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TEXT:高橋 優
日産の6700億円赤字はさほど問題なし! それよりも直近「ワクワクする」クルマの計画がないことが問題

車両生産工場を17から10へ 日産の2024年度の決算が発表され、販売台数、収益性ともに悪化するという苦しい現状が判明しました。日産が今後に巻き返しを図ることができるのか、競合の決算内容とも比較しながら分析します。 まずこのグラフは、主要な自動車グループやメーカーの年間販売台数の変遷を示したものです。オレンジで示された日産は、断続的に販売台数を落としており、2024年シーズンの販売台数は334万8687台と、前年比でわずかにマイナス成長に留まっています。また、決算発表では2025年度における販売台数予測を325万台に設定してきているものの、トランプ関税の影響なども含めて、計画の実現性にも懸念が残ります。 そして、日産に大きくプレッシャーをかけ始めているとメディアでいわれているのが、北米市場における電動車シフト、および中国市場におけるEVシフトです。 北米市場では現状、日産はe-POWERを1車種も投入することができておらず、その上で、初投入は2026年の新型ローグと、2025年に投入することはできません。とはいうものの、北米市場においてはマツダとスバルもハイブリッド車の割合は極めて低く、その上で日産の2024年度における北米の販売台数は+3.3%とむしろ成長しています。 しかしながら、北米市場における問題は、販売奨励金の大幅増加という点でしょう。台あたりの販売奨励金増加による減益影響が大きくなっており、とくに直近の2025年1月から3月のQ1で大幅に増加しています。つまり、販売の質が低下しており、車両の価値が価格に見合っていない状況なのです。要するに、ハイブリッド車やガソリン車にかかわらず、そもそも現在の日産は北米で魅力的な車種をラインアップできていないといえるわけです。 そして中国市場は、現状大衆セダンのシルフィ一本足打法という販売構成であり、このシェアもBYDやジーリーのPHEVに大きなプレッシャーをかけられています。 その一方、日産は4月末からEVセダン「N7」の発売をスタートしており、発売してすぐに1万台の受注を獲得するなど好調です。N7以降の新型EVとともに、そのシルフィ一本足打法からの転換が急務となっています。 そして、そのような背景において公開された2024年度決算について、まず日産の四半期販売台数は約87万台と、前年同期比でマイナス成長となりました。売り上げは3兆4900億円で前年比同等規模を維持しました。 また、日産への懸念が在庫車両の高止まりです。直近の25年Q1(2024年度第4四半期)では在庫が減少しているように見えるものの、これは北米の在庫車が多額のインセンティブによって一定数を捌けたと分析可能であり、やはり持続可能な状態ではないといえます。 いずれにしても、この1-2年、インセンティブを少なくすることで販売の質が向上したと説明されていたものの、その実態というのは、半導体不足の影響による生産制限によって在庫車両が減少していただけだったわけです。 次に、粗利益とマージンの変遷を見てみると、直近の四半期のマージンは12.15%と、Covid-19以降では最低の収益性に低迷しています。販売台数が低下していることで、工場の稼働率が上がっていないことが大きいと推測できます。 そして日産は、工場の稼働率を向上させるために、グローバル全体における車両生産工場を、現在の17拠点から10拠点へと大幅削減する方針を表明しました。これは、日本国内も対象であり、稼働率の低い湘南工場などが閉鎖される可能性があります。 さらに、販管費や研究開発費を差し引いた営業利益について、直近の四半期の営業利益率は0.17%と、前年同四半期の2.57%と比較しても急減速しています。日産の経理上におけるドル円は、前年同期比で4円の円安であり、その分収益性には50億円のプラス要因と説明されています。四半期単体の営業利益は58億円だったことから、円安でなければ利益がほとんど出ていないという水準です。

TAG: #EVシフト #決算
TEXT:小林敦志
世界中の自動車メーカーの工場が集結するメキシコ! ついに立ちあがった自国量産BEVブランド「サクア」とは?

メキシコでは日産車がもっとも多く売れている 同盟国なども巻き込みながら世界を混乱させている、アメリカ・トランプ政権の関税政策。いち早く追加関税が課されたのが、アメリカの隣国であるカナダとメキシコ。カナダは激しく反発しているが、メキシコも黙って受け入れているわけではない。 かつては北米自由貿易協定(NAFTA)を結び、いまではそれがアメリカ・メキシコ・カナダ協定(USMCA)となり、強固な経済的協力関係が続いていただけに、3カ国の関係が混乱してしまったのも頷ける。 メキシコは主にアメリカ国内向けとなるが、世界の大手自動車メーカーの生産拠点が多く存在する。JETRO(日本貿易振興機構)資料によると、2024歴年締めでのメキシコ国内での大型バスとトラックを除く年間自動車生産台数が398万9403台なのに対し、メキシコ国内での新車販売台数は149万6797台となり、生産台数に占める国内販売台数比率は約37%となっている。アメリカと国境を接する地域を中心にアメリカで使われていた中古車が大量に入ってきていることも、国内消費量が少なめに感じる背景にあるのかもしれない。 生産台数ではGM(ゼネラルモーターズ)がトップとなるものの、メキシコ国内での販売台数となると日産が25万6227台でトップとなっている。海外市場における日系ブランド車での販売ランキングでは、トヨタがトップとなることがほとんどといっていい状態なので、メキシコは意外なほど特殊な市場といえるのかもしれない。 筆者はアメリカ西海岸の街サンディエゴと国境を接するメキシコ側国境の街ティファナで、コレクティーボと呼ばれる乗り合いバスのような公共交通機関でキャラバンがよく使われているのを目撃している。一般的にはトヨタ・ハイエースが海外ではコレクティーボのような需要のほか、ホテルが用意するシャトルバスやチャーターバスなどになっていることが多いのだが、調べてみるとメキシコ国内ではハイエースのようなニーズはキャラバンが目立って担っている(ここ最近はメルセデスベンツ・スプリンターなどが進出しているが……)。 また、ティファナあたりのタクシーでは、アメリカで使い古されたシボレーやフォードのフルサイズセダンが定番だったが、そのうち日産セントラとなってきた。1993年に7代目日産サニーは日本国内での生産を終了したが、メキシコ国内ではその後も日産ツルとして2016年まで生産及び販売を続け、タクシーとしてもメキシコ国内で大活躍した。公共交通機関で日産車の需要が多いことで、これが消費者の支持を得てメキシコで強みを見せているようである。ちなみに新車販売台数全体の約4割が日系ブランド車となっている。

TAG: #EVシフト #メキシコ
TEXT:桃田健史
海外じゃけっこう聞く「EVの発火事故」! 日本で燃えたというニュースが出ない理由とは?

日本は安全意識が高い ネットニュースでは、海外でEVが燃えたことがときおり話題となる。充電中に白い煙が出てきてEVがあっという間に燃えたとか、走行中に車内が焦げ臭いと思って停車したらEVはあっさり燃えてしまったとか。 さまざまなニュースがある一方で、日本でEVが激しく燃えたというニュースを聞いたことがない。 これはいったい、どういうことなのか? そんな疑問をもつ人もいるだろう。 筆者は、1980年代から世界各地で定常的にEV関連の取材をしてきた。そのなかで、時代が大きく変わったと感じたのは、1990年にZEV(ゼロエミッション)規制が始まったときだ。 アメリカのカリフォルニア州環境局が大気汚染に関する会議体であるCARBを組織し、その一環としてZEV規制が生まれた。当時、日米からアメリカ市場向けにさまざまなEVが登場したが、燃焼という観点の話題はまだあまりなかった。 それが、2000年代半ばになると、リチウムイオン電池を大量に搭載するEVの発想が広がってきた。これに伴い、アメリカでは大型リチウムイオン電池に関するカンファレンスが定期的に開催されるようになり、筆者も参加してきた。 ここでは、アメリカDOE(連邦エネルギー省)直轄の研究所関係者らが講演する機会が多かったが、彼らは必ずといってよいほど、「リチウムイオン電池は正しく使わないと燃えることを大前提に考えるべき」という基本理念を強調した。 リチウムイオン電池の発火事故は、いわゆるパソコンの電池が燃焼した事例が取り上げられることが多く、「EVとして利用する場合のリスクをいかに下げるかが、当面の課題」という説明だった。リスクを下げるためには、電池の内部構造の設計、材料の選定方法、製造時の各工程における適格な作業と安全対策などが挙げられた。 また、台湾で小型電動車に関するカンファレンスに数度参加したが、その際には、中国における充電環境の悪さから発生した小型電動バイクの発火事故事例などが報告された。 その後、初代「フィスカー」の発火事例がアメリカで何度か発生し、アメリカDOT(運輸省)とDOE(エネルギー省)では原因調査を進めた。直近では、韓国でドイツ系メーカーのEVが燃焼した話題があるが、先日韓国で業界関係者に話を聞いたところ、当該事案の詳細はいまだに公開されていないという。 いずれにしても、2010年代半ば以降、グローバルでEVを製造するメーカーが一気に増えており、全体としてリチウムイオン電池の安全性は上がっている。 だが、メーカーによって、安全性の担保のレベルには当然違いがあり、また国や地域で充電環境にも違いがあるため、最悪のケースとしてEVが燃えることが起こり得る。国や地域によっては、国などによる情報統制によって、EV燃焼事案が表沙汰にならないことも考えられる。 その上で日本では、EVの企画、設計、製造、そして充電インフラへの安全性に対する意識が高いことで、EV燃焼事例がほぼ報告されていないのではないだろうか。 むろん、情報統制もないはずだ。 ただし、今後は海外からさらに多くの種類と量のEVが日本に輸入されることが予想されるほか、出力350kWの急速充電の普及が進むことを考慮すると、EVに対するさらなる安全性の確保が必須となる。

TAG: #日本 #海外
TEXT:御堀直嗣
EVで「大は小を兼ねる」の考えは損する可能性アリ! 航続距離2倍を求めるとバッテリー容量は2倍じゃ足りないワケ

一充電走行距離はモデルによって大きく異なる 電気自動車(EV)の性能を測る指標として、一充電走行距離が注目されている。メルセデス・ベンツEQS 450+はWLTCで759kmを達成している。テスラ・モデル3のロングレンジは706kmだ。 それらの数値は、一度の給油で1000km走れるようなディーゼルターボ車にはおよばないものの、700km前後走ると、東京から東へは青森県、西へは岡山県あたりまで行けるだろう。高速道路を時速100kmで走り続けたと仮定して、7時間の行程だ。 一方、現在もっとも一充電走行距離が短いのは、日産サクラ/三菱eKクロスEVの180kmである。メルセデス・ベンツEQS 450+の4分の1以下でしかない。 そのうえで、考えてみる。700kmもの一充電走行距離が、本当に必要かどうか? 一充電走行距離に関わるバッテリー容量は、大きすぎると電力消費の効率が悪化する。したがって、普段のクルマの使い方(どれくらいの距離を走ることが多いか)を、再確認するのがまず第一歩だ。 その答えのカギを握るのが、給油と充電の仕方の違いを理解することだ。 ディーゼルターボエンジンのクルマは、満タンから走れるとされる1000kmを走り切ったら、給油しなければならない。給油するにはガソリンスタンドを探し、そこへ行かなければならない。 EVで、満充電から走れる700km走ったあとは、それが目的地であろうと自宅に戻った場合であろうと、200ボルト(V)のコンセントから充電すればいいため、ガソリンスタンドのような専用施設を訪ねる必要がない。これが基本だ。 もちろん、まだ基礎充電(自宅や仕事場での充電)や目的地充電(行った先での充電)の整備が十分でないのも事実だ。本来、充電施設の整備は、基礎充電と目的地充電が優先されるべきだった。経路充電と位置付けられる急速充電は、それらを補完する設備であることへの理解が不足していた。それが主客転倒の事態を招いてしまった。このため、一充電走行距離の長いEVが必要との誤認を消費者に与えてしまった。 EVの充電基盤整備を、本来の姿で完成させていくことが、適正な走行距離選びに不可欠の条件になる。

TAG: #リチウムイオンバッテリー #一充電走行距離
TEXT:高橋 優
日本のEVシェアはたった1%台! この先続々投入される新型EVで停滞ムード解消なるか?

BEVとPHEVの販売台数は約6400台 日本国内における2025年4月のEV販売動向が判明しました。テスラ、BYD、ヒョンデそれぞれが新型モデルを投入することで販売を増加させた一方、日本メーカー勢は深刻なEV販売低迷が続いています。2025年シーズンの国内EVシフトの展望を含めて解説します。 まず、2025年4月のBEVとPHEVの合計販売台数は約6400台と、前年同月比でわずかなプラス成長を実現しました。商用軽EVの日産クリッパーEVとホンダN-VAN e:の販売台数は月末にならないと判明しないため、実際にはEV販売は少しプラスされます。前月である2025年3月の販売実績は1万1985台となりましたが、前年比−9.5%に留まりました。 次に、新車販売全体に占めるBEVとPHEVの合計販売台数の比率について、4月は2.01%となりました。ここにN-VAN e:などの販売台数が合わさると、おそらく前年同月のシェア率2.12%を超える見通しです。ちなみに確定した3月度のシェア率は2.62%であり、前年同月に記録していた3.17%から下落しています。 さらにBEV単体の販売動向について、白で示されている輸入EVは4月に1763台と、前年同月比+51.2%と販売が大幅増加したものの、ピンクで示されている日本メーカーの普通車セグメントのBEV販売台数は348台と、前年同月比で半減と落ち込みました。また、シェア率が確定した3月のBEVシェア率は1.56%であり、前年同月が1.89%だったことから、国内のBEVシフトが後退している様子が見て取れます。 また、現在の日本のBEV販売シェア率を世界の主要国と比較すると、日本はデータが確定した3月において1.56%と低迷しています。その一方で、3月の世界全体のBEVシェア率は17%に到達しており、2024年3月が13%だったことから着実にBEVシフトが進行中です。 日本は2025年の間に1%台というBEVシェア率の低迷を脱出できるのか、世界全体では2025年平均でBEVシェア率20%の大台にどこまで近づけるのかに注目でしょう。

TAG: #EVシフト #普及 #販売
TEXT:渡辺陽一郎
EVの急速充電器「50kWと150kW」だと同じ時間の充電量がまったく違う! 時間で料金を支払うなら充電器本体に出力を明記すべきじゃない?

運営側の判断で出力を調節することも 電気自動車やプラグインハイブリッドに充電する充電器には、さまざまな出力がある。充電に時間を要する普通充電の出力は、おおむね3kWから6kWだ。 高速道路のサービスエリアや公共施設に設置されている急速充電器は、50kW以上の出力があり、文字どおり充電時間を短縮できる。急速充電器にも複数の出力があり、現在日本にあるものは、50kW、60kW、90kW、100kW、120kW、150kW、180kWという具合にわかれる。出力が高ければ、短時間で大量の充電が可能だ。 ただ、注意したいのは、車種によって、急速充電の最大受入能力が異なること。たとえば日産アリアで急速充電器を使ったときの最大受入能力は130kWだ。1時間あたり最大で130kWの充電ができるから、90kWの急速充電器にも対応できる。 しかし、日産サクラの最大受入能力は30kWに留まる。従って1時間に30kWしか充電できず、90kWの急速充電器を使っても、50kWと比べて充電時間の短縮にならない。 つまり、急速充電器の実際の出力は、電気自動車の最大受入能力に左右されるが、ユーザーからは「急速充電器の本体に、何kWまで対応できるか表示してあるとうれしい」という話も聞かれる。たとえば最大受入能力が130kWの場合、50kWの急速充電器では30分間に20〜25kWの充電を行える。その出力が90kWに増えれば、同じ30分間で40kW前後に増える。電気自動車の性能に合った充電器を選べると便利だ。 急速充電器の設置場所がわかるホームページなどには、出力と充電可能な台数が表示されているが、設置場所ではわからないことも多い。急速充電器の出力を本体に表示すると親切ともいえるが、運営側の判断で、出力を調節する場合がある。充電料金を時間単位で決めるときの割安度を均一にするためだ。そうなると実際にはkWを表示した看板も掲げにくい。 それでも実際に充電を開始すると、ディスプレイには充電量がkWで示され、充電状況がわかる場合もある。急速充電器を効率良く便利に使うには、出力を分かりやすく表示するといいだろう。

TAG: #急速充電 #急速充電器
TEXT:桃田健史
ただEVを作ってお終いじゃない! ソフトもインフラにも本気で取り組むホンダのEV事業が熱い!!

ホンダのEV事業に注目! EVシフトが踊り場。ここ1〜2年で、そういわれることが増えてきている。だが、自動車メーカー各社としては、中長期的にはEVシフトが確実に起こることを前提として、事業戦略を練っている。 なかでもホンダは、2040年にグローバル販売でのEV・FCEV(燃料電池車)100%を目指す。日系メーカーで、年次を決めて100%EVシフトを宣言しているのはホンダのみだ。 足もとで動いているホンダEV戦略は大きくふたつある。ひとつは、日米を中心とした「0シリーズ」。もうひとつは、中国に特化した「イエシリーズ」だ。 4月末に開幕した中国上海モーターショー(上海国際自動車工業展覧会)では、「広汽ホンダGT」「東風ホンダGT」を世界初公開した。ホンダは中国で、広州汽車と東風汽車のそれぞれと合弁事業を進めており、「GT」はレーシングマシンを連想させるトップモデルだ。 また、中国市場向けEVの駆動用バッテリーでは、CATLとのリン酸鉄リチウムイオンバッテリーを共同開発し、イエシリーズの第三弾に投入することも明らかにした。 0シリーズについては、米CES2025(コンシューマ・エレクトロニクス・ショー)で、「サルーン」と「SUV」を世界初公開した。 注目されるのは、ホンダ独自の車載OS(オペレーティングシステム)として「アシモOS」を採用したこと。自動車産業界では近年、ソフトウェアに重きを置いた自動車の設計思想SDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)が競争領域として注目されているところだ。 ホンダとしては、次世代EV導入のタイミングで、クルマづくりを抜本的に変革する姿勢を社内外に向けて発信したといえるだろう。 また、EV普及のために重要な充電インフラについても、国や地域の社会状況に応じた対策を打つ。 たとえばアメリカでは、メルセデス・ベンツ、BMW、GM、ステランティス、ヒョンデ、キアと連携するEV高出力充電用を構築するための合弁事業「アイオナ」を設立した。 アイオナの充電施設では、CCS(コンボコネクター方式)やNACS(ノース・アメリカン・チャージング・スタンダード)など、多様な急速充電をユーザーに提供する。2030年にはカナダを含めて3万基の設置を目指す。 日本でも、軽EVのさらなる普及や0シリーズの導入、そして充電インフラとの連携に加えて使用済み電池のリユース・リサイクルなど、バリューチェーンにおける新しい仕組みづくりを進めているところだ。 これからも、グローバルにおけるホンダEV事業の動きに注目していきたい。

TAG: #EVシフト #普及
TEXT:琴條孝詩
いくら急速充電器が増えても「加速」とか「ゼロエミッション」とかに興味がない人はいる! EVはそれでいいんじゃないか?

充電インフラの現実とBEV普及の壁 日本政府は2035年までに新車販売のすべてを電動車(BEV、PHEV、FCVを含む)にするという目標を掲げている。これは、カーボンニュートラルの実現に向けた国家的な方針で、乗用車に関しては「新車販売で電動車100%」を目指すと明言されている。しかし、現実的には、「本当にBEV(バッテリーのみの電気自動車)を無理に普及させる必要があるのか?」という疑問が浮かぶ。 CO2削減という観点から見れば、BEVの製造過程でもCO2は排出される。そのため、燃費性能に優れたHEV(ハイブリッド車)やPHEV(プラグインハイブリッド車)の普及だけでも十分な効果が期待できるのではないだろうか。むしろ、充電インフラの現状を考えると、BEVはその走りや静粛性、加速感といった特性を本当に愛する人だけが乗ればよいという考え方の人がいてもおかしくはない。 国内のBEV充電インフラは、近年急速に整備が進んでいるものの、依然として課題が多い。経済産業省の調査では、2024年3月時点で、国内のEV急速充電の設置数1万128基、普通充電(200V)3万195基という状況である。EV充電スタンドは上記の数にテスラ専用のスーパーチャージャー(SC)のステーション数128の急速充電器数が加わるが、いずれにしても普及率や設置数の面で、利用者の利便性を十分に支える水準には達していない。 また、都市部では急速充電器の設置スペースの確保が難しく、駐車料金が別途かかるケースも多い。地方では自宅充電がしやすい一方、公共充電スポットの利用頻度は限定的となる。さらに、長距離移動時の経路充電、とくに高速道路のサービスエリアでは混雑や台数不足が問題となっており、繁忙期には「充電渋滞」が発生することもある。 設置から8~10年が経過して老朽化する充電器も増えており、更新や維持のためのコスト負担が事業者の重荷となっている。一部の古いCHAdeMO充電器は故障や老朽化が進み、設置場所に行ってみると利用困難なケースがあったり、採算が合わず撤去されたりしているケースも少なくない。 以上のことを考えると、家庭用充電設備の設置ができない集合住宅住まいのユーザーや長距離移動が多いユーザーにとって、BEVの選択は依然としてハードルが高い。 一方、ガソリンスタンドの数は2023年度末で2万7414カ所。政府は、2030年までに「公共用の急速充電器3万基を含む充電インフラを15万基設置する」との目標を掲げているが、給油時間と充電時間の違いもあり、利便性としてBEVの充電環境は厳しいといわざるをえない。

TAG: #EVシフト #普及
TEXT:御堀直嗣
「VtoH」は知ってるけど「VtoG」に「VtoL」に……「VもPもIもN」もある!? いま知っておくべきEVまわりの「Vto○」

「VtoG」はスマートグリッドのひとつ 電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)は、駐車しているときも役立つクルマだ。その代表が「VtoH」だろう。VtoHとは、「ヴィークル・トゥ・ホーム」のことである。EVやPHEVの車載バッテリーから、自宅に電気を供給する。 PHEVでも、20kWhほどの駆動用バッテリーを車載するようになり、満充電からであれば、1~2日ほど電力の供給ができる。40~100kWhを積むEVであれば、その何倍もの電力を自宅に供給できることになる。 VtoHのほかに耳にするのが「VtoL」だ。Lは、「Load(ロード)」のことで、電気製品をいう。つまり、車載バッテリーから電気を取り出し、家電製品などを使えるようにする。たとえば、クルマのダッシュボードなどでスマートフォンを自動充電するといったこともそのひとつといえるし、車内でパーソナルコンピュータ(PC)を使い、外部の人と交信したりPCで仕事をしたりすること、ほかにも野外で食事を料理したり、催し物の音響や照明に電気を使えるようにすることなども含まれる。 ことに野外活動では、これまでエンジンで動かしていた発電機に替えてEVやPHEVを電源として使うことにより、騒音や排出ガスの懸念をせず、電気の利用が叶う。 ただし、すべてのEVやPHEVがVtoLの機能を備えているわけではない。 次に、「VtoG」というのは、(電力会社から送電される)系統電力とEVの連携だ。「G」とは、「Grid」のことで、電力会社から送電される系統電力をいう。VtoGは、スマートグリッド(電力の知能化)のひとつといえ、EVを電力網のひとつに加えることにより、発電の平準化や効率化に役立て、発電機の負荷を減らしたり、場合によっては発電所の数を減らしたりするなど、社会基盤の整理に役立つと期待されるEVの利用法だ。 ことにEVは、車載バッテリー容量が多いので、駐車中のEVの電力を、たとえば電力需要の最大時にEVから補うことで、系統電力の負担を減らし、かつ余裕ある電力を社会へ提供する。真夏や真冬の突然の停電や節電を回避できる。そのうえで、電力需要が下がったところで、使った電力をEVへ戻す。こうして、EVの移動という基本性能を損なうことなく、安定した電力基盤を構築する。 これには、一台ごとのEVの利用状況や車載バッテリーの充電量、あるいはすぐに移動するかしないかなど使用実態を把握し、それらを総合的に管理して、統制する機能が必要だ。そこに、AI(人工知能)の活用が求められる。

TAG: #VtoG #VtoH #VtoL #VtoX
TEXT:小林敦志
BYDが小型EV「シーガル」を日本に導入するんじゃ……の噂はウソ! 日本のEV市場の「現在」を考えれば3ナンバーサイズは難しい

シーガルが日本に導入される予定はない 中国BYDオート(比亜迪汽車)の日本法人である、BYD Auto Japanは2025年4月24日(木)に、「2026年後半に日本専用設計の乗用軽BEV(バッテリー電気自動車)の日本国内導入決定」というプレスリリースを発信した。 現状、日本国内でラインアップされているBYD乗用車はいずれもBEVとなり、シーライオン7、シール、ATTO 3、ドルフィンの4車となっている。今回の軽規格乗用BEVの国内導入決定のリリース発信までは、シーガルというコンパクトハッチバックスタイルのBEVが日本に導入されるのではないかと盛り上がることもあったが、この件をビーワイディージャパン広報に確認すると、「シーガルの日本市場導入予定はない」とのことであった。 確認してみると、シーガルはフィリピンやラオス、カンボジア、ミャンマーなど東南アジアのなかで左ハンドル車市場の国々で販売されているとのこと。また、調べてみると、ラテンアメリカ諸国でもドルフィンミニとしてすでにラインアップされ、欧州でもドルフィンサーフの車名でラインアップ予定となっていた。なお「シーガルは中国国内専売車」といった都市伝説のような噂が流れていることについても明確な否定コメントを得ることができた。 中国のBYDホームページに掲載されているシーガル(漢字車名は海鴎)の諸元表をみると、全長3780×全幅1715×全高1540mmとなっており、同じ中国のホームページに掲載されているドルフィン(漢字車名は海豚)のボディサイズと比べると、全長でマイナス500mm、全幅でマイナス55mm、全高でマイナス30mmとなっている。中国仕様のドルフィンが航続距離410、420、520km(CLTC)仕様を用意しているのに対し、中国仕様のシーガルでは305kmと405kmが用意されている。 車格としては前述した日本導入予定の軽規格BEVとドルフィンの中間に位置するモデルと表現することができる。しかし、そのような車格となると、日本国内で重要視されるのはボディサイズが3ナンバーサイズなのか5ナンバーサイズなのか、つまりワイドボディか否かといったことになる。 韓国ヒョンデ自動車は、2025年4月に日本での5ナンバーサイズに収まるBEVとなるインスターを発売した。韓国版軽自動車規格となる“軽車(キョンチャ)”でICE(内燃機関)車となるキャスパーの派生モデルとなり、キャスパーよりボディサイズが拡大されている。韓国版軽自動車サイズ車ベースとなるので、日本でもスンナリと5ナンバー規格に収まることとなった。 日本国内におけるヒョンデの乗用BEVは、インスター以外ではアイオニック5とコナの2車がラインアップされている。インスターはそもそもグローバル戦略モデルなのだが、日本市場に絞れば、ヒョンデとしては軽自動車規格BEVにも興味があったと聞いているが、あえて5ナンバーサイズ登録車規格のBEVで日本市場に勝負をかけたと見ている。 日本国内ではすでに日産と三菱が軽自動車規格のBEVをラインアップしている。とくに日産サクラは発売以来快進撃を続けていたが、2024年秋ごろから急速に販売の落ち込み傾向が目立っていた。サクラはいまでこそ都市部でもよく見かけるようになったが、発売当初は地方部でとくに人気を得た。バスなどの公共交通機関での移動が困難で、高齢となっても日常生活の移動手段として自家用車に頼らなくてはならない地域である。そのような地域に住む高齢のみなさんは、あくまで一般論でいえばクルマで遠出するというシチュエーションは少ない。 通院や買い物など生活圏内の移動が主となる。そのなか、ICE車だとガソリンスタンドの廃業が進み、給油のための移動や時間的負担が大きくなる、給油困難者も地方部で目立ってきた。また、地方部では集合住宅より車庫付き一軒家に住んでいることが多いので、充電施設の設置も容易とのことで、高齢世帯を中心に注目されたのである。 都市部では企業の社用車的ニーズも多いのではないかと筆者は見ている。そのようなニーズにフォーカスしたかは定かではないが、航続距離もカタログ上で180kmとされており、販売現場で説明を聞くと、「遠出を想定したクルマではない」といった話をセールスマンから必ずといっていいほど聞いた。 ただ、軽自動車とはいえBEVなのでICEの軽自動車よりは価格が高いこともあり、日産の登録乗用車に乗っていたユーザーからのダウンサイズも目立っていた。そのなか、高齢となっても所得に余裕があり、しかも心身ともに健康となれば新車を買ったのだからちょっとした遠出もしたくなるだろうが、サクラではなかなかそれを楽しむことはできない。

TAG: #シーガル #日本導入
連載企画 一覧
VOL.15
本当に日本はEVで「立ち遅れた」のか:知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第15回

ジャパン・モビリティ・ショー開催でにわかに沸き立つ日本のEVマーケット。しかし現実の販売状況は日本において大きく立ち遅れている。技術では先導してきたはずの日本メーカーは、なぜEVで世界をリードできていないのか。この分野のベテランジャーナリストである御堀 直嗣が解説する。 日本の低いEV市場占有率 日本は、世界に先駆けて電気自動車(EV)の市販に踏み切った。2009年に三菱自動車工業が、軽自動車EVの「i-MiEV」を法人向けにリース販売しはじめ、翌10年には一般消費者向けへの販売も開始した。同年には、日産自動車も小型EVの「リーフ」を発売した。この2社によって、EVの量産市販が実現し、ことにリーフは海外への販売も行われ、「i-MiEV」はフランスの当時PSA社にOEM供給された。リーフの販売は世界で累計65万台に達し、その他EVを含めると、日産は世界で100万台のEV販売の実績を持つ。そのうち、日本国内は累計23万台である。 ちなみに、米国テスラは2022年では年間で約130万台、中国のBYDは同年に約90万台規模へ成長している。 同時にまた、世界共通の充電規格であるCHAdeMO(チャデモ)も準備され、リーフが販売される世界の各地域にCHAdeMO充電器の設置が動き出した。 それらを背景に、経済産業省は2012年度補正予算で1,005億円の補助金を計上し、全国に約10万基の充電器を整備するとした。この補助金は全額支給でないため、トヨタ/日産/ホンダ/三菱自の4社が資金を拠出し、補助金で賄いきれない残額を補填することに合意した。 しかし、現在の充電器の数は、急速充電と普通充電を合わせて約2万基である。 国内の新車販売において、EVが占める割合は1%以下という状況が長く続いた。昨2022年、「日産サクラ」と「三菱eKクロスEV」が発売となり、1年で5万台以上を販売することで2%ほどの占有率になろうかという状況にある。 一方、世界全体では、EVの市場占有率が13%になる。米国は5.8%、欧州は12%、中国は21%となっており、日本がいかに低水準であるかがみえてくる。 日本でEV普及が進まなかった理由 EVの先駆者であった日本が、なぜ欧米や中国の後塵を拝するようになったのか。 最大の要因は、せっかく1,005億円という充電基盤整備に対する経済産業省の支援があったにもかかわらず、急速充電器の整備にばかり世間の目が行き、EV利用の基本である基礎充電、すなわち自宅での普通充電(200V)の重要性が広がらなかったからである。ことに、マンションなど集合住宅の駐車場と、月極駐車場への普通充電設置がほぼできなかったことが原因であった。 EVの充電は、普通充電で8~10時間、あるいはそれ以上かかるとされ、これが単純にガソリンスタンドでの給油時間と比較されて、使い勝手が悪いとさまざまな媒体を通じて流布された。いまでもそうした論調が消えていない。しかし、自宅で普通充電できれば、寝ている間に満充電になるので、翌朝出かけるときは満充電で出発できる。 戸建て住宅に住む人はそれができた。ところが、戸建て住宅でも自宅に車庫がなく月極駐車場を利用する人は、近隣の急速充電器を利用しなければならなくなった。 集合住宅に住む人は、敷地内に駐車場が併設されていても、管理組合の同意が得られず普通充電ができない状態に陥った。無知がもたらした悲劇だ。EVを買う意思があっても、手に入れにくい状況があった。 集合住宅の管理組合で賛同が得られない最大の理由は、幹事がEV時代を予測できず、また自分には関係ないとして無視され続けたことにある。設置の経費は、ことに当初は補助金と自動車メーカー4社による補填があったので、ほぼゼロであった。現在でも、施工業者が残金を負担するなどのやりくりで、集合住宅側の負担が軽く済む仕組みが出てきている。それでもなお、管理組合で合意を得るのが難しい状況は払拭できていない。 基礎充電の普及を目指す業者の間でも、さらに難しいとされるのが月極駐車場への普通充電の設置だ。月極駐車場を管理する不動産業者の理解を得にくいという。

VOL.1
リッター200円にもう限界……給油の“枷”をぶっちぎれ!【モデルサードインパクト vol.1】

ガソリン高い、燃費も悪い、限界だ! かつてないほどの猛暑に喘いだであろう今夏。「もういいよ」「もう下がってくれ」と、気温に対して誰もが感じていたと思うが、自動車ユーザーはガソリン価格に対しても同じことを思っていたのではないだろうか。 リッターあたり170円、180円、190円、そして200円の大台を突破……給油をするたびに、誰もが憂鬱な気分になったはずだ。小生はドイツの某オープンスポーツカーに乗っているのだが、リッターあたり平均10kmでハイオク仕様。愛車にガソリンを入れるたび、顔が青ざめていた。 「高額給油という枷から解放されたい……」 EVの購入を決意した所感である。クルマを走らせることは、本来喜びのはず。給油のたびに落ち込むのは本望ではない。 小生は、THE EV TIMES(TET)の編集スタッフを務めています。この9月、「テスラ・モデル3・パフォーマンス」を購入しました。新たな愛車と共に進むEVライフを「モデル・サードインパクト」と銘打ち、連載で紹介していこうと思います。 EVは便利だと実感した「日産リーフ」 小生が初めて体験したEVは「日産リーフ」(2代目)である。遡ること2017年、「リーフ」が2代目になった頃、日産が全国で試乗キャラバンを開催し、小生はその試乗アテンダントを担当していた。そこで「リーフ」を存分に運転することができたのだ。 それゆえ、EVの利便性の高さを実感することになった。スポーツモデル顔負けの力強くスムーズな加速にまず驚いたのだが、給油という枷から外れて自由に走り回れることが大変な魅力に感じた。アイドリング状態でエアコンを入れっぱなしでもガソリン代を気にせずに済む。車内でPCを開けば、そのままオフィスになる。車の用途が無限大に広がると感じた。 充電時間も特別長いとは感じなかった。充電残量が50%くらいになったら、急速充電を使用してあっという間に80%まで回復できる。ちなみに100%まで充電した場合、280kmを走れる表示が出ていたと記憶している(当時は寒い季節で暖房を使用した)。ちょっとした遠出も十分に対応可能。「EVなんて不便」という印象は全く抱かなかった。そこで薄々と「将来はEVもアリだな」と思ったのだ。

VOL.20
VW「ID.4」オーナーはアウトバーンを時速何キロで走る? [ID.4をチャージせよ!:その20]

9月上旬、スイスで開催された「ID.TREFFEN」(ID.ミーティング)を取材した際に、参加していた「ID.4」オーナーに、そのクルマを選んだ理由などを聞きました。 フォルクスワーゲン一筋 鮮やかな“キングズレッドメタリック”のID.4で登場したのは、ドイツのハノーファーからはるばるスイスに駆けつけたデュブラック・マルクスさん。「フォルクスワーゲンT3」のTシャツを着ているくらいですから、かなりのフォルクスワーゲン好きと見ましたが、予想は的中! 「18歳で免許を取ってからこれまで30年間、フォルクスワーゲンしか買ったことがないんですよ」という、まさにフォルクスワーゲン一筋の御仁でした。 彼の愛車はID.4のなかでももっともハイパフォーマンスな「ID.4 GTX」。日本未導入のこのグレードは、2モーターの4WD仕様で、最高出力220kW(299PS)を発揮するというスポーツモデル。こんなクルマに乗れるなんて、なんともうらやましいかぎりです。 そんなマルクスさんにID.4 GTXを購入した理由を尋ねると、「これからはEVの時代だと思ったので!」と明確な答えが返ってきました。とはいえ、ID.ファミリーのトップバッターである「ID.3」が登場した時点ではすぐに動き出すことはありませんでした。「1年半くらい前にID.4 GTXを試乗する機会があって、踏んだ瞬間から力強くダッシュするID.4 GTXのパンチ力にすっかり惚れ込んでしまい、即決でしたよ(笑)」。

VOL.14
欧州メーカーはなぜ電気自動車に走ったのか?:知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第14回

EVの知識を、最新情報から「いまさらこんなこと聞いていいの?」というベーシックな疑問まで、ベテラン・ジャーナリストが答えていく連載。今回は欧州メーカーの特集です。 日本市場参入が遅かった欧州製EV 日本市場では、欧州からの電気自動車(EV)攻勢が活発に見える。ドイツの「BMW i3」が発売されたのは2013年秋で、日本市場へは2014年春に導入された。 日本の自動車メーカーがEVを市販したのは、2009年の「三菱i-MiEV」の法人向けリースが最初で、翌2010年には「i-MiEV」も一般消費者への販売を開始し、同年に「日産リーフ」が発売された。「i3」の発売は、それより数年後になってからのことだ。 ほかに、フォルクスワーゲン(VW)は、「up!」と「ゴルフ」のエンジン車をEVに改造した「e-up!」と「e-ゴルフ」を2015年から日本で発売すると2014年に発表した。だが、急速充電システムのCHAdeMOとの整合性をとることができず、断念している。その後、VWは「e-ゴルフ」を2017年秋に販売を開始した。EV専用車種となる「ID.4」を日本に導入したのは、2022年のことだ。フランスのプジョーが、「e-208」を日本で発売したのは2020年である。 以上のように、欧州全体としては、EVへの関心が高まってきたのは比較的最近のことといえる。 くじかれたディーゼル重視路線 欧州は、クルマの環境対策として、自動車メーカーごとの二酸化炭素(CO2)排出量規制を中心に動いてきた。そして2021年から、1km走行当たりの排出量を企業平均で95gとする対処方法を考えてきた。EU規制は、販売する車種ごとのCO2排出量を問うのではなく、販売するすべての車種の平均値で95gを下回らなければならないという厳しさだ。 対策の基本となったのは、ディーゼルターボ・エンジンを使った排気量の削減と、出力の低下を補う過給器との組み合わせを主体としつつ、ハイブリッドによるさらなる燃費の向上である。 既存のディーゼルターボ・エンジンをできるだけ活用しようとする考えは、欧州メーカーが補機用バッテリーの電圧を世界的な12ボルトから、36ボルトや48ボルトに変更することによるマイルドハイブリッド化に注目してきた様子からもうかがえる。 ところが、2015年にVWが米国市場でディーゼル車の排出ガス規制を偽装していたことが明らかにされた。公的機関での測定では規制値を満たすものの、実走行で急加速などした際に基準を上回る有害物質が排出され、それによって力強い加速を得られるようにした制御が発覚したのである。その影響は、VW車だけでなく、アウディなどVWグループ内に広く影響を及ぼした。

VOL.3
ボルボは新型EVの「EX30」でインテリアに新たな価値を与え、空間を最大限、利用する!

ボルボはEX30の室内で多くの新たなチャレンジを行なっていると謳う。その詳細を小川フミオ氏が訊いていく。連載1回目はこちら、2回目はこちら。 冷たさの排除し素材を“素直”に使う EX30のインテリアが、他車と決定的に違うのは、金属的な表面処理がほとんど見当たらないこと。それは意図的にそうしたのだと、インテリアデザインを統括するリサ・リーブス氏は言う。 「心したのは、冷たさの排除です。使う素材はオネスト、つまり木に見えるものは木であり、また同時に、リサイクル素材を人間にやさしいかたちで使用しました」 インテリアは「ブリーズ」(やさしい風)をはじめ「ミスト」(もや)、「パイン」(松)それに「インディゴ」と4種類(日本はそのうち「ブリーズ」と「ミスト」を導入)。 「ブリーズを例にとると、デザインインスピレーションはサマーデイズ。シート表皮の素材はピクセルニットとノルディコ、ダッシュボードの飾り材はパーティクル、そして空気吹き出し口のカラーはブルーです」 リーブス氏は説明してくれる。 「ピクセルニットはPETボトルをリサイクルしたもの。それを3Dニッティング(立体編み)プロセスでシート用素材にしています。組み合わせるノルディコは、PETボトルなどのリサイクル素材、北欧で計画的に伐採された木から採取された素材、リサイクルされたワインコルクなどで作られたテキスタイルです」 ダッシュボード用のパーティクルは、窓枠やシャッターを中心に工業廃棄物であるプラスチックを粉砕したものだし、フロアマットは漁網をリサイクルしたという。 「リサイクル材とともに、インテリアは雰囲気を統一したので、私たちは“ルーム”という名を与えています。インディゴの場合、デザインインスピレーションは”夜のはじまり”で、デニムをリサイクルしたときに余る糸を使った素材をシート表皮に使っています」 シートじたいは「スニーカーにインスパイアされた形状」(メイヤー氏)だそうだ。

VOL.2
ボルボの新型電気自動車「EX30」にはスターウォーズのデザインが取り入れられている!?

エンジンの回転の盛り上がりには、時に人間的な表現が用いられる。しかしBEV(バッテリー電気自動車)はエンジンもなく無音なため、より無機質な、機械的な印象が強くなる。ボルボはそんなBEVに人間的な要素を入れたと主張する。連載1回目はこちら。 どことなく楽しい感じの表情 ボルボEX30は、いってみれば、二面性のあるモデルだ。ひとつは、地球環境保全(サステナビリティ)を重視したコンセプト。もうひとつは、大トルクの電気モーターの特性を活かしたスポーツ性。 デザイナーは「いずれにしても、BEVと一目でわかってもらうデザインが重要と考えました」(エクステリアデザイン統括のTジョン・メイヤー氏)と言う。 「もちろん、昨今ではICE(エンジン車)かBEVか、デザインをするときあえて差別化をしないのが世界的な流れです。ただし、私たちとしては、スカンジナビアデザインの原則を守りつつデザインしました」 メイヤー氏の言葉を借りて、この場合のスカンジナビアデザインの肝要を説明すると「形態は機能に従う」となる。 「そこで、上部に開口部とグリルはもたせないようにしようと。ただし(インバーターなどのために)空気を採り入れる必要はあるので、下にインレットは設けています」 ボルボ車のデザインアイディンティティである「トール(神の)ハンマー」なる形状のヘッドランプも採用。ただし、カバーで覆った一体型でなく、四角いLEDのマトリックスが独立しているような形状があたらしい。 「そうやって出来上がったのがこのデザインです。顔になっていて、そこには眼があって、鼻があって、口があるんです。どことなく楽しいかんじで、これまで以上に人間的な表情を実現しました」 暴力的でもなければ、ロボット的でもない。メイヤー氏はそこを強調した。

VOL.1
ボルボの新型電気自動車「EX30」は、相反する2面性を合わせ持つ文武両道なクルマ

ボルボの新たなBEV(バッテリー電気自動車)として、ついに10月2日から「サブスク」モデルの申し込みが始まるEX30。この「ボルボ史上最小のBEV」はどのように開発されたのか。ミラノで行われたワールドプレミアに参加した小川フミオ氏が関係者の声とともに振り返る。 スカンディナビアン+デジタル 2023年6月に登場したEX30は、コアコンピューティングテクノロジーを大胆に採用する、ボルボの新世代BEV。 内容にとどまらず、同時に、デザイン面でもさまざまな大胆な試みがなされているのも特徴だ。 いってみれば、伝統的ともいえるスカンディナビアンテイストに、デジタライゼーションの融合。 「私たちのデザイン的価値のすべてを小さなフォーマットで具現」したモデルと、ボルボ・カーズはプレスリリース内で謳う。 「非常に電気自動車的なデザインで(中略)閉じられたシールド(フロントグリルの開口部のこと)とデジタル表現を用いたトールハンマーヘッドライト」がフロント部の特徴とされる。 さらに新世代BEVとしてボルボが狙ったものはなんだろう。ミラノでの発表会において出合った担当デザイナー(たち)に、デザインの見どころと背景にあるコンセプトを取材した。

VOL.5
「BMW iX xDrive50」の高速電費は我慢不要! ロングドライブにうってつけのEV

[THE EV TIMES流・電費ガチ計測] THE EV TIMES(TET)流電費計測の5回目を、8月に「BMW iX xDrive50」で実施した。車高の高いSUVにもかかわらず、高速巡航時に電費が低下しにくいのが特徴だ。その詳細をお伝えする。 ※計測方法などについてはこちら、試乗記はこちらをご覧ください。 100km/h巡航でどんどん行こう iX xDrive50のカタログに記載された「一充電走行距離」は650km(WLTC)で、電池容量は111.5kWhだ。650kmを実現するには、電費が5.83km/kWh(以後、目標電費)を上回る必要がある。 各区間の計測結果は下記表の通り。5.83km/kWhを上回った場合、赤字にしている。 これまでのTETによる電費計測で初めてA区間の往路と平均で目標電費を超えた。A区間のように標高差が少ない場所では同じ状況になり得る、つまり100km/h巡航で一充電走行距離の650km近くを走破できる可能性がある。   100km/h巡航でも600kmは走れそう 各巡航速度の平均電費は下表の通りだ。「航続可能距離」は電費にバッテリー総容量をかけたもの、「一充電走行距離との比率」は650kmに対して、どれほど良いのか、悪いかだ。 iXのエクステリアは、大きなキドニーグリルが特徴的だ。ざっくり言えば全長5m、全幅2m、全高1.7m、車重2.5トンの堂々としたボディだが、Cd値が0.25と優れている。 100km/h巡航におけるiXの電費は、5.71km/kWhであった。絶対的な数値としては決して高くないが、一充電走行距離との比率を計算すると98%と、これまでにTETが計測したデータの中で最高の結果を記録した。120km/h巡航でもこの数字は78%であった。 つまり、iXは高速巡航でも電費の低下が少ないEVだといえる。 ちなみに、過去に計測したメルセデス「EQE 350+」は、この100km/h巡航時の比率が90%だった。EQEはセダンボディで背が低く、Cd値0.22で、高速巡航には有利であることを考えても、iXの98%という数字の凄さが分かる。 この結果は、空力性能の良好さと高効率なパワートレインの賜物ではないかと思う。BMWが「テクノロジー・フラッグシップ」「次世代を見据え、長距離走行が可能な革新的な次世代電気自動車」と謳っているだけのことはある。これらの記録を塗り替えるクルマが現れるのか、今後の計測が楽しみだ。   各巡航速度ごとの比率は以下の通り。80km/hから100km/hに速度を上げると21%電費が悪くなる。120km/hから80km/hに下げると1.6倍の航続距離の伸長が期待できる。

VOL.19
ぐっとパワフルな2024年モデルのフォルクスワーゲン「ID.4」をミュンヘンで緊急試乗! [ID.4をチャージせよ!:その19]

コンパクトSUVタイプの電気自動車「ID.4」が2024年モデルにアップデート。この最新版をドイツ・ミュンヘンでさっそく試乗しました。 モーターのパワーは60kW増し 「ID.4」が2024年モデルにアップデートし、コックピットのデザインが様変わりしたことは、前回のコラムで述べました。さらに今回の仕様変更では、走りにかかわる部分にも手が加えられています。 一番の変更が、新開発のモーターが搭載されたこと。フォルクスワーゲンでは、ID.ファミリーのプレミアムセダンである「ID.7」に、新たに開発した「APP550」型の電気モーターを採用しました。最高出力は210kW(286PS)と実にパワフルです。これが2024年モデルの「ID.4プロ」にも搭載されることになりました。これまでの「ID.4プロ」の最高出力が150kWですので、出力は60kW、4割増しという計算。最大トルクも従来の310Nmから545Nmとなり、こちらは75%の大幅アップです。 バッテリー容量は77kWhで変更はありませんが、2024年モデルからはバッテリーの“プレコンディショニング機能”を搭載し、冬の寒い時期、充電前にバッテリー温度を高めておくことで充電量の低下を抑えることができます。これはうれしい! 他にも、可変ダンピングシステムのDCC(ダイナミックシャシーコントロール)の改良なども行われ、果たしてどんな走りを見せてくれるのか、興味津々です。 早く乗ってみたいなぁ……と思っていたら、なんとうれしいことに、発表されたばかりの2024年式ID.4 プロ・パフォーマンスを、ドイツ・ミュンヘンで試乗するチャンスに恵まれました。試乗時間は約20分と超ショートですが、わが愛車のID.4 プロ・ローンチエディションと比較するには十分な時間です。

VOL.18
ミュンヘンで「ID.4」の2024年モデルに遭遇! [ID.4をチャージせよ!:その18]

ミュンヘンモーターショー(IAA)のメイン会場近くで、フォルクスワーゲンがメディア向けイベントを開催。そこで、2024年モデルの「ID.4」に遭遇しました。 見た目は同じ イベントスペースのパーキングに待機していたのは、“コスタアズールメタリック”のボディが爽やかな「ID.4 プロ・パフォーマンス」。日本のラインアップにはないボディカラーに目を奪われますが、エクステリアデザインはこれまでと同じで、私の愛車の「ID.4 プロ・ローンチエディション」との違いは1インチアップの21インチホイールが装着されていることくらいです。 ところが運転席に座ると、コックピットの眺めに違和感が! マイナーチェンジでもないのに、コックピットのデザインが私のID.4 プロ・ローンチエディションと大きく変わっていました。 ご存じのとおり、フォルクスワーゲンなど多くの輸入ブランドでは“イヤーモデル制”を採用していて、毎年のように細かい仕様変更を実施。エクステリアデザインは一緒でもパワートレインや装備が変わるというのはよくあること。この2024年モデルでは、インテリアのデザインまで様変わりしていたのです。 真っ先に気づいたのが、ダッシュボード中央にあるタッチパネルがリニューアルされていること。2022年モデルのID.4 プロ・ローンチエディションでは12インチのタッチパネルが搭載されていますが、この2024年モデルでは12.9インチにサイズアップが図られたのに加えて、デザインも一新され、明らかに使い勝手が向上していました。

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