングが染みついていて、なので、何度もテスト車の試乗を繰り返すなかで、お互いの言いたいことはすぐにわかったんです」 とくにBEVは、エンジン車と車体構造が異なるし、重心位置もちがう。スペクターに乗った瞬間に驚くのは、102kWhもの大容量のプリズム型バッテリーのパックを搭載しているはずなのに、床面は低く、サイドシルも低いこと。従来のICEのロールス・ロイスそのままなのだ。 「同じような乗り心地を実現することに彼は苦労していましたが、どんどんよくなっていって、それに感心しました。私が欲しいものを彼はちゃんと与えてくれる。私たちは言ってみれば、魂でつながる兄弟みたいだなあと思いました」 Vol. 3につづく

TAG: #EV #スペクター #ロールス・ロイス #電気自動車
ロールス・ロイス スペクターのフロントビュー
TEXT:小川フミオ
ロールス・ロイスがEV開発でも貫く独自の流儀とは。CEOが語るスペクターが目指した「あるべき姿」

ロールス・ロイス初のピュアEV「Spectre(スペクター)」。大容量のバッテリーと2基のモーターを搭載した4シータークーペは、電気自動車であることよりも、「ロールス・ロイスであること」を念頭に開発されたという。V12で走ろうと、電気で走ろうと、我々は変わらない−−その揺るぎない信条の源泉を、同社CEOが語る。 熱心なファンを失望させたくない ロールス・ロイスが2023年7月に米国でジャーナリスト向けの試乗会を開催したBEV「スペクター」。注目点は、「ロールス・ロイスであることが第一で、BEVであることはその次」であったこと。 発言の主は、ロールス・ロイス・モーター・カーズを率いるトルステン・ミュラー=エトヴェシュCEO。2010年からロールス・ロイスを率いている、いってみれば「ミスターRR」だ。 ロールス・ロイス以前の経歴をみると、BMWグループでの経験が長い。1989年にBMWに入社し、バイスプレジデントを経て、2000年からミニのブランド戦略と製品マネージメントをディレクターとして統括。2004年にBMWに戻り、シニアバイスプレジデントとして、製品マネージメントやアフターセールスを担当していた。 2022年10月に英国南部グッドウッドにあるロールス・ロイス・モーター・カーズ本社で、ジャーナリスト向けにスペクターのお披露目があったのだが、そこで私がミュラー=エトヴェシュCEOにインタビューしたところ、やはり「ロールス・ロイスであることを念頭に開発している」との発言があった。 「13年間、ロールス・ロイスにいて、ロールス・ロイスの熱心なファンである顧客と接しているうちに、自分のなかで“ロールス・ロイスとはなにか”という概念が形成されていきました」 グッドウッド本社を、新旧のロールス・ロイスに乗った顧客たちが訪ねてくることは少なくないそう。個人的訪問であり、ちょっとロールス・ロイスについて話したいんだけど、と会話が始まるんだとか。 顧客の意見をたいへん大切にしています、とのフレーズが、発言のところどころに出てくるのは、そういうわけだろう。 「熱心なファンを失望させたくない、という思いは強くありました。電気化しても、従来のV12エンジン搭載車と同じ運転感覚をもつ、というのは、じつは大変なことです」 電気自動車「らしさ」は不必要 今回、プレミアムワインで知られるナパバレーの試乗コースのなかにコーヒーストップもあった。駐車場にスペクターを停めると、わらわらっと米国人が駆け寄ってくる。 たいてい笑顔で、「これが電気で走るロールス・ロイスですね」と話しかけてくる。みんなよく知ってるなあと逆にこちらが感心するほどだ。 ビバリーヒルズのロデオドライブで乗ったら、かなり注目されるであろうことを請け合いますよ、とミュラー=エトヴェシュCEOは笑顔で言う。 「お披露目したとき、顧客はみな、誰もが乗りたがりました。でもそのときは、見せられるクルマは1台だけ。顧客はそれを知っていますから、運転席に腰をおろして、“納車が待ちきれないよ”って言うんです。ただ、その時点で、本当にこれがロールス・ロイスのBEVなのか、って確認されました」 ロールス・ロイス初の量産BEVであり、すべてが新しいと知っているひとは多くても、見た目は他のブランドのBEVのような特別感がない。BMWのたとえば新型5シリーズにおけるBEVモデル「i5」のほうが、よほど特別な雰囲気がある。 乗りこんでも、同様。あえてBEVらしいデザインなんてない。そここそ、ミュラー=エトヴェシュCEOが口を酸っぱくして、開発スタッフに説いた目的だったのだそうだ。 Vol. 2へつづく

TAG: #EV #スペクター #ロールス・ロイス #電気自動車
TEXT:小川フミオ
スペクターの開発は好機だった、と語る開発責任者が、初の量産BEVへ込めた「ロールス・ロイスのDNA」とは

振り返るドクター・ミヒア・アヨウビ氏。それはBEVにおいて「ロールス・ロイス」を実現する新たな術だったことを、自動車ジャーナリスト・小川フミオが訊き出す。 ロールス・ロイスのDNAに忠実なプロダクト ロールス・ロイス初の量産BEV「スペクター」のエンジニアリングを統括した、ドクター・ミヒア・アヨウビは、シャシーやサスペンションシステムなど、ロールス・ロイスらしさを実現するため、多大な努力を要したという。 ーーBEVはロールス・ロイスにとって、いってみれば、なじみのあるもの、ということですが。それは技術的な蓄積のことでしょうか。それとももっと根源的なことなのでしょうか。つまり、クルマづくりの思想につながるもの、という。 「電気はシンプルな技術です。たいへんだったのは、クルマをどう動かすか、でした。電気の動力は困難を伴う技術だからでなく、もてる技術を最大限使って、私たちのDNAに忠実なプロダクトをあらたに設計しなおすことでした」 ーー重要だったのは、クルマの“挙動”をどう作るか、だと? 「ロールス・ロイスを特徴づけている、いくつかのキーワードがあります。それについては、何度となく触れているとおりですが、もういちどおさらいしてみましょう。“エフォートレス”(な操縦性を生み出すの)はラテラルなクルマの動き、”ワフタビリティ”は縦方向の動き、“マジックカーペットライド”は垂直方向の動きです。もちろん、それらの協調制御が必要なのです。まずそれらをどう実現できるかが課題でした」 ーーははあ、なるほど。 「思いどおりのハンドリングを作りだすことは、たいへん重要です。山岳路のようなワインディングロードを走っていて、カーブに入るときは、ステアリングホイールの舵角をうまく当て勘でぱっと決めていける。そうすると、乗っているひとは、クルマを思い通りに操れると自信をもてるわけです。ロールス・ロイスの顧客には、ステアリングホイールを指でつまむようにして操縦できる特性を好んできたひとも少なからずいます。それは、スポーティではないけれど、正確な、ロールス・ロイスならではの操舵特性も大きく寄与しているのです」 技術をいかす好機 ーーそのためにはさまざまな技術が必要だったのですね。 「車体のねじれ剛性をどう制御するか、ですね。クルマにかかる力と、その方向が合致していることこそ、思いどおりのハンドリングと、エフォートレスな操舵特性に必要なものなのです。BEVというと一般的に、車体ぜんたいを強固に設計するのですが、スペクターではキャビンの前後ともに、あえてすこし曲げ剛性を落として、全体がしなやかに動くように設計しています」 ーーコーナリング特性については、重いバッテリーを床下に積むBEVは安定性が高いという特徴をもっています。 「重心高が高いと、コーナリング中に車体のロール角が大きくなるのはご存知のとおり。車体の過大なロールは快適な乗り心地のために避けたいので、私たちはアクティブロールバーを採用しました。左右のサスペンションの動きを個別に制御できるので、スポーティにもコンフォタブルにも走ることが可能なのです」 ーー開発はチャレンジの連続だったわけですね。 「クルマの開発においては、まずエンジンから始めることが多々あります。今回は正反対ともいえるアプローチです。私たちはボディから手をつけました。ホイールから考えようと。それがもっとも難しかった点です。ただし、無理かもしれないことに挑戦するという意味でのチャレンジなら、そうではありません。これは私たちにとっての好機だったのです」 <完>

TAG: #EV #スペクター #ロールス・ロイス
TEXT:小川フミオ
スペクターの開発で、つねに念頭においてあったこととは何か。開発責任者が語る「ロールス・ロイスらしさ」

「すべてにおいて、クルマが揺れないこと」とドクター・ミヒア・アヨウビ氏は、BEVのスペクターで意図したロールス・ロイスらしさの一端をいう。その実現への要素を、自動車ジャーナリスト・小川フミオが訊いた。 V12とおなじように走ること。先ず、ホイールから ロールス・ロイス初の量産BEV「スペクター」のエンジニアリングを統括したドクター・ミヒア・アヨウビと、彼のチームが、開発中に、つねに念頭に置いていたのは、従来のV12気筒搭載のロールス・ロイス車とおなじように走ることだったという。 ーークルマの開発においては、「BMW i7」と歩調を同じくする必要があったのでしょうか。 「スペクターの発表いらい、よく質問されました。なかには”同じ中身なんですよね”という質問ありました。じっさいはまったく違います。スペクターのプラットフォームは、私たちがアーキテクチャー・オブ・ラジュアリーと名づけたアルミニウムの押出し材を使ったスペースフレームです」 ーー開発にあたって難しい部分はどんなところでしたか。 「いろいろありました。23インチの大径ホイールを履かせることになったので。ホイールは、とても重要なのです。クルマと道とのインターフェイスであり、ドライブトレイン、ステアリング、アクティブロールバー、エアサスペンション、アクティブダンパーといったスペクターの機能と、密接に結びついています。 ーーたしかにクルマの物理的な要素はすべて関連づいていますね。 「そこで私たちは、車輪からスペックを決めていくことにしました。まず最終減速比を決め、そこから戻っていって、モーターのトルクを決定していったのです。なぜかというと、スムーズなトルクで、私たちが“ワフタビリティ”(水の上を進んでいくように走るの意)と呼ぶ走行特性を実現するためです」 「私たちの“エフォートレス・ドライビング”」 ーートルクの設定でもロールス・ロイスらしさが大事だったということですね。 「トルクがたっぷりあるBEVのキックダウン(アクセルペダルを強く踏み込むこと)は、野生の馬みたいなかんじでしょう。ロールス・ロイス的ではないですね。ゴルフはプレーしますか? ゴルフでのベストショットって、クラブを一所懸命振る感覚がなく、すーっと無意識的に腕を振り抜くかんじでしょう。それと私たちの“エフォートレス・ドライビング”は近いものがあります」 ーーエフォートレスはロールス・ロイスが長いあいだ使ってきた単語ですね。 「とてもスムーズに走る印象を与えること。クルマの慣性質量を計算して、どの速度域でもそれを頭に入れながら適切なトルクをコントロールできるように設定しています。それが“ワフタブル”であること。船が水上をいくように。加速、コーナリング、ブレーキングすべてのおいて、クルマが揺れないことが重要です。たとえ車中で、シャンパーニュを満たしたグラスを手にしていても、なんの問題もなく走れる。私たちはこれをChampagne Stopと呼んでいます」 ーーたしかに、たとえワインディングロードを速いペースで走っても、強いGは感じられません。 「私たちは強すぎる加速は抑えたんです。もしそうすると、クルマはピッチングの挙動を生じます。そこで加速のときは慣性質量を感じさせないような動きを意識しました。乗っているひとにとって、車内はラグジュアリーなリビングルームなのです。なのでそれにふさわしい走りが体験できなくてはなりません」 Vol.4へ続く

TAG: #EV #スペクター #ロールス・ロイス
TEXT:小川フミオ
スペクターの開発責任者が語るロールス・ロイスにとっての「電気化」とは

BEVを作るのではなく、ロールス・ロイスを作る意識。スペクターの開発責任者のドクター・ミヒア・アヨウビ氏は語る。この理由を、自動車ジャーナリスト・小川フミオがインタビューを通して明らかにする。 それは1本の電話からはじまった ーー最初に、「ロールス・ロイスがBEVを作る」と、トルステン・ミュラー=エトベシュCEOから連絡があったのですね。 「はい、それは電話で、夜中の2時でした。“ミヒア、BEVを作ろう”と。私は即座に応えました。“ロールス・ロイスを作るんですね”と。エンジニアたちやデザイナーたちのあいだで、このことはマントラのように唱えられているんですが、では、ロールス・ロイスって何を意味しているのか。作るがわからすると、ロールス・ロイスのプロダクトは、すばらしいデザインと、みごとな技術とクラフツマンシップが融合したものです」 ーーもういちど確認させてください。そこにはBEVであることが重要な要素だったのですか。 「電気化をまっさきに強調する意味はないんです。電気化は、いってみれば、なんでもないのです。電気化されたドライブトレインは、たしかに現在最高レベルにあると自負しているものの、でも、スペクターという新型車を構成する、たんなる部品にすぎないのです」 エモーショナルなものに ーーV12気筒エンジンからの自然な置き換えなのですね。 「これまで私たちの顧客は、ロールス・ロイス車のV12の静粛性と、大きなトルクを使ってアクセルペダルを強く踏まなくても進んでいく独特な走り、そして変速ショックが感じられず、1段のギアだけしか使っていないようなスムーズさを愛していました。電動化は時代の趨勢という部分もありますが、それより、私たちにとっては、当然の移行という側面が強いのです」 ーーついにこのときが来た、ということですか。 「私たちは長いあいだ、BEVを研究してきました。その過程で、たとえば102EXと名付けたコンセプトモデルを公開しました」 ーー4ドアセダンである「ファントム」をベースにした電動車として、2011年のジュネーブ自動車ショーで公開されたモデルですね。エンジンルームに、モーター、インバーター、バッテリーを入れて、車体色は「アトランティッククローム」なる明るいブルーの車体色で、輝くスピリット・オブ・エクスタシーも印象的でした。 「いまを電気の時代というなら、このときにロールス・ロイスがBEVを出すなら、私たちにとって最初の量産BEVは、デザイン的にも、観たひとの気分を沸き立たせるようなエモーショナルなものであるべきです。そこでスペクターはクーペボディになりました。シルエットの美しさを実現するのは、デザインチームにとって、なかなかたいへんな作業だったようですが。サルーンやSUVを作るのも、私たちにとってはむずかしいことではありません」 Vol.3へ続く

TAG: #EV #スペクター #ロールス・ロイス

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売り物ではなく概念を展示するモデリスタ! 正体不明なトヨタbZ4Xはブランドの「新化」という概念を示すスタディモデルだった【大阪オートメッセ2025】
子どもに大人気の電動バギーに大迫力のエアロキットや色が変わるフィルムまで登場! 大阪オートメッセのEV関連出展物はどれもユニークすぎた
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