車体に発生するヨーの制御が可能になる
内燃機関車の場合は、センターデフをもつフルタイム式の場合で、前後独立した回転数(駆動力ではない)、左右個別の回転数(通常のデファレンシャルユニット)を作り出すことで、旋回時のギクシャクした動きを抑え込んでいるが、なぜこうした機構が必要になるのかといえば、大もととなる出力(エンジン)がひとつしかないためだ。ひとつの出力をメカニカルな機構を介して4輪に分配・調整しているといってよいだろう。
ところが、軽量・コンパクトな電気モーターの場合だと、4輪それぞれに独立した専用モーターを配置することができるようになる。この場合、4輪それぞれに任意の回転数、駆動力を与えることが可能となり、これは大きなメリットになる。どういうことかといえば、4輪に独立した駆動力を発生させることで車体に発生するヨーを自在に制御できるようになるからだ。
車両に発生するヨーをコントロールすることで、車体の挙動安定化を図るシステムは、すでに4輪独立の制動力制御(ブレーキ制御)でヨーを発生させる車両挙動安定装置が現存する。2012年以降の生産車に装着が義務付けられ(軽自動車を除く)、アクティブセーフティの革新的な装置として大きな注目を浴びた。システムはトラクションコントロールとABSを基本に構成されるが、4モーター方式のEVであれば、積極的な駆動力の制御によって挙動の安定化を図ることができるようになるのだ。
駆動力の制御による限界性能域の活用方法としては、かつて三菱がランサーエボリューション(エボIV以降)で採用したAYC(アクティブ・ヨー・コントロール)があるが、独立した4系統の動力システムを可能とするEVは、よりスムースにより速くより安定した走行状態がデフォルトで得られることになる。
もちろん、4輪独立の制動系も必要となるが、容易に4輪独立の駆動系を備えることができるEVは、内燃機関車に比べて車両性能の活用度が上昇することは間違いない。なにしろEVは、出力制御はすべて電気系。制御コンピュータによって瞬時に的確な出力制御(モーター制御)ができる特性は大きな利点だ。そして、モーターが小型コンパクトで複数個の搭載が可能であるという点は、内燃機関にはない大きなアドバンテージだ。
一般的な用途でいうEVは、1モーター2輪駆動で十分以上の要求性能を果たすことはできるが、軽量コンパクトな電気モーターの特性に着目し、4輪独立駆動力制御が可能なことを考えれば、内燃機関車では困難だった運動性能の限界域をよりうまく活用できるようになり、たとえばモータースポーツのフィールドでは大きな武器になるだろう。また、軽量・大容量の充電池(全個体電池)の量産・実用化が可能になれば、EVの可能性はさらに高められることになる。
1エンジンによる4輪駆動か4モーターによる4輪駆動か。どちらが優れるかは、いわずもがな、自ずと明らかである。まだまだ発展途上の段階で大きな可能性を秘めたEVだが、そのぶんだけ大きな進化の余地が残されている。行く末が楽しみだ。