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TEXT:小川フミオ
フォーミュラEは進化している。ピュアEVのレーシング・シーンに高まる期待。ロンドン観戦記その3

フォーミュラEの今季最終戦を観戦した小川フミオは、ピュアEVのレーシング・シーンへ期待を高めている。それは東京での開催があることだけではなく、地球環境維持へ、マシンとチームが進化しているからだ。 サステナビリティをテーマにしたフォーミュラE フォーミュラEにおいては、サステナビリティ、つまり地球環境維持が重要なテーマとされている。ゆえに、このレース開催が発表さたとき、私はおもしろい!と思ったし、世界中に同じことを思ったひとが多かった。 あいにく、レースがおもしろくないとか、内容をくさすような発言が、現役レーシングドライバーから出ているとの報道もあり、初期の熱に水がさされたかたちになってしまったのも事実。 でも、継続は力なりの言葉どおり、2023年のシーズン9は、ジャガーTCSレーシングと、エンビジョン・レーシングの首位争いもあって、大きな盛り上がりを見せてくれた。 とくに私が出かけたロンドンEプリ(グランプリでなくイープリ)では、上記ふたつの英国のチームの競り合いで、多くの観客が詰めかけたようだ。 来季は新体制でのぞむジャガー はたして、2023年7月30日の最終戦では、ジャガーTCSレーシングのミッチ・エバンスを抑えて、エンビジョン・レーシングのニック・キャシディが1位を手中に収めた。 それによって、2022−23年のフォーミュラEにおける選手権は、エンビジョン・レーシングのものとなったのだった。ジャガーには残念な結果でシーズンを終えた。 でも(といえばいいのか)、来季のジャガーTCSレーシングは、これまでナンバーツーを務めていたサム・バードを放出。上記のニック・キャシディ(下の写真)と契約を交わしたのだった。 これによって、シーズン10(2023−24年)のフォーミュラE選手権において、ジャガーTCSレーシングは、エバンスとキャシディという2人のニュージーランド人ドライバーを抱えることになる。 「ニック・キャシディのチームへの加入を発表できたことを嬉しく思います。彼が日本でレースをしていた頃からずっと注目していました。 フォーミュラEに参戦して以来ますます力をつけており、2023年シーズンの活躍は非常に目覚ましいものでした」 チームプリンシパルのジェイムズ・バークリーはこのような談話を発表し、「最も強力なドライバーラインアップを擁して新シーズンに臨む」としている。 いっぽう、英国では、BEVの売れ行きがけっこうよく、2023年前半の乗用車販売の5台に1台が電気で走るモデルだったとか。そんなことも、フォーミュラE人気を後押ししている、とする英国のメディアもある。

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TEXT:小川フミオ
フォーミュラEは熱い。ピュアEVのレーシング・シーンにある熾烈な争い。ロンドン観戦記その2

フォーミュラEをロンドンで観戦した小川フミオは、ピュアEVが駆け抜けるサーキットで、熾烈な争いを目の当たりにした。タイトル争い第15戦は白熱したものだった。 シーズンタイトルをかけた一騎打ち BEVのレース「フォーミュラE」のおもしろさは、じっさいにレースに足を運んでみて、なるほどと思うものだった。 私が出かけたのは、2023年7月29日の第15戦。このとき「ジャガーTCSレーシング」と「エンビジョン・レーシング」が選手権をかけて争っていた。 ジャガーTCSレーシングと、エンビジョン・レーシングの一騎打ちの様相で、かなり盛り上がっていた。ドライバー選手権も、やはり、両チームとも、自分たちが獲得できるかも、というところまで上がっていた。 このときの結果と、翌30日の第16戦(最終戦)の結果とで、2023年シーズンの選手権が決まるから、ピットまわりの興奮もひときわ。 応援しているジャガー・カーズのスタッフも「ドキドキするよ」とレース前は真剣な面持ちだった。 「マナーがアグレッシブすぎる!」 コースは、幅が狭いうえに、エスケープゾーンがほぼ存在しない。なので私が観ているあいだにも、スポンジバリアに突っ込む車両が何台もいた。 けっこうラフなレースで、タイトコーナーで相手のマシンを押しだしてスポンジバリアに激突させる走りも目撃した。途中で、「マナーがアグレッシブすぎる!」と、クレームを出すチームまで現れるしまつ。 スピンしたり事故を起こした車両がいることを後続車に知らせるイエローフラッグが振られるのはしょっちゅうで、私が観た第15戦はセッション中断のレッドフラッグも数回振られた。 リアのドライブトレインで差をつける アクセルペダルを踏み込んだとたん最大トルクを発生するモーターの特性のため、予想いじょうに速いペースでマシンは疾走。これも観ていて飽きない理由だ。2.1キロのコースを1分12秒ほどで回ってしまう。 フォーミュラE用のマシンは、フロントにはバッテリー充電用のモーター、リアには駆動用にモーター搭載の後輪駆動が基本レイアウト。シャシーやフロントサスペンション、タイヤ、それにフロントのモーターなどは同一規格。 チームごとに違うのは、後輪用のドライブトレインほぼすべて。モーター、インバーター、ギアボックス、ディファレンシャルギア、ドライブシャフトといったものだ。 ジャガーのばあい、自社開発の後輪用ドライブトレインを、ジャガーTCSレーシングと、もうひとつ、エンビジョン・レーシングというチームに提供している。 2023年から投入された「第3世代」マシンでは、ホイールベースを含めてディメンションがやや縮小。さらに、ドライバーを含めた重量が軽量化。 第2世代の2倍にあたる回生能力をもち、レース中に使うエネルギーの約40パーセントは回生エネルギーで、かつ、この回生の際のブレーキ効果により、リアブレーキを廃止。 エバンスの勝利。チーム・タイトルは最終戦にもつれる はたして、第15戦は、ジャガーTCSレーシングのミッチ・エバンスがみごと1位を獲得。チームプリンシパルのジェイムズ・バークリーが小躍りして喜んでいたのも印象的だった。 あいにく、そんなエバンスの頑張りでも、「アバランチ・アンドレッティ・フォーミュラE」のジェイク・デニス(英国出身)が2位獲得により、ポイント数で23年のドライバー選手権を手中に収めたのだった。 ドライバー選手権は残念だったが、ジャガーTCSレーシングのエバンスのチームメイト、サム・バードが4位入賞で、チームの選手権のポイント数でエンビジョンと同率1位に。勝利も夢でなくなった。 <その3に続く>

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TEXT:小川フミオ
フォーミュラEはおもしろい。ピュアEVのレーシング・シーンにある独創性。ロンドン観戦記その1

フォーミュラEが、来年の3月に東京で開催される。小川フミオは、今シーズン第15戦と最終戦の第16戦をロンドンで観戦し、ピュアEVのレーシング・シーンを体感してきた。 東京に来る前に、ロンドンで先触れする 自動車レースの最高峰と言われるのは、フォーミュラ1、通称F1。もういっぽうの極にあるともいえるレースがフォーミュラE。ピュアEVのレースだ。 正式には「ABB  FIA  Formula E  World  Championship」の「2023 Hankook London E-Prix」と呼ばれるこのレース。さきごろ、2022−23年シーズンの第15戦と、最終戦の第16戦が、立て続けにロンドンで開催された。 私はそれを観たが(最終戦はオンライン)、期待を上回るおもしろさだった。 このレースが、2024年3月に、東京にもやってくる。その先触れというか、私的に楽しめたロンドンでのレースについて、おもしろかったところを報告したい。 第15戦と第16戦と続けての見どころは、「ジャガーTCSレーシング」と、ジャガーがドライブトレインを提供している「エンビジョン・レーシング」との一騎打ち。 2023年の選手権がかかっているレースだった。エンビジョン・レーシングがややリードして迎えた最後の2戦だが、勝敗の行方は定まっていない。ジャガーTCSレーシングは力が入っていた。 市街地、オーバーテイクのむずかしさ、ラインか、パワーか…… そもそも、フォーミュラEというレースの特徴はいくつもあって、F1より広い層が楽しめるような工夫がいろいろ見られる。 ひとつは、市街地を使ってのコース設営。「F1のように遠くへ出かけるのでなく、レースのあとは商業地区でショッピングへとすぐ行けます」。ジャガー・カーズの広報担当者は、私にそう話してくれた。 インドアも使うので、そこでは派手な音楽がかかって、そもそも甲高い(しかしそんなに大きくない)音しかしないレースを盛り立てる。 この音楽がうるさいという声もあるけれど、1時間半ぐらいのレースなので、まあ、ガマンできる。 もうひとつは、オーバーテイクのむずかしい、幅員の狭い特設コース。そこを時速200キロで走るだけに、もとF1ドライバーなど、その道の達人がドライバーを務めているのもわかる。 そして、「アタックモード」。やや正しいラインから外れてしまうが、「アクティベーションゾーン」なる短い区間を走るときだけ、通常の300キロワットから350キロワットにパワーアップする。 ラインをとるのか、パワーアップをとるのか。かつ、アクティベーションゾーンを2回通行するのが義務づけられている。ゲーム感覚でおもしろい。 ジャガーのフォーミュラEへの本気度 ジャガーTCSレーシングが、フォーミュラE選手権に参戦したのは、2016年10月。その間に、マシンは第1世代(Gen.1などと表記される)、第2世代、そして23年から第3世代へと進化してきた。 本体であるジャガー・カーズ(とグループ企業のランドローバー)は、「将来のBEVのロードカーへの知見を得られる」と、ジャガーTCSレーシングフォーミュラE選手権に参戦する意義を語る。 そもそも、フォーミュラE選手権は、2012年に、F1も管轄する世界自動車連盟(FIA)がシリーズ化を発表。2014年9月に初開催された。 意義としては「明日のロードカーへの道を拓く」(FIAのHP)とされる。当初はワンメイクレースの色彩が濃く、私も、意義はりっぱに思えるけれど、F1ほど燃えないなあと思っていた。 2020年シーズンからは、しかし、FIAの正式選手権レースになり、同時にマシンの性能も大幅にアップ。かつてのように、フル加速するとゴールまでバッテリーがもたない、なんてこともなくなったようだ。 2022−23年のシーズン9に参戦したチームをみると、ジャガーをはじめ、ポルシェ、マセラティ、マクラーレン、日産、NIO、DSと、ハイパフォーマンスのBEVに力を入れているブランドの名前が並ぶ。 「ジャガーは2025年から完全なピュア電気自動車のブランドをめざしています。それゆえに、フォーミュラEはまたとない実験の場と考えています」 ロンドンのレーストラックで話を聞いた、ジャガー担当マネージングディレクターのロードン・グローバー Rawdon  Glover氏は、そう語った。 <その2へ続く>

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電動モビリティシステム専門職大学(photo=福田雅敏)
TEXT:福田 雅敏
リチウムイオン・バッテリーの製造研究施設も完備……世界初のEV専門職大学の本気度

後編はキャンパス内の施設を紹介 2023年4月、「学校法人赤門学院 電動モビリティシステム専門職大学(電動モビリティ大学)」<山形県飯豊町>がオープンした。文部科学省より認可を得た「専門職大学」であり、世界初の「電気自動車」と「自動運転」に特化した教育機関である。 「前編」では、本校の教育内容などを紹介した。後編では、キャンパスには一体どのような設備があるのか、施設面を紹介したい。 キャンパスは大きく4つの施設で構成 キャンパスには、「教育棟」「研修棟」「実習棟」「テストコース」が設けられている。 「教育棟」は、地元の木材を使用して建てられた温かみのある建物となっている。まるでロッヂの中にいるようで、くつろげる雰囲気がある。 この中には、教室・学生ラウンジ・ものづくり室・図書館等が設けられている。さらに、日本EVクラブ製作のEVレーシングカー「電友一号」や、細かく分解された「テスラ・モデル3」、一人乗りのパーソナルコミューター「プラチナカー」などが展示されている。特に「テスラ・モデル3」の解体標本は、それだけでも見ごたえ十分だ。  最新のCADも用意するが職人技を鍛える昔ながらの工作機械も完備 教室の中では、学生がCAD(キャド:設計ソフト)の学習をしていた。ここには、自動車業界御用達のハイエンドソフト「CATIA V5(バージョン5)」が18端末分用意されている。また、プログラミングのプラットフォーム「MATLAB(マトラボ)」を使用している学生も見られた。 この教室の隣には「ものづくり室」がある。旋盤・ボール盤・フライス盤・溶接機の工作機械に加えて、それらに使用する工具一式が揃っている。この時代にアナログな機械のように思えるが、やはり自分の手で品物を考え・作り・仕上げるというのは、ものづくりの基本中の基本である。 工業品を製作してみるとわかるのだが、仕上げた面の荒さや、ノギスで測った際の0.0数mmの誤差などは現品を確認しなければ分からない。金属やプラスチックは“ナマモノ”なのだ。 このあたりの“職人のカン”は、アナログな手法でなければ鍛えられない。メタバースなどでのシミュレーションは無理である。ちなみに教室内にあった溶接機の隣には、アルミ板を溶接したものが置かれていたが、熱で反りまくっていた。この失敗の経験が必要なのだ。 今年入学の生徒にはまだアルミ溶接は難しいだろうが、実習を通して技術と勘をがっちりと鍛えてほしい。もちろん旋盤やボール盤も同じである。 教育機関では日本唯一と見られるバッテリーの製造設備 「教育棟」の向かい側に「研究実習棟」がある。ここでの注目設備は、リチウムイオン・バッテリーの製造設備である。正極・負極材に用いる素材の“粉”を調合し、ラミネートセルまで作れるのだ。 さらには充放電などの試験・評価設備も整っている。バッテリーに関する設備をここまで整えている教育機関は、日本でもここだけのようである。

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電動モビリティシステム専門職大学(photo=福田雅敏)
TEXT:福田 雅敏
日本初のEV専門大学がオープン……日本の自動車業界に風穴を開けるエンジニアを養成できるか

世界初のEV専門教育機関が山形に 2023年4月、「学校法人赤門学院 電動モビリティシステム専門職大学(電動モビリティ大学)」<山形県飯豊町>がオープンした。文部科学省より認可を得た「専門職大学」であり、世界初の「電気自動車」と「自動運転」に特化した教育機関である。 EVに対する教育を自動車教育の中の「一つの単元」ではなく、専門校としたのは画期的である。7月に実際に大学を視察できたのでレポートをする。 初代学長は八輪のスーパーEV「エリーカ」生みの親の清水 浩氏 「電動モビリティ大学」の母体は、宮城県仙台市の「専門学校 赤門学院」。「赤門自動車整備大学校」を運営しているノウハウのある学校法人だ。「電動モビリティ大学」はその姉妹校的な存在と言えようか。 学長は慶應大学の名誉教授である清水 浩氏。インホイール・モーター式EV開発の第一人者であり、筆者も開発に参画した慶應大学制作の八輪スーパーEV「エリーカ」の生みの親である。 大学は、2022年8月末に認可が下りた生まれたてである。実は認可が降りるまで“2浪”し、3度目にてようやくの認可となったようだ。学生の募集を開始したのは、22年の9月と中途半端な時期となったが、その背景に認可の問題があった。 学生の定員は1学年40名で、4学年合わせて160名。教育陣は、専任教員23名に講師20名という構成にてEVの各教育を行う。 キャンパスは、「教育棟」「研究棟」「実習棟」「テストコース」を一つの敷地内に設置している。

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TEXT:烏山 大輔
テスラが自動車業界にもたらしたディスラプション(創造的破壊)の3プラス1

EV専業メーカーであるテスラは、自動車業界にOTA(Over the Air)、ギガプレス、シンプルさを極めたインテリアという、これまでのエンジン車にはなかった新たな価値を生み出してきた。そして多くの自動車会社や新興メーカーがそのあとを追う展開になっている。ここではその新しい価値を振り返ってみたい。 スマホアプリのように新機能を追加できるOTA ひとつ目に挙げるのはOTAだ。テスラのOTAを知って衝撃を受けたのは、2016年頃にモデル Sのバッテリー容量をOTAで増やせることを知った時だ。ゲームアプリで新しい装備を課金して手に入れるように、9,000ドル(当時のレートで約99万円)を払ってアップデートすれば、その場ですぐに60kWhから75kWhにバッテリー容量を増やすことができた。もちろんテスラのディーラーに入庫する必要も、車を買い替える必要もない。 なぜこれが出来るのかというと、はじめから75kWhのバッテリーを積んでおいて、60kWhに制限しておき、その分車両本体価格を抑えて販売しているからだ。これにより、もし職場が自宅からより遠い場所に変わって通勤距離が伸びても、車を変えることなく、バッテリーを75kWhにアップデートすれば良いという具合に対応できる。 このOTAは、トヨタでも導入されている。ノアやヴォクシーでハンズオフ機能付きアドバンストドライブが、OTAによるソフトウェアのアップデートで利用可能だ。 これまでメーカー側はクルマを売った後に収入を得ることはできなかったが、それをも可能にした画期的なシステムだ。 70もの部品を1つにまとめたギガプレス 2点目に取り上げるのはギガプレスだ。モデル 3ではリヤアンダーボディ部を70個の部品で構成していたが、ギガプレスの採用によりモデル Yでは1つにまとめられている。従来のクルマ作りの常識を打ち破る製法だ。巨大な設備導入が必要なので初期費用はかかるだろうが、量産によるコスト低減(4割減と言われている)や、工数削減効果の方が大きいと思われる。 事実、今年6月にトヨタが実施した「トヨタテクニカルワークショップ2023」でもギガプレスと同じ考え方の「ギガキャスト」を発表した。2026年に発売予定の次世代EVに採用予定だ。ギガキャストは、86部品・33工程を1部品・1工程にできる。それによりコストダウンと工程短縮による生産効率の向上を可能にする。テスラのギガプレスのデメリットと指摘されている事故時のリペア性の課題について、トヨタは、鋼板部品との組み合わせでクラッシャブルゾーンを設けることで対応する考えだ。 中国のシャオペン(小鵬汽車、Xpeng)もギガキャストを採用したEVを発売している。シャオペンは2014年創業の新興メーカーだ。先月フォルクスワーゲンから7億ドル(約980億円)の出資を受けた。フォルクスワーゲンの狙いは、2026年に中国向けに販売する2車種のEVに、シャオペン製のプラットフォームを使用することのようだ。

TAG: #OTA #ギガキャスト #ギガプレス #テスラ
「スカイラインNISMO」発表の様子。日産横浜本社で
TEXT:桃田 健史
BEVチューンは自動車メーカーの真骨頂?日産・NISMO電動化戦略の行方、ハイパフォーマンスICEからどう進化?

電動化の大波が押し寄せている自動車産業界。チューニングカーの分野でも今後、電動チューニングが必要となるが、そうした中で自動車メーカー系の関連企業はどのような手を打って来るのか。「スカイラインNISMO」発表会で日産関係者に聞いた。 スカイラインNISMO登場 日産は2023年8月8日、「スカイラインNISMO」を世界初公開した。 「スカイライン400R」をベースに、搭載エンジン「VR30DDTT」の最高出力を405psから420psに引き上げ、合わせて最大トルクも475N・mから550N・mへと大幅に拡大した。 ドライビングモードについても、STANDARDモードでは日常づかいを加味した味付けとし、またSPORTとSPORT+モードではNISMO専用のAT(オートマチックトランスミッション)変速制御を施した。 タイヤサイズはリアタイヤの幅を20㎜拡大し、アルミホイールはNISMO専用のエンケイ製19インチを採用するなどして、コーナーリング性能をさらに一段、向上させた。 さらにフロントスポイラーを含めた空力パーツへの改良も着手するなどして「史上最上のスカイライン」を具現化させたといえる。 販売台数は限定1000台。価格は788万400円。RECAROシートとカーボン製フィニッシャー装着車が847万円。 そのほか、横浜工場での「匠ライン」で、日産社内での特別な資格を持つ匠がエンジンを丁寧に手組みする「スカイラインNISMO Limited」を限定100台生産する。価格は947万9800円。

TAG: #NISMO #スカイラインNISMO #日産
幕張メッセで開催された「ASOMOBI」で実施の各種小型車試乗会の様子
TEXT:桃田 健史
「特定原付」解禁で、原付市場全体が元気に!各種乗り比べて感じたこと

2023年7月1日に「特定原付」という車両区分が誕生して以来、電動キックボードを筆頭とした新しい乗り物に対する世間の関心が高まっている。そうした中、千葉県幕張メッセで開催されたイベントで、様々な小型の乗り物を乗り比べてみた。 ハイブリッドバイクとは何か? 今年で2回目の開催となる「ASOMOBI」(2023年8月5~6日、於:千葉県幕張メッセ)。 コンセプトは、「テマ(労力)とヒマ(時間)」を楽しんで、そのプロセスも楽しい思い出になるような人生の過ごし方を提案すること。 分野としての垣根は特になく、ファッション、キャンプ、ワンちゃんやネコちゃんたちと一緒に楽しむこと、そしてスローモビリティなど様々な要素が含まれる。 そうした中、会場内では新しい小型モビリティの体験試乗会が開催された。 まずは、glafitのハイブリッドバイク「GFR02」に乗った。 ここでいうハイブリッドとは、原動付自転車(原付1種)のフル電動バイクおよび電動アシスト自転車と、通常の自転車を切り換えることを指す。 原付1種の状態だと、ナンバープレートがあり、ヘルメット着用は義務となる。 2023年7月1日の改正道路交通法の施行により、特定小型原動機付自転車(警察庁による略称・特定原付)ではなく、同改正前の原付扱い(7月1日以降の略称・一般原付)に属するものだ。 さらに、電動スイッチをオフにした状態で、車両後方のナンバープレートの切り換え装置を手動で作動すると、自転車モードに切り替わる。 そうは言っても、なんだかとても分かりにくいが、実際に乗ってみると、その仕組みが良く分かった。

TAG: #BLAZE #glafit #特定原付
「ASOMOBI」でのJackery商品展示の様子
TEXT:桃田 健史
ポータブル電源Jackery、新型続々登場!トップモデルは「リーフ」初期型と同じ、電池容量・最大24kWhまで拡張可能

キャンプから防災まで、様々用途で需要が近年急拡大しているポータブル電源。この分野の大手であるJackeryが今夏から商品ラインナップをさらに拡充。新たに追加された新シリーズでは拡張用の専用バッテリーが登場した。 コロナ禍で需要はさらに拡大 ポータブル電源の需要が増えている。 用途は様々ある。 例えば、豪雨や地震などの災害時に長時間の停電になった場合のバックアップ電源として。また、2010年代後半からブームが続いている、キャンプなどのアウトドアレジャーでポットでお湯を沸かしたり、またはホットプレートで調理したり。 そして、コロナ禍以降は車中泊やリモートワークが盛んとなり、スマートフォンやパーソナルコンピュータ、電気毛布、そして車載冷蔵庫などの車載電源として重宝されている。 筆者も実際、複数のポータブルバッテリーや、最大出力100Wのポータブルソーラーパネルを所有しており、デイキャンプや長距離移動時に活用している。 そうした中、千葉県の幕張メッセで開催された「テマヒマを楽しむ生活」をテーマとしたイベント「ASOMOBI」で、ポータブルバッテリー大手のJackeryが新シリーズの実機を展示してその技術詳細を説明した。

TAG: #Jackery #ポータブル電源
ロールス・ロイス スペクターのフロントビュー
TEXT:小川フミオ
ロールス・ロイスはEV時代もスペックを語らない。CEOが語るスペクターが目指した「あるべき姿」

ロールス・ロイスはかつて、エンジンパワーをことさらに語らず「必要にして十分」とのみ記していた。今回、スペクターについてのインタビューでも、CEOはほとんど数字について触れることはなかった。電気自動車の時代になっても、彼らは彼らの流儀を守り続ける。その事実は、そんなところにも表れているようだ。 リリースに時間がかかった理由 ロールス・ロイスのBEV「スペクター」が登場するまでに、意外なほど長い時間がかかった、といえるかもしれない。 他社が次々とBEVを発表するのを横目に見ながら、満を持してのお披露目が2022年10月。そしてジャーナリストに試乗の機会が提供されたのが2023年7月。 「時間がかかったのは認めます。理由は、私たちがやるからには、完璧なモデルを出したかったからです。BEVの研究は、すでに知っているひとも多いと思いますが、10年以上にわたって続けてきました。そこでついに、ということです」 ロールス・ロイス・モーター・カーズのトルステン・ミュラー=エトヴェシュCEOは語る。スペクターはセグメントで初のBEVであるのも事実。なのでそう慌てる必要もなかったと続ける。じっくりと完璧をめざす。それがロールス・ロイスの姿勢というのだ。 いっぽう、ロールス・ロイスのBEVは、ドライブトレインをBMW「i7」と共用するというグループ内の計画に沿ったタイミングもあったのでは、と推測される。 ただし、あまりに皆がi7との共通点を質問するので、一度はロールス・ロイス側から、商品(スペクター)説明に先立って「みなさんは2台がじつは同じクルマなんじゃないかと聞きたいかもしれないですが(間を置いて)まったく異なったクルマです」と前置きしたこともあったと聞く。 スペクターは(i7と異なり)アルミニウムの押出し材を使ったスペースフレーム構造を採用する。ロールス・ロイスが「アーキテクチャー・オブ・ラグジュアリー」と呼ぶものだ。設計の自由度は高く、2030年までにラインナップを電動化するというロールス・ロイスの計画に適したものという。 「スペクターを皮切りに、これから、BEVモデルが出てきます。そのときも、ロールス・ロイス車のポリシーともいえる、エフォートレスドライビングやマジックカーペットライドは守ります。先に進みながらもヘリティッジを大切にする。このポリシーで作る未来のBEVは、デザインは新しいかもしれません。でも誰が乗ってもすぐに、ロールス・ロイスだ、とわかるモデルになっていくはずです」 数字よりも大切なこと インタビューをしていて、私がおもしろいなと思ったのは、ほとんど数字が出てこないことだ。バッテリー容量の話もないし、航続距離や加速性能の自慢もない。 CO2排出量を含めた地球環境保全のことは、すこし触れられたが、話題の内容は、もうすこし漠然とした“ロールス・ロイスらしさ”について。ただし別の面からみれば、モーターやバッテリーの性能よりも広い視野に立った、クルマづくりのポリシーの話である。 「私たちは数字のことを語りませんね。数字をどうこういうブランドではないのです。私たちにとって重要なのは“フィーリング”を伝えて、それを理解してもらうこと。具体的に語るのは難しいテーマなのは承知しています。作る側としては、からだに染みついたフィーリングで、乗ってもらうと、すぐに私たちの意図をわかっていただけるのです」 ミュラー=エトヴェシュCEOは、どう説明したらいいのだろうと一瞬思ったのか、ちょっとじれったそうに、そう言いながら、笑顔を見せる。たしかに「数字よりもフィーリングだ」なんて堂々と言える自動車メーカーが、ほかにどれだけあるだろうか。 「電動化してもロールス・ロイスらしさを守るには、きちんとした設計が必要です。私たちは、いまのカリナンやゴーストを電動化することはありません。これから登場するロールス・ロイスのBEVは、まったく新しいものです」 新しい、でも、伝統的。こういう興味深い命題を抱えながら製品づくりをするところが、まさにロールス・ロイスなのだろう。

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連載企画 一覧
VOL.15
本当に日本はEVで「立ち遅れた」のか:知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第15回

ジャパン・モビリティ・ショー開催でにわかに沸き立つ日本のEVマーケット。しかし現実の販売状況は日本において大きく立ち遅れている。技術では先導してきたはずの日本メーカーは、なぜEVで世界をリードできていないのか。この分野のベテランジャーナリストである御堀 直嗣が解説する。 日本の低いEV市場占有率 日本は、世界に先駆けて電気自動車(EV)の市販に踏み切った。2009年に三菱自動車工業が、軽自動車EVの「i-MiEV」を法人向けにリース販売しはじめ、翌10年には一般消費者向けへの販売も開始した。同年には、日産自動車も小型EVの「リーフ」を発売した。この2社によって、EVの量産市販が実現し、ことにリーフは海外への販売も行われ、「i-MiEV」はフランスの当時PSA社にOEM供給された。リーフの販売は世界で累計65万台に達し、その他EVを含めると、日産は世界で100万台のEV販売の実績を持つ。そのうち、日本国内は累計23万台である。 ちなみに、米国テスラは2022年では年間で約130万台、中国のBYDは同年に約90万台規模へ成長している。 同時にまた、世界共通の充電規格であるCHAdeMO(チャデモ)も準備され、リーフが販売される世界の各地域にCHAdeMO充電器の設置が動き出した。 それらを背景に、経済産業省は2012年度補正予算で1,005億円の補助金を計上し、全国に約10万基の充電器を整備するとした。この補助金は全額支給でないため、トヨタ/日産/ホンダ/三菱自の4社が資金を拠出し、補助金で賄いきれない残額を補填することに合意した。 しかし、現在の充電器の数は、急速充電と普通充電を合わせて約2万基である。 国内の新車販売において、EVが占める割合は1%以下という状況が長く続いた。昨2022年、「日産サクラ」と「三菱eKクロスEV」が発売となり、1年で5万台以上を販売することで2%ほどの占有率になろうかという状況にある。 一方、世界全体では、EVの市場占有率が13%になる。米国は5.8%、欧州は12%、中国は21%となっており、日本がいかに低水準であるかがみえてくる。 日本でEV普及が進まなかった理由 EVの先駆者であった日本が、なぜ欧米や中国の後塵を拝するようになったのか。 最大の要因は、せっかく1,005億円という充電基盤整備に対する経済産業省の支援があったにもかかわらず、急速充電器の整備にばかり世間の目が行き、EV利用の基本である基礎充電、すなわち自宅での普通充電(200V)の重要性が広がらなかったからである。ことに、マンションなど集合住宅の駐車場と、月極駐車場への普通充電設置がほぼできなかったことが原因であった。 EVの充電は、普通充電で8~10時間、あるいはそれ以上かかるとされ、これが単純にガソリンスタンドでの給油時間と比較されて、使い勝手が悪いとさまざまな媒体を通じて流布された。いまでもそうした論調が消えていない。しかし、自宅で普通充電できれば、寝ている間に満充電になるので、翌朝出かけるときは満充電で出発できる。 戸建て住宅に住む人はそれができた。ところが、戸建て住宅でも自宅に車庫がなく月極駐車場を利用する人は、近隣の急速充電器を利用しなければならなくなった。 集合住宅に住む人は、敷地内に駐車場が併設されていても、管理組合の同意が得られず普通充電ができない状態に陥った。無知がもたらした悲劇だ。EVを買う意思があっても、手に入れにくい状況があった。 集合住宅の管理組合で賛同が得られない最大の理由は、幹事がEV時代を予測できず、また自分には関係ないとして無視され続けたことにある。設置の経費は、ことに当初は補助金と自動車メーカー4社による補填があったので、ほぼゼロであった。現在でも、施工業者が残金を負担するなどのやりくりで、集合住宅側の負担が軽く済む仕組みが出てきている。それでもなお、管理組合で合意を得るのが難しい状況は払拭できていない。 基礎充電の普及を目指す業者の間でも、さらに難しいとされるのが月極駐車場への普通充電の設置だ。月極駐車場を管理する不動産業者の理解を得にくいという。

VOL.1
リッター200円にもう限界……給油の“枷”をぶっちぎれ!【モデルサードインパクト vol.1】

ガソリン高い、燃費も悪い、限界だ! かつてないほどの猛暑に喘いだであろう今夏。「もういいよ」「もう下がってくれ」と、気温に対して誰もが感じていたと思うが、自動車ユーザーはガソリン価格に対しても同じことを思っていたのではないだろうか。 リッターあたり170円、180円、190円、そして200円の大台を突破……給油をするたびに、誰もが憂鬱な気分になったはずだ。小生はドイツの某オープンスポーツカーに乗っているのだが、リッターあたり平均10kmでハイオク仕様。愛車にガソリンを入れるたび、顔が青ざめていた。 「高額給油という枷から解放されたい……」 EVの購入を決意した所感である。クルマを走らせることは、本来喜びのはず。給油のたびに落ち込むのは本望ではない。 小生は、THE EV TIMES(TET)の編集スタッフを務めています。この9月、「テスラ・モデル3・パフォーマンス」を購入しました。新たな愛車と共に進むEVライフを「モデル・サードインパクト」と銘打ち、連載で紹介していこうと思います。 EVは便利だと実感した「日産リーフ」 小生が初めて体験したEVは「日産リーフ」(2代目)である。遡ること2017年、「リーフ」が2代目になった頃、日産が全国で試乗キャラバンを開催し、小生はその試乗アテンダントを担当していた。そこで「リーフ」を存分に運転することができたのだ。 それゆえ、EVの利便性の高さを実感することになった。スポーツモデル顔負けの力強くスムーズな加速にまず驚いたのだが、給油という枷から外れて自由に走り回れることが大変な魅力に感じた。アイドリング状態でエアコンを入れっぱなしでもガソリン代を気にせずに済む。車内でPCを開けば、そのままオフィスになる。車の用途が無限大に広がると感じた。 充電時間も特別長いとは感じなかった。充電残量が50%くらいになったら、急速充電を使用してあっという間に80%まで回復できる。ちなみに100%まで充電した場合、280kmを走れる表示が出ていたと記憶している(当時は寒い季節で暖房を使用した)。ちょっとした遠出も十分に対応可能。「EVなんて不便」という印象は全く抱かなかった。そこで薄々と「将来はEVもアリだな」と思ったのだ。

VOL.20
VW「ID.4」オーナーはアウトバーンを時速何キロで走る? [ID.4をチャージせよ!:その20]

9月上旬、スイスで開催された「ID.TREFFEN」(ID.ミーティング)を取材した際に、参加していた「ID.4」オーナーに、そのクルマを選んだ理由などを聞きました。 フォルクスワーゲン一筋 鮮やかな“キングズレッドメタリック”のID.4で登場したのは、ドイツのハノーファーからはるばるスイスに駆けつけたデュブラック・マルクスさん。「フォルクスワーゲンT3」のTシャツを着ているくらいですから、かなりのフォルクスワーゲン好きと見ましたが、予想は的中! 「18歳で免許を取ってからこれまで30年間、フォルクスワーゲンしか買ったことがないんですよ」という、まさにフォルクスワーゲン一筋の御仁でした。 彼の愛車はID.4のなかでももっともハイパフォーマンスな「ID.4 GTX」。日本未導入のこのグレードは、2モーターの4WD仕様で、最高出力220kW(299PS)を発揮するというスポーツモデル。こんなクルマに乗れるなんて、なんともうらやましいかぎりです。 そんなマルクスさんにID.4 GTXを購入した理由を尋ねると、「これからはEVの時代だと思ったので!」と明確な答えが返ってきました。とはいえ、ID.ファミリーのトップバッターである「ID.3」が登場した時点ではすぐに動き出すことはありませんでした。「1年半くらい前にID.4 GTXを試乗する機会があって、踏んだ瞬間から力強くダッシュするID.4 GTXのパンチ力にすっかり惚れ込んでしまい、即決でしたよ(笑)」。

VOL.14
欧州メーカーはなぜ電気自動車に走ったのか?:知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第14回

EVの知識を、最新情報から「いまさらこんなこと聞いていいの?」というベーシックな疑問まで、ベテラン・ジャーナリストが答えていく連載。今回は欧州メーカーの特集です。 日本市場参入が遅かった欧州製EV 日本市場では、欧州からの電気自動車(EV)攻勢が活発に見える。ドイツの「BMW i3」が発売されたのは2013年秋で、日本市場へは2014年春に導入された。 日本の自動車メーカーがEVを市販したのは、2009年の「三菱i-MiEV」の法人向けリースが最初で、翌2010年には「i-MiEV」も一般消費者への販売を開始し、同年に「日産リーフ」が発売された。「i3」の発売は、それより数年後になってからのことだ。 ほかに、フォルクスワーゲン(VW)は、「up!」と「ゴルフ」のエンジン車をEVに改造した「e-up!」と「e-ゴルフ」を2015年から日本で発売すると2014年に発表した。だが、急速充電システムのCHAdeMOとの整合性をとることができず、断念している。その後、VWは「e-ゴルフ」を2017年秋に販売を開始した。EV専用車種となる「ID.4」を日本に導入したのは、2022年のことだ。フランスのプジョーが、「e-208」を日本で発売したのは2020年である。 以上のように、欧州全体としては、EVへの関心が高まってきたのは比較的最近のことといえる。 くじかれたディーゼル重視路線 欧州は、クルマの環境対策として、自動車メーカーごとの二酸化炭素(CO2)排出量規制を中心に動いてきた。そして2021年から、1km走行当たりの排出量を企業平均で95gとする対処方法を考えてきた。EU規制は、販売する車種ごとのCO2排出量を問うのではなく、販売するすべての車種の平均値で95gを下回らなければならないという厳しさだ。 対策の基本となったのは、ディーゼルターボ・エンジンを使った排気量の削減と、出力の低下を補う過給器との組み合わせを主体としつつ、ハイブリッドによるさらなる燃費の向上である。 既存のディーゼルターボ・エンジンをできるだけ活用しようとする考えは、欧州メーカーが補機用バッテリーの電圧を世界的な12ボルトから、36ボルトや48ボルトに変更することによるマイルドハイブリッド化に注目してきた様子からもうかがえる。 ところが、2015年にVWが米国市場でディーゼル車の排出ガス規制を偽装していたことが明らかにされた。公的機関での測定では規制値を満たすものの、実走行で急加速などした際に基準を上回る有害物質が排出され、それによって力強い加速を得られるようにした制御が発覚したのである。その影響は、VW車だけでなく、アウディなどVWグループ内に広く影響を及ぼした。

VOL.3
ボルボは新型EVの「EX30」でインテリアに新たな価値を与え、空間を最大限、利用する!

ボルボはEX30の室内で多くの新たなチャレンジを行なっていると謳う。その詳細を小川フミオ氏が訊いていく。連載1回目はこちら、2回目はこちら。 冷たさの排除し素材を“素直”に使う EX30のインテリアが、他車と決定的に違うのは、金属的な表面処理がほとんど見当たらないこと。それは意図的にそうしたのだと、インテリアデザインを統括するリサ・リーブス氏は言う。 「心したのは、冷たさの排除です。使う素材はオネスト、つまり木に見えるものは木であり、また同時に、リサイクル素材を人間にやさしいかたちで使用しました」 インテリアは「ブリーズ」(やさしい風)をはじめ「ミスト」(もや)、「パイン」(松)それに「インディゴ」と4種類(日本はそのうち「ブリーズ」と「ミスト」を導入)。 「ブリーズを例にとると、デザインインスピレーションはサマーデイズ。シート表皮の素材はピクセルニットとノルディコ、ダッシュボードの飾り材はパーティクル、そして空気吹き出し口のカラーはブルーです」 リーブス氏は説明してくれる。 「ピクセルニットはPETボトルをリサイクルしたもの。それを3Dニッティング(立体編み)プロセスでシート用素材にしています。組み合わせるノルディコは、PETボトルなどのリサイクル素材、北欧で計画的に伐採された木から採取された素材、リサイクルされたワインコルクなどで作られたテキスタイルです」 ダッシュボード用のパーティクルは、窓枠やシャッターを中心に工業廃棄物であるプラスチックを粉砕したものだし、フロアマットは漁網をリサイクルしたという。 「リサイクル材とともに、インテリアは雰囲気を統一したので、私たちは“ルーム”という名を与えています。インディゴの場合、デザインインスピレーションは”夜のはじまり”で、デニムをリサイクルしたときに余る糸を使った素材をシート表皮に使っています」 シートじたいは「スニーカーにインスパイアされた形状」(メイヤー氏)だそうだ。

VOL.2
ボルボの新型電気自動車「EX30」にはスターウォーズのデザインが取り入れられている!?

エンジンの回転の盛り上がりには、時に人間的な表現が用いられる。しかしBEV(バッテリー電気自動車)はエンジンもなく無音なため、より無機質な、機械的な印象が強くなる。ボルボはそんなBEVに人間的な要素を入れたと主張する。連載1回目はこちら。 どことなく楽しい感じの表情 ボルボEX30は、いってみれば、二面性のあるモデルだ。ひとつは、地球環境保全(サステナビリティ)を重視したコンセプト。もうひとつは、大トルクの電気モーターの特性を活かしたスポーツ性。 デザイナーは「いずれにしても、BEVと一目でわかってもらうデザインが重要と考えました」(エクステリアデザイン統括のTジョン・メイヤー氏)と言う。 「もちろん、昨今ではICE(エンジン車)かBEVか、デザインをするときあえて差別化をしないのが世界的な流れです。ただし、私たちとしては、スカンジナビアデザインの原則を守りつつデザインしました」 メイヤー氏の言葉を借りて、この場合のスカンジナビアデザインの肝要を説明すると「形態は機能に従う」となる。 「そこで、上部に開口部とグリルはもたせないようにしようと。ただし(インバーターなどのために)空気を採り入れる必要はあるので、下にインレットは設けています」 ボルボ車のデザインアイディンティティである「トール(神の)ハンマー」なる形状のヘッドランプも採用。ただし、カバーで覆った一体型でなく、四角いLEDのマトリックスが独立しているような形状があたらしい。 「そうやって出来上がったのがこのデザインです。顔になっていて、そこには眼があって、鼻があって、口があるんです。どことなく楽しいかんじで、これまで以上に人間的な表情を実現しました」 暴力的でもなければ、ロボット的でもない。メイヤー氏はそこを強調した。

VOL.1
ボルボの新型電気自動車「EX30」は、相反する2面性を合わせ持つ文武両道なクルマ

ボルボの新たなBEV(バッテリー電気自動車)として、ついに10月2日から「サブスク」モデルの申し込みが始まるEX30。この「ボルボ史上最小のBEV」はどのように開発されたのか。ミラノで行われたワールドプレミアに参加した小川フミオ氏が関係者の声とともに振り返る。 スカンディナビアン+デジタル 2023年6月に登場したEX30は、コアコンピューティングテクノロジーを大胆に採用する、ボルボの新世代BEV。 内容にとどまらず、同時に、デザイン面でもさまざまな大胆な試みがなされているのも特徴だ。 いってみれば、伝統的ともいえるスカンディナビアンテイストに、デジタライゼーションの融合。 「私たちのデザイン的価値のすべてを小さなフォーマットで具現」したモデルと、ボルボ・カーズはプレスリリース内で謳う。 「非常に電気自動車的なデザインで(中略)閉じられたシールド(フロントグリルの開口部のこと)とデジタル表現を用いたトールハンマーヘッドライト」がフロント部の特徴とされる。 さらに新世代BEVとしてボルボが狙ったものはなんだろう。ミラノでの発表会において出合った担当デザイナー(たち)に、デザインの見どころと背景にあるコンセプトを取材した。

VOL.5
「BMW iX xDrive50」の高速電費は我慢不要! ロングドライブにうってつけのEV

[THE EV TIMES流・電費ガチ計測] THE EV TIMES(TET)流電費計測の5回目を、8月に「BMW iX xDrive50」で実施した。車高の高いSUVにもかかわらず、高速巡航時に電費が低下しにくいのが特徴だ。その詳細をお伝えする。 ※計測方法などについてはこちら、試乗記はこちらをご覧ください。 100km/h巡航でどんどん行こう iX xDrive50のカタログに記載された「一充電走行距離」は650km(WLTC)で、電池容量は111.5kWhだ。650kmを実現するには、電費が5.83km/kWh(以後、目標電費)を上回る必要がある。 各区間の計測結果は下記表の通り。5.83km/kWhを上回った場合、赤字にしている。 これまでのTETによる電費計測で初めてA区間の往路と平均で目標電費を超えた。A区間のように標高差が少ない場所では同じ状況になり得る、つまり100km/h巡航で一充電走行距離の650km近くを走破できる可能性がある。   100km/h巡航でも600kmは走れそう 各巡航速度の平均電費は下表の通りだ。「航続可能距離」は電費にバッテリー総容量をかけたもの、「一充電走行距離との比率」は650kmに対して、どれほど良いのか、悪いかだ。 iXのエクステリアは、大きなキドニーグリルが特徴的だ。ざっくり言えば全長5m、全幅2m、全高1.7m、車重2.5トンの堂々としたボディだが、Cd値が0.25と優れている。 100km/h巡航におけるiXの電費は、5.71km/kWhであった。絶対的な数値としては決して高くないが、一充電走行距離との比率を計算すると98%と、これまでにTETが計測したデータの中で最高の結果を記録した。120km/h巡航でもこの数字は78%であった。 つまり、iXは高速巡航でも電費の低下が少ないEVだといえる。 ちなみに、過去に計測したメルセデス「EQE 350+」は、この100km/h巡航時の比率が90%だった。EQEはセダンボディで背が低く、Cd値0.22で、高速巡航には有利であることを考えても、iXの98%という数字の凄さが分かる。 この結果は、空力性能の良好さと高効率なパワートレインの賜物ではないかと思う。BMWが「テクノロジー・フラッグシップ」「次世代を見据え、長距離走行が可能な革新的な次世代電気自動車」と謳っているだけのことはある。これらの記録を塗り替えるクルマが現れるのか、今後の計測が楽しみだ。   各巡航速度ごとの比率は以下の通り。80km/hから100km/hに速度を上げると21%電費が悪くなる。120km/hから80km/hに下げると1.6倍の航続距離の伸長が期待できる。

VOL.19
ぐっとパワフルな2024年モデルのフォルクスワーゲン「ID.4」をミュンヘンで緊急試乗! [ID.4をチャージせよ!:その19]

コンパクトSUVタイプの電気自動車「ID.4」が2024年モデルにアップデート。この最新版をドイツ・ミュンヘンでさっそく試乗しました。 モーターのパワーは60kW増し 「ID.4」が2024年モデルにアップデートし、コックピットのデザインが様変わりしたことは、前回のコラムで述べました。さらに今回の仕様変更では、走りにかかわる部分にも手が加えられています。 一番の変更が、新開発のモーターが搭載されたこと。フォルクスワーゲンでは、ID.ファミリーのプレミアムセダンである「ID.7」に、新たに開発した「APP550」型の電気モーターを採用しました。最高出力は210kW(286PS)と実にパワフルです。これが2024年モデルの「ID.4プロ」にも搭載されることになりました。これまでの「ID.4プロ」の最高出力が150kWですので、出力は60kW、4割増しという計算。最大トルクも従来の310Nmから545Nmとなり、こちらは75%の大幅アップです。 バッテリー容量は77kWhで変更はありませんが、2024年モデルからはバッテリーの“プレコンディショニング機能”を搭載し、冬の寒い時期、充電前にバッテリー温度を高めておくことで充電量の低下を抑えることができます。これはうれしい! 他にも、可変ダンピングシステムのDCC(ダイナミックシャシーコントロール)の改良なども行われ、果たしてどんな走りを見せてくれるのか、興味津々です。 早く乗ってみたいなぁ……と思っていたら、なんとうれしいことに、発表されたばかりの2024年式ID.4 プロ・パフォーマンスを、ドイツ・ミュンヘンで試乗するチャンスに恵まれました。試乗時間は約20分と超ショートですが、わが愛車のID.4 プロ・ローンチエディションと比較するには十分な時間です。

VOL.18
ミュンヘンで「ID.4」の2024年モデルに遭遇! [ID.4をチャージせよ!:その18]

ミュンヘンモーターショー(IAA)のメイン会場近くで、フォルクスワーゲンがメディア向けイベントを開催。そこで、2024年モデルの「ID.4」に遭遇しました。 見た目は同じ イベントスペースのパーキングに待機していたのは、“コスタアズールメタリック”のボディが爽やかな「ID.4 プロ・パフォーマンス」。日本のラインアップにはないボディカラーに目を奪われますが、エクステリアデザインはこれまでと同じで、私の愛車の「ID.4 プロ・ローンチエディション」との違いは1インチアップの21インチホイールが装着されていることくらいです。 ところが運転席に座ると、コックピットの眺めに違和感が! マイナーチェンジでもないのに、コックピットのデザインが私のID.4 プロ・ローンチエディションと大きく変わっていました。 ご存じのとおり、フォルクスワーゲンなど多くの輸入ブランドでは“イヤーモデル制”を採用していて、毎年のように細かい仕様変更を実施。エクステリアデザインは一緒でもパワートレインや装備が変わるというのはよくあること。この2024年モデルでは、インテリアのデザインまで様変わりしていたのです。 真っ先に気づいたのが、ダッシュボード中央にあるタッチパネルがリニューアルされていること。2022年モデルのID.4 プロ・ローンチエディションでは12インチのタッチパネルが搭載されていますが、この2024年モデルでは12.9インチにサイズアップが図られたのに加えて、デザインも一新され、明らかに使い勝手が向上していました。

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